2004/2/9 2/11 2/11 2/11投稿者・ritonjp

      四季情歓語 花暦 巻之二

 是はさて置き、此処にまた二月七日のことなりけん。
 風吹き荒れて恐ろしく、空物凄き巳の刻頃、火災起こりて炎を飛ばし、鎌倉中が上を下えと混乱例え方も無く、東西南北に逃げ迷い、家財雑具を持ち運びて、親に逸れ子を失い、妻を尋ね夫を呼び、煙に咽び泣き叫ぶ、貴賎の差別あらばこそ、目も当てられぬ愁傷は、言語に絶えたる大変なり。

 是しかし乍ら世の中の、驕奢を憎む天の責め、翌々用心有るべき事か。此の大火事の最中にも、亦色事は思案の外、お梅は新道を逃げ出だししが、夫は生憎遠方え行きて急火なれば、家財何どは手も付かず、下女に小袖を一葛篭本店の蔵え持たせて遣り、其の身は鏡一面持ちたるばかり。
 間誤付く中に裏口え火がかかりて、家をいでたれば、下女にも会わず、只独り、方角を弁えねば、火に追われて夜に入る迄逃げ歩き、悲しさ遺憾方も無く、最初南え逃げし故、仮に落着く所も無く、西え辿りて北えいで、漸うその夜丑の刻、唐が原に逃れ来て、遥かに東を見たりければ、炎は天を焦がすばかり、限り知れず燃え続きて身の毛の立つ程恐ろしく震えあがり、夫を案じ、焼け失いたる物を惜しみ、亦差し当たる身の置き所、如何に為さんと当惑の中にも人が怖ければ、山の如くに持出しし、諸方の道具の傍えもえも寄らず、少し隔てし杉の木の、根に腰を掛け折からに、手拭を二重冠りし一人の男、お梅が休み居たるを見て、うそうそ来る気味悪さ、身を縮めて顔を衿に入れて俯むかば、彼の男は、いよいよ側近く進み寄り、お梅が横顔差し覗き
「オヤお前は姉さんかへ」
梅「エェ」とびっくりして顔をあぐれば、男も手拭を取って驚きし顔色にて縋り付くばかり、
「モシお梅さん」
梅「ヲヤ、六さんかえ、如何して此処え」
六「わたしより、お前さんこそ、たった一人で何故此処に御出でなさるのだえ」と、問はれて是迄の難渋を泪乍らに話ければ、六三も難儀せし事を語り。

 さり乍ら親達は、速く風上の方え逃がし置き、其の身は後より逃げる道にて、お園が母に逢い、お園の行方知れざる由を聞きて気の毒なれば諸所を尋ね、只一人此のえ来たりしと云えば、
梅「よくマァ、尋ねてお上げだねえ。如何しても知れないかえ」
六「ァァモウ仕方が無いから、又夜が明けたらば尋ねましょうよ」ト、案じ入ったる其の風情は思い遣られて、かのお梅
梅「さぞマァ、苦労だろうねえ」
六「可哀想だねぇ、何処に居るか焼死にはしまいかね」
梅「ナニナニ才智な子だから、そんな気遣いは無いよ、其れはそうと寔に寒いねえ」
六「ヲヤ寒いより姉さんも其の様子では、未だお弁当もお上がりではあるまいねえ。わたしが用心に持って参った海苔鮨が有るからマァ是をお上がりな。そしてわたしと一緒に荏柄天神下迄お出な、私の心安い者の家が在るから」ト薦めて、是より天神下え行けるが、此の家は花の師匠にて、綺麗なる住居為れど、独身故かかる時にも、いと静かなりしを幸いと、訳を話して頼むに、師匠も丁度火事場え行かねば為らぬ所あれども、留守居がなければかかる時、宿をうかうか出られねば、もだして居たる折なれば、何卒後をを頼むとて、お梅・六三を留守に置き、南を差して馳せ出だし行く、後に二人は差向かい、表を締めて傍らに、在りける蒲団を見て
六「姉さん、まァ是を着て少しお休みョ」
梅「ハィ有難う、何だかぞくぞくするから、それじゃぁお前の御言葉に随いましょうョ」ト直ぐに蒲団を引っ掛けて横になり、
梅「ヲヤお前の着る物があるかえ」
六「ナニ私はお前脇え寝かして貰うョ」ト云うより速く蒲団の中え潜り込み
六「ヲヲ〜寒い、姉さん不躾だが堪忍おしよ」トしがみ付けば、お梅は莞爾笑い
梅「私の躰は猶冷たいからいけないョ、しかし、お園さんなら好かろうねぇ、冷たくっても」ト云う中にお梅が着物の裾捲れ羽二重の様なるすべすべとやわらかき肌が、六三の肌にさわるトどうでも無法でなければと思いけん。
 六三は手を延ばし、お梅の衿を抱え、口を吸えば、物も言はれぬ此場の仕儀、ッィ吸われたり吸ったりする中、六三のへのこは帆柱の如くなりて、無闇に押込みさっつさっつと腰使えば、流石に夫物のお梅為れば驚く程の事もなく
お梅「六さん後を引いちゃ済まないョ。ァレモゥいくよいくよフゥフゥ寔に巧者だのう」ト二人は思はぬ浮気の色。
 嗚呼しかし、此夜は外にも在ったろう。

