寶刀歌 漢家宮闕斜陽裏、 五千餘年古國死。 一睡沈沈數百年、 大家不識做奴恥。 憶昔我祖名軒轅、 發祥根據在崑崙。 闢地黄河及長江、 大刀霍霍定中原。 痛哭梅山可奈何? 帝城荊棘埋銅駝。 幾番囘首京華望、 亡國悲歌涙涕多。 北上聯軍八國衆、 把我江山又贈送。 白鬼西來做警鐘、 漢人驚破奴才夢。 主人贈我金錯刀、 我今得此心英豪。 赤鐵主義當今日、 百萬頭顱等一毛。 沐日浴月百寶光、 輕生七尺何昂藏? 誓將死裏求生路、 世界和平賴武裝。 不觀荊軻作秦客、 圖窮匕首見盈尺。 殿前一撃雖不中、 已奪專制魔王魄。 我欲隻手援祖國、 奴種流傳徧禹域。 心死人人奈爾何? 援筆作此《寶刀歌》 寶刀之歌壯肝膽。 死國靈魂喚起多、 寶刀侠骨孰與儔? 平生了了舊恩仇、 莫嫌尺鐵非英物。 救國奇功賴爾收、 願從茲以天地爲鑪 陰陽爲炭兮、 鐵聚六洲。 鑄造出 千柄萬柄刀兮、 澄淸神州。 上繼我祖黄帝 赫赫之成名兮、 一洗數千數百年 國史之奇羞! |
漢家の宮闕けつ斜陽の裏うち、 五千餘年の古國死す。 一睡沈沈として數百年、 大家みなは識しらず奴やっこと做なるの恥。 憶へ昔我が祖おや名は軒轅けんえん、 發祥の根據は崑崙に在り。 地を闢く黄河及び長江、 大刀霍霍かくかくとして中原を定む。 梅山を痛哭するを奈何いかにすべき? 帝城の荊棘銅駝を埋めたり。 幾番か首を回らして京華を望めば、 亡国の悲歌涙涕多し。 北上せる聯軍八國の衆に、 我が江山を又も贈送す。 白鬼西より來りて警鐘を做し、 漢人驚破す奴才の夢。 主人我に贈る金錯刀、 我今此を得て心英豪たけだけし。 赤鐵主義にて今日に當れば、 百萬の頭顱も一毛に等し。 日に沐し月に浴せば百寳光き、 生を輕んずるの七尺何ぞ昂藏たかぶらん? 誓って死裏に生路を求め、 世界の和平は武裝に賴る。 觀ずや荊軻を秦客と作り、 圖窮って匕首盈尺に見あらわる。 殿前の一撃中あたらずと雖も、 已すでに奪ふ專制魔王の魄。 我隻ひとり手にて祖國を援けんと欲すれど、 奴種流れ傳はり禹域に徧あまねし。 心死せる人人爾を奈何せん? 筆を援り此を作る《寳刀歌》、 寳刀の肝膽に壯たり。 死國の靈喚起多く、 寶刀侠孰與いづれぞ儔なる? 平了了た舊き恩仇を、 嫌ふ莫尺鐵の英物に非ざると。 救國の奇功爾に賴って收めんとせば、 願はくは茲ここ從より天地を以って鑪と爲し、 陰陽は炭と爲し、 鐵は六洲より聚む。 鑄造つくり出す 千柄・萬柄の刀にて、 神州を澄清きよめん。 上より我が祖おや黄帝 赫赫かくかくの成名をうけ繼ぎ、 一洗すすぎす數千數百年 國史の奇羞を! |
寶劍詩 寶劍復寶劍、 羞將報私憾。 斬取仇人頭、 冩入英雄傳。 女辱成自殺、 男甘作順民。 斬馬劍如售、 云何惜此身。 干將羞莫邪、 頑鈍保無恙。 咄嗟雌伏儔、 休冒英雄状。 神劍雖掛壁、 鋒芒世已驚、 中夜發長嘯、 烈烈如梟鳴。 |
寳劍の詩 寶劍復また寶劍、 私憾に報ゆるに將もってすを羞づ。 仇人の頭こうべを斬り取り、 冩かき入らん英雄の傳に。 女は辱しめらるれば自殺を成すも、 男は甘んじて順民と作なる。 斬馬劍 如もし售うらるれば、 云何いかんぞ此の身を惜しまん。 干將は莫邪に羞づ、 頑鈍にして 恙つつが無きを保てるを。 咄嗟なにごとぞ雌伏の儔ともよ、 英雄の状を冒かたるを休やめよ。 神劍壁に掛かると雖いえども、 鋒芒世已に驚く、 中夜長嘯を發するに、 烈烈として梟の鳴くが如し。 |
