金陵舊夢 [索引] [書架]

 獄中題壁
譚嗣同
望門投止思張儉、
忍死須臾待杜根。
我自橫刀向天笑、
去留肝膽兩崑崙。

 獄中の壁に題す

門を望みて投止せし張儉を思ひ、
死を忍ぶこと須臾しゅゆは杜根を待つ。
我自ら刀を橫たづさへ天に向かひて笑ふ、
去留の肝膽は兩つの崑崙。

 獄中口占
汪精衛
慷慨歌燕市、
從容作楚囚。
引刀成一快、
不負少年頭。



慷慨かうがいして燕市に歌ひ、
從容しょうようとして楚囚と作る。
刀を引き一たび快を成せば、
そむかず少年の頭に。

 自嘲
民国・魯迅
運交華蓋欲何求、
未敢翻身已碰頭。
破帽遮顏過鬧市、
漏船載酒泛中流。
橫眉冷對千夫指、
俯首甘爲孺子牛。
躱進小樓成一統、
管他冬夏與春秋。



運華蓋に交りて何をか求めんと欲す、
未だ敢て身を翻さざるに已すでに頭を碰つ。
破帽もて顏を遮して鬧市を過ぎ、
漏船に酒を載せて中流に泛べん。
眉を橫てへて冷ややかに對す千夫の指に、
首を俯して甘んじて爲る孺子の牛と。
小樓に躱け進みて一統を成し、
の冬夏と春秋を管せん。

 吟劍詩
清・洪秀全
手持三尺定山河、
四海爲家共飮和。
擒盡妖邪投地網、
收殘奸宄落天羅。
東南西北效皇極、
日月星辰奏凱歌。
虎嘯龍吟光世界、
太平一統樂如何。



手に三尺を持ち山河を定め、
四海家と爲し共に和を飮ふくむ。
妖邪を擒とらへ盡くして地網を投げ、
奸宄を收め殘ほろぼして天羅に落つ。
東南西北皇極に效ひ、
日月星辰凱歌を奏かなづ。
虎嘯き龍吟じて世界を光かがやかし、
太平一統樂しきこと如何ぞ。

 讀陸放翁集
梁啓超
詩界千年靡靡風、
兵魂銷盡國魂空。
集中十九從軍樂、
亙古男兒一放翁。

 陸放翁集を讀む

詩界千年靡靡ひひたる風、
兵魂銷け盡くして國魂空むなし。
集中十に九は從軍の樂らく
亙古こうこの男兒は一いつに放翁。

 輓徐錫麟
清末・民国・黄興
登百尺樓、
看大好河山、
天若有情、
應識四方思猛士

留一抔土、
以爭光日月、
人誰不死、
獨將千古讓先生。

 徐錫麟を輓いた

百尺ひゃくせきの樓に登り、
大好の河山を看る。
天若し情有らば、
まさに識しらしむべし四方に猛士を思ふを;

一抔いつぽうの土を留め、
以て日月と光かがやきを爭ふ。
人誰たれか死なざる、
ひとり千古に先生を讓らん。

 無題
清末・民國・孫文
半壁東南三楚雄、
劉郞死去霸圖空。
尚餘遺孽艱難甚、
誰與斯人慷慨同。
塞上秋風悲戰馬、
神州落日泣哀鴻。
幾時痛飮黄龍酒、
橫攬江流一奠公。



半壁の東南三楚の雄、
劉郞死去して霸圖空し。
尚餘の遺孽艱難甚しく、
誰か斯人と慷慨を同うせん。
塞上の秋風に戰馬悲しみ、
神州の落日に哀鴻泣く。
幾時か黄龍酒を痛飮し、
江流を橫攬して一もっぱら公を奠まつらん。

 絶命詞
清末・譚嗣同
有心殺賊、
無力回天。
死得其所、
快哉快哉。



賊を殺すに心有るも、
天を回めぐらすに力無し。
死するに其の所を得たり、
快なる哉快なる哉。

 獄中贈鄒
清末・章炳麟
鄒容吾小弟、
被髮下瀛洲。
快剪刀除辮、
乾牛肉作糇。
英雄一入獄、
天地亦悲秋。
臨命須掺手、
乾坤只兩頭。

 獄中にて鄒に贈る

鄒容は吾が小弟、
被髮して瀛洲えいしうに下る。
するどき剪刀にて辮べんを除き、
牛肉を乾し糇ほしいひを作る。
英雄一たび入獄するや、
天地亦た悲秋。
命に臨みて手を掺るを須もとむ、
乾坤只だ兩頭あるのみ。

滿江紅 懷、用岳鄂王韻作於秋瑾就義後
清末・徐自華
歳月如流、
秋又去、
壯心未歇。
難收拾、
這般危局、
風潮猛烈。
把酒痛談身後事、
舉杯試問當頭月。
奈呉儂、
身世太悲涼、
傷心切。

亡國恨、終當雪。
奴隷性、行看滅。
嘆江山、
已是金甌碎缺。
蒿目蒼生揮熱涙、
感懷時事噴心血。
願吾儕、
煉石效媧皇、
補天闕。
歳月は流るる如く、
秋又た去り、
壯心未だ歇まず。
收拾し難し、
の般の危局を、
風潮猛烈なり。
酒を把りて身後の事を痛談し、
杯を舉げて試みに問ふ當頭の月に。
呉の儂ひとを奈いかんせん、
身世太はなはだ悲涼にして、
傷心切なり。

亡國の恨み、終つひに當まさに雪すすぐべし。
奴隷の性、行ゆくゆく滅ずるを看る。
江山を嘆く、
すでに是れ金甌は碎かれ缺く。
蒼生を蒿目して熱涙を揮ひ、
時事に感懷して心血噴る。
願はくば吾が儕ともがらよ、
石を煉りて媧皇に效ならひ、
天の闕けたるを補へ。

