2004/3/23 3/24 3/24 投稿者・ritonjp

      男壮里見八見傳巻之一(恋のやつふじ)

        序 言

 夫れ八は物の定数、暦の冠首に八将軍、法華経に八の巻、八方有徳の君とうたい、八夷帰順の聖代と称う。
 仁義礼智忠信孝悌の八行は、文道の教示なり。
 天地風雲龍長虎蛇は、武に教える八陣なり。
 算盤の八算台所の八間、狸の陰嚢八畳敷、数えも尽きぬ八の数、八見傳とは何の名ぞや。
 男壮りの八人と里に美麗の婦女子とを、描いて見するに傳あれば、「男壮里見八見傳」と只其の儘に号しなり。
 元来八ッは丑の刻、木茅も眠る閨中に、蜜と開いて看る時は、陰陽和合の基を起こし、八声の鶏の唄う迄、アヽ美技美技(シヌシヌ)と両方の、声を寄をせても八となる。
 梅の八房薫りあれど、尽きぬ言葉を縮略して、其の趣を知らしめんと為すのみ為らず、春心の起こらぬ様に綴りては、好子の覧に、呈する由なし。
 されば雅を以って裡俗に替え、一条を以って数巻に当たれバ、疎漏は論じて益あらず。
 唯不器用の筆を償翫あれと詞か云う。

