連歌・連句 菟玖波集


短連歌 長句五・七・五と短句七・七で構成 平安初中期
長連歌 短連歌を反復する鎖連歌 平安末期
有心連歌(優雅)&無心連歌(諧謔)鎌倉
菟玖波集 一三五六年
連歌式目「応安新式一三七二年」南北朝
新撰莵玖波集一四九五年(正風連歌)室町
水無瀬三吟百韻 室町
吾妻問答一四六七年(純正連歌)室町
俳諧連歌(「付句」と「発句」で構成 「付句」は四季。
「発句」は四季・恋・雑で構成。
「新撰犬筑波集一五二四年山崎宗鑑撰」)室町後期
俳諧
 詞付の「貞門派」。心付の「談林派」。匂付の「蕉風」。
俳諧連句撰集「俳諧七部集(芭蕉七部集・蕉門の撰集七部十二冊)一七三二年」江戸

 主要連歌師
時代順…善阿・救済・周阿・二条良基・朝山梵灯庵
・能阿弥・高山宗砌・心敬・専順・蜷川智蘊・飯尾宗祇
・牡丹花肖柏・宗長・猪苗代兼載・三条西実隆・宗碩
・谷宗牧・谷宗養・山崎宗鑑・荒木田守武・里村紹巴
・松永貞徳・西山宗因・北村季吟


  片歌問答歌

 倭建命(やまとたけるのみこと)御火焼翁(みひたきのおきな)との唱和問答歌
 日本武尊
新治筑波(にいばりつくば)を過ぎて幾夜か寝つる
 御火焼翁
日々(かが)なべて夜には九夜日には十日を


  最古連歌(万葉集巻八-一六三五)
 尼が頭句(もとのつがひことば)をよみ、また大伴宿禰家持が尼に(あつら)へて末句(すゑのつがひことば)を続ぎて和ふる歌一首
佐保川の水を()き上げて植ゑし田を  尼作ム
刈る早飯(わさいひ)は独りなむべし  家持続グ


  菟玖波集 二条良基撰集

 それ和歌は、兩儀剖判ののち、萬物未だ成らざる以來、神世より傳へて人代に逮び、既に章句を聯ね、漸く文字を整へ、風賦比興雅頌の六義を分かち、長短・旋頭・混本の諸體をあらはす。ここを以て詞林ますます華麗の艶をあらはし、思泉いよいよ芳潤の流れを添ふ。
 然れども連歌はその言約にしてその旨遠く、義は周詩に歸し、體は倭歌に合するなり。
 蓋し日本武尊蝦夷を平げ、菟玖波の艱難を嘆きたまひ、中納言家持は言を棹川の水に寄せ、業平の朝臣は情を逢阪の關に停め、天暦の御門は叡旨を滋野内侍に遺し、北野天神は天の御戸漸く舊りぬるを告ぐ。みなこれ理は幽玄に入り、事は神明に通ずるものなり。
 中葉爾降雅詠いよいよ暢び、[一]什相聯なり、四時の景象形容せざるなく、萬慮の情性吟詠せざるなし。
 啻に日域の風俗を述ぶるのみにあらず、剩さへ漢家の故事を採れり。然れば則ち代代の聖主これを撰集に加へ、家家の前修執範を作ることをなす。
 或は花下に詠じ、或は月前に嘯くの輩、美譽後世に埀るといへども、佳句遺音を傳へず。嗟呼惜しいかな。
 而していま華闕風融らぎ、京洛陽和の仁に依り、柳營露遍く、邊藩も天均の惠みを被る。
 民は教化を美め、人は孝敬を成す。
 ここに幽情を舒べ、常に微詞を綴りて、或は諷詠の媒となし、或は教誡の端となす。
 賢愚誠を致し、尊卑以て思ひを陳べ、心に盡くさざるなく、詞に通ぜざるはなし。
 ここを以て旦に讀み、夕に見るの暇、片文集字の志に感じ、述べて作らず、名づけて菟玖波集と曰ふ。
 古今の作を分かたず、上下の句を擇ばず、その數二千有餘、鄙俚の詞は來哲の嘲を貽すといへども、手を?林を擧げ、纔かに一枝を攀ぢ、目を崑山に寓し、たまたま片玉を拾ふは、譬へば猶天を窺ふに管を以てし、海を測るに蠡を以てするがごとし。
 方に庶幾は將來に傳へ、能者を待たん。
 時に文和五年三月二十五日、編緝已に畢んぬ。菟玖波の道を尋ね、佐保川の流れを受くと云ふこと爾り。


 倭言の葉は天地開けしより起りて、千早振神代に傳はれりと云へども、人のしわざとなりてぞ、句をととのへ、文字の數定まれりける。風賦比興雅頌の六くさを分ち、長短・旋頭・混本のさまざまの姿を定めしより、言の葉の花色を爭ひ、思の露光を添へずといふことなし。

 然あるに、連歌は言つづまやかに、旨ひろくして、文の意にわたり、歌の樣にかなへり。
 日本武尊は夷の亂れを和らげて、筑波峯のこと繋きわざをあらはし、中納言家持は佐保川の水に淺からぬ心を述べ、業平の朝臣は逢阪の關になさけをとどめ、天暦の御門は滋野の内侍に勅を殘し、北野天神は天の御戸ふり行くことを附け給ひき。

 中頃よりこのかた、雁の玉章かきつらね、芦の下根長くつづくることになりにければ、花を弄び、子規を待ち、月をめで、雪を詠めても、心四つの季に動き、言葉あまたの句にあらはる。或は戀路に迷ひ、或は身を恨み、君を祝ひ、神を敬ひ、佛を仰ぐのみにあらず、大和唐土の人づての世がたりまでも、すべてその心ばえにあらずといふことなん無かりける。

 斯かりければ、世々の聖りの御門も撰集に加へ、家家の道を得たる人も式目を作りて、久しく雲の上のもてあそび、花の下の戲れとなれり。月にうそぶき、風にあざける輩、その名聞えたるたぐひ、呉竹のよよに絶えずといへども、伊勢の渚の玉を拾ひ集めたるためし少く、和歌の浦の藻汐草かきおけ跡稀になん有りける。

 然かあるを、今、花闕風をさまり、柳營露あまねくして、天が下の草木よもの惠にあへるたぐひは、折に觸れ、事に臨みてはかなき情をかはし、あだなる言葉をのみぞ連ねける。文を助け、武をやはらげ、民を教ふる媒として、賢き愚かなるを捨てず、高き卑しきを分かず、思をのぶる事になれりければ、風の情及ばざる山陰もなく、露の言葉かからざる木隱れも無かりけらし。

 ここに旦によみ、夕にまみゆるあまり、暇少しといへども、道に耽ける志にたへず。終に集めて菟玖波集とへり。
 古へ今を分かず、上下の句を定めず、撰べる數二千々にあまれり。言のおろそかなるを顧み、後の嘲を愧づといへども、もとめえたるを纔に記せり。

 凡楢の葉のふるごとはちりぢりになりて、風の傳少なく、難波のよしあしは止めたるふしも多からずして、波の紛れに朽ちにしかば、今拾ひ集めたる言の葉その數少く、まことに管をもて天つ空を窺ひ、蠡をもてわだつみを測らんが如し。然あれども、この事を長く末の世に殘しとどめんとなり。かつは塵ひぢのいやしきことわざ天つ空まで聞えあげて、忝く愚かなる心ばせを見そなはし、あまつさへ畏き勅になずらへらる。是すなはち君も臣も體を合せ、あひにあへる秋をえたりと云ふべし。
 于時文和五年三月二十五日になん記し畢りぬる。
 遠きを尊び、近きをば卑しくする習ひ、古を思ひ、今を恥づといへども菟玖波の道を尋ね、佐保川の源を知りて流をうけよといふことしかり。

 卷第一 春連歌上

 寶治元年八月十五夜百韻連歌にと侍るに
 山かげしるき雪のむら消え
あらたまの年の越えくる道なれや

 たえぬ煙と立ちのぼるかな
春はまだ淺間の岳のうす霞

 山の梶井坊にて百韻連歌侍りけるに
 なほもこほるは志賀のうら波
雪間より道ある山となりぬるに

 月影さむくよこそふけぬれ
初春は霞ながらも冬に似て

 右大臣に侍りし時、家の百韻連歌といふ句に
 花おそげなる山里の春
これを見む霞に殘る雪の松

 うらの春とや波に花さく
遠山は霞にもなり雪に見え

 船路のあとの山はいづくぞ
松原のきのふは見えし朝霞

立ちそむる霞の袖はなほうすし
 浦はかとりの春のあけぼの

 舟路の末のうらは知られず
そことなき汐瀬の波のひと霞み

 誰袖かけて風かよふらん
佐保姫の霞の衣たちかさね

 後鳥羽院御時白黒賦物の連歌召されけるに
乙女子がかつらぎ山を春かけて
 かすめどいまだ峯の白雪

 弘長二年八月の庚申百韻連歌のうちに
有明けの月もおぼろに影みえて
 春の雪げにさゆる空かな

 正月二十日あまり風寒く雨降りけるに、内に參りてふところ紙に書きて、清少納言の局にさし置き侍りけると侍るに
 すこし春あるここちこそすれ
空さえて雪は花にやまがふらん

春ながら年は日數ものこりけり
 雪の枝にも匂ふ梅が香

 常在光院にて百韻連歌侍けるに
 身をさりともとたのむばかりぞ
朽ちのこる老木の梅に花咲きて

野べに消えし煙の跡は霞にて
 この山里はなほ春の雪

 むもれ木ながら春を忘れず
谷川のせぜの白波雪きえて

 嵐の音のさえかへる空
月に見る雪は春さへ消えやらで

 しほひはるかに見ゆる松原
やまあれば霞の上に雪消えて

 道あらはるる野こそ遠けれ
山本のかすむのきばに夜はあけて

 むかふ中にも隔てこそあれ
住吉の浦よりかすむ淡路島

 數ならぬ身は春ぞよそなる
山里は雪消えながら道なくて

花にさく梢も高き峯の松
 春にはおよぶ曙もなし

 霞にのこる槇のむら立
深山には消ゆるともなき雪なるに

國國は同じ春にやなりぬらん
 伊勢しまかすむ浦の明けぼの

 谷の小川や水まさるらん
山ふかき春のみ雪は下消えて

 とはばやなほもふるさとの春
誰が植ゑしあるじも知らぬ梅咲きて

朝霞春や山より立ちぬらん
 雪に木つたふ鶯の聲

 建保五年四月院の庚申百韻に
 年の内より春を迎へて
鶯のしのぶる聲もいかならん

春淺く霞まぬ空はなほさえて
 梅が香になる雪の下風

 心なき身も春や知るらん
山がつの梅の垣穗に花咲きて

 今は花咲く春をまつかな
掘りうゑし根こじの梅は枯れもせで

里あれば浦にも鐘やきこゆらん
 なにはの梅の匂ふ夕ぐれ

 我をも誘ふ鶯の聲
梅が香を花にもそへぬ風吹きて

 北野社の千句連歌に
 我も老木の花の下蔭
松ならぶ梅の匂に風吹きて

 枯木と見しに花の咲く春
梅が枝の盛のほどは葉もなくて

 寛元四年三月法勝寺花下にてといふ句に
 若菜つみにと急ぐ心に
梅の花匂ふあたりは過ぎやらで

 寶治元年三月昆舍門堂花下にて
櫻色に空さへとづる梢かな
 花にもりくる鶯の聲

神垣の春を忘れぬ梅が香に
 そのきさらぎも半ば過ぎぬる

 春はひがしや始めなるらん
三日月は西より見ゆる霞にて

思ひいづる見し世の春はそれながら
 月やむかしに霞みはつらん

 元亨三年四月龜山殿百韻連歌に
 同じ雲井の春ぞ戀ひしき
老が身にかすめる月は隔りて

 そのしなじなや又かはるらん
月かすむはては雨夜になりにけり

 老の春をば誰にかこたん
涙にはかすむも月のとがならず

 雲も一つにかすむ夕暮
出でそむる月のおぼろに山見えて

 春ふる雪はやがて消えぬる
霞めども雲にたまらぬ月みえて

 法勝寺花下連歌に
 たぐひもあらじ梅の初花
おぼろなる月は軒端にうつろひて

春雨のくもりつづくは物うきに
 おぼろなるにも月を待たばや

 春も末なる東路の山
月かすむ小夜のなかばの鐘聞きて

時のまの春や昔となりぬらん
 面影かすむ有明の月

 つれなきものや涙なるらん
ありあけはやがておぼろに成りにけり

 ごりは花に限らざりけり
又や見ん有明の月の朝霞

月あればなほ山影や霞むらん
 鐘よりさきにあけし春の夜

有明のかすむ枕に鐘聞きて
 別れ程なき春の夜の夢

霞だに立ちも及ばぬ不二の根に
 たぐひもあらじ曙の春

 思はぬ夢ぞ昔なりける
春の夜はただ一時にあけ過ぎて

霞より出でてにほてる日の影に
 海の春には波風もなし

山本やかすみて遠くなりぬらん
 おぼろ月夜のあけのそほ舟

山よりもさきにや人の立ちかへり
 春をかさぬるころもかりがね

 寶治元年八月十五夜院の百韻連歌に
昔より人になごりを慕はれて
 おのが心と歸るかりがね

 後光明照院關白左大臣家の百韻連歌に
 同じ方にや春もゆくらん
かりがねは越路の方をすみかにて

ゆく月も天津空なる道なれや
 雲井の雁も春やしるらん

ふる雪はこしぢになほやのこるらん
 あとなく歸る春の雁がね

 そなたの峯は雪ものこらず
遠山も別れの雁のあとに見て

 霞にくるる空は覺えず
春雨のふるとしもなき音はして

あらましやただ徒らに成りぬらん
 柳が枝に花も匂はず

 寶治三年昆沙門堂花の下にて
 花も咲きぬや葛城の山
うち靡く柳が枝の永き日に

 正和元年二月法輪寺千句に
 花も老木の姿なりけり
朽ちのこる柳のまゆのうす緑

眞柴つむ舟こそ岸につきにけれ
 水のけぶりや柳なるらん

 命は知らず日こそ永けれ
白露の玉の小柳雨ふりて

春の日に垣根の雪は消えながら
 若葉の草はなほぞみじかき

 法輪寺千句連歌に
あは雪は春のしるしに消え初めて
 うすき煙は草の下もえ

 音立ててふる夜の雨かな
槇の戸の嵐の春はしづかにて

 建保五年四月庚申、百韻の連歌に
 いづれの浦と詠めわくらん
淺みどり春の鹽屋のうすけぶり

 花おちかかるかげの松原
春の日は山に近きも暮れやらで

 文和三年七月うへのをの子ども連歌仕りけるに
草も木も同じ惠の時を得て
 野山の春も我が國の春

 同じ連歌に
 日影にかすむ夕暮の月
よるひるの境もわかず花を見て

 我が故郷の春ぞゆかしき
うゑ置きし花の盛のおもはれて

 正和四年五月朔日百韻連歌に
ことかたに移りかねぬる心にて
 軒の櫻にめかれこそせね

 弘長二年八月院の百韻連歌に
ゆき歸る雲井の雁はそれながら
 花ある里にわかれずもがな

春のくる柳の絲をめにかけて
 花の陰こそ思ひやらるれ

ささ竹の大宮人のかり衣
 一夜はあけぬ花の下臥し

 またとぞ契るあかぬ名殘を
知る知らぬ春のならひの花の陰

心から憂きにぬれたる我が袂
 花のしづくや雨とふるらん

 雲ゐる山に花や散るらん
ぬれぬれも雨にさはらぬ櫻狩

 法輪寺千句連歌に
 霞のそこは入相の鐘
いそがれぬ花のかへさや暮れぬらん

 惜しき春こそ夕暮になれ
山里に月出づるまで花を見て

 かたわに見ゆる春の三日月
小車の半ばは花に木がくれて

 誰に見よとて涙落つらん
古里は花ひとりこそ昔なりけれ

 北山の花を見て歸り侍るとてうつぼに花の枝をさして一條の大路を過ぎ侍りけるに、さじきの内より女の聲にてといひ侍りければ馬より下りて
 やさしく見ゆる花うつぼかな
もののふや櫻狩して歸るらん

僞りのいつはりならず見ゆるかな
 櫻にかかる峰の白雲

 歸りかねたる雁の一つら
花のこる里には人のとどまりて

 柴の戸までもうきはのがれず
山はなほ花に嵐のいとはれて

 浦の霞に松風ぞ吹く
月のこる花の外山の朝ぼらけ

 越ゆる關路は霞かすまず
松原や花のこなたに暮れぬらん

いにしへの春は心にかへり來て
 老木は花もまれにこそ咲け

 思はぬ方に宿をこそとへ
花にゆく心や我を忘るらん

 里まで鐘を送る山風
とふ人の名殘も花の夕にて

 山路の春やまた殘るらん
けふくればあすもと思ふ花を見て

まちわかれいづれも花の心にて
 見るは一時のはるぞ少き

春の日や霞のそこをくぐるらん
 花のうつりて水のくれなゐ

 上東門院中宮と申しける時、うへの局にすませ給ふける前を過ぐとて、藤原道信朝臣山吹を折りて御簾の中へさし入れ侍るとて
くちなしに千しほ八千入染めてけり
 こはえもいはぬ花の色かな

馴れ來ても共に幾年過ぎぬらん
 いまの朽木はうゑおきし花

ひとへふる雪にも跡やつけつらん
 匂もをしき花の下風

山里の夕は月になりにけり
 花の陰とやなほかすむらん

 かすめる山や遠くなるらん
白雲のいくへの花も見えわかず

 元亨二年南殿の陰にて人人連歌仕りけるにといへるに
 今いにしへの春の面影
月影にみはしの花の雲のうへ

 かねて思ふも春はをしきに
散らぬより風にななれそ山櫻

 雪にいくたび友を待つらん
山里の花は散るまで人とはで

 建保五年四月院の庚申の連歌に
ききおきしこれや生駒の峯ならん
 雪と見えたる花の林は

 菟玖波集卷第二 春連歌下

 誰に心のうつるとか知る
色までもうたてあだなる花さくら

 後鳥羽院御時百韻連歌奉りけるに
 同じ霞ぞ都にも立つ
吉野山花さくら戸のあけしより

夕顏の垣ほの露にやすらひて
 花にこととふたそがれの空

 元亨三年四月龜山殿百韻の連歌に
行末の遠き道をや急ぐらん
 花を見すぐる志賀の山越

足引の山の端遠く霞むかな
 心は花にかかる白雲

 正和四年六月朔日百韻連歌に
 暮れゆく鐘の音ぞかなしき
花まじる檜原の嵐吹きそひて

 春くははれる年ぞうれしき
今いくか花を見るべきあらましに

霞む夜は明けゆく空もまたるるに
 花の光に月ぞのこれる

 夢もうつつも見る程ぞかし
花に咲く嵐はよるの枕にて

 花山院入道右大臣花の頃住み侍りける山里の庭の菫をつみて歸るとて
 つみてぞ歸る宿の菫を
花見ては一夜もぬべき山里に

 雲や霞の光なるらん
花のこる山の梢に月入りて

よそよりも槇の下道先くれて
 花にあらそふ山の端の月

 二品法親王花の頃西芳精舍にて連歌し侍りける日に
 關の霞によこそ明けぬれ
月もらぬ花の陰さへおぼろにて

 昔の春にたがはざりけり
栽ゑかへし花も老木に又なりて

 春をへてこそふる里になれ
うゑ置きし人をや花も忍ぶらん

泣けばとて人は名殘もよも知らじ
 雨しほしほと花にこそ降れ

雲にこそ山の高きも知られけれ
 花や心を空になすらん

旅寢する夢には關もなかりけり
 心とどむる花の木がくれ

 命をたのむあらましはせじ
まだ咲かぬ花の若木をうゑ置きて

 雲も霞もいろいろの春
咲きまじる花の青葉の松見えて

 うきならはしの旅心かな
花とめぬ宿の梢を吹く風に

 志賀の浦和の波は霞まず
松一木花にはかはる梢にて

 そのきさらぎの跡をこそとへ
一ふさの花や老木にのこるらん

 西芳精舍の花の頃夢窓國師池水に舟を浮けて百韻連歌侍りし中に
 雲に霞や立ちかさぬらん
峰に散る花こそ谷の梢なれ

 後に思へば春だにもなし
なれけるも悔やしき花の別れにて

 いたづれにこそ昔ともなれ
ことしなほ花を見するは命にて

とはれねば後の朝いさしらず
 けふ見る花の雪の夕暮

 關白左大臣家百韻連歌に
 別れの雲は面影の夢
月に散る花の山風よるふけて

 これさへ身には契うき春
人を待つたよりなりつる花散りて

 岩こす浪は松の嵐か
散るを見る山には花の瀧落ちて

 待ちしに歸る心なりけり
散る花の跡なる山や霞むらん

春の日や神の光となりぬらん
落ちても花はちりにまじはる

とまらぬは春の別れと思ひしに
 きのふの花はけふの山風

さざ波かけて吹く嵐かな
 白妙のしが山櫻かつ散りて

出でやらぬ夕の月は木の間にて
 心つくしに花や散るらん

 春やいづくも名殘なるらん
四方に散る花は一木の風なるに

 關屋の春も今はとまらず
杉むらの木の間に見えし花もなし

いつもただ待てば別れのあるままに
 花ちる頃はうき夕かな

 心くらべによわりこそせめ
花よりも先に落つるぞ涙なる

 ここもうからばいづち行かまし
散るを見て花の影ともたのまれず

 厭ふ心のいつかかはらん
散りやすき櫻にならぶ松の風

 末いくほどぞ春の別れ路
明日もこん花なほ殘せ夕嵐

吹きかはる風のたよりに任せつつ
 思ひ定めずちる櫻かな

天つ風我が思ふかたに吹きよわれ
 散るとも花は外へちらさじ

一村の松の木の間に波を見て
 嵐にかかる花のうき雲

 關白家百韻連歌に
 思へば今ぞかぎりなりける
雨に散る花の夕の山おろし

 名を忘れてや人の訪ひ來ぬ
雪になる後にも花は見るべきに

ふるさとにとまる心はあるものを
 別れ思ひて花や散るらん

 心をさそふ春の山里
庭に散る花に梢の風見えて

 聞けば音して歸る小車
心せよ花見どころの夕あらし

 雪に流るる谷川の末
風そはぬ雨にも花のまた散りて

雲に入る山路の春も暮れにけり
 花をしたひて鳥やなくらん

  霞のたえま日こそ見えけれ
咲きそめし枝より花のうつろひて

 今さら何と人のうらむる
春ごとの別れは花にあるものを

 かすみや曇る鏡なるらん
影みえし木の下水に花散りて

霞より上に見えたる山櫻
 をられぬ花は瀧の白波

 天暦の御時、殿上のをのこども、東山の花見にまかりける道に、木こりの櫻の枝を折りて薪にさして歸りけるを見て、藤原高光と侍るに
 花は梢にのこりげもなし
散らぬまと急ぎ來つれど山櫻

