花間集 [索引] [書架]

 菩薩蠻
唐・温庭筠
小山重疊金明滅、
鬢雲欲度香顋雪。
懶起畫蛾眉。
弄妝梳洗遲。

照花前後鏡。
花面交相映。
新帖繡羅襦。
雙雙金鷓鴣。



小山重疊して金明滅、
鬢の雲度わたらんと欲香顋の雪に。
懶げに起き蛾眉を畫く。
妝を弄び梳洗遲し。

花を照らす前後の鏡。
花面交こもごも相ひ映ず。
新たに帖りて羅襦に綉りするは、
雙雙金の鷓鴣。

 菩薩蠻
唐・温庭筠
玉樓明月長相憶。
柳絲裊娜春無力。
門外草萋萋。
送君聞馬嘶。

畫羅金翡翠。
香燭消成涙。
花落子規啼。
綠窗殘夢迷。



玉樓明月長へに相ひ憶ふ。
柳絲裊娜として春無力。
門外草萋萋たり。
君を送れば馬の嘶くを聞けり。

いろうつくしきうすぎぬ金の翡翠。
かぐはしき燭消とけて涙を成し、
花落ちて子規啼けば、
綠窗に殘夢迷ふ。

 菩薩蠻
唐・蜀・韋莊
人盡説江南好、
遊人只合江南老。
春水碧於天、
畫船聽雨眠。

爐邊人似月、
皓腕凝雙雪。
未老莫還鄕、
還鄕須斷腸。



人人盡く説く江南は好しと、
遊人只だ合まさに江南に老ゆべし。
春水は天よりも碧あおく、
畫船がせんに雨を聽きて眠る。

邊人は月の似く、
しろき腕かいなは雙つの雪を凝らせる。
未だ老いざれば鄕に還かえる莫かれ、
鄕に還かえらば須すべからく斷腸すべし。

 菩薩蠻
唐・蜀・韋莊
紅樓別夜堪惆悵。
香燈半捲流蘇帳。
殘月出門時。
美人和涙辭。

琵琶金翠羽。
絃上黄鶯語。
勸我早歸家。
綠窗人似花。



紅樓の別れの夜惆悵に堪へんや。
香燈に半ば捲く流蘇の帳とばりを。
殘月門を出でし時、
美人涙と和ともに辭す。

琵琶金翠の羽。
絃上黄鶯語るに:
我に勸む早つとに家に歸れと。
綠窗に人花の似ごとし。

 荷葉杯
唐・蜀・韋莊
得那年花下。
深夜。初識謝娘時。
水堂西面畫簾垂。
攜手暗相期。

惆悵曉鶯殘月。
相別。從此隔音塵。
如今倶是異鄕人。
相見更無因。



記し得たり那の年花の下もと
深夜。初めて謝娘しゃじょうを識りし時。
水堂の西面は畫簾がれん垂れ。
手を攜たずさへ暗ひそかに相ひ期す。

惆悵ちゅうちょうたり曉の鶯殘なごりの月。
ひ別れ。此これり音塵を隔つ。
如今いまともに是これ異鄕の人。
ひ見まみゆるに更に因よし無し。

 更漏子
唐・温庭筠
見稀、相憶久。
眉淺淡烟如柳。
垂翠幕、結同心。
侍郞燻綉衾。

城上月。白如雪。
蝉鬢美人愁絶。
宮樹暗、鵲橋橫。
玉籤初報明。



ひ見まみゆること稀まれに、相ひ憶おもふこと久し。
眉淺く淡く烟かすめること柳の如し。
みどりの幕を垂らし、同心を結ぶ。
きみに侍はべりて綉うすぎぬの衾しとねを燻くんず。

