2004/3/1 3/2 3/3 ・ritonjp
     第三 「室町の巻」

 此処に始めより記るしたる、吉光公と聞こえしは、日本一の長者にて、国々数多領し給い、花洛室町に御所を構え、住給うをもてしかいえり。
 此の君いまだ二十一歳、殊に容色並びなく、女にしてぞ見ま欲しき優姿にて在しければ、属々の女房達、甲乙となく慕い参らせ、どうぞ、どうぞと据え膳は、七五三やら五々三やら、料理に愚かはなけれども、人の心は貴賎となく、常に眼馴れし物を嫌い、珍しきを好くものにて、人品の良き長鬢や、或いは地黒地白の襠袿、大振袖の高髷は、平生の事にて面白からず。
 紅白粉もうっすりと、水髪島田は銀杏崩しの結び髪さえ目につきて、其の風俗を好み給へば、奥女中も自然、其れに移りて粋作りには、為すもの乍らし下々の、女の如くはえもならず。
 されども多くの側室のうち、別けて寵愛なし給う、片貝と云うは十九歳、色白にして鼻筋通り、眼はぱっちりとして黒目がち、一たび流し目に見る時は、ぞっとする程色気を含む。
 桃代と云えるは二十一歳、色は少し浅黒けれど、地体の艶は玉の如く、口元眼元に愛嬌あり。
 其の上気軽で口前よく、人の気をとる上手なり。
 また幾瀬とて肥り肉、標致はさのみ宜からねど、今流行の於多福で、むっくりとして愛嬌あり。
 殊に一義の上手にて、稀代の妙術、自然に得たる上開は、是に上超すものもなく、此の三人殊更に、吉光が寵愛にて下方風に身を飾らせ、夏冬素足の花華作り。
 其の余の側室七、八人。
 されば吉光代わる代わる、閨へも召し、又此方より往き給い一晩に、三人五人の時もあり、又一人を抱詰に楽しみ給う折もあり。
 しかるに今日は桃の節句、祝い日の事なれば、怨みっこいが有って悪い。
 皆一同歓ばせ、楽しみなんと昼の程より掛の女中に内意あり。
 はや日の暮れるや暮れぬ間から、奥御殿をたて切って、緞子の蒲団を敷き連ね、吉光は中に座し、其の周りには十人の側室をずっと並べおき、手ずから籤を出し給う。
 先ず一番に当たりしは、真の陰茎にて本手に取組、二番より五番迄は、左右の手左右の足、張形一本づつ結つけて、側へ引寄せよがらすべし。
 又六番は入れ替わり真の陰茎にて茶臼となし、七番より十番迄は、前の如く張形で嬌がらせんと有りければ、さては一番と六番の籤こそ、肝心要なれど、固唾を呑んで籤を引くに、開けて悔しいき他の数。
 一番は彼の手取り、幾瀬が当たりと大歓び。
 さてさて夫々の順にまかせて、右り左りへ引き付けて、先ず幾瀬が股を押し広げ、会釈もなく突き入れ給えば、幾瀬は例の啼き上手、はや「スゥスゥ」と啼きいだし、手足絡み持ち上げ持ち上げ、
「アヽどうもそれをもっと、上の方を力を入れて、お突き遊ばして下さいまし。ヱヽモゥ体が蕩ける様だ」と絶入る斗ばかりの声を出し、身をもがいて抱きつく。
 吉光は左右の手、左右の足首を動かせて、上を下へと突き許ら、腰をくるくる幾瀬が望みに、
「ソレ上か奥か」としきりに、すかすか、ずぶずぶと突きたて給えば、男根は張り裂く如く気が満ちて、はや腎水も流れんとするにぞ。
 我を忘れて両の手で、しっかと幾瀬を抱締め、足を縮じめて
「ソレ我も、サァサァ往くよ」と口を吸い、ドッキドッキと精を遣る事限りなく、陰水溢れてだらだらだらと、蒲団へ流れる気味のよさ。
 夫れに引き換え四人の女は、今モゥ往こうとする処に、張形を引き抜かれ、鳶に油揚攫われし心地に為ってものも謂わず。
