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    「開談夜之殿」 中之巻

園「ヲヤ六さん、さぞお待ちどうだったろふ、わたいも早く来よふと思って、てへてへ気を、揉んだこっちゃねへ、其れに今日のは、何時かお話したきざつらさんよ、何処へ行こふの彼処へ行こふのと、焦れてへ事ばかり云っているし、わたやァおめへが待って居るだろふと思うから、気がせへてならねへだろふ、よふよふ騙かして、吉野屋を何処か出るが早いか、一目散に駆けて来たよ、よしかお聞き、あんまり気がせくもんだから、丁度三度蹴躓いて、鼻緒を切って長介どんに笑われた事はどんなだったろふ、ヲヽ暑い、ヲヤ、あんまりうろたへたから、汗手拭を落としたよ、おめへの手拭を鳥渡お貸しな」

六「又、紅を附けらへちゃァ恐れいるぜ、素敵にありつかせて来たろふ」
六「アノ、薩摩絣が大尽か、おきやァがれ、藤八五文きかなものが聞いて呆れらァ、したがこっちが人形首に、野郎が生っ白いから、組は妙だ大方わからせたろふ、そりゃァ知らなへで今来るか今来るかと、萬兵衛さんが空風呂へへえった様に、汗を拭き拭き此の二階に辛抱して待って居たのは、いヾ畜生だ」
園「よしておくれ、憚り乍らしらっこだよ、おめへこそ昨夜も内へ帰らねへそふだが、又、豊葉ねえさんのとこだろふ、おめへじゃァしねへか、しゃくりかしらねへか、つの字も此の間、油断しなさんなと呉々云ったぜ、おめへの性悪にも困るよ、どうぞ芸者衆の内はよしてくんなよ」