 入川題壁
石達開
大盗亦有道、
詩書所不屑。
黄金若糞土、
肝膽硬如鐵。
策馬渡懸崖、
彎弓射胡月。
人頭作酒杯、
飮盡仇讎血。



大盗も亦た道有るも、
詩書屑いさぎよしとする所にあらず。
黄金は糞土の若ごとく、
肝膽は硬きこと鐵の如し。
馬を策むちうちて懸崖を渡り、
弓を彎きて胡月を射る。
人頭にて酒杯を作り、
仇讎きうしうの血を飮み盡つくさん。

 贈梁任父同年
黄遵憲
寸寸山河寸寸金、
瓜離分裂力誰任。
杜鵑再拜憂天涙、
精衞無窮填海心。

 梁任父同年に贈る

寸寸の山河寸寸の金、
瓜離くゎり分裂力つとむるに誰たれにか任せん。
杜鵑とけんに再拜して天を憂ふるの涙、
精衞せいゑいは窮り無し海を填うづむるの心に。

 口占
呉偉業
欲買溪山不用錢、
倦來高枕白雲邊。
吾生此外無他願、
飮谷棲邱二十年。



溪山を買はんと欲して錢を用ゐず、
み來りて枕を高くす白雲の邊。
吾が生此の外ほかに他の願ひ無く、
谷に飮み邱をかに棲む二十年。

 禮讓
張英
千里修書只爲牆、
讓他三尺有何妨。
長城萬里今猶在、
不見當年秦始皇。



千里書を修するは只だ牆の爲、
かれに三尺を讓るも何ぞ妨さまたげ有らんや。
長城萬里今猶ほ在るも、
見えず當年の秦始皇。

丙申春就醫秦淮寓 丁家水閣浹兩月 臨行作絶句 錢兼益
 丙申春に醫に秦淮に就き、丁家の水閣に寓し、兩月に浹あまねし。
 行くに臨みて絶句三十首を作る。
舞榭歌臺羅綺叢、
都無人跡有春風。
踏靑無限傷心事、
併入南朝落炤中。
舞榭歌臺羅綺の叢、
都て人跡無くして春風有り。
踏青たふせい限り無し傷心の事、
あはせて入る南朝落炤らくせうの中うち

 望大陸
于右任
葬我於高山之上兮、
望我大陸;
大陸不可見兮、
只有痛哭!
葬我於高山之上兮、
望我故鄕;
故鄕不可見兮、
永不能忘!
天蒼蒼、野茫茫、
山之上、國有殤!

 大陸を望む

我を高山の上に葬れかし、
我が大陸を望まん;
大陸見ゆ可からざれば、
只だ痛哭せん!
我を高山の上に葬れかし、
我が故郷を望まん;
故鄕見ゆ可からざれば、
とはに忘る能あたはず!
天蒼蒼として、野茫茫たり、
山の上、國に殤有り!

 再題馬嵬驛
清・袁枚
到底君王負舊盟、
江山情重美人輕。
玉環領略夫妻味、
從此人閒不再生。



到底君王舊盟に負そむき、
江山の情は重んずるも美人は輕んず。
玉環夫妻の味を領略せば、
れ從り人閒じんかんに再びは生れず。

夜雨題寒山寺 寄西樵禮吉 王士禛
 夜雨寒山寺に題し 西樵、禮吉に寄す
日暮東塘正落潮、
孤篷泊處雨瀟瀟、
疏鐘夜火寒山寺、
記過呉楓第幾橋。
日暮れて東塘正に落潮、
孤篷泊する處雨瀟瀟たり、
疏鐘夜火寒山寺、
呉楓より第幾いく橋を過ぎしかを記す。

夜雨題寒山寺 寄西樵禮吉 王士禛
 夜雨寒山寺に題し 西樵、禮吉に寄す
楓葉蕭條水驛空、
離居千里悵難同。
十年舊約江南夢、
獨聽寒山半夜鐘。
楓葉ふうえふ蕭條せうでうとして水驛すゐえき空し、
離居千里同じくし難かたきを恨なげく。
十年の舊約きうやく江南かうなんの夢、
ひとり聽く寒山半夜の鐘。

 悼亡詩
王士禛
藥爐經卷送生涯、
禪榻春風兩鬢華。
一語寄君君聽取、
不敎兒女衣蘆花。



藥爐經卷に生涯を送り、
禪榻の春風に兩鬢華しろし。
一語君に寄す君聽き取るや?
「兒女をして蘆花を衣せしめず」。

 再過露筋祠
王士禛
翠羽明璫尚儼然、
湖雲祠樹碧于烟。
行人繋纜月初墮、
門外野風開白蓮。

 再び露筋祠に過る

翠羽すゐう明璫めいたう尚ほ儼然げんぜんたり、
湖雲こうん祠樹しじゅ烟よりも碧みどりなり。
行人かうじんともづなを繋つなげば月初めて墮ち、
門外の野風に白蓮びゃくれん開く

 臨終詩
汪精衞
梅花有素心、
雪月同一色。
照徹長夜中、
遂令天下白。



梅花素心有りて、
雪月と一色を同じうす。
照らし徹とほす長夜の中を、
つひに天下をして白しめん。

 安寧道中即事
王文治
夜來春雨潤垂柳、
春水新生不滿塘。
日暮平原風過處、
菜花香雜豆花香。



夜來の春雨垂柳すゐりうを潤うるほし、
春水新たに生ずるも塘を滿たさず。
日暮の平原風過ぐる處、
菜花の香は豆花の香に雜まじはる。

 訪秋絶句
呉錫麒
豆架瓜棚暑不長、
野人籬落占秋光。
牽牛花是隣家種、
痩竹一莖扶上墻。

 秋を訪ふ絶句

豆架瓜棚暑さ長からず、
野人の籬落秋光を占む。
牽牛花は是れ隣家の種しゅ
痩竹一莖扶けて墻しゃうに上らす。

倣宋玉兎 朝元硯三字令
 倣宋玉兎 元に朝するの硯三字令
月之精、顧兔生。
三五盈、揚光明。
友墨卿、宣管城。
浴華英、規而成。
 乾隆 御銘
月の精、兔生顧かへりみる。
三五盈ちて、光明を揚ぐ。
墨卿を友として、管城に宣ぶ。
華英に浴して、規して成る。
 乾隆 御銘

