扶桑櫻花讚 [索引] [書架]

 哭晁卿衡
李白
日本晁卿辭帝都、
征帆一片遶蓬壺。
明月不歸沈碧海、
白雲愁色滿蒼梧。

 晁卿衡を哭す

日本の晁卿帝都を辭し、
征帆一片蓬壺を遶る。
明月歸へらず碧海に沈み、
白雲愁色蒼梧に滿つ。

送祕書晁監還日本國 王維
 祕書晁監の日本國に還るを送る
積水不可極、
安知滄海東。
九州何處遠、
萬里若乘空。
向國惟看日、
歸帆但信風。
鰲身映天黑、
魚眼射波紅。
鄕樹扶桑外、
主人孤島中。
別離方異域、
音信若爲通。
積水極む可からず、
いづくんぞ滄海の東を知らん。
九州何れの處か遠き、
萬里空に乘ずるが若ごとし。
國に向ふは惟だ日を看、
歸帆但だ風に信まかす。
鰲身天に映じて黑く、
魚眼波を射て紅なり。
鄕樹扶桑の外、
主人孤島の中。
別離方まさに異域なれば、
音信若爲いかんぞ通ぜん。

送日本國僧敬龍歸
韋莊
扶桑已在渺茫中、
家在扶桑東更東。
此去與師誰共到、
一船明月一帆風。

 日本國の僧敬龍の歸るを送る

扶桑は已に渺茫たる中に在り、
家は扶桑の東の更に東に在り。
此こを去りて師與誰か共に到らん、
一船の明月一帆の風。

 奈良三笠山
老舍
阿倍當年思奈良、
至今三笠草微黄。
鄕情莫問天邊月、
自有櫻花勝洛陽。



阿倍當年奈良を思ひ、
今に至るも三笠の草微きに黄む。
鄕情問ふ莫れ天邊の月、
自ら櫻花の洛陽に勝れる有り。

 奈良東大寺
老舍
佛光塔影淨無塵、
幾點櫻花迎早春。
踏遍松陰何忍去、
依依小鹿送遊人。



佛光塔影淨かにして塵無く、
幾點の櫻花早春を迎ふ。
松陰を踏むこと遍く何ぞ去るに忍びんや、
依依たる小鹿遊人を送る。

 贈日東鑒禪師
鄭谷
故國無心渡海潮、
老禪方丈倚中條。
夜深雨絶松堂靜、
一點山螢照寂寥。

 日東の鑒禪師に贈る

故國無心にして海潮を渡り、
老禪の方丈中條に倚る。
夜深く雨絶えて松堂靜かに、
一點の山螢寂寥を照らす。

 雨中嵐山
周恩來
雨中二次遊嵐山、
兩岸蒼松、
夾着幾株櫻。
到盡處突見一山高、
流出泉水綠如許、
繞石照人。
瀟瀟雨、霧濛濃、
一綫陽光穿雲出、
愈見嬌妍。

人間的萬象眞理、
愈求愈模糊、
模糊中
偶然見着一點光明、
眞愈覺嬌妍。

 雨中の嵐山

雨中二次嵐山に遊ぶ、
兩岸の蒼松は、
夾みゐたり幾株かの櫻を。
到り盡くる處突たちまち一山の高きを見、
泉水を流出させ綠きよきこと許かくの如く、
石を繞り人を照らす。
瀟瀟たる雨、霧濛濃たり、
一綫の陽光雲を穿うがち出で、
いよよ嬌妍を見あらはす。

人間じんかんの萬象眞理は、
愈よ求むれど愈よ模糊たり、
模糊たる中に
偶然一點の光明を見いだし、
眞に愈よ嬌妍たるを覺ゆ。

 日本刀歌
北宋・歐陽脩
夷道遠不復通、
世傳切玉誰能窮。
寶刀近出日本國、
越賈得之滄海東。
魚皮裝貼香木鞘、
黄白閒雜鍮與銅。
百金傳入好事手、
佩服可以禳妖凶。
傳聞其國居大島、
土壤沃饒風俗好。
其先徐福詐秦民、
採藥淹留丱童老。
百工五種與之居、
至今器玩皆精巧。
前朝貢獻屢往來、
士人往往工詞藻。
徐福行時書未焚、
逸書百篇今尚存。
令嚴不許傳中國、
舉世無人識古文。
先王大典藏夷貊、
蒼波浩蕩無通津。
令人感激坐流涕、
鏽澀短刀何足云。