 うき身はよしや宿も定めじ
花の散る山の木かげを住みかへて

 踏むあともなき山里の庭
櫻散る木蔭の嵐雪ふきて

 文和四年五月關白家千句連歌にと侍るに
鳥はなほ籠の内にこそこもれるに
  きのふぞ越えし初瀬路の山

川波もまた散る花になりにけり
山里や何につけても憂かるらん

 花はころすぎ山は有明

櫻散るその面影も忘れぬに
 のこりし花の有明の月

 花散る後は春ぞ少き
影のこる月の霞に夜はあけて

 別れの雁の遠き一つら
山霞む月のそなたに夜はあけて

 寛元四年三月法勝寺花下にて
 春の末とやうすかすむらん
有明に彌生の月のなりゆけば

 人丸に似て歌やよむらん
かきのもとを流るる水に鳴く蛙

 かはるや歌の心なるらん
飛鳥川きのふの淵になく蛙

誰とてもまた歌をこそよめ
 花の鳥水の蛙の聲聲に

 火よりもあかき霞とぞ見る
山ふかき木の下つつじ花咲きて

 めぐみをまつにかくる身の春
春日山花にもれたる藤はなし

 春日の社頭にこもり侍る時、月次の連歌に
 身のため君をなほ祈るかな
神垣の藤さく松の陰にゐて

暮れかかる春に心やくだくらん
 藤咲く松はあをしむらさき

 山にかかるは霞とぞ見る
藤さけば松さへ花の木になりて


また見るも別れの花になりにけり

はじめにかへる春もあれかし


別れゆく春のかへるさ迷へとや

八重たちこめてかすむ夕暮


かつ散りにけり山吹の花

言はずとも春の名殘は知りぬべし


ことわり知らばげにはかこたじ

限ある春の日數のゆふぐれに


木の間かすめる有明の月

別るるは心づくしの春なるに


柴の戸までも花ぞちりける

別れうき春はいづくも名殘にて


したの心や離れざるらん

ゆく春の霞の衣身に馴れて

寛元四年三月花下連歌に

逢ひ見てはあかぬ心の別れかな

彼の月日になほ春もあれ


過ぐる月日も老に知られず

ふるさとの春いたづらに暮れはてて

關白家の千句連歌に

と有るに

思ふに堪へぬ身こそ佗びぬれ

明日までの日數のなきに春暮れて


花はとむれど止まらぬかな

春かへり人靜かなる柴の戸に


夢とやいはん花の面影

一春もこよひ明けなば過ぎぬべし


憂きをも知らずなほしたふかな

ゆく春のあひも思はぬ別れ路に


時しも降れる夕暮の雨

佐保姫や春のかへさを送るらん

 菟玖波集卷第三 夏連歌

さだめのなきや心なるらん

世の中の一花ころも立ちかへて


今より蝉の聲や聞かまし

夏衣うすき袂にけふかへて

寛元三年三月花の下の連歌に

彌生のはての夜半のあけ方

神まつる卯月のいみや急ぐらん


袖の雪かと打ちはらひけり

卯の花のかつ散る里の夏衣

導譽法師家の千句連歌に

これや鎧の絲のいろいろ

卯花の垣根の草の下もえぎ


河のよどみに花ぞ殘れる

吉野なる夏みるまでの遲櫻


羽をかふるまで鳴くは鶯

木と木との並びて茂る夏山に

人の許より葵おこせたりけるを、年經て後、祭の日葵の枯れたる葉に書き附けて遣はしけるに

年ごとに昔は遠くなりにけり

あふひは今日の心地こそすれ


この一聲に生まれゆくなり

こと鳥を我が親にせしほととぎす


花散る跡を人やとふらん

この山にまた待たるるはほととぎす


月のあけ方雨のゆふぐれ

待たれてはよをも重ねよほととぎす


つれなく殘れ有明の月

時鳥いづくの雲を過ぎぬらん


ひとり寂しき雨の音かな

時鳥すぎつる夜半の草の庵に


夕暮のうはの空にぞ待たれける

山ほととぎす一聲は鳴け


山の端近き月を殘して

過ぎぬるか待ちし雲井の時鳥


折りしもあれ山時鳥來鳴くなり

五月の空の有明の頃


雨の降るにぞなほ待たれける

夜な夜なの月にも聞かぬ時鳥

寛元三年三月昆沙門堂の花の下の連歌に

とひくる人の道見えぬまで

時鳥聲する方も夜はくらし


むすぶ枕の夢ぞみじかき

あやめをば長き根ながら引きつるに

家の月次連歌に

と侍るに

聞きふりてなほあかなくに時鳥

花たち花の宿を忘るな

嘉暦四年七月七日内裏七十韻の連歌侍りけるにと侍るに

ふきつづく軒の菖蒲に風過ぎて

右のつかさに匂ふ橘


小島に通ふ宇治の川舟

橘の匂かをるに風過ぎて


ひだり右にぞ人の名はある

橘の枝をかはすは櫻にて

正和元年三月法輪寺千句に

菖蒲の枕むすび捨てつる

橘もいつかと待ちし時過ぎて


八幡の宮の夏の御神樂

橘はきねが袖ふる鈴なれや


筧の水の音ぞたえぬる

五月雨に山井のせきや落ちぬらん


木陰には樗の花の散りにけり

朝露ながら草のさみだれ


水深くして駒やとどめん

五月雨のふり分け髮の柳かげ


谷の小川ぞよそに流るる

五月雨に水上しらぬ瀧おちて


のぼりもあへぬよどの友舟

かきくもりあやめも知らぬ五月雨に


涙もよほすつまとなりけり

五月雨に軒のあやめの雫こそ


見るままに岩越す波のおちたぎつ

せぜやはいづく五月雨の頃


馴れて程ふる庵なれども

五月雨になほこそ袖はぬれまされ


おのづからたたく水鷄の聲ながら

さもあけ易き夏の夜半かな


鳥の音まがふ鐘ぞ聞ゆる

明けやすき關路の月は殘りけり


風さへ高し葛城の山

霜といふ月には夏の夜をしらで


見る程もなきうたたねの夢

月をこそ短夜ながら待ちつるに


草の中にぞ花もこもれる

夏なればまだ穗に出でぬ薄にて


暮れはてて涼しき風は秋ちかし

露に月まつ庭の夏草


ならす扇のうちも置かれず

塵はらふ常夏の花咲きしより


見る目なき人もやかくはしほるらん

露のしげみにまじる姫百合


野島にかかる波の下草

姫百合の見えつ隱れつ咲く花に


思ふ程にはいまだ恨みず

風かよふ夏野の眞葛若葉にて


空なる星にかよふ篝火

峯高きともしの影に立つ鹿や

龜山殿にて大井の鵜飼を召して、主水司の奉りける氷魚給はせけるに、鵜飼見知り侍らざりけるにや、川の中に捨てたりけるに


かがりならぬひをばえ知らぬ鵜飼かな

夏はこほらぬ水にならひて


短夜の月のゆくへも知らぬかな

鵜川のかがり影ばかりして


きぬぎぬならぬ曉もうし

槇の戸をさぞな水鷄の音づれて


梓の眞弓たたく人あり

月の入る跡に水鷄の聲ききて


落葉は水の上にこそあれ

夏川の入江の洲島立ちかねて


繪のいろどりの青き夏山

鳥かげの舟の帆柱蝉ありて


柏木の葉山の陰に里見えて

煙くらべをしづが蚊遣火


煙にくらき庵の窓かな

蚊遣火のもゆる螢の影ながら

北野社の千句連歌に

むぐらまじりにしげる叢

思ひをば何とも知らず飛ぶ螢


野をゆく道は露ぞ涼しき

日影さす山の夕立かつ晴れて


うつる日影もしばし曇りて

山風や夕涼しくなりぬらむ

弘徽殿の持ち給へる扇にかかせ給ひけると有るに

君にのみ扇の風は夏の夜に

あつしとのみもおもほゆるかな


立ちやすらはぬ人やなからん

ささのくま日のくま川の夕涼み


入る月を人もさこそは惜しむらめ

ならす扇のうちも置かれず


手にもつ花も風ははなれず

扇には松の一むら繪にかきて


唯一しきり夕立の雲

入かたは日影なれども涼しくて


時こそ今は半ば過ぎぬれ

限あれば雪みなつきの不二の嶽

寶治元年三月昆舍門堂の花下にて

しほれてもよしや中中旅衣

一むら雨に袖ぞ涼しき


しばし立ちよる杜の下蔭

衣手のたより涼しき風吹きて


さてだに見えぬ面影ぞうき

草の原しげき夏野の忘れ水


夏なき風ぞ松にきこゆる

月影の宿る清水をむすびあげて


やや夏ふかくなりにけるかな

かりそめに堰き入れし水の泉川


吹く風も袖に涼しき夕かな

むすび捨てたる山の井の水

平等院僧正行尊諸國修行し侍りけるに、疲れて覺えければ、麻つくりたるほとりに、よりふして休みける所を馬に乘りて過ぎ侍るとて、誰ともなくて言ひて遣す

これを聞きてとりあへず

あさかげにこそ夕涼みすれ

日ぐらしのけさ鳴く聲にばかされて


この野になればまがふ夕暮

夏草を秋にや花の見せつらん

後鳥羽院の御時、三字中略、四字上下略の連歌に

むすぶ契のさきの世もうし

夕顏の花なき宿の露のまに


親子の契いかが結びし

夕顏の葉末の露の玉かづら


心ある草のしげみの螢かな

秋ちかしとや誰も知るらん

後鳥羽院の御時百韻連歌召されけるに

御祓川ふち瀬に秋や立ちぬらん

風も流るる麻のゆふしで

菟玖波集卷第四
秋連歌上


文和三年七月七夕に

袖にこそ露のはじめは知られけれ

吹くを秋なる荻の上風


秋のまぎれや憂き身なるらん

荻の音松の聲にて風はなし

貞和三年六月萩原殿の百韻連歌に

薄霧に見ゆるは月のはじめにて

秋の心の袖のゆふ露


三日月もよを急ぐかと影みえて

きのふけふこそ風も秋なれ


とりし早苗は稻葉とぞなる

秋いそぐ風はきのふに吹きかへて


尾花が末ぞ露にかたぶく

袖もまた夕の秋は涙にて


木の葉しぐれの音きこゆなり

秋になほもろきは涙袖の露


今さらにその名もつらく成りにけり

軒に生ひたる草の葉の露


鈎簾の間かけて風通ふなり

七夕のそらだきものの夕煙


またやことしも物思ふべき

稀にあふ契も過ぎぬ天の川

元亨三年十月龜山殿百韻連歌に

まためぐりあふ逢瀬ともがな

今朝はまたたちわかるとも銀河


雲にぞ橋のかげはありける

うば玉の夜わたる月の銀河


まだ初秋はみじか夜の空

七夕も明くるそらをや惜しむらん


三つ葉四つ葉の露の下草

星合ひのけふは七つの日數にて


秋におくこそ心なりけれ

七夕もこよひ扇のつままちて


もろきぞ老の命なりける

風よわき秋の柳の葉は落ちて


流す涙のはては紅

玉章をかきの一葉の秋風に


野をゆけば淺茅色づき露置きて

ゆふ日がくれは松の秋風


身のうへになほうきことや知らるらん

かげの庵は山の秋風

文和五年三月家の千句に

何ゆゑの我が思ひぞととひし時

秋は夕暮風は荻の葉


月をみて枕定めぬ夜もすがら

風におきふす庭の荻原


秋風やなほ音高く聞ゆらん

庭なる荻はことくさのうへ


淺茅といふは花咲かぬ草

故郷はうきことばかり秋に似て


笛の音に琴のしらべを又添へて

となりの秋も松風ぞ吹く


秋のとなりを風にこそ知れ

中垣のあなたに荻の末見えて


しばしな立ちそ四方の秋霧

見て過ぎむ野もせの荻のおるにしき


うつろふ秋をなほぞうらむる

風かよふ小野の淺茅のま葛原


山は鹿の音野には鳴く蟲

物ごとに悲しきかなや秋の暮


柴の戸ぼそは月のあけぼの

夕こそみやまの秋と思ひしに


月影も所がらにぞかはりける

とこ浦よりも難波江の秋


月出でぬれば須磨の浦船

霧はれて山ここもとに成りにけり


月も高根の遠き夕ぐれ

秋霧の上一とほり山見えて


柴の戸ぼその荻の上風

なほうきは秋の中にも夕にて


風にさきだつ露ぞはかなき

朝貌の花はあまたも有りながら

貞和四年六月家の連歌に

唯一時の秋の夕かげ

朝顏のしぼめる花は露もなし


なほざりの契やこれも結ぶらん

小野の淺茅における白露


結ぶは露か袖の涙か

尾花散る風の下草それながら


露にぞぬらす苔の衣手

松風の音をいはやの秋にして

文和四年五月關白家の千句の連歌にと侍るに

身をだにも思ひ捨てたる世の中に

秋のうきをばのこす山里


いろいろなるは庭の撫子

花さけば一つ草とはよも見えじ


秋の涙ぞ袖の雨なる

露にふく尾花の風は音もなし


共に臥す野邊の鶉の立ちつれて

入江の尾花また浦の波


いたくな吹きそ秋の夕風

露のもる山の庵の板びさし


あるる板間は月もかくれず

草おひて軒にも露やむすぶらん


今聞くは里の砧の音ながら

露霜さびし淺茅生の奧


月を見る夜の須磨の浦波

淡路潟せとの秋風身にしみて


いがきの月も住吉の浦

波越ゆる松のしづえに露見えて


かはる空こそ月になりぬれ

雲霧のたえまに見えし日は入りて


しめぢが原は猶秋の草

うき夕露と涙に袖しめて


かつ見てをしき秋の色かな

風に散る野邊の千草の花かつみ


尾花ちりかふ夕暮の空

葛のはふ園の竹垣あれはてて


くるとあくと詠めもあかぬ槇の戸に

外山へだつる宇治の川霧


散りては松も枯葉にぞなる

秋とてもその色みせぬ常磐山


牛よりは猶早き馬かな

夜は長く晝は短き時なれや


月のかげろふ曉の空

宇治山やをのの秋風ききかへて


月にこそそなたの山も知られけれ

ふじなりけりな秋の白雪


古き枕に月ぞ殘れる

見る夢や昔の秋にかへるらん


忘られぬべき秋の暮かは

うすぎりの岡のかや原とにかくに

人人連歌召されける序に

したはは袖の色に出でなむ

時雨ゆく宿のむら萩うらかれて

同じ御時奉りける連歌の中に

小萩原ふかく露けき夕暮に

鹿の上毛のほしやかぬらん


ただ一めぐり秋ぞしぐるる

草にさく花見車の野に出でて


松を吹きこす風のあら海

大内や花の萩の戸秋しりて


唐人の立ちまふ袖や招くらん

尾花に似たる青海の波

寶治元年八月十五月夜仙洞連歌にと侍るにと侍るに

山里は人のたよりぞなかりける

さよともすれば荻のうは風

さらぬだに寢覺がちなる秋の夜に


あけもみどりも袖ぞつらなる

松にそふ紅葉の下の花薄


山のしづくは松の下露

水あれば月もこけにやたまるらん


關の夕の嵐吹くなり

一木ある松にさはらぬ月清み


夕かさねて秋やゆくらん

月いづる山は山より猶遠し


鹿のたつ狩場の道の山歸り

弓張月はいるも程なし


一とほりなる村雨のおと

寢覺より月にこそ又むかひけれ


ただ今の身はあるに任せて

月はよも山の奧まで住みかへじ


舟をさすこそ男なりけれ

空にゆく月の桂の里とへば


ひとり寐は猶長き夜の夢さめて

月も身にしむ秋風ぞ吹く


へだてとなりぬ峯の夕霧

山なくば待たでも月を見るべきに


行く秋とむるしがらみもがな

月ぞうきやらじとすれど更けにけり


谷水は苔の下なる流れにて

月のゆくとは空にこそ知れ


夕のうきぞ秋に先だつ

影ばかり山のはいでて月はなし


袖にむすぶは露か涙か

月の夜は夢を見るべき程もなし


波吹きかへす浦の秋風

月影も汐干に遠くなるみ潟

弘安二年八月日吉社へ人人奉納の獨連歌の中に

いつも曇らぬますかがみかな

玉くしげ二見の浦の秋の月


波も秋なる汐風ぞ吹く

月にこそうらも湊も一つなれ


かへでの紅葉波に散るなり

こよひしも月の入江に舟とめて


雫をうくる松の下かげ

み山にはもりくる月もかすかにて


蒼天の光にむかふためしにて

袖こそいたく月になれぬれ


さびしさしかも秋や忍ばむ

春日山峯立ちはなれゆく月に

後鳥羽院に連歌奉りける中に

鈴蟲の聲ふりそむる村雨に

月出でまじる峯のうすきり

正和四年五月伏見院百韻連歌に

木かげより螢の影ぞ見えそむる

月まつ程の夕闇の空

寶治元年八月十五夜連歌に

里の名もすみ憂かるべきあたりにて

月に別るる淺茅生の宿


花やこれ波も心もなかりけり

月にや水の秋は見ゆらん


逢はぬ間をなど一筋に恨みけん

杉の板葺月ぞもりくる

寶治二年三月花下にて

露の白きを霜かとぞ見る

久方の月の宿かる衣手に


同じ憂ひにきくは蟲の音

軒ならぶ庵に月の影わけて


夕日の野には置く露もなし

山よりもあなたに月のよを待ちて


秋の思ひぞ涙落ち添ふ

山陰や月の夜頃をも忘るらん


こずゑもかげも松の秋風

山よりや月の夕になりぬらん


雲もたつみの明けがたの空

出入るに月も二つの時ありて


松の高きはなほ霧のうへ

山里はよその峯より月見えて

 菟玖波集卷第五 秋連歌下

霧の上にもわたる秋風

松原の木の間に月のあらはれて


かりがねさむし雲のよそほひ

山の端は月のこなたにまづみえて


泉涼しき松風ぞ吹く

住吉の浦の南に月見えて


雪にかたぶく宿の中垣

呉竹の末こす風に月みえて


汐干の雪はのこるともなし

影うすき朝は月はなほ見えて


うきことに嬉しきことやまじるらん

月まち出づる秋の夕暮


外にはかはる柴の戸の秋

山陰は出でたる月をおそく見て


雨過ぐる山には雲のおりたちて

月をも知らぬ柴の戸のうち


をちかた人の夕顏の花

月を待つ端山のかげの黄昏に


君が代を常磐かきはに祈るかな

月に馴れぬる秋をかぞへて

六條内大臣禪林寺の家にて連歌侍りけるに

わるる鏡や市にいづらん

有明の月影うつるしかま川


秋さむくなる小田の假庵

いねがての月にいく夜をあかすらん


二度ものの思はるるかな

むら雲をいでつる月のまた入りて


程せばき館の軒をささふきて

横さまに入る窓の月影


すみか一つに心定めず

柴の戸の月は木の間に影分けて


一さけびなる山のむささび

曉のはやしの梢月おちて


何をたのみの世には住むらん

わづかなる筧の水にうつる月


捨つる身に伴ふ人はなかりしに

山の奧にも月ぞすみける


あなたこなたの荻の上風

共に見る月に心や通ふらん


柴のとぼその秋の村雨

月あければ明けても夜をや殘すらん


ふりぬるやかたに秋もしられず

主もなき浦の捨舟月のせて


つまの赤きや扇なるらん

月殘る朝に閨の戸を明けて


やもめなる身は衣うつなり

秋寒き月夜からすの聲ふけて


思ふ心は身に知られつる

入る月を人もさこそは惜しむらめ


板間かくすや落葉なるらん

槇の屋は月もれとこそ荒れにしに

嘉暦四年内裏の七夕連歌に

ゆふ日さびしくかよふ秋風

うす霧の晴るる山より月見えて

二品法親王北野千句に

ふりわけたるは山の村雨

うき雲のいくたび月にちがふらん


不二の嶺の煙やよそに知らるらん

月の半ばにかかる浮雲


暮れぬればこえぬ關にやとまるらん

雲こそ月のこなたなりけれ


今ききそむる初雁の聲

峯こゆる月も雲井の影見えて


かがみといふは草の名にあり

此の里のむかひの岡に月いでて


心づくしは奧山の秋

[二]まき檜原木の間の月をおそく見て


露のもらぬや岩屋なるらん

下くらき檜原の上に月見えて


身をはなれぬは袖の上露

月すめば我がかげもある庵にて


松ある方は秋風ぞ吹く

うら遠き山には月のまづ出でて


氷には舟をとどむる川よどに

水とは見えず月ぞ流るる

二品法親王北野社千句連歌に

浮雲にこそ風は見えけれ

空は月山本はなほゆふべにて


あすかの里の秋はとはれず

月を見ぬ夜やいたづらに更けぬらん


この夕暮は何をまたまし

月ははや有明がたの頃なれや


いく行ぞ雲間の雁の聲遠し

有明になるよなよなの月


松風の音はいはやの秋にして

月の遲きやみ山なるらん


十といひて三度は越えし鏡山

秋の名にあふ長月のつき


末の秋こそいねがてになれ

ひとりある人のためには夜も長し


月に知らるる里の通ひ路

ねざめにや人も砧をいそぐらん


久しく匂へとみ草の花

春いれしあら田の水に秋かけて


うかれゆく鴉に雁やまじるらん

門田の秋はゆふべなりけり


花見し梅ぞまた紅葉なる

鶯のことし巣立つは秋なきて

暦應四年春日神木宇治に遷らせ給ひしに歸座あるべきよし聞えし頃救濟法師家の百韻連歌に

宇治の都の秋をこそとへ

春日野の月にや鹿の歸るらん


妻とふ鹿の聲のみぞする

山田もるをしねの床のさびしさに


ただひたぶるによるをこそ待て

ひとりすむ田づらの庵の月の頃


小田をもる庵も見えず霧の中

稻葉の風のふかぬ間ぞある


月には里のなごりこそあれ

松一木秋の風ふく淺茅原

人人に連歌召されける序に

契りおきしまがきの竹もうづもれて

よもぎふ深き故郷の秋

弘安二年八月七日庚申連歌に

おしなべて露ふきむすぶ秋風に

わが身ひとつと鹿ぞ鳴くなる


暮ごとの秋に心やまよふらん

風吹くたびにかはる鹿の音


木の下露に草ぞふしたる

宮城野の秋に鹿なく夕にて


月出でながら雲にこもれる

妻戀の鹿の音聞くも夕にて

文和三年六月家の泉にてこれかれ連歌し侍りしに

馴れてだに秋の心はうきものを

やまは里にも鹿やなくらん


夕霧のむすびかねたる稻筵

小田もる庵や袖をしくらん


聲まがひゆく時雨秋風

むら雲のさだめぬ月に雁鳴きて

嘉暦四年七月の連歌に後光明照院前關白左大臣と侍るに

袖にかかるは秋のむらさめ

宇津の山蔦の紅葉の色染めて


たぐひなき夕は秋にあるものを

紅葉のあらし淺茅生の露


見よとや殘る有明の月

曉の鐘より後もよは長し


衣におつる涙いくつら

行く雁の聲より數は少くて


ただほろほろと涙落つなり

芭蕉葉に音ある夜半の雨ききて


しめぢが原に歸る草刈

茸狩の秋の山路にけふ暮れて

二品親王家の七百韻連歌に

めぐる車は世の中にあり

