七五 夜のうぐいす
門番の細君が事に当たってよく泣くので「夜のうぐいす」とあだ名を付けられているという噂を耳にして、殿様はひどく興味をそそられ、門番に多額の金を掴ませて、一晩、細君を試してみた。
しかし、期待に反して、細君は一つも泣かなかった。
殿様は機嫌を悪くして、
「ジョルジェット、そちは夜のうぐいすと言われていると聞いたが、一晩中泣きも囀りもしなかったのはどうしたわけじゃ、何かわしに不満でもあってのことか」と、きいた。すると、門番の細君はこともなげに、
「あら、殿様、泣くのはうちの亭主なんですよ。
うぐいすだって、メスは鳴かないじゃございませんか」
【蛇足・解説】この話は冒頭にも述べたように、小咄なので短い話の中で類似の話となって再出する。中国の笑府・閨風部中にも婿呼痛があり婿が新婦に尻を叩かれて発した話がある。
我が国では(さしまくら・門番・安永二)の話が有名。
此処ではうぐいすのメスは鳴かないとオチを付け加えている。
暇な男達がバーに集まって、女の話に花を咲かせていた。
女についての好みは、めいめい違っていて、生娘の方が清潔でいい、いや、生娘はもじもじしていてつまらない、人妻の方がスリルがあっていい。
床達者葉やっぱりクロウト女だと議論百出だったが、結局、結婚五年ぐらいの三〇過ぎの未亡人が一番良いと言うことになった。すると、側で黙って聞いていた石部金吉のブラウンが長い溜息と共に呟いた
「ああ、うちの女房の奴、早く未亡人になりゃいいのにナア!」
【蛇足・解説】この話も、日本では再三再出。
落語のオチにも使われる。
「先生、昨日家内がお産をしたんですが、生まれた赤ん坊の肌が茶色なんです。家内は私の子だと言い張るんですが、どうも納得できません。
どうしたものでしょう」
「そうですか、チョット判りませんな。ところで、あの方の頻度はどのくらいですか、週に一度ぐらい?」
「いや、どうも」
「では、月に一度ぐらい?」
「いや、私は船乗りですから、半年か一年経たないと家へ帰りません」
「そうですか、それで判りましたよ。つまり、あまり使わないので、ポンプの錆が出たんですな」
七八 安上がり
サリーはまだ二十歳だというのに、体重が七五キロもあって、男達から見向きもされない。彼女はそれを悲観して、減食療法をする決心を建て、それから六ヶ月間、パンと水だけで通した。
お陰で、彼女は見違えるばかりスマートな女に変わり毎日のように男達からデートを申し込まれるようになった。
それを見て、友達がうらやましそうに、
「あんた、もう結婚を申し込んだ人が何人もあるんでしょう?」と、聞いた。
「ええ、五、六人」
「まあ、いいわね」だが、彼女はつまらなそうに、
「でも、ダメなのよ。どの人も必ず”是からもパンと水で通すのでしょうね”って聞くんだもの!」
☆二七 人の情け
ある人、座敷を立て直し、近所の人を新宅へ申し入れて振る舞いける。酒半ばに内方出て、
「何も御座りませぬが、新宅を御馳走に、酒一つ参りませ」と言はれければ、一座
「さりとてはお物いりで御座ろうが、結構なご普請で御座る」といふ。内方