出師討滿夷 自瓜州至金陵 鄭成功
 師を出だして滿夷を討ち瓜州より金陵に至る
縞素臨江誓滅胡、
雄師十萬氣呑呉。
試看天塹投鞭渡、
不信中原不姓朱。
縞素かうそ江に臨みて誓って胡を滅さん、
雄師ゆうし十萬氣呉を呑む。
こころみに看よ天塹てんざん鞭を投じて渡らば、
信ぜず中原朱を姓なのらざらんとは。

 精衞
顧炎武
萬事有不平、
爾何空自苦。
長將一寸身、
銜木到終古。
我願平東海、
身沈心不改。
大海無平期、
我心無絶時。
嗚呼君不見
西山銜木衆鳥多、
鵲來燕去自成窠。

 精衞せいゑい

萬事平らかならざること有り、
なんぢなんすれぞ空むなしく自みづから苦む。
ちゃうじて一寸いっすんの身を將って、
木を銜くはへて終古しゅうこに到る。
我が願ひは東海を平たひらけくすること、
は沈むとも心は改まらず。
大海は平らかなる期とき無からんも、
我が心も絶ゆる時無し。
嗚呼あゝ君見ずや
西山に木を銜くはへたる衆鳥多く、
かささぎ來り燕去りて自おのづら窠を成す。

 大江歌罷
周恩來
大江歌罷掉頭東、
邃密羣科濟世窮。
面壁十年圖破壁、
難酬蹈海亦英雄。



大江の歌罷みて頭を掉ふりかへりて東し、
邃密すゐみつなる羣科世の窮きはれるを濟すくはん。
面壁十年壁を破るを圖はかり、
むくはれ難き海に蹈みだすも亦た英雄。

遇南廂園叟感 賦八十韻 呉偉業
 南廂なんしゃうの園叟ゑんそうに遇ひ感じて八十韻を賦す
薄暮難再留、
暝色猶靑蒼。
策馬自此去、
悽惻摧中腸。
顧羨此老翁、
負耒歌滄浪。
牢落悲風塵、
天地徒茫茫。
薄暮はくぼ再び留とどまり難く、
暝色めいしょくほ靑蒼せいさうたり。
馬に策むちうちて此ここり去れば、
悽惻せいそくとして中腸ちゅうちゃうを摧くだく。
かへって羨うらやむ此の老翁らうをう
すきを負ひて滄浪さうらうを歌ふを。
牢落らうらくとして風塵ふうぢんを悲しめば、
天地徒いたづらに茫茫ばうばうたり。

 馬嵬
袁枚
莫唱當年長恨歌、
人閒亦自有銀河。
石壕村裏夫妻別、
涙比長生殿上多。



うたふ莫なかれ當年たうねんの『長恨歌ちゃうごんか』を、
人間じんかんた自おのづから銀河有り。
石壕村せきがうそん夫妻の別わかれ、
涙は長生殿ちゃうせいでんじゃうよりも多からん。

四月下旬過崇效寺 訪牡丹花已殘損 張之洞
 四月下旬崇效寺に過ぎり 牡丹花を訪れるも已に殘損せり
一夜狂風國豔殘、
東皇應是護持難。
不堪重讀元輿賦、
如咽如悲獨自看。
一夜いちや狂風に國豔こくえんすたれ、
東皇應まさに是れ護持すること難かたかるべし。
かさねて讀むに堪へず元輿げんよの賦
むせぶが如く悲しむが如く獨ひとり自みづから看る。

 度遼將軍歌
黄遵憲
聞鷄夜半投袂起、
檄告東人我來矣。
此行領取萬戸侯、
豈謂區區不余畀。
將軍慷慨來度遼、
揮鞭躍馬誇人豪。
平時蒐集得漢印、
今作將印懸在腰。
將軍嚮者曾乘傳、
高下句驪蹤迹遍。
銅柱銘功白馬盟、
鄰國傳聞猶膽顫。
自從弭節駐鷄林、
所部精兵皆百煉。
人言骨相應封侯、
恨不遇時逢一戰。
雄關巍峨高插天、
雪花如掌春風顛。
歳朝大會召諸將、
銅鑪銀燭圍紅氈。
酒酣舉白再行酒、
拔刀親割生彘肩。
自言平生習鎗法、
煉目煉臂十五年。
目光紫電閃不動、
袒臂示客如鐵堅。
淮河將帥巾幗耳、
蕭娘呂姥殊可憐。
看余上馬快殺賊、
左盤右辟誰當前。
鴨綠之江碧蹄館、
坐令萬里銷烽烟。
坐中黄曾大手筆、
爲我勒碑銘燕然。
么麼鼠子乃敢爾、
是何鷄狗何蟲豸。
會逢天幸遽貪功、
它它籍籍來赴死。
能降免死跪此牌、
敢抗顏行聊一試。
待彼三戰三北餘、
試我七縱七擒計。
兩軍相接戰甫交、
紛紛鳥散空營逃。
棄冠脱劍無人惜、
只幸腰間印未失。
將軍終是察吏才、
湘中一官復歸來。
八千子弟半摧折、
白衣迎拜悲風哀。
幕僚歩卒皆雲散、
將軍歸來猶善飯。
平章古玉圖鼎鐘、
搜篋價猶値千萬。
聞道銅山東向傾、
願以區區當芹獻、
藉充歳幣少補償、
毀家報國臣所願。
燕雲北望憂憤多、
時出漢印三摩挱。
忽憶遼東浪死歌、
印兮印兮奈爾何

