2004/2/7 2/7 2/7 2/7 投稿者・ritonjp

    華古与見 四季情観語 花暦の序

 見渡せば麓ばかりに咲そめて、花も奥ある美好野の山、其の奥ゆかしき花娘の蕾を初め、盛の花の美しき年増に、後家に、おいらんに、室咲ならで囲女の日陰の花開くまで

 春の明日の福寿草より夏の沢辺の蛍狩り、秋の紅葉に妻恋鹿、冬の水仙、雪見船、何れか恋の種ならざる。

 四季の色事ささめごと、縁日仕入れの新道に、旦那の惚気をうけ地の松、此の頃流行る南京の、其の鉢植にあらねども、かわゆらしくて値の高い、万年青の傍に亦安き、根分の草花それぞれに、恋の諸わけの極意を尋ねて、細かにに穿つ花暦、金銭花が花の第一、是が無ければ何事も、不成就日と定めてあれど、発情人の遊行によりて、真実日陰で咲花あり。

 此の巻中には夫々の、花の姿を移し植えて、養い様を伝授書、古今未発の恋情を、幾世も繋ぐ長物語。

 色中に付些かも、家毎絶やす事ならぬ、陰陽和合の花暦、開きて笑う門松に初音の鶯、新玉娘、たが注連飾り羨ましき花の口元、吸な世の中にあらゆる貴賎の恋を、洩らさぬ水の加減もの、良くあまんじて色事の要心となすこそ、其れ花暦と何をか云う。

 只、梅桜の節をしる、何時もの花の弁へならず、此処に記すは専らに、物言う花の情を穿ちて、細かに記せし物なれば、美女(はな)の児譽見とも名付たり。

 さればとて又春夏秋冬、花になぞらう美人の姿、尊卑の位は園の梅、掃溜めに咲くぺんぺん草も、皆、夫々の趣あれば散らさず洩らさず、画と文に、詳しく備えて眺めとなす、まず開いたる華の口画、豊かに尊覧願うのみ。

 時に大津屋の楼に遊びて、蛤の技も豊かに春の海へ、錦を写す新地楼、柔らかに、揉んだ紙を好む、羊の春の日

     巻の一

 春雨や花の為には乳の恩、いとしめやかに昨夜より、降り続きたる軒のつま、信夫に伝う玉水の、音も静けき新道の、いづれ仇なる中程に、表は黒き板塀に、内より外を見越しの松、風雅でも無く洒落でも無く、詮方なしの若隠居は、放蕩過ごして本店の、聴こえ憚る仮住居、店は舎弟と母親に、任せて好いた梅吉の、吉の字とって於の字を添え、髪を手絡に結せて少し嫌らしくも、紅縮緬が似合ば欲に最ちっと、島田で置けば良かった物をと、思えば思う夫婦仲、化粧して鏡台を片付けながら
梅「旦那さん、お前さん転寝をなすっては否だよ」
男「ナニ、寝やぁしねえ」
梅「寝やぁしねえではありません、ソレ御覧な、半分目が覚めねえじゃ有りませんか。そしてモゥお昼だそうだが、おかづを何に致しましょうねえ」
男「エエムム、今におさんが帰って来るだろう」
梅「ヲヤ、おさんは今日は此方えは帰りませんと、今本店の小僧が断に参りましたよ」
男「ナゼ、ナゼ」
梅「お客が御座いますとサ」
男「そいつはいけねえ、其れでは先ず差し当たってお昼は食べる事為らずだの」
梅「ナニ、わちきが拵えますよ」
男「ヘン、手軽く云うぜ、如何かして拵えもするだろうが、一品お菜を拵えるには隣家え三度も聞きに行って、それから漸々出来上がると、世間は残らず夜食時分か」
梅「アレマァ、憎らしい、何其様に斯かりますものか、今直に拵えますよぉ」
男「そして何を拵える」
梅「ヱ、左様さねえ、何が善かろうねぇ」
男「其れ見た事か、先ずいきなり拵える物が知れねえじゃぁねえか」
梅「今まぁ、考えてサ」
男「イヤイヤ、そんな覚束ねえ事を待つよりか、魚腎え往って何ぞ持って来て貰おう」
梅「それだっても、常住のお菜に費だはね」
男「オヤ、大分世帯染た事を云うの、モシお内室さんぇ」
梅「よいョ、憎らしい」
男「インニャ、かあいらしい」と、抱寄る、
 そも、お梅がなりは如何に、藍上田の万筋、黒需子の半衿、下着はお納戸山繭の中形縮緬、帯は媚茶の本博多、宅に居る故他見の遠慮無ければ、緋縮緬の湯文字、湯上り化粧の出来立、梅香の香り心動かす其風情。
 引寄せられてしなやかに、男の膝え倒れかかりし身の軽さ、横になりし弾みに着物の裾が捲れ、もええ出る様なる緋縮緬の湯文字が片足え絡み、鮮やかに白き片足の親指を反らせし姿、男は堪らず右の手を股え差込めば、お梅は耳を赤くして
梅「ヲヤ、珍らしそうに何だねぇ」
男「ナゼ否か、おいらは夜より昼の方が気が晴れていい」と言いながら、さねがしらの両方の脇を唾にて濡らし、上の方え上の方えと撫あぐれば、お梅は少し鼻息せはしく
梅「アレサァレサ、誰か足音が」ト。
 口には言えど男の衿え白く細き手を懸けて男の顔え顔を押付る、折から表の格子戸の潜りの音、がらがらがら。
本「ヘイ、御免なさいまし、新版の面白いのがでました」
男「ヲィヲイ」と言いながら、一物を帯え挟み、手水鉢で手を洗いながら、入口の障子あけ
男「何だ新版は」
本「ヘイヘイ色々出来ました」
男「ドレドレ、又平の笑いを借りよぅ、イヤ丁度いい所だが、頼みが有るが聞いて呉れねえか」
本「ヘイ何で」
男「此の横丁に魚腎と云う肴屋が在るから、飯の菜を二品ばかり持って来いと言ってくんな」
本「ヘイヘイかしこまりました、直に左様申します」と貸本おいて立帰る
男「お梅お梅、ヲヤ雪隠か」
梅「イイエ、今一寸、二階え参りました」ト、顔を直して下り来る、斯くの如き用心の美女と差向いならば、鰻・玉子・八味丸一日も絶やす事無き様になすべし。