寶劍歌 炎帝世系傷中絶、 茫茫國恨何時雪? 世無平權祗強權、 話到興亡眦欲裂。 千金市得寶劍來、 公理不恃恃赤鐵。 死生一事付鴻毛、 人生到此方英傑。 饑時欲啖仇人頭、 渇時欲飮匈奴血。 侠骨崚嶒傲九州、 不信大剛剛則折。 血染斑斑已化碧、 漢王誅暴由三尺。 五胡亂晉南北分、 衣冠文弱難辭責。 君不見 劍氣棱棱貫斗牛? 胸中了了舊恩仇、 鋒芒未露已驚世、 養晦京華幾度秋。 一匣深藏不露鋒、 知音落落世難逢。 空山一夜驚風雨、 躍躍沈吟欲化龍。 寶光閃閃驚四座、 九天白日闇無色。 按劍相顧讀史書、 書中誤國多奸賊。 中原忽化牧羊場、 咄咄腥風吹禹城。 除却干將與莫邪、 世界伊誰開暗黑。 斬盡妖魔百鬼藏、 澄淸天下本天職。 他年成敗利鈍 不計較、 但恃鐵血主義 報祖國。 |
炎帝の世系傷いたみて中絶せんとし、 茫茫たる國恨何いづれの時か雪すすがん? 世に平權無く祗ただ強權のみありて、 話興亡に到らば眦まなじり裂けんと欲す。 千金市かひ得て寶劍來り、 公理は恃たのまず赤鐵を恃たのむ。 死生の一事鴻毛に付す、 人生此に到らば方まさに英傑。 渇きし時飮まんと欲す匈奴の血を。 侠骨 崚嶒りょうそう九州に傲れり、 大剛を信ぜず剛なれば則ち折る。 血は斑斑と染め已に碧と化す、 漢王誅暴は三尺に由る。 五胡晉を亂して南北に分ち、 衣冠の文弱責を辭し難し。 君見ずや 劍氣棱棱りょうりょう斗牛を貫くを? 胸中了了たり舊き恩仇、 鋒芒未だ露はれざるに已に世を驚し、 養晦じきをまつに京華幾度の秋。 一匣に深く藏して鋒を露はさず、 知音落落として世に逢ひ難し。 空山の一夜風雨に驚き、 躍躍として沈吟龍に化せんと欲す。 寶光閃閃として四座を驚かし、 九天の白日闇として色無し。 劍を按じ相あひ顧かえりみて史書を讀むに、 書中國を誤らせし奸賊多し。 中原忽ち化す牧羊場と、 咄咄とっとつ腥風禹城に吹く。 干將と莫邪を除却せば、 世界 伊これ誰か暗黑を開かん。 妖魔を斬り盡せば百鬼藏ひそみ、 天下を澄まし清めるは本もと天職。 他年の成敗利鈍 計較きにかけずして、 但だ鐵血主義に恃みて 祖國に報ず。 |
本是瑤臺もとこれようだいの第一枝だいいっし、 如何いかんせん?林和靖りんわせいに遇あはざれば、 天涯てんがいを飄泊ひょうはくし更さらに水涯すいがい。 |
黄河の源に溯のぼる浙江の潮、 衞れ我が中華を漢族の豪つわものよ。 滿胡をして片甲を留め使むる莫かれ、 軒轅けんえんの神冑しんちう是天驕てんきょう。 |
漫云女子不英雄、
萬里乘風獨向東。 詩思一帆海空闊、 夢魂三島月玲瓏。 銅駝已陷悲囘首、 汗馬終慚未有功。 如許傷心家國恨、 那堪客裏度春風! |
漫みだりに云ふ女子は英雄たりえずと、
萬里風に乘りて獨り東に向ふ。 詩思一帆海空闊、 夢魂三島月玲瓏。 銅駝已に陷てば悲しみて首を囘らし、 汗馬終に慚づ未だ功有らざるを。 如許いくばくの傷心ぞ家國の恨、 那ぞ堪へん客裏春風を度すに!。 |
秋風曲 秋風起兮百草黄、 秋風之性勁且剛、 能使羣花皆縮首、 助他秋菊傲秋霜。 秋菊枝枝本黄種、 重樓疊瓣風雲湧。 秋月如鏡照江明、 一派淸波敢搖動? 昨夜風風雨雨秋、 秋霜秋露盡含愁。 靑靑有葉畏搖落、 胡鳥悲鳴繞樹頭。 自是秋來最蕭瑟、 漢塞唐關秋思發。 塞外秋高馬正肥、 將軍怒索黄金甲。 金甲披來戰胡狗、 胡奴百萬囘頭走。 將軍大笑呼漢兒、 痛飮黄龍自由酒。 |
