2004/3/18 3/20 投稿者・ritonjp

       第十 「丑の時詣の巻」

 夜は深々と更け渡り、草木も眠る丑満つ頃佐栗は時を取り違え、翌明六ッには公の御用あればと急ぎ足、浅香が家を立ちいでて、供も連れずに唯一人、小提灯を振り照らし早くも御所の門え来たり。聞けば八ッ半ならんと謂う。
 かくては未だ出仕も早し、左様と知ったら今暫し、浅香と抱かれて寝たものを、悔しき事をしてけりと、後悔しツッ御庭口なる・詰所へ往きて一休みと、折戸開きて木立の間、歩む処にちらちらと、火影に怪しみ提灯をふっと吹消し身を潜め、窺い視れば吉光が寵愛深き傍女桃代、髪をさばきて白出で立ち、金輪にたてし蝋燭の、風のまにまに煌めくは、瞋恚の炎と知られたり。傍えに、居るは岩井蔀手を捕らえて物云う風情。
 何様怪しと木隠れて、其れが様子を伺えば、蔀は桃代が顔を見上げ、
「感得院の修験を恃んで、音勢を呪うと云う事は、確かに聞いたも嘘ならず。音勢が此頃ぶらぶら病、医師よ祈祷と御所様には、ありとあらゆる御心遣い、其の病根はお前の仕業、喩え音勢に寵愛を、見返らりょうと是も時節、僻むは女子の常とは謂え、大恩受けし君が心を悩ます、淫婦をみたは僥倖、サァ引括して役所え曳こう」と云うに桃代は抱き付き
「お前も余り情けない。何時ぞやからして贈られた、文玉章も此処に在る。色よい返事しないのが、お気に要らぬか知らないが、其の頃は吾君の、寵愛もまた他ならず。夫れを忘れて仇心を出しては済まぬと、強面したも、私ばかりかお前の身をも、大事に思う蔭の真実憎い女と恨みは、却ってお前了見違い。
 其れは過ぎし昔の事、今は音勢に見返られ有るに甲斐なき桃代が身、人を呪わば穴二ッと云うも承知で、奥庭へ夜更けて一人の物詣。其れをお前に見付ったは、叶わぬ験の糠に釘、喩え役所へ曳かれ様と、さのみ厭いはせぬけれど、満更憎い女子じゃと、思ぼさねばこそ玉章の数さえ贈り給はりし、其のお心替わらずば、今は如何なと私が身は、お前任せにする程に何卒此の場見逃して」ト流し目にして蔀が顔を見ツッ歎く俤は雨夜の月に梅が香の、匂い零るるばかりなるに、蔀は予ねて、憧れて送る文さえ其の儘に、うち返されし腹だたしさ、折もがなと思うに幸、かかる容子見にければ、疫の神で敵を討つと、世の諺に云う如く、斯く厳しく脅すものから、掻口説かれ忽ちに魂天外に飛び去りツッ、
「左様いうお前の心なら、何で吾が此の事を人に漏らして難儀をかけ様、いよいよ左様なら今此処で」ト抱き寄せ口を吸いやつ口より乳弄い、桃代も蔀が衿へ手を懸け、締め付け衿を肌蹴て、乳房を出せば蔀乳に喰らい付ツッ、前尻やら口と口やら乳房やら上を下えの忙しく暫し互いに言葉も無し。
 暫くあって押しこかし、其の侭ぐっと割り込めば、肥り肉なる桃代が陰門、膨れ挙ってさね低し。
 其の肌触り滑々として、えも云われぬ心地に也、蔀はせきたち大業物を、づぶづぶト押し込めば、桃代は久しく遠ざかり、男欲しさに開中も疼くばかりの折なれば、飽く迄太く逞しき大物を入れられて、唯フゥフゥと息弾まし、夢中に成りて嬌り出し、息も絶え入りなん有様に、蔀は日頃したいぬる、ことしにあれば是もまた、更に前後正体なく、すかりすかりと突き立てヽ、抜きも遣らずに二ッ玉、双方の陰水は、四ッの股に溢れ滴り、ビチャビチャグチャグチャずぼずぼと、誰に心も、奥庭の木立の他に聞き手無しと、心許して声をたて余念なくこそ見えたりけれ。

