晁卿衡を哭す 日本の晁卿帝都を辭し、 征帆一片蓬壺を遶る。 明月歸へらず碧海に沈み、 白雲愁色蒼梧に滿つ。 |
積水不可極、
安知滄海東。 九州何處遠、 萬里若乘空。 向國惟看日、 歸帆但信風。 鰲身映天黑、 魚眼射波紅。 鄕樹扶桑外、 主人孤島中。 別離方異域、 音信若爲通。 |
積水極む可べからず、
安いづくんぞ滄海の東を知らん。 九州何れの處か遠き、 萬里空に乘ずるが若ごとし。 國に向ふは惟ただ日を看、 歸帆但だ風に信まかす。 鰲身天に映じて黑く、 魚眼波を射て紅なり。 鄕樹扶桑の外、 主人孤島の中。 別離方まさに異域なれば、 音信若爲いかんぞ通ぜん。 |
日本國の僧敬龍の歸るを送る 扶桑は已に渺茫たる中に在り、 家は扶桑の東の更に東に在り。 此こを去りて師與と誰か共に到らん、 一船の明月一帆の風。 |
阿倍當年奈良を思ひ、 今に至るも三笠の草微きに黄む。 鄕情問ふ莫れ天邊の月、 自ら櫻花の洛陽に勝れる有り。 |
佛光塔影淨かにして塵無く、 幾點の櫻花早春を迎ふ。 松陰を踏むこと遍く何ぞ去るに忍びんや、 依依たる小鹿遊人を送る。 |
日東の鑒禪師に贈る 故國無心にして海潮を渡り、 老禪の方丈中條に倚る。 夜深く雨絶えて松堂靜かに、 一點の山螢寂寥を照らす。 |
雨中嵐山 周恩來
雨中二次遊嵐山、兩岸蒼松、 夾着幾株櫻。 到盡處突見一山高、 流出泉水綠如許、 繞石照人。 瀟瀟雨、霧濛濃、 一綫陽光穿雲出、 愈見嬌妍。 人間的萬象眞理、 愈求愈模糊、 模糊中 偶然見着一點光明、 眞愈覺嬌妍。 |
雨中の嵐山 雨中二次嵐山に遊ぶ、 兩岸の蒼松は、 夾みゐたり幾株かの櫻を。 到り盡くる處突たちまち一山の高きを見、 泉水を流出させ綠きよきこと許かくの如く、 石を繞り人を照らす。 瀟瀟たる雨、霧濛濃たり、 一綫の陽光雲を穿うがち出で、 愈いよよ嬌妍を見あらはす。 人間じんかんの萬象眞理は、 愈よ求むれど愈よ模糊たり、 模糊たる中に 偶然一點の光明を見いだし、 眞に愈よ嬌妍たるを覺ゆ。 |
日本刀歌 北宋・歐陽脩
昆 夷道遠不復通、世傳切玉誰能窮。 寶刀近出日本國、 越賈得之滄海東。 魚皮裝貼香木鞘、 黄白閒雜鍮與銅。 百金傳入好事手、 佩服可以禳妖凶。 傳聞其國居大島、 土壤沃饒風俗好。 其先徐福詐秦民、 採藥淹留丱童老。 百工五種與之居、 至今器玩皆精巧。 前朝貢獻屢往來、 士人往往工詞藻。 徐福行時書未焚、 逸書百篇今尚存。 令嚴不許傳中國、 舉世無人識古文。 先王大典藏夷貊、 蒼波浩蕩無通津。 令人感激坐流涕、 鏽澀短刀何足云。 |
昆夷こんい道遠ければ復また通ぜず、 世に傳ふ切玉せつぎょく誰たれか能よく窮きはめん。 寶刀近く日本國に出いで、 越賈ゑつこ之これを滄海さうかいの東に得う。 魚皮裝よそほひ貼る香木の鞘さや、 黄白閒雜かんざつす鍮ちうと銅。 百金にて傳へ入いる好事かうずの手に、 佩服はいふくせば以って妖凶を禳はらふ可べし。 傳へ聞く其その國は大いなる島に居り、 土壤沃饒よくぜうにして風俗好しと。 其の先せん徐福じょふく秦の民たみを詐たばかり、 藥を採とると淹留えんりうして丱童くゎんどう老いたり。 百工五種之これと與ともに居り、 今に至るまで器玩きぐゎんは皆精巧せいかう。 前朝ぜんてうに貢獻こうけんして屢しばしば往來し、 士人しじん往往わうわう詞藻しさうに工たくみなり。 徐福行ゆく時書しょ未だ焚やかざれば、 逸書いつしょ百篇今尚なほ存そんす。 令れい嚴きびしくして中國に傳ふるを許さざれば、 世を舉こぞりて人の古文を識しるもの無し。 先王せんなうの大典たいてんは夷貊いはくに藏かくれ、 蒼波浩蕩かうたうとして津しんを通ずる無し。 人をして感激せしめて 鏽澀しうじふたる短刀も何ぞ云いふに足たらん。 |