「内の力ばかりでは御座らぬ。皆近所の衆のお陰じゃ」といふ。
与茂作帰り話けるは、
「それ殿の内儀は、さりとては過をいはぬ理発な人じゃ。あの身代で誰に合力を得られうぞ」と賞めける。女房
「それ程のことが言はれぬものか」といひけるが、十四五日経て喜びをしたり、七夜の祝いとて近所の衆を呼びたり。
「今日は目出度し。御内儀も喜びでござらふ。安々と御平産、ことに男子で御座る」などと言ひければ、女房まかり出て、
「亭主ばかりの力で出来たでは御座らぬ。皆近所の若い衆のお陰じゃ」といふた。(枝珊瑚珠巻五・人の情け・元禄三)
【蛇足・解説】内方は他人の妻の敬称で奥様。
「新築は皆の合力の賜」と、奥ゆかしい内儀の言葉を真似たのだが、夫婦交合の結晶の出産を、
「若い衆のお陰」とは穏やかでなく、とんだ失言になってしまった。
軽口咄「築山」(軽口新玉掃巻一・寛政十)では、
「此も主ばかりでなく、内の若い衆の転合にこしらえました」と露骨にサゲている。
漢文体笑話「愚婦倣顰」(続善謔随訳・寛政十)にも再出。
落語「町内の若い衆」の原話でもある。
☆二八 挨拶も人による
ある所に大方快安とて上手の医師あり。
用事あって町の夜番が所へ行き、
「内に居るか」といへば、女房賢き者にて、
「これの養父が役も、お前様のお薬と同じ事」といふ。
「その心は」
「はて、よふ廻りまする」といへば、医師喜び、近所の内儀にその話せられける。
ある時自身番有りて、彼の所へ番が回りければ、快安見舞ひ、
「今日は御大儀」といふ。かの内儀、例の話思ひ出し
「こちの番も、お前のお薬と同じ事」といふ。
「心は」といへば、
「よふあたります」(露林置土産巻三・挨拶も人による・宝永四)
【蛇足・解説】最初の「よく廻る」は、夜番の見回るのと薬効我欲聞く意を掛けた賞め言葉だが、「よふあたる」では、当番の順番が当たるのと薬に中毒する意となり、評語の通り「医者迷惑」な挨拶となった。
江戸小咄「自身番」(茶のこもち・安永三)始め頻出する笑話。
☆二九 挨拶の失敗
友を呼び、
「新宅だ、見てくれやれ」
「ムム、よくできた。垂木を竹でしたところが、どふも言えぬが、節を抜いたか」
「イヤ、抜かぬが、なぜだ」
「焼けるとき、はねて悪い」(茶のこもち・鳶の者・安永三)
新築祝いに来て、火事で焼けるときの心配は不吉。
同様に中戸(仕切戸)が狭く、
「此では葬礼など出まいが」と口走り、注意されて、
「ム、出る出る」と失言を重ねる「組相な男」
(軽口太平衆巻三・宝暦十三)もある。
真夜中にピストル強盗が入ったという知らせがあり、すぐさま刑事達が急行した。被害者はグラマーな独身女で、ひどく取り乱した格好をしていた。指紋係が聞いた。
「犯人のさわったところは、そのままにしてあるでしょうね。指紋を採るんですが」すると、その女が顔を赤らめて、
「でも、あたし、さっきトイレへ行きたくなってしまったものですからーーー」
【蛇足・解説】何でトイレに行くと、指紋が採れないのかな?トイレで何処を拭ってきたのだろう。まさかね???念入りにビデ使った上に丁寧な清掃かな?