秋風の曲 秋風起ちて百草黄ばみ、 秋風之性勁且つ剛、 能く羣花をして皆首を縮め使むれば、 他その秋菊を助けて秋霜に傲る。 秋菊枝枝本黄種、 重樓疊瓣風雲湧く。 秋月鏡の如く江を照して明るく、 一派の淸波敢て搖動す? 昨夜風風雨雨の秋、 秋霜秋露盡く愁ひを含む。 靑靑葉の搖落を畏るる有りて、 胡鳥悲く鳴き樹頭を繞る。 自ら是秋來最も蕭瑟、 漢塞唐關秋思發す。 塞外秋高く馬正に肥ゆれば、 將軍怒りて索むる黄金の甲を。 金甲披ひ來りて胡狗と戰へば、 胡奴百萬頭を囘らして走ぐ。 將軍大笑して漢兒を呼び、 痛飮す黄龍自由の酒を。 |
酒に對す 千金を惜しまず寶刀を買ひ、 貂裘酒に換ふるも也また豪たるに堪へん。 一腔の熱血勤めて珍重せば、 灑ぎ去りて猶ほ能く碧濤と化すがごとし。 |
狡俄陰鷙大無信、
盟約未寒莽尋釁。 全球公理置不珍、 奪我陪都恣蹂躙。 當時讏語至外交、 十年不覺禍以包。 經營未半機謀露、 轉瞬松花起怒濤。 喋血瞋人侈虎視、 蠶食東方勢未止。 明治天皇勇武姿、 獨立精神寒鑑齒。 奮發神威不可當、 投袂掃穴毆貪狼。 將軍愛國皆擐甲、 侠士聞風盡裹糧。 貔貅海上軍容壯、 冒雪凌霜如挾纊。 一炬橫飛敵艦摧、 精魂都向波中喪。 何物幺麼不自思、 怒車螳臂敢相持? 一殲再殲懾其魄、 五日堂堂三報捷。 捷報飛來大地歡、 從今世界慶安瀾。 草木山河皆變色、 未許潛蛟側目看。 仁乎壯哉赤十字、 女子從軍衞戰士。 吁嗟一綫義勇隊、 喚起國魂強宗類。 掀天掲地氣不磨、 吮血呑冰勿蹉跎。 幾欲起舞乘風去、 拍手樽前唱凱歌。 |
狡き俄ロシア陰き鷙大いに信無し、
盟約未だ寒めざるに莽く釁ちまつりを尋む。 全球の公理置きて珍となさず、 我が陪都を奪ひて恣に蹂躙す。 當時讏語しては外交に至り、 十年覺めず禍ひ以て包む。 經營未だ半ばならざるに機謀露はれ、 轉瞬松花に怒濤起こす。 喋血人をして瞋かして虎視侈く、 東方を蠶食す勢未だ止めず。 明治天皇勇武の姿、 獨立精神鑑齒を寒からしむ。 神威を奮發して當る可からず、 袂を投げうちて穴を掃き貪狼を毆らん。 將軍國を愛して皆甲を擐け、 侠士風に聞く盡く糧を裹めると。 貔貅ひきう海上軍容壯として、 雪を冒し霜を凌ぎて纊まわたを挾めるが如し。 一炬橫に飛びて敵艦を摧き、 精魂都すべて波中に喪ふ。 何物ぞ幺麼すこしも自ら思はずして、 怒車に螳臂敢て相ひ持さん? 一たび殲し再たび殲して其の魄を懾し、 五日堂堂三報たび捷つ。 捷報飛び來りて大地歡び、 今從り世界慶安の瀾。 草木山河皆色を變じ、 未だ許さず潛蛟の側目して看るを。 仁なる乎壯なる哉赤十字、 女子從軍して戰士を衞る。 吁嗟一綫の義勇隊、 國魂を喚起し宗類を強む。 天を掀げ地を掲げて氣磨せず、 血を吮ひ冰を呑みても蹉跎する勿れ。 幾たびか起舞し風に乘って去らんと欲し、 樽前に拍手して凱歌を唱はん。 |
萬里乘風去復來、
隻身東海挟春雷。 忍看圖畫移顏色? 肯使江山付劫灰! 濁酒不銷憂國涙、 救時應仗出羣才。 拚將十萬頭顱血、 須把乾坤力挽回。 |
萬里風に乘りて去り復また來り、
隻身せき東海に春雷を挟む。 看るに忍ばんや圖畫の顏色がんしょくを移せしを? 肯あへて江山をして劫灰に付せ使しめんや! 濁酒は銷けさず憂國の涙を、 時を救ふに應に仗たよるべし出羣の才に。 十萬頭顱の血を將もって拚なげうちて、 須すべからく乾坤を力つとめて挽回すべし。 |