城上の月。白きこと雪の如し。
蝉鬢せんびんの美人愁絶す。
宮樹暗く、鵲橋ぎんが橫たはる。
玉籤せん初めて明あかつきを報ず。

 浣溪沙
唐・蜀・韋莊
夜相思更漏殘。
傷心明月凭欄干。
想君思我錦衾寒。

咫尺畫堂深似海、
憶來唯把舊書看。
幾時攜手入長安。



夜夜相ひ思ひて更漏殘すたれ。
明月に傷心して欄干に凭る。
君を想ふに我を思ひて錦の衾しとね寒からん。

咫尺しせきの畫堂深きこと海に似、
憶ひ來って唯だ舊き書ふみを把りて看る。
いづれの時か手を攜へて長安に入らん。

 夢江南
唐・蜀・温庭筠
千萬恨、恨極在天涯。
山月不知心裏事、
水風空落眼前花。
揺曳碧雲斜。



千萬の恨み、恨みの極まれるは天涯に在り。
山月は知らず心裏の事、
水風は空しく落つ眼前の花。
碧雲揺曳して斜めなり。

 夢江南 其二
唐・蜀・温庭筠
梳洗罷、獨倚望江樓。
過盡千帆皆不是、
斜暉脈脈水悠悠。
腸斷白蘋洲。



梳洗そせんをはり、獨り江樓に倚りて望む。
過ぎ盡くす千帆皆是ならず、
斜暉脈脈として水悠悠。
腸斷す白蘋ひんの洲。

 思帝鄕
唐・蜀・韋莊
春日遊、杏花吹滿頭。
陌上誰家年少、
足風流。
妾擬將身嫁與、
一生休。
縱被無情棄、不能羞。



春日遊ぶ、杏花吹きて頭に滿つ。
あぜみち上誰が家の年少ぞ、
はなはだ風流いき
わらはおもふに身を嫁與ゆだぬとも、
一生休んぜん。
たとひ無情に棄てらるるとも、羞づ能あたはず。

 採蓮子 其二
唐・皇甫松
船動湖光灧灧秋。
貪看年少信船流。
無端隔水抛蓮子、
遙被人知半日羞。



船は湖光を動かし灧灧たる秋。
年少を貪り看て船の流るるに信まかす。
端無くも水を隔てて蓮子を抛れば、
遙か人に知られて半日羞づ。

 女冠子
唐・蜀・韋莊
四月十七、
正是去年今日。
別君時。
忍涙佯低面、
含羞半斂眉。

不知魂已斷、
空有夢相隨。
除卻天邊月、沒人知。



四月十七、
正に是れ去年の今日。
君と別れし時。
涙を忍びて佯いつはりて面を低げ、
はぢらひを含みて眉を斂む。

知らず魂ひ已に斷たれ、
空しく夢に相ひ隨ふ有り。
天邊の月を除卻せば、人の知る沒し。

 女冠子
唐・蜀・韋莊
昨夜夜半、
枕上分明夢見。
語多時。
依舊桃花面、
頻低柳葉眉。

半羞還半喜、
欲去又依依。
覺來知是夢、不勝悲。



昨夜夜半、
枕上分明に夢に見まみゆ。
語ること多時にわたる。
舊に依る桃花の面かほ
頻に低ぐ柳葉の眉を。

半ば羞ぢ還た半ば喜び、
去らんと欲して又依依たり。
覺め來って知るは是れ夢、悲みに勝へず。

 更漏子
唐・温庭筠
玉爐香、紅蝋涙。
偏照畫堂秋思。
眉翠薄、鬢雲殘。
夜長衾枕寒。

梧桐樹。三更雨。
不道離情正苦。
一葉葉、一聲聲。
空階滴到明。



玉爐香り、紅蝋涙して、
まさに畫堂の秋思を照らす。
眉の翠薄れ、鬢雲殘くづる。
夜長くして衾枕寒し。

梧桐の樹。三更の雨は。
らず離情正に苦なるを。
一葉葉、一聲聲。
空階に滴りて明あかつきに到る。

 望江怨
牛嶠
東風急、
惜別花時手頻執、
羅帷愁獨入。
馬嘶殘雨春蕪濕、
倚門立。
寄語薄情郞、
粉香和涙泣。



東風急つよく、
花に惜別せん時手に頻りに執る、
羅帷に愁ひて獨り入る。
馬嘶けば殘雨春蕪を濕ほす、
門に倚りて立たずむ。
語を寄す薄情の郞に、
粉香涙と和ともに泣くと。

 菩薩蠻 其四
唐・蜀韋莊
勸君今夜須沈醉、
樽前莫話明朝事。
珍重主人心、
酒深情亦深。

須愁春漏短、
莫訴金杯滿。
遇酒且呵呵、
人生能幾何?



