婉約詞 [索引] [書架]

 謁金門
馮延巳
風乍起、
吹皺一池春水。
閑引鴛鴦香徑裡、
手挼紅杏蕊。

鬥鴨欄杆獨倚、
碧玉掻頭斜墜。
終日望君君不至、
舉頭聞鵲喜。



風乍ち起こり、
吹き皺む一池の春水を。
鴛鴦を閑引まねく香徑の裡、
手に挼む紅き杏の蕊。

鴨を鬥はせて欄杆に獨り倚れば、
碧玉の掻頭斜に墜つ。
終日君を望みて君至らざれど、
頭を舉ぐれば鵲喜聞こゆ。

 相思令
林逋
呉山靑、越山靑、
兩岸靑山相對迎。
爭忍有離情。

君涙盈、妾涙盈、
羅帶同心結未成。
江邊潮已平。



呉山靑く、越山靑く、
兩岸靑山相ひ對して迎ふ。
いかでか忍ばん離情有るを。

君涙盈ち、妾わらは涙盈つ、
羅帶の同心結未だ成さざるも。
江邊潮已すでに平かなり。

 點絳唇
晏幾道
花信來時、
恨無人似花依舊。
又成春痩、
折斷門前柳。

天與多情、
不與長相守。
分飛後、涙痕和酒、
沾了雙羅袖。



花信來る時、
恨む花の舊に依るが似ごとき人の無きを。
又春痩を成し、
折斷す門前の柳を。

天多情に與くみし、
とこしへに相ひ守るものに與くみせず。
分れて飛びさりし後、涙痕酒に和し、
雙の羅袖を沾ぬらせ了

 長相思
馮延巳
紅滿枝、綠滿枝、
宿雨厭厭睡起遲。
閒庭花影移。

憶歸期、數歸期、
夢見雖多相見稀。
相逢知幾時。



紅枝に滿ち、綠枝に滿ち、
宿雨厭厭として睡りより起きること遲し。
閒庭に花影移る。

歸る期ときを憶ひ、歸る期ときを數へ、
夢に見ゆるは多しと雖へども相ひ見ゆるは稀なり。
相ひ逢ふは幾れの時か知らん。

 三臺令
馮延巳
南浦!南浦!
翠鬢離人何處?
當時攜手高樓、
依舊樓前水流。
流水!流水!
中有傷心雙涙。



南浦!南浦!
翠鬢の離わかれし人何いづこに處すや?
當時手を攜たづさへき高樓に、
舊に依る樓前の水流。
流水!流水!
中に有るは傷心の雙涙。

 梧桐影
呂岩
落日斜、秋風冷。
今夜故人來不來?
敎人立盡梧桐影。



落日斜めに、秋風冷し。
今夜故人來きたるや來きたらずや?
人をして立ち盡さ敎む梧桐の影。

江城子 乙卯正月二十日夜記夢 蘇軾
 江城子 乙卯正月二十日夜記夢
十年生死兩茫茫、
不思量。自難忘。
千里孤墳、
無處話淒涼。
縱使相逢應不識、
塵滿面、鬢如霜。

夜來幽夢忽還鄕。
小軒窗、正梳妝。
相顧無言、
惟有涙千行。
料得年年腸斷處、
明月夜、短松岡。
十年生死兩つながら茫茫、
思量せざるも、自ら忘れ難し。
千里の孤墳、
無處話淒涼たるを話す處無し。
縱使たとひ相ひ逢ふも應まさに識るべからず、
塵面に滿ち、鬢霜の如し。

夜來の幽夢忽たちまち鄕に還る。
小き軒の窗、正に梳り妝ふ。
相ひ顧て言無く、
惟だ有るは涙千行。
はかり得たり年年腸斷つの處、
明月の夜、短き松の岡。

 釵頭鳳
唐琬
世情薄、人情惡、
雨送黄昏花易落。
曉風乾、涙痕殘。
欲箋心事、
獨語斜闌。
難、難、難。

人成各、今非昨、
病魂常似秋千索。
角聲寒、夜闌珊。
怕人尋問、
咽涙裝歡。
瞞、瞞、瞞!