落椎の深山かくれの小笹原


夢とや秋の別れなるらん

柴の戸は夜寒の時雨山おろし


苔に紅葉の色やなからん

下露は山の時雨のあとなるに


月に見る草の紅葉は錦にて

よる鳴く蟲や機や織るらん


鳴くにぞ蟲の名をも分けたる

山陰のすずのしのやにはた織りて


うらの秋こそ夕なりけれ

蜑人は波にきぬたをうちそへて


今の思ひはふか草の露

我も鳴く秋をうづらの聲ききて


このねぬるよはの木の葉は散りはてて

染めぬ時雨やまつにふるらん


錦のうへに文字や織るらん

山端の紅葉をわたる秋の雁


雲と霧との一つなる山

松と紅葉もいかで時雨の分かつらん


雲の旗手も寒き風かな

紅葉ちる秋のしぐれの雨の脚


秋も少き佐保の山かげ

[三]散るははその木の間月もりて


野山の秋は同じ松風

露しぐれ染めぬ木末はなきものを


露をも知らぬ風の下草

いつそめし習に松の時雨るらん


時雨も染めぬ峯の松原

影のこる夕日の山は紅葉にて


ゆふ日しぐるる峯の村雲

松原はところところの紅葉にて


我が心さながら秋に染めなして

紅葉の山は松原もなし


露さむみ重ねてや著む狩衣

ふるきのかた枝紅葉する頃


霜と見ゆるや劍なるらん

枯れしより草薙ぐ秋となりぬるに


しばし殘るは庭の朝霜

うらがるる草には結ぶ露もなし


尾花にきくはなほ秋の風

かれがれに誰まつ蟲の思ひ草

文和四年五月家の千句に

月をさしては指を忘れよ

これやこの時雨の秋の寒き山


紅葉かつちる山風ぞ吹く

くもらぬは木の下露の時雨にて


西にゆくこよひの月をひとり見て

我がとしたけぬ秋ぞ少き


雲まなる月はいづくに更けぬらん

ゆくとも知らぬ秋ぞくれぬる


尾花の上は紅葉なりけり

袖なるは秋くれなゐの涙にて

 菟玖波集卷第六 冬連歌

ほさぬ籬の冬の白菊

初時雨はるる日影も暮れはてて


あすかの川ぞ瀬にうつりぬる

きのふといひけふの時雨の晴れぬまに


歸るさの秋のゆくへは知らねども

時雨につけて冬は來にけり


寂しくばただ寂しかれ松の風

げにしぐれずば月もくもらじ


なほ雪げにもさゆる空かな

しぐるらし尾上の雲の晴れやらず


またをとづるる小夜しぐれかな

神無月四方の木の葉の散りて後


うちつけに冬とも告ぐる時雨かな

木の葉もいかにふりまさるらん


ちしほになるや涙なるらん

神無月老のねざめもしぐるなり


夕日になりてまがふ浮雲

落葉にもまた一しほのむら時雨


都別れし涙こそあれ

山かくすそなたの雲の時雨きて


松に吹く風にや月の晴れぬらん

時雨の後も山はうき雲


落葉の後もなほ風の音

冬枯れの梢に松はあらはれて


またや伏屋に時雨ふるらん

さそはるるその帚木の嵐にて


窓うつ音や嵐なるらん

明けてこそ木の葉とは知れよるの雨


夜ごとのねさめなほ定めなし

木の葉をも時雨ときくに袖ぬれて


露のおつるは松の下蔭

降りもせぬ風の時雨は木の葉にて


人ぞ音せぬ隱れ家の庵

木の葉散る嵐に山の道たえて


さだめなき時雨の空になりしより

落葉までなほまつ風ぞ吹く


夜の間の風は林にぞ吹く

片山の道は落葉のかさなりて


よしうきことはとも角もあれ

有明の月より後の村時雨


さだめなき世にぬるる袖かな

月になり又うき雲の村時雨


梢の露のおつる下草

山風や松の時雨を殘すらん


松ばかりには冬枯れもなし

木の葉吹く風より月はあらはれて


おく窟は霧の中にて

衣手をぬらすは風のよこしぐれ


紅葉の色の見ゆる川かみ

雲かかるかたやゆつはの村時雨


日を重ねてや寒くなるらん

山里は落葉の上に霜置きて


我が元結のゆふかひもなし

白妙の霜の蓬のふりはてて


もとの姿のかはる老が身

霜白き蓬は髮となりしより


まこととたのむ一ふしもなし

竹におく霜こそ月にまがひけれ


いく秋かけて月はかはらじ

十かへりの松の翠も霜を經て


友もなき宿は葎にうづもれて

木末に深き槇の朝しも


都をこふる袖ぞ朽ちぬる

霜の後夢も見はてぬ月の前


豐のあかりに夜や更けぬらん

青ずりの竹にも霜はむすびけり


岩間ゆく細き流れの音たえて

刈田にはまだかけひだになし


川波さむし賀茂の山もと

水鳥の青羽の上に霜おきて


雪をのこすはなほうらの波

汐干より流るる川のうす氷


おのが羽風に鴨ぞなくなる

月に敷く氷に霜やかさぬらん


打ちとけて後などか隔てん

水鳥のかげ見えざりし薄氷


瑞籬のふりゆくままに神さびて

霜夜の鴨の月になく聲


雪のかかれば頭をぞふる

水鳥の氷のひまに浮き出でて


時時波の音ぞきこゆる

氷より上なる岸の松の風


うき鳥のみや立ち歸るらん

よる波の汀にとまる薄氷


いつあらはれて春に知られん

解けがたき氷の下の忘れ水

後鳥羽院に奉りける連歌の内に

といふに

あきらけき世の星うたふなり

山藍の袖にやどれる月さえて

おなじ連歌のうちに

おきそふ霜やいとど冴ゆらん

鴛のゐる蘆間の氷けぬが上に


空にしられぬ谷のしら雪

水あれど氷の下は月もなし

大將に侍りける時くつのしきゐに水鳥を書きたるを見て秦公春と申侍りけるに

沓のうらにもとぶ千鳥かな

難波がたあしの入江や寒からし


むすべてとけぬ月の霜かな

岩代の松吹く風のさゆるよに


二親ながらあはれみぞある

中にぬる寢屋のふすまの寒きよに


うらむなる心を誰におきつ風

吹上の濱に千鳥なくなり

後鳥羽院に奉りける連歌の中に

しばしばも訪はれぬ閨をこひわびて

なく音にまがふ友千鳥かな


夜もすがら沖つ汐風あらければ

うきね定めぬ友千鳥かな


波かあらぬか浦の白雪

霜までは跡こそのこれ濱千鳥


風の寒きはなほ松のかげ

枯野には名ばかり草の庵にて


庭にふる霰は塵にまじはりて

冬草までの常夏の花


蓬が霜の白き夕暮

冬草や三つに一葉は殘るらん


神のます野や道のこる

草は枯れ松は霜にぞあらはれて


よわりても壁になほなくきりぎりす

根さへ草こそ霜に枯れぬれ


狩場の鳥の落つる冬草

霜かかる松の下芝葉をたれて


秋より冬にうつり來にけり

草の原露をば霜におきかへて


外山はげしき峯の木枯し

霰ふるまさきのかづらゆふ暮に


里分の時雨に宿を出でつるに

ふりみふらずみ今朝の初雪


日にそへて寒さかさなる山風に

しぐれし雲は峯のしら雪


冬木にも咲く又うめの花

霜の後それとも見えず雪降りて


夕の風に急ぐ山人

神無月しぐれは冬の雪げにも


寒くなるあらしの風をいかにせん

はつ雪ふりぬこしの山越


冬ながら音ある風は秋に似て

時雨をかへす雪のむら雲

二品親王北野の社の千句の連歌の中にといふ句に

月に遊べば寒き夜もなし

はつ雪をみきの盃とりむかひ


契もさこそうすくあるらめ

初雪はとはれぬさきにはや消えて


外山へたつる宇治の川霧

峯高き雪のこなたはあともなし


松風も山と里にや變るらん

時雨のうへは嶺の白雪


窓うつ雨は山の松風

白雲のかかる尾上は雪に似て


庭白妙に咲くは卯の花

山里や雪みる比になりぬらん


月や汐干の氷なるらん

明けがたの遠山見れば雪ふりて


舟出すこの川上の朝氷

薄雪ふりぬうらの松原


こととひし嵐は庭に吹きやみて

雪の音きく松の下をれ


かきくらす夕の空となるまでに

けふの御狩に雪はふりつつ


いつはりといふ言の葉ぞうき

神のます北野の雪にあとつけて


むら雲のかかれる山の道とへば

峯の檜原は雪をれの聲


麓の里は鳥の聲聲

降りおもる松も檜原も雪折れて


消えずはありともさやは頼まむ

ふる雪はさながら雪とまがふなり


翠のこらぬ冬は來にけり

常磐山けふふる雪はおしなべて


暮れぬまに立ちや歸らん吉野山

ゆく先見えぬ雪のふる里

女を迎へて里に歸りてけるに、雪のふりければ在原業平朝臣と侍るに

雪夜の霜は置くやおかずや

鴛鳥のものだにいはばとひてまし


年のうちに先だつ春ぞ待たれける

かつ散る雪を花にまがへて


むせぶ煙ぞ風のしたなる

雪にとる爪木のしばし乾しかねて


ふるさとのこる小野の山陰

つもるとも雪ふみ分けて人も訪へ


汐路にまよふ波のうき舟

水こほる川の面にゆきみちて


いつはりと思ひながらも待つ暮れに

月いでにけり嶺の白雪


山越えの時雨は野邊にまた降りて

月こそよるの雪をかさぬれ


よのつねならぬ落葉こそあれ

雪をれは常磐木ながら冬枯れて


白雲のたなびく山をこえかねて

入かた見えぬ雪の夜の月


道をいづくと年のこゆらん

暮れぬれば雪にまみれて山もなし


浦にだに煙のたたぬ時はあれ

風ふりうづむ松のしら雪


波のさわぎぞ風にまぎるる

浦松の雪の高きを山と見て


夕日かたぶく峯のうき雲

かけはしの上なる雪はとだえして


庵ふるき庭の池水氷ゐて

雪の朝戸をたたく山風


柴のいほりの通ひ路もなし

さらぬだに山の深きに雪降りて


あとなる嶺をうづむ白雲

山人の爪木のかへさ雪ふりて


しらぬにしるき冬の空かな

木枯しの吹かぬ折りさへ袖さえて


罪のむくいはさもあらばあれ

月殘る狩場の雪の朝ぼらけ

文和五年三月家の千句連歌に

狩場のきじのおのが鳴く聲

片山の雪のしら鷹手にすゑて

文和四年十二月北野社千句の連歌に

これは車のながえなりけり

炭やきの小野の山路の北にして


この花の盛はいつの春ならん

冬こもりする窓の梅が枝

 菟玖波集卷第七 神祇連歌


建久五年夏の頃、安樂寺破損して侍りけれども、修造の沙汰なかりけるに、彼寺へ參りたる人の夢に、束帶したる人のけだかげにてのたまひける

その後また一人の所司通夜したりけるに、空に聲ありてのたまはせける

天の御戸くつるも誰かあはれまん

世をみな知れる君にあらでは

平兼盛は駿河の國司にて侍りけるに、富士の明神示し給ひける

これに附け申し侍りける

高き根は年を經てこそこもるなれ

今すずしくなるやそこには


と侍るに

今の北野も大内ぞかし

つくしより神代の都はじまりて


神はまことの誓なりけり

濁りなき君をぞ守る石清水


にごりなき世も今とこそ知れ

石清水ひとつ流れにせきとめて


君が行幸の絶えぬみちみち

これやこの賀茂と八幡の神まうで

北野社千句連歌に

すぐなる心我人にあり

この神のいつはりもなき影にゐて

關白家の千句連歌に

夜中夜中の夢のまさしき

神垣の月と梅とに袖ふれて


名を聞くも實に怖しき劒かな

日影あつたの森の下かげ


これやこの上がうへなる我が思ひ

神にはちかひ君のあはれみ


二月の法の席にあひもせで

その名あらはす菅原の神

導譽法師家百韻連歌に

一夜の月は神垣の秋

これやこの八幡まぢかき天の川


弓矢の道は今もたえせず

みなもとの流れも清き石しみづ


紫野より近き神垣

白妙のしめのゆききの道ありて

元亨三年四月龜山殿の百韻連歌に

と侍るに

かつらの里も近きをぞ見る

神まつる頃にしなればあふ日草

かけ添へてけり賀茂のゆふしで


關の戸のゆふつけ鳥は心せよ

神だにうくる御祓するころ


恨みもありき喜びもあり

忘れじな北野の神のそのむかし


まうけの君とかねて知らるる

神代よりゆづり始むる國にして


住吉の浦なる海人の汐汲みて

跡を垂れしは遠き神の代

家の千句の連歌の中に

一夏の山のしげみの花かたみ

賀茂のまつりは卯月なりしに


つかふればその官をも爭ひて

神のまつりは賀茂のかみしも


國のはじめは神の代の春

さくら木もその八重垣もあとふりて


國祭る寶を今もをさめ置く

いく代をふるの社なるらん


七つ社をなほたのむかな

日吉とてくもらぬ神のその誓


七つの道も今ぞをさまる

この國を守る日吉の神なれば

春日山を出でずして三年籠り侍りける頃百韻の連歌に

祈の數やかさね來ぬらん

あはれとて神も三とせの宮ごもり


人ごとに賀茂と八幡の神まうで

祈る心は二つともなし


琴の音ぞする志賀の松風

鹿島より日吉の神とあらはれて


歩みをや七の社に運ぶらん

ひつじもさるも同じ神の日


伊勢をとこ世の國とこそきけ

神風やしき波よするいその宮


鏡ひとつの影はくもらず

伊勢にては内外の神とあらはれて


名には隱れぬ伊勢とこそ聞け

神風や音なほたかきいすず川


この御代に生まれあひてぞ仕へける

氏子を守る神やこの神


二親におくれて殘るあと問へば

神と佛のふかきあはれみ


十かへりの松の梢はそれながら

たえず契りし住吉の神


今朝しもいづる小野の山人

千早ぶる賀茂のみあれの道のべに


人の心のかどをあらすな

祭にはつかひの長の行きつれて


二つ立つなり水鳥の聲

上下の賀茂のかはらの宮柱


けふも日吉と祭りこそすれ

諸人のきのふは出でし神むかへ


僞りといふ言の葉ぞうき

神のます北野の雪にあとつけて


はふり子がくちなし染の袖たれて

いはぬ心も知るらん


伏見の里にふれる白雪

跡たれし神の昔のすがはらや


をみ衣袖うちふれし雪の中に

ゆふしで磨く賀茂の神垣


むかしのあとになほぞ住むべき

五十鈴川神代の月も君がため


くもらぬ御代を神ぞ守れる

かご山の榊にかけします鏡


天が下には隱れなきかな

名に高き宮居となりぬ三笠山


短夜なれば祈りあかしつ

我が頼む社の御名のかものあし


ちりにまじはる鼠こそあれ

我が山にこれもあがむる神のうち


親ともなりつ子とも名付けつ

宮居せし八幡平野の跡ふりて


神のますのもりと誰かなりぬらん

契をかくる洲羽のはし鷹


月みては我うきことの紛れしに

名は住よしのいちはやき神


神の忌垣に引く馬もあり

はらひする巳の日は過ぎぬみしめ繩


この神も塵にまじはる誓にて

日吉の宮居ふもとにぞある


をみなへしよと契る若草

末いのる初元結のをとこ山


書きつづけたる文字ぞ數ある

關越えてやしろに送る神寶


旅のあそびは舟にても有り

土佐にます神の祭のことはじめ


笛の音さゆる雪のあけぼの

神代よりあな面白といひそめて


生まれしも父母なしと聞く法に

名はすがはらの神の宮もり

 菟玖波集卷第八 釋教

清水寺に通夜し侍りけるに瀧の音を聞きて

と申してまどろみ侍りけるに、御帳の中よりけだかき御聲して

よる音すなり瀧の白絲

大悲じやの千千の手ごとにくりかけて


と侍るに

みるめはなくて戀をするかな

あふみなるいかごの海のいかなれば

鎌倉の極樂寺の僧の夢に、文珠の見え給ひて連歌をせむ、つけよとおおせられければ、いかにと申し侍りける
に、かく仰せられける

これにつけ侍りける

いざ歸りなんもとの都に

思ひたつ心の外に道もなし

或僧のつとめてまどろみたりけるに、夢に尊げなる僧三人つれて侍りけるが、かく詠める

この句を二人してながめられければ、今一人の僧のいひける

あはれなり日は暮れ方になりぬれど

西へゆくべき人のなきかな


戀のふるねをたつよしもかな

元本や無明住地の下にすむ


さとりの後ぞ闇は晴れぬる

心にはいつもすみぬる月なれど


いのる心は上と中下

三代かけて仕へし夜ゐの身もふりぬ


かかるを藤の殘るとぞ見る

紫の雲のむかへを松の戸に

關白家千句連歌に

月寒しとぶらひ來ます友もがな

野寺の鐘の遠き秋の夜


遠き名殘は夢のきさらぎ

鷲の山御法の花の散りしより


とくなる御法みな人の爲

これやこの妙なる蓮の花の紐


佛のすがた繪にうつすなり

一人行く道をや星の照らすらん


嶺高きともしの下に立つ鹿や

くらきに迷ふためしなるらん


置く露も袖にあまねき惠にて

衣の珠をいつかみるべき

後鳥羽院に奉りける連歌の中に

よるひるわかず求食をぞする

沈むべき此の世の罪を知らねばや


もとの誓もむらさきの雲

人の爲佛の心くだきしに


二月なればさえかへる空

名を殘す鶴の林の木は枯れて


わしの峯こそ高き山なれ

木末より花いつくしく匂ひ來て


身より心の捨てられよかし

とにかくに思ふは法のさはりにて


古寺のつとめの鐘に夜は更けて

その曉を月もまつらん


光を殘す法のともし火

月出でぬ心のやみやうかるらん


心や法の道にいるらん

おく山の曉起きは月も見ず


かけて心に頼む法かな

しきみつむ曉露の玉だすき


うちなげかかる後の世のつみ

曉のつとめの鐘の聲聲に


しづかなる身に時をこそ知れ

心すむ曉おきに鐘ききて


はやき瀬の波こそ岸に氷りけれ

心の月よしづかにてすめ


かりなる夢はさだかにもなし

人の身はまよひを常の心にて


法の道にも本末はあり

寺は三井山はよ川の流れにて

導譽家の千句に

しほひは遠し難波浦船

世にみちし御法のはじめ誰か知る


佛を織るぞはすの絲なる

一筋にこの一夏をつとめばや


逢ひがたしとや身をも捨つらん

半ばきく常なき法のことの葉に


春こそ人の別れなりけれ

あとをとふその二月は昔にて


鷲の山にや月は入るらん

鹿の苑出でしは法のはじめにて


目の上までもかかる竹笠

狩人のつみのはかりを思ひ知れ


いやしき身にも親ぞやしなふ

寺あらば金かまへて掘り出だせ


一枝は手向にも折る山櫻

しきみをつむは常の業にて


などいたづらにつとめざるらん

寺近き飛鳥の里に住みながら


九つのつづみの聲は聞ゆなり

我がもとの身のつみや消ゆらん

散木弃歌集卷十には

ここのつのちのこゑ遠くきこゆなり

わがむつのねのつみやきゆらん

後鳥羽院に奉りける連歌の中に

いせおのあまの夜のつりぶね

御法には心のなどかひかざらん


さとりひらくは法の花かな

名も高き山にひとつの箱ありて


垣のしりへは野寺なりけり

行へば佛の前のぬかづきに


高野の嶺の曉の月

又いでむ後の佛のよは遠し


弟子はかならず師をぞいただく

彌陀のますうてなの前にすず取りて


うてなの花ぞしなを分けたる

一聲も十聲もおなじみだの名に


ただ一聲にいたる彼の國

誰か知る二つの河の中の道


行き生まるるは一聲のうち

彼の國も心にあれば遠からで


心の外はかの國もなし

きこえてはやがて蓮ぞ栖なる

家の千句連歌に

朝夕の釣りたるる身のいとまなみ

つみなきことに世を渡れかし


深くたのむや佛なるらん

後の世を罪をおそるる心にて


十とふたつはよるひるの時

藥をば佛ももつと聞きつるに


法のためにはあらそひもなし

[四]まきの葉の蔭ゆく水にあか汲みて


けふは難波の浦の夕ぐれ

寺あればまた入相の鐘ききて


かべの鼠のあなむつかしや

古寺のかはほり鳴きて暗きよに


つとむることも一夏のうち

閑かなる山と思へば休らひて


露や衣の珠を見すらむ

曉の月にもあかの水とるに


高野山むろの戸深きあととへば

法に心ぞいりさだまれる


灯のなほものこりて長き夜に

つきせぬ法は我が山にあり


後れ先たち行くはかの國

我よりも人のちからの渡し舟


のぼる鵜飼の闇をまちつつ

鷲の山その有明をよそにみて

文和四年十二月前大僧正賢俊三寶院にてこれかれ百韻の連歌し侍りしに

この寺やなほ世にこえて榮えまし

三つの寶を傳へ來しのり


よるひるもなき常のともし火

書き置ける法のことわり見あかして


心に深く世をいとひつつ

法の師の教へし道に入りそめて


惜しまぬゆゑに身をぞ捨てつる

あかくむにぬるるはよしや苔の袖


空しきものと我が身をぞ知る

いさぎよき心を月にかけしより


誰が聲にてか我を呼ぶらん

佛こそおくりむかふる誓なれ


しめじが原にのこる枯草

そのちかひちぢの佛をただ頼め


うつつといふも皆夢ぞかし

とき置きし御法ばかりはまことにて


さわがしき市の中にもすむ心

うることなきはまことある道


こころの馬はのりにこそあれ

うきことをはなれし後は悟りにて


かけて祈るはこの世後の世

二つなき心は西にありながら


かはらぬ道をのりとこそきけ

彼の岸におくりむかふる船浮けて


ふち世の鵜舟かがり火の影

後の世は罪によりてやかはるらん

貞和四年六月家の百韻連歌に

と侍るに

やすく驚くむば玉の夢

いかにしてながき眠は覺めもせぬ

迷ひそめぬるかたぞ悔やしき

[四] The kanji here is not available in the JIS code table The kanji is Morohashi's kanji number 一四五九八 頭注
assings the reading maki to the kanji