君に勸む今夜須すべからく沈醉すべし、
樽前に話す莫なかれ明朝の事を。
珍重す主人の心、
酒深くして情も亦た深し。

すべからく愁ふべし春漏の短きを、
訴ふる莫れ金杯に滿ちたるを。
酒に遇ひては且しばし呵呵かかたれ、
人生能く幾何いくばくぞ?

 後庭花 其二
唐・宋・孫光憲
石城依舊空江國、
故宮春色。
七尺靑絲芳草碧、
絶世難得。

玉英凋落盡、
更何人識。
野棠如織、
只是敎人添怨憶、
悵望無極。



石城舊に依りて空しき江國、
故宮は春色。
七尺の靑絲芳草碧なり、
絶世得がたし。

玉英凋しぼみ落ちて盡き、
更に何人なんぴとか識らん。
野棠織るが如く、
只だ是れ人をして怨憶を添へ敎む、
悵望極り無し。

 蝴蝶兒
張泌
蝴蝶兒、晩春時。
阿嬌初着淡黄衣、
倚窗學畫伊。

還似花間見、
雙雙對對飛。
無端和涙拭臙脂、
惹敎雙翅垂。



蝴蝶兒、晩春の時。
阿嬌初めて着る淡黄の衣を、
窗に倚りて伊これを畫くを學ぶ。

還ほも似たり花間に見えしに、
雙雙對對として飛ぶ。
はし無くも涙に和して臙脂を拭へば、
雙翅をして垂らせ敎むを惹まねく。

 採蓮子 其一
唐・皇甫松
菡萏香蓮十頃陂。
小姑貪戲採蓮遲。
晩來弄水船頭濕、
更脱紅裙裹鴨兒。



菡萏香蓮十頃の陂いけ
小姑戲あそびに貪ふけり蓮を採ること遲し。
晩來水を弄びて船頭濕る、
更に紅裙を脱して鴨兒を裹む。

 訴衷情
顧夐
永夜抛人何處去、
絶來音。香閣掩。
眉斂。月將沈。
怎忍不相尋。怨孤衾。
換我心爲你心。
始知相憶深。



永き夜人を抛て何處いづこへか去り、
たより來たること絶ゆ。香閣掩とざし、
眉斂ひそめ、月將に沈まんとせば。
いかでか忍ばん相ひ尋ねざるを。孤衾を怨む。
我が心を換へて你なんぢが心と爲し、
始めて知る相ひ憶ふことの深きを。