祖國淪亡已すでに斯くの若し、 家庭の苦戀太はなはだ情癡。 只だ愁ふ眼を轉ずるまの瓜分慘たり、 百首空しく成る花蕊の詞。 |
事感 竟つひに危巣の燕になれるに有りて、 應まさに憐むべし故國の駝! 東侵の憂ひ未だ已まず、 西望の計如何? 儒士は筆を投おくを思ひ、 閨人は戈を負はんと欲す。 誰か時を濟ふの彦ひとと爲らん、 相ひ與ともに頽波を挽もどさん。 |
鈴木學士東方傑、
磊落襟懷肝膽裂。 一寸常縈愛國心、 雙臂能將萬人敵。 平生意氣凌雲霄、 文驚坐客翻波濤。 睥睨一世何慷慨? 不握纖毫握寶刀。 寶刀如雪光如電、 精鐵鎔成經百煉。 出匣鏗然怒欲飛、 夜深疑共蛟龍戰。 入手風雷繞腕生、 眩睛射面色營營。 山中猛虎聞應遯、 海上長鯨見亦驚。 君言出自安綱冶、 于載成川造成者。 神物流傳七百年、 於今直等連城價。 昔聞我國名昆吾、 叱咤軍前建壯圖。 摩挲肘後有呂氏、 佩之須作王肱股。 古人之物余未見、 未免今生有遺憾。 何幸獲見此寶刀、 頓使庸庸起壯胆。 萬里乘風事壯遊、 如君奇節誰與儔? 更欲爲君進祝語: 他年執此取封侯。 |
鈴木學士は東方の傑、
磊落たる襟懷肝膽裂く。 一寸常に縈ふ愛國心、 雙臂能く萬人を將もって敵あたらん。 平生の意氣雲霄を凌ぎ、 文は坐客を驚かして波濤を翻す。 一世を睥睨して何ぞ慷慨し? 纖毫を握らず寶刀を握る。 寶刀雪の如く光ること電いかづちの如し、 精鐵鎔かし成して百煉を經ふ。 夜深くして疑ふらくは蛟龍共と戰ふかと。 手に入たば風雷腕を繞りて生じ、 睛に眩しく面を射て色營營たり。 山中の猛虎聞かば應に遯のがるべく、 海上の長鯨見れば亦た驚かん。 君は言ふ出自は安綱の冶きたへしもの、 于載成川造り成す者。 神物は流傳す七百年、 今に於て直あたひは等し連城の價に。 昔聞く我國に名は昆吾、 軍前に叱咤して壯圖を建つ。 肘後を摩挲すれば呂氏有り、 之れを佩きて須らく作なれ王の肱股と。 古人之物余未だ見ざれば、 未だ免れず今生に遺憾有るを。 何ぞ幸ひなる見るを獲たり此の寶刀、 頓に庸庸たるを使して壯胆たるを起こさしむ。 萬里風に乘りて壯遊を事とし、 君が如き奇節誰與と儔ともがらならん? 更に君が爲に祝語を進ぜんと欲す: 他年此れを執とりて封侯を取れかし。 |
紅毛刀歌 一泓秋水淨纖毫、 遠看不知光如刀。 直駭玉龍蟠匣内、 待乘雷雨騰雲霄。 傳聞利器來紅毛、 大食日本羞同曹。 濡血便令骨節解、 斷頭不俟鋒刃交。 抽刀出鞘天爲搖、 日月星辰芒驟韜。 斫地一聲海水立、 露鋒三寸陰風號。 陸剸犀象水截蛟、 魍魎驚避魑魅逃。 遭斯刃者凡幾輩? 髑髏成羣血湧濤。 刀頭百萬冤魂泣、 腕底乾坤殺劫操。 朅來掛壁暫不用、 夜夜鳴嘯聲疑鴞。 英靈渇欲飮戰血、 也如塊磊需酒澆。 紅毛紅毛爾休驕、 爾器誠利吾寧抛。 自強在人不在器、 區區一刀焉足豪? |
