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  「開談夜之殿」下之巻(一)

 哀れなり、一足づヽに消えて行く、屠所の歩みも夢の夢、覚めて悔しきあだな花、死ぬると覚悟しながらも、又、怖気立つ犬の声、恋路の闇に八郎兵衛、お妻を死出の道連れと、互いに手と手を引合いて、隅田の草に置く露と、消えなんものをと振上ぐる、刃の光に木陰より、躍り出でたる二人の藤八、刃持つ手をしっかと押さへ、
「こう云う事もあろうかと親方さんの謂い付けで、お妻さんの追手の藤八五文と二人が身をやつし、窺い居るともいざ知らず、心中とは古い奴、止めたオイラが仲人で、目出度しと謂う盃ごと、それでもやっぱり古めかしい、浄瑠璃本や読み本の大詰の紋切形、其の大切りの道行を、初幕にしたる新作もの、親方の指図を受けたわいら二人は代官所、鎌倉時代のお裁きは、何時も変らぬ重忠様、恥を晒しの運の尽き、扇ヶ谷の御屋敷へ、サァうしやァがれ」と、無理無体、引立てられて是非もなく、行く身の果てぞ哀れなる。
 さてもお妻、八郎兵衛は互いに主を持ち乍ら、不義をなし、あまつさへ駆落ちをなしたれば、重忠公大きに怒り給い、懲らしめの為とて鎌倉中に悪き男と悪き女を捜あさせ給いければ、花水橋の土手下に乞食の夫婦有り、一人は顔も崩れし坊主なり、妻はお捨と云いて、二目と見られぬ醜女なり、此の両人へお妻八郎兵衛を下されれば、お妻は坊主の女房とし、八郎兵衛をお捨が亭主にして、日夜楽しみければ、二人は汚く五月蝿いけれども、詮方なければ隙あれば逃出さんと、二人共心掛けてぞ居たりける。

「開談夜之殿」下の巻(二)