 菟玖波集卷第九 戀連歌上


女御のさうしよりかたちよき女のいで來て物思ひすがたにて泣くを御覽じて

とおほせられ侍りければ

なくを見るこそ悲しかりけれ

思ふらん心の中は知らねども


時雨はじむる神無月かな

物思ふ袖より色を見せ初めて


更くる夜もさながら我はねられぬに

待つらんとだに人は思はじ


げにいつはりも情なりけり

來ぬまでも待たるる程は慰みて


身にしめて床なつかしき秋風に

戀ひせん人の心をぞ知る

後鳥羽任に奉れる連歌の中に

人のいなばの松につげこせ

思ひ出はそなたの月もみるばかり


うき人を戀ひさめぬこそ愚かなれ

涙の袖の玉の井の水


そはぬ契の手枕の夢

面影は涙ながらにうかび來て


あふせをさそふ夢のかよひ路

なみだ川身をうき草のながれきて


身につもりゆく罪ぞかなしき

戀ひしきもおなじ思ひの世の中に


鳥よりさきに鐘ぞ夜ふかき

逢阪は誰ゆるしける關なれば


さてもなほなびかぬ人の心にて

胸のけぶりは立つも知られず


袖より袖にうつす玉章

落すなよやがて涙と見えつべし


つつめどもあやしと人やとがむらん

世がたりにはや名こそ立ちぬれ


おくにぞ文をかきとどめつる

我が忍ぶ心しらずなあなかしこ


これよりしては河となりぬる

我が涙袖のほかにや流るらん

後鳥羽院に奉りける連歌のうちに三字中略、上下略の賦物にて

つくばねや瀧の岩根をゆく水に

せかれぬ戀よいかに忍ばん


うすき衣のとがになしつる

つつめども下くぐりゆく泪をば


住吉の松にたのめしかひもなく

なにあだ波のそでぬらすらん


と侍るに

立ち歸りぬる夜半の雁がね

あけて見ぬ人の玉章いかなれや

ゆるさぬ道のもじの關守


露をへて色こそかはれ忍草

我がゆゑとだに人の知れかし


人に心をなほつくもがみ

我が思ひいふばかりなるひまもがな


いかなる夜半か枕さだめし

したくぐる涙に袖もうきぬべし


月を待ちしに似ぬ心かな

かよひ路を人に見えじと思ふよは


思ひ亂るといかに知らせん

人目をばよそにしのぶの摺衣


と侍るに

來てもとまらぬ人や恨みん

忍ぶとてしたひも果てぬ宵のまに

鳥の八聲はなほほどもなし


をしといふ名もうき鳥ぞかし

忍ぶには下安からず物云はで


つつむとすれどもる涙かな

かくしつつ心の中やあらはれん


つつめども逢ひ見しことのかくれねば

えこそなき名といひもなされぬ


おのづから恨はやがて涙にて

うき心をばいはずとも知れ


名のたたばいとどや人のうからまし

けぶりにのみぞむせぶ下もえ


深き心のおくをとへかし

道のくのしのぶとだにもよも知らじ


いさり火の影とほざかるあま小舟

思ひこがるるほどを知らばや


とふ灰うらの末はまさしも

はしり火に胸のみいとど騷ぐかな


秋くるままの初雁の聲

我が袖に一つら涙まどふらし


ぬるるが上もなほ袖の露

うきになり哀れにかへる心より


紅葉の橋の色に見えつる

戀ひわたる心を人にかけそめて


思はぬ方に波ぞよせくる

いたづらに逢はでむなしきかたし貝

建長六年五節の頃有心無心の連歌侍りけるに

えせきぬかつぎなほぞねりまふ

玉かづら誰に心をかけつらん


いたづらに年のちとせの數そへん

戀のうき名もたつる錦木


むすびし夢ぞはや覺めにける

逢ふことのかたしき衣袖ひぢて


うきならはしに又ぞあやぶむ

戀ひわたる眞間の繼橋我ばかり


その家ときく四つの緒の聲

心引く人のむすめの名をとひて


これはふせこの下のたきもの

君がためひとり思ひとなるものを


女神男神はありやなしやと

いざなきていざなみだにもこととはん

後鳥羽院に奉りける白黒の賦物連歌の中に

思ひそめししかまのかちを尋ぬれば

あふにはかふる市人もなし


と侍るに

と侍るに

おろかなる心よりこそ迷ひつれ

つれなき人を思ひそめつつ

おのづからうき身の程は知るべきに

いつはりならぬ言の葉もがな


神かけて契りしことも頼まれず

名さへあはでの森のことのは


我が方よりはまけてとはまし

思ひには心くらべもなきものを


幾度もまくる方よりやる文に

戀ひしといふは同じ言の葉


頼むほどには契らざりけり

隙あらば又この暮といひすてて


と侍るに

燃えわたる夜の螢をしるべにて

みさをに物や思しるらん

あしのねのうき身はさぞと知りながら


あはれをだにも思ひ知らせん

戀ひしなん命を人に先たてて


よるべを知らぬ身をいかにせん

戀ひすてふ涙の袖のみなと舟


野澤の根芹かたみにぞつむ

心からひづてふ袖をしぼりつつ

元亨元年十月龜山殿連歌に

と侍るに

人心はなだの帶の中絶えで

契むすびてめぐりあはばや


鐘より後はみる夢もなし

音信を聞くばかりなる契にて


幾度かこれを限と別るらん

後の契は命なりけり


むすびし露も霜となりつつ

言の葉もかはりはてぬる契かは

嘉暦四年七月七夕に

野中の清水またむすぶなり

契り置きしもとの心を思ひ出でよ


おのづから行きあふ道もなかりけり

などかたそぎの契なるらん

正和四年五月伏見殿百韻連歌に

今宵の夜半もやや更けにけり

さしも我れ僞りならず契りしに

寶治元年八月十五夜常盤井殿百韻連歌に

むすべどとけぬささがにの絲

今よりは人も軒端の契にて


うきて思ひよ誰に告げまし

契あればよそには通ふあま小舟


人の契のいかでつきぬる

鳥だにも羽をならぶるゆゑあるに


むすぶ水にぞ人もかげある

山の井のあかぬ契に袖ぬれて


人に我れ思ひかさねてうき物を

さきの世この世いかがちぎりし


夢の枕にかすむ月影

ありしよの契いかにとたどられて


年月は遠山鳥のへだてにて

まてと契りし頃は過ぎぬる


いにしへの契を今も忘れぬは

うきながらなほたのむ中かな

花の頃報恩寺にて關白百韻の連歌侍りしに

夢の枕は獨りねし袖

來ぬときは人と人との契にて


と侍るに

大方の秋のならひの夕露に

むすぶ契をいかが頼まん

下帶のめぐり逢ひてもかひなきに


と侍るに

つもるつもらぬ月日へだてて

思ふてふ人のことの葉頼みなや

我のみ獨り袖はぬらしつ


霜の後夢も見はてぬ月影に

むすぶちぎりの淺きよもうし

關白家百韻連歌に

契のうきは夢だにもこず

人を待つその夜の内はねぬものを


ことの葉はなほざりなりし契りして

げに待つ時は音信もなし


頼む心にいつはりもなし

待つときや人のうきをも忘るらん


など我はかく心よわきぞ

僞りと思はば待たであるべきに


いつはりながら情なりけり

來ぬ人は忍ぶゆゑぞといひなして


いつとなく身にしむ風は聞くものを

いかなる暮ぞ人の戀ひしき


別れても同じうき世の中なるに

とはるることを命にぞまつ


恨み佗びてぞわれからぞうき

あまのかるもしやと人を待つほどに


なほ身にしめと風は吹くなり

うき夕我に秋なる人待ちて


ゆふ暮とたのめしこともあるものを

待つ人いかに風はあきなり


うき心なるひとりねの秋

月遲く人もまたるる夜は更けて


涙なそへそ我が袖の露

待つ時の心は月の影ふけて


たがうきゆゑぞ戀の關守

下紐のゆふべゆふべに待ちなれて


荻には風やなほまがふらん

音信はよその夕になるものを


別れてぞ人ひとりねになる

來ぬを夢くるをうつつと思はばや


いつはりならばよしや玉章

こぬにさへ音信聞くはかきくれて


かねて聞きしは同じ言の葉

この暮もまたいつはりの鐘のこゑ


むくいは戀にありとこそ聞け

我ぞうき人は誰をか待ちつらん


夕よりなほうきはあかつき

別れにも待つにも鐘を聞きながら


一聲風は松に吹くなり

今來んの夕の鐘をききそへて


わきて夕は風ぞ秋なる

うき人の來ぬにつけても月待ちて


雲間の月の出でやらぬかな

さりともと待ちつるほどに夜は更けて


うちぬるほどもなき思ひかな

聞かせばや待ち更くる夜の鐘の聲


軒端にかかるささがにの絲

一すぢに來べき宵とやたのむらん

後鳥羽院に奉りける連歌に

よものみそらも霞む山べに

尋ぬべき人をや今はまつの風


また聞ゆるは入相の鐘

契らねば待つべきことも知らぬ身に


思はぬ人のなどか戀ひしき

とはれずば我も心のかはれかし


來ぬ人の契思ふは泪にて

待たねどもなほ夕にぞなる


うき身にはつれなき人も心にて

まつよも更けぬ有明の月


いひし契を忘れやはせん

夕暮はうはのそらにて待たれける


來んといひし人の情を待ちかねて

更けゆく鐘の聲もうらめし


詠めそめてし日數やはふる

待つとだに人は知らじな夕ま暮


いつはりは我のみぞうき暮毎に

人にまたるるならはしはなし

 菟玖波集卷第十 戀連歌中


内へまゐらせ給ひたりけるに、遲く渡らせたまひたりければ

と侍りけるに

くらすべしやは今までに君

とふやとて我も待ちつる春の日を

建長四年九月常盤井太政大臣有馬の温泉にて人人連歌しけるに

こよひも又やいねがてにせん

たのめともとひ來ぬ人の僞りに


我が袖をまがへて匂へ庭の菊

うつろふ人はとふ暮もなし


見し人の忘らるまじき夕かな

とはれし時を思ひいでつつ


人と思ひてかげにそはばや

今宵また灯けさでまつものを


ぬるる袖をもほす隙ぞなき

待宵の更くればやがて別れにて


知らず誰がうき契なるらん

入相はまたぬ夕も同じ聲


けさの別れにのこる有明

又も來ん後のゆふべはいさ知らず


忘れぬものは人の面かげ

月待つも契に似たるゆふべにて


袖の時雨は露や置くらん

まつのみかつれなきはなほ人こころ


ひく心こそうき人にあれ

とはるべき暮をいつとかしらま弓


うき身には人こそいつも間遠なれ

まれに訪ふにも宵過ぐるほど


戀ひ戀ひて君にあはんと思ふかな

浦の濱松まつと知らずや


うきや夕のこころなるらん

いつはりと思ひ定めばよもまたじ


半天になる秋のよの月

人も來ず我が身もとはで更けにけり

五節の頃内よりまかり出でんといひけるに

と女房申し侍りければ

雲の戸を月よりさきに出でやせん

ふしみの里に人やまつとて

正和四年五月伏見殿の百韻の連歌に

いまやと待ちし暮の久しき

くべきほどけふさへ又や過ぎぬらん


うつろふ色とかくて待ちみん

今來んといひし有明の月草の


と侍るに

今さら深きわすれ草かな

住吉の松とたのめしほどに又

なにあだ波の袖ぬらすらん


寒くなりぬる庭の秋風

うき人を待つとせしまに月ふけて


今も心にたのむはかなさ

同じ世は別れながらもなほまちて


むすぶ文にはうは書もなし

岩代の松とばかりは音信れて

女のかたより出せる盃の底にかきつけて侍りけるを見れば

とありて末はなし。
盃のうちに繼松の炭して末をかきつく

かち人の渡れどぬれぬえにしあれば

又あふ阪の關もこえなん


さりともと心のうらは頼むかな

みしよの夢に思ひあはせて

正和四年五月伏見院百韻連歌に

とほきも近き中とおもへば

へだてなき心もさすが知りぬらん

文和四年十二月前大僧正賢俊清閑寺にて

俤ながらのこる移り香

我がたもと人の枕にせしものを


七夕はいつの朝に別るらん

たまたま逢ふぞ契すくなき


別れの道に關のあれかし

逢ふまでは夜の更くるをも憚りき


人をかへすは夢のわかれ路

關守も心のゆくをゆるせかし


我も知らぬは旅のゆくすゑ

逢ひ見るは心ばかりの夢路にて


その黒髮のあかぬ歸るさ

むば玉のよるの夢には見えながら


待つ人は暮るるまでこそ頼めしに

逢ひ見てのちもなほおもへとや


ぬるる袂に月おぼろなり

逢ひ見てや時もうつらず明けぬらん


思ふ中には僞りもなし

神の鳴る雨のよにたる人の來て


かはるべき後の心はいさしらず

一夜なりとも思ひ出の夢


俤にだにしばしとどまれ

戀ひしきややがて寢覺めになりぬらん


文だにもかよひし後は絶えぬるに

心のうちの夢のうきはし


忍ぶ人にはあふこともなし

ねぬるよの夢ばかりこそ契なれ


むすぶ契のまこと知らばや

うき中やうつつも夢になりぬらん


みせばや塵のふかき枕を

誰とかはふかき思ひの床のうへ


かかる中には心隔つな

近づくは遠ざかるべき始にて


かた亂れなるまゆずみの色

ねて泣かば上なる袖はよもぬれじ


思ひもあへずうき契かな

名殘ある夢のまよひに夜は更けて


袖のうへさへ曇る涙に

人の來で更くるを月にかこたばや


かずかずうきぞ夢うつつなる

夜ごとにや袖の泪をかさぬらん


うらみは夢のわかれにぞある

いつとなく我がなきぬらすさよ衣


つれなきはまた行きてとはばや

有明の月の頃にと契りしに


長き夜の更け過ぐるまで人は來で

又ひとりねの夢の手枕


わりなく夜半は鳥の音もなし

夢までも關ある人の心にて


さはるぞと聞きて心や盡きぬらん

涙の雨のくらきともし火


いなばうし面影までもとどめばや

夢の契ようつつともなれ


重ねぬる我がひとりねのさよ衣

夢に返してみる人もがな


しばしうちぬる程のなきかな

夢にだに逢ひ見るまじき契にて


あふことを又いつかはと思ふにも

涙にかへる夢のうきはし


俤は涙よりなほ身にそひて

うつつにあふも夢にかはらず


契るとすれどたのまればこそ

我が思ふ心や夢をみせつらん


今宵ばかりや枕さだめん

たのめこし夢のたよりをうつつにて


さだかなる夢のただぢもかきたえて

やみのうつつは寢んかたもなし

天暦の御時、宵に久しくおほどのごもらざりけるに

と仰せられければ

小夜更けて今はねぶたくなりにけり

夢にあふべき人や待つらん


ふたりの心行くやゆかずや

知らずとよ我がかよひ路の人の夢


何と契りて末をまたまし

あふよさへ覺めてや夢になりぬらん


思はぬことぞまこと少き

身にしればうき人とても夢やみし


ことしはあまり寢覺めがちなる

物思へば春の夜だにも明けやらで


石の上ふるの野中の忘れ水

見し俤のおもひ出でもがな


忘れじといひし情ばかりに

はかなくも思ひいづやと思ふかな


明けやらで寢覺めの後も長きよに

夢をいくたびまた重ぬらん


面影だにもさだかにはなし

袖にうき涙や月をぬらすらん


なみだの袖ぞいつも秋なる

月見ては人のうきをも忘れめや


契の末はおもひ定めず

我が行くも人の歸るも夢路にて


いにしへ人はまたもかへらず

月にこそともに見しよは殘りけれ


名殘のなみだ又袖の露

月のよをあかさで人や歸るらん


秋こそいとど露なみだなれ

うきことを思はで月を見るべきに


別れの夢ぞ面影になる

手枕に人のなごりの月を見て

うちに侍らひける人を契りて侍りけるに、夜遲くまうできけるに、丑三つと時申しけるを聞きて云ひ遣しける


人心うしみつ今は頼まじよ

夢にみゆやとねぞすぎにける

文和四年五月家の千句連歌に

夜寒むは風のきたるなりけり

露ならず夢の枕に人を見て


身は一つ秋も二つはなかりけり

なみだの袖に露な加へそ


驚くほどに袖はぬれけり

曉の鐘こそ夢のわかれなれ


待ち惜しむ二つの思ひいかならん

夕暮の夢あかつきの鳥


なほ面影の立ちや添ふらん

夢さむる枕のあたりおきて見よ


雲うかれけり夕あけぼの

別れにぞ待つにも心身にそはで


今は月見る曉もなし

なみだある袖の別れにかきくれて


なきぬらす夜の衣はそれながら

わかれをかへす夢や見ゆらん


さだかにも思はぬ人の別れゆゑ

時知りがほに告ぐる鳥の音


夜のなごりや身にはそふらん

面かげにかへりし人をなほとめて


おくにまかせて露もかはらず

きぬぎぬの涙をだにも形見とや


涙をのこす有明の月

別れつる人の枕にまたねして


人には見せぬけさの玉章

我ひとり夢の名殘に又寢して


別れぞ今はかぎりなりける