 度遼將軍の歌

鷄を聞き夜半に袂たもとを投じて起き、
げきに告ぐ:東人我來れ矣と。
の行萬戸侯を領取せん、
あに區區たるを余に畀あたへずと謂はんや。
將軍慷慨して來りて遼れうを度わたり、
鞭を揮ふるひ馬を躍をどらせて人豪じんがうを誇る。
平時蒐集しうしふして漢印を得
今將印と作して懸けて腰に在り。
將軍嚮者まへに曾かつて傳でんに乘り、
高下句驪蹤迹しょうせきあまねし。
銅柱に功を銘めいす白馬の盟、
鄰國傳へ聞きて猶ほ膽きもふるはす。
弭節びせつ自從このかた鷄林けいりんに駐し、
ひきゐる所の精兵は皆みな百煉。
人は言ふ骨相應まさに封侯ほうこうたるべしと、
時に遇はざるを恨みて一戰に逢ふ。
雄關巍峨ぎがとして高く天に插し、
雪花は掌たなごころの如く春風顛ふさがる。
歳朝さいてう大いに會して諸將を召し、
銅鑪どうろ銀燭紅氈こうせんを圍む。
酒酣たけなはにして白さかづきを舉げ再び行酒し、
刀を拔きて親しく生なまの彘肩ていけんを割く。
みづから言ふ平生鎗法さうはふを習ひ、
目を煉り臂を煉ること十五年。
目光は紫電のごとく閃ひらめきて不動、
袒臂たんぴ客に示せば鐵の如く堅かたし。
淮河わいがの將帥は巾幗きんくゎくのみ
蕭娘呂姥せうぢゃうりょぼことに可憐。
よ余われ馬に上るや快すみやかに賊を殺し、
左盤右辟さはんうひして誰たれか前に當らん。
鴨綠あふりょくの江かう碧蹄館へきていくゎん
坐して萬里ばんりに令して烽烟を銷す。
坐中の黄・曾くゎうそうは大手筆だいしゅひつ
我が爲碑に勒ろくして燕然えんぜんに銘めいせしめん。
么麼えうまの鼠子そしなんぢ敢へて爾しかる、
れ何たる鷄狗けいこう何たる蟲豸ちゅうち
天幸に會ひ逢ひて貪功を遽いそぎ、
它它籍籍たたせきせき來りて死に赴おもむかん。
()()りたるは死を免じたれば此の牌に(ひざまづ)け、
へて抗あらがふは顏行に聊いささか一試せん。
の三戰三北さんせんさんぼくの餘を待ちて、
我が七縱七擒しちしょうしちきんの計を試こころみん。
兩軍相ひ接して戰たたかひはじめて交はり、
紛紛として鳥散して營を空むなしくして逃ぐ。
冠を棄て劍を脱するも人の惜しむ無く、
だ幸ひにも腰間の印未だ失はれず。
將軍終つひには是れ察吏さつりの才、
湘中しゃうちゅうの一官に復た歸り來る。
八千の子弟半ば摧折さいせつし、
白衣迎拜すれば悲風哀かなし。
幕僚ばくれう歩卒皆雲散し、
將軍歸り來りて猶ほ善飯のごとし。
古玉を平章して鼎鐘ていしょうを圖はかり、
けふを搜さば價あたひ猶ほ千萬に値あたる。
聞道きくならく:銅山は東に向かって傾くと、
願はくは區區たるを以て芹獻きんけんに當て、
りて歳幣に充てて補償に少ふちせよ、
家を毀こぼち國に報むくゆるは臣の願ふ所。
燕雲えんうん北のかたを望めば憂憤多く、
時に漢印を出だして三たび摩挱まさす。
たちまち憶おもふ『遼東浪死の歌れうとうらうしうた』、
印や印や爾なんぢを奈何いかんせん!

 秦淮雜詩
王士禛
年來腸斷秣陵舟、
夢繞秦淮水上樓。
十日雨絲風片裏、
濃春煙景似殘秋。



年來腸は斷つ秣陵まつりょうの舟、
夢は繞めぐる秦淮しんわい水上の樓。
十日じふじつ雨絲うし風片ふうへんの裏うち
濃春のうしゅんの煙景は殘秋ざんしうに似たり。

 虞兮
呉偉業
千夫辟易楚重瞳、
仁謹居然百戰中。
博得美人心肯死、
項王此處是英雄。

 虞や

千夫も辟易へきえきす楚の重瞳ちょうどう
仁謹じんきん居然たり百戰の中。
はくし得たり美人心に死を肯がへんずるを、
項王此の處こところれ英雄。

玉樓春擬古决絶詞
清・納蘭性德
人生若只如初見、
何事秋風悲畫扇。
等閒變卻故人心、
卻道故人心易變。

驪山語罷淸宵半、
夜雨霖鈴終不怨。
何如薄倖錦衣兒、
比翼連枝當日願。

 玉樓春擬古の决絶詞

人生若し只だ初見の如ごとくあらば、
何事ぞ秋風畫扇ぐゎせんを悲しまん。
等閒とうかんは故人の心を變卻へんきゃくす、
かへって道ふ故人は心變はり易やすしと。

驪山りざん語り罷はる淸宵の半なかば
夜雨やうの霖鈴りんれいつひに怨まず。
何如いかんぞ薄倖の錦衣きんいの兒
比翼連枝ひよくれんりは當日たうじつの願ねがひ。

 浣溪沙
清・納蘭性德
誰念西風獨自涼、
蕭蕭黄葉閉疏窗。
沈思往事立殘陽。

被酒莫驚春睡重、
賭書消得潑茶香。
當時只道是尋常。



誰か念おもはん西風に獨り自ら涼りゃうするを、
蕭蕭せうせうたる黄葉くゎうえふに疏窗そさうを閉ざす。
往事を沈思ちんしして殘陽ざんやうに立たたずむ。

酒を(かうむ)らば驚かすこと莫し春睡(しゅんすゐ)(ふか)きを、
書を賭し消つひやし得て茶を溌そそがば香る。
當時只だ道おもへらく是れ尋常なりと。

 絶命詩
清・和珅
五十年前夢幻身、
今朝撒手撇紅塵。
他時睢口安瀾日、
記取香魂是後身。



五十年前ごじふねんぜん夢幻むげんの身、
今朝こんてう手を撒はなちて紅塵こうぢんを撇はらふ。
他時口を睢ほしいままにして瀾おほなみを安んずるの日、
し取れ香魂かうこんは是れ後身。

