川柳秘語とバレ句 その三 2004/10/3 投稿者・aosagi123


    お茶をひく女郎その夜は寝かしもの
お茶をひいてる渋い面苦いつら

お茶をひくのは素見(ひやかし)への馳走也 負け惜しみ

おちよとは船饅頭に禁句なり 鼻落ちよ

鉄砲が当たって鼻が落ち 鉄砲見世の女郎

鉄砲の疵年を経て鼻へ抜け

とんだこと転んで瘤が腹に出来

鷹の名にお花お千代はきついこと

よかったというのは女郎の仕落ち也

【蛇足】自分が昇天(遂情)してどうなる?体が持たないよ!

酔うた下女口を出したらおっかぶせ

小侍きゃんなはしたにかぶせられ

旅立ちは二度目の別れ笠でする 笠伏せ

亭主下からそのおつよおつよ
 その調子その調子

あてがっておつけを出すが店屋者

つつぱらぬ代わりに女うきになり

かさのないものは女の勃えたなり

女房に辺乃古をさせる不精者

菱餅とちまき男女のその形

小間物屋さんお前のは高かろう 雁高

褌ははずす湯文字ははねるなり

大は小をかねると笑う長局

牛の角男めかけにさまを替え

牛若と名づけて局秘蔵する
2004/10/4
【お茶をひく】遊里通語では女郎が売れ残ること。その他、花街や芸人仲間の言葉では、客が無くて暇なことに言う。
 芝居町では不景気なことには「かわく」との通言があり
 此は乾く顎が干上がる意味の語であった。
 遊里語の「おちゃをひく」は、昔、売れ残った暇な妓には、
 客に供する抹茶をひかせたところから、出た名だという。
 そこで、お茶を引くとの言葉は、単に客が無くてお茶ばかり飲んでいるとの意味の語か、あるいは、床を付けるの反対で、
 茶をひくと言ったものか。

【お千代船】船娼、俗に言う「船饅頭」で、宝暦の頃江戸の船饅頭に名代のお千代といいうのがあった。
 そのお千代の乗っている船のことだが、転じて、此は船饅頭の代名詞となり、更に市中のアメ売りが腰に船の形の作り物を付け「お千代船」と称して売り歩いたものもあった。船饅頭の価は三十二文だったが、夜鷹よりもひどい瘡毒で醜い女だったという。

【落ちる】遂情に言う語。また、「死ぬ」との縁語である。
 「はずす」との類語もある。
 「死ぬ」との点語には、「おちる」「あがる」「行きつく」「終わる」
 「くたばる」「ごねる」「まいる」「のびる」「折れる」など様々在るが、交会行房においても快感の極地には死を連想させるものがあり、遂情の妙境では死とか落ちるとの表現が行われた。

【おっかぶせ】秘語では交会姿態の女上位に言う俗称。
 異名には「笠伏せ」「茶臼」「投網」などもある。

狸婆々養子を入れておっかぶせ

毛簿棒へ乳母摺り鉢をおっかぶせ

女天狗は寝ぼけて鼻へおっかぶせ

道鏡の浮気官女のふたをする

かつがれた夜はぶつかけ二つ喰い かけそば

【男のは】『笑府』閨風篇に、主気とて、男のは肉だと言い、筋だと言い、骨だという話があるが、そうした疑問や品定めの話題となることがある。

男のは邪魔になろうと女の気
不都合さ亭主湯上がり女房酒

【男妾】女の思い者として養われている男。
 若い燕もその類である。「ヒモ」も腎虚ではつとまらない。
 ラブホテルの女将も身体で繋いでおかないと、ネコババのあげく
 倒産だという俗諺もある。

引きずりのくせに弟見が早いなり
 動作のろいのに

【おとみ】弟見(おとみ)は続産のこと。
 多産を恥として、産児の名前に、尾末、留、およしなどつける風習があったし、後が出来ないようにとて、石門、百毫に灸を据えて避妊の方法とした風習もあった。
 いわゆる「年子」を「おとみっ子」と言っている。

額口焼いても同じおとみ也

しさえせにゃいいのに留と名を付ける

亀の子を孕むだろうと長局 鼈甲

逆さ子を産みそれから茶臼とんと止め

【お鍋】下女の通称。
 播磨鍋、房州鍋、相模鍋とて、これらは尻軽女の産地とされ、
 また、薄なべ、早なべ、赤なべなどは、尻が早いとの洒落。
 夜なべは夜延べの訛というが、民族的には、夜なべの折に炉端に鍋を掛けて夜食を食べたことから転じて、「夜仕事」「夜業」などの交会俗称となる。