 かくて八郎兵衛は隙を伺い、其の処を逃出し、行方も知れずなりにけり、お妻は女の事なれば、逃げる事もならず、如何はせんと思い暮らし、日夜の事に身も疲れふらふらと、病の床に伏しにける。
 此処に又、香具屋の弥兵衛とて、有徳なる町人有りけるが、此の花水橋を通り掛かりしが、下小屋のうちにお妻の姿を見て、乞食には惜しき者なりと、近辺の水茶屋にて様子を聞くに、お妻とて化粧坂の芸者なりしが、八郎兵衛と駆落ちして、其の咎によって今、懸かる身の上に為り成りたる事を詳しく聞き、不憫に思い、数多金子を彼の坊主にやりて、お妻を引取り、或る新道へ江市屋格子の囲い者、小女さへも使う身の、頭の物から衣類まで、何不足なく暮らしけり。
 弥兵衛は五十を越え、髭むしゃくしゃの、物臭き達者作りの親爺なれば、夜鍋仕事の楽しみに少しもいとまなかりける、或る時弥兵衛何時もより早く来たり、炬燵に当たって居るお妻が傍へ来たり、
「お妻、何故そうやって塞いでる」
 直ぐに炬燵へ当り、股ぐらへ足を入れヽれば、
「ヲヤ、旦那何時のまにおいでなさいましたへ、あんまりいヽ心持で、
 ついとろとろとしました」
「そんならちっと眼を覚まして遣ろう」ト、足の親指で玉門をいじる、
「アレ旦那、およしなさいましな、冷たい足だねへ」
「何、今直に暖っかくならァな」ト、さねがしらをいじり、また額口をいじる内に、むくむくと頭を挙げ、しゃっきりとなり、どきどきと脈を打つ、お妻は手を伸ばし、一物をじっと握り、またゆるめ、色々にしながら、
「若し旦那、アノ此の間貸本屋が持って来ました、三ッ組盃と云う本に丁度こう遣って、炬燵で冗談をしている所が有りましたねへ、アノ奥書きに有ります女郎に気を遣らせる、法と云うが御座いますョ、あんなにしたら本当によかろうねへ、今夜はあの通りにして見て下さいましな」
「其れよりいヽ物を貰って来た、是は本当の物よ、長崎の蝋丸と謂う薬だから今夜つけ見様」と、鼻紙袋より出して見せる、
「ヲヤ、丸い綺麗なものだねへ、然し気味が悪いねへ」
「ナニサ気味の悪い事はねへコリャァ唐人の用いる薬ョ」
「毒じゃぁないかへ」
「ナニ毒なものか、長崎の女郎へ唐人が是をつけてすると、
 どの様な嗜みのいヽ女でも取乱して夢中になるという事だ」
「お前様のは、そんな物つけないでもいヽョ」
「ところを尚良くするつもりだ是さんや、煮花はどうだ」
「ハィ、お茶も出来ました、そして鰻も参りました、其処へあげましょうか」
「早く此処へ持って来や、お妻食べないか」
「イヽェわたしゃ今、お夜食を食べました」
「そんなら俺一人で腹を拵へよう」と、此の内下女、膳を持ち来る、
お妻矢張り炬燵当たっていて、顔を蒲団におっつけて、俯いている。
 弥兵衛は足の親指を動かし乍ら夜食を食いしまう、お妻は顔を真赤にして、鼻でスゥスゥ、尻をもじょもじしている、弥兵衛も喰いしまい、膳を突き出す、下女次の間へ持って行く、お妻は目を細くして顔をあげ、
「コレ、さんや、其処へ床を取って呉れや、そしてモゥいヽから、寝や」
「ハィハィ左様なら、御休みなされまし」と床を取り、次へ立って行く、
「ヲヤ、何だかいヽ匂いがしますねへ」
「此の薬ョ」ト、蝋丸の中の薬を出して、玉門の中へ中指の腹にて差込み、そろそろと空割をいじり、片手に煙草を呑み乍ら見ている。
 暫くして玉門の内、少しむつ痒くなり、頻りに淫気催す故、
お妻は上気して眼を細くなし、弥兵衛が傍へこすり寄って、
「コレサ旦那、何時までそう遣っておいでだョ、何故そんなにお焦らしだねへ」ト、弥兵衛が手を持って玉門の中へ遣る、はや淫水ぬらぬらする様に湧き出る、
「若し旦那、ァレ、モゥ今日は何故こんなにいヽねへ、旦那旦那、
 アレサ何故そんなにじっとしておいでだよ、どうもこりゃァ、
 どうでも薬のせへかして、何時もよりどうもどうも、それそれ、
 こんなに気がェェどうも」ト、弥兵衛が首にしがみつく故、
 おえきったる一物を、唾もつけずに玉門へのぞませて、づぶづぶと毛際まで惜しげもなく押し込めば、お妻は猶も夢中に為り、
「わたしゃ、もうどうしようねへ、アレモよくって、死ぬかも知れねへ、
 ソレモゥいくよ、アレアレ」と、淫水玉門の中より流れいでてヽ、弥兵衛が両の太股へ滴りかヽり、互いに舌を吸い合って、すかりすかりと四つ五つ突きならして、口元へぐっと抜き、その身も少し下へ下がって、当る様に浅く突き、こつぼの口までぐっと届かせ、ぐつぐつと突き立てられ、お妻ははや世迷い言云う元気もなく、疲れ果てヽ炬燵蒲団も何時間にか踏み抜いて、両脚をあらわに出して枕を外し、畳へ顔をおっつけてべったりと為り、息斗りスゥスゥとしていたりける。
 弥兵衛も今ハ堪り兼ね、
「おれも堪らぬ、それいく」と互いに気を遣り、がっかりと、其れ成りぐっとひと寝入り、暫く時を移しける。

 夜も早や更けてしんしんと、草木も寝入る折こそあれ、締りの雨戸押し明けて、何時の間にか忍びの曲者、物も云わずに疲れ果てたる、
 弥兵衛をとって起こし、帯でぐるぐる猿轡、後の柱に括り付け、お妻は吃驚眼を覚まし、がたがた震えへて次の間を、見ればおさんも縛り縄、同じく口に手拭はませ、括られてこそいたりける、くだんの曲者、お妻が手を取り傍へ寄り、ものも云わず股へ手を押し遣れば、じっと押さへ
「コリャ何をなされます」と云う声さへもがたがたと、歯の根も合はぬ震え声、
「何をするもんか、黙っていろ」
「アレサ此処をお離しなされまし」
「己は俺が仕様が有る」と、首へ手を掛け押し転がし、片手を股へ押し遣れば、女は足をしっかり組んで股を開かねば、男は無理に割り込んむ片足に、女の力の叶はぬは、現難無く跨りて、木の様にしたる一物を、毛のはへ際へ押つヽけて、口を吸いに懸かる故、曲者に吸はせじと、
あちらこちらと顔を叛け、アレアレともがく拍子、すっぱり取れる頬かむり、互いに顔を見合して、
「若しお前は八郎兵衛さん、どう云う事で此処へマァ、よう来て下さんした」と、云うに男も吃驚し
「お妻に似たと思いし故、ふと兆したる此の場の時宜、真のお妻か可愛や」と、抱締むれば、お妻も又、思う男に巡り逢い嬉しく思へば足緩み、思はず知らずぬらぬらと、毛際まで入る一物を、ここうかこうかとぐつぐつとこすり立てられ夢中になり、思はず声を張り上げて、
「ァレ、もうし八郎兵衛さん、今迄互いに憂き思い、こうなるからは本当に、たんと遣らして下さんせ、ァレ又いくよ、それいくよ、堪能させた其の上に、わたしを連れて何処へなと、連れて往んで下さんせ」と謂う声聞いて弥兵衛は怒り
「己らは己らは憎っくき奴」と云はんとすれど猿轡、身も後手の縛り縄目ばかりきょろきょろ梔子の、褌に天狗の面包みし如く何処もかも、腹が立つやら一物やら、立つ事ならぬ口惜し泪、ぶるぶる震いたりける。