 海上
清・顧炎武
海上雪深時、
長空無一雁。
平生李少卿、
持酒來相勸。



海上雪深き時、
長空一雁無し。
平生李少卿、
酒を持ち來りて相ひ勸む。

 夜泊
清・譚嗣同
繋纜北風勁、
五更荒岸舟。
戍樓孤角語、
殘臘異鄕愁。
月暈山如睡、
霜寒江不流。
窅然萬物靜、
而我獨何求。



ともづなを繋つなぎて北風勁つよく、
五更荒岸くゎうがんの舟。
戍樓じゅろうに孤角語げ、
殘臘に異鄕に愁うれふ。
月暈かさつけて山は睡ねむるが如く、
霜寒くして江かうは流れず。
窅然えうぜんとして萬物靜まりて、
而して我獨ひとり何をか求めん。

意有所得 雜書數絶句 清・袁枚
 意こころに得る所有りて 數絶句を雜書す
莫説光陰去不還、
少年情景在詩篇。
燈痕酒影春宵夢、
一度謳吟一宛然。
ふ莫なかれ光陰は去りて還かへらずと、
少年の情景は詩篇しへんに在り。
燈痕とうこん酒影しゅえい春宵しゅんせうの夢、
一度ひとたび謳吟おうぎんすれば一いつに宛然ゑんぜんたり。

睹江北流民有感
清・周實
江南塞北路茫茫、
一聽嗷嗷一斷腸。
無限哀鴻飛不盡、
月明如水滿天霜。

 江北かうほくの流民りうみんを睹て感有り

江南かうなん塞北さいほくみち茫茫ばうばう
一たび嗷嗷がうがうたるを聽けば一たび斷腸す。
無限の哀鴻あいこう飛び盡くさず、
月明げつめいは水の如き滿天の霜。

冬日小病 寄家書作 清・龔自珍
 冬日に小病して 家書を寄せて作る
黄日半窗煖、
人聲四面希。
餳簫咽窮巷、
沈沈止復吹。
小時聞此聲、
心神輒爲癡。
慈母知我病、
手以棉覆之。
夜夢猶呻寒、
投於母中懷。
行年迨壯盛、
此病恆相隨。
飮我慈母恩、
雖壯同兒時。
今年遠離別、
獨坐天之涯。
神理日不足、
禪悅詎可期。
沈沈復悄悄、
擁衾思投誰。
黄日窗に半ばして煖あたたかく、
人聲四面に希まれなり。
餳簫たうせう窮巷きゅうかうに咽むせび、
沈沈として止みて復た吹く。
小時此の聲を聞かば、
心神輒すなはち爲ために癡たり。
慈母我が病やまひを知り、
づから棉めんを以て之これを覆おほふ。
夜夢にも猶ほ呻うめき寒おののき、
母の中懷ちゅうくゎいに投ず。
行年かうねん壯盛さうせいに迨およぶも、
此の病恆つねに相ひ隨したがふ。
我が慈母の恩を飮むは、
壯なりと雖いへども兒時に同じ。
今年遠く離別りべつし、
ひとり天の涯はてに坐す。
神理日々足らず、
禪悅ぜんえつなんぞ期す可けんや。
沈沈復た悄悄、
衾を擁して誰たれにか投ぜんと思ふ。

江上望青山憶舊
清・王士禛
揚子秋殘暮雨時、
笛聲雁影共迷離。
重來三月靑山道、
一片風帆萬柳絲。

 江上にて青山を望み舊きうを憶おも

揚子やうしに秋は殘すたるる暮雨ぼうの時、
笛聲てきせい雁影がんえい共に迷離めいり
重ねて來きたる三月靑山の道、
一片の風帆ふうはん萬の柳絲りうし

江上望青山憶舊
清・王士禛
長江如練布颿輕、
千里山連建業城。
草長鶯啼花滿樹、
江村風物過清明。

 江上にて青山を望み舊きうを憶おも

長江練の如く布颿輕く、
千里山は連なる建業城。
草は長じ鶯は啼き花は樹に滿つ、
江村の風物は清明を過ぐ。

 春日雜詩
清・袁枚
淸明連日雨瀟瀟、
看送春痕上鵲巣。
明月有情還約我、
夜來相見杏花梢。



淸明せいめい連日雨瀟瀟せうせう
看送る春痕しゅんこんの鵲巣じゃくさうに上のぼるを。
明月情じゃう有り還ほ我われと約し、
夜來きたりて相ひ見る杏花きゃうくゎの梢こずゑに。

石城橋 示倪雁園太史 清・王士禛
 石城橋せきじゃうけうにて 倪雁園げいがんゑん太史に示す
昔作秦淮客、
朱樓賦洞簫。
白頭故人盡、
重上石城橋。
昔は秦淮しんわいの客きゃくと作り、
朱樓に洞簫どうせうに賦す。
白頭故人盡き、
かさねて上いたる石城橋せきじゃうけう

免恨京三詠之一 啤酒 清末・中華民國・康有爲
 免恨ミュンヘン京三詠の一 啤酒ビール
啤酒尤傳免恨名、
創於湃認路易傾。
吾曾入飮王酒店、
三千人醉飮如鯨。
啤酒ビールもっとも傳ふ免恨ミュンヘンの名、
湃認バイエルンの路易ルイキングより創はじまる。
吾曾かつて王の酒店に入りて飮みたるに、
三千の人は醉ひて飮むこと鯨の如し。