八〇 実験
兎角噂のあるファッション・モデルがさる富豪の御曹司に乱暴されたと訴え出た。裁判長はモデル嬢をテーブルの前に呼び、一枚の書類を示して、それに署名しなさいと命じた。
そして、左手でペンを渡すと、右手でインキ壺を持った。
だが、モデル嬢がペンをインキ壺に差し込もうとすると、裁判長は又ひょいと右にずらせた。モデル嬢は眉に八の字を寄せ、又ペンを差し込もうとすると、裁判長は又ひょいと左へずらした。
こんな事が五、六回も繰り返された。
モデル嬢はついに憤慨して、
「インキ壺をそんなに動かしちゃ、ペンがはいらないじゃありませんか」とわめいた。すると、裁判長はいかめしい声で、
「じゃあによって、本官はあなたの訴えを却下します」と宣告した。
【蛇足・解説】腰使って、穴動かせば入らないことの実験だ。
つまり嫌ならこうなる。進んで迎え入れたことの証明だね。
粋なことで実証したもんだ。
☆三〇 悔
生まれついておかしがる男、悔やみに行くに思い付き、山椒を含み行き、口上を述べる。後家、色々の口説きごと。
その挨拶に山椒の辛みで、内へ唾を引き、至極の出来。
後家は泣き沈み居るを舌打ちして、「アアよい気味だ」
【蛇足・解説】くどきごとは、愚痴泣き言。
山椒の効用で、沈痛は悔やみの挨拶は上乗の出来だったが、
サゲの一言は秀逸なまでに残酷。
落語「胡椒の悔やみ」に使われている。
また、虫干しの簾を、忌中と間違えた慌て者が、
「本に死なしったら、必ず知らせてくださりまし」(喜美賀楽壽・くやみ・安永六)と失言する咄もある。
☆三一 うっかり失言
密かに遣わす使いの小者、久しく病に臥したり、詮方なくて、坊主自から魚やに行く。
いかにも夜更け静まりたるに、門を叩く音せり。内より、
「誰人ぞ」と声高に咎めければ、
「在家屋から魚買ひに来た。戸を開けよ」と。
(醒睡笑巻三・自堕落第六話・寛永五)
買い付けぬ魚屋から誰何され、へどもどして、在家屋などと妙な云い方をした。和尚に
「泥鰌だと言うな」と言われ、徳利に入れて帰る小僧が、途中
で、「手に提げたのは何だ」と聞かれ、「当てて見」
中学3年生になって、そろそろ色気づいてきたオードリーが、
「ねえ、ママ、ママの初恋のことを聞かせてーーー」とねだった。
「まあ、嫌な子ねえ、ママにゃ、そんなもの無かったわよ」
「ウソ!うそ!誰にだって、初恋ってもの、あるって言うじゃないの。それなのに、ママだけないなんて、あたしつまらないわ。
ねえ、隠さないで、話してよ」
「じゃあ、はなすけど、私にも一つだけあったわ」
「まあ、すてき!その人、どんな人だったの?大学生?勤め人?
とても美男子だったんでしょうねっ?金髪?栗毛?背は高かった?」ママはそう問いつめられて、つまらなさそうに答えた。
「いいえ、つまらない人なのよ。だって、あんたのパパだったんだもの」
八二 トゥイン・ベット
新婚旅行の途中で、あるホテルの一室へ入った花嫁。
そこにトゥイン・ベットが置かれてあるのを見て、花婿に言った。
「あなた、このお部屋、よしましょうよ」
「どうして」
「だって、あちらのベットへ誰か他の人が寝に来るのじゃなくて?」
☆三二 夜番返答のこと
さる町の手前者、
「我等がやふな福人は、万事身持ちがむづかしい。その上、盗人などが窺ふものじゃ」とて、用心に目をかけらる。ある夜、夜食を振る舞わんとて、番床へ呼びにやられければ、用人申しけるは、
「今晩は腹がしげり申す。もはや参るまじき」といふ。
手前者、返事を聞きて、
「それならば、濃い煎じ茶がある。来て飲め」と言われければ、用人「再々御使、忝なく候へども、濃い茶をくだされ候へば、夜が寝られませぬほどに、飲むまい」と返事した。
(にがわらひ巻二・夜番返答の事・延宝七)
【蛇足・解説】手前者は、裕福な人。
用人は、この場合自身番につとめる夜番。
番床は番小屋。腹がしげるは、満腹の意。
徹夜して夜回りする役目なのに、