昆夷こんい道遠ければ復た通ぜず、
世に傳ふ切玉せつぎょくたれか能く窮きはめん。
寶刀近く日本國に出で、
越賈ゑつここれを滄海さうかいの東に得
魚皮裝よそほひ貼る香木の鞘さや
黄白閒雜かんざつす鍮ちうと銅。
百金にて傳へ入る好事かうずの手に、
佩服はいふくせば以って妖凶を禳はらふ可し。
傳へ聞く其の國は大いなる島に居り、
土壤沃饒よくぜうにして風俗好しと。
其の先せん徐福じょふく秦の民たみを詐たばかり、
藥を採ると淹留えんりうして丱童くゎんどう老いたり。
百工五種之これと與ともに居り、
今に至るまで器玩きぐゎんは皆精巧せいかう
前朝ぜんてうに貢獻こうけんして屢しばしば往來し、
士人しじん往往わうわう詞藻しさうに工たくみなり。
徐福行く時書しょ未だ焚かざれば、
逸書いつしょ百篇今尚ほ存そんす。
れいきびしくして中國に傳ふるを許さざれば、
世を舉こぞりて人の古文を識るもの無し。
先王せんなうの大典たいてんは夷貊いはくに藏かくれ、
蒼波浩蕩かうたうとして津しんを通ずる無し。
人をして感激せしめて(そぞろ)流涕(りうてい)せしむるは、
鏽澀しうじふたる短刀も何ぞ云ふに足らん。

戊戌八月國變紀事
清・康有爲
歴歴維新夢、
分明百日中。
莊嚴對宣室、
哀痛起桐宮。
禍水滔中夏、
堯臺悼聖躬。
小臣東海涙、
望帝杜鵑紅。
歴歴たり維新の夢、
分明たり百日の中。
莊嚴宣室に對し、
哀痛桐宮に起る。
禍水中夏に滔みなぎり、
堯臺聖躬を悼む。
小臣東海に涙して、
帝を望めば杜鵑紅し。

 贈木下順二
老舎
小院春風木下家、
長街短巷插櫻花。
十杯清酒千般意、
筆墨相期流錦霞。

 木下順二に贈る

小院春風木下家、
長街短巷櫻花を插す。
十杯の清酒千般の意、
筆墨相ひ期す錦霞を流さんことを。

 途中値雨
明極楚俊
急雨斜飛濺客裾、
枝筇路滑不堪扶。
誰家軒檻春風裏、
數葉芭蕉未折書。

 途中に雨に値

急雨は斜めに飛びて客裾に濺そそぎ、
枝筇しきょうは路滑らかにして扶たすくるに堪へず。
誰が家の軒檻ぞ春風の裏に、
數葉の芭蕉未だ書を折けず。

 琵琶湖遠望
老舎
琵琶湖映比良山、
銀色峰頭碧玉灣。
莫怨櫻遲紅未綻、
雙鳩軟語破春寒。



琵琶湖比良山を映じ、
銀色の峰頭碧玉の灣。
怨む莫れ櫻遲くして紅はな未だ綻ばざるを、
雙鳩軟語して春寒を破る。

扶桑日本 日本雜事詩
清・黄遵憲
立國扶桑近日邊、
外稱帝國内稱天。
縱橫八十三州地、
上下二千五百年。
國を立つ扶桑日邊に近く、
外に帝國と稱し内に天と稱す。
縱橫八十三州の地、
上下二千五百年。

日本雜事詩 東京勝景
清・黄遵憲
櫻花開到八重球、
春氣成霞夾水流。
傍晩有人江戸上、
萬紅深處蕩輕舟。
櫻花は開き到る八重の球、
春氣は霞を成して水流を夾む。
傍晩ゆふに人有り江戸の上ほとり
萬紅深き處輕舟を蕩ぐ。

日京竹枝詞百首 歳除夜
清・陳道華
硝子窗櫺掩浴堂、
水煙浮起蜜柑香。
燈前嬉戲雙鸂鶒、
偸眼池邊鷺一行。
硝子の窗櫺浴堂を掩ひ、
水煙浮き起こり蜜柑香る。
燈前に嬉戲す雙の鸂鶒、
偸かに眼にす池邊の鷺一行。