 己亥雜詩
清・龔自珍
浩蕩離愁白日斜、
吟鞭東指即天涯。
落紅不是無情物、
化作春泥更護花。

 己亥きがい雜詩

浩蕩たる離愁白日斜めに、
吟鞭東を指す即ち天涯。
落紅は是れ無情の物にあらずして、
化して春泥と作りても更に花を護らん。

 虞姫
清・呉永和
大王眞英雄、
姫亦奇女子。
惜哉太史公、
不紀美人死。



大王は真しんの英雄、
も亦また奇女子きじょし
惜しい哉かな太史公たいしこう
美人の死を紀しるさず。

 竹石
清・鄭燮
咬定靑山不放鬆、
立根原在破岩中。
千磨萬撃還堅勁、
任爾東西南北風。



青山せいざんに咬み定めて放鬆はうしょうせず、
根を立たせるは原もとより破岩はがんの中に在り。
千磨(せんま)萬撃(ばんげき)すれども()堅勁(けんけい)にして、
の東西南北の風に任まかす。

 樊圻畫
清・王士禛
蘆荻無花秋水長、
淡雲微雨似瀟湘。
雁聲搖落孤舟遠、
何處靑山是岳陽。

 樊圻はんきの畫ぐゎ

蘆荻ろてき花無く秋水しうすゐ長く、
淡雲たんうん微雨びう瀟湘せうしゃうに似たり。
雁聲がんせい搖落えうらくして孤舟こしう遠く、
何處いづこの靑山せいざんか是これ岳陽がくやうなる。

 船中曲
清・呉嘉紀
儂是船中生、
郞是船中長。
同心苦亦甘、
弄篙復蕩槳。

 船中の曲

われは是れ船中せんちゅうに生まれ、
きみは是れ船中せんちゅうに長ちゃうず。
心を同おなじうすれば苦も亦た甘かんにならん、
さをを弄ろうし復た槳かいを蕩ぐ。

 遣人入城 權瘞三嫂遙哭 清・歸莊
  人ひとを遣つかはして城じゃうに入
          權かりに三嫂さんさうを瘞うづめしめ遙はるかに哭こく
無端遭酷禍、
誰與訴蒼穹。
情苦一身小、
途窮萬事空。
死生從弱息、
出處任狂童。
髣髴貞魂在、
凄涼江上楓。
はしくも酷禍こくくゎに遭ひ、
たれと與ともにか蒼穹さうきゅうに訴うったへん。
じゃうは苦くるしむ一身いっしんちひさきを、
みちは窮きはまりて萬事ばんじむなし。
死生しせいは弱息じゃくそくに從したがひ、
出處しゅっしょは狂童きゃうどうに任まかす。
髣髴はうふつとして貞魂ていこんの在るがごとく、
凄涼せいりゃうたり江上かうじゃうの楓かへで

即目三首其一
清・王士禛
蒼蒼遠煙起、
槭槭疏林響。
落日隱西山、
人耕古原上。

 即目三首其の一

蒼蒼さうさうとして遠煙ゑんえんこり、
槭槭さくさくとして疏林そりんに響ひびく。
落日らくじつ西山せいざんに隱かくれ、
人は耕たがやす古原こげんの上。

即目三首其二
清・王士禛
蕭條秋雨夕、
蒼茫楚江晦。
時見一舟行、
濛濛水雲外。

 即目三首其の二

蕭條せうでうたる秋雨しううの夕ゆふべ
蒼茫さうばうとして楚江そかうくらし。
時に一舟いっしうの行くを見る、
濛濛もうもうたる水雲すゐうんの外ほかに。

即目三首其三
清・王士禛
白浪金山寺、
靑山鐵甕城。
故人今不見、
楊柳作秋聲。

 即目三首其の三

白浪はくらうの金山寺きんざんじ
靑山せいざんの鐵甕城てつをうじゃう
故人こじん今は見えず、
楊柳やうりう秋聲しうせいを作す。

眞州絶句六首之一
清・王士禛
揚州西去是眞州、
河水淸淸江水流。
斜日估帆相次泊、
笛聲遙起暮江樓。

 真州絶句六首の一

揚州やうしう西に去れば是れ真州しんしう
河水かすゐ清清せいせいとして江水かうすゐながる。
斜日しゃじつ估帆こはんひ次ぎて泊まれば、
笛聲てきせいはるかに暮くれの江樓かうろうより起こる。

眞州絶句六首之二
清・王士禛
白沙江頭春日時、
江花江草望參差。
行人記得曾游地、
長板橋南舊酒旗。

 真州絶句六首の二

白沙はくさ江頭かうとう春日しゅんじつの時、
江花かうくゎ江草かうさうのぞめば參差しんしたり。
行人かうじんし得たり曾游そういうの地、
長板橋ちゃうばんけうなんもとの酒旗。

眞州絶句六首之四
清・王士禛
江干多是釣人居、
柳陌菱塘一帶疎。
好是日斜風定後、
半江紅樹賣鱸魚。

 真州絶句六首の四

江干かうかん多くは是れ釣人てうじんの居きょ
柳陌りうはく菱塘りょうたう一帶疎なり。
し是れ日斜めにして風定さだまるの後のち
半江はんかうの紅樹こうじゅに鱸魚ろぎょを賣る。

 書懷
清・袁枚
我不樂此生、
忽然生在世。
我方欲此生、
忽然死又至。
已死與未生、
此味原無二。
終嫌天地間、
多此一番事。

 懷ひを書す

われの生せいを樂ねがはざるに、
忽然こつぜんとして世に生まる。
われまさに此の生せいを欲ほっするに、
忽然こつぜんとして死又た至いたる。
(すで)に死せること」と「未だ(しゃう)ぜざること」とは、
の味原もともと二なる無し。
つひに嫌うとんず天地の間、
の一番の事多きを。

 論詩絶句
清・趙翼
李杜詩篇萬古傳、
至今已覺不新鮮。
江山代有才人出、
各領風騷數百年。



李杜りとの詩篇しへん萬古ばんこに傳へ、
今に至り已すでに覺ゆ新鮮ならずと。
江山かうざん代々だいだい才人さいじんの出づる有りて、
各々おのおの風騷ふうさうを領りゃうすること數百年。

