清風詞 [索引] [書架]

 菩薩蠻
李白
平林漠漠煙如織、
寒山一帶傷心碧。
暝色入高樓、
有人樓上愁。

玉階空佇立、
宿鳥歸飛急、
何處是歸程、
長亭更短亭。



平林漠漠として煙は織るが如く、
寒山一帶傷心の碧みどり
暝色高樓に入り、
人有り樓上に愁ふ。

玉階空しく佇立し、
宿鳥歸へり飛ぶこと急、
何處いづこか是れ歸程ならん、
長亭更に短亭。

 憶江南 一
唐・白居易
江南好、
風景舊曾諳。
日出江花紅勝火、
春來江水綠如藍。
能不憶江南!



江南の好き、
風景舊もと曽て諳そらんず。
日出づれば江花紅きこと火に勝り、
春來らば江水綠あをきこと藍に如く。
能く江南を憶はざらんや!

 憶江南 二
唐・白居易
江南憶、
最憶是杭州。
山寺月中尋桂子、
郡亭枕上看潮頭。
何日更重游。



江南の憶ひ、
最も憶ふは是れ杭州。
山寺の月中に桂子を尋ね、
郡亭の枕上に潮頭を看る。
何れの日か更に重ねて游ばん。

 憶江南 三
白居易
江南憶、
其次憶呉宮。
呉酒一杯春竹葉、
呉娃雙舞醉芙蓉。
早晩復相逢。



江南の憶ひ、
其の次に憶ふは呉宮。
呉酒一杯春竹葉、
呉娃双び舞ふ醉芙蓉。
早晩復た相ひ逢はん。

 浣溪沙
北宋・晏殊
一曲新詞酒一杯、
去年天氣舊亭臺。
夕陽西下幾時回?

無可奈何花落去、
似曾相識燕歸來。
小園香徑獨徘徊。



一曲の新詞酒一杯、
去年の天氣舊もとの亭臺。
夕陽西に下しづめば幾いづれの時か回らん?

可奈何いかんともする無し花は落り去り、
曾ての相識の似ごとき燕歸り來る。
小園の香徑獨り徘徊す。

 蝶戀花
欧陽脩
庭院深深深幾許?
楊柳堆煙、
簾幕無重數。
玉勒雕鞍遊冶處、
樓高不見章臺路。

雨橫風狂三月暮、
門掩黄昏、
無計留春住。
涙眼問花花不語。
亂紅飛過秋千去。



庭院深深として深きこと幾許いくばくぞ?
楊柳煙かすみを堆め、
簾幕重なれるを數ふる無し。
玉勒雕鞍遊冶の處、
樓高けれど見へず章臺の路を。

雨橫ざまにして風狂ふ三月の暮、
門は黄昏たそがれを掩さへぎれど、
計る無し春を留め住くを。
涙眼にて花に問へど花は語らず。
亂紅散りし花飛び過ぎて秋千に去る。

 長相思
白居易
汴水流、泗水流、
流到瓜州古渡頭。
呉山點點愁。

思悠悠、恨悠悠。
恨到歸時方始休。
月明人倚樓。



汴水流れ、泗水流る、
流れて到るは瓜州の古き渡頭。
呉山點點ひとつひとつに愁ふ。

思ひ悠悠、恨み悠悠。
恨み歸れる時に到らば方まさに始めて休をはらん。
月明に人樓に倚る。

越調 天淨沙 即時
元・喬吉
鶯鶯燕燕春春、
花花柳柳眞眞、
事事風風韻韻。
嬌嬌嫩嫩、
停停當當人人。
鶯鶯燕燕は春春として、
花花柳柳は眞眞として、
事事に風風韻韻たり。
嬌嬌嫩嫩として、
人人に停停當當たり。

 漁歌子
唐・張志和
西塞山前白鷺飛、
桃花流水鱖魚肥。
靑箬笠、綠蓑衣、
斜風細雨不須歸。



西塞山前白鷺はくろ飛び、
桃花流水鱖魚けいぎょ肥ゆ。
靑き箬笠じゃくりふ、綠の蓑衣さい
斜風細雨歸るを須もちゐず。

桂枝香 金陵懷古
宋・王安石
登臨送目、
正故國晩秋、
天氣初肅。
千里澄江似練、
翠峰如簇。
歸帆去棹殘陽裡、
背西風酒旗斜矗。
彩舟雲淡、
星河鷺起、
畫圖難足。