一泓の秋水淨ら纖毫、 遠る看れば知らず光ること刀の如きと。 直ちに駭おどろかす玉龍匣内に蟠わだかまるを、 雷雨に乘って雲霄に騰らんとす。 傳へ聞く利器は紅毛より來きたると、 大食日本同曹たるを羞づ。 血に濡らせば便ち骨節をして解かしめ、 頭を斷たれど俟またず鋒刃を交ゆるを。 刀を抽き鞘を出さば天爲ために搖ぎ、 日月星辰芒ひかり驟たちまち韜つつむ。 地を斫きること一聲海水立ち、 鋒を露すこと三寸陰風號ほゆ。 陸は犀象を剸きり水は蛟みづちを截たつ、 魍魎は驚き避け魑魅は逃る。 斯この刃に遭ひし者は凡そ幾輩? 髑髏は羣を成して血は濤を湧かす。 刀頭の百萬冤魂泣き、 腕底の乾坤殺して操を劫うばふ。 朅いさみ來れど壁に掛け暫し用ひざれば、 夜夜鳴嘯して聲疑ふらくは鴞のごとし。 英靈渇かわかば戰血を飮まんと欲し、 也なほも塊磊の如くして酒澆すを需ほっす。 紅毛紅毛爾なんぢ驕るを休やめよ、 爾の器誠利なれば吾寧むしろ抛なげうたんとす。 自強は人に在りて器に在らず、 區區たる一刀焉いづくんぞ豪たるに足らんや。 |
潼潼たる水勢江東に嚮むかひ。 此の地曾て聞く火を用ひて攻むと。 怪道なるほど儂われ來りて憑弔するの日、 岸花焦灼して尚ほも餘紅あり。 |
莽莽たる神州陸沈を嘆き、 時を救ふ計無くして偸生を愧ず。 摶沙亡楚を興おこす願ひ有りて、 博浪暴秦を撃つ椎無し。 國破れて方まさに知る人種の賤しきを、 義高くして礙さまたげず客囊の貧きを。 經營恨むらくは未だ同志に酬いざるを、 劍を把とりて悲しく歌へば涕涙橫ざまなり。 |
幽燕の烽火幾時か收り、 聞く道ならく中洋戰ひ未だ休やまず。 漆室の空懷憂國の恨、 巾幗を將もって兜鍪に易ふこと難からん。 |
失題 登天騎白龍、 走山跨猛虎。 叱咤風雲生、 精神四飛舞。 大人處世 當與神物游、 顧彼豚犬諸兒 安足伍! 不見項羽 酣呼鉅鹿戰、 劉秀雷震昆陽鼓。 年約二十餘、 而能興漢楚; 殺人莫敢當、 萬世欽英武。 愧我年廿七、 於世尚無補。 空負時局憂、 無策驅胡虜。 所幸在風塵、 志氣終不腐。 毎聞鼓鼙聲、 心思輒震怒。 其奈勢力孤、 羣才不爲助。 因之泛東海、 冀得壯士輔。 |
天に登りて白龍に騎り、 山を走りて猛虎に跨る。 風雲を叱咤して生ぜしめ、 精神四あたりに飛舞す。 大人世に處すこと 當に神物と游び、 彼を顧るに豚犬の諸兒 安んぞ伍するに足らんや! 見ずや項羽は 鉅鹿の戰に酣呼し、 劉秀は昆陽に鼓を雷震さするを、 年約そ二十餘、 而して能く漢楚を興こす; 殺人敢へて當る莫く、 萬世英武を欽したふ。 愧づ我年廿七、 世に於いて尚ほ補する無きを。 空しく負ふ時局の憂ひを、 胡虜を驅る策無し。 幸とする所は風塵に在り、 志氣終ひに腐らず。 鼓鼙の聲を聞く毎に、 心思輒すなはち震怒す。 其奈いかんぞ勢力の孤なるを、 羣材助を爲さず。 之れに因りて東海に泛うかび、 壯士の輔たすけを得んことを冀こひねがふ。 |
鐵骨の霜姿傲衷有り、 彭澤に逢はざれど志は徒いたづらに雄たかぶる。 いかでか黄花晩風に耐へん。 |
寄徐寄塵 不唱陽關曲、 非因有故人。 柳條重綣繾、 鶯語太叮嚀。 惜別階前雨、 分攜水上萍。 飄蓬經已慣、 感慨本紛紜。 憂國心先碎、 合羣力未曾。 空勞憐彼女、 無奈繋其親。 萬里還甘赴、 孑身更莫論。 頭顱原大好、 志願貴縱橫。 權失當思復、 時危敢顧身? 白狼須掛箭、 靑史不銘勳。 恩宗輕富貴、 爲國作犧牲。 祗強同族勢、 豈是爲浮名。 |