 酒泉子
温庭筠
花映柳條、
閑向綠萍池上。
凭欄干、窺細浪、
雨蕭蕭。

近來音信兩疏索、
洞房空寂寂。
掩銀屏、垂翠箔、
度春宵。



花は柳條に映じ、
閑に向ふ綠萍の池上。
欄干に凭り、細浪を窺へば、
雨蕭蕭たり。

近來音信兩ふたつながら疏索まれに、
洞房空しく寂寂たり。
銀屏にて掩ひ、翠箔を垂らし、
春宵を度わたる。

 應天長
韋莊
綠槐陰裏黄鶯語。
深院無人春晝午。
畫簾垂、金鳳舞。
寂莫綉屏香一炷。

碧天雲、無定處。
空有夢魂來去。
夜夜綠窗風雨。
斷腸君信否。



綠槐陰裏黄鶯語り。
深院人無く春の晝午さがり。
畫簾垂らせば、金鳳舞ひ。
寂莫たる綉屏に香一炷すぢ

碧天の雲、定める處無し。
空しく夢魂の來去有るのみ。
夜夜綠窗に風雨ありて。
斷腸せるを君信ずや否や。

 淸平樂
韋莊
何處遊女、
蜀國多雲雨。
雲解有情花解語、
窣地綉羅金縷。

妝成不整金鈿。
含羞待月鞦韆。
住在綠槐陰裏、
門臨春水橋邊。



何處の遊女ぞ、
蜀國雲雨多し。
雲は情を有し花は語を解す、
窣地さらさらたる綉羅金縷。

よそほひ成るも金鈿整はず。
羞ひを含み月を鞦韆に待つ。
綠槐の陰裏住みて在り、
門は臨む春水の橋邊に。

 菩薩蠻
韋莊
洛陽城裏春光好、
洛陽才子他鄕老。
柳暗魏王堤。
此時心轉迷。

桃花春水綠、
水上鴛鴦浴。
凝恨對殘暉、
憶君君不知。



洛陽城裏春光好く、
洛陽の才子他鄕に老ゆ。
柳は暗ふかし魏王の堤。
此の時心轉うたた迷ふ。

桃花春水綠にして、
水上に鴛鴦浴みづあびす。
恨を凝らして殘暉に對し、
君を憶おもへど君は知らず。

 夢江南
皇甫松
蘭燼落、屏上暗紅蕉。
閒夢江南梅熟日、
夜船吹笛雨蕭蕭。
人語驛邊橋。



蘭燼落ち、屏上紅蕉暗し。
閒やかに夢む江南の梅熟す日を、
夜船に笛吹き雨蕭蕭たり。
人は語る驛邊の橋。

 浣溪沙
唐・蜀・韋莊
淸曉妝成寒食天、
柳球斜裊間花鈿、
捲簾直出畫堂前。

指點牡丹初綻朶、
日高猶自凭朱欄、
含顰不語恨春殘。



淸曉妝よそほひ成る寒食の天、
柳球斜めに裊でうとして花鈿を間す、
簾を捲き直ちに出づ畫堂の前。

指點す牡丹の初めて綻ほころべる朶えだを、
日高くして猶ほも自ら朱欄に凭り、
顰を含むも語らず春殘を恨むを。

 賀明朝
唐・五代・宋・歐陽炯
憶昔花間初識面、
紅袖半遮妝臉。
輕轉石榴裙帶、
故將繊纖玉指、
偸撚雙鳳金綫。

碧梧桐鎖深深院、
誰料得、
兩情何日敎繾綣。
羨春來雙燕、
飛到玉樓、朝暮相見。



憶ふ昔花間に初めて面かほを識りしとき、
紅袖にて半ば妝臉を遮れり。
輕やかに石榴の裙帶を轉ひるがへし、
ことさらに纖纖たる玉指を將って、
ひそかに雙ならべる鳳の金の綫いとを撚る。

碧き梧桐は深深たる院にはを鎖とざし、
たれか料はかり得て、
兩情何いづれの日か繾綣せしめん。
羨む春來の雙燕、
玉樓に飛び到り、朝暮相ひ見まみゆるを。

 南歌子
唐・温庭筠
手裏金鸚鵡、
胸前綉鳳凰。
偸眼暗形相、
不如從嫁與、作鴛鴦。



手裏に金の鸚鵡、
胸前に鳳凰を綉ぬひとる。
ぬすみ眼て暗ひそかに形相し、
嫁ぐに如かず、鴛鴦と作らん。

 江城子
歐陽炯
晩日金陵岸草平、
落霞明、水無情。
六代繁華、
暗逐逝波聲、
空有姑蘇臺上月、
如西子鏡、照江城。



晩日ゆふべ金陵の岸草平かに、
落霞明かにして、水無情なり。
六代の繁華、
ひそかに逝波の聲を逐ふ;
姑蘇臺上の月空しく有りて、
西子の鏡の如く、江城を照らす。

 南鄕子
李珣
相見處、晩晴天、
刺桐花下越臺前。
暗裡回眸深屬意、
遺雙翠、
騎象背人先過水。



相ひ見まみゆる處、晩くれの晴れたる天、
刺桐の花の下越臺の前。
暗裡に眸ひとみを回めぐらし深く意を屬たくし、
雙翠を遺のこし、
象に騎り人に背むけて先さきに水を過わたる。

