古今和歌集 巻第七 賀 哥
わがきみは 千世にやちよにさざれいしの
 いはほとなりて 苔のむすまで

わたつうみの はまのまさごをかぞへつつ
 君がちとせの ありかずにせん

しほの山 さしでのいそにすむ千鳥
 きみがみよをば ちよとぞなく

わがよはひ きみがやちよにとりそへて
 とどめをきてば 思ひいでにせよ

 仁和の御時僧正遍昭に七十の賀たまひける時の御哥
   仁和のみかど
かくしつつ とにもかくにもながらへて
 君がやちよに あふよしも哉

 仁和のみかどのみこにおはしましける時に、御をばのやそぢの賀に、しろがねをつゑにつくれりけるをみて、かの御をばにかはりてよみける   僧正へんぜう
ちはやぶる 神やきりけんつくからに
ちとせのさかも こえぬべら也

 ほりかはのおほいまうちぎみの四十賀、九條の家にてしける時によめる    在原業平朝臣
さくら花 ちりかひくもれおいらくの
 こむといふなる みちまがふがに

 さだときのみこのをばのよそぢの賀を、
 大井にてしける日よめる  きのこれをか
かめのおの 山のいはねをとめておつる
 瀧のしら玉 千世のかずかも

 さだやすのみこの、きさいの宮の五十の賀たてまつりける御屏風に、さくらの花のちるしたに、人の花みたるかたかけるをよめる   ふぢはらのおきかぜ
いたづらに すぐす月日はおもほえで
 花みてくらす 春ぞすくなき

 もとやすのみこの七十の賀のうしろの屏風によみてかきける   きのつらゆき
春くれば やどにまづさく梅花
 きみがちとせの かざしとぞみる

 もとやすのみこの七十の賀のうしろの屏風によみてかきける 素性法師
いにしへにありきあらずはしらねども
 ちとせのためしきみにはじめむ

 もとやすのみこの七十の賀のうしろの屏風によみてかきける 素性法師
ふしておもひ おきてかぞふる万代は
 神ぞしるらん わがきみのため

 藤原三善が六十賀によみける   在原しげはる
鶴亀も ちとせののちはしらなくに
 あかぬ心に まかせてはててん

 このうたはある人、在原のときはるがともいふ
 よしみねのつねなりがよそぢの賀に、
 むすめにかはりてよみ侍りける  そせい法し
よろづ世を まつにぞきみをいはひつる
 ちとせのかげに すまんと思へば

 内侍のかみの、右大將藤原朝臣の四十賀しける時に、
 四季のゑかけるうしろの屏風にかきたりけるうた
   そせい法し
かすがのに わかなつみつつよろづよを
 いはふ心は 神ぞしるらん

 内侍のかみの、右大將藤原朝臣の四十賀しける時に、
 四季のゑかけるうしろの屏風にかきたりけるうた
   そせい法し
山たかみ くもゐに見ゆるさくら花
 心の行きて おらぬ日ぞなき

 夏   そせい法し
めづらしき こゑならなくに郭公
 ここらのとしを あかずもある哉

 秋   そせい法し
住のえの まつを秋風吹くからに
 こゑうちそふる おきつしらなみ

 秋   そせい法し
千鳥なく さほの河ぎり立ちぬらし
 山のこのはも いろまさりゆく

 秋   そせい法し
秋くれど 色もかはらぬときは山
 よそのもみぢを 風ぞかしける

 冬   そせい法し
白雪の ふりしく時はみよしのの
 山した風に 花ぞちりけるz
 春宮のむまれたまへりける時にまいりてよめる
   典侍藤原よるかの朝臣
峯たかき かすがの山にいづる日は
 くもる時なく てらすべらなり

古今和歌集 春上 春下  秋上 秋下   離別 羇旅 物名 戀1 戀2 戀3 戀4 戀5 哀傷 雑上 雑下 書架