念往昔、繁華競逐。
嘆門外樓頭、
悲恨相續。
千古憑高、
對此漫嗟榮辱。
六朝舊事隨流水、
但寒煙衰草凝綠。
至今商女、
時時猶唱、
後庭遺曲。



登臨して送目すれば、
正に故國は晩秋、
天氣初めて肅たり。
千里の澄江練ねりぎぬの似ごとく、
翠峰簇やじりの如し。
歸帆棹を去る殘陽の裡、
西風を背にうけ酒旗斜めに矗つ。
彩舟に雲淡く、
星河に鷺起つ、
に畫かんも足みたし難し。

往昔を念おもへば、繁華競ひて逐く。
嘆く門外樓頭、
悲恨相ひ續く。
千古憑高す、
此に對して漫そぞろに榮辱を嗟なげく。
六朝の舊事流水に隨ひ、
但だ寒煙衰草綠を凝らす。
今に至るも商女、
時時猶ほも唱ふ、
後庭遺曲。

 踏莎行
宋・秦觀
失樓臺、
月迷津渡、
桃源望斷無尋處。
可堪孤館閉春寒、
杜鵑聲裏斜陽暮。

驛寄梅花、
魚傳尺素、
砌成此恨無重數。
郴江幸自繞郴山、
爲誰流下瀟湘去。



霧に樓臺ろうだいを失い、
月に津渡しんとに迷ひ、
桃源たうげん望斷すれども尋たづぬる處無し。
なんぞ堪へん孤館こくゎん春寒しゅんかんに閉ざされ、
杜鵑とけんの聲裏に斜陽暮るるに。

驛は梅花ばいくゎを寄せ、
うをは尺素せきそを傳ふ、
み成す此の恨み重數きはまり無し。
郴江ちんかうは幸自もとより郴山ちんざんを繞めぐるべきも、
が爲に流れ下くだりて瀟湘せうしゃうに去るや。

 阿那曲
唐・楊貴妃
羅袖動香香不已、
紅蕖嫋嫋秋煙裏。
輕雲嶺上乍揺風、
嫩柳池塘初拂水。

 阿那曲あだきょく

羅袖香を動かして香已まず、
紅蕖こうきょ嫋嫋でうでうたり秋煙の裏うち
輕雲嶺上にありて乍たちまち風に揺られ、
嫩柳どんりう池塘に初めて水を拂ふ。

虞美人 宜州見梅作 宋・黄庭堅
 虞美人 宜州に梅を見て作る
天涯也有江南信、
梅破知春近。
夜闌風細得香遲、
不道曉來開遍、
向南枝。

玉臺弄粉花應妬、
飄到眉心住。
平生箇裏願杯深、
去國十年老盡、
少年心。
天涯也もまた有り江南の信、
梅破ほころびて春の近きを知る。
()けて風(かす)かになれば香りを得ること遲し、
はからざりき曉來開くこと遍し、
南枝に向おいて。

玉臺に粉おしろいを弄ほどこせば花應まさに妬むべし、
ただよひて眉心に到りて住とどまる。
平生箇かくの裏さまならば杯の深きを願ひしも、
國を去ること十年老ほとんど盡きたり、
少年の心。

 如夢令
宋・秦觀
遙夜沈沈如水、
風緊驛亭深閉。
夢破鼠窺燈、
霜送曉寒侵被。
無寐、無寐、
門外馬嘶人起。



遙けき夜沈沈として水の如く、
風緊きつくして驛亭は深く閉ざす。
夢は破れ鼠は燈を窺ひ、
霜は曉寒を送り被しとねを侵す。
ぬる無し、寐ぬる無し、
門外に馬嘶きて人起く。

 鵲橋仙
宋・秦觀
纖雲弄巧、
飛星傳恨、
銀漢迢迢暗度。
金風玉露一相逢、
便勝卻人間無數。

柔情似水、
佳期如夢、
忍顧鵲橋歸路。
兩情若是長久時、
又豈在朝朝暮暮。



纖雲巧を弄し、
飛星恨みを傳へ、
銀漢迢迢として暗ひそかに度わたる。
金風玉露一たび相ひ逢はば、
便すなはち勝卻す人間じんかんの無數なるに。

柔情水に似て、
佳期夢の如し、
忍びて顧かへりみんや鵲の橋の歸路を。
兩情若し是長久ならん時,
又豈あに朝朝暮暮たるに在らんや。

 江南春
北宋・寇準
波渺渺、柳依依。
孤村芳草遠、
斜日杏花飛。
江南春盡離腸斷、
蘋滿汀洲人未歸。



波は渺渺として、柳は依依たり。
孤村芳草遠く、
斜日に杏花飛ぶ。
江南春盡きんとして離腸斷じ、
蘋は汀洲に滿てども人未だ歸へらず。

 江城子
秦觀
南來飛燕北歸鴻。
偶相逢。慘愁容。
綠鬢朱顏、
重見兩衰翁。
別後悠悠君莫問、
無限事、不言中。

小槽春酒滴珠紅。
莫怱怱。滿金鐘。
飮散落花流水、
各西東。
後會不知何處是、
煙浪遠、暮雲重。



南來の飛燕北歸の鴻。
たまたま相ひ逢ふ。慘たる愁容。
綠鬢朱顏は、
重ねて見まみえれば兩衰の翁たり。
別後の悠悠たるは君問ふこと莫なかれ、
無限の事、中を言らじ。

