辛棄疾詞 [索引] [書架] 生査子 題京口郡治塵表亭 生査子 京口の郡治塵表亭に題す |
悠悠萬世功、
矻矻當年苦。 魚自入深淵、 人自居平土。 紅日又西沈、 白浪長東去。 不是望金山、 我自思量禹。 |
悠悠たり萬世の功、
矻矻こつこつたり當年の苦。 魚は自おのづから深淵に入り、 人は自おのづから平土に居す。 紅日は又も西に沈み、 白浪は長とこしへに東に去る。 是れ金山を望むにあらずして、 我自ひとり禹を思量すればなり。 |
水調歌頭 壽趙漕介庵 水調歌頭 趙漕介庵を壽ぐ |
千里渥洼種、
名動帝王家。 金鑾當日奏草、 落筆萬龍蛇。 帶得無邊春下、 等待江山都老、 敎看鬢方鴉。 莫管錢流地、 且擬醉黄花。 喚雙成、歌弄玉、 舞綠華。 一觴爲飮千歳、 江海吸流霞。 聞道淸都帝所、 要挽銀河仙浪、 西北洗胡沙。 囘首日邊去、 雲裏認飛車。 |
千里渥洼の種、
名は動あぐ帝王の家に。 金鑾の當日草さうを奏するに、 筆を落ふるへば萬よろづの龍蛇たり。 帶し得たり無邊の春の下、 等待まちて江山都すべて老いたるも、 教こころみに看よ鬢方まさに鴉くろからん。 錢の地に流るるに管かかはる莫れ、 且しばし擬せよ黄花に醉ふに。 雙成を喚ばしめ、弄玉に歌はしめ、 綠華に舞はしむ。 一觴飮を爲さば千歳たり、 江海流霞を吸ふ。 聞道きくならく淸都帝所、 銀河の仙浪を挽くを要して、 西北胡沙を洗がんと。 首を囘して日邊に去れかし、 雲裏飛車を認む。 |
念奴嬌 登建康賞心亭呈史留守致道 念奴嬌 建康の賞心亭に登り、史留守致道に呈す |
我來弔古、上危樓、
贏得閒愁千斛。 虎踞龍蟠何處是? 只有興亡滿目。 柳外斜陽、 水邊歸鳥、 隴上吹喬木。 片帆西去、 一聲誰噴霜竹? 却憶安石風流、 東山歳晩、 涙落哀箏曲。 兒輩功名都付與、 長日惟消棋局。 寶鏡難尋、 碧雲將暮、 誰勸杯中綠? 江頭風怒、 朝來波浪翻屋。 |
我來りて古いにしえを弔まつらんとし、危樓に上り、
贏かち得たり閒愁千斛せんこく。 虎踞こきょ龍蟠りょうばん何處いずこか是なる? 只有るは興亡の滿目たるのみ。 柳外の斜陽、 水邊の歸鳥、 隴上ろうじょう喬木に吹く。 片帆西へ去り、 一聲誰か霜竹を噴く? 却って憶ふ安石の風流を、 東山の歳晩、 涙は落つ哀箏あいそうの曲に。 兒輩に功名都すべて付與すれば、 長日惟棋局に消ついやす。 寶鏡尋もとめ難く、 碧雲將に暮れんとして、 誰か杯中の綠りょくしゅを勸めん? 江頭に風怒り、 朝來むかえきたる波浪屋を翻さんとす。 |
永遇樂 京口北固亭懷古 永遇楽 京口北固亭懷古 |
千古江山、
