古今和歌集　巻第十六　哀 傷　哥

　いもうとの身まかりにける時よみける
　　　小野のたかむらの朝臣
なく涙 雨とふら南わたりがは
　さきのおほきおほいまうちぎみを、しらかはのあたりにをくりける夜よめる　　　そせい法し
ちのなみだ おちてぞたぎつ白川は
　ほりかはのおほきおほいまうちぎみ、身まかりにける時に、ふかくさの山におさめてける後によみける
　　　僧都勝延
空蝉は からをみつつもなぐさめつ
　ほりかはのおほきおほいまうちぎみ、身まかりにける時に、ふかくさの山におさめてける後によみける
　　かむつけのみねお
深草の 野邊のさくらし心あらば
　ふぢはらのとしゆきの朝臣の身まかりにける時に、よみてかの家につかはしける　　　きのとものり
ねてもみゆ ねでもみえけりおほかたは
　あひしれりける人の身まかりにければよめる
　　　きのつらゆき
夢とこそ いふべかりけれ世中に
　あひしれりける人の身まかりにける時によめる
　　　みぶのただみね
ぬるがうちに みるをのみやは夢といはん
　あねの身まかりにける時によめる　　　みぶのただみね
せをせけば ふちとなりてもよどみけり
　ふぢはらのただふさが、むかしあひしりて侍りける人の身まかりにける時に、とぶらひにつかはすとてよめる
　　　閑院
さきだたぬ くひのやちたびかなしきは
　きのとものりが身まかりにける時よめる　　　つらゆき
あすしらぬ 我身とおもへどくれぬまの
　きのとものりが身まかりにける時よめる　　　ただみね
時しもあれ 秋やは人のわかるべき
　ははがおもひにてよめる　　　凡河内みつね
神な月 しぐれにぬるるもみぢばは
　ちちがおもひにてよめる　　　ただみね
ふぢ衣 はつるるいとはわび人の
　おもひに侍りけるとしの秋、山でらへまかりける道にてよめる　　　つらゆき
あさ露の おくての山田かりそめに
　おもひに侍りける人をとぶらひにまかりてよめる
　　　ただみね
すみぞめの きみがたもとは雲なれや
　女のおやのおもひにて山でらに侍りけるを、ある人のとぶらひつかはせりければ、返り事によめる
　　　よみ人しらず
あしひきの 山べに今はすみぞめの
　諒闇のとし、池のほとりの花を見てよめる
　　　たかむらの朝臣
水のおもに しづく花の色さやかにも
　深草のみかどの御國忌の日よめる　　　文屋やすひで
草ふかき 霞の谷にかげかくし
　深草のみかどの御時に、蔵人頭にてよるひるなれつかうまつりけるを、諒闇になりにければ、さらに世にもまじらずして、ひえの山にのぼりて、かしらおろしてけり。
　その又のとし、みな人御ぶくぬぎて、あるはかうぶりたまはりなど、よろこびけるをききてよめる　　　僧正遍昭
みな人は 花の衣になりぬなり
　河原のおほいまうちぎみの身まかりての秋、かの家の邊をまかりけるに、もみぢの色まだふかくもならざりけるを見て、かの家によみていれたりける
　　　近院の右のおほいまうちぎみ
うちつけに さびしくもあるかもみぢばも
　ふぢはらのたかつねの朝臣の身まかりての又のとしのなつ、ほととぎすのなきけるをききてよめる　　つらゆき
ほととぎす けさなくこゑにおどろけば
　さくらをうへてありけるに、やうやく花さきぬべき時に、かのうへける人身まかりにければ、その花をみてよめる　　　きのもちゆき
花よりも 人こそあだになりにけれ
　あるじ身まかりにける人の家の梅の花をみてよめる
　　　つらゆき
色もかも むかしのこさににほへども
　河原の左のおほいまうちぎみの身まかりてのち、かの家にまかりてありけるに、しほがまといふ所のさまをつくれりけるをみてよめる　　　つらゆき
きみまさで 煙たえにししほがまの
　藤原のとしもとの朝臣の右近中將にてすみ侍りけるざうしの、身まかりて後、人もすまずなりにけるに、秋のよふけてものまうできけるついでにみいれければ、もとありしせんざいもいとしげくあれたりけるをみて、はやくそこに侍りければ、むかしを思ひやりてよみける。
　　　みはるのありすけ
きみがうへし ひとむらすすきむしのねの
　これたかのみこの、ちちの侍りけん時によめりけんうたどもとこひければ、かきてをくりけるおくによみてかけりける　　　とものり
ことならば 事のはさへもきえななむ
なき人のやどにかよはば　郭公
たれ見よと 花さけるらんしら雲の
　式部卿のみこ、閑院の五のみこにすみわたりけるを、いくばくもあらで女みこの身まかりにける時に、かのみこすみける帳のかたびらのひもに、ふみをゆひつけたりけるをとりてみれば、むかしのてにてこのうたをなんかきつけたりける　　　閑院五御子
かずかずに 我をわすれぬものならば
　おとこの人のくににまかれりけるまに、女にはかにやまひをしていとよはくなりにける時、よみをきて身まかりにける
こゑをだに きかでわかるるたまよりも
　やまひにわづらひ侍りける秋、ここちのたのもしげなくおぼえければ、よみて人のもとにつかはしける
　　　大江千里
もみぢばを 風にまかせてみるよりも
　身まかりなんとてよめる　　　藤原これもと
露をなど あだなる物と思ひけん
　やまひしてよはくなりにける時よめる
　　　なりひらの朝臣
つゐにゆく 道とはかねてききしかど
　かひのくににあひしりて侍りける人とぶらはんとてまかりけるを、みちなかにてにはかにやまひをしていまいまとなりにければ、よみて京にもてまかりて、ははにみせよといひて人につけて侍りけるうた　　在原しげはる
かりそめの ゆきかひぢとぞ思ひこし