古の筑波、茨城を詠む 目録
 高浜の下風騒ぐ妹を恋い 妻と言はばや頻しこと召しつも 常陸国風土記
 
  藤原宇合うまかい任遷って京に上るとき常陸娘子の贈れる歌
 庭に立つ麻苧あさお刈り干し布さらす 東女を忘れたまはな 五五一一
 
 険税使大伴卿筑波山に登れる時の歌
 衣手常陸の国二並ぶ 筑波の山を見まく欲り 君来ませりと熱けくに
 汗かきなげ木の根取り 嘯うそぶき登り嶺のを 君に見すれば 男の神も
 許し賜い女の神も 幸ちわい賜いて 時となく雲居雨降る筑波嶺を
 清に照らしていうかりし 国のまほらを委曲(つばらか)に 示し賜えば歓しみと
 紐の緒解きて家の如 解けてぞ遊びうち靡く春見ましゆは夏草の
 茂くはあれど今日の楽しさ 一七五三
 
 今日の日のいかにか及かん筑波嶺に 昔の人の来けんその日も
 高橋虫麻呂
 草枕旅の憂いを慰もる 事もありやと筑波嶺に 登りて見れば
 尾花散る 志筑の田井に 雁も 寒く来喧きぬ 新治の
 鳥羽の淡海も秋風に 白浪立ちぬ筑波嶺の
 吉久よけくを見れば長く日に思い積み来し憂いは止みぬ 一七五七
 
 筑波嶺の裾廻(すそい)すそみの田井に秋田刈る 妹許(いもがり)遣らん紅葉手折らな
 一七五八 高橋虫麻呂
 鷲の住む筑波の山の裳萩津もはぎつの その津の上に率あどもいて
 乙女壮士おとめおとこの往き集い 会う歌垣かがいに人妻に
 吾も交らむ吾が妻に 人も言問えこの山を 領うしはく神の昔より
 禁いさめぬ行事わざぞ 今日のみは めぐしなも見そ言も咎むな 一七五九
 
 男の神に雲立ち上がり時雨降り 濡れ通るとも吾還らめや
 一七六六 高橋虫麻呂
 筑波嶺に逢はんと言いし子は 誰が言聞けば神嶺かみね明日は来んや
 
 筑波嶺に庵りて妻なしに わが寝ん夜ろは早も明けぬかもや
 
 三栗の那珂に向かえる曝井の 絶えず通はんそこに妻もが 一七四五
 
 遠妻し多賀にありせば知らずとも 手綱の浜に尋ね来なまし 一七四六

 
  鹿島の郡苅野の橋にて大伴卿に別るる歌
 牡牛こというしの三宅の浦にさし向かう 鹿島の崎にさ丹塗りの
 小船を設け玉纏たままきの 小楫繁貫おかじしじぬき夕潮の 満ちのとどみに
 御船子みふなこを 率あどもい立てて呼びたてて 御船出でなば浜も狭
 後れ並み居て反側まいころび 恋いかも居らん足摩あしずり
 哭のみや泣かん海上の その津を指して君が漕ぎ行かば 一七八〇
 
 海つ路の和ぎなん時も渡らなん 斯く立つ波に船出すべしや
 一七八一 高橋虫麻呂
 磐城山直越え来ませ磯崎の 此海こぬみの浜に吾立ち待たん 三一九五
 
 筑波嶺の嶺ろに霞居過ぎ難てに 息づく君を率寝いねて遣らさぬ 三三八八
 
 筑波嶺の背向(そが)いに見ゆる葦穂山 悪しかる咎もさね見えなくに 三三九一
 
 筑波嶺の彼面此面(かのもこのも)に守部据え 母い守れども魂ぞ合いにける 三三九三
 
 筑波嶺のこのもかのもに影はあれど 君が御影にます影は無し 古今集
 
 小筑波の嶺ろに月立し間夜は さはだなるぬをまた寝てむかも 三三九五
 
 小筑波の繁き木の間よ立つ鳥の 目ゆか()を見んさ寝ざらなくに 三三九六

 
 常陸なる浪逆の海の玉藻こそ 引けば絶えすれ何どか絶えせん 三三九七
 
 まくらがの古河の渡りの韓楫からかじの 音高しもな寝なへ児ゆえに 三五五五
 
 逢わずして行かば惜しけんまくらがの 古河漕ぐ船に君も逢はんかも
 三五五七
 言痛ければ小泊瀬山の石城にも 率て籠もらなんな恋いそ吾妹
 常陸風土記
 事しあれば小泊瀬山の石城にも 籠もらば共にな思い吾が背 三八〇六
 
 難波津に御船下すえ八十楫貫(やそかぬ)き 今は漕ぎぬと妹に告げこそ 四三六三
 おし照るや難波の津より船装(ふなよそ)い 吾は漕ぎぬと妹に告げこそ 四三六五
 
 防人に発たん騒ぎに家の妹が 生るべき事を言わず来ぬかも
 四三六四 若舎人部広足
 久慈川は幸くあり待て潮船に 真楫繁貫まかじしじぬき吾は帰り来ん
 四三六八 久慈郡 丸小部佐壮
 筑波嶺の小百合の花の夜床にも 愛いとしけ妹ぞ昼も愛しけ 四三六九
 
 霰降り鹿島の神を祈りつつ 皇御軍すめらみいくさに吾は来にしを
 四三七〇 大舎人部千文
 橘の下吹く風の香ぐわしき 筑波の山を恋いずあらめかも
 四三七一 助丁 占部広方
 常陸さし行かん雁もが我が恋を 記してつけて妹に知らせん
 四六三三 信太郡 物部道足
 足柄の御坂たまわり顧みず 吾は越え行く荒し男も
 立しやはばかる不破の関 越えて吾は行く馬の蹄
 筑紫の崎に留まり居て 吾は斎いわはん諸もろもろ
 幸さけくを申す帰り来までに 四三七二 常陸国防人 倭文部可良麻呂

 
 
 秋の夜は月ぞ渡れる桜川 花は昔の後の白波 夫木集 後九条大臣
 
 月影はすみ渡るなり常陸なる 苅野の橋の秋のしおかぜ
 夫木集 法師 定円
   滝を詠む
 花紅葉経緯たてよこにして山姫の 錦織りいず袋田の滝 西行法師
 
 何時の世に包み込めけむ袋田の 布引き出す白糸の滝 水戸光圀
 
 紅葉葉を風にまかせて山姫の 水をくぐる袋田の滝 徳川斉昭
 
 御空より巌を伝いて飛び落ちて 滑りて散りて四度の大滝 大町桂月
 古語読みの注釈:前の文字を後ろの意味で読む
 飛鳥とぶとりの安宿あすか 常陸とこりくの直道ひたみち-ひたち
 防人ふせびとの崎守さきもり 百済ひゃくざいの観音ふだら-くだら

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