英雄無覓、 孫仲謀處。 舞榭歌臺、 風流總被、 雨打風吹去。 斜陽草樹、 尋常巷陌、 人道寄奴曾住。 想當年、金戈鐵馬、 氣呑萬里如虎。 元嘉草草、 封狼居胥、 贏得倉皇北顧。 四十三年、 望中猶記、 烽火揚州路。 可堪囘首、 佛狸祠下、 一片神鴉社鼓。 憑誰問、廉頗老矣、 尚能飯否。 |
千古の江山、
英雄覓むる無く、 孫仲謀の處。 舞榭歌臺、 風流は總じて、 雨打たれ風吹かれ去く。 斜陽は草樹にさし、 尋常の巷陌横町に、 人は道ふ:寄奴曾て住めりと。 當年かのとしを想ふに、金戈鐵馬、 氣萬里を呑みて虎の如くなりき。 元嘉草草かるはずみに、 狼居胥に封まつらんとすれど、 四十三年、 望める中に猶も記す、 烽火の揚州路。 可なんぞ堪へん首かうべを回めぐらすに、 佛狸祠の下、 一片めんの神鴉と社鼓は。 誰に憑って問はん、廉頗れんぱ老いたるも、 尚ほ能く飯せりや否や。 |
菩薩蠻 書江西造口壁 菩薩蠻 江西の造口の壁に書す |
鬱孤臺下淸江水、
中間多少行人涙。 西北望長安、 可憐無數山。 靑山遮不住、 畢竟東流去。 江晩正愁余、 山深聞鷓鴣。 |
鬱孤臺下淸江の水、
中間多少の行人の涙。 西北長安を望まんとすれば、 憐む可し無數の山。 靑山は遮りえず、 畢竟東流して去る。 江の晩くれ正に余を愁へしむるは、 山深くして鷓鴣を聞く。 |
醜奴兒 書博山道中壁 醜奴兒 博山道中の壁に書す |
少 年不識愁滋味、
愛上層樓。 愛上層樓、 爲賦新詞強説愁。 而今識盡愁滋味、 欲説還休。 欲説還休、 却道天涼好個秋。 |
少年は識しらず愁ひの滋味を、
愛このみて層樓に上る。 愛このみて層樓に上り、 新詞を賦するに強しひて愁ひを説く。 而今識しり盡くす愁ひの滋味を、 説かんと欲して還また休やむ。 説かんと欲して還また休やめ、 却って道いふ:「天涼しく好よき秋なり」と。 |
擧頭西北浮雲、
倚天萬里須長劍。 人言此地、 夜深長見、 斗牛光焔。 我覺山高、 潭空水冷、 月明星淡。 待燃犀下看、 凭欄却怕、 風雷怒、魚龍慘。 峽束滄江對起、 過危樓、欲飛還斂。 元龍老矣、 不妨高臥、 冰壺涼簟。 千古興亡、 百年悲笑、 一時登覽。 問何人又卸、 片帆沙岸、 繋斜陽纜。 |
頭を擧げれば西北に浮雲、
天に倚りて萬里に長劍を須もとめん。 人は言ふ此の地、 夜深くして長ひさしく見あらはる、 斗牛の光焔を。 我覺おもふに山は高く、 潭ふちは空しくして水は冷し、 月明るけれども星淡し。 犀さいのつのを燃やすを待ちて下を看んとして、 欄に凭るは却って怕る、 風雷怒りて、魚龍慘たるを。 峽は滄江を束みて對起し、 危樓に 元龍老いたれば、 高臥するを妨さまたげず、 冰壺ひょうこと涼簟りょうてんに。 千古の興亡、 百年の悲笑、 一時に登覽す。 問ふ何人か又、 片帆を沙岸に卸して、 斜陽に纜ともづなを繋ぐを。 |
何 處望神州?