 幾瀬が頻りに嬌がるを見て、ただずるずるずると陰門より精水を流す斗りなり。
 夫れよりも又入れ替わり、五筆和尚に異ならで、一回五人の女を泣かす。
 此の戯れに此の夜を明かす。
 何れも同じ様ねれば、くだくだしくて書き洩らしつ。
 かくて吉光様々の楽しみ、未だ尽きざれど、予ねて北嵯峨の音勢が事、お手医者順庵より聞き給い、楊貴妃、西施はものかわにて、吾朝の衣通姫、小町と謂う共、此の処女に中々及ぶべきならず。と、聞き給うより見ぬ恋に憧れ給いて順庵に
「よく計らえ」と謂い付け給うに、首尾よきお請けはなしたれど、順庵此の頃風邪とて引篭り、御前へ出ざれば、音勢が事は先ず其れなり。
 吉光頻りに其の処女を、見まほしく思されて、日頃お気に入りの穴沢佐栗に此の事を命ずれば、表向から召すと申せば、手重くして急には参らず、斯様斯様になし給はば、今日にも明日にも自由の事と、聞いて吉光歓び給い、さあらば今から忍びの供立、準備しやれと命を請け、佐栗は夫々へ通達し、其の刻限を俟ちにける。
 此処に道足は旨く計り、音勢が初物を占めて心に歓び、今日は天気も殊に良し、近々御殿へ挙がらば、出歩きも自由為らず。
 嵐山も盛りと聞けば、花見がてらに野遊びに、連れて行かんと、割籠など準備なし音勢を伴い供二三人、忍びやかに立出で、跡には母の朝香一人、縁先を明け広げ咲き乱れたる桜海棠、かなたこなたを飛び巡る、蝶の姿の優しさを打ち眺めて有りけるに処へどやどや人の足音は誰なるらんと伸び挙がる。
 其の生垣の透き間より裡覗ききて一人の侍
「モシモシ、此の辺に朝香と云う寡婦の住いが在るとの事、知ってなら教えて」ト聞いて朝香は不審顔、
朝「ハィハイ其の朝香と申しまするは私で御座いますが、何の御用で何方から」
侍「ハヽァ、其方が朝香殿か。サァ分かりました此方へ」ト会釈すれば其の後に、立ち給うは年の程二十歳は二十一、二ばかり、色白くして鼻筋通り、眉は遠山の三日月の如く、眼涼やかに唇赤く、如何にも威あって猛からぬ其の風俗は公家にもあらず、武家とも見えぬ出で立ちは、綾の小袖に二重緞子の紺地に雲竜を織り出したる被布の様なる物を着くし、黄金造りの小太刀、指し抜き袴も召し給わず、彼の侍が詞を聞きて、
「思うに増したる住居の風流少しは噺せるものと見える。然し少しの案内もせず、推し掛け客は困るであろう。其処らはよう計らって、あるじが心を遣はぬ様に左様言い遣れ」ト、言いながら切戸を明けて静々と入り給うに、朝香は吃驚、彼の侍が傍へ行きて、声を潜め
朝「何方様で御座いますか、お門違い遊ばしたのでは御座居ませぬか」ト訝り問えば、頷く侍
「そなたが朝香殿に相違なくば門違いでは無い。彼のお方は、忝くも室町の吉光様。近頃お手医師順庵から、申し入れたる娘御音勢、とうにお迎え有るべき処、順庵老が病気故遅く為ったをお待ち兼ね、お忍びでとおっしゃるから、お供致した某は穴沢佐栗と申す者、心当たりが御座ろうがな」
朝「ハィ夫れならば覚えのある事、アァ生憎に娘は留守、女子どもは私許り」ト云うを佐栗が
「イヤ是はお袋、決して心配はいらぬ事、御茶弁当の準備も在り、御供の衆は銘々割籠、茶なり湯なり在れば善し。座敷には炉も見える、釜もかけてある容子、御茶一服献じれば、跡は我等がよい様に、計らうは宜けれども、肝心の娘御が留守とはハテサテ間の悪さ、併し其の内には帰りあろう。サァサァ早う早う御茶御茶」ト、急きたてられ夢にだも思い懸けなき貴人の俄かの御入りに気もわくわく、納戸え這入りて手早くも脱いで着替える晴着の衣装、二人の下女も只きょろきょろと、立騒ぐのみ詮方知らず。