徐寄塵に寄す 陽關の曲を唱うたはざるは、 故人有るに因よるに非ず。 柳條りうでう重ねて綣繾けんけんとして、 鶯語あうご太はなはだ叮嚀ていねいなり。 階前かいぜんの雨に惜別せきべつし、 攜たづさふるを分わかつこと水上の萍へいのごとし。 飄蓬へいほう已すでに慣なるるを經へ、 感慨本もと紛紜ふんうんたり。 國を憂うれへて心先まづ碎かれ、 羣を合あはする力未だ曾かつてならず。 彼かの女むすめを憐あはれむを空しく勞らうし、 奈いかんともする無し其の親に繋つなぐるを。 萬里還なほ甘んじて赴おもむき、 孑身けつしん更に論ずる莫なかれ。 頭顱とうろ原もとより大いに好く、 志願して縱橫じゅうわうを貴ぶ。 權失はれて當まさに復するを思ふべく、 時危あやふければ敢あへて身を顧かへりみんや? 白狼はくらう須すべからく箭やを掛かくべく、 靑史勳くんを銘めいせず。 宗みおやを恩いつくしみて富貴ふうきを輕かろんじ、 國の爲ために犧牲と作なる。 祗ただ同族の勢を強むるは、 豈あに是これ浮名ふめいの爲ためならんや。 |
祖國沈淪して感おもひ禁じえず、 閑來海外に知音を覓もとむ。 金甌已に缺け總て須く補すべきなれば、 爲國の犠牲敢て身を惜まんや。 險阻を嗟なげき、飄零を嘆き、 關山萬里雄行を作す。 言ふを休やめよ女子は英物に非ざると、 夜夜龍泉壁上に鳴く! |
恨煞す回天の力無し、 只だ學ぶ子規の血に啼くを。 愁恨感ひ千端、 危欄を拍つ。 枉むなしく欄干を拍つこと遍し、 訴へ難し一腔の幽怨。 殘雨一聲聲、聽くに堪へず |
酒を把って文を論ず歡び正に好く、 同心況んや同じ情おもひ有り。 《陽關》一曲暗ひそかに聲を飛ばせば、 離愁馬足に隨ひて、 別れの恨み江城を繞る。 鐵畫銀鈎兩行の字、 岐わかれの言限り無く丁寧ねんごろ。 異日に相ひ逢ふ憑たよること能ふ可しや? 河梁手を攜へし處、 千里暮雲橫はる。 |
影に對して喃喃、 空に書きて咄咄、 關はるに非ず病酒と傷別に。 愁城一座の心頭に築く、 此の情人の説いふに堪へる沒なし。 志の量徒いたづらに雄しければ、 生機太だ窄せまし、 襟懷枉いたづらに自ら多く豪侠たり。 擬將おしはかりて厄運天公に問ふに、 蛾眉忌に遭ふは詞客に同じならんかと! |
滿江紅 小住京華、 早又是中秋佳節。 爲籬下黄花開遍、 秋容如拭。 四面歌殘終破楚、 八年風味徒思浙。 苦將儂強派作蛾眉、 殊未屑! 身不得、男兒列、 心却比、男兒烈。 算平生肝膽、 因人常熱。 俗子胸襟誰識我? 英雄末路當磨折。 莽紅塵何處覓知音 靑衫濕! |
小しばし京華に住とどまるに、 早や又是れ中秋の佳節。 爲に籬下黄花開くこと遍く、 秋容拭ふが如し。 四面の歌殘かけたれど終つひに楚を破る、 八年の風味徒いたづらに浙を思ふ。 苦しむは 殊つひに未だ屑いさぎよしとせず! 身は得ず、男兒に列するを、 心は却って、男兒比よりも烈し。 算するに平生の肝膽、 人に因って常に熱す。 俗子の胸襟誰か我を識る? 英雄の末路當に磨折すべし。 莽たるかな紅塵何處にか知音を覓めん? 靑衫濕うるほふ! |
滿江紅 骯髒塵寰、 問幾個男兒英哲? 算只有蛾眉隊裏、 時聞傑出。 良玉勳名襟上涙、 雲英事業心頭血。 醉摩□長劍作龍吟、 聲悲咽。 自由香、常思爇。 家國恨、何時雪? 勸吾儕今日、 各宜努力。 振拔須思安種類、 繁華莫但誇衣玦。 算弓鞋三寸太無爲、 宜改革。 |