 恋衣、仕立あげたる隠し妻、浮気な風に、つい綻びの、縫うちょう梅の花笠に、一人歩きの隣から、
男「おこうさん、りんなさんは未だ帰らねへか」
女「ヲヤ、十さん、よくいらしったねへ、お聞きなさいましな、昨日でて、未だ帰りませんじゃァ御座いません、マァ、お前さんだからお話申しますが、わたし程つまらねへ者は御座りませんよ、あヽ云うわけで参ったもんだから、ちっとは察して呉れてもよさそうなものじゃァござりませんか、其れに夜泊り日泊りさ、内の親達は此方に斗り、居ると思って居りまさァ、ほんに埋まりやァ致しません」と、涙ぐんでの身の上話、
男「ほんに、こっちの亭主の様な浮気な者はねへ、女冥利に尽きるだろう、おめへの様なう美しい女を一人置いて、第一不用心だ、おいらならそばを離れやァしねへ」と、尻目でじろり、
女「なァに、わたしの様なものに誰も構うものは御座いません、雇い婆ァを置いた、より大丈夫サ」
男「有るね、時におこうさん、何ぼ女がいヽの、男がいヽの云ったとて、実のねへのは、段々醒めやす、死ね殺せと為るは、互いの心意気斗り、真に惚れると、わたし等は死ぬのも、厭はねへ気になりやすよ、然し未だ、そんな目に出会いやせん」
女「嘘ばっかり、然しそりゃァ違へ御座りませんよ、わたし共も物に凝り性で御座います、お前さんなんぞは男はよし、何かに行き渡っておいでなさるから、申し分御座りませんが、たった一つの傷は浮気さ、其れに方々の女がうっちゃって置かないし、然し真面目で、堅っ苦しい、実の有る焼餅深いも嫌だねへ、」
男「実の有る焼餅深い男はお嫌いか、それじゃァお前と話が合わねへ、わたしゃァ惚れた、女なら実に命もいとやァしねへね」
女「そうで御座いますかへ、何故お前さん、おかみさんをお持ち為さいません、然しお前さんのお気に入るのは、難しう御座りましょう、先ずお屋敷さんでなし、芸者女郎はお内が喧しく仰有るだろうし、何で御座りましょうかしらん」
男「ありやすね、然し、思う事敵はねばこそ憂世とは、よく諦めた、無理な事ヽは、誰が書いたろう、惚れた女達は友達の想い者」と、ちらりちらりと乙な眼をしながら、傍に投げてある徘書を取って、
「花手折る盗人の名は覚悟なり」とは丁度わたしが心意気、主有る花とは知りつヽも、
女「モシ、手折らて見たき心の桜かな、とは確か先の路考さんの句じゃァ御座りなせんか、」と、云うに男少し胸どきつきながら
「モゥ、しめた」と傍に寄添い、
「もし嫌でも堪忍しておくれ」と前垂れの隙より股ぐらへ手を入れ様とするを、おこうは両腿を確りと〆合せ、前垂れうへより両手で男の手を確り押さへ、
「もし十さん、お嬲りなさんな、ちょっとのお情けは御免だよ、お前、お門違いだろう、お隣のおらいさんが、お前さんに彫れ切っております」
男「御免なせへ、世界にお前より外、惚れた女ハいねへ、実に憂世せばくなっていらァ」と云いつヽ股ぐらへ手を入れんと焦れど、おこうは、両手へ力を入れて、男の手を押さえ付けて入れさせずに、
「もし、それは真実かへ、わたくしゃァ、お前さんに初めてお目にかヽった時分から、あんな方と如何かしたら、死んでもよいと思っていましたが、お前さんにハ惚れてが多いし、万一色なりおおうせた処が苦労を求める様なもの、又、わたくしも道ならぬ事だと、今の今迄想い諦めて居りましたが、是が因果の始まりか、千日刈った茅で御座いますよ」ト、少し股ぎらの緩みへ手をぐいと入れそうにすると、又、確りと股で挟むと漸う毛際へ指が届くとモゥ堪らず、一目散に押し転ばし、上に乗っかヽろうとするを、
女「「マァ、お待ちよ」と寝かされたなりで行灯を引寄せ、明かりを消すやいな、ぼぼへ指を入れ、くじり廻せバ、女ハ頬熱くして少し震へる声で、
「十さん、何故私ハこんな気に為ったろう、是ぎりでおなぶりだと、執り付きますよ」
男「なんの勿体ねへ、お前をなぶっいヽものか」
女「そしてほんかへ」
男「真実命かけらァ」
女「譬えどんな事があっても、見捨てる事ハならないよ」と、段々声が震えて来る。
男「真に嬉しいよ」
女「わたしもこんな嬉しい事ハないよぅ」ト、云いながら、前垂れ解いて放り出すと、男ハおこうが帯をも解いて、肌と肌を合わせながら指を働かせてぼぼの上面を擦りかけ、左の手で乳をなぶりながら、口を互いに開いて舌の根抜ける程、吸い合うに、女ハ最早堪り兼ね、鼻息荒くぼぼを男の手へこすりつけこすりつけ、夢中によがる様子に、男も今ハ堪り兼ね指を引き抜き両腿を引きはだけ、八寸胴がへしを遠慮もなく、ぼぼの口へ望ませ一目散に押し込めど、ぼぼハきざして巾着の口を窄めた如く、へのこハ例のだいぶつが堪へ堪へた事なれバ、木の様におえ、くじったぬめりで口元をぬるぬる右や左へ突き外せバ、女ハ夢中に股ぐらを、持ち廻し廻し、漸うと雁首が入るやいな、力を究めてぐいと押し込むに、ぶりぶりぶりと、軋んで入る心地よさ、五つ六つ漸うと、毛際まですっぱりはまった心地良さ。
 女ハ、ただ、フゥフゥスゥスゥ十分にもがヽせて、根迄入れてハ、又、口元へ引き抜き、さねの下面を雁首でちょこちょことつヽき立てする内、おこう両脚で男の腰を〆つけながら、前もあらわに美しく結びたてし髪も畳にこすりつけこすりつけ、我を忘れての大よがり。
 幾つとなく気を遣り続けて、ぴちゃぴちゃぐちゃぐちゃすぽすぽこっぽこっぽと玉門は鳴りわたり、十二も今ハ堪り兼ねだくだくだくと気が往く折から、裏の格子戸を明けて入る亭主のりんな、持ちたる提灯にて此の体を見付け、
「おのれら、太い奴」と脇差に手を掛くれバ、二人ハ吃驚起き上がり、十二郎ハ濡れたまらの儘戸棚へ駆け込み、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、と、震へている、りんなハ戸棚を明けんとする、おこうハ明けさせじと大争い、
「しぶといあまめ」と髪の毛を手にぐるぐる引っ絡み、男の力に戸をがらりと引き明ける、拍子に空かさぬ十二郎、一目散に表の方へ走り行く、あと追掛けるりんなが足へ、おこうハ縋り、
「とても敵わぬ二人が咎、十さんと一緒に殺して下さりまし」と云うに、りんなハ益々腹を立て、
「太い奴等だ、二人一緒にハ殺さぬ」と聞いて、おこうハ
「そりゃ、又、何故」
りんな「あの世へ行って、添おうと思って」