 淸平樂
毛熙震
春光欲暮、
寂寞閒庭戸。
粉蝶雙雙穿檻舞、
簾卷晩天疏雨。

含愁獨倚閨幃、
玉鑪煙斷香微。
正是銷魂時節、
東風滿樹花飛。



春光暮んと欲し、
寂寞閒たる庭戸。
粉蝶雙雙として檻を穿ちて舞ふ、
簾卷かるれば晩天に疏雨。

愁を含み獨り閨の幃に倚り、
玉鑪煙は斷たれ香は微かなり。
正に是これ銷魂の時節、
東風樹に滿ちて花を飛ばす。

 南鄕子
李珣
乘彩舫、過蓮塘。
棹歌驚起睡鴛鴦。
游女帶香偎伴笑、
爭窈窕。
競折團荷遮晩照。



彩舫に乘りて、蓮塘を過ぐ。
棹歌は驚き起こす睡れる鴛鴦を。
游女香を帶び偎よりそひて笑ひを伴ひ、
窈窕たるを爭ひ、
競ひて團荷を折りて晩照を遮る。

 生査子
牛希濟
春山煙欲收、
天澹稀星小。
殘月臉邊明、
別涙臨清曉。

語已多、情未了、
迴首猶重道。
記得緑羅裙、
處處憐芳草。



春山煙收まらんと欲し、
天澹くして稀星小し。
殘月臉邊に明く、
別涙清曉に臨む。

語ること已に多けれど、情未だ了をはらず、
迴首して猶ほ重ねて道ふ。
記し得たり緑の羅裙を、
處處に芳草を憐めかし。

 醉花間
毛文錫
休相問、怕相問、
相問還添恨。
春水滿塘生、
鸂鶒還相趁。

昨夜雨霏霏、
臨明寒一陣。
偏憶戍樓人、
久絶邊庭信。



相ひ問ふを休めよ、相ひ問ふを怕おそる、
相ひ問はば還た恨みを添ふ。
春水滿塘に生じ、
鸂鶒還た相ひ趁ふ。

昨夜雨霏霏として、
あかつきに臨みて寒さ一陣。
ひとへに憶おもふ戍樓の人、
久しく邊庭の信を絶つ。

 菩薩蠻
韋莊
如今却憶江南樂、
當時年少春衫薄。
騎馬倚斜橋、
滿樓紅袖招。

翠屏金屈曲、
醉入花叢宿。
此度見花枝、
白頭誓不歸。



如今却って憶ふ江南の樂しかりきを、
當時の年少春衫薄し。
騎馬斜橋に倚れば、
滿樓の紅袖招く。

翠の屏金の屈曲、
醉ひ入る花叢の宿に。
此の度たび花枝に見まみゆれば、
白頭になるも誓って歸らじ。

 淸平樂
韋莊
野花芳草、
寂寞關山道。
柳吐金絲鶯語早、
惆悵香閨暗老。

羅帶悔結同心、
獨凭朱欄思深。
夢覺半床斜月、
小窗風觸鳴琴。



野花芳草、
寂寞たる關山の道。
柳は金絲を吐き鶯語は早く、
惆悵たり香閨に暗かに老ゆるを。

羅帶に同心を結べるを悔み、
獨り朱欄に凭れば思ひ深し。
夢より覺むれば半床に斜月、
小窗より風觸りて琴を鳴らす。

 淸平樂
韋莊
春愁南陌。
故國音書隔。
細雨霏霏梨花白。
燕拂畫簾金額。

盡日相望王孫、
塵滿衣上涙痕。
誰向橋邊吹笛、
駐馬西望消魂。



春愁の南陌。
故國音書隔つ。
細雨霏霏として梨花白し。
燕は畫簾金額を拂ふ。

盡日王孫相ひ望み、
塵は衣上の涙痕に滿つ。
誰か橋邊向て笛を吹く、
馬を駐とどめて西を望みて消魂す。

 謁金門
韋莊
空相憶、
無計得傳消息。
天上嫦娥不識、
寄書何處覓。

新睡覺來無力、
不忍把伊書跡。
滿院落花春寂寂、
斷腸芳草碧。



空しく相ひ憶ひ、
消息を傳へ得る計無し。
天上の嫦娥も識らずして、
書を寄さんとて何處にか覓もとむる。

新たに睡りより覺め來りて力無く、
の書跡を把たば忍びず。
滿院の落花春寂寂として、
芳草の碧きに斷腸す。

 竹枝詞
唐五代・孫光憲
門前春水白蘋花、
岸上無人小艇斜。
商女經過江欲暮、
散抛殘食飼神鴉。



門前の春水白蘋の花、
岸上は無人にして小艇は斜す。
商女經過ぎて江暮れんと欲し、