骯髒たる塵寰に、 問ふ幾個の男兒の英哲あらん? 算ふるに只だ蛾眉隊裏にのみ有り、 時に聞く傑出せるを。 良玉の勳名に襟上涙し、 雲英の事業に心頭血のぼる。 醉ひて長劍を摩□して龍吟を作せど、 聲は悲しく咽むせぶ。 自由の香、常に爇もやさんことを思ふ。 家國の恨、何れの時か雪がん? 勸すすむ吾が儕ともがらよ今日、 各おのおの宜よろしく努力すべし。 振拔して須すべからく思へ種類を安んずを、 繁華にして但だ衣玦を誇る莫なかれ。 算おもふに弓鞋三寸太はなはだ爲すこと無し、 宜よろしく改革すべし。 |
如此江山 蕭齋謝女吟《愁賦》、 瀟瀟滴檐剩雨。 知己難逢、 年光似瞬、 雙鬢飄零如許。 愁情怕訴、 算日暮窮途、 此身獨苦。 世界淒涼、 可憐生個淒涼女。 曰『歸也』、歸何處? 猛回頭、 祖國鼾眠如故。 外侮侵陵、 内容腐敗、 沒個英雄作主。 天乎太瞽! 看如此江山、 忍歸胡虜? 豆剖瓜分、 都爲吾故土。 |
蕭齋に謝女《愁賦》を吟じ、 瀟瀟として檐のきに滴したたる剩のこれる雨。 知己逢ひ難く、 年光瞬くが似ごとく、 雙鬢飄零すること許かくの如し。 愁情訴ふるを怕おそる、 算おもふに日暮れて途みち窮し、 此の身獨ひとり苦しむ。 世界淒涼として、 憐む 曰く『歸る也』と、何處にか歸らん? 猛として頭かうべを回めぐらせば、 祖國は鼾眠すること故いにしへの如し。 外に侮あなどられ侵陵さる、 内に容かたち腐敗し、 個ひとりも英雄として主と作なるもの沒なし。 天乎よ太あまりにも瞽くらし! 看よ此かくの如き江山を、 なんぞ忍ばん胡虜に歸するを? 豆は剖さかれ瓜は分けらるるも、 都すべて吾が故土爲たり。 |
惜別多思、
傷時有涙、 内絀外侮交訌。 世局堪驚、 前車可懼、 同胞何事懵懵? 感此獨心忡。 羨中流先我、 波浪乘風。 半月比肩、 一時分手嘆匆匆。 從今勞燕西東、 算此行歸國、 立起疲癃。 智欲萌芽、 權猶未復、 期君力挽頽風、 化痼學應隆。 仗粲花蓮舌、 啓瞶振聾。 喚起大千姉妹、 一聽五更鐘! |
惜別多く思ふ、
傷いたむる時涙有り、 内絀外侮交こもごも訌いさかふ。 世局驚くに堪へんや、 前車懼いましむ可べく、 同胞何事ぞ懵懵たる? 此れに感じ獨ひとり心忡うれふ。 羨む中流我に先んじ、 波浪風に乘るを。 半月肩を比し、 一時手を分わかち匆匆たるを嘆く。 今從より勞モズ燕ツバメ西東す、 算するに此の行歸國し、 疲癃より立ち起あがらさん。 智萌芽ならんと欲すも、 權猶なほ未いまだ復せず、 君に期す頽風を力つとめて挽もどせよ、 痼と化す學を應まさに隆からしむべし。 仗たたかへ花蓮の舌を粲きらめかし、 瞶めくらを啓ひらき聾つんぼを振おこす。 喚起す大千姉妹、 一聽せよ五更の鐘を! |
菩薩蠻 女の伴に寄す 寒風料峭窗戸を侵し、 垂簾に懶ものうく迴廊を歩む。 月色高樓に入り、 相思兩處に愁ふ。 無邊なり家國の事、 并せ入る雙蛾の翠に。 若もし早梅の開くに遇はば、 一枝應まさに寄こし來るべし。 |
讀警鐘感賦 此鐘何爲鑄? 鑄以警睡獅。 獅魂快歸來、 來兮來兮莫再遲! 我爲同胞賀、 更爲同胞宣祝詞。 祝此警鐘命悠久、 賀我同胞得護持。 遂見高撞自由鐘、 樹起獨立, 革除奴隷性旂、 抖摟英雄姿。 偉哉偉哉人與事、 萬口同聲齊稱 《警鐘》所恩施! |
警鐘を讀み感じて賦す 此鐘何爲ぞ鑄す? 鑄し以て睡れる獅に警せん。 獅の魂快く歸り來れ、 來れや來れ再さらに遲るる莫れ! 我が同胞の爲に賀す、 更に同胞の爲に祝詞を宣す。 祝ねがふ此の警鐘よ命悠久たれ、 賀す我が同胞よ得よ護持を。 遂に見ん高く撞く自由の鐘、 樹起す獨立の旂はた, 革除す奴隷の性、 抖摟す英雄の姿。 偉なる哉偉なる哉人與と事、 萬口同聲に齊く稱ふ 《警鐘》の恩施せる所を! |