日京竹枝詞百首 麹町區
清・陳道華
東京風物勝西京、
十五名區繞禁城。
煙樹萬家河幾曲、
樓臺多處是仙瀛。
東京の風物は西京に勝り、
十五の名區禁城を繞る。
煙樹の萬家河幾たびか曲り、
樓臺多き處は是れ仙瀛。

 京都見初月
老舎
仰首青山俯首城、
參差燈火萬珠明。
東風不吝春消息、
小月偸看橋外櫻。

 京都に初月を見る

かうべを仰げば青山首を俯せば城、
參差たる燈火萬珠の明。
東風吝をしまず春の消息を、
小月偸ひそかに看る橋外の櫻。

送僧歸日本
唐・錢起
上國隨縁住、
來途若夢行。
浮天滄海遠、
去世法舟輕。
水月通禪寂、
魚龍聽梵聲。
惟憐一燈影、
萬里眼中明。

 僧の日本に歸るを送る

上國縁に隨りて住み、
來る途は夢の若き行。
天に浮かびて滄海遠く、
世を去りて法舟輕し。
水月禪寂に通じ、
魚龍梵聲を聽く。
だ憐む一燈の影、
萬里眼中明し。

奉懷南海先生 星加披兼敦請東渡 梁啓超
 南海先生を星加披に懷ひ奉り兼くはへて敦あつく東渡を請ふ
不道桃源許再來、
舊時魚鳥費疑猜。
風吹弱水蓬莱近、
春逐先生杖屨囘。
萬事忘懷惟酒可、
十年有約及櫻開。
何時一舸能相即、
已剔沈槍掃綠苔。
桃源再來を許すと道はざれど、
舊時の魚鳥疑猜を費す。
風は弱水蓬莱を吹きて近く、
春は先生の杖屨を逐ひて囘めぐる。
萬事忘懷惟だ酒のみ可にして、
十年約有り櫻の開くに及ぶと。
いづれの時か一舸能く相ひ即さん、
すでに沈槍を剔して綠苔を掃へり。

 不忍池晩遊詩
黄遵憲
山色湖光一例奇、
莫將西子笑東施。
即今隔海同明月、
我亦高吟三笠辭。



山色湖光一例に奇なり、
西子を將て東施を笑ふ莫れ。
即今海を隔てて明月を同うし、
我も亦た高らかに吟ず三笠の辭を。

 呈東國諸公
康有爲
櫻花開罷我來遲、
我正去時花滿枝。
半歳看花住三島、
盈盈春色最相思。

 東國の諸公に呈す

櫻花開き罷をはりて我來たること遲く、
我正に去る時花枝に滿つ。
半歳花を看んと三島に住とどまり、
盈盈たる春色最も相ひ思ふ。

贈尚衣 奉御井公墓誌文辭
 贈尚衣 奉御井公墓誌文の辭
其辭曰:
別乃天常、
哀茲遠方。
形既埋於異土、
魂庶歸於故鄕。
其の辭に曰いはく:
別は乃ち天常なるも、
あはれなるは茲れ遠方なり。
けいは既すでに異土に埋うづむれども、
魂は庶こいねがはくは故鄕に歸れかし。

 澳亞歸舟雜興
清・梁啓超
拍羣鷗相送迎、
珊瑚灣港夕陽明。
遠波淡似裡湖水、
列島繁於初夜星。
蕩胸海風和露吸、
洗心天樂帶濤聽。
此遊也算人間福、
敢道潮平意未平。

 澳亞よりの歸舟にての雜興ざっきょう

拍拍はくはくたる羣鷗ぐんおうは相ひ送迎そうげいし、
珊瑚さんご灣港夕暮せきぼ明るし。
遠波ゑんぱは淡あはきこと裡湖りこの水の似ごとく、
列島は初夜しょやの星より繁しげし。
胸を蕩かす海風は露に和して吸ひ、
心を洗ふ天樂てんがくは濤なみを帶びて聽く。
の遊いうまた算かぞへん人間じんかんの福とも、
敢へて道ふ「潮うしほは平けくも意未だ平かならず」と。