歴歴維新夢、
分明百日中。 莊嚴對宣室、 哀痛起桐宮。 禍水滔中夏、 堯臺悼聖躬。 小臣東海涙、 望帝杜鵑紅。 |
歴歴たり維新の夢、
分明たり百日の中。 莊嚴宣室に對し、 哀痛桐宮に起る。 禍水中夏に滔みなぎり、 堯臺聖躬を悼む。 小臣東海に涙して、 帝を望めば杜鵑紅し。 |
木下順二に贈る 小院春風木下家、 長街短巷櫻花を插す。 十杯の清酒千般の意、 筆墨相ひ期す錦霞を流さんことを。 |
途中に雨に値あふ 急雨は斜めに飛びて客裾に濺そそぎ、 枝筇しきょうは路滑らかにして扶たすくるに堪へず。 誰が家の軒檻ぞ春風の裏に、 數葉の芭蕉未だ書を折けず。 |
琵琶湖比良山を映じ、 銀色の峰頭碧玉の灣。 怨む莫れ櫻遲くして紅はな未だ綻ばざるを、 雙鳩軟語して春寒を破る。 |
立國扶桑近日邊、
外稱帝國内稱天。 縱橫八十三州地、 上下二千五百年。 |
國を立つ扶桑日邊に近く、
外に帝國と稱し内に天と稱す。 縱橫八十三州の地、 上下二千五百年。 |
櫻花開到八重球、
春氣成霞夾水流。 傍晩有人江戸上、 萬紅深處蕩輕舟。 |
櫻花は開き到る八重の球、
春氣は霞を成して水流を夾む。 傍晩ゆふに人有り江戸の上ほとり、 萬紅深き處輕舟を蕩こぐ。 |
硝子窗櫺掩浴堂、
水煙浮起蜜柑香。 燈前嬉戲雙鸂鶒、 偸眼池邊鷺一行。 |
硝子の窗櫺浴堂を掩ひ、
水煙浮き起こり蜜柑香る。 燈前に嬉戲す雙の鸂鶒、 偸かに眼にす池邊の鷺一行。 |
東京風物勝西京、
十五名區繞禁城。 煙樹萬家河幾曲、 樓臺多處是仙瀛。 |
東京の風物は西京に勝り、
十五の名區禁城を繞る。 煙樹の萬家河幾たびか曲り、 樓臺多き處は是れ仙瀛。 |
京都に初月を見る 首かうべを仰げば青山首を俯せば城、 參差たる燈火萬珠の明。 東風吝をしまず春の消息を、 小月偸ひそかに看る橋外の櫻。 |
僧の日本に歸るを送る 上國縁に隨りて住み、 來る途は夢の若き行。 天に浮かびて滄海遠く、 世を去りて法舟輕し。 水月禪寂に通じ、 魚龍梵聲を聽く。 惟ただ憐む一燈の影、 萬里眼中明し。 |
不道桃源許再來、
舊時魚鳥費疑猜。 風吹弱水蓬莱近、 春逐先生杖屨囘。 萬事忘懷惟酒可、 十年有約及櫻開。 何時一舸能相即、 已剔沈槍掃綠苔。 |
桃源再來を許すと道いはざれど、
舊時の魚鳥疑猜を費す。 風は弱水蓬莱を吹きて近く、 春は先生の杖屨を逐ひて囘めぐる。 萬事忘懷惟ただ酒のみ可にして、 十年約有り櫻の開くに及ぶと。 何いづれの時か一舸能よく相ひ即さん、 已すでに沈槍を剔して綠苔を掃へり。 |
山色湖光一例に奇なり、 西子を將て東施を笑ふ莫れ。 即今海を隔てて明月を同うし、 我も亦た高らかに吟ず三笠の辭を。 |