世情薄く、人情惡し、
雨は黄昏を送り花は落り易し。
曉風乾かすは、涙痕の殘れるを。
心事箋かんと欲し、
斜闌に獨り語る。
難、難、難。

人各おのおのと成り、今は昨に非ず、
病魂常に似るは秋千の索。
角聲寒く、夜闌珊たり。
怕る人の尋ね問ふを、
咽び涙くも歡びを裝よそおふ。
瞞、瞞、瞞!

 蝶戀花 送春
朱淑眞
樓外垂楊千萬縷、
欲系青春、
少住春還去。
猶自風前飄柳絮、
隨春且看歸何處。

綠滿山川聞杜宇、
便做無情、
莫也愁人苦。
把酒送春春不語、
黄昏卻下瀟瀟雨。



樓外の垂楊千萬の縷、
青春を系つながんと欲し、
いささか住とどめたり春の還り去るを。
猶も自ら風前に柳絮を飄はす、
春に隨ひて且しばし看ん何れの處へか歸るを。

綠は山川に滿ちて杜宇聞こえ、
便做たとひ無情なりとも、
愁人を苦しますにあらじ。
酒を把りて春を送れど春は語らず、
黄昏に卻って瀟瀟たる雨下る。

 江城子 賞春
朱淑眞
斜風細雨作春寒。
對尊前、憶前歡、
曾把梨花、
寂寞涙闌干。
芳草斷煙南浦路、
和別涙、看靑山。

昨宵結得夢夤縁。
水雲間、悄無言、
爭奈醒來、
愁恨又依然。
輾轉衾裯空懊惱、
天易見、見伊難。



斜風細雨春寒を作す。
尊前に對しては、前の歡を憶へど、
なんぞあらん梨花を把れば、
寂寞として涙闌干たり。
芳草斷煙南浦の路、
別れの涙和ながらに、靑山を看る。

昨宵結び得たり夤縁を夢むを。
水雲の間、悄として無言、
爭奈いかんせん醒め來たれば、
愁恨又依然たり。
衾裯に輾轉として空しく懊惱す、
ときに見ゆるは易けれど、伊かれに見ゆるは難し。