       附記「祝言の巻」

 室町御所の御連枝なる、斯波捨若丸の奥御殿、御次御端下うち交じり、箒はたきとりどりに、雑巾がけの拭き掃除、三人寄れば姦しと世話にも謂える女の口々
「室町様は美しい、よい刀根様じゃと噂は聞いても、堆に見あげた事もなし、明石様はおしあわせ、ノゥ小蝶殿わたしらも、何時が何時まで御奉公、夫れよりか御暇とり、よい亭主を持ちや弥々子でも産んだら、さぞ嬉しい事であろう」
「ヲヤヲヤお前は明石様の今宵の御婚礼が羨しさに、急に亭主を持つ気おなりか。ホンニ夫れと謂えばアノ明石様、御年こそ十六なれ、未だねっからねんねさんで、御成りもちいさしあれでもマァ肝心の、御床入りが出来ようかいな」ト囁けば
「何だか如何もむずかしそう。夫れよりは後室様の寿田の方様は漸うに御二十九の若後家様、美しいとは何の事、女でさえ惚れ惚れする程、いっその事寿田様に遊ばしたら宜さそうなもの」
「まさかに何ぼ御美しくても、左様は為らぬ訳であろう。然し小蝶殿全体は明石様を直ぐさまに、御所へ御入輿とある処を、昔は此方え婿を取り、婚礼さして其の後に、男の方え引取るが、日の本の礼とやら、どうぞ左様致したいと、寿田様の御願いで、今宵御所様が入らせられ、御婚礼との其の噂、左様してみれば寿田様にしても御心有っての事かも知れない」
「そうともそうとも寿田様は、御年も盛りの若後家で、夫れに男もお好き。先刀根様にも毎晩毎晩三つも四つも強いつけて、遂に御隠れ遊ばしたも、腎虚とやら謂う病そうな。夫れから後は御一人住い淋しうて御成り為さるまいか。明石様は継しい御子、如何やらちゃっと横盤をお切りなさるも知れない」ト云う口押さえて
「是さ是さ滅多な事云うまいぞ。何様でも此方の構わぬ事、ヲヤ御時計もモゥ四つ半急いで御掃除しましょう」ト掃除も終ればはや九ツ。
 遠見の雑人馳せ来たり
「御所様の御入ぞぉ」と、知らせに破驚やと奥表ざざめき渡る。
 御殿の賑わい、かくて御婚礼の式も形の如く、済て後に当主捨若、また後室寿田の方とも、御盃事のありけるに、吉光是をみそなわせば、年こそ少しふけかたなれ、天然の姿色たおやかにて、錦に包む玉ならずば、桃と桜一樹に咲かせて、眺めむる心地のせられければ、暫く目も離れず、其の俤に見蕩れ給う。
 寿田の方も予ねてより、聞き及べど吉光が、御容姿より立ち振る舞い、優に優しき御気配、光源氏も斯く迄にはと思う斗りの御装いに、忽ち心ときめきて手に持給う盃と、同じ色にぞ赤らむる、顔を叛けて座し給う。
 様々の御儀式には、春の日更け易くして早くも初夜の過ぎる程に、やがて姫君の御寝所には、綾の褥錦の夜着、膳を尽くし美を尽くし、待受け給えば、吉光君も御床着を召替えられ、御寝間に入れせ給いけるに、明石姫は女中達が噂したる如くにて、年に似げなく小さうて、御心さえも幼なければ、殿の入らせ給いしを、恥しと思う気色もなく、灯台の下に人形等、取り広げて居る程に吉光是を見て、余りに幼過ぎると思う折から、襖を隔て様子は如何ならんと伺いし寿田の方、襖を少し細目に開けて覗く目と吉光が本意なく見る目が合いて、是より後の、寿田の方との色情はまさしく藤壺の宮が姿を借り、三人の側室音勢が事、傾城浜荻が物あらがいは、葵の上が赴きを模し、様々趣向ありと謂えど、此処に丁数限りあれば、拙の根にも限りあり、看過是を察し給え。

        「源氏下之巻」終

     附記

光「手も足もない生娘より、年増は格別させ上手なせいか、アァイィイィィ」
寿「切ない時は親をだせ、と、下世話に申すが嘘はない。
 此の様な名代なら、何時でも嫌と謂いません。
 ヲヽそれそれ此の善い事、フゥフゥフゥフゥエェモゥどうしたら此の様に、抜き差しの度、気が往って心もぼぼも溶けるヒィ〜死にます死にます」

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