殘食を散き抛て神鴉に飼ふ。

 竹枝詞
唐五代・孫光憲
亂繩千結絆人深、
越羅萬丈表長尋。
楊柳在身垂意緒、
藕花落盡見蓮心。



亂れし繩千結すれば人を絆むすぶこと深く、
越の羅萬丈なれど表おもての長たけは尋一ひろ
楊柳身に在りて意緒を垂らし、
藕花落り盡して蓮心見あらはる。

 謁金門
孫光憲
留不得。
留得也應無益。
白紵春衫如雪色。
揚州初去日。

輕別離、甘抛擲。
江上滿帆風疾。
卻羨彩鴛三十六、
孤鸞還一隻。



留め得ずして。
留め得たる也また應まさに無益なるべし。
白紵の春衫雪の如き色。
揚州に初めて去りし日。

別離を輕んじ、抛擲に甘んず。
江上の滿帆風疾し。
卻って羨む彩鴛三十六、
孤鸞還た一隻。

 楊柳枝
顧夐
秋夜香閨思寂寥、
漏迢迢。
鴛帷羅幌麝煙銷、
燭光搖。

正憶玉郞遊蕩去、
無尋處。
更聞簾外雨蕭蕭、
滴芭蕉。



秋夜香閨に思ひ寂寥として、
とき迢迢たり。
鴛帷羅幌に麝煙銷え、
燭光搖らぐ。

まさに憶おもふ玉郞遊蕩に去り、
尋ぬるに處無し。
更に聞く簾外に雨蕭蕭として、
芭蕉に滴るを。

 楊柳枝
張泌
膩粉瓊妝透碧紗、
雪休誇。
金鳳掻頭墮鬢斜、
髮交加。

倚著雲屏新睡覺、
思夢笑。
紅腮隱出枕函花、
有些些。



膩粉瓊妝碧紗を透し、
雪誇るを休めよ。
金鳳の掻頭鬢より墮ちんとして斜めに、
髮交こもごも加はる。

雲屏に倚りて新たに睡りより覺め、
夢を思ひて笑む。
紅腮さい隱し出す枕函の花、
些些いささかばかり有り。

 定西番
毛熙震
蒼翠濃陰滿院、
鶯對語、蝶交飛、
戲薔薇。

斜日倚欄風好、
餘香出綉衣。
未得玉郞消息、
幾時歸。



蒼翠滿院に濃陰たりて、
鶯對して語り、蝶交り飛びて、
薔薇に戲る。

斜日欄に倚れば風好く、
餘香綉衣を出づ。
未だ玉郞の消息を得ざれば、
幾れの時にか歸らん。

 河滿子
和凝
正是破瓜年幾、
含情慣得人饒。
桃李精神鸚鵡舌、
可堪虚度良宵。
卻愛藍羅裙子、
羨他長束繊腰。



まさに是れ破瓜の年幾、
情を含み慣あまえ得て人に饒ゆるさる。
桃李の精神鸚鵡の舌、
なんぞ堪へる可けんや虚むなしく良宵を度すごすに。
ひとへに愛す藍あをき羅うすぎぬの裙子スカート
羨む他の長ひさしく繊腰を束むるを。

 浣溪沙
薛昭蘊
傾國傾城恨有餘、
幾多紅涙泣姑蘇、
倚風凝睇雪肌膚。

呉主山河空落日、
越王宮殿半平蕪、
藕花菱蔓滿重湖。



傾國傾城恨み餘り有り、
幾多の紅涙姑蘇に泣く、
風に倚り睇ひとみを凝らせば雪の肌膚。

呉主の山河空しく落日、
越王の宮殿半ば平蕪、
はす花さき菱ひしびて重湖に滿つ。

 更漏子
唐・温庭筠
背江樓、臨海月。
城上角聲嗚咽。
堤柳動、島煙昏。
兩行征雁分。

京口路。歸帆渡。
正是芳菲欲度。
銀燭盡、玉繩低。
一聲村落鷄。



江樓に背き、海月に望む。
城上の角聲嗚咽をえつす。
堤柳は動き、島は煙かすみて昏くらし。
兩行に征雁分かる。

京口の路。歸帆の渡。
まさに是れ芳菲度わたらんと欲す。
銀燭盡き、玉繩低し。
一聲す村落の鷄。

[索引]
菩薩蠻荷葉杯更漏子
浣溪沙夢江南仝二思帝鄕採蓮子
女冠子望江怨後庭花蝴蝶兒訴衷情酒泉子應天長
淸平樂賀明朝南歌子江城子南鄕子
生査子醉花間謁金門竹枝詞添聲楊柳枝
定西番河滿子


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