 滑川の河上に、絵馬戸と称えし里ありけり。
 此処に構えし立派の家造り、庭のかかりも座敷のさまも風流にして、手広なるは、大磯の廓なる福清と云う女郎屋の寮にして、常には留守居が在るのみなれど、此の抱えの花魁に「かしく」と云うが労咳の病気で此処に養生の為に、新造「いろは」と二人、気楽に遊ぶ其所え、福清が縁者類焼して、暫く同居三、四人離れ座敷を仮住居。
 頃しも弥生の初め方、桜の盛り花心、人も浮立つ時なるに、「かしく」は兎角塞ぎの病。
 床どうとはつかざれど、医者は大事と云う病気乍らも髪、形を乱さぬ気性も癇症の癖とて側で意見をすれば、只何となく泪ぐむ、哀れもいとど美しけれ。
 新造「いろは」は花魁を大切と思う心より、
いろは「モシェ花魁ちっと浮き浮きしなはいましな。他の花魁は色男でも拵えて楽しむのに、あんまり何かを気にしてばかりいなますから、わるうおっすちっと浮気になんしなえ」
かしく「其れでも何だか、悲しくばかりなりいすものを」
いろは「なんぞねえ、気の晴れる事が有るといいへえ」
かしく「三味線でも弾きないまし」
いろは「ヲヤ嬉しいそうぞうしくは、おっせんか」と云い乍ら三味線が好きと見えて、いそいそと箱より取り出し調子を合わせ
   忍ぶ其夜は安宅の松よ〜
かしく「アレサ、始まりから唄いなまし」と云はれて、「いろは」始めより、花に啼く鶯にも、勝りし声にて唄いければ、離れ座敷に琴の音の何時か調子を合わせつつ、此方の唄に合せもの
かしく「ヲヤ如何したんだろう嬉しい、確りと弾なましョ」と云う中に又尺八の音色優しく、是も又暖かの唄に合すれば、かしく思わず立ち上がり、次の間えいでて寮番の親父に離れ座敷の客を呼びに遣はしければ、笛携えて来る者は、十六ばかりの色若衆。
 これぞ即ち六三にて、お梅夫婦が所縁につれて、此処に暫く同居して、お園も遊びに来合して、只今琴を合せしなり。
 今日はお梅は本店の蔵に用事或るゆえに、下女を連れて出で行きしが、お園は今夜泊る気で、来りし心も六三郎に逢いき願い、お梅の夫に上手を使い遊びいる。
 さても六三は母屋に行きて花魁「かしく」新造「いろは」に改めて心安くなり、いろいろ合せ物等して遊びしが、廓より使いの来たり、「いろは」は親父を供に連れ出、少しの中お梅頼みて、「かしく」をば、気を付け貰えと申し越しけれども、お梅は留守なれば、子供に等しき六三郎、遠慮ねてれば頼置「いろは」は廓え至りける。
 後に六三は「かしく」の側に差しより、多葉粉をつけてやり
六「花魁こうしてお出で為さっては、さぞ退屈で御座いましょうねぇ。ドレ少しさすって上げましょう」とさし寄れば、
かしく「ヲヤどうしいしょう、勿体のうおっす」
六「御遠慮なさらずと宜ししう御座います。そして先刻から座ってお出でなさって、お足が痛みましょう。ちょっと横に御成りなさいまし」と云えば「かしく」泪ぐんで
「アィ嬉しゅうありぃす。主は如何してそんなに優しかろうねぇ。初にお目にかかって、不躾らしい事でありぃすが、今日久し振りで風呂え這入ぃしたら、如何も其のせえか、節々胸が痛くくなりぃす。どうぞ少しさすって呉れまし」と云うは六三に気の有る様子六三も元来その下心かしくの背中え手を懸けて
六「サァおよりまし」と抱きしめて横に寝かす。
 そもそも此の花魁は、其の年十九歳にて、艶色廓中の並ぶ者なく、愛嬌といい人品と云い殊に情けも深かりしが、去年の暮れより労咳にて、しかも今年は厄年よくよく大事にせざれば、命も危うしと医者も祈祷師も云いし故、さばかり大病ならねども、親方福清が情けにて、此所に保養はさせしなり。
 それはともあれ、全盛のかしくが姿は素人の又中々に及びなき、其の美しさに六三は堪らず、そろりそろりと胸さすり乍ら、時々溜息をついて、かしくが胸の所え、女の様なる可愛らしい顔を押付けて、又かしくの顔をじっと見る。
 かしくも仰向けに為って居乍ら、繁々と六三の顔を見れば、是でも男か知らんと思う程麗しく、業平も権八も是れ程あるまじと思えば益々気も味になれど、流石に遠慮して居ると見て取る六三郎胸をさすり乍ら、わざと乳を捻る様にすれば、かしくぶるぶる身を震わし
かしく「アレこそごったいョ」トにっこり笑う美しさ。
 六三は堪らず夜着跳ね除け、そっと上に乗りかかれば、かしくは更に女郎の風情もなく、恥かしそうに自由になれば、六三位いよいよ嬉しくて、前を捲れば雪の肌未だようように十九と云い、多くの客に逢はざれば、陰戸も饅頭を二つ合せし優しき生質、指にてそろそろさねがしらを、撫で上げ撫で上げ乳を舐め、形に似合ぬ大物を、かしくの手に握らせれば、
かしく「ヲヤマァ是が主のかえ」
六「なぜえ」
かしく「ヲホホホホ其れでも顔とかわって」
六「小さえかえ、是でも随分気を遣らせる、事はしって居ますョ」と云い乍ら、入れるも惜しきおまんこへづぶづぶと二寸ばかり突き込めば、
かしく「ヒィ〜〜」と、いだきつき、久しく男に逢はざりし、溜淫水は素人倒し
かしく「アレモゥ、いきいす、ヲヲフゥフゥ」ト二人は夢中のよがりごえ。
 障子の外に人の影、畢竟是は何者ぞ。
 次に詳しく記したり。

   四季情歓語花暦巻之二 了
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