 生査子
歐陽脩
去年元夜時、
花市燈如畫。
月上柳梢頭、
人約黄昏後。

今年元夜時、
月與燈依舊。
不見去年人、
涙滿春衫袖。



去年元夜の時、
花市燈は畫の如し。
柳の梢頭に月は上のぼり、
人は約す黄昏たそがれの後を。

今年元夜の時、
月と燈とは舊に依る。
去年の人に見へずして、
涙は滿つ春衫の袖に。

 宮中調笑
王建
團扇、團扇、
美人病來遮面。
玉顏憔悴三年、
誰複商量管弦?
弦管、弦管、
春草昭陽路斷。



團扇、團扇、
美人病みてより來このかた面おもてを遮る。
玉顏憔悴して三年、
たれか複た管弦を商量せん?
弦管、弦管、
春草昭陽の路を斷つ。

 宮中調笑
王建
楊柳、楊柳、
日暮白沙渡口。
船頭江水茫茫、
商人少婦斷腸。
腸斷、腸斷、
鷓鴣夜飛失伴。



楊柳、楊柳、
日暮白沙の渡し口。
船頭の江水は茫茫として、
商人の少わかき婦つまは斷腸す。
腸斷たる、腸斷たる、
鷓鴣夜に飛ぶも伴ともを失ふ。

 鷓鴣天
晏幾道
醉拍春衫惜舊香、
天將離恨惱疏狂。
年年陌上生秋草、
日日樓中到夕陽。

雲渺渺、水茫茫。
征人歸路許多長。
相思本是無憑語、
莫向花箋費涙行。



醉ひて春衫を拍ちて舊香を惜しみ、
天離恨を將って疏狂を惱ます。
年年陌上に秋草生じ、
日日樓中に夕陽到る。

雲渺渺として、水茫茫たり。
征人の歸路許多はなはだ長し。
相思は本もともと是れ語ことばに憑つ無くして、
花箋に向ひて涙行を費す莫れ。

 歸自謠
馮延巳
春艷艷、
江上晩山三四點、
柳絲如剪花如染。

香閨寂寂門半掩。
愁眉斂、
涙珠滴破臙脂臉。



春艷艷として、
江上の晩くれの山三、四點、
柳絲は剪るが如く花は染むるが如し。

香閨寂寂として門半ば掩とざす。
愁眉斂せ、
涙珠滴したたりて臙脂の臉かほを破みだす。

 長命女
馮延巳
春日宴、
綠酒一杯歌一遍、
再拜陳三願。
一願郞君千歳、
二願妾身長健、
三願如同梁上燕、
歳歳長相見。



春日宴す、
綠酒一杯に一遍歌ひ、
再拜して三願を陳ぶ。
一に願ふ郞君の千歳を、
二に願ふ妾身の長健を、
三に願ふ梁上の燕と同じき如く、
歳歳長へに相ひ見まみえん。

 淸平樂
晏殊
春去秋來、
往事知何處。
燕子歸飛蘭泣露、
光景千留不住。

酒闌人散草草、
閒階獨倚梧桐。
記得去年今日、
依前黄葉西風。



春去りて秋來り、
往事何處いづこなるかを知らん。
燕子歸び飛りて蘭露に泣き、
光景千たび留めて住とどまらず。

酒闌け人散ずること草草として、
しづけき階に獨ひとり梧桐に倚る。
記し得たり去年の今日、
前に依りて西風に黄葉す。

 南鄕子
馮延巳
細雨濕流光、
芳草年年與恨長。
煙鎖鳳樓無限事、
茫茫。
鸞鏡鴛衾兩斷腸。

魂夢任悠揚、
睡起楊花滿繍床。
薄倖不來門半掩、
斜陽。
負你殘春涙幾行。



細雨流光を濕し、
芳草年年恨と與に長ず。
煙鎖鳳樓無限の事、
茫茫たり。
鸞鏡鴛衾兩つながら腸を斷つ。

魂夢悠揚たるに任せ、
睡りより起きれば楊花繍床に滿つ。
薄倖來たらず門半ば掩ふ、
斜陽なり。
你に負かれし殘春涙幾行ならん。

 望海潮
柳永
東南形勝、
三呉都會、
錢塘自古繁華。
煙柳畫橋、
風簾翠幕、
參差十萬人家。
雲樹繞堤沙。
怒濤卷霜雪、
天塹無涯。
市列珠璣、
戸盈羅綺競豪奢。

重湖疊巘清嘉。
有三秋桂子、
十里荷花。
羌管弄晴、
菱歌泛夜、
嬉嬉釣叟蓮娃。
千騎擁高牙。
乘醉聽簫鼓、
吟賞煙霞。
異日圖將好景、
歸去鳳池誇。



東南の形勝、
三呉の都會、
錢塘古いにしへ自り繁華なり。
煙柳畫橋、
風簾翠幕、
參差しんしたり十萬の人家。
雲樹堤沙を繞めぐる。
怒濤霜雪を卷き、
天塹涯はて無し。
市は珠璣を列し、
戸は羅綺を盈たして豪奢を競ふ。

重なる湖疊なづく巘は清嘉なり。
三秋の桂子、
十里の荷花有り。
羌管晴れに弄び、
菱歌夜に泛かぶ、
嬉嬉たり釣叟蓮娃。
千騎高牙を擁し、
醉ひに乘じて簫鼓を聽き、
煙霞を吟賞す。
異日好景を圖き將て、
鳳池に歸去して誇れかし。