 其当座日中も箪笥の環が鳴り、と言う句はおろか此宅は色を商う芸者の上句、ことに相惚新世帯、外には所為もなかりけり、青梅はにっこり笑いながら
梅「ソレ、御覧なさいな、誰か来ると悪いと云うのに」
男「ナニ、構う物か、貸本屋が其の手本を持って来たのだ、
 そして貸本屋と云う者は他の商売と違って女の好きな物だ、
 それだから本屋は大方腎虚して煩うわな。
 是れ見ねえ、こんな気の悪くなる本を幾らも、宅に置いて看るから、如何しても巧者だはな、兎角色事が上手で油断がならねえ」
 又、裏口えおとづるるは、さも麗しき美少年(いろわかしゅ)障子を開けて
六「伯母さんじゃねえ、姉さん今日は」
梅「ヲヤ、六さんかえサァお上がりな。今日は雨が降るので凧も羽根もいけないねぇ未だかの人は来ないョ」ト云えば美少年は上がりながら
六「ヲヤ、かの人はぇ」
梅「えぇ〜白を切っておいでか、わらざぁいいョ」
男「ナニ、六坊が羽根を突くと、モウ外に突く物が出来たから、羽根を突かずとも善かろう」
梅「イイェ、追い羽根の相手が来ないから、少し塞ぎ筋さねぇ六さん」
六「可笑しいねぇ、何だか私にはわからないョ」
梅「今にわかるのさ、わちきがよく胸に聞きましたよ」ト云う所え十六七の娘、是も人柄よき風俗、毎日遊びに来る様子なり
園「姉さん、サァ羽根を突きましょう」
梅「お園さん、お前の羽根の相手は先刻から待ち兼ねて、泪ぐんで居るよ」
園「ヲヤ、誰がえ」
男「是も同じく、惚れないふりか」
園「なにぇ」
梅「何でもよいョ、ヲヤヲヤ、今日の髪は大層よく出来たねえ、とんだ早く御造り(化粧)が出来たねぇ」
園「ナニナニ早くは御座いませんョ、お昼を食べて髪を結って貰いまして、それから、お勝さんと一緒に湯え這入って、少し遊んでゆるりとしてから此処え参ったので御座いますョ」
梅「ヲヤ、それじゃあモウお昼余程すぎかえ」
男「それ見た事か今に夜食だ」と急いで夫婦は食事をする、最も肴屋より菜の物も来たりし成るべし。
 其の内お園・六三は縁側の方に至り、田舎源氏と云う草双紙を看て居る。
 それより、歌加留多、花合等して遊びけるが、雨はいよいよ強く降り出し、縁側え吹き込ば、雨戸を繰り出し、二階を半分閉めて居る所え、本店より迎えが来たり、亭主はいでて行きにけり。