東國の諸公に呈す 櫻花開き罷をはりて我來たること遲く、 我正に去る時花枝に滿つ。 半歳花を看んと三島に住とどまり、 盈盈たる春色最も相ひ思ふ。 |
其辭曰:
別乃天常、 哀茲遠方。 形既埋於異土、 魂庶歸於故鄕。 |
其の辭に曰いはく:
別は乃ち天常なるも、 哀あはれなるは茲これ遠方なり。 形けいは既すでに異土に埋うづむれども、 魂は庶こいねがはくは故鄕に歸れかし。 |
澳亞よりの歸舟にての雜興ざっきょう 拍拍はくはくたる羣鷗ぐんおうは相あひ送迎そうげいし、 珊瑚さんご灣港夕暮せきぼ明るし。 遠波ゑんぱは淡あはきこと裡湖りこの水の似ごとく、 列島は初夜しょやの星より繁しげし。 胸を蕩とかす海風は露に和して吸ひ、 心を洗ふ天樂てんがくは濤なみを帶びて聽く。 此この遊いうまた算かぞへん人間じんかんの福とも、 敢へて道いふ「潮うしほは平けくも意未だ平かならず」と。 |
黄河 清・梁啓超
黄 河黄河出自崑崙山。 遠從蒙古地、 流入長城關。 古來聖賢、 生此河干。 獨立堤上、 心思曠然。 長城外、河套邊。 黄沙白草無人煙。 思得十萬兵、 長驅西北邊。 飮酒烏梁海、 策馬烏拉山。 誓不戰勝終不還。 君作鐃吹、 觀我凱旋。 |
黄河や黄河 崑崙こんろん山ざんより出いづ。 遠く蒙古もうこの地より、 流れ入いる長城ちゃうじゃうの關くゎんに。 古來の聖賢、 此この河干かかんに生まる。 獨ひとり堤上ていじゃうに立たば、 心思しんし曠然くゎうぜんたり。 長城の外そと、河套かたうの邊。 黄沙くゎうさ白草はくさう人煙じんえん無し。 思ふ:十萬の兵を得えて、 長驅ちゃうくす西北の邊。 酒を飮む 烏梁海ウリャンハイ、 馬を策す烏拉ウラド山さん。 誓って戰ひに勝たずんば終つひに還かへらざれば。 君鐃吹だうすゐを作なして、 我が凱旋がいせんを觀みよ。 |
九州瓦ぐゎの如く解し、 忠信苟いやしくも生を偸ぬすむ。 詔みことのりを受く蒙塵もうぢんの際、 跡あとを晦くらまして東瀛とうえいに到る。 囘天の謀はかりごと就ならず、 長星ちゃうせい夜夜明かなり。 單身孤島に寄よせ、 節せつを抱いだきて田橫でんわうに比ひす。 已すでに鼎命ていめいの變ずるを聞けば、 西のかたを望みて獨ひとり聲を呑のむ。 |
憐 君異域朝周遠、
積水連天何處通。 遙指來從初日外、 始知更有扶桑東。 |
憐あはれむ君異域いゐきより周に朝すること遠く、
積水せきすゐ天に連なりて何いづれの處か通ず。 遙かに指ゆびさす來ること初日しょじつの外よりと、 始めて知る更に扶桑ふさうの東有るを。 |
春雨しゅんう樓頭ろうとう尺八しゃくはちの簫せう、 何いづれの時か歸り看みん浙江せっかうの潮うしほを。 芒鞋ばうあい破鉢ははつ人の識しる無く、 踏み過すぐ櫻花あうくゎの第だい幾いく橋けう。 |
忍ばずの池晩遊詩 薄薄はくはくたる櫻茶あうちゃ一吸いっきふの餘よ、 點心てんしんは清露せいろ芙蕖ふきょに挹くむ。 青衣せいい擎ささげげ出いだす酒波しゅはの綠りょく、 徑尺の玻璃はり紙片しへんの魚うを。 |
劍 光重拂鏡新磨、
六百年來返太阿。 方戴上枝歸一日、 紛紛民又唱共和。 |
劍光けんくゎう重かさねて拂はらひ鏡かがみ新あらたに磨みがき
六百年來太阿たいあに返かへる。 方まさに上枝じゃうしを戴いただき一いつの日ひに歸きするも 紛紛ふんぷんとして民又また共和を唱となふ。 |