 再別康橋
徐志摩
輕輕的我走了、
正如我輕輕的來;
我輕輕的招手、
作別西天的雲彩。
那河畔的金柳、
是夕陽中的新娘。
波光裏的豔影、
在我的心頭蕩漾。
軟泥上的靑荇、
油油的在水底招搖
在康河的柔波裏、
我甘心做一條水草。
那楡蔭下的一潭、
不是清泉是天上虹
揉碎在浮藻間、
沈澱著彩虹似的夢。
尋夢?撑一支長篙、
向靑草更靑處漫溯
滿載一船星輝、
在星輝斑斕裏放歌。
但我不能放歌、
悄悄是別離的笙簫
夏蟲也爲我沈默、
沈默是今晩的康橋
悄悄的我走了、
正如我悄悄的來
我揮一揮衣袖、
不帶走一片雲彩。

 再びケンブリッジに別れを告げる

そっと立ち去ろう、
ちょうど、そっと来た時のように;
わたしは、そっと手を振って、
西空にしぞらの雲との別れとする。
あの川のほとりの金色に耀かがやく柳は、
夕日の中の花嫁はなよめである;
波の燦きらめきの中でのあでやかな影が、
わたしの胸の中で、漂ただよい動いている。
柔らかな泥どろの上の青い水草は、
つやつやとして水の底でむくむく()れ動いている;
ケム川の穏おだやかな波の中で、
わたしは、一筋の水草みずくさに甘あまんじてなろう。
あの楡にれの木の茂みの下の深い淵ふちは、
清らかな()き水ではなくて天上界の(にじ)である;
み砕くだかれて、漂ただよう藻の間に、
沈み澱よどんでいるのは、虹にじにも似た夢なのだ。
「夢?」を探そう一本の長い棹さおでさおさして、
青草が、更に青い処にゆっくりと溯さかのぼっていく;
パントに星の輝かがやきをいっぱいに積み込み、
星の燦きらめきが華やかな下で声高く歌を歌おう。
でも、声高く歌うたうのはいけない、
ひそやかさが、別わかれの音楽なのだ;
夏の虫でも、わたしのために沈黙ちんもくしており、
沈黙が今宵こよいのケンブリッジなのだ。
ひそやかに、わたしは立ち去ろう、
ちょうど、わたしがひそやかに来た時のように;
わたしは、袖そでをちょっと振ってみたが、
ひとかけらの雲も、一緒いっしょに附いてこない。

 雨巷
戴望舒
撐著油紙傘、
獨自彷徨在悠長、
悠長又寂寥的雨巷、
我希望逢著
一個丁香一樣地
結著愁怨的姑娘。
她是有
丁香一樣的顏色、
丁香一樣的芬芳、
丁香一樣的憂愁、
在雨中哀怨、
哀怨又彷徨;
她彷徨
在這寂寥的雨巷、
撐著油紙傘
像我一樣、
像我一樣地
默默彳亍著
冷漠、淒清、
又惆悵。
她默默地走近、
走近、又投出
太息一般的眼光

她飄過、
像夢一般地、
像夢一般地淒婉迷茫像夢中飄過一枝丁香地、
我身傍飄過這個女郞她默默地遠了、
遠了、
到了頽圮的籬牆、
走盡這雨巷。
在雨的哀曲裏、
消了她的顏色、
散了她的芬芳、
消散了、甚至她的
太息般的眼光
丁香般的惆悵。
撐著油紙傘、
獨自彷徨在悠長、
悠長又寂寥的雨巷、
我希望飄過
一個丁香一樣地
結著愁怨的姑娘。

 雨の横町

番傘をさしながら
一人で、長くさまよう
長くて寂しい雨の横町
わたしは出逢うのを望むそれは
一つのライラックと同様な
愁いを凝結させた少女とを
彼女には
ライラックと同様な色
ライラックと同様な香り
ライラックと同様な憂いがある
雨の中で悲しみ憎む
悲しみ憎んでは、またしても、さまよう
彼女は、
この寂しい雨の横町をさまよって、
番傘をさして
わたしと同じ様に
わたしと同じ様に黙りこくって、
少し進んではたたずんでいる
冷淡で、うら寂しく、
恨み悲しんでいる
彼女は黙ったまま近づいてきて
近づいたかと思うと、またしても
溜め息のような眼差しを注いでくる

彼女はゆらめいて過ぎ去り、
夢のように
夢のように、穏やかで悲しくて、ぼうっとしている
夢の中のようにゆらめいて過ぎ去った一枝のライラックのように
わたしのそばをゆらめいて過ぎ去ったこの女性
彼女はだまったまま、遠ざかっていった

くずれた土塀に到るまで。(頽廃の限界まで)
この雨の横町を歩きつくした
雨の悲しい曲の中で…
彼女の色が消えてしまった
彼女の匂いがちりぢりになってしまった
散って消えてしまった、甚だしくは、彼女の…
ため息のようなまなざしを
ライラックのような恨み悲しみを
番傘をさしながら
一人で、長くさまよう
長くて寂しい雨の横町
わたしはゆらめいて過ぎ去ることを願う
一つのライラックと同様な
愁いを凝結させた少女を

 
清・黄中堅
斗室何來豹脚蚊、
殷如雷鼓聚如雲。
無多一點英雄血、
閑到衰年忍付君。

 蚊

斗室としついづくよりか來きたる豹へうきゃくの蚊
いんとして雷鼓らいこの如く聚あつまりて雲の如し。
し一點いってん英雄の血、
(かん)衰年(すゐねん)に到りて君に()するに(しの)びんや。