鳥の音も我がなくうへはよもきかじ


鳥の音をさへ又かこつかな

曉の人の別れにわれなきて


別れもうきもあかつきの鐘

鳥の音を涙の中にききそへて


涙は誰か落ちまさるらん

ともになく人の名殘の鳥がねに


ひとりねはなほ秋風の身にしみて

夢の別れはうつり香もなし


今はよそにてあふ夜もなし

鳥のねを別れになして恨みばや


よるの契はかつらぎの神

一言もいはぬ別れに明け過ぎて


我もしたへば人もわかれず

鐘をきき鳥はなけども殘る夜に


月見れば憂き人まづは思はれて

その別れまで夢になりぬる


我にうき人はしたへどとどまらで

別れの道は關守もなし


うき契をや鳥の鳴くらん

ふかき夜を明け安くなす別れにて


なほつれなくぞ人は覺ゆる

別れにも死なれぬものは命にて


鳥の音はまで夜深しと思へども

人こそいそぐ別れなりけれ


とりどりなるや夕明けぼの

まつよりも別れはうしといひながら

菟玖波集卷第十一
戀連歌下

露のまくらをおきて聞く鐘

名殘ある別れに後やちぎるらん


我が手枕の夢は一たび

又も見ぬ人の別れのそのままに


なほかきくらす心知れかし

別れなん後は頼みもなく涙


ふかき恨ぞうき愁なる

待てしばし鳥なかぬ夜はよも明けじ


心まよひにねをやなくらん

曉のとりあへずうき別れして


人や限りのこころつぐらん

またいつと知らぬ別れに夜は明けて


かはる契のほどをこそ知れ

別れてやまた夕暮の待たるらん


俤は夢より後のちぎりにて

けふいつとなくまた別れぬる


うたがひながら待つ契かな

逢ふことも後をば知らぬ別れにて


狩場の小野のうらめしきかな

はし鷹のそれし空しき別れより


水むすぶあたりもけふは過ぎぬれば

あかぬ別れをしのぶばかりぞ


曉ごとに身をしぼりつつ

鳥のねはあふよのうちになしはてて


曉おきの道いそぐらし

逢ひみても人目を思ふ歸るさに


我が通ひ路の關守はなし

よなよなの恨は鳥の聲ばかり


ゆふつけ鳥の聲ぞ友なる

別れ路のあけゆく床にわれなきて


契ぞいまは秋になりぬる

何ゆゑに月をかたみと思ふらん

嘉暦四年内裏七夕に

とまりやすると惜しき秋かな

きぬぎぬの別れもかくや歎きこし


それとは知らず鳴く鳥の聲

誰かまたこの曉に別るらん

女のもとにて曉の鐘の聞えければ、

と侍るに

曉のかねの聲こそ聞ゆなれ

これを入相と思はましかば

元亭元年十月、龜山殿百韻連歌に

俤のこす有明の月

いたづらに人はつれなくかはるよに


これや限りの人は秋なる

うき別れあり明の月にとめかねて


夜中にみるは有明の月

別れよりやもめ烏のねに鳴いて


跡こそのこれ今朝の白雪

なほうきは夜ふかかりつる別れにて


また寢のまくら露か涙か

月も入り人も別れて殘るよに


涙ばかりの殘る手枕

俤を月に忘れぬ夜は明けて


もれぬべきこそ憂き名なりけれ

別れ路をあまり忍ぶに夜はあけて


涙の數も袖にこそあれ

玉章をたのむの雁のつてに見で


これもさながらかたみなりけり

かへさるる我が玉章を身にそへて


見るにつけても恨こそあれ

玉章に心はつきぬならひにて

關白家の千句連歌に

かへして見ればあとの俤

玉章をうらせばきまで書きなして


戀ひしさや見るたびごとにまさるらん

とりあつめたる人のたまづさ


雲井の雁の秋をしるなり

玉章は風のたよりに待たれしに


まとほになりぬ雁の一行

身の秋にその玉章もかき絶えて


雪かき分けて訪ふ人もなし

いつはりや文の詞にまじるらん


深き心の色を知らばや

くれなゐの筆のすさびの言の葉に


忍ばずよよその誰にも見せてまし

こひしとかける人の玉章


又立ちかへる春のかりがね

玉づさはこなたかなたに通ひつつ


契りしはいつはりにのみ成りはてて

あれどかひなき水莖のあと


引きかへしてもなほうかりけり

一筆のいつはりげなる玉章に


いはぬ心の奧ぞ殘れる

玉章を急ぐ使に書きさして


姿は消えて鳴く雁の聲

玉章を涙にかけば文字もなし


涙にそむる袖を見せばや

玉章のうす墨なるをよみかねて


むすぶ契のなど定めなき

玉章のかよひ通はぬ時ありて


かへすがへすも待ち詫びにけり

玉章にいつはりまこと見え分かで


人知れぬ思ひや内にこがるらん

煙はしるき袖のたきもの


流れてや心の瀧となりぬらん

思ひなみだは川の名にあり


心には思ひ渡れど甲斐ぞなき

泪の河のみをつくしつつ

正和四年五月、伏見殿の百韻連歌に

うしと見ながら年ぞ經にける

ことかたにかへりかねぬる心にて


人の心や神にひくらん

なほいのれ契のすゑをみしめ繩


片岡の森のしめ繩引きそへて

祈にうけぬ戀ぞつれなき


などかたそぎと契り置くらん

住吉の神に祈らぬものゆゑに

寳治元年八月十五夜、常盤井殿百韻連歌に

水草ゐる野中の清水うづもれて

名こそ惜しけれ忘れ果てなば


かたみの鏡面かはりして

はし鷹のこゐにぞけふは暮れにける


いとせめて苦しかりけり戀衣

唯うつせみの身をやかへまし


詠めてのみや春を暮らさん

戀衣すそわの小田を打ちかへし


池に石ある瀧つ白波

なく泪すずりの上に落ちそひて


見るに心ぞ慰みぬべき

忘らるる形見ばかりのますかがみ


折を知るこそ泪なりけれ

今もなほかたみの扇見るたびに


つらき思ひをしぢのはしがき

小車のめぐりあひしは昔にて


文はやるとも取りてだに見じ

梓弓ひくかたあるときくものを


我とうけぬはうき契かな

盃のさしも思ふと云ひながら


よひ曉も夢はさだめず

見る時もまたみぬ時も涙にて


ふるき扇もかたみなりけり

夕貌の花のなさけも忘られず


と侍るに

むすびや捨てん山の井の水

人心淺き契を恨みしに

袖のちしほや涙なるらん


やがて別るる夢の面影

涙をも人の袂にかへさばや


と侍るに

かたえは薄き峯の紅葉ば

人心思ひ思はぬ色見えて

涙を知らば月もはつかし

正和四年伏見殿百韻連歌に

さてもこは誰がなさけにか慰まん

とはで過ぎしは恨なりけり


げに先の世の報いなるらん

歎かじよ唯我からの憂き思ひ


戀ひ死なばそのつれなさや咎ならん

ながらへけりと人もこそ知れ


涙の色は袖のくれなゐ

なに故にかかる浮名の立田川


すて置きし我が赤子も泣きわびぬ

またあたらしきつまな重ねそ


うとかれとのみ人は思ふに

つらきをやなほあやにくに慕ふらん


とても又とだえ果てぬる中なれば

見ずともよしや夢の浮橋


目をひらきたける心は恐しや

なにをかねたむ身には覺えず


俤に心の花もまた見えて

人こそ人にうつり易けれ


心はよその契なりけれ

身こそあれ人には人もつらからじ


寢覺をとふは鹿の鳴く聲

憂きときは我も涙の落ちそひて


思ふかひなくなどやつれなき

我にうき人の命もしらぬよに


いかなる道に生れあはまし

戀ひ死なば來ん世の契なほ頼め


かた思ひなる身をいかがせん

人の爲うかりし先の世とは知れ


あまの衣やほす時もなき

間とほなる中には絶えぬ恨にて


別れて後は恨だにせず

なほざりの程こそ人のうさもしれ


同じ涙のなにと落つらん

うきならば我も心のかはれかし


くろくなるまでかける玉章

うき人の戀ひしきままに身はやせて


逢はばうき名もよしや歎かじ

人ゆゑは命をだにも惜しまぬに


露もたまらぬ葛のうら風

歸るさの曉起きに袖ぬれて

三字中略・四字上下略連歌に

なをざりによりゐし宿の槇柱

忘れず忍ぶふしもあらじな


我戀ふは人にしられじ散らすなよ

身はかくれなき山なしの花


心から住みよき里をうかれきて

人を難波のうらみけらしも


風のつてにもとはぬ頃かな

人心秋の末にやなりぬらん


身のうさを思ひしらずはなけれども

詫びては人をまた恨みつる


憂きにまじるはなさけなりけり

袖はただ人のうつりがを泪にて


これは別れの曉の鳥

いまなくは僞りならぬ心にて


うき名ばかりやよそに立つらん

戀をのみ須磨の鹽屋の夕煙


吉野の瀧は末の白波

紅は妹背の中の涙にて


身を知るにこそ契り頼まね

袖ばかりふりぬる雨は涙にて


月見るに我は心のなくさまで

人のうきにや秋をしるらん


つらき人には思ひやはなき

いかが吹く我が身に知らぬ秋の風


海にとるてふたまたまも訪へ

人ゆゑは火にも水にもいりぬべし


聞くよりもなほぬるる袖かな

立ちそひてつらきけしきを見ては又


とはるべき僞りをだに恨みしに

つらかりしこそ今戀ひしけれ


同じ世のみや契なるらん

有りとだに知らずながらに存へて


むすぶ契の前の世も憂し

夕顏のはかなき宿の露のまに


よもすがら月を惜しむにねを泣きて

わが身の秋はことの數かは


こりず待ちつる身こそつらけれ

人よりもつれなきものは心にて


絶ゆべきものと思ひやはせし

くるをこそ頼みもせしが青つづら


今よりもかかる言葉の契にて

その名もつらきわすれ草かな

弘長二年八月、庚申連歌に

思ひ出づる折折ごとにかはりつつ

我が心さへ頼まれぬかな


思ふてふ人の言葉のことなくば

我のみひとり袖はぬらさじ


我妹子が一夜ばかりの契にて

ながきうらみのなど殘るらん


深き恨を知らせてしがな

泣きながす泪は淵となりにけり


憂き契こそむくいなりけれ

來んよには人も物をや思はまし


獨りすむ垣穗にはえる青つづら

たたぬ別れの人も恨めし


爭ふほどの心をも見ず

戀ひしきもつらきも同じ泪にて


頼むぞよ結ぶ契を心にて

わが元結のいふかひもなし


山の端遠き有明の月

つれなくも誰俤をとどむらん


五月雨の音にきこゆる郭公

なくなくぬればみじか夜もなし


人になし我が身になして憂き契

名は立ちながらそふこともなし


さだめなき契や人にならふらん

戀ひしきにさへ世の中ぞうき

 菟玖波集卷第十二 雜連歌一


建保五年四月、庚申連歌に

吉野山二たび春になりけり

年のうちより年をむかへて


と侍るに

けふ鶯の初音をぞ待つ

春風に谷の小川もうちとけて


不二の煙も思ひくらべん

明けわたる清見が關の八重がすみ

春熊野へまゐりける道にて、ここはいづくと人に問ひ侍りければ、秋の野里と申すとて答へければ、

これを聞きて同行の山伏の中に

秋の野里は春めきにけり

見渡せば切目の山は霞にて


ありとも見えぬ苔の下水

埋れ木の枝には波の花咲きて


をりをりにこそ春をとひつれ

ともに立つ霞の衣水のあや


袖をかつぐは名のみかさにて

春日野のおくなる山の朝かすみ


それとも見えず雁の玉づさ

薄墨の霞や空を隔つらん

二條院の御時、承香殿の梅を折らせて中宮の御方へたてまつらせ給ふとて

と侍りければ、誰とはなくて女房の中より御返しに

行きては見ねど折りて見ましを

色も香もえならぬ梅の花なれや


花の中にも花やえらびし

色よりも匂を梅のかざしにて


落つる涙ぞ神のことの葉

咲く梅や家をはなれて匂ふらん


と侍るに

時はうしなる寺の行ひ

二月や夜中の月の雲がくれ


遠き難波の浦の明けぼの

誰が里に咲くやこの花匂ふらん


花はむかしの名殘なりけり

霞めとは思はぬ月も泪にて


めぐりあはんと思ひやはする

老の後うゑにし梅のはつ花に


たきものあはせこれも勝負

聲聲に鳴く鶯を籠に入れて


薄墨は繪に書く花の朽木にて

柳の葉こそ筆の名にあれ


富士の根の煙はいつか霞むらん

山のすそ野の草の下もえ


ありとは聞けど歸らざりけり

鳥の子の一つ殘るは巣守にて


賢き人は墨染の袖

隱れ家の花ばかりこそ友となれ

二品法親王北野社千句に

と侍るに

うき世の友の我を訪ひつる

花咲きてなど隱れ家のなかるらん

月ぞ霞にかくれかねたる


夕暮は山も霞も一つにて

月いでぬれば日ぞおぼろなる


月のわづかにかすむ夕暮

熊のすむうつぼ木ながら花咲きて


槇の葉や月を殘して霞むらん

花のとぼその明けぼのの山


けぶりとならんことぞ悲しき

山人の薪にまじる花の枝


思ひ出はただ年年の春

花になほ老の命はながらへて


昔の春ぞ人にとはれし

老いぬれば花咲かぬ木に身をなして


春の草としとし庭の荒れしより

我さへともに古里の花


あくるは易き鐘の音かな

春の夜の寢覺は老のならひにて


鳥は鳴くかと明くるをぞ待つ

春の夜をもながく覺ゆる花盛り


世の中の思ふにたがふことわりに

花の頃こそ風はなほ吹け


柴の戸には雪も殘らず

山里の花にはことに風吹きて


日のながきをも夕にぞ知る

見る程はかへらぬ花の木のもとに

花の頃法勝寺にて

と侍りけるに、花見る人の中に

絲櫻花のぬひよりほころびぬ

霞のころも立ちもはてぬに


をりからなるは山里の春

一枝の花をあるじにゆるされて


山かげもなほ里は見えけり

霞めども花はまぎれぬ梢にて


ながながしきは春の日の蔭

山鳥の尾の上の花を遠く見て


雁がねや春を忘れず歸るらん

花にかならず別れこそあれ


網代のうへも浪ぞよせける

小車に花をあらしの吹きかけて


詠むる月やなほかすむらん

風だにも花をば殘す木の下に

文和五年三月、西芳精舍の花見るとて百韻連歌侍りしに

時うつるむかしはけふの昨日にて

ことおもひ出も花の夕暮


松風はこの谷かげと思へども

よその嶺より散る櫻かな


心もなくて春やゆくらん

散る花のうきをば風もよも知らじ


かよひ路は雪よりなほも殘りけり

櫻ちりしく池のにほとり


春一時はなほも明けぼの

花ちりし夕に似たる鐘聞きて


よろづのうきは一夜なりけり

花の散る山の木かげの笹の庵


雪むらむらの野は春の草

年年の花のふる里人住まで


夢の契も別れなりけり

朝には雲となりぬる花散りて


名はあり原のあとふりにけり

雨露にしぼめる花の色見えて


身のかねごともたのまれぬ春

又みずは我れ世になしと花も知れ


あはれといふも愚なりけり

人だにも花に先だつ世の中に


春もいまはの入相の鐘

山風は花ちる里のゆふべにて

弘安二年八月、日吉社奉納の獨連歌の中に

いたづらにこそ風も吹くらめ

山櫻ちるべき程はちりはてて


紅葉の風も空にこそ吹け

花ちりし跡の櫻木名をとめて

關白左大臣西芳精舍の花の下にて連歌し侍りしに

誰に惜しめと春はゆくらん

人ごとの袖の有明かすむ夜に


面影のなきこそ花のわかれなれ

霞きえたる有明の月


花に馴るるもあはれいつまで

かろき身は春の胡蝶の如くにて


思ひ出づるぞうき涙なる

紅の色とは是をいはつつじ


人とはぬ柴の戸ぼその春暮れて

山の陰にはながき日もなし


櫻は散りぬあとの面影

木のもとに八重山吹の花咲きて


けぶりの末の見ゆる山本

なき跡は春の草にやなりぬらん


馴れて見し老木の櫻また散りぬ

惜しめばとても春はとまらず


けふ過ぎゆくも一時のうち

逢ひがたく失ひやすき春暮れて


明日まで花の散りのこれかし

あぢきなく後の春をも知らぬ身に


散らぬ別れの花のゆふぐれ

けふも聞く入相の鐘は春ながら


花の友こそ散らぬ程なれ

柴の戸に春は殘りて人はなし


命をも知らねば後もたのまれず

老いてぞ惜しき春のわかれ路


うちたれがみの短よの夢

このとりはうなゐこといふ名の有りて


むかひの里に人や待つらん

我ぞまづ山にて聞きつ郭公


夢の中にも又ぞかたらふ

待ちえつつ聞きてぬるよの郭公


けふの日に袖のくすたま絲かけて

あやめの軒をつたふささがに


ぬる夜の夢ぞむかしなりぬる

橘の匂を袖にかたしきて

高倉院の御時、南殿の上にぬえといふ鳥鳴き侍りけるに、頼政を召して射侍るべきよし仰せられければ、五月
闇のくらきに、聲をしるべにて、仕りけるに禄をかくるとて後徳大寺左大臣