 鵲踏枝
馮延巳
誰道閑情抛擲久、
毎到春來、
愁悵還依舊。
日日花前常病酒、
不辭鏡裡朱顏痩。

河畔青蕪堤上柳、
爲問新愁、
何事年年有?
獨立小樓風滿袖、
平林新月人歸後。



誰か道ふ閑情抛擲して久しと、
春來到る毎ごとに、
愁悵還ほ舊に依る。
日日花前に常に病酒し、
辭せず鏡裡に朱顏の痩するを。

河畔の青蕪堤上の柳、
爲に問はん新愁の、
何事ぞ年年有るは?
獨り小樓に立てば風袖に滿ち、
平林の新月は人歸りし後。

 三臺令
馮延巳
南浦、南浦、
翠鬢離人何處。
當時攜手高樓、
依舊樓前水流。
流水、流水、
中有傷心雙涙。



南浦、南浦、
翠鬢の離人何處いづこぞ。
當時手を攜たづさふ高樓、
舊に依る樓前の水流。
流水、流水、
中に有り傷心の雙涙。

 少年遊
柳永
佳人巧笑値千金。
當日偶情深。
幾回飮散、
燈殘香暖、
好事盡鴛衾。

如今萬水千山阻、
魂杳杳、信沈沈。
孤棹煙波、
小樓風月、
兩處一般心。



佳人の巧たへなる笑みは値あたひ千金。
かの日偶たまたま情深かりき。
幾回か飮み散じて、
燈殘すたれ香暖し、
好しき事鴛衾に盡す。

如今萬水千山阻み、
魂杳杳として、信沈沈たり。
孤棹の煙波、
小樓の風月、
兩處一般の心。

 瀟湘神
劉禹錫
斑竹枝、斑竹枝、
涙痕點點寄相思。
楚客欲聽瑤瑟怨、
瀟湘深夜月明時。



斑竹枝、斑竹枝、
涙痕點點相思を寄す。
楚客聽かんと欲す瑤瑟の怨を、
瀟湘の深夜月明の時。

 浣溪沙
李璟
菡萏香銷翠葉殘、
西風愁起綠波間。
還與容光共憔悴、
不堪看。

細雨夢回鷄塞遠、
小樓吹徹玉笙寒。
多少涙珠何限恨、
倚闌干。



菡萏香りは銷えて翠葉は殘れ、
西風愁ひて起こる綠波の間。
た容光と共に憔悴し、
看るに堪へず。

細雨に夢より回めて鷄塞遠く、
小樓に吹き徹して玉笙寒し。
多少の涙珠何ぞ限りある恨み、
闌干に倚る。

 江城子
和凝
竹裏風生月上門。
理秦箏。對雲屏。
輕撥朱絃、
恐亂馬嘶聲。
含恨含嬌獨自語、
今夜月、太遲生。



竹裏に風生じて月門に上る。
秦箏を理ととのへ。雲屏に對す。
朱絃を輕やかに撥き、
亂馬の嘶く聲を恐る。
恨を含み嬌を含みて獨り自ら語る:
今夜の月、太はなはだ遲生おそしと。