支那魔を逐ふ歌 四鄰環繞逐ひとつまた逐ひとつならんと欲し、 權を失ひ地を割くこと止とどまる時無し、 這これ等人兒還なほ昏昏として、 夢みるが如く醉へるが如く半ば死せるが如し。 吁嗟乎ああ! 我が國の精華漸く枯竭せんとして、 奈何いかんぞ尚ほ衣を振ひて起たん? 無心無肝無腦筋、 支那の大魔首はじめに此れを推す。 |
女權に勉むる歌 其一 吾輩は自由を愛し、 勉勵す自由一杯の酒を。 男女平權は天賦に就き、 豈牛後に甘んじて居ん? 願くば奮然自拔し、 一洗ぎせよ從前の羞恥の垢を。 若なんぢ安んじて同儔と作り、 江山を恢復するに素しろき手を勞さん。 |
女權に勉むる歌 其二 舊習最も羞ふに堪へんや、 女子竟ひには牛馬の偶つれに同じ。 曙光新たに放つ文明の候とき、 獨立して頭籌を占め。 願ふ奴隷は根より除くを、 智識學問は歴練して就く。 責任肩頭に上せ、 國民の女傑負そむく無きを期す。 |
秋雨秋風人を愁煞さつす! |
瀑布を觀る 英雄都すべて付す浪なみ沙すなを淘あらふに、 逝く者は斯くの如きか總て歸らず。 |
如斯巾幗女兒、
有志復仇能動石; 多少鬚眉男子? 無人倡議敢排金! |
斯くの如き巾幗の女兒、
志有りて仇を復するに能く石を動かし; 多少の鬚眉の男子 人の倡議して敢て金を排する無き! |
致徐小淑 絶命詞 痛同胞之醉夢猶昏、 悲祖國之陸沈誰挽。 日暮窮途、 徒下新亭之涙; 殘山剩水、 誰招志士之魂? 不須三尺孤墳、 中國已無乾淨土; 好持一杯魯酒、 他年共唱擺崙歌。 雖死猶生、 犧牲盡我責任; 即此永別、 風潮取彼頭顱。 壯志猶虚、 雄心未渝、 中原回首腸堪斷! |
徐小淑に致す 絶命の詞 痛む同胞の醉夢猶ほ昏くらく、 悲しむ祖國の陸沈誰か挽ひかん。 日暮れて窮きはまれる途みち、 徒いたづらに下す新亭の涙; 殘山剩水、 誰か志士の魂を招かん。 三尺の孤墳を須もちひず、 中國已に乾淨の土に無し; 好持す一杯の魯酒、 他年共に唱はん擺崙バイロンの歌。 死すと雖いへども猶なほ生き、 犧牲盡ことごとく我が責任; 即ち此に永く別れ、 風潮彼の頭顱を取らん。 壯志猶ほ虚なれど、 雄心未だ渝かはらず、 中原を回首すれば腸堪ぞ斷たんや! |
鐵骨の霜姿傲衷有り、 彭澤に逢はざれど志は徒いたづらに雄たかぶる。 いかでか黄花晩風に耐へん。 |
歳月如流、秋又去、
壯心未歇。 難收拾、這般危局、 風潮猛烈。 把酒痛談身後事、 舉杯試問當頭月。 奈呉儂、 身世太悲涼、 傷心切。 亡國恨、終當雪。 奴隷性、行看滅。 嘆江山、 已是金甌碎缺。 蒿目蒼生揮熱涙、 感懷時事噴心血。 願吾儕、 煉石效媧皇、 補天闕。 |
歳月は流るる如く、秋又た去り、
壯心未だ歇やまず。 收拾し難し、這この般の危局を、 風潮猛烈なり。 酒を把りて身後の事を痛談し、 杯を舉げて試みに問ふ當頭の月に。 呉の儂ひとを奈いかんせん、 身世太はなはだ悲涼にして、 傷心切なり。 亡國の恨み、終つひに當まさに雪すすぐべし。 奴隷の性、行ゆくゆく滅ずるを看る。 江山を嘆く、 已すでに是れ金甌は碎かれ缺く。 蒼生を蒿目して熱涙を揮ひ、 時事に感懷して心血噴る。 願はくば吾が儕ともがらよ、 石を煉りて媧皇に效ならひ、 天の闕かけたるを補へ。 |