 姿ハ色気にして、前編に詳しく記せバ、此処に略す。
 料理茶屋の二階、船宿またハ船中へも出るなり、手がたんとあれバ、足も又多く有るなり、しかれども、又、転ぶ事も侭有るなり、類の集まる時ハお客を盲になし、唐韻にて惚気るなり、朝ハ四つ過ぎ迄寝て、何遍も起こされて、漸う目をさまし、床の内にて煙草を十服も呑んでから起きて、楊枝を使っている処へ、同じ仲間の粋女、湯上りと見へて、浴衣を持ち、嶋縮緬の広袖に黒ビロウドと八端の中幅鯨帯をくるくると捲き、濡れた手拭にて耳を拭きながら、格子戸を明けて内へ入り、
「ヲヤ、今起きたのか、あんまりだぜ、夕べハ彼」
「そうョ、其れだから今おきたァナ」
「ヲヤ、気楽だノゥ、モゥ受けさせるのか、そしておばさんハ如何した」
「店受の処に病人が有って、昨日から行っていらァナ」
「其れじゃァ彼をうちへ呼んだのか」
「そうよ、うけたろう」
「ヲヤ、あつぼったくするの、おめへの彼のものを届けて呉れても、罰も当たるめへぜ」
「今日ハ是非吉をやるがの、それじゃァ柳様へ済むめへぜ」
「ナニ、柳様は亭主ョ、こっちなぁいろだぁな」
「全体おめへ、茂の字を知ってるのカ」
「知っちゃァ居るが近ずきじゃァねへがの、お三さんの内で近づきになって、其れからふっとした出来心ョ、其れに誰もいねへから云うがの、ふざけた話だが、彼の事が誠に上手だぜ」
「其れじゃァ、おめへ、モゥ真に惚れたの、彼よりかハいヽか」
「ナァニかのは、おめへも知ってる通り、切れたりくっ付いたりしても、モゥ四五年にもなる、モゥあっちらへ這入る心算だから化けハなしサ」
「嘘を付きな、今おめへ彼の事が上手だと云ったじゃァねへか、それみな、真に惚れてねへものを上手だと云うものか、手事をされるお客より、真に惚れてる、下手な色の方が、情が移らァな、大きいからいヽの、ちいさいから悪いのト云うのハ、ほんの素人の事ョ、、幾ら大きくっても上手でも、只じゃァ、何ともないぜ、真に惚れてる男が、こっちの思う通りにして見な、ソレ情が移らァナ、惚れてねへで如何して上手でも情を移すと云う事が有るもものか、サァ本当に真に惚れましたと、白状しな」
「ホンニそうだネ、堪忍をし、真に惚れたが一番いヽねへ、そして人がよく言う事だがネ、乳をいじると気が悪く為ると云うが、わたしゃァさっぱり悪くならねへョ」
「そりゃァ知れた事ョ、おめへは児を持った事がねへからだ、此の間、わらい本を、作る人がそう云ったが、本当にそうだろうョ、児持ちでも其の乳をちっとも呑ませねへければ、そうじゃァねへが、少しでも生んだ児に呑ませた乳は、是非是非いじれば、其処へ気が寄るとョ、其れだからおめへは何ともねへ筈ョ、おいらも児を産まねへと、惚れている男にいじられても、くすぐたい斗りで、何とも無かったっけが、いまじゃァ乳をいじられると、乙に気が悪くなるぜ」
「ほんにおめへ、ァノ児を如何した」
「里に遣ってあるはナ、もう五つにならアナ、、子持じゃァ色気がないノ、そして此の頃じゃァ、段々親によく似て、目と鼻はその儘ョ」
「ほんに、かのは如何したろうノゥ」
「なぁに今は上方に居るはナ」
「児迄有る仲だから、今のよりは可愛いかろうノゥ、サゾ気を遣ったろうノ、児の出来る時は、どんなにいヽへ」
「それが聞きナ、乙なものョ、其の時分には、未だ年は往かず、其れにかのは息子株と云うもんだから、仕様も下手、こっちも恥しい斗りで、さっぱりわけはねへはナ、其の様に情を移すと云う事はなし、只くすぐってへ斗りだから、何時孕んだと云う事も知れず、今思うと如何して孕んだろうと真に不思議だョ、年を執って孕んだ、アヽわからねへ事も有るまめへが、アノ時分は夢中ョ」
「ヲヤヲヤ其れじゃァ本当に気がいかねへでも、孕むものかねへ」
「そうよ、わたしにもわからねへはナ、おめへ如何したさ、後月から見めへと云ったが、いよいよ留まったか」
「聞きナョ、わたしも気に為ったけが、そうじゃァねへのョ、此の間に為ったアナ」
「ナアニ若し孕んだだら、おめへも知って居る彼のとんちきに授けて、るうさんの様に、引き込ませた貰をうと思って、楽しんでいたら、詰らねへ目にあったアナ」
「そりゃァ罪だぜ、未だ出来へからそう思うが、出来て見な、可愛い男と二人で拵えた児だものを如何して人の児だと云はせるのも悔しくってならねへものョ、どんな事をしても其の児を、育てる気になるはナ、満更そうすれば、詰らねへ事も何もかも得心していても、其処が親子の情愛だはナ」
「そうだろうノゥ、今度出来たらおめへの様に里にでも遣ろう、そして此の商売をするものは、孕まねへもナァねへ様だノゥ」
「そうョ、隠ししておろすから、知れねへが、皆孕んだのサ、コレサ何故おまんまを持って来なへナ、早くくんなナ」
「未だ、喰はねへか、モゥ昼過ぎだぜ、おいらも行こう、きっと彼のものを、届けてくんなョ」
「承知だョ」
「きっとだョ」ト出てゆく、粋女の楽屋斯くの如し、喰い込まれては、身体も融けるなり、恐るべし恐るべし。

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