滿眼風光北固樓。 千古興亡多少事? 悠悠。 不盡長江滾滾流。 年少萬兜鍪。 坐斷東南戰未休。 天下英雄誰敵手? 曹劉。 生子當如孫仲謀。 |
何處いづこにか神州を望まん。
滿眼の風光は北固樓。 千古の興亡多少の事、 悠悠。 盡きざる長江は滾滾と流る。 年少萬あまたの兜鍪とうぼう。 東南を坐斷して戰ひ未だ休めず。 天下の英雄の誰か敵手なる? 曹・劉ならん。 子を生むは當に孫仲謀の如くあるべし。 |
楚天千里淸秋、
水隨天去秋無際。 遙岑遠目、 獻愁供恨、 玉簪螺髻。 落日樓頭、 斷鴻聲裏、 江南游子。 把呉鉤看了、 欄干拍徧、 無人會、登臨意。 休 説鱸魚堪膾、 儘西風、季鷹歸未。 求田問舎、 怕應羞見、 劉郞才氣。 可惜流年、 憂愁風雨、 樹猶如此。 倩何人、 喚取紅巾翠袖、 搵英雄涙。 |
楚天千里の清秋、
水は天に隨ひ去りて秋は際きわまり無し。 遙けき岑を遠目すれば、 愁を獻じ恨を供するは、 玉簪ぎょくしん螺髻らけい。 落日の樓頭に、 斷鴻の聲裏に、 江南の游子。 呉鉤を把とって看み了おへ、 欄干拍つこと徧あまねし、 人の會わかる無し、登臨せる意こころを。 説ふを休めよ鱸魚ろぎょは膾なますに堪たへると、 西風儘き、季鷹きよう歸りきや未だしや。 求田問舎、 怕おそらく應に見まみゆるを羞ずべし、 劉郞の才氣に。 惜む可し流年うつろい、 風雨に憂愁す、 樹猶ほ此くの如し。 倩こふ何人なんびとか、 紅巾こうきん翠袖すいしうを喚び取りて、 搵ぬぐへかし英雄の涙を。 |
醉裏挑燈看劍、
夢回吹角連營。 八百里分麾下灸、 五十絃翻塞外聲。 沙場秋點兵。 馬作的廬飛快、 弓如霹靂弦驚。 了却君王天下事、 贏得生前身後名。 可憐白髮生。 |
醉裏燈を挑かきたてて劍を看、
夢は回めぐる角吹ける連營を。 八百里うしは麾下に分かちて灸あぶり、 五十絃は翻かなづ塞外の聲を。 沙場秋に兵を點ず。 馬は的廬の作ごとく飛快し、 弓は霹靂の如く弦驚かす。 了却せん君王の天下の事を、 贏かち得ん生前身後の名を。 憐む可べし白髮の生ぜしを。 |
滿江紅 漢水東流、 都洗盡、髭胡膏血。 人盡説、君家飛將、 舊時英烈。 破敵金城雷過耳、 談兵玉帳冰生頬。 想王郞、 結髮賦從戎、 傳遺業。 腰間劍、聊彈鋏。 尊中酒、堪爲別。 況故人新擁、 漢壇旌節。 馬革裹屍當自誓、 蛾眉伐性休重説。 但從今、 記取楚臺風、 庾樓月。 |
漢水は東に流れ、 都すべて洗ひ盡くす、髭の胡の膏血を。 人は盡ことごとく説いふ、君家の飛將、 舊時の英烈。 敵を金城に破れば雷耳を過よぎり、 兵を玉帳に談ずれば冰頬に生ず。 王郞を想ふに、 結髮して戎に從ふを賦す、 遺業を傳ふ。 腰間の劍、聊いささか鋏つるぎを彈ぜん。 尊中の酒、別を爲すに堪へんや。 況んや故人新たに擁す、 漢壇の旌節。 馬 蛾眉性を伐せんこと重ねて説くを休めん。 但だ今從より、 記し取えたれ楚臺の風、 庾樓の月を。 |
壯歳旌旗擁萬夫。
錦襜突騎渡江初。 燕兵夜娖銀胡騄、 漢箭朝飛金僕姑。 追往事、歎今吾。 春風不染白髭鬚。 却將萬字平戎策、 換得東家種樹書。 |
壯歳旌旗萬夫を擁めし。