播磨屋のおなべで尻が早いなり

    摺子木を鍋へ突っ込む安法事
【蛇足】婚礼の祝い日には、大勢が集まって祝宴の座敷で摺り鉢と擂り子木を持ち出し、摺る真似をして踊る風習もあった。

擂り子木が連れて失せたといろは云い
 いろは茶屋
摺り鉢に舞をまわせる不甲斐なさ
 尻ののの字
十八位の鬼では後家足らず
2004/10/4
【鬼】鬼は陰間の異称。明治時代の私娼窟に遊ぶことも
 「鬼買い」と称していた。ここへ出かけると、すぐに妓が
 「お二階へ」と遊客を誘ったからだともいう。
仏のことを打ち忘れ鬼を買い 後家

真ん中に一本生えた鬼もあり

鬼となり天狗となって乳母をする 子の前で

馬鹿和尚地獄の釜を買いたがり お門違い
2004/10/6
久米の仙人の小咄
 つんとすましかえった女房が、丁稚を供に連れて歩いていたが、
 その後ろへ凧が落ちた。
 女房はそれに気も付かないようすでしばらくいってから、
「いま、わたしのうしろへ落ちたのは、なんだい」
「ハイ、凧でございます」
「そうかい。わたしはまた久米の仙人かと思った」

【お化け】妖怪の化け物。また、粗服の異称。
 つぎはぎの着物にも怪しげなとの意で「おばけ」の異称がある。
 秘語では女陰異名にも言われる。

向かい風お化けの出るに下女困り
下女の蚊帳覗くと中にももんがァ

    だまってろももんじいだと押伏せる
【蛇足】「ももんがァ」「ももんじい」も化け物だが、
 此も異名に使われる。

よがる顔見て乳母こわいこわい こわい意味違い

男端(おはし)】男端、男茎とも言う男陰の古称。

モモンジイ
 母親が洗濯をしているそばにしゃがみこんで遊んでいた小僧が、ふとのぞいてみて、
「おや、おっかさん、そりゃなんだい」
「まあ、この子は!へんなとこのぞいたりして、いやな子だねえ、
 こりゃモモンジイだよ」小僧はこわいこわいと逃げていったが、
 今度は父親が仕事をしているそばでいたずらをするので、
「この野郎、そんなにいたずをするとモモンジイだぞ」と、
 口の中へ指を入れりょうほうへひろげてみせた。
 すると、小僧が、
「おや、おや、変だぞ。おとっさんのモモンジイは口が横にさけてらァ!」

男の切れっ端を持つ長局

玉二つ切られたような長局

播磨屋のお鍋で尻がはやいなり

擂り子木が連れて失せたといろは云い

水性はさがみ金性ははりま鍋

鬼となり天狗となって乳母をする
 子のまえで道化にまぎらわせて

池の端花咲く頃には(すすき)土手に生え

渓谷も紅になる花七日

朝帰り首尾のよいのも変なもの

また内でせにゃならぬと朝帰り 夫婦ケンカ

神妙をお針と云って叱られる
2004/10/8
【お針】着物の裁縫専門に雇われている女。
 郭では「おはり」と言い、一般の家では「針妙(しんみょう)」と言い、
 大奥や大名屋敷へ出入りしたのを「御物師」と言った。
 「お縫い」は針妙の擬人名。秘語での針には男陰名の意があり、
 「生き針」などとも言う。
お物師をひょっとお針と妾云い お里が知れる
生き針のききめは書かぬ十四経 鍼灸書
後家へのつこみ生き針を打ちおおせ 逢瀬?

【おぼこ】小娘のこと。まだ世慣れない初な娘。「朱雀遠目鏡」には
 「未通娘」とあり、俗に言う「手入らず」の少女に言う。
 又、「御法子」とて、昔は未婚の娘が死ぬと、棺の中に人形を一緒に入れてやる風習があった。これを「御法子」と言う。
 これから「おぼこ」の名が起こったとの説もある。「骨董集」には、
 耄碌して小児のようになったのを「二度おぼこ」と言う。

おぼこ娘も祭りから気がそれる

びいどろも割れる頃には声変わり

洲走りはみこしの跡を追っていき

また一度十七八で這い習い

おまつりの前が太鼓のさわぎ也

【お祭り】秘語では交会の俗称異名となる。類語には「新祭り」
 「寝まつり」「六月十五日」などとも言う。
 お祭りを渡す、えんこうを渡すなどある。
 渡すとは、及ぶといった意味のことばである。

おひねりの残る雑魚寝の祭り跡 ぬぐい紙

外科をまつりのなりで呼びに行き

組み打ちに太鼓をたたく居候

たまさかの祭りで提灯役をなし
書き初め
 不器用な息子が書き初めに『松竹』と書き、それを大いに自慢して、方々へ見せて廻ったが、誰も誉めない。
 そこで、餅屋は餅屋だと思って、年始に来た出入りの植木屋に見せると、松の字をひどくほめた。
「だが、竹の字の方が良くできていると思うのだが」と言えば、
「いや、そうじゃない。松もこのくらいひねこびて、いがんでくると、百両がものはありますからね」
2004/10/9
女房が泣くたびにいる福の神
あれをしてこれをさせてとおおやしろ
 出雲大社