 朝香は遥か次の間にて、一礼すれば吉光君
「不意に参っていかい世話、何かの事佐栗から、逐一に聞いたであろう。苦しゅうない、近う寄って浮世噺をして聞かしゃれ。今日は長閑で風もなし。庭の手入れが届くと見えて、花もよう咲き、植木の刈込み、小さくても見所ある」ト褒め給えば、恐れ入り、おずおず彼処へ膝摺り寄せて、最前佐栗が指図もあれば、水屋より取出す、水差茶碗棗の茶入れ、茶筅茶杓や蓋置きまで、法の如くに飾りたて、
朝「憚り多くは御座りますが、未熟な手前の薄茶一服差上げましとう御座りまするが」
光「ィヤ是は奇妙奇妙、庭の懸り住いの様子、主は大方風流と察したに違いない」
朝「ホヽヽヽ風流も、風雅も遥か前の事、今はしがない寡婦の暮らし」
光「寡婦寡婦と言い遣っても、見れば花香も未だ失せず、盛り久しき白菊の名残の匂い懐かしく、慕うて来る虫もあろう」
朝「是は是は御前様とした事が、此処に並べた茶道具か太刀では有るまいし、何ぼ捻った物好きでも、古い物が善いとって、慕うは愚か此方から、何卒遣って下されとの恃みも聴き手は御座いません。女は盛りの短いもので、二十歳前から三十前後、其れが過ぎては悪口にも、老婆老婆と云い立てられ、果敢ないもので御座います」ト噺のうちに、早や滾る、湯を汲取りてさわさわと、たして薄茶の湯加減。
 もう一服と望まれて、御意に入ってか冥加な事、又点て掛ける其の折に、御指図受けて持ち出づる、台に載せたる綿反物。
 佐栗は朝香に打ち向かい
「是は御前の御土産物。頂かれたが宜ろう」ト云われて朝香は身をしさり、御礼申せば吉光君
「先ず是は今日此処え尋ねて来た験ばかり、用に立たば身のも歓ぶ。是佐栗に謂い付けた物が出来たらはよう是へ持って来やれ」
佐「ヘィ畏まりました」ト館よりして準備ある、神酒御肴も幾種か、夫々器へ盛りて此の家の下女をも手伝わせ、所狭き迄置き並ぶれば、吉光は杯を執り上げ、
光「花より団子の喩えの通り、月花を詠むるにも、酒が無くては興が無い。コレ朝香とやら酒は如何じゃ。ナニ不調法とは嘘であろう。観掛けからして酒飲んだら、如何やら元気で面白そう。サヽ飲んだがよい身が酌をして取らそう」ト、其の有り難さに並々と一つ受けたる杯を、漸う干すと又一つ、強い附けられて飲む酒は、果ては肴も御手図から。
 アレ手が汚れる口を開いたと思いの外なる如才なさ、朝香も元来なる口を、遠慮も今はうち忘れ、
朝「サァ佐栗さん今度は貴方」
佐「亦わたくしか情けない、ちと御前へ上げるがよい」
朝「夫れでも余り不躾な婆とお叱り為され様かと」
光「ィヤイヤ決して叱りはせぬ、其の方が杯俟ち兼ねねて」
朝「ヲヤヲヤ御前が程のよさ、モゥ二十年も若い時ならお嫌であろうが、無理無体、仕様もあろうに佐栗さん、年程哀しいものはない。貴方がたも今のうち、精出してお遊びなさいホヽヽヽ」ト流し目に吉光を視る其の愛嬌、すがるる花の色なくても、匂い残れる霜夜の菊、是も一興ならんかと、娘が留守を勿怪の幸、今宵は此処に草枕、旅ならなくに宿借りて、慰まんと思しつヽ佐栗を一人とどめ置き、其の余の供は帰されけり。

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