2004/4/3 4/5 投稿者・ritonjp

     「開談夜能殿」

     「発端」

 星月夜、鎌倉山のひきが谷、おり回したる物見の高殿、付き添う女中に十六夜姫、芝居噺や世の噂、男欲しやの折も折、肴屋助十とて、蝦に所縁の撥ねた奴、物見の下を行過ぎれば、椎茸髱のぼっとり者
「是肴屋、そちにお姫様が御用が有る。サァわしと一緒に、こう来や」と盤台担いだ其の儘で、門内えこそ入りかる。
女中「ソレお姫様、何時もの肴屋が参りました」
「どうやら音羽屋に似て居ります」
姫「我身達が又嬲り遣るか」
女中「先程から御待ちかねじゃ。サァサァ早ようはよう」
助「ハイハィ何ぞ御用で御座りますか」
助「もしお姫様、見る影もない私を可愛ゆいの何のと仰有り遊ばしは、そりゃ本当で御座りますか」
姫「本当でのうて何とし様」
助「そんなら、こうなされても謂々じゃあ御座りませぬか」
姫「それでも、如何やら」
助「ハテまァ、私の申す様に御成り遊ばせ」ト、無理に横抱きにして、手先を股座へ入れ、実頭をいじり廻せバ、姫ハたヾ顔に袖を宛てて、スゥスゥハァハァ鼻息の内に、ハヤ潤い、とろろ汁の如くなりけれバ、時分ハ良しと引きこかし、其の侭上に伸し掛かり、そろそろと腰を使い乍ら観るに、年ハ二八の花盛り、何処一つ言い分なく、涼やかな目を細くして、鼻息荒く、少しづヾ持上げる様に為れバ、助十も早めて腰を使えバ、新鉢の事故、ぼぼの締り良く、へのこを扱く様にて、其の気味の良さ堪え難く、其れより大乱れとなる、に、是の姫、狐の化生為り。

  「此処より、お半・長右衛門のコント」

其の一

 夢の浮世に草枕、浮寝の床の旅の空、恋は思案の外とやら、思案盛りの長右衛門、霞の帯屋信濃屋の隣同士の軒並び、一人娘のお半を連れて、伊勢参宮の戻り道、石部の宿のあじゃあらごと、解けて島田の乱れ髪、二世の契りと娘気の、ついした事が誠と為り、いとし、可愛の二見潟宿立いでヽあ其処此処、道草なして人の見ぬ折を窺い、口を吸い、じゃらつき乍ら打ち過ぎる。
半「わたしゃ此処に逗留がしたい。そして百日もお前と寝ていたい。どうぞ雨が降ればいヽねへ」
帳「今日は精出して歩かねば為りません。晩の泊りで、ゆるりと」

其の二

 此処に一つの松原あり、辻堂の中より現れいでし前髪立ち、描ける様の御曹嗣牛若丸、曽我の箱王、白井権八、花岡文七、水仙の若衆姿の美しさ、どやどやと立ちいで、ものも云わずお半を捕え、連れゆかんとする故に、長右衛門は驚き
「こは狼藉」と云う間も無く、拠ってかヽつて高小手にくヽしつけ、松の木結い付け置き、見る前にてお半を無理におっこかし、第一番に牛若丸、後は夫々籤取りになしたりける。
長「如何なる因果の報いやら、お歴々様方にお半を締めらるヽと云うは悔しい、何時もの強淫は、乞食か泥棒だが、皆、美しい色男故、一倍腹が立つ、アノよがり声は如何したもんだ、俺ばかりかと思ったに、皆に気を遣ってさせる、犬畜生め、今に見ろ、如何するか、如何するか、うぬ」
牛「町人め、もがくはもがくは、其れに引き換え、今往く処じゃ、それからみやれ」
半「日頃からこんな若衆さんと寝てみたいと思ったに、今日は一時に叶うて、こんな嬉しい事はない、アレモゥどうもどうも好くってなりません」
五郎「町人に構わずに早く早く」
文「サァサァ如何する、後が痞える後が痞える」

其の三

 さて其処え現れたは、世に名だたる大陽物の持主、道鏡、
道「最前より見ていたが、若殿ばらが味を遣る、其の様こっちゃ未だいかぬ、此の道鏡が大物でよがらして遣りましょう」
ト、大乱れに為っている女の上に乗りかヽり、一物へ唾べったりと塗り、そろそろと腰を使えば、世界になだヽる大物故、お半は唯
「ヒィヒィヒィヒィ」ト泣き叫ぶを無理無体に根まで押し込めば、お半は泣く泣く
「アレモゥモゥ」
 痛い様で良くなってアレモゥモゥひりひりして、お腹え当たってどうもどうも、苦しい苦しいあれさ、助けておくれよ、死ぬよシヌよ、如何しよう如何しよぅアヽスゥスゥとよがり泣く。
 道鏡も男泣きに
「どうじゃどうじゃ、アレアレ雁首を喰い切られる様じゃ、どうもどうも、良くって為らぬ、それいヽはいヽは」と四五番続けてどくどくどく、ほっと溜息つく折から、暁告ぐる鶏の声に、はや夜の明けるのいま暫し、また明晩の事にせんと、五人の男は諸共に、立つかと思えば忽然と何処ともなく消え失せけり。
 哀れ長右衛門思う様、お半道中にて、廻しを取られし風聞あっては、信濃屋の手前、世間の思惑、生きて人に笑われんよりは、死ぬるが増しと、お半も其の心にて、遂に桂川へ飛び入りしが、長右衛門の劫やいまだ来たらざりけん、遂に死を遁れて帰りけるが、其の翌日火ともし頃、桂川に女の死骸有りとの噂、定めしお半ならんと立寄り見れば、コハ不思議や、水膨れの死骸すっくと立ち
「あら、うらめしや」と云う間も無く、長右衛門がまらを目掛けて飛び掛り、根よりふっつりと喰切れば、男は其の儘気絶して、行方も更に知らざるける。
 是皆長右衛門が一睡の夢にして、昨夜泊まりし石部の宿、つい味な気に信濃屋の、お半割り無き契りと為りて、末世に浮名や残しける。

「開談夜之殿」 上之巻

 人を一口に喰う北国の開(家蔵までも呑んでしまう化けぼぼ)、化けたる姿、美しきこと云んかたなし、下着のうえヽぐるぐると、平絎帯を巻き、褄と褄を一緒に、みす紙を持ち、小楊枝を遣い乍ら、そうそう床え来て、
「今夜はよくおいでなんした」と遠慮もなくずっと這入、
「マァもうちっと、こちらえおよんなんし」と、枕の下え手を入れて
「おめえさんは、見申したことが有るようでおすと、こねえだ内から思っておりいす」ト眉毛を薬指で両方へ撫で乍ら、顔を見てにっこりと笑い
「アレサ、足袋をお取りなんし、穿いて寝ておいでなんしちゃァ、のぼせて悪うおす、わたしにおとらせなんし、此のマァ灸のいぼったことをごろうじぃし、このネ臍の脇の塊が癪おざりいす、此の乳をいじってお見なんし、小そうおつしょう何故こんな帯を〆ておいでなんす、気が詰まりいすから、おとりなんし」
「わたしのかえ、そりゃどうとも好きにしなんし、ぬしゃァなぜそんなに遠慮しなんす、にくらしいよ」ト男の首にしっかりと、力を入れてかじりつき、
「ごめんなんし、おさげすみなんすだろうねへ、なぜこんなに素人の様でおっしょう、我身で我身がわかりいせん、ぬしゃァ真に憎らしいおす」トぶるぶると力を入れて〆付け、歯を食い縛り
「ヱェモゥどうも、なぜこんなでおっしょう」ト云う捨て台詞にて、何か乙に気を持たせ、
「このマァ汗を見ておくんなんし」とたばこを吸いつけて出し、色々話しを仕掛け、四五服飲んでから手水に行くにも人の寝ている鼻先を、会釈も無くヒョィと跨いで、色気を魅せかけたり、寝ようとすると、種々なことをして寝かせず、朝も迎えが待っているのに、抱きついて離さず、連れが来ても、
「此の通りおす、堪忍しておくんなんしマァ此処で一服おあんなんし」と厚かましく起きもせず、
「此の間にお連れ申して来ておくんなんし」と何遍も頼み、羽織を着せ乍ら、うしろからだきついたりするものは、下っ腹に毛のなき古狐にて、一口に喰ったる仕打ち也、必ず此の狐に喰わるる、こと勿れ御用心御用心。

道草?「人をころす北国の開」

 姿ハ同じ美しきものにて、床へ早速にもこず、屏風の外でもじじもじして恥しそう、そっと這入り、行灯の明るさを嫌い顔を見る様に、見ぬ様に、男のとろとろ眠ると、其処顔に穴のあくほど見乍ら、煙草を飲んで楽しみ、夜着をそっと好く掛けて、枕を付けても眠りもせず、あんまり退屈さに、思い切って
「いっそ、よく寝なんす、ちっと目を覚ましておくんなんし、そしてネ、もちっと此方へおよんなんしてハ、お悪うおざんすか、と申しいすことサ」
等諸事ひかへめに、言葉少なく何事も、至かとハ云ハねど、どの道呼びたそうに云い、朝も煙管煙草入れ等、神妙に纏め、人の居る処でハあんまり物も云ハず、
「この間の」
「おさらバの」と捨て台詞なしに、
「どうぞ来ておくんなんし」と只一言、心有りげに云い、還った後で、外の者ハ、噂をするのに口もきかず、座敷へ来て、男の寝た方へ寝て目も眠らず、夕方の事色々と考えて、何時迄も寝ている所を、新造に起こされると云うのが、本当に見込みしなり。
 二三度来る時ハ床へ入れて本態を見せ
「アレサ後生ざいますから、此処をこうやっておくんなんし」と、男の手を持って、我よき処へ遣り、男に構わず歯を食い縛り、眉毛に皺を寄せて、色々気を揉んで本態を現す也、斯かる時ハ、如何いう通り者にても正気を失い、実にころされるものなり、恐るべし。

「娑婆で逢った与次郎狐」

 斯かる狐に化かされる者ハ、一寸先ハ闇と為り、明るき所ハ吉原斗り、内ハ勘当、親類も愛想を尽かし寄せ付けず、晦日晦日の立て催促、内証からハ堰き留られ、雁の玉づさ中絶えて、詮方なしに、片田舎へ所縁頼って三年、また麦飯に飽き果てヽ、親の意見に廻り合い、前非を悔いても、悔やんでも、今ハ何にもならず者、故郷思いて、ふらふらと、江戸へ帰りて漸うと工面をしたる印判の墨か、羅宇の挿げ替いで山の手を、呼び歩く、向うから来る四つ手駕籠、粋な夫婦の二人連れ、女ハ見た様なと、近く為る儘よく見れバ、彼の相方の女郎為り。
 面目なさに出もせぬ小便にての後ろ向き、女の方ハ平気にて、娑婆で逢った与次郎と尻目にかけて、通り行く、なんぼう恐ろしき狐に非ずや。

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