【表門】秘語では「裏門」に対する「前門」の義で、
 女色に用いられる語。

弘法はうら親鸞は表門
おやこの里に裏門はありんせん 吉原

【折れ込む】妊娠したことに言う俗語。

二本棒折れ込んだのを背負ってくる
どの客が折れ込ましたとどやのかか
せり箱を洗って寝ろとどやのかか

【おろち】大蛇。秘語では男陰異称にいう。
 「うなぎ」「へび」「ウワバミ」などの類語。

置き炬燵蝦蟇とおろちのにらみあい

【おろぬく】うろぬくとも言い。間引くこと。
 中間を省略すると言った意のことばで、普通には産児制限の名としている。

    むにゃむにゃの関をおろぬく店屋者
【蛇足】
 奥州有也無也の関(もやもやの関、無也無也の関とも言う)。
 この句は秘義では店屋者の毛引きの句となる。

もやもやの関を許して五両取り
 美人局=筒もたせ

重くなる度に提重おろすなり こおろし

裏町で芸子重荷をおろすなり

御事(おんこと)】俗秘語では「おんごと」「おごと」などと称し、
 行房秘技を言う。この類称異名はすこぶる多い。
 中国では「ぎょじ」と言い、制御、御法などの意となる。
 我が国では「御事」は女陰名ともされている。

    気がついて見ればおかしな御琴師
【蛇足】琴三味線を仮名で読んで、今年ゃ見せん、と思った話しもあり、中国風に解すれば、我が国のご婦人便所もおかしなことになる。
 ご婦人用の便所へ飛び込んで、それを咎められた男が、
 「でも私のも此はご婦人用なのだが」と言った笑い話もある。

おんことをよく探らせる茶屋女房

婚礼の当座は朝三暮四の術

越中を女房がすると事が欠け

松茸でおごと剥き身を掻き回し
おご=海髪=おご海苔

「甚六」
 ある男が子供を二人持っていた。上は男で甚六といい、
 十七、八だが、少し脳が足りない。次は女の子で十四、五。
 二人の親たちが、もうそろそろ甚六に嫁を貰ってやらなければならないが、この頃のように商売が不景気では、金の工面が付かないとこぼす。それをそばで聞いていた甚六が
「そんなら、おれと妹が夫婦になれば、金もいるまい」といった。
 父親はひどく腹を立て、
「この野郎、犬畜生同然のことをいやがる」とどなった。
 甚六は散々叱られて、次の間へ立ち、妹にいった。
「うちのおやじはバカだよ。おれとお前を夫婦にしたら安上がりでいいといったら、とても腹を立てやがった。だけど、自分たちはなんだ。親同士で夫婦になっていやがるくせに!」

「外へは出たが」
 雪の降る夜中に、小便が出たくなって眼が覚めた。
 あいにく、便所が外なので、雨戸を開けようとしたが、凍り付いていて開かない。
 そこで、ふと思いついて、敷居の溝へ小便をみっちり流し込み、ぐいと引いてみると、氷が溶けて、雨戸がさらりと開いた。
「うん、うまい、良い考えだったな」と、ほくそえみながら、外へ出たが、もうなにもすることはなかった。
2004/10/11
【御事紙】閨紙、拭い紙、ふき紙、始末紙、和合紙、などの異称在り、また、用紙の名を呼んでこの意を示したもの。
新造は中折れがして持て余し

錐もみは押さえた人がふいてやり

おそろしくしたと掃き出す出合い茶屋

おひねりの残る雑魚寝の祭り跡

仕留めたと見えて抜き身を拭う音

事おかしくも張り形へ吉野紙

かみ居ます女郎の(ぼぼ)の奥の院

【女医者】婦人科医。江戸時代はもっぱら堕胎を業とした。
 「中条流女医者」として名が知られていた。

張り形はきつい毒さと女医者

おくれの髪を掻き上げて女医者

中条で鼻をならして叱られる

転んだ疵を治療する女医者

薬研形こをこしらえる道具也 粉と子

    女島まびく薬は正気散
【蛇足】正気散葉風薬。南風によって孕むのだから、
 子下ろしも風邪薬だろうと言う滑稽句。

女島(おんなじま)】女御ヶ島。女人ばかりが住むという想像の島。
 その伝説によればこの島の女は南風が吹くと孕むという。
 江戸城大奥は男子禁制の女語が島と言われ、
 御局の諸生活が伝えられているが、それは中国に於いても、
 秦の始皇帝の後宮などの例にもあることだった

おんなのはするの男のはさせる也
じれってえこと下反りに下がり(ぼぼ)

【蛇足】方向違い、軸線が不一致、ままならんわね。
 後ろ取りでもダメか?