「濃い茶を飲むとねむれないから」と辞退するとは、日頃は寝ている怠慢を露呈した。
同様に、寒夜の夜回りに酒を振る舞ってやると
「お陰にて温まりました」と礼を云い、帰りがけに
「お前様の火の用心は構ひませぬほどに御勝手になされませ」と許した。「番太郎」(百登瓢箪巻三・元禄十四)があり、落語「市助酒」(別題・下役酒)の原話となっている。
☆三三 医者
医者の所へ行き、
「願ふに幸いなことが御座ります」
「それは耳より。何で御座る」
「日頃見たいと仰せらる箔屋から、『内のものが煩ひますから、よい医者を引きつけて下され』との頼み。御療治ついでに、美しい内儀をご覧じろ」
「善は急げじゃ。唯今から参ろふ」と伴ひ行く。
箔屋の亭主、女房の手を引いて出る。
医者、脈より顔をよくよく眺め、
「此は御癪気で御座る」といへば、亭主
「とてもの義に、鍼をお頼み申します」医者
「それは忝」(坐笑座・医者・安永二)
美しい内儀の肌に鍼が打てるとあって、診察する医者の方から感謝の言葉が口から出た。
若い女体に鍼をして、持った鍼を腹の上にわざと落とし、探す振りをして身体を探っていると、そばから
「何をなさるる」と言われ、慌てて針のことを忘れて、
「今まで持ちて居ました開が見えませぬ」と答える
「剽軽なる針立ての事」
(軽口大わらひ巻五・延宝八)も好色鍼医の失言。
新婚間もないリッキーは律儀な男で、会社が引けると直ぐ飛ぶように家へ帰った。
「おい、腹ぺこだ。夕食の支度は出来ているかい」
「まだよ、是から始めるところなの」
「そうか。そんなら、ゆっくりやれよ僕はレストランへ行って済ましてくるから」
リッキーはプンプン腹を立てて、脱いだ上着に又袖を通した。
すると、新妻が甘えた声で、
「ねえ、そんなに怒らないで五分待ってよ」
「五分で夕食の支度が出来るのかい」
「いえ、五分待って下されば、あたし、チョットお化粧を直して、一緒にレストランへ行けるのよ」
八四 罰金
イギリスのさるロードが下男を連れてローザンヌの大通りを歩いていたが、急に尿意を催して、とある石塀に向かって用を足した。そこへひょっこり巡査が現れた。
「閣下、二五フランの罰金をお払い下さい」
「よし、では、これ五〇フラン」
「お釣りが御座いません」
「わしにもこぜにがないがーーーこれだけとっておきたまえ」
「いいえ、規則以上の罰金はいだだけません」
「そりゃ、こまったなーーーうん、そうだ、ジェームズお前もやれ!」
【蛇足・解説】
イギリスのロード(貴族)の話なのに、五〇フランとは?
此も小咄の筋書きかな?ポンドでない、変なオチだ。
☆三四 むすめの歳を尋ねられけり
さる人、縁組みの事相談しけるに、
「その娘の歳は、いくつでござる」と問われければ、媒人聞いて、
「十九で御座る」といふ。
「いや、それはなるまい。こちの息子と、わづか一つ違ふた。来年はつい、同じどしになるものさ」といわれた。
(座敷ばなし巻三・娘の歳を尋ねられけり・元禄七)
【蛇足・解説】
中国笑話集『
「お前は私より一つ上だから先へござりませ。来年はお前と同じ年になるから、その時は一所に行きませう」という。
また、三十一歳の男が、三十歳の人に向かって、
「そんなら半分違いだの。貴様が一つの時、おれやふたつだ」と妙な計算をする「年」(福の神・安永七)もある。
☆三五 琴爪
内儀が針箱から、琴爪二つ出して紙屑買いに見せければ、
「此は銭にはなりませぬ。したが、お前も昔ゆかしいお人じゃナア」と感心すれば、
「アイサ、それも去年まで、五つ揃えて持っていやした」
(聞上手三編・琴爪・安永二)もある。
「今朝爪をとりましたから」と言い訳をいう
「琴」(千里の翅・安永二)もある。
一人の紳士があわてふためいて薬局へ飛び込んできて、
こう訊いた。
「しゃっくりを直ぐ止める方法をご存じありませんか?」
薬剤師がもったいぶって答えた。
「抜本速効の方法がありますよ。2秒とかからずに止まります」