        第一回

「好実玉樟を懸想して、八淫婦を化現す」
 京都の妾群、鎌倉売色衰えて奸淫し、夜ハ潜交と成りし頃、淫を蕩開の火気に妃せて、子孫十分に漏精し、里見好実と聞こえしは、大陽・暗妻・腎余の三家を妃倒し、腎余の奸臣今交合沙汰右衛門を討て美女玉樟を生捕らせ、是を殺して政道を正しゅうせんと在りけるが、目の前に引出して其の罪を糾明なすに、彼は元腎余強淫之助の妾にて、腎余の近臣今交合沙汰右衛門と姦通し、腎余死去て後、欲しい侭に淫行せし者なれば重く死刑に行なはれんと命ぜられしが、今、つらつら是を看給うに、其の罪をば憎みつくべく、また其の艶色をば愛すべし。
 好実は惚々と玉樟に向かいて仰せけるは、
「いかに玉樟受け賜はれ。汝は世にも稀なるべき美艶の姿を持ち乍ら、などてや心を鬼々しく腎余を陰虚火動に殺し、また今交合と奸淫して、更に恥る気色なく、斯かる際に至りても、猶命を惜しむや」と叱らるれば、玉樟ハ好実の顔徒然とうち眺め、泪をはらはらと流して咽び入り、泣くも色ある忍び音に眼を拭いたき其手さえ、後え捕らえし戒めの、縄目も恥かしき、衣紋を覗く右左乱れし黒髪幾筋か、顔に罹るも麗しく、肌には紅の縮緬の燃ゆるが如き長襦袢白綾の衣三ッ斗り、重着揃えし褄がえりあらわにいでし雪の肌、衣通姫も楊貴妃も、いかでか是にハ及ぶべきと、好実始め左右の群臣、各々顔を看合せて、彼が罪をば打ち忘れ、唯いとおしと思いけり。
 此時玉樟ハ鶯の谷の戸いでし初音に等しき、声をバ繕い好実を拝して謂う様
「正しからざる此身の上を、憎ませ給うハ無理ならねど、幼き時より教訓を受けず、元来夫婦の結びせし、男と云うは今日迄、親の許せし事もなく、思わぬ人に思われても、身を任せねば命にも、係る浮世の騒がしき風に柳の靡くには、あらで当座の難儀により、任せし事を悔しくハ、知りても還らぬ果敢なき玉樟、悪戯者と一筋に、叱られ給はば是非も無し、憐れ甲斐なき女子の身ハ、遁れ難き由ありて、築摩の鍋を重ねしと、悟らせ給ハバ己ずから、不義の行いの身なりとは、憎ませ給う事にもあらじ、未練がましき事乍ら、心にあらぬ重ね妻、その故を持って命迄、召されるるよしハ悲しくも恨めしくこそ候」と言葉巧みに申すにぞ。
 好実是を聞き給い
「実に是高貴の令室ならず。唯麗しき顔ばせの故に賤しく生まれても、貴き衣も身に纏う、垣の外なる桜花、他毎に手折しとて、婦女子をさばかり憎むべき罪にハあらず」と、是を許してその夜寝所え招かれけるを、老臣ハたえて知らざりける。
 さて好実ハ玉樟を床の上にいだきあげ、
「是れ玉樟、家老どもが殺せと言うを、種々と道理を附けて、助命た上此処え呼寄せたが、好実の親切をそなたハ、却って迷惑に死んだが益しと思いやるか」
玉「イェイェ如何致しまして勿体無い。御仁心の厚恩を存知ましては、御傍出ますも穢れた此の身」ト少し愁いの顔色に泪をポロリと零し
「恐れ入ましてハ御座いますが、どうぞ此の上の御慈悲に」ト謂い懸けて顔を赤らめ好実を見上げる目元、情を含みし秋の波、惚れたとたった一言も謂われぬ風情趣に知らせる色の巧者の手事。
 好実も是を推し、猶しみじみと是を看るに、先刻縄目の辛苦より、既に死ぬべき身の上と、歎きに沈みし腫れ目蓋ほんのりとせし湯上りの、化粧ハ玉の名にしおう、其の美しさ喩うるに、物も嵐のさくら花、露を置きたる姿と謂わんか、憂き目の跡の笑い顔。
 如何なる邪念あればとて、此の情欲ハ止め難く、前後を忘れて好実ハ玉樟をヒシヒシといだき締め、顔を寄すれバ、玉樟ハ、此の一義にハ稀代の手取り、男の顔をじっと眺めにっこり笑い、横抱きにせられし侭、捲れた褄をその成りに、湯文字の緋縮緬が白き足に絡みしを、爪先揃えて踏み延ばし、親指を屈めてしがみ付く、
好「何故そんなに身を縮めるのだ、如何しても否か」
玉「イィェ如何致しまして、勿体無くて夢でハ無いかと存じます」
好「ドレ此方も夢の覚めねへうち」ト謂い乍ら、左の手にて玉樟の背中を抱え、右の手を湯具の間へ差入るれバ、女ハ態と股を合せて、ぶるぶると震え居る。
 好実ハ思いの他、玉樟の初心に可愛さ勝り、直ぐに膝より下ろして横に割り込み、白綾の小袖の上前を捲り除け、緋縮緬の湯具を引き捲れば、雪より白き肌の、艶々として其の綺麗なる事、あつらえの人形に人肌の在る如く柔らかなれバ、好実今は堪りかね、玉樟を仰向けにし、恥しがるを足を左右へ広げ見るに、玉門ハ羽二重の絹にて造りしより美しく、毛ハ薄々と生えて、多くの男に交合るとハ思われず。
 此の時好実ハ総身蕩ける程に歓び、可愛く思う玉門に口を付け、舌をいだして、べちょりべちょりと土手と謂わずさねがしらから陰門へと嘗め回すに、とろとろ嬌汁溢れ出したるを、淫心逸りて起直り、直ぐに割り込み、膝を女の腰に当て、火の如きいちもつを押し入れんとする折しも、次の間より近臣の声として、
「玉樟を刑罰の義、老臣より伺います」と取次ぎ声に好実ハ寝所の内に目を覚ませバ、是ぞ南柯の一夢にて、一人春心発動して玉樟の蔭ハなかりける

第一回 終 第二回へ

相生源氏-北嵯峨の巻 初寝の巻 室町の巻 返り花の巻 過去の巻 変詐の巻 地蔵堂の巻 古今伝授の巻 惚薬之巻 丑の時詣の巻 
開好記 男壮里見八見傳@ A B C D E 開談夜能殿 上   口吸心久茎 閨中大機関 錦木草紙 此の糸 
四季情歓語花暦-天之巻@ A  地之巻-前 人之巻 葉男婦舞喜上-中  愛-絆集 TOP頁