 江城子
和凝
初夜含嬌入洞房。
理殘妝。柳眉長。
翡翠屏中、
親爇玉爐香。
整頓金鈿呼小玉、
排紅燭、待潘郞。



初夜嬌を含みて洞房に入る。
殘妝を理ととのへ。柳眉長し。
翡翠の屏中に、
親しく玉爐の香を爇く。
金鈿を整頓して小玉を呼び、
紅燭を排ならべて、潘郞を待つ。

 蝶戀花
晏幾道
夢入江南煙水路、
行盡江南、
不與離人遇。
睡裏消魂無説處、
覺來惆悵消魂誤。

欲盡此情書尺素、
浮雁沈魚、
終了無憑據。
卻倚緩弦歌別緒、
斷腸移破秦箏柱。



夢は入る江南の煙かすめる水路に、
行き盡くす江南を、
離人と遇はず。
睡裏消魂説く處無く、
覺め來って惆悵して消魂誤らす。

此の情を盡くさんと欲して尺素を書き、
浮べる雁沈める魚、
終了つひに憑る據無し。
卻って倚る別緒を弦歌にて緩めんと、
斷腸移りて秦箏の柱ことぢを破らん。

 少年遊
柳永
長安古道馬遲遲、
高柳亂蝉棲。
夕陽島外、
秋風原上、
目斷四天垂。

歸雲一去無蹤迹、
何處是前期?
狎興生疏、
酒徒蕭索、
不似去年時。



長安の古道馬遲遲として、
高柳に亂蝉棲む。
夕陽島外、
秋風原上、
目斷す四天の垂るを。

歸雲一たび去りて蹤迹無く、
何處いづこか是れ前期なる?
狎興生疏、
酒徒蕭索として、
にし年の時に似ず。

 眼兒媚
阮閲
樓上黄昏杏花寒、
斜月小闌干。
一雙燕子、
兩行征雁、
畫角聲殘。

綺窗人在東風裏、
灑涙對春閑。
也應似舊、
盈盈秋水、
淡淡春山。



樓上の黄昏杏花寒く、
斜月小さき闌干。
一雙の燕子、
兩行の征雁、
畫角の聲殘すたる。

綺窗の人東風の裏うちに在りて、
涙を灑ぎ春閑に對すならん。
た應まさに舊もとの似ごとくあるべく、
盈盈たる秋水に、
淡淡たる春山。

 謁金門
韋莊
春雨足、
染就一溪新綠。
柳外飛來雙羽玉、
弄晴相對浴。

樓外翠簾高軸、
倚遍欄干幾曲、
雲淡水平煙樹簇、
寸心千里目。



春雨足りて、
染め就く一溪の新綠。
柳外飛來す雙ふたつの羽玉、
晴れに弄び相ひ對して浴す。

樓外の翠簾高く軸き、
倚ること遍し欄干の幾曲、
雲淡く水平らかに煙樹簇むらがる、
寸心千里の目。

 雨霖鈴
柳永
寒蝉淒切、
對長亭晩、
驟雨初歇。
都門帳飮無緒、
留戀處、蘭舟催發。
執手相看涙眼、
竟無語凝噎。
念去去千里煙波、
暮靄沈沈楚天闊。

多情自古傷離別、
更那堪、
冷落清秋節。
今宵酒醒何處?
楊柳岸、曉風殘月。
此去經年、
應是良辰好景虚設。
便縱有千種風情、
更與何人説。



寒蝉淒切として、
長亭の晩に對す、
驟雨初めて歇む。
都門に帳飮すれど緒おもむき無し、
留戀せる處、蘭舟發つを催す。
手を執りて相ひ看て涙眼し、
つひに語る無く凝とどこほり噎むせぶ。
千里の煙波去り去るを念おもへば、
暮靄沈沈として楚天闊ひろし。

多情古いにしへ自り離別を傷むに、
更に那なんぞ堪へん、
清秋の節に冷落せるを。
今宵酒醒むは何いづれの處ぞ?
楊柳の岸、曉風殘月。
ここより去りて年を經
まさに是れ良辰好景虚しく設くべし。
便縱たとへ千種の風情有るとも、
更に何人なんぴとか説はなさん。