 つれづれなれば三人は、お園・六三炬燵に入りて、転寝の中にお梅は独り言、
梅「ヲヤヲヤ此の子達はとうとう寝入ってしまった、ドレ下着のはぎを少し継ぎ合せようや」ト、云いながら、針箱と小切れの入りし畳紙を持って二階え上り行き、ひっそりとして音沙汰無し。
 六三は元より虚寝入り、お梅も承知で仕事にかこつけ、わざと二階えはずせしなり。
 娘は惚れて居ながらも、こう云う首尾になろうとは、思いつかねばすやすやと寝入りこんだる、寝顔の美麗、嬉しき夢でも見て居るか、笑みを含みし愛嬌に六三は堪えず、そっと寄添い抱付けば、お園びっくり顔を上げ、当たりを看れば、六三の外に人もあらねば、少し気を静め、
園「姉さんはえぇ、アレサ」
六「二階え仕事を持って御出でだから、気遣いは無いョ」ト、確り抱えて口を吸う、顔と顔と押付けて、どちらが女知れぬ程、互いに惚れる美男美女、暫くちゅうちゅう、すっぱすっぱ舌の抜ける程吸合いしが、六三は炬燵の蒲団を捲り、お園の上に乗りかかる。
 お園はぶるぶる震えながら
園「アレサマァ、こわいョ」
六「何がこわい」
園「ひょっとお梅さんに知れると悪いョ」
六「ナニナニ気遣いはない」ト云いながら、捲れかかりし板〆の縮緬の蹴出しを掻除け、白羽二重の短き湯文字を捲れば、娘は左の手で前を合わせんと着物の褄を引けば、いよいよ捲れる雪の肌、六三は嬉しく割込て、火の様に成りしへのこ、殊に少年には珍らしき大まらを、未だ手入らずの可愛らしき、玉門え押付ける。
 折から雨に途絶えたる、新道を悪戯らしき小僧の声

都々逸「年の始めの 新玉娘 だいて根松や 七五三かざり」

園「誰か見やぁしまいかね」
六「ナニナニ、見える気遣いは無いョ」ト、云いつつソロソロと腰を使えば、娘は嬉しさいはんかたなけれども、只何となくこわければ、兎に角震えるいとらしさ、六三もようよう女郎買いに二三度往きて女の肌は知ったれども、未だ中々に実心の味を覚える所に至らず。
 訳も無く可愛ければ抱きしめて、すかりすかりと抜き差しすれば、自然と感動情通じて、早くも二人は惣心にぞくぞく染みる快よさ前後を忘れ鼻息荒く
園「アレ、モゥモゥソレソレわちきは気が遠く成って来たヲォよいョ善いョ」
六「おいらもモゥモゥサァサァ行くよ行くよ、フゥフゥハァハァ」
 ドクドクドク

 何時の間にやら、此の家の亭主帰り来たって、密かに立ち聞き、そろりそろりと、抜足にて中の間入りて見れば、お梅も何時か二階より下りて障子の破れから覗くとしらで、炬燵蒲団を脇え踏除け、六三とお園、雪より白き肌あらわし、取乱したる真最中、お梅は見蕩れて夢中となり。
 殊に先刻痴話狂い、既にこうよとなりし時、貸本屋の来たりし故それなりけりに、気を悪く悶えし所に、今日のコノ仕儀、相手なけれど淫水涌きかえりたる。
 折ぞとも知らねど、主はおどけ者、忍び寄ってお梅の後ろ、手早く裾を引き捲り物をも言わず押込めば、
梅「ヲヤ」とは云えど気ざせし所、嬉しくもいだき付、持ち上げ持ち上げ急き立てれば、男はわざとだし抜けに、片手で障子がらりと押し開け、
男「サァ、六坊一緒やるぜ」ト、云われて驚くお園とお梅、逃げんとするは女の情、男は構わず押さえ付け、すかりすかりと大腰に、羽目をはずせし無礼講、折節勝手の障子をば、さも忙しなく開ける音、お園が家の下女の声、
「お園さんえ、御母さん急に塩梅が悪う御座います、早くいらっしゃいませ」と、急き立てられ、流石に母の急病と聞いては恋も色男も構わぬ気になる頼もしさ。
 六三を押し退け駆け出だす。
 お梅も早く気を遣りしまい、同じく続いて駆け出す。

 跡に二人は気抜け如く、未だなえやらぬ其の内にも、六三は精を少し洩らし、不承もなれど主は中々静まらぬ、其の陽物に手こずりて、困る余りに心付見れば六三が若衆振り、女に勝る美しさ、是幸いとしがみ付かば、さして驚く風情も無く、女の様に仰向きに為りて、男の一物を、手に持ち添えて宛がうは、そも不思議やと怪しむ主、是、何故ぞ六三の素性又此のちぎりは、如何ならん、次の巻読みて知るべし

      天之巻 終
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