小槽の春酒珠なす紅を滴らす。
怱怱たる莫なかれ。金鐘に滿たす。
飮散ずれば落花流水、
おのおの西東す。
後會知らず何處いづこか是れなるを、
かすめる浪遠く、暮雲重し。

憶江南 和樂天春詞依『憶江南』曲拍爲句 劉禹錫
 憶江南 樂天の春詞に和して、『憶江南』の曲拍に依りて句を爲す
春去也、
多謝洛城人。
弱柳從風疑舉袂、
叢蘭浥露似霑巾。
獨坐亦含顰。
春去らんとす也、
多謝す洛城の人に。
弱柳風に從ひて疑ふらくは袂を舉げたるかと、
叢蘭露に浥れて巾を霑すが似ごとく。
獨り坐して亦た顰を含む。

 調笑令
唐・戴叔倫
邊草、邊草、
邊草盡來兵老。
山南山北雪晴、
千里萬里月明。
明月、明月、
胡笳一聲愁絶。



邊草、邊草、
邊草盡き來りて兵老ゆ。
山南山北雪は晴れ、
千里萬里月は明るし。
明月、明月、
胡笳の一聲愁ひ絶す。

[越調]天淨沙 秋思
元・馬致遠
枯藤老樹昏鴉、
小橋流水人家、
古道西風痩馬。
夕陽西下、
斷腸人在天涯。
枯藤の老樹昏くれの鴉、
小橋の流水人家、
古道の西風痩馬。
夕陽西に下れば、
斷腸の人天涯に在り。

 浣溪沙
宋・蘇軾
西 塞山邊白鷺飛、
散花洲外片帆微。
桃花流水鱖魚肥。

自庇一身靑箬笠、
相隨到處綠蓑衣。
斜風細雨不須歸。



西塞山せいさいざん邊白鷺はくろ飛び、
散花洲さんくゎしう外片帆へんぱんかすかなり。
桃花たうくゎ流水りうすゐ鱖魚けつぎょ肥ゆ。

みづから一身を庇かばふ靑き箬笠じゃくりふ
到る處に相ひ隨したがふ綠あをき蓑衣さい
斜風しゃふう細雨さいう歸るを須もちゐず。

漁歌子 漁父樂
宋・徐積
水曲山隈四五家、
夕陽煙火隔蘆花。
漁唱歇、醉眠斜、
綸竿蓑笠是生涯。



水の曲くま山の隈くま四、五の家、
夕陽の煙火えんくゎ蘆花ろくゎを隔へだつ。
漁唱歇み、醉眠斜めなり、
綸竿りんかん蓑笠さりふれ生涯。

 漁父詞
宋・周紫芝
好個神仙張志和、
平生只是一漁蓑。
和月醉、棹船歌。
樂在江湖可奈何。


好個かうこの神仙張志和ちゃうしわ
平生只だ是れ一漁蓑ぎょさ
月に和して醉ひ、船を棹さをさして歌ふ。
樂は江湖かうこに在るを奈何いかにかす可き。

 漁歌子
元・無名氏
一任孤舟正又斜、
乾坤何路指生涯。
抛歳月、臥煙霞、
在處江山便是家。



(ひと)へに(まか)す孤舟正にして又た斜ならんとするを、
乾坤けんこんいづれの路か生涯を指す。
歳月を抛なげうち、煙霞えんかに臥す、
在處の江山は便すなはち是れ家。

 調笑令
唐・韋應物
胡馬、胡馬、
遠放燕支山下。
跑沙跑雪獨嘶、
東望西望路迷。
迷路、迷路、
邊草無窮日暮。



胡馬よ、胡馬よ、
遠く燕支山の下もとに放つ。
沙に跑はしり雪に跑はしりて獨ひとり嘶いななく、
東を望み西を望みて路に迷ふ。
路に迷ふ、路に迷ふ、
邊草窮きはまり無く日暮れんとす。