 夜半樂
柳永
凍雲黯淡天氣、
扁舟一葉、
乘興離江渚。
渡萬壑千巖、
越溪深處。
怒濤漸息、
樵風乍起、
更聞商旅相呼、
片帆高舉。
泛畫鷁、
翩翩過南浦。

望中酒旆閃閃、
一簇煙村、
數行霜樹。
殘日下、
漁人鳴榔歸去。
敗荷零落、
衰楊掩映、
岸邊兩兩三三、
浣沙遊女。
避行客、
含羞笑相語。

到此因念、
繍閣輕抛、
浪萍難駐。
歎後約丁寧竟何據。
慘離懷、
空恨歳晩歸期阻。
凝涙眼、
杳杳神京路。
斷鴻聲遠長天暮。



凍雲黯淡たる天氣、
扁舟一葉、
興に乘りて江渚を離る。
渡る萬壑千巖、
越溪の深處を。
怒濤漸く息み、
樵風乍たちまち起こり、
更に聞く商旅の相ひ呼ぶを。
片帆高く舉ぐ。
畫鷁を泛べ、
翩翩として南浦を過ぐ。

酒旆の閃閃たるを望みて中り、
一簇の煙村、
數行の霜樹。
殘日の下、
漁人榔を鳴らして歸り去る。
敗荷零落し、
衰楊掩映す、
岸邊の兩兩三三、
沙を浣すすげる遊女。
行客に避へ、
羞ひを含み笑ひて相ひ語る。

此こに到りて因って念おもふ、
繍閣輕く抛ち、
浪萍駐め難し。
歎く後約の丁寧は竟に何の據よりどころかを。
慘たる離懷、
歳晩に歸期阻まるを空しく恨む。
涙眼を凝らす、
杳杳たる神京の路。
斷鴻聲遠くして長天暮る。

 卜算子
李之儀
我住長江頭、
君住長江尾。
日日思君不見君、
共飲長江水。

此水幾時休?
此恨何時已?
只願君心似我心、
定不負、相思意。



我は長江の頭かみに住み、
君は長江の尾しもに住む。
日日君を思へど君に見まみえず、
共に長江の水を飮む。

此の水幾いづれの時にか休み?
此の恨何いづれの時にか已まん?
只だ願はくは君が心我が心に似て、
定めて相思の意に負そむかざらんことを。

 玉臺體
權德輿
昨夜裙帶解、
今朝蟢子飛。
鉛華不可棄、
莫是藁砧歸。



昨夜裙帶解け、
今朝蟢子飛ぶ。
鉛華棄つるべからず、
是れ藁砧の歸るに莫あらざらん。

 蘇幕遮
范仲淹
碧雲天、黄葉地、
秋色連波、
波上寒煙翠。
山映斜陽天接水、
芳草無情、
更在斜陽外。

黯鄕魂、追旅思、
夜夜除非、
好夢留人睡。
明月樓高休獨倚、
酒入愁腸、
化作相思涙。



碧雲の天、黄葉の地、
秋色の連波、
波上の寒煙は翠みどりなり。
山は斜陽に映じて天は水に接す、
芳草は情無く、
更に斜陽の外に在り。

あんたる鄕魂、旅思を追ふ、
夜夜除くに、
好夢人を留めて睡るに非ざれば。
明月樓高獨り倚るを休めよ、
酒愁腸に入りて、
化して相思の涙と作る。

 蝶戀花
柳永
佇倚危樓風細細、
望極春愁、
黯黯生天際。
草色煙光殘照裏、
無言誰會憑欄意。

擬把疏狂圖一醉、
對酒當歌、
強樂還無味。
衣帶漸寬終不悔、
爲伊消得人憔悴。



危樓に佇み倚れば風細細さいさい
望極すれば春愁、
黯黯あんあんとして天際に生ず。
草色煙光殘照の裏、
言無く誰たれか欄に憑るの意を會せん。

疏狂せんと擬把ほっして一醉を圖はかる、
酒に對して當まさに歌ふべし、
ひて樂しむは還ほ味無し。
衣帶漸やうやく寬くつろぐも終つひに悔いず、
の爲人の憔悴するに消得あたひせん。