とるという晩ンとられる恥ずかしさ 婿取り

貝開(かいかい)】開は、我が国でも様々に読ませて、女陰名としているが、
 それと同音の貝も女陰の俗称に用いられる。
 「お貝々」などといい、蜆、蛤、赤貝、法螺貝などは多く年齢的な種別に用いられる。
 その他にも「カラス貝」「子安貝」「アワビ貝」が情事語になる。
 「貝合わせ」は女同士の秘戯の称となる。

うわばみのたくつている洞ケ嶽
この貝を拾いに来たと床の痴話
2004/10/12
【貝合わせ】女子同性秘戯。「双女対食」「共食い」その他の異名がある。「ト一ハ一(トいちハいち)」も一、ニの異説がある。普通義の「貝合わせ」は、
 元来は女子の室内遊戯で、蛤の貝殻に絵を描いたものを、
 左貝と右貝とに分け、右貝を出し貝といって、互いに出し合い、
 地貝と合えば取り、その数を多く取った方が勝ちとなる。
 総数は三六〇個、貝の中側に絵や歌がかいてあって、二個一組になるようになっていた。張り形使用に限らず、乳当て、
 擦淫、相舐などがあり、「合貝屋」とは、私娼家をさしていった。
貝合わせ女二人で向かうなり
貝合わせばかりしている奥女中
相身互いとは長局の言葉 互い形

【開縮】近代の造語だが、女陰の開縮に言う秘語。
 俗に「締まり」と云い、「張る」とも云われている。
 川柳では「はみ出す」「吹き出す」など滑稽に云っているのある。

噛むようになったと笑う出合い茶屋

とんだよがりよう辺乃古を吹き出し

太神楽終うとししを〆殺し

水引で蛤をつる雛祭り

また蛸にひったくられる兜形

お妾はくわえて引くが隠し芸

出合い茶屋辺乃古のありったけはする

【替え鞘】秘語。鞘の隠語。
 替え鞘はその代替え品と言った意味で、妾に云う。

    御身をあばい替え鞘を進められ
【蛇足】「あばい」は「かばい」のことだ。
 武家は嗣子がないとお家断絶となった。

鞘は江戸殿は抜き身で御出立

御局の悋気かかとへ角が生え

怖いこと辺乃古四五本馬が喰い 丙午

辺乃古を替えて喰う丙午

大は小をかねると笑う長局

長局工面のいいは亀にのり 鼈甲張り形

塗りたてた妾は奥を壁にする のけ者にする

【かかあ】
 嬶、女房、山の神、荒神様など様々な俗称が行われている。

梵語では大黒俗語では山の神
弁慶と小町は馬鹿だなァ嬶ァ
雷は馬鹿おれならば下をとる
千手観音
 ある貧乏な寺で宝物の千手観音を開帳して、参詣人に拝ませた、善男善女が集まってきた。其の中に、一人、物知り顔の男がいて、内陣に入って役僧に尋ねた。
「千手観音という仏様はお手が千本あるのに、お足はたった二本ですね。此はどういうわけでしょう」
役僧「此は良いところへ気づきでした。おっしゃるとおり、そのお足がたりませんので、お開帳を致すようになった訳なのです」
2004/10/12
あんま
 独り者の浪人が按摩を呼び込んで、揉ませながら、
 四方山の話をしていた。
「お前の住居はどこだ」
「八丁堀です」
「それは遠いな。この寒い夜更けに、目の見えない身体で、そこまで帰るのは可哀想だ。ここへ泊まって行きなさい」
「それはまことに、有り難うございます」
 そして、一枚の蒲団を二人で引っ張り合って寝た。
 だが、按摩の顔がいかにも汚く、しかも、韮を食べてきたとみえて、息がとても臭いので、やりきれなくなって、
「なあ、あんまさんそっちを向いてくれないか」
 按摩は何を勘違いしたのか、
「とんでもない、それだけはお許しください」

【かかととと】父母の俗言。または小児語。

ととさんとかかさまと寝て何をする

じいさまと婆々さま寝たら寝たっきり

ととさんは留守かかさまが来なさいと

うらやんで爺ィ起こす姑婆々

【踵】秘語。張り形使用に「きびす掛け」の法があり、俗に
 「かかとを雇う」と言い、また「足力按摩」の称がある。

相方のないは踵で骨を折り

かかとまで入れたと笑う長局

御局の悋気かかとへ角が生え

長局足を早めてよがるなり

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