 八郎兵衛は悠々と、辺り見回し、刀を納め
「どいつもこいつもあの様に縛って置けば世話なし、是から俺が心次第、サァお妻、金が有るか」
「ァィ、金もあの旦那の為替が三百両今日預かって置きました、着物も皆此の箪笥、鍵はわたしが持っている、ちっとも早う八郎兵衛さん」
「マァいヽは、静かにしろ、久し振りでこうし様」と、又大腰にぐつぐつと突き立てられて夢中になり、
「アレ、又いくよ、どうも又、さっきの薬が効いたやら、どうもどうも、
 それ、其処を」と云うに、男も堪り兼ね
「俺もいくよ、それそれ」とお妻が首にしがみつく、お妻は髪も振り乱し、狂気の如く身を焦り
「ァレ、モゥどうも、それそれそれ、いきますよ、死にますよ」と互いに気を遣り、拭きしまい、
「是お妻、そんなら金と衣類を皆確り背負って二人連れ、
 今宵は此の家立ち退いて、心辺りは上方筋」
「そんなら申し、こちの人」
「女房お妻」
「ェエ、嬉しゅうござんす」と絡みついたる鬼蔦の、紋の箪笥の錠を明け、中より取り出す三百両、衣類も共に風呂敷包み、確り背負うて立上がる
「お妻来やれ」と手を取りて、いでんとすればばたばたと弥兵衛は足を踏鳴らし、焦る所を八郎兵衛、面倒なりと腰屏風、上へ被せる舛落し、静々いづる門口へ、来掛かる、八つの時廻り、それと見るより擦り寄って
「曲者やらぬ」と取り付くを、振り解いて当身の一手、ウンとばかりに蹲る「此の間に早よう」と一散に、後をも見ずして走り行く、漸う気のつく時廻り、持ったる拍子木打ち叩き
「泥棒泥棒泥棒」
「カチカチカチカチ」宜しく幕。

「開談夜之殿」下の巻 本文(一)
「地獄穴」

 死に行くもの、地獄に落つるなり、昔は三途の川の婆ァなれど今は口入婆ァ、洗濯をしている、おのれは真黒になって、人の着物の垢を落す、口は喧しく聞けど人に静かに静かにと謂う、瓦斯と云う灯に幽かなる灯火あり、剣山はなけれど、塵と煤は山の如し、血の池は見へねども、火の埋けは炭団を用い、見る目、嗅鼻をいとはで、見る前でする筈なり、火の車の火が降れば、浄玻璃の鏡は一張羅の入替なり、黒じゅすの帯、耳がひけて、閻魔王の顔より赤く、牛頭馬頭のすべたを差して、顔は幽霊より白し、静かに表の格子をあけて、うちへ入り、
地子「おばさん、さぞお待ちだろうが、聞いておくれよ、彼の表のむずかしやが来て居たからね、亦なんだのかだのと云うから、中通りの妙見様へ行くと言って、漸う出て来ましたョ、連衆でもあるのかへ」
婆ァ「何にさ、お前が連れの衆の有るお客は嫌がんなさるから、連れ衆もなんにもねへ、大人しいお店の衆だから、わざわざおめへの所へ、いったのだァナさっきから待っていなさるョ、たった一人で酒を呑んでいなさるから、直ぐに二階へあがんなせへ」
地「そんなら、そう申しておくれな」
婆「いいから一緒に、来なせへ」ト二人とも二階へ上がる。
婆「サァおじこさん、おめへは旦那のお傍へ直ぐにおいでョ」
客「こっちへ来なせへ、ひとりで一気に酔いやした、一つたべなせへ」
地「ハィわたしやァ、さっぱりたべません、おばさん注ぐ真似をしておくれ」
客「ひとつやふたッはのめるだろう、のみねへな」
婆「ひとつおのみな」

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