送王淑亮之蘇州
清・趙慶
蘆花楓葉憶江天、
夢斷姑蘇二十年。
舊友若逢相問訊、
長安多向酒家眠。

 王淑亮わうしゅくりゃうの蘇州そしうに之くを送おく

蘆花ろくゎ楓葉ふうえふ江天かうてんを憶おもふ、
夢は斷つ姑蘇こそ二十年。
舊友に若し逢ひて相ひ問訊もんじんせば、
「長安多くは酒家に向おいて眠る」と。

 村舍
清・趙執信
亂峯重疊水橫斜、
村舍依稀在若耶。
垂老漸能分菽麥、
全家合得住烟霞。
催風筍作低頭竹、
傾日葵開衞足花。
雨玩山姿晴對月、
莫辭閒澹送生涯。



亂峯らんぽう重疊ちょうでふとして水橫斜わうしゃ
村舍依稀いきとして若耶じゃくやに在るがごとし。
老いに(なんな)んとして漸く能く菽麥(しゅくばく)を分かち、
全家ぜんかまさに烟霞えんかに住まふを得べし。
風に催うながされて筍じゅんは低頭の竹と作り、
日に傾く葵は衞足ゑいそくの花を開く。
雨ふれば山姿さんしを玩でて晴るれば月に對す、
辭す莫なかれ閒澹かんたんに生涯を送るを。

 從軍行
清・乾隆帝
三邊烽火照軍營、
十萬丁男夜練兵。
但使腰閒懸寶剣、
丈夫何處不成名。



三邊の烽火ほうくゎ軍營を照らし、
十萬の丁男ていだん夜兵を練る。
だ腰閒えうかんをして寶剣を懸けしめば、
丈夫ぢゃうふいづれの處ところか名を成さざらん。

 小樓
清・張問陶
小樓春雨似呉篷、
萬里浮家少定蹤。
墨海淘金知水利、
硯田收税學山農。
升沈祗覺生如戲、
貧病方爲世所容。
坐破蒲團歸未得、
夜天何處一聲鐘。



小樓の春雨は呉篷ごほうに似、
萬里の浮家ふか定蹤ていしょうを少く。
墨海ぼっかいに金きんを淘よなげて水利を知り、
硯田けんでんに税を收めて山農に學ぶ。
升沈しょうちんだ覺さとる生せいは戲しばゐの如しと、
貧病ひんびゃうまさに爲る世の容るる所と。
蒲團ほたんを坐破ざはすれども歸ること未いまだ得ず、
夜天やてんの何處いづこか一聲いっせいの鐘。

 呉興雜詩
清・阮元
交流四水抱城斜、
散作千溪遍萬家。
深處種菱淺種稻、
不深不淺種荷花。

 呉興ごかう雜詩

(まじ)はり流るる四水(しすゐ)(じゃう)(いだ)きて斜めに、
散じて千溪と作りて萬家に遍あまねし。
深き處は菱ひしを種え淺きは稻を種え、
深からず淺からざるは荷花かくゎを種う。

説楔子敷陳大義 借名流隱括全文 清・『儒林外史』 呉敬梓
 楔子せっしを説くに大義を敷陳ふちんし 名流を借りて全文を隱括いんくゎつ
人生南北多岐路。
將相神仙、
也要凡人做。
百代興亡朝復暮、
江風吹倒前朝樹。

功名富貴無憑據。
費盡心情、
總把流光誤。
濁酒三杯沈醉去、
水流花謝知何處
人生南北に岐路きろ多し。
將相しゃうしゃう神仙しんせん
た凡人の做るを要す。
百代の興亡かうばうあさた暮くれ
江風かうふうは吹き倒たふす前朝ぜんてうの樹

功名こうみゃう富貴ふうき憑據ひょうきょ無し。
心情を費つひえ盡くして、
そうじて流光りうくゎうを誤あやまつ。
濁酒だくしゅ三杯沈醉ちんすゐし去れば、
水は流れ花は謝せども何處いづこなるかを知らん

 銷夏詩
清・袁枚
不著衣冠不半年、
水雲深處抱花眠。
平生自想無官樂、
第一驕人六月天。


 銷夏せうか
 
衣冠を著けざること半年に近く、
水雲深き處花を抱いだきて眠る。
平生へいぜいみづから想おもふ無官の樂たのしみ
第一に人に驕おごるは六月の天。

杜曲西南弔牧之冢
清・王士禛
兩枝仙桂氣凌雲、
落魄江湖杜司勳。
今日終南山色裏、
小桃花下一孤墳。

 杜曲ときょくの西南牧之ぼくしの冢つかを弔とむら

兩枝りゃうしの仙桂せんけい雲を凌しのぎ、
江湖かうこに落魄らくはくす杜司勳しくん
今日こんにち終南山色しゅうなんさんしょくの裏うち
小桃せうたう花下くゎかの一孤墳。

[索引]
獄中題壁獄中口占自嘲吟劍詩讀陸放翁集輓徐錫麟無題・孫文絶命詞獄中贈鄒滿江紅・感懷、作於秋瑾就義後入川題壁贈梁任父同年口占禮讓丙申春就醫秦淮寓丁家水閣浹兩月臨行作絶句望大陸再題馬嵬驛夜雨題寒山寺寄西樵禮吉仝二悼亡詩再過露筋祠臨終詩安寧道中即事訪秋絶句倣宋玉兎朝元硯三字令出師討滿夷自瓜州至金陵精衞大江歌罷遇南廂園叟感賦八十韻馬嵬四月下旬過崇效寺訪牡丹花已殘損度遼將軍歌秦淮雜詩虞兮玉樓春・擬古决絶詞浣溪沙絶命詩海上夜泊意有所得雜書數絶句睹江北流民有感冬日小病寄家書作江上望青山憶舊仝二春日雜詩石城橋示倪雁園太史免恨京三詠之一 啤酒己亥雜詩虞姫竹石樊圻畫船中曲遣人入城權瘞三嫂遙哭即目三首其一仝其二仝其三眞州絶句六首之一仝二仝四書懷論詩絶句再別康橋雨巷死水送王淑亮之蘇州村舎從軍行小樓呉興雜詩説楔子敷陳大義銷夏詩杜曲西南弔牧之冢

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