ほととぎす雲井に名をもあぐるかな

弓張の月のいるにまかせて


たのまれぬともまつは夕暮

五月雨のはれまも月の頃にして


夏なき露のむすぶ木の下

みじか夜は明けても月や殘るらん


蓮咲く池にもかげの花みえて

底なる水の月ぞ涼しき


風ばかりこそ涼しかりけれ

むら雨に梢の蝉の聲まぜて


松風に涼しき瀧を聞きそへて

夕の山は蝉の聲聲


佗び人のうすき衣のいかならん

蝉のをりはへ鳴かぬ日はなし


集めける窓の白雪消えぬるに

螢の火にも文字は見えけり


ひとりひとりぞさき立ちし跡

あだし身は夏ある蟲のたぐひにて


車をかくるよはひにぞなる

夕顏の花やかなる時すぎて


よむ歌の心は人の行衞にて

種まく草は撫子の花


くらげも骨はあるとこそ聞け

舟人のもてる扇や海の月


月に馴るるも一夏のほど

山風の松にこもるは涼しくて


煙はおくにこもる呉竹

一夏の身の行ひに世を知らで


殘りの秋ぞなほもたのまぬ

老の身は人より露の命にて

關白内大臣に侍りし時、家の千句に

遠くなるそなたはなほも戀ひしきに

けふもむかしの秋の夕暮


なほ月見よとのこる曉

隱れ家は秋のうき世にかはれかし


心迷ひや涙なるらん

うきことはいつも秋とも分かぬ身に


憂きことは我が命にや限るらん

老のゆふべは今までの秋


水のうへより秋風ぞ吹く

川霧や柳の露となりぬらん


憂きことは我と知るべき秋なるに

うゑずはきかじ荻のうは風


この夕暮も荻のうは風

秋ながらはじめの程は月もなし


秋風は止む時もなく吹きつるに

桐の落葉はなほ雨の音


誰か見る古き都の夜半の月

秋ばかりこそ昔なりけれ


馴れて見る月も哀れと思ひしれ

柴のいほりはつねの秋かぜ


月もふけ秋も半ばは過ぎにけり

ともに風ある松のした荻


忌垣の月もすみよしの浦

波こゆる松の下枝に露みえて


人は秋なる我がこころざし

置く露やちの葉の上にあまるらん

秋の頃ほひある所に女どもの數多みすの中に侍りけるに、男の歌のもとをいひ入り侍りけるに

と侍るに末は内より

白露のおくに數多の聲すなり

花のいろいろありと知らなん


うつり殘るは袖の月影

むらさきのゆかりの草に花をみて


鳴く鹿は山のいづくに通ふらん

松に聞えて秋風の聲


我がためのつらさも知らぬ心かな

老となるてふ月をながめて


梢にのぼる秋のしら露

山の端の松のもとより月出でて


又はれ曇り秋ぞしぐるる

村雲の空ゆく月の定まらで


住む人しらぬ庵ひとつあり

深山には月見る夜半も少きに


世を捨てて我が住む山の隱れ家は

月ぞ忘れず袖をとひける


身は秋ながらうき世にぞすむ

あらましの山には月の先たちて


住みすてし里の秋にやなりぬらん

のがれて後もおなじよの月


むぐらの宿は住みうかるべし

思ひある身にさへ秋の月を見て


身を秋の心はすつる習ひにて

うきしづむこそ浪の上の月

導譽月次の連歌に

八幡にますもかの國のぬし

箱崎や明けのこる月のにしの海


まつ宵の程ぞ過ぎぬる我が契

槇の戸ささで月をこそ見れ


心にはうき世の秋も殘らぬに

隱れ家までぞ月はつれたる


いづくをも捨てぬ光や照らすらん

月には殘る山かげもなし


舟出づる浦より遠の霧晴れて

月の下なる明けぼのの山


むすぶ夢にはそはぬいにしへ

月やどる野中の清水かげ見えて


庵の外山やなほしぐるらん

明けぬれば月には見えて影もなし


今もある露の命の殘れかし

またこん秋の月の頃まで


住む人いかに露のふるさと

月ばかり昔の秋や殘すらん


庭に落つるは桐の葉の雨

山里はかげの中なる月を見て


ともに住みしは古郷の秋

柴の戸を浮世の月のなほとひて


蝉の鳴く音もかなしとぞ聞く

柴の戸の秋の日くらし獨りゐて


ここにすむとは誰か知るべき

浮草をかき分けみれば水の月


谷の木末のうへの瀧川

遠山は月おち鐘やひびくらん


鐘をきく寢覺の後も更くる夜に

月より秋の霜やおくらん


秋やなほ霜の後まで殘るらん

松にかげある有明の月


影ほのかなる有明の月

人ごとの寢覺に秋やのこるらん


はかなくも恨みて年の積りぬる

老曾の森の葛の下露


秋寒き袖なる霜を拂ふまに

しばし砧の聲ぞとだゆる


それをや人の弓張といふ

ささがにははじの立枝に絲かけて


つらづゑつくは人にかはらず

山梨を梢の猿の折りもちて


かずにあまれる身の思ひかな

曉の鴫の羽音はしげけれど


引く手あまたにかよふ玉章

斜なる琴柱に似せて飛ぶ雁や


舟にては波の下なる月を見て

うへに雲ある雁の一つら


この山までもかりぞたづぬる

うき心秋にのがれぬ身となりて


古郷は月や主となりぬらん

人はむかしの秋にかはらず

朱雀院の隱れさせ給ふける秋の頃人のもとより

と申し送り侍りけるに

君はまた有りしにあらぬ夕暮に

いかに聲々蟲の鳴くらん

萬葉集連歌に


佐保川の水をせき入れて植ゑし田を

かるわさいねはひとりなるべし


紅葉の錦きてやゆかまし

ぬれぬれも秋は時雨のふるさとに


夕霧のはれゆく跡は露みえて

いなばの雲は月も隔てず


うつろふ菊の花のいろいろ

一もとは黄なるもまじるもみぢにて


もみぢをわたす谷川の橋

埋れ木も蔦のかかるに秋しりて


日影ながらの月の遠山

紅葉ある松を分けてや時雨るらん


秋の名殘やかれ殘るらん

菊ばかり花なき草になほ見えて


旅にぞ秋の心すすむる

盃に山路の菊の露うけて


佗び人のすみかときけば露けくて

風は紅葉のかげにこそ吹け


我が身の老となりにけるかな

鳥羽玉の黒髮山の秋の霜


よその砧はこの里の暮

昨日今日秋のあはれの打ちつづき


影さむき月の桂の枝ながら

西なる里の秋やのこりし


跡とふ涙月を隱して

古郷の秋こそのこれ淺茅原


月あはれこよひばかりの昔にて

老は名殘の秋ぞ悲しき

救濟法師、北野社千句連歌し侍りし時

これまでもはらむ薄ぞ時を知る

十月にならば秋ものこらじ

源氏物語の卷の名と古今集作者とを賦物にし侍りける連歌に

といふに

紅葉のかぜに散りまよふころ

時雨なり比良の高根の神無月


山のかげをばめぐらざりけり

雲かかる高根ばかりの夕時雨


木の葉も露もただ風の音

月見えて跡はまた降るむら時雨


深山の雪はけさよりぞ降る

ふもとなる里は夕のしぐれにて


比も時雨のふらぬ日ぞなき

散りのこる木の葉も風にさそはれて


すきて下まで見ゆる水かな

山川の木葉をとづる薄氷


今はとて思ひ捨てにし秋なるに

木末の風ぞ落葉にも吹く


歌の名にあふならの古こと

木枯の庭はよろづの葉をあつめ


いくかへりまで雪の降るらん

とめこかし鷹手にすゑて出づる野に


と侍るに

空にぞ冬の月は澄みける

舍るべき水は氷にとぢられて


この神に誰もあゆみを運ぶらん

霜にあとあるみちしばの草


ゆけば雪ある山本の道

霜枯れの小野の淺茅をふみわけて


波を立てたる池の浮鳥

月影は水のむすばぬ氷にて


池水に波のたつとは見えつるに

氷や月の姿なるらん


淡路の國は波の遠島

影あれば月と水との二こほり


月のこほりに水も流れず

鴛鳥は池なる波にともねして


白きは雪の色にこそみれ

月寒き浦のかもめの聲はして


高根の雪は幾重ともなし

月寒き比良のみづ海氷りゐて


日こそ待たるれ寒き山かげ

川舟を氷るところにさしとめて


心あらばこれも姿をかへよかし

染めぬに黒き炭燒の袖


人の來とてもうきや殘らん

ふまで訪ふ道こそなけれ庭の雪


漕ぎ行く舟に寒き浦風

松遠き潮路の雪の朝びらき


瓜木とる山路は遠し日は暮れぬ

雪吹きおくる谷の下風


霞に出づる日こそ遠けれ

雲はるるそなたの山は見えながら


山深き道やゆふべに迷ふらん

槇もひばらも皆雪の陰


有明の月も木の間に影さえて

雪をみやまの槇のひとむら


ふり捨てぬれば世こそ輕けれ

はらはずば雪にや折れむ窓の竹


鳥のとまるや夕なるらむ

ふる雪に日もくれ竹の枝たれて


一とせながら四つの時あり

雪ふれば皆白山の花咲きて


庭なる霜は月にあらそふ

雪ふらば何事をかは思ふべき


小野のあたりに春は來にけり

雪のうち夢うつつとも分かざりし


橋を渡らぬ道もありけり

水もなき氷のうへに雪ふりて


道のほとりは霞む松原

江につなぐ舟にや雪のたまるらん


身をすてしより友はまたれず

隱れ家のみ山の雪をひとりみて

菟玖波集卷第十三
雜連歌二

歌の姿は今も忘れず

古の夢を見し人まろねして


袂の露のまろねしてけり

歌人の夢の俤繪に書きて


いかばかり待つやと告げよ郭公

夜半の枕は夢もやどさず


いりぬる後は目ぞ覺めにける

なかなかに老の眠りはねやのうちに


長きかひよと夜は閑かなり

寢覺には思ひ殘せることもなし


消えやすきこそ命なれ

ともし火をしばしかかぐる風の前

關白報恩寺にて百韻連歌侍りけるに

ふすをおこすぞ夜のおこなひ

子も丑も六時のうちに定まりて


戌の時より火をともしけり

暗き夜や家のあたりも迷ふらん


軒のたるひをくだく春風

水かくる筧の竹のよの程に


すでに歸るぞうき心なる

庭鳥の八聲のうちに夜は明けて


遠きかたより鐘ぞきこゆる

曉のねざめの枕そばたてて


二人語るは後のあらまし

鳥よりも先にや夢のさめぬらん

文和五年三月、西芳精舍の百韻連歌に

道なほのこる谷のふる寺

忘れじな見しはその夜の夢の窓


心の外の旅にいでぬる

明けぬよも月のまよひに鳥鳴きて


うきは唯心まよひの別れにて

鐘のひびきに又鳥の聲


野中の道は夕なりけり

山遠くいづくの鐘の聞ゆらん


またもや見まし曉の夢

一聲の鳥より後もあけやらで


ところどころの人に逢ひつつ

ぬるが中の夢にも身をや分かつらん


ひま見ゆる垣はうちをも隱さぬに

枕にめぐる山さとの雲


いつをと頼むことの葉もなし

夢なればさむるも見るも心にて


時雨に雪やふりかはるらん

覺めぬるも後には結ぶ夢なれば


春の名殘をなど惜しむらん

誰とても夢のまぎれの世の中に


うき人は待つよとだにもよも知らじ

心よりこそ夢は見えけれ


老の心ぞかずかずに憂き

とにかくに昔の夢も又見えて


明けやらで寢覺の後も長きよに

夢をいくたびまた語るらむ

左右の大將おなじ車にて小野の山莊よりかへりける道にて

と侍るに

おもふどちいざかくて見ん小野の山

峯なる松によはひくらべて


遠山の茂る方には風吹きて

よそより見ゆる峯の松原

式部卿久明親王家の千句に

いほりの軒ぞ傾きにける

年へたる松の柱や朽ちぬらん


霰はたまり霜は消えゆく

鐘聞きてなほ夜を殘す篠の屋に


旅の枕や嵐なるらん

山里は松をかげにてすむものを


何につけてか又とはれまし

我だにもすまれぬ山の柴の戸に


山にのぼるは道のひとすぢ

庵見えぬ煙は谷の木のまにて


日も入海の舟をしぞ思ふ

遠山の雲にみゆるはまた隱れ


一村の松こそ遠き波間なれ

夕日隱れて山の端もなし


いかが吹く鶴の林のゆふあらし

薪つきては煙をも見ず


翁となりぬ小野の炭燒

末細き煙に山の庵さびて


高き山なほ末遠くあらはれて

けぶりは富士の物とこそ見れ


雲となりてぞ山にかかれる

里にたく松の爪木の夕煙


霜の消ゆるや日にあたるらん

山陰の庵には人の柴燒きて


山にしむるや住家なるらん

とりはつる薪のねりそゆふつかた


蜑やたもとをかくしぼるらん

拾ふ木を又燒くものとなすべきに


今朝めづらしくふれる白雪

小野といふ里まで人の尋ねきて


夕立の雲むらむらに風吹いて

近き遠きも山や見ゆらん


うきにたぐひはなき身なりけり

あらし吹く松を隣の峯の庵


里よりひびく入相の鐘

山になほ夕日の影は見えながら


旅に出でぬも關はこえぬる

山中の庵にかよふ道ありて


とまればここも宿とこそなれ

暮れにけり里なき山の松の蔭


待つかひのある契ならばや

いつもきく風は夕の庭の松


けふは船路に又なりにけり

山風は浦なる松につたひきて


又吹きたつは沖つ汐風

松原のあなたの里の夕煙


この世ながらや又別るらん

古郷を山の庵にすみかへて


こがねといふはつくることなし

木の根よりいさごながるるみ山川


水のはやきぞ苔はしるなり

石高き山の奧より瀧おちて


月のいづくもほのかなるかげ

村雲にところどころの山見えて


冬ごもる山の庵の雪の中

音かすかなる軒の松風


うきふしはただ旅にこそあれ

山賤の竹のむしろに一夜ねて


身に寒く吹く松の嵐を

岩根なる苔のさ席敷きわびぬ


茂かりし色ぞいたく荒れにける

苔の石橋跡だにもなし


人のかほこそ數多みえけれ

杣木ひきまさきの綱に手をかけて


炭をやく里の一村ある山に

薪切るをやをのといふらん


匂ふ日影にきゆる朝霜

山にとる薪の道の野に出でて


降る雨までも閑かなる音

ひとり住む柴の庵に夜はふけて


千歳やつひの限りなるらん

是よりも北なる國の名を聞けば


うりにも見ゆる青葉なりけり

笛の名のこまのわたりに家居して


吹く風の音こそ空に聞えけれ

野中の庵は松の下蔭


ふみ分けて誰が通ひ路となりぬらん

こし人知らぬ庭のよもぎふ

後鳥羽院御時、源氏卷の名國の名百韻連歌たてまつりける中に

いつもみどりの露ぞみだるる

蓬生の軒端あらそふ古郷に


須磨の關屋はもる人もなし

茅ぶきの軒に音せぬ雨ふりて


月にもくらき谷陰の庵

松風の音ばかりなる雨聽きて


あまりに置ける秋の白露

淺茅原いつ住みけると見えぬかな


ともしに夏は庵ぞ荒れぬる

淺茅原いつ住みけると見えぬかな


すぐなるは繩を結びしまつりごと

麻の中にも道ぞありける


いく木のもとを分けてゆくらん

藥には草をも人のとるべきに


池の蓮ぞ露をそへたる

浮草のうき葉の上に水こえて


なに事の爭ひかある鳴く蛙

菱の浮葉ぞつのの上なる

後鳥羽院の御時、三字中略、四字上下略の百韻連歌奉り侍りける中に

おのづから都にうときそみかくだ

峯のいはやのあるじともなし


くるもつれなき戀の道かな

宮木引く正木の綱手うちはへて

竈山の麓の木にふるく書きつけて侍りけるに

とあるに

春はもえ秋はこがるる竈門山

霞も霧もけぶりとぞ立つ


唐土舟の旅の夜とまり

風かはる春と秋との時を得て

堀河院の御時、中宮の御方に渡らせ給ふに、藏人永實して御所に侍りける桐火桶をめして遣はしたりけるに、
繪かきたる火桶をさし出づとて

と侍るに

かすみこめたる桐火桶かな

花や咲き紅葉やすらんおぼつかな


遁れても月待つ夜半はうかりけり

我もいでじと思ふ山陰


心をつくす花のいろかな

白雲のいく重高根を隔つらん


音はいづれぞ木の葉松風

山陰は鐘よりさきの夕にて


世をすつる人にはかはる心にて

山にあらず里にこそすめ


繪をかけて置く前の花立

雲となる香の烟の一たきに


たつや水鷄のおのが曉

松風のたたくは柴の戸ぼそにて


と侍るに

うき僞りのくれを重ねて

馴れてきく音さへさびし松の風

深山の庵にとしのへぬれば

ふみ分くる岩根の道も跡ふりぬ


かくても杉の庵やはなき

きてもなどたづねざるらん三輪の山


しるしも知らぬ杉を見るかな

宮木引く三輪の杣山尋ね來て


ふるや木の葉の音ぞ寂しき

山里は風のたよりに人待ちて


三室の山は色まさりけり

暮れかかる峯に日影のさすままに


はたちは過ぎし年年のかず

富士の根をかさねあげたる山と見て


結びかへてや夢は見えまし

松あれば風のかげなる柴の庵


山路の旅に今出でにけり

古郷のあれしに似たる柴の庵


住むやまに幾年月を重ぬらん

落葉ふりたるまつの下庵


墨染のゆふ山こえてゆく道に

おくは鞍馬の峯の木がくれ


のがれては又もあらじと思ひしに

むすべばかげの見ゆる山水


初音かたらふ山郭公

我が庵の寂しき程をしらせばや


つらかりし人の心をしるべにて

むなしき跡を三輪の杉村


かたぶくよはひ涙とぞなる

我が植ゑし松も老木の姿にて


苔をうづむもけさの初雪

吹く風も槇の木隱れ音こめて


つばなぬく野にかへる草刈

陰にゐて休めばしばしねぶりの木


うち時雨れては時ぞ悲しき

雲に聞く深山の瀧のよるの波

花の頃報恩院にて百韻の連歌侍りしに

蕨とりにや山を出づらん

わづかなる柴のつま木の一拳


たが音づれと思ひなさまし

ひとり住む山の庵の窓の雨


龜山の岩根をさして吹く風に

瀧のかずそふ玉ぞくだくる


つれなきは己れひとりの時鳥

すみ得ぬ人は山をいづなり


雪をあつめて山とこそみれ

富士の根は人の語るもゆかしくて


荒れたる小田を又かへすなり

あし引の山に臥す猪のよはに來て


霞むみ山の鳥の一聲

柴の戸のあくるは晩く暮れ易し


佗び人をいかに待乳の山越えて

くれはふすべき庵むすばん

 菟玖波集卷第十四 雜連歌三


後鳥羽院御時、百韻の連歌たてまつりける中に

鏡の山に月ぞさやけき

にほてるや鳰のさざ波うつり來て


名こそ惜しけれ忘れはてなば

あさりする汐干のかたのうつせ貝


消えかへり忍びてしぼる我が袖の

うら悲しきは浦のともし火


しほたるる袖の湊を尋ぬれば

伊勢をの蜑の夜半の釣舟


やかぬ汐をや蜑はくむらん

風あるる浦の小舟に波こえて


有明の月はうす霞みつつ

芦火たくなだの鹽屋のうら風に


えびすこころもなればなりけり

釣たるる舟をこよひの隣にて


川上しらぬ槇の木がくれ

波風をあらそふ音や聞ゆらん


野を行く道や駒をすすめん

浦ははや汐さす程に鳴海潟


漕ぐ舟も汐瀬の霧にへだつらむ

波にうきたる浦の松原


草の名も所によりてかはるなり

難波の芦は伊勢の濱荻


芦屋の沖に舟ぞただよふ

洲崎なる松の梢に風越えて


風になる雲の外より夜は明けて

波の上なる山の松原


かげに見ゆるは松の白雪

うしほより吹きたる風の音聞きて


汐干の月や氷なるらむ

捨舟の中にはたまる水ありて


なほ繋がれぬ我が心かな

沖中にわれたる舟の綱手繩


これやこの賀茂の川波室の海

青葉の松を高砂の浦


なしの杖こそよわくなりぬれ

たらちねのおふの浦波うつたびに


いにしへの箱の傳はる比枝の山

浦島みえて近きみづうみ


霰にまじる霜をこそ見れ

松原のあなたの浦は汐干にて


波間の月に千鳥鳴く聲

蜑人は誰を友とか思ふらん


あし屋の軒に波ぞかかれる

藻汐くむ海士の衣をほしかねて


里の煙やよそに立つらむ

浦にある松一むらと見えながら


行く舟の跡をしぞ思ふ沖つ波

島がくれなる浦の松原


都をば雲居のよそに隔て來て

袖までぬらす須磨のうら波


聞きなれたるは須磨の浦風

なかなかに佗びぬは海士の心にて


旅に先だつ友とこそなれ

ともす火や遠き夜舟を知らすらん


なにの煙のあまた立つらん

海士のすむ里には家もつづかぬに


旅にいづれの宿をとはまし

浦々の里かと思ふゆふけぶり


浦の近きは松の一村

山見えぬ波の上より夜は明けて


山の端はありとも見えぬ波路にて

入日にちかき沖の釣舟

後醍醐院の御時、節會の日御劍のうせたりけるに

と侍りしに

御はかせを誰つかのまに取りつらん

身をばいづくに沖つ白波


年の積るを知らぬはかなさ

和歌の浦に多かる玉を拾ふとて


池波までもうらの面影

しほ竈を都にうつす殿作り


遠近の花の別れをみつるかな

山のゆきあひの水のしらなみ


唯一すぢに水を頼みて

ひだたくみ杣の筏を下すかな


翠なる柳の眉はみだれけり

きしの額を洗ふ白波


鳥の子を重ぬるよさへをさまりて

鳰のふるすの殘る芦原

秀衡征討の爲に奧州にむかひ侍りける時、名取川を渡るとて


我ひとりけふのいくさに名取川

君もろともにかちわたりせん


枝を分けてぞ木は枯れにける

山川のはしのかたがた先落ちて


程もなく底の軒端のやぶるれば

古き筧は水もつたはず


かきふりにけり朽ちし松の木

水つたふ竹の筧の末たえて

後鳥羽院の御時、百韻連歌奉りける中に

あとも定めぬ海人の釣舟

吹く風に拾ふ玉藻のみがくれて


風にこたふる浦波の音

川越えのむかひの里に人住みて


石を竝べて道にこそ踏め

谷川の淺き流れは橋もなし


まかする水の聲や立つらん

せき入るる心のみゆる音羽川


これまでは車も來つる寺の門

網代にかかる宇治の川波


松の梢を波やこすらん

山風の音より上に瀧おちて


落つる涙はまた袖のうち

これやこの妹背の川の瀧つ波


見る程もなき月の影かな

山水の流れは松に木がくれて


いたづらに空ゆく月に隔たりぬ

ふき重ねたる芦の屋の里


人の世も我が世もいさや飛鳥川

水の泡よりげにぞはかなき


さすがに生ける命なりけり

はやき瀬の水のうたかた消えもせで


いづれともしらぬことぢは主もなし

岩こす波も松風ぞ吹く


めぐりあひても甲斐なかりけり

はつせ川汲めどたまらぬ水車

西山の瀧おとしたるところの障子に

と書きて侍りけるに、そばに書き付け侍りける

瀧の白絲くるべくもなし

谷川の心細きにかきたえて


板間もりくる月をこそみれ

まつ人のこよひは橋の下にゐて


浦には蜑のかよふそのみち

捨舟の古きや橋となりぬらん


鹽屋も里も波にあれぬる

たかぬ火の煙は松に見えながら


こころごころのこと語るなり

山人のこよひは浦にとどまりて


御祓する日にめぐり逢ひぬる

川波は水の車の輪をこえて


とにかくに紛れ易きは市の中