錦襜突騎渡江の初め。 燕兵夜に娖ふ銀胡騄、 漢箭朝に飛ばす金僕姑。 往事を追ひ、今の吾を歎く。 春風は染めず白き髭鬚を。 却て萬字の平戎策を將もって、 換へ得ん東家種樹の書に。 |
更能消、幾番風雨、
怱怱春又歸去。 惜春長恨花開早、 何況落紅無數。 春且住、見説道、 天涯芳草無歸路。 怨春不語、 算只有殷勤、 畫簷蛛網、 盡日惹飛絮。 長門事、 準擬佳期又誤。 蛾眉曾有人妬。 千金縱買相如賦、 脈脈此情誰訴。 君莫舞、君不見、 玉環飛燕皆塵土。 閒愁最苦。 休去倚危樓、 斜陽正在、 煙柳斷腸處。 |
更に幾番の風雨を消すごすこと能あたふや、
怱怱として春は又歸り去く。 惜春長つねに恨むは花の開くことの早きを、 何ぞ況んや落紅の無數なるをや。 春よ且しばし住とどまれ、見説道みるならく、 天涯芳草歸路を無くすと。 怨む春の語らざるを、 算ふるに只だ殷勤に有るは、 畫簷の蛛網の、 盡日飛絮を惹ひくことのみ。 長門の事、 準擬するに佳期又た誤れり。 蛾眉曾て人の妬む有り。 千金にて縱たとひ相如の賦を買ふとも、 脈脈たる此の情誰にか訴へん。 君舞ふ莫れ、君見ずや、 玉環飛燕皆塵土となるを。 閒愁最も苦しむ。 去きて倚よる休なかれ危樓に、 斜陽正に在るは、 煙柳斷腸の處。 |
渡江天馬南來、
幾人眞是經綸手。 長安父老、 新亭風景、 可憐依舊。 夷甫諸人、 神州沈陸、 幾曾回首。 算平戎萬里、 功名本是、眞儒事、 公知否。 況有文章山斗、 對桐陰、満庭淸晝。 當年墮地、 而今試看、 風雲奔走。 綠野風煙、 平泉草木、 東山歌酒。 待他年整頓、 乾坤事了、 爲先生壽。 |
江を渡りて天馬南に來る、
幾人ぞ眞に是れ經綸の手は。 長安の父老、 新亭の風景、 憐む可し舊に依る。 夷甫諸人、 神州沈陸す、 幾たびか曾て回首す。 算ふるに戎を平ぐこと萬里、 功名は本是れ、眞儒事す、 公知るや否や。 況んや文章の山斗有りて、 桐陰、満庭の淸晝に對す。 當年地に墮ち、 而今試みに看よ、 風雲に奔走す。 綠野の風煙、 平泉の草木、 東山の歌酒。 他年を待って、 乾坤の事を整頓し了をへれば、 先生の爲に壽かん。 |
身世酒杯中、
萬事皆空。 古來三五個英雄。 雨打風吹何處是、 漢殿秦宮。 夢入少年叢、 歌舞匆匆。 老僧夜半誤鳴鐘。 驚起西窗眠不得、 卷地西風。 |
身世酒杯の中、
萬事皆空たり。 古來三五個の英雄。 雨に打たれ風に吹かれ何處か是れ、 漢殿秦宮なる。 夢は入る少年の叢、 歌舞匆匆たり。 老僧夜半誤りて鐘を鳴らし。 驚き起きて西窗に眠り得ず、 地を卷く西風。 |
醉裡且しばし歡笑を貪らんも、 愁ひを要す那なんぞ功夫ひまを得んや。 近來始めて覺る古人の書、 著はせしを信ぜしも是とする處全て無し。 昨夜松の邊に醉ひ倒れ、 松に問ふ我が醉ひ何如ぞ? 只だ疑がふ松の動きて來り扶けんとす、 手を以って松を推して曰く:「去れ!」 |
陌上の柔かき桑嫩芽を破り、 東鄰の蠶種已に生まれること些かばかり。 平岡の細草に黄犢鳴き、 斜日の寒林に暮鴉點ず。 山は遠く近く、路は橫に斜めに、 靑旗酒を沽る人家有り。 城中の桃李風雨を愁ひ、 春は溪頭の薺菜花に在り。 |