 黄河
清・梁啓超
河黄河
出自崑崙山。
遠從蒙古地、
流入長城關。
古來聖賢、
生此河干。
獨立堤上、
心思曠然。
長城外、河套邊。
黄沙白草無人煙。
思得十萬兵、
長驅西北邊。
飮酒烏梁海、
策馬烏拉山。
誓不戰勝終不還。
君作鐃吹、
觀我凱旋。



黄河や黄河
崑崙こんろんざんより出づ。
遠く蒙古もうこの地より、
流れ入る長城ちゃうじゃうの關くゎんに。
古來の聖賢、
の河干かかんに生まる。
ひとり堤上ていじゃうに立たば、
心思しんし曠然くゎうぜんたり。
長城の外そと、河套かたうの邊。
黄沙くゎうさ白草はくさう人煙じんえん無し。
思ふ:十萬の兵を得て、
長驅ちゃうくす西北の邊。
酒を飮む 烏梁海ウリャンハイ
馬を策す烏拉ウラドさん
誓って戰ひに勝たずんば終つひに還かへらざれば。
君鐃吹だうすゐを作して、
我が凱旋がいせんを觀よ。

 述懷
明末~・朱舜水
州如瓦解、
忠信苟偸生。
受詔蒙塵際、
晦跡到東瀛。
囘天謀不就、
長星夜夜明。
單身寄孤島、
抱節比田橫。
已聞鼎命變、
西望獨呑聲。



九州瓦ぐゎの如く解し、
忠信苟いやしくも生を偸ぬすむ。
みことのりを受く蒙塵もうぢんの際、
あとを晦くらまして東瀛とうえいに到る。
囘天の謀はかりごとらず、
長星ちゃうせい夜夜明かなり。
單身孤島に寄せ、
せつを抱いだきて田橫でんわうに比す。
すでに鼎命ていめいの變ずるを聞けば、
西のかたを望みて獨ひとり聲を呑む。

同崔載華贈日本聘使 唐・劉長卿
 崔載華さいさいくゎと同ともに日本の聘使へいしに贈る
君異域朝周遠、
積水連天何處通。
遙指來從初日外、
始知更有扶桑東。
あはれむ君異域いゐきより周に朝すること遠く、
積水せきすゐ天に連なりて何いづれの處か通ず。
遙かに指ゆびさす來ること初日しょじつの外よりと、
始めて知る更に扶桑ふさうの東有るを。

 本事詩
清末~・蘇曼殊
雨樓頭尺八簫、
何時歸看浙江潮。
芒鞋破鉢無人識、
踏過櫻花第幾橋。



春雨しゅんう樓頭ろうとう尺八しゃくはちの簫せう
いづれの時か歸り看ん浙江せっかうの潮うしほを。
芒鞋ばうあい破鉢ははつ人の識る無く、
踏み過ぐ櫻花あうくゎの第だいいくけう

 不忍池晩遊詩
清末~・黄遵憲
薄櫻茶一吸餘、
點心淸露挹芙蕖。
靑衣擎出酒波綠、
徑尺玻璃紙片魚。

 忍ばずの池晩遊詩

薄薄はくはくたる櫻茶あうちゃ一吸いっきふの餘
點心てんしんは清露せいろ芙蕖ふきょに挹む。
青衣せいいささげげ出だす酒波しゅはの綠りょく
徑尺の玻璃はり紙片しへんの魚うを

日本雜事詩 明治維新 王政復古
清末~・黄遵憲
光重拂鏡新磨、
六百年來返太阿。
方戴上枝歸一日、
紛紛民又唱共和。
劍光けんくゎうかさねて拂はらひ鏡かがみあらたに磨みが
六百年來太阿たいあに返かへる。
まさに上枝じゃうしを戴いただき一いつの日に歸するも
紛紛ふんぷんとして民又た共和を唱となふ。

[索引]
哭晁卿衡送祕書晁監還日本國送日本國僧敬龍歸
奈良三笠山仝東大寺贈日東鑒禪師雨中嵐山日本刀歌
戊戌八月國變紀事贈木下順二途中値雨琵琶湖遠望
日本雜事詩 扶桑日本仝 東京勝景仝 明治維新 王政復古
日京竹枝詞百首 歳除夜仝 麹町區京都見初月送僧歸日本
奉懷南海先生星加披兼敦請東渡不忍池晩遊詩呈東國諸公
贈尚衣奉御井公墓誌文辭澳亞歸舟雜興黄河述懷
同崔載華贈日本聘使本事詩

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