檜原のあらし三輪の川音


飛鳥川きのふにけふはまさりけり

あさ瀬も淵も雨とこそなれ


秋のさが野の露のふるさと

芹川のさざれふみたる跡なれや

殿上のをの子ども桂川に逍遙し侍りけるに、夜に入りて歸るとて、川を渡り侍るに、星の影の水にうつりて見えければ、

と侍るに

水底にうつれる星の影みれば

天の戸わたる心地こそすれ

貞任・宗任が衣の城おとしておひかけて

と侍るに、馬の鼻をかへして

ころものたてはほころびにけり

年を經し絲のみだれのくるしさに


ゑひは心やうき世なるらん

いましむるその盃を手にとるな


面を見てぞ友としらるる

十寸鏡うらにはうつる影もなし


逢はずばはてのいかがあるべき

玉くしげあらぬかけごを取りかへて


雨はふりきぬ袖のひぢかさ

麻ぎぬのはたばりせばきまくり手に


あゐ蒔く畠瓜のみそのふ

物にそむ心はとなり斯くなりて


その樂しみの數は覺えず

四つの時の花ほととぎす月雪に


學びの道にいとど悲しむ

ただしばし肱を枕の醉の中


春と秋とは己がいろいろ

同じ木に二度ぞ見る花紅葉


また驚くや別れなるらん

春秋のなごり二たびしたひ來て


秋の名殘ぞ春にひとしき

花紅葉いづれも散るを惜しむまに


始め終りのなきことはなし

かずあまた見えたる文の卷卷に


その名あつめて位をぞ知る

今までは代々にたえせぬ倭歌


ひだりも右も袖ぬらしけり

うき戀の心をよめる歌合


よしあしもその友に似る心にて

ちかづくべきはまことある人


翅みだれてわたる雁が音

武士の野にふしまきの弓かげに


八十氏人も月はみるらん

とり馴るるその左手のしらま弓


おしなべてこそ世は閑かなれ

今までもとりつたへたる梓弓


よしあしも分かぬは君の惠にて

車を作るたくみなりけり


鬼に似たるは翁なりけり

市に賣る炭一車やり出だし


人の見せたる文のはしかき

小車をやり止むるにしぢ立てて


雪の中には逢ふ人もなし

野に放つ駒のあしたに跡とひて


名を思ふには命惜しまず

弓とりは引き返さぬを道にして


まつりごとにぞ品を定むる

弓矢をばその家々にとるものを


法に入るこそ心なりけれ

弓取は馬の口をも引きつべし

 青地赤地も錦にぞある
爭ふは左り右りのきほひ馬

 舟こぐ浦は紅の桃
唐國の虎まだら毛の犬吠えて

 まことに月の影はあるかは
猿叫ぶ岩根がくれの苔の水

 長き夜さらに雨を聞く音
うきことは誰もましらの鳴く聲に

さむくなるそなたに駒やいばふらん
 鳥は南の枝にこそすめ

 はやくも人に遠ざかりぬる
籠のうちを忘れ易きは放ち鳥

 建長の頃、毘舍門堂の花の下の連歌にといふ難句の侍りけるに
 薄くれなゐに匂ふ空かな
天飛ぶや稻おほせ鳥の影みえて

鳴く聲までも似もあはぬかな
 鷺鴉ひとつ梢の松にゐて

青葉とは笛の名にこそ聞きつるに
 竹に騷ぐやね鳥なるらん

 波と風との高砂の松
友鶴の相生に鳴く音をそへて

 長き夜すがらすでに明けぬる
鷄のおのが時しる音を鳴きて

とまりとは見えたる松の一村に
 夕はわきて立つ煙かな

 後鳥羽院御時、百韻連歌奉りけるに
 詠めて空に誰をまたまし
風騷ぐ雲の旗手の夕暮に

 人のとがめぬ墨染の袖
夕暮はその色とだに見えわかで

 よそにのみ聞く倭言の葉
我ははや奈良の都を住みかへて

 君が御幸は名こそ高けれ
これもまた百敷なりし小島山

 雪にぞ靡く松の一もと
山里は雲もけぶりも夕にて

 更くる夜までは見る夢もなし
篠の屋のひまもる風を枕にて

暮れにけり川上遠き瀧の音
 雨にまよふや嵐なるらん

菟玖波集卷第十五 雜連歌四

 二品法親王家月次連歌に
 その俤やなほもそふらん
たらちねの別れしほどに身は老いて

 ふるき庵はただ苔の下
名ばかりに昔の人はとどまりて

 その俤は身をも離れず
垂乳根を見し年月は隔たりて

武士の子供の末に又なりて
 親のをしへし弓矢をぞとる

夜は長く齡の末はすくなくて
 思ひ出はありあらましはなし

故郷に歸りてもうき涙かな
 なれし昔の友ぞ少き

昔を思ふ心ばかりは身にそひて
 老の姿ぞあらずなりぬる

 冬まで蟲の音は殘りけり
老の身もあるかなきかの命にて

 神の下りし天の浮橋
古の妹背は人の始めにて

 かかるしわざの賤のをだまき
いやしきもよきも昔は忍ぶかな

行く年を送り迎ふる寐覺には
 昔こひしき賤の苧だまき

雨そそぎ程ふる夜半の旅寐して
 むかし戀ひしきかたみをぞ見る

 といふ句に

しのぶの衣名にや立つらむ
 住み馴れし是も昔の古郷に

すがたの水や思ひいづらん

 前中納言定家の家に三輪の杉うつし植ゑたりける殘り侍るを見と申し侍りけるに
うつしたる三輪の杉をぞ今ぞ見る
 むかしを殘す宿のしるしに

我がとしにならぶ齡のまれなれば
 むかしがたりの友だにもなし

 聞かずともよし入相の鐘
明日またぬ老は心にしるものを

有明の月見えながら霞むよに
 おぼえずなりぬ老のいにしへ

 なほつれなきや命なるらん
すてかぬる身には老のみ重なりて

 なにかはさのみ憂き世なるらん
山までも跡はとめじの心にて

 身を隱したる岩屋戸のうち
捨てし世に我や昔の人ならん

 すめばぞげにはうき世とも知る
かくれがはなほいにしへの夜半の月

 憂きを語るも命なりけり
殘る身の昔の友にまた逢ひて

 思ひいづれば人あまたなり
老いぬれば先だつ數にのこされて

 老のうきにぞ身はかはりける
いにしへの友も我をや忘るらん

秋風も身にしむ里は荒れはてて
 むかしの友は夢にだに見ず

 關白家の月竝の連歌にとあるに
 人こそさかり我は老が身
むかしにも近き遠きはあるものを

捨てしこの世ぞさきの世になる

 明日までとても頼みなの身や
幾むかし覺えぬ程に過ぎぬらん

故郷の別れは誰もうきものを
 知らず我が身の後の世の道

身は捨てぬ涙は果てのよもあらじ
 名殘もさらばなき人になれ

 我が身の果てはおもひ定めず
いかに見む雲にまぎるる夕煙

 行衞もしらず亡き人の跡
雨となり雲となりてや迷ふらん

 夢の中なる身を歎くなり
ほどもなく光も影もうつるまに

 山中こゆる旅の道づれ
後の世もともに行くぞと思はばや

 この身のはても打ちなげきけり
石の火の消えやすきこそ命なれ

あだなりと聞きし別れの世の中に
 誰もつれなき習ひをぞ知る

 おくもあだなる草の夕露
消えやすき命はいつをかぎらぬに

うれへある身は日こそ長けれ
 惜しまぬに何と命の殘るらん

 延喜御門朱雀院の御讓位の後、公忠朝臣五位の藏人にて侍りけるが、ひらぎぬの裝束になりて參り侍りければ、女房申しける
程もなくぬぎかへてけり唐衣

 あやなきものは世にこそありけれ

 わづらひ侍りける時、最後の連歌せむとて、人人數多來たりけるに、みづからの句にと侍るに
あはれげに今幾度か月を見む
 たとへば長き命なりとも

これよりもまさる心に成りやせん
 我が後の世の秋のゆふぐれ

 むかしの友ぞなしと答ふる
末の世に我とふごとく人もとへ

年年にいとど昔や遠からむ
 老の命ぞ日日に少き

 よはひ傾く身こそあだなれ
むかし見し人は半ばや去りぬらん

 思へばこれぞいにしへの夢
世の中のつねなきことに驚きて

 むすび定めぬ草の庵かな
假の世の中にもしばし夢をみて

 罪をしらする鏡こそあれ
後の世やこのよのことをうつすらん

 筧の水ぞ苔の下なる
後の世は音便きかぬ別れにて

今はわれ跡をとめじと捨つる身に
 命ばかりや世に殘るらん

 見るにつけても世はうかりけり
さき立つに殘る身とても頼まれず

 いままたいつの昔なるらん
現とて夢にかはれることもなし

 よしや浮世の春はしたなし
驚けば身より外なる夢もなし

 思ひの外にあとをこそとへ
今までもわかかるべきは先たちて

 いつを限りのまよひなるらん
寐覺して又夢の世になりにけり

 その馬の尾のながき別れ路
誰とても羊のあゆみ待つものを

 春一時ぞ夢のうちなる
何事もありはてぬ世のことわりに

見てこそいとど戀ひしかりけれ
 なき人の庵にのこる櫻花

 なほ雨露の惠をぞ待つ
山陰をねがはんとする我ながら

 思ひ出はなほ昔にぞなる
世のうき捨てかぬる間に老の來て

 身は數ならでまじる世の中
厭ふべきことわりまでは知りながら

 うき世につづく又山はなし
捨つる身の心や人を離るらん

 斯くてあるこそ悔やしかりけれ
捨つる身は我が後の世の爲なるに

 たへて住むさへうき世なりけり
明日知らぬ身を有りがほに捨てかねて

 かりそめに命は後もたのまぬに
あすといふべきあらましもなし

門文やあるかひもなく迷ふらん
 身を捨て人にもとの名もなし

 露のみ深き山かげの庵
捨てでだに身はおきかぬる世の中に

 かりそめなるに時うつるなり
捨つる身のしばしと思ふ柴の庵

 人のなさけは忘られもせず
ひとつある命をも又捨てにけり

 と侍るに

 身やうきことの便りなるらん
とてもその思ひとるべき道として

 とあるに

 これより後も一ときの夢
何事も心のなせる世の中に

 心からこそうき世ともなれ
身ひとつは安かるべきをすてもせで

 朝露ながら野邊の夕霜
我ひとり置所なき身となりて

故郷は又やあるじのかはるらん
 捨てて出でしはうき世なりけり

 春のあはれは入相の鐘
あらましの今はつきぬる老が身に

 たがひに袖をぬらしけるかな
夜を殘す老の寐覺の物がたり

 まつあらましに背く世の中
人の著る苔の衣を我にかせ

山住みは明日の粮だになきものを
 誰とても身まかる後のなれのはて

すたれたる身も世にはありけり
 心にもまかせぬ物は命にて

 袖を分けてや月はかすみし
身のうきは春の心も秋なるに

山よりは里こそ遠くなりにけれ
 やがてすむべき隱れ家もがな

 同じ世なればなほとはれぬる
隱れ家の有りと知られぬ山もがな

捨てし身は心の夢も忘れしを
 わづかに殘る道の隱れ家

 過ぎしはいつの昔なるらん
老いぬればいまみることも覺えぬに

 谷行く道は阪ぞ苦しき
山にとる薪を老のうき身にて

 人に先だつ涙なりけり
一年もまされば老と思はれて

 心もかはり世も定めなし
たのまぬに頼むも人の命にて

このたびは報いありてや歎くらん
 いかなる身とも知らぬ前の世

 世のうきことを誰にとはまし
我とだにかねては知らぬ身のゆくへ

 すぐればやがてけふのいにしへ
知らずして老の心になりにけり

とにかくに世に隱れ家ぞなかりける
 心のすまばやすき身なれど

誰かさて岩間に跡をつけつらん
 我が身ぞおそく世をも捨てつる

 花ゆゑ山の奧に來にけり
身を捨つる人のあるにはともなはで

 間遠に逢ふはうすき契ぞ
ことしげき世は憂き物といひなして

 關白家の百韻連歌に
 名殘の中にすぎし春秋
思ひ出は身のいつぞとも覺えぬに

 爪木の山の遠き道かな
さのみなど身をもちかねて歎くらん

 持ちかぬる身を捨てて見よかし
思ひ子は佗び人にだにあるものを

これまでは二度しつる思ひかな
 せめて一人の親に添はばや

 梢の雪やけさながめまし
いたづらに積れる年を歎くかな

限りある春の日數の暮れゆくを
 老いせぬ門にいかで入らまし

名におひて面がはりせぬ常盤山
 誰か岩屋に住みはじめけん

 思ひ出でもなし老のしるしに
うきこそは物忘れする心なれ

菟玖波集卷第十六 雜連歌五

 竹におやこの名やしらるらん
數ならで殘るふしみの跡ながら

 この身をなにととどめ置くらむ
それをだに思はで歎く親の跡

 思ひ出おほき昔なりけり
今とてもうきことはなき我ながら

人ごとの世わたる業はくるしきに
 我が身になればうきぞ忘るる

ながらへて哀れに物を思ふらん
 身のあるほどや憂き世なるらん

 人にとはれぬ宿のゆふ暮
山蔭は思ひしままに住みなして

 昔ながらに殘るもとの身
うきになほつきぬは人の命にて

 源氏國名を賦物連歌に
 伏見の里に心すまして
世は捨てぬいつもやかくて過ごさまし

 あだなる身こそ頼みがたけれ
捨つれどもすてやられぬは命にて

 前大納言尊氏常在光院にて百韻の連歌侍りしにと侍るに
 いとへども又友ぞ訪ひ來る
捨つる身はうき世にありと思はぬに

 まよひ心は唯の夢のうち
捨てぬ身や浮世を有りと思ふらん

 跡なき夢の身をも頼まず
いつまでと思へば老もあはれなり

 世をのがるればその罪もなし
墨染は身をかろくなすたすけにて

世のうきを思ひ入るより迯れきて
 かへらぬ色は墨染の袖

 と侍るに

 心のはてはなほ秋の風
世を厭ふ吉野の山の奧の庵
 さても住みえぬ身をいかがせん

ひとりこそ山の陰には住むべけれ
 心の友や我にそふらん

 面影かはるよなよなの夢
もとの身の泪ばかりはなほそひて

 何を貪る心なるらん
朝露のあだなる世とは知りながら

 心からにや憂きはそふらん
空蝉のうつつを夢の世となして

 あだなる花の色を見るにも
うつりゆく世の習ひこそ知られけれ

 しばしが程と住まば山かげ
いづくにも心とめじと捨つる身に

 月を知らぬや深山なるらん
捨つる身に我が影ばかり伴ひて

 心たけくも世を厭ふかな
赤子のしたふをだにもふり捨てて

 かかれとてこそ身をば捨てつれ
隱れ家の道をばうづめ峯の雲

 定めなきこそ浮世なりけれ
隱れ家に心はゆくをまだすまで

 花の頃とや人のとふらん
隱れ家の山と思ふに道ありて

 松吹く風の音しづかなり
獨り住む山の庵に雨ききて

 捨ててぞ世には住むべかりける
外になき我が隱れ家は心にて

 春にぞかすむ有明の月
捨つる身は涙もしらで住む山に

芦の根のうき身はさぞと知りながら
 よしやつれなく世をば背かじ

 苗代水も春は引くなり
心にも任せぬ身こそ悲しけれ

 夢のあしたぞ又別れぬる
仕へては心に身をもまかせぬに

捨つる身のおき所なる柴の庵
 山も淺きやうき世なるらん

心まで歸るまじきはうき世にて
 身をおく山ぞ猶ふかくなる

住む人もあるかなきかの庵にて
 世にかげろふの身こそあだなれ

 うき世にやなほ墨染の袖
今は身に望みのなきも涙にて

 泪の雨はただ波の音
身を知るに蜑人よりも袖ぬれて

 ぬるる袂も忘れぬる跡
うきはなど昔にならで殘るらん

人ごとにながき別れとなりにけり
 命ぞ老のうきを知らする

 數ならぬ身の果てをしらばや
ありて世にかひなきものは我が命

見しことの忘るる程に身は老いて
 語ればぞきく人のいにしへ

 人の報いのありとこそ聞け
いく度か我が身をかへて生れこし

 うきほどまては捨つる世もなし
有るをさへなげくは老の命にて

 關白大臣に侍りける時、家の千句に
 年こそ今は立ちかへりぬれ
老いぬればいとけなかりし心にて

 結ぶ庵は山の奧なる
捨つる身と文ばかりには書き置きて

今の世もうきを報いと知りながら
 捨てぬ心は身をもおもはず

昔より名にこそ立てれ吉野山
 世をいとふ人のいかで住むらん

 いづくの山かまた庵なる
中々にあるに任せて身は捨てじ

 人も心や佛なるらん
このたびは生れがたきに生れきて

かかる身に生れ來ぬるを思ひ知れ
 親子となるも契ならずや

 聲あはせてやなげく村鶴
子を思ふ道の苦しき習ひにて

 花は程なくしぼむ朝顏
あだし世は人をもさぞと思ふ身に

 涙や袖のしぐれなるらん
うきことは我らが中の心にて

 十にひとつも頼みなの世や
鳥の子のすもりの有るに身を知らで

明日までは頼まざりつる我が命
 もしながらへばけふもいにしへ

夢にみて都いくたび別るらん
 まよひの身こそもとの我なれ

たのまれぬ命ばかりはこの世にて
 明日またいかにけふのあらまし

 花の枝をや折りつくすらん
薪とるおのれ心のなきままに

 我とさだむる隱れ家はなし
捨つる身や人に心を任すらん

 家のをしへぞ昔なりける
梨壺のその名は殘る跡ながら

 月の夜、女房あまた起きゐて遊び侍りけるに、いろはの字を句の始めに置きて連歌をしけるに、り文字につまりて滯り侍りけるにと侍るに、やがてぬ文字を置きて
流泉のびはの音すごき月の夜に
 ぬれけるものをから人の袖

 人の許に遣はさんとて「室の八島の煙ならでは」といふ歌を讀みて人に見せ合はせけるを、やがて此歌を書いて女のもとへやりてけるを、程なく世にふれ聞えける比、女の許にまかりて侍りけるにいひ出でける
この頃は室の八島を盜まれて
 えこそはいはねおもひながらも

隱れ家とても何尋ぬらん
世の中はすむにつけてもなほうきに

 破れ車のめぐる椎の輪
つかふればその司をも爭ひて

 命おもへば未だ短き
老の後振分髮の子をもちて

 昔の友に今ぞ逢ひぬる
人を見て我老いぬるや知らるらん

 おとづれを聞く松風の聲
柴の戸は閑かにてこそ住むべきに

 應保二年の頃、月の夜、法性寺入道關白、女御の女房ども誘ひて月見侍りけるに、内の女房の中よりと云ひ侍りければ、また女房の中より
月晴れて雪降る雲の上はいかに
 消えてあるべき心こそせね

 堀河院の中宮、内に侍はせ給ひけるに、雪のいたく降りける又の朝、麗景殿の細殿に枯れたる薄に雪降りかかりたるを、殿守のつかさ、簾の下にさし入れてこれを御覽せ、少將の君に奉り給へとて、それに結びつけて
 招くかたにぞ行きとまりぬる

時過ぎてかるる薄の身なれども

 音信なるは庭の松風
隱れ家の庵を人はとひもせで

 陰は小篠の[五]の一むら
世をすつる住家は人にあらそはで

あたら身をただ一方に捨てもせで
 月と花とぞうき世なりける

 隱れ家までも秋ぞ殘れる
山に入る月やうき世を出でぬらん

人ごとに狐がましき心にて
 うき身に何の幸かある

露涙我がひざの上に落ちかかり
 ふたりの親の中のみどり子

 思ひ立つより身をば捨てばや
ながらへば心のかはることもあり

これとても心をとむる柴の庵
 すまばいづくも浮世なるべし

 身を捨てばやの心にぞなる
山里のあるはうき世の頼みにて

 花に苔こそ似ぬ袂なれ
捨てしより身は埋れ木の如くにて

 人いかばかり我を待つらん
捨つるとはいはで身をこそ隱しつれ

 危きかたに身をかへりみて
三度おもひ後に言の葉いひ出だせ

 瀧のひびきもなるる木隱れ
柴の戸に明け暮れまつの風聞きて

名におひて面かはりせぬ常盤山
 誰か岩屋にすみはじめけん

 思ひ出もなし老のしるしに
うきことはもの忘れする心かな

 もとの身ながらなどうかるらん
捨つる世はあれどもなきが如くにて

身をわけて思ふも同じ別れにて
 しらずいづれか世々の父母

 けふ又聞きつ入相の鐘
身のうへにくるる齡と思はずや

 せきとめがたく流れけるかな
いとへども我が身につもる老の波

 元亨元年十二月、神今食行幸侍りけるに、廳代にて奉行平成輔朝臣御器を用意しけるが、盃度々に成りければ、上卿にてとあるに、少納言にてさぶらひける時、付け侍りける
盃に光そへたるこよひかな
 昔のあとにめぐりあひつつ

菟玖波集卷第十七 羇旅連歌

 關白内大臣に侍りける時、家の千句にといふ句に
 恨みてだにもなぐさみにけり
松原の汐干にかすむ旅の道

 出でたる月ぞ霞みそめける
旅衣春きてけふはみかの原

 旅にて聞けば山の松風
古郷の花を見捨てて出でぬるに

 きのふまでには花の遠山
春のこる都は旅のわかれにて

 御堂入道關白家に人人あまた遊びけるに、内の御物忌に參るべきよし催しありて人々出でけるに、折ふし口惜しなどいひて前中納言道方の辨と侍るに
 出づる空なき春の夜の月
故郷にまつらん人を思ひつつ

 夢はこなたの心にぞ見る
こよひ我れ花の關屋に旅寐して

 浦と松とに秋風ぞ吹く
月出づる山さへかはる船路にて

故里を秋に出でにしはじめより
 有明までは宿ごとの月

心をば出でし都にとどめおき
 關屋にのこる月をこそ見れ

 關屋の秋はただ風の音
旅にゆく心も月にとどまりて

 月もこなたの古郷の山
人も知れ旅寐の秋はうきものを

 旅のあはれは宿ごとにあり
忘れじな山路のゆふべ浦の秋

松風も波につれてや聞ゆらん
 あとなる月ぞ舟を送りし

後れじと人も旅にや出でぬらん
 波のよるゆく月の友舟

歸るべき古郷とてや急ぐらん
 月の夜舟のうら波の音

 ともに朝立つ旅のそらかな
東路や野邊の秋霧夜をこめて

 かねて泊をしらぬ旅人
月にゆく道は明くるを限りにて

古郷は鷄鳴きてこそ出でつるに
關こゆるまで有明の月

 鈴の聲にも秋風ぞ吹く
夜すぐる山路は月にさそはれて

 けふの旅こそ暮れかかりけれ
月出でば夜もゆかんと里出でて

 昨日もけふもいそぐ道かな
末に見し山をも月に越えすぎて

 旅と秋との心かはらず
夜こゆる山路の月に行きつれて

都をやかへりみてのみ慕ふらん
 旅の名殘のありあけの月

 惜しまば秋よしばしとどまれ
有明を夜舟のうちにまつしまや

 せめてはねてや夢を待たまし
月を見ぬ秋の末野の草まくら

 文和二年六月、世間閑かならぬことありて、美濃國小島といふ所へ行宮にて侍りけるに、同七月かの所にて連歌し侍りしにと侍るに
 小島の里はただ松の風
旅にあるみののお山のうき秋に

 同じところにて
 待ちえて見るは旅の玉章
雁の鳴くほどは雲井の都より

 鳴くや鶉のとこなかの聲
野に臥してあとも枕も露深し

 冬にむかへば旅ぞ物うき
花もなき野邊の草葉をふみ分けて

末にある山をも今は越えなまし
 あとは時雨のふるさとの空

 風につれたる村雲の空
我もゆく山を時雨のまた越えて

 北野の社の千句の中に
遠山や雲のあなたになりぬらん
 舟路の雪ぞ波につもらぬ

 すそ野まで吹く山風の音
冬の日もともに短き旅衣

 立ち居につけて苦しかりけり
雪ふれば袖うちはらふ旅衣

のる駒の足なづむまで日は暮れて
 山のかけ路はかちにならばや

 こえし關こそ遠き山なれ
足柄のふもとの道は竹の下

 實方朝臣、陸奧の守になりて下るとて、東三條院に參りて罷り下るよし申しけるに、かづけ物給ふとていひ侍りけると申し侍りければ
みちのくの衣の關はたちぬれど
 また逢阪はたのもしきかな