 漁歌子
清・趙懿
壯誤功名老學詩、
五湖煙水似鴟夷。
呼鷄犬、載妻兒。
共住瓜皮艇一枝。



壯にして功名を誤ち老いて詩を學ぶ、
五湖の煙水鴟夷しいに似たり。
鷄犬を呼び、妻兒を載す。
共に住まん瓜皮艇の一枝。

漁父 和張志和詞
唐・無名氏
雪色髭鬚一老翁、
時開短棹拔長空。
微有雨、正無風。
宜在五湖煙水中。



雪色の髭鬚ししゅ一老翁らうをう
時に短棹たんたうを開きて長空に拔く。
かすかに雨有るも、正に風無し。
よろしく五湖の煙水の中に在るべし。

 漁父
唐・張志和
釣臺漁父褐爲裘、
兩兩三三舴艋舟。
能縱棹、慣乘流、
長江白浪不曾憂。



釣臺の漁父褐かつを裘きうと爲し、
兩兩三三舴艋さくもうの舟。
く棹さをを縱あやつりて、流れに乘るに慣れ、
長江の白浪曾かつて憂へず。

 漁父
唐・張志和
松江蟹舎主人歡、
菰飯蓴羮亦共餐。
楓葉落、荻花乾。
醉宿漁舟不覺寒。



松江しょうかうの蟹舎かいしゃ主人歡よろこび、
菰飯こはん蓴羮じゅんかうた共に餐さんす。
楓葉ふうえふ落ち、荻花てきくゎかわく。
ひて漁舟ぎょしうに宿せば寒を覺えず。

 搗練子
敦煌曲子詞
姜女、杞梁妻。
一去燕山更不歸。
造得寒衣無人送、
不免自家送征衣。



孟姜女まうきゃうぢょ、杞梁きりゃうの妻。
一たび燕山えんざんに去りて更に歸らず。
造り得たる寒衣かんい送るに人無く、
自家みづから征衣を送るを免れず。

 長相思
李攀龍
風淸。秋月明。
葉葉梧桐檻外聲。
難敎歸夢成。

砌蛩鳴。樹鳥驚。
塞雁行行天際橫。
偏傷旅客情。



秋風清きよく。秋月明るし。
葉葉えふえふ梧桐ごとう檻外かんがいの聲。
歸夢をして成すこと難かたからしむ。

みぎりの蛩は鳴き。樹の鳥は驚く。
塞雁さいがん行行かうかう天際てんさいに橫たはる。
ひとへに旅客の情を傷いたましむ。

 滿江紅 金陵懷古
元・薩都剌
代豪華、
春去也、更無消息。
空悵望、山川形勝、
已非疇昔。
王謝堂前雙燕子、
烏衣巷口曾相識。
聽夜深、
寂寞打孤城、
春潮急。

思往事、愁如織。
懷故國、空陳跡。
但荒煙衰草、
亂鴉斜日。
玉樹歌殘秋露冷、
臙脂井壞寒螿泣。
到如今、
只有蔣山青、
秦淮碧。



六代の豪華、
春去る也、更さらに消息無し。
空しく山川の形勝を悵望ちゃうばうすれば、
すでに疇昔ちうせきに非ず。
王謝わうしゃ堂前の雙さう燕子えんし
烏衣巷ういかう口に曾かつて相ひ識れり。
夜深く、
寂寞せきばくとして孤城を打つ
春潮しゅんてうの急きふなるを聽く。

往事わうじを思へば、愁ひは織るが如し。
故國を懷へば、陳跡ちんせき空し。
だ 荒煙くわうえん衰草すゐさう
亂鴉らんあ斜日しゃじつのみ。
玉樹ぎょくじゅの歌は殘りて秋露冷たく、
臙脂えんじの井せいは壞こはれて寒螿かんしゃう泣く。
如今じょこんに到り、
只だ有るは蔣山しゃうざん青く、
秦淮しんわいみどりなるのみ。

點絳脣 春日風雨有感 明・陳子龍
 點絳脣てんかうしん 春日しゅんじつの風雨に感有り
滿 眼韶華、
東風慣是吹紅去。
幾番煙霧。
只有花難護。

夢裏相思、
故國王孫路。
春無主。杜鵑啼處。
涙染臙脂雨。
滿眼の韶華せうくゎ
東風慣是ためしに紅を吹きて去る。
幾番ばんの煙霧ぞ。
只だ花の護まもり難がたき有り。

夢裏に相ひ思ふ、
故國王孫わうそんの路。
春に主無し。杜鵑啼く處。
涙は染む臙脂えんじの雨に。

[索引]
菩薩蠻憶江南一仝二仝三浣溪沙蝶戀花
長相思[越調]天淨沙・即時仝・秋思漁歌子仝・漁父樂
桂枝香踏莎行阿那曲虞美人如夢令鵲橋仙
江南春江城子調笑令漁父詞漁父・和張志和詞
搗練子滿江紅・金陵懷古點絳唇・春日風雨有感


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