 八聲甘州
柳永
對瀟瀟暮雨灑江天、
一番洗淸秋。
漸霜風淒慘、
關河冷落、
殘照當樓。
是處紅衰翠減、
苒苒物華休。
惟有長江水、
無語東流。

不忍登高臨遠、
望故鄕渺邈、
歸思難收。
歎年來蹤迹、
何事苦淹留。
想佳人、妝樓顒望、
誤幾回、
天際識歸舟。
爭知我、倚闌干處、
正恁凝愁。



瀟瀟せうせうたる暮雨江天に灑そそぎて、
一番淸秋を洗ふに對す。
やうやく霜風淒慘として、
關河くゎんが冷落し、
殘照ざんせう樓に當たる。
是處紅くれなゐおとろへ翠みどり減り、
苒苒ぜんぜんとして物華休す。
だ長江の水の、
語ること無く東に流るる有るのみ。

高きに登り遠くを臨むに忍びず、
故鄕の渺邈べうばくたるを望みて、
歸思收をさめ難がたし。
なげく年來の蹤迹しょうせき
何事ぞ苦はなはだしく淹留えんりうする。
想ふに佳人、妝樓さうろうに顒望ぎょうばうし、
誤りて幾回、
天際に歸舟を識りしならん。
いかでか知らん我の、闌干に倚る處、
正に恁くも愁ひを凝らさんとは。

 御街行
范仲淹
紛墜葉飄香砌。
夜寂靜、寒聲碎。
真珠簾卷玉樓空、
天淡銀河垂地。
年年今夜、
月華如練、
長是人千里。

愁腸已斷無由醉。
酒未到、先成涙。
殘燈明滅枕頭敧、
諳盡孤眠滋味。
都來此事、
眉間心上、
無計相迴避。



紛紛たる墜葉つゐえふ香砌かうせいに飄ひるがへり。
夜寂靜じゃくせいにして、寒聲碎くだく。
真珠の簾れん卷きて玉樓空しく、
天淡くして銀河地に垂る。
年年ねんねんの今夜、
月華は練れんの如く、
とこしへに是れ人千里にあり。

愁腸しうちゃうすでに斷たれて醉ふに由よし無し。
酒未だ到らざるに、先ず涙を成す。
殘燈明滅して枕頭ちんとうそばだつ、
あんじ盡くす孤眠の滋味を。
都來此かくの事、
眉間みけん心上より、
ひ迴避せんとすれども計すべ無し。

 生査子
歐陽脩・張先
含羞整翠鬟、
得意頻相顧。
雁柱十三弦、
一一春鶯語。

嬌雲容易飛、
夢斷知何處。
深院鎖黄昏、
陣陣芭蕉雨。



ぢらひを含みて翠鬟すゐくゎんを整ととのへ、
意を得て頻しきりに相ひ顧かへりみる。
雁柱ことぢ十三弦げん
一一春鶯しゅんあう語る。

嬌雲けううん容易に飛り、
夢斷たれたるは知るや何處いづこなるかを。
深院しんゐん黄昏くゎうこんを鎖とざし、
陣陣ぢんぢんたる芭蕉ばせうの雨。

 玉樹後庭花
陳叔寶
麗宇芳林對高閣、
新粧艶質本傾城。
映戸凝嬌乍不進、
出帷含態笑相迎。
妖姫臉似花含露、
玉樹流光照後庭。



麗宇芳林高閣に對し、
新粧艶質本より傾城。
戸に映ゆに嬌を凝らして乍たちまち進まず、
帷を出で態を含みて笑ひて相ひ迎ふ。
妖姫臉かほは花の露を含むに似て、
玉樹光を流して後庭を照らす。

[索引]
謁金門相思令點絳唇長相思三臺令梧桐影江城子
仝 賞春釵頭鳳蝶戀花生査子宮中調笑
鷓鴣天歸自謠長命女淸平樂南鄕子望海潮鵲踏枝
三臺令少年遊瀟湘神浣溪沙眼兒媚謁金門雨霖鈴
夜半樂卜算子玉臺體蘇幕遮八聲甘洲御街行生査子
玉樹後庭花

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