 弓杖ばかりぞすこし見えける
關守はあばらやながらゐがくれて

 まだ夜深きにいづる旅人
川舟のよどまぬ波に月をみて

 旅寐の砧いづくともなし
野山にも草の枕を雁なきて

 思ひ置くべき露の上かは
枕ゆふこよひばかりの柴の庵

 元亨四年四月、龜山殿連歌に
 深山の庵に年の經ぬれば
ふみ分くる岩根の道の跡ふりぬ

 鳥羽院に奉りける連歌の中にふるさとの花も今しはちる比に
鶯のしらべもつらくふく風に
 山路にかかるみねのしら雲

旅の道馴れはまさらで憂かりけり
 きのふの山に又けふの山

 麓につづく志賀の唐崎
山越えの末はうらにや成りぬらん

歸るべき日を數ふれば程もなし
 あなたこなたを見つる富士の根

 面白しともはじめてぞいふ
都にて聞きつる不二を今日は見て

 煙や空に立ちのぼるらん
都へと歸る旅にも不二を見て

 雪に跡ある道ぞすくなき
我ならで夜深き關はよも知らじ

 まだ出てやらぬ關の旅人
鳥の音も夜深き里に鐘ききて

 逢阪こえて旅いそぐなり
鳥の音や跡なき關に殘るらん

 關まで送る故郷の友
行くは旅とまるは何か憂かるらん

 門たたくなり山本の里
旅にまづ宿とふ人を先立てて

 馴れまさりては寒き松風
夢しらぬ旅寐いく夜となりぬらん

草まくらところどころに結び代へ
 旅寐の夢は宿ごとにあり

 人をとむるは山中の道
雨にこそ木陰も宿となりにけれ

遠近の里をば誰に尋ねまし
 雪に分けゆく山中の道

 旅にてもまた枕ならべつ
夢に來て古郷人やみえつらん

 鐘ばかりこそ曉をしれ
鳥の鳴く里の旅寐に夢さめて

 昨日も今日も人の別れ路
旅とてや宿は日ごとにかはるらん

橘や鈴のごとくに見えつらん
 かげふむ山を夜過ぐる人

旅よりもなほ後の世や憂からまし
 道暗きよに宿をいでぬる

 ささの枕は夢だにもなし
風まよふ深山の雲に旅寐して

 まだ明けやらでいづる旅人
鳥の音の聞えぬ山に止まりて

 うつつも人のつらきなりけり
旅衣きても逢ひみぬ宇津の山

 松の陰より汐や引くらん
川舟の海に入るまで綱はへて

 法のうへにものりは有りけり
人わたすこの川舟に馬たてて

 さきだつ跡をよそにこそとへ
川舟にのり後れたる旅の友

 舟にやのりの道を尋ねん
水ふかき川のこなたに駒とめて

 また旅人やさとを出づらん
渡るべき川のむかひに舟見えて

 浦路の霜のさむき月の夜
うき旅は我もねになく友千鳥

 旅の宿とふ鹽釜の浦
夕暮のまがきが島に舟とめて

 浦にも森のかげは有りけり
逢ふ人もなぎさの舟に日は暮れて

はやく行く水や氷らで流るらん
 湊の汐に近き川おと

その日數遠き旅にはさだまらで
 浦吹く風ぞ舟路なりける

 月の夜道ぞあくがれて行く
舟とめし旅の浦囘にこぎ別れ

 里こそかはれ旅のゆくすゑ
漕ぐ舟は浦よりうらにうつりきて

 しばしとまるは月やまつらん
波くらき湊の夜舟出でやらで

 船かと思ふ波をこそきけ
浦にあるやかたに今宵旅寐して

ともなはばせめては我をつれてゆけ
 誰もたびなる浦々の舟

 かがみの宮はいかにまします
つくしなる松浦のうらは程遠し

 岸の下ゆく水の白波
よる方のなぎさに舟はただよひて

 螢や我と身のこがるらん
水暗き夜舟はゆくも知られぬに

 遠きも近く行きやすき道
舟はやき跡よりおくる風吹きて

 近江國佐佐木金剛寺にて千句の連歌侍りしにといふ句に
 傳ふる劔家守るなり
早川の水のうき橋綱きりて

 惜しきは旅の別れなりけり
この山を越えば都もよもみえじ

 むまやの鈴の山近き聲
夜すぐる人をや關にとどむらん

 參議雅經と伴ひて東へまかりけるに、宇津山を越え侍るとて楓を折りてこれに蔦の紅葉を打ち添へて
昔にもかへてぞ見ゆる宇都の山
 いかで都の人につたへん

 一夜の夢にわかれ幾たび
里つづきあまたの鳥の音を聞きて

 あとかへりみる旅の道かな
越えすぎし都の山はけふの雲

 夜舟こぎゆく浦波の音
月にだに越えぬ山路のあるものを

夕霧は山のなかばに立ちわたり
 不二や遠きも隔てざるらん

 雪をわくるは旅の夕暮
富士の根のかげゆく道は野山にて

 ともなふ雁や北に鳴くらん
今はとて旅なる人の歸る山

遠くなる宿の別れも忘るなよ
 程は雲井のふるさとの山

 鳥と鐘とはともに曉
寺近き山路の關を今こえて

 北野社の千句の中に
 浦波きけば川音もなし
舟はやきあとには山の隔たりて

つつみえぬ袖の涙は湊にて
 唐舟もはやよせよかし

芦垣は浦なる里になほみえて
 八重の汐路を舟やゆくらん

 先だつ人に我ぞ後るる
舟出でしあとの浦風吹きかへて

波の音もしづかになりぬ和田の原
 八十島かけて出づる舟人

臥しなれぬ松の下根の苔莚
 これにはしかじ旅のかなしさ

 波のいづくも月ぞやどれる
行く舟もとまらぬものを難波瀉

 なほつながれぬ我が心かな
沖中に割れたる舟のつな手繩

 夜半の寢覺ぞいとどかなしき
駒こゆる檜の隈川の旅枕

 契ありてや立ちとまるらん
それと見て打ち過ぎぬべき飛鳥井に

 濱と山との中なるはすま
浦の名のあかし暮らして行く旅に

 つるぎと見るはただ秋の霜
あつたより近くなるみの野は暮れて

 山ふところはまだ月もなし
舟はまた島がくれをや出でぬらん

 旅の日かずはいくほどもなし
風あれば遠きも近きも舟路にて

 ふめば危き波のうきはし
うちわたす川瀬の駒の爪ひぢて

 弘長二年八月、仙洞庚申連歌に
 風のたよりをたえずまつかな
和田の原行くへもしらぬ波のうへ

はま川の波のうつせに風ききて
 舟のうきねは夢だにもなし

 熊野御幸の還御の時、かうぶりなはてにて雨いたく降りければ、御こし近く侍りけるに
 かぶりなはてはこしとこそ思へ
おひかけていそびたひをばめぐるとも

 建保五年四月、庚申百韻連歌に
 誰かはきなん海人の苫屋に
まてしばし浦路も更けぬ小夜千鳥

 いかがこゆらん遠の旅人
關の戸は波間も見えず清見がた

 嘉暦二年七夕、内裏の百韻に
朝まだき往來の道を急ぐかな
 清見が關をこゆるうら波

 又立ちかへり見てや過ぎまし
波かくるを島の苫屋かはらずば

迷ひける心に道を誘はれて
 うき草ながら舟やゆくらん

 杉の板葺月ぞもりくる
旅寢する三輪の山もと夜は更けて

 ぬのの衣の寒き旅人
きのふより今日の細道山深し

 思ひやらるる後の世の道
くらきより闇き山路を夜こえて

けさ越えし山をば浦のへだてきて
 みちのかはるや汐干なるらん

古郷にかかる旅ぞと知らせばや
 舟路の末の沖つしらなみ

 松にひびきの浦風ぞ吹く
こぎつづく灘の汐瀬のつくし舟

 家にて是れ彼れ百韻連歌し侍りしに
芦の屋の汐燒く蜑のいとまなみ
 風ある舟はささず來にけり

 霞も浪もうき島が原
舟にても旅をするがの海遠し

 よその里にも衣うつ音
海士のすむ芦屋も舟も程近し

須磨も明石も舟の通ひ路
 うかりしも中々旅の物がたり

 山はよそなる秋の浦風
夜舟こぐ須磨のあま雲月みえて

 いとど都ぞ遠ざかりゆく
浦にては川舟をさへ乘りかへて

 とりあへざりし旅の道かな
波はやき川瀬の舟のみなれ棹

 二つも三つもなき御法かな
こぎ歸るほどをや待たん渡し舟

 旅にはさそふ友だにもなし
行く舟の波の上よりこぎ別れ

 森の木の間や日影なるらん
浦遠くなぎさの舟のこぎ出でて

 荒れたる駒やつながざるらん
あだに見るひなの篠屋のかり柱

 人人に連歌召されけるついでに
暮れかかる峯に日影のさすままに
 こなたの里を急ぐ旅人

 あまり夜ふかく旅にいでぬる
鳥が音は關の戸にしてまたれけり

 都を見つる夢のかよひ路
やがて又同じ旅寢にかへるかな

過ぎぬれば昨日のことも忘られぬ
 旅人かはる宿の夕暮

 いづくの方に衣うつらん
ぬし知らぬ宿の夕の旅の道

村雲に出で入る月の影更けて
 浦こぐ舟や行きちがふらん

月の行くそなたの道に關すゑて
 こよひの宿は須磨の浦船

こえくれば雪の下草ふみ分けて
 ひとり過ぎゆく野路のしのはら

 けふの渡りの舟のかぢとり
これぞこの旅のはじめの鹿島立

 宿りかれとや秋はしぐるる
野中よりあなたも末の遠ければ

よそよりはこなたもさこそ霞むらめ
 はてかとすれば同じ武藏野

 寒くなりゆく有明の月
曉は必ずいづる宿ごとに

行末の契ばかりは殘りけり
 別れ易きは旅の道づれ

 おのが一つれ歸る雁がね
ふる里は誰が心にもあるものを

 遠きに旅の奧ぞしらるる
我が方を忍ぶは里の名に有りて

東路や都も遠くなりぬらん
 昨日の山はけふの古里

 雲重なりていづくともなし
ふる里は遠山にこそなりにけれ

夏草の茂みはそこと分かねども
 行けばゆかるる野中ふる道

 家の千句の中に
旅の袂の露とこそなれ
 古郷に思ひおきたる人ありて

 こぎならべてはきしる舷
旅人のとまる宿をもあらそひて

 野山の鐘の夕暮の聲
宿なくばせめては寺をも尋ねばや

片岡の道よりけふの日は暮れて
 草の枕にふせる旅人

 都やよその夕なるらむ
道かはる旅には馴れぬ宿とひて

 これさへ遠き古郷の夢
聞きもせずみもせぬ方に旅寐して

 旅寐の夜半は長くなりゆく
古郷も夢にかへるは程もなし

 跡遠くして野ははてもなし
いづくともかねては知らぬ草枕

 夜深き雪をみほの松原
清見潟月を明けぬと關越えて

人やりは心にもあらぬ別れにて
 さこそは末も急がざるらめ

 千句の連歌の中に
 ふたわかれにもくだりぬるかな
打ちむれて旅ゆく道のせばければ

 都戀ひしきさよの中山
東路の露分衣しほたれて

谷深き柴の扉の霧こめて
 都をこふる袖やくちなん

 乾元二年三月、内裏の連歌に
 錦は波のよるも見えけり
古郷に歸るも旅の道なれば

花薄招く袂にさそはれて
 遠方人はしばしとどまれ

 山路の月のただ寒きかげ
旅衣袖はあらしのやどりにて

風疾み沖なる舟の綱手繩
 ひく心こそ古郷にあれ

玉章の文字をばおくに書きとめて
 その關よりも旅のおとづれ

誰にか宿をかりは來つらん
 文をみて旅の心はしられけり

 千鳥の聲やあなたなるらん
我出でし旅には友のなきものを

 なきしほれたる雁の一つら
旅にうき泪のはてはいかならん

 今はやつるる姿なりけり
かへるには錦をや着ん旅衣

 嶺にはあらし山陰は鐘
いつのまに旅寐の夢の見えつらん

 遠き煙はいづくともなし
しらぬ野の末には松の見えながら

 波にはおなじ音をこそきけ
夢さますうきねの舟の夜ごとに

 劔とりもつ家ぞありける
舟とめて夜ともす火の川上に

 おく山なれど庵や有るらん
ゆきゆきて旅こそ里に歸りけれ

 つくしの海のもじの關守
都より文のたよりを松浦潟

 つとめ置きしは後の世の爲
これぞこの身のたくはへの旅のつと

 この二歌は誰のこすらん
道はなほうらなる芦邊島がくれ

 人人に百韻の連歌めされけるついでにといふ句に
眞金ふく吉備の中山越え暮れて
 ならはぬかたは道やまよはん

菟玖波集卷第十八 賀連歌

 正月朔日もちひのかがみに書き付けさせ給ふけると侍る句に
あたらしき年の始めのかがみには
 千代より外にむかふかげなし

 伏見殿にて田植の頃、百韻の連歌侍りける中に
早苗とるけふ御幸にぞなりにける
 民のしわざは時もたがへず

 後鳥羽院に奉りける連歌の中に
時しあれば關守すゑぬ關屋かな
 君にあふみの逢阪の山

 君のみかげはつきせざりけり
上下も思ひあひぬるまつりごと

 君としてこそ人をあはれめ
いつはらぬ神の慮もひとつにて

 嘉暦四年七月、内裏の連歌に
賢きは時を待ちてや仕ふらん
 車の右に乘りてかへりき

 神の宮居は伊勢石清水
人よりも人の上なる君として

 心のなきも君にしたがふ
勅なれば名も白鷺の羽を垂れて

爪木をや鶴の林にとりつらん
 千年をふるもまたは呉竹

つかへては二心なき竹の園
 その身榮ゆるこれぞ梨本

みなもとの清き流れは末久し
 今も榮ゆる家はこのいへ

 手にならすこそ扇なりけれ
人よ聞け君に仕ふる家の風

 風雅集撰まれ侍りし頃、家に百韻の連歌侍りけるに
 心にみがく言の葉の玉
いにしへの風をただしく學ぶ世に

 古郷へ歸りし人にあらねども
七の御孫子に君ぞあふべき

歎かじよ唯我からはうらみても
 つかへて君が惠ある世は

 建長五年八月、朔日百韻連歌の中に
見るままに野山の草は茂れども
 道あれかしと世をおもふかな

佐保姫の染むる色さへ霞みつつ
 千代をこめたる松風の聲

三笠山惠もいとどさしそひて
 榮ぞまさる北のの藤竝

 二品法親王家北野の千句に
 みやこの南北の藤原
我が君の惠かからぬ人はなし

 道ある山を人はいづなり
仕へんと賢き世をや待ちつらん

 玉敷く渚伊勢にこそあれ
曇りなき月はかがみの都にて

 茂き惠は御代にこそあれ
みな人の君にぞ思ひつくば山

曇りなき秋とや月の晴れぬらん
 いつもさやけき君が御かげに

照らすらむ四方の惠の春の月
 海山かけて久しかれとは

 人人に連歌召されけるついでに
菅の根の長き日蔭ののどけきに
 千代の色そふ庭のまつが枝

 たが心にも老はあはれめ
君が代にのこれる民もありぬべし

 笛を吹きては歌うたふなり
國栖人のそのつくつくしを奉れ

 このよに似たる御代のなければ
千とせふるためしは君ぞはじむべき

行末もかはらぬ中の契にて
 花と鳥との春ぞ久しき

 正和四年五月、伏見殿百韻連歌に
 天地の國つ神わざ道もあれば
世々のむかしのあともかはらず

 神のみむろに茂る榊葉
君が代をときはかきはに祈るかな

かみしもの隔てはあらじまつりごと
 君と人とや思ひあふらむ

賢きはかしこきを又友として
 御代も治まり國ものどけし

 身の榮こそなほもまたるれ
この御代に戸ざし忘るる不破の關

 神とあらはれ名も高き山
伊勢のみや昔は君のくらゐにて

濁りなき人をぞ守る石清水
 ながれをうくる君ぞ君なる

 賢きはみな心にぞ由る
釣垂るる人も世にこそつかへけれ

たらちねの親の心を傳へ來て
 弓矢をとるもわたくしぞなき

 神の惠は人をもらさず
君に我隔てのなきは心にて

 都より伏見深草程近し
跡をのこすは今の此きみ

君と我とぞ身を合はせぬる
 底清き水と魚との如くにて

 元亨元年十月、龜山殿の百韻連歌にと侍るに

賢きは時を得てこそつかへけれ
 私なきを人や知るらん
仰ぐべき天つ空なる道なれば

都には散らぬさくらを契り置きて
 おなじ雲井の春ぞ久しき

 たかきにうつる時を待ちえて
つたへてぞ道とまよはぬ位山

 くもりなきこそ今の御代なれ
たかてらす日の我が君とあらはれて

神のます都の北野野は近し
 いつはりもなく世こそ治まれ

 西國しづかならず聞え侍りし頃、常在光院百韻の連歌に
 やがて治まる御代の國國
たえてはや西の海には波もなし

 嘉暦四年七月、内裏連歌に
 君が心の濁りなければ
たえずこそ砌にもすめ御溝水

 よしや苦しと何か歎かん
君が代はかしこき時とつかへつつ

 むかしもかかるたぐひありやと
誰もきけ君とあひぬる我が道は

 千年やちとせ又よろづたび
君が代は龜の尾山の松の鶴

ひまもなく岸うつ波はかへるとも
 つれなき松の色はかはらじ

 寶治元年三月、法勝寺花の下にて
我が君の天の下こそ靜かなれ
 ふりにし世世に立ちかへりつつ

 左兵衞督直義家の連歌にと侍るに
賢きは友をえらぶぞ習ひなる
 三度となりをかへてこそすめ

 誰がかごとよりかけ始めけん
萬代も神のゆふしで君がため

枝茂り榮ゆる松のけしきかな
 久しかるべき宿にひかれて

雪ならでなほ待ちえたる今宵かな
 千年ふるてふ宿のしるしに

 後鳥羽院に奉りける三字中略・四字上下略連歌に
夏山の霞くもらぬ夜半の月
 御かげをしげみ萬代をすめ

三熊野や岩が根たかき松の葉に
 御法ぞかくる君が千歳を

 都のことを問ふ鳥もがな
我が君の千歳のかげもゆかしきに

 と侍るに と侍るに又
 なほ北窓は雪つもりけり
呉竹のみどりかはらぬ色ながら

 つかふるこを松にならへん
千年へん鶴の心にかなふやと

菟玖波集卷第十九 雜體連歌

大内の雀の門もあるものを
 引くに驚くけふの白馬

 二品法親王北野千句
 鳥の二つぞ羽をかさねたる
鶯のあはせの聲はこまかなれ

 梅の花を折りて遣はすとて
流俗の色とは見えず梅の花
 珍重すべきものとこそしれ

 さえかへりても春ぞ霞める
鶯のこがひすだちを鳴きあはせ

 近づきがたき戀をするかな
奧山に巣かくる鷹のおとしがひ

 唯一時の樂しみも夢
いかにして百とせ蝶となりぬらん

ものごとに心に叶ふ時なれや
 月に雲なく花に風なし

 遠近かすむ宇治の明けぼの
うばそくの宮はとがめぬ山櫻

 なくなく惜しき春の別れ路
花を見し庭の朽木の臥しまろび

 阿弥陀講行ひける所に、雪の降り入りければ、聽聞の人の中にと侍るに
極樂にゆきにけるとも見ゆるかな
 空より花のふる心地して

 法勝寺花見侍りけるに、人人酒たうべてとと侍るに
山櫻散れば酒こそのまれけれ
 花にしひてや風は吹くらん

 かへるの鳴くは山吹の花
したへどもとまらぬ春ぞ力なき

 親に知られぬ子をぞまうくる
我が庭にとなりの竹のねをさして

 かり人ののるこれは黒駒
夜川にや水のからすをつかふらん

たかんなははや末高くなりにけり
 土よりいづる蝉と思ふに

 福原の京にて月隈なかりける夜、登蓮法師ふみをもちて簾のまへを過ぎ侍りけるに
 ふみもみつべき月のあしかな

大空は手かくばかりも覺えぬに

 五歳に侍りける時、あそび侍るとて文机こえけるに、乳母なりける人と申しけるに
 みはやわざの夕暮の空
山端をこえてや月の出でぬらん

 同じところに見ゆる遠山
四つの緒のかたわれ月のかたがたに

 中將に侍りける時、人人連歌し侍りけるに是を人人附けかねたりけるに
狩衣はいくのかたちし覺束な
 しかさそひつといふ人もなし

 奧山に舟こぐ音の聞ゆなり
なれるこのみやうみわたらるらん

 夕にのぼる月の遠山
枝は椎木を折る猿の一さけび

 關白報恩寺にて百韻連歌し侍りしに
 弓につくるやはじとこそ見れ
前うしろ竹ある里に鵙鳴きて

 家の千句の中に
 けふ關越ゆるまきのおく駒
守る小田に近き鹿笛とひすすめ

 といふ句に

 右の方にぞ千鳥啼くなる
こまほこの佐保の川原の夕霧に

聞くにこそ見ぬことなれど知られけれ
 ふたり向かひて衣うつ音

 むしり捨つるは花咲かぬ草
植ゑ立つる籬の菊に綿きせて

あやしくも膝より上のさゆるかな
 こしのわたりは雪やふるらん

 死にたる鴛に札をつけて書き付け侍りける
 をしと思はで誰殺しけれ
水鳥はいけながらこそ見るべきに

 墨を引くかと見ゆる黒髮
思ふすぢ書きやる文のむすび目に

 親にかはるも姿なりける
ともし火の赤き色なる鬼をみて

 油綿をさし油にしたりけるがいと香しく匂ひければ、
ともし火はたき物にこそ似たりけれ
 丁子かしらの香や匂ふらん

 あしもてかへる難波津の波
亂れ藻はすまひ草にぞ似たりける

 建久元年上洛