鷓鴣天 人を送る 陽關を唱ひ徹して涙未だ乾かず、 功名は餘事にして且しばし加餐せよ。 天を浮べる水は送る無窮の樹、 雨を帶びる雲は埋める一半の山。 今古の恨は、幾千般にして、 只だ應まさに離合のみ是れ悲歡なりや? 江頭未だ是れ風波惡あしからざるも、 別に人間じんかんに行路の難きが有り。 |
阮郎歸 耒陽道中爲張處父推官賦 |
山前燈火欲黄昏、
山頭來去雲。 鷓鴣聲裡數家村、 瀟湘逢故人。 揮羽扇、整綸巾、 少年鞍馬塵。 如今憔悴賦招魂、 儒冠多誤身。 |
山前の燈火黄昏にならんと欲し、
山頭に雲來去す。 鷓鴣聲裡數家の村、 瀟湘に故人に逢ふ。 羽扇を揮ひ、綸巾を整へ、 少年鞍馬に塵す。 如今憔悴して「招魂」を賦す、 儒冠多くは身を誤らす。 |
春水、千里、 孤舟浪起こし、 夢に西子を携ふ。 覺め來れば村巷に夕陽斜めなり。 幾く家の、短ひくき墻かきの紅き杏の花。 晩雲做り造いだす些兒いささかの雨、 花を折りて去る、岸上誰が家の女むすめぞ。 太はなはだ狂顛。 那かの邊り、柳綿、 風に吹か被れて天に上る。 |
遶牀飢鼠、
蝙蝠翻燈舞。 屋上松風吹急雨、 破紙窗間自語。 平生塞北江南、 歸來華髮蒼顏。 布被秋宵夢覺、 眼前萬里江山。 |
牀とこを遶めぐる飢ゑたる鼠、
蝙蝠燈に翻りて舞ふ。 屋上の松風急雨に吹く、 破紙の窗間自ら語る。 平生塞北江南、 歸り來たれば華髮蒼顏。 布被秋宵に夢より覺さむれば、 眼前に萬里の江山。 |
落日塞塵起、
胡騎獵淸秋。 漢家組練十萬、 列艦聳高樓。 誰道投鞭飛渡、 憶昔鳴髇血汚、 風雨佛狸愁。 季子正年少、 匹馬黑貂裘。 今老矣、 掻白首、過揚州。 倦游欲去江上、 手種橘千頭。 二客東南名勝、 萬卷詩書事業、 嘗試與君謀。 莫射南山虎、 直覓富民侯。 |
落日塞塵を起こし、
胡騎淸秋に獵す。 漢家の組練十萬、 艦を列ねて高樓を聳えしむ。 誰か道はからん鞭を投ずるがごとくして飛渡し、 昔を憶ふに鳴髇の血汚あり、 風雨佛狸を愁ふ。 季子正に年少にして、 匹馬の黑き貂裘。 今老いたり、 白首を掻けば、揚州を過ぐ。 游に倦うみて江上に去らんと欲し、 手づから種うう橘千頭。 二客は東南の名ある勝すぐれしひとにして、 萬卷の詩書の事業、 嘗て試みに君與と謀はかれり。 射る莫れ南山の虎を、 直ひとへに覓もとめよ富民侯を。 |
漢中開漢業、
問此地、是耶非。 想劍指三秦、 君王得意、 一戰東歸。 追亡事、今不見、 但山川滿目涙沾衣。 落日胡塵未斷、 西風塞馬空肥。 一編書是帝王師。 小試去征西。 更草草離筵、 怱怱去路、 愁滿旌旗。 君思我、回首處、 正江涵秋影雁初飛。 安得車輪四角、 不堪帶減腰圍。 |
漢中は漢業を開く、
問ふ此の地、是ぜなり耶や非いなや。 想ふに劍は三秦を指し、 君王意を得、 一戰すれば東のかたは歸くだる。 亡にぐるを追ふ事、今は見えず、 但だ山川滿目涙は衣を沾うるほす。 落日の胡塵は未だ斷たたざるも、 西風に塞馬は空しく肥ゆ。 一編の書は是これ帝王の師。 小いささか試みに西に征とりに去ゆけ。 更に草草たる離筵、 怱怱たる去路、 愁ひは旌旗に滿つ。 君の我を思ひ、首かうべを回めぐらさん處とき、 正まさに江は秋影を涵ひたして雁初めて飛ばん。 安いづくんぞ得ん車輪の四角なるを、 帶の腰圍まはりを減ずるに堪へず。 |