梅の花 櫻の花
  若山牧水

きさらぎは梅咲くころは年ごとに
われのこころのさびしかる月

年ごとにする驚きよさびしさよ
梅の初花を今日見出でたり

梅咲けばわがきその日もけふの日も
なべてさびしく見えわたるかな

梅の花はつはつ咲けるきさらぎは
ものぞおちゐぬわれのこころに

(あかり)暮れおそきけふの春の日の
空のしめりに櫻咲きたり

雨過ぎししめりのなかにわが庭の
櫻しばらく散らであるかな

ひややけき風をよろしみ窓あけて
見てをれば櫻しじに散りまふ

春の日のひかりのなかにつぎつぎに
散りまふ櫻かがやけるかな

うす紅に葉はいちはやく萌え出でて
咲かむとすなり山ざくら花

花も葉も光りしめらひわれのうへに
笑み傾ける山ざくら花

かき坐る道ばたの芝は枯れたれや
すわりてあふぐ山ざくら花

うらうらと照れるひかりにけぶりあひて
咲きしづもれる山ざくら花

刈りならす枯萱山の山はらに
咲きかがよへる山ざくら花
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