「それを是非教えて下さい」
「よろしい。では、失礼しますよ」薬剤師はいきなり紳士の横っ面を両手でバンバンと張り飛ばした。
「いや、失礼。少々手荒な方法ですが、しゃっくりを止めるには、此が一番。決してやり損ないが御座いません。どうです、もうちゃんと止まったでしょう?」紳士は頬っぺたをこすりながら、
「こりゃどうも、大分効きましたな。だが、しゃっくりで困っているのは、車の中で待っている家内なのです」
八六 三枚のキップ
かねて、ジャネットに思いを寄せているビクトルがいそいそとやって来て、
「ジャネット、今夜は二人だけの素晴らしい夜が過ごせるよ」
「どうして?ドライブにでも行くの?」
「いや、芝居の入場券が三枚手に入ったんだ」
「三枚?一枚余計じゃないの」
「ハハハハ、そこが僕の頭のいいところさ。三枚ってのは、君のパパとママと弟の三人分さ」
八七 嵐の前
誰しも、他でやましいことをしてくると、とってつけたように細君のご機嫌を取る。セールスマンのトーマス君も同じだった。
旅行から帰った晩、彼は細君を一流のレストランへ連れていって、ご機嫌を取り結んでいた。が、ふと細君の胸元に大きな真珠のペンダントがゆれているのに気が付いて、
「おや、いいペンダントをしてるじゃないか。よく似合うぜ」
「あら、そう?」と細君は冷たい目で夫を見返しながら
「さっきあなたがお帰りになったとき、車の助手席に落ちていたのを、チョット拝借したのよ」
【蛇足・解説】本当に嵐の前だね。おお怖い!
八八 妻の復讐
エレベーターの中は満員だった。
スミスは美しい女とくっつき会うようにして立っていた。
そして、うっとりとその乳色の襟足に見取れているようだった。
スミスの細君が脇から横目でその様子を眺めていた。
と、突然、其の美人がぴしゃりとスミスの頬に平手打ちを食わして
「淑女のお尻をつねるなんて、下劣きわまるわ」と叫んだ。スミスは真っ赤になって、直ぐに次の階でエレベーターを降りてしまった。
そして、細君に言った。
「いいかい、お前、誤解しないでおくれよ。僕は決してあの女のお尻なんかつねりゃしなかったよ」すると、細君はにっこりして、
「判ってるわよ。あなたがあんまりやに下がってるので、あたしがつねったのよ」
☆三六 腰元
「イヤ、これはおいでか。今日は淋しかった。咄して行きやれ。これお茶上げいよ」
「アイ」といふて、腰元、茶を持って出る。客人見て、
「あいつは粋なぼってりもんだの」と噂している居る所へ、又煙草盆持って来て、立つ尻を、
「イヨ、楊貴妃め」と叩けば、腰元振り返り、にっこりと笑ひ、
「ちっと似とると、もうあんなことを」(再成餅・腰元・安永二)
【蛇足・解説】ぼってりものは、身体がふっくらして愛嬌のある若々しい女。楊貴妃は唐の玄宗の寵女。「楊貴妃そっくり」とおだてられ、幾分は似ていると自認する女心。
「小町そっくり」
「どこが似たへ」
「眉毛のはげたところが」と水をさす「小町」(雅話三笑・文化頃)
☆三七 迷案
ちとたくらだのありしが、人に向かひて、
「我は日本一の事を工み出いたは」といふ。
「何事をか」と問う。
「さればよ。臼にて米を搗くを見るに、勿論下へ下がる杵は役に立つが、上へ上がる杵がいたづらなり。所詮、上にも臼を返様に吊り、米を入れて搗かばもろともに米白み、杵の上げ下げ、そつになるまい、と思案したり」といい果てぬに、
「さて吊り下げたる臼に米の入れやうは」と問へば、
「まことに、その思案は、せなんだよ」
(醒睡笑巻二・腔第二八話・寛永五)
上の臼の米が落ちるのに気づかぬメイ案。
古く無住法師の『沙石集』(弘安六)巻五「学匠の世間無沙汰の事」に、常陸東城寺法橋円幸の話として出ており、落語
「湯屋番」の若旦那の考案ともなる。
「上の臼に米が入っていまい」と指摘されて
「それならば横にして搗けよ」と、重ねてメイ案を出す
「利勘もまはれば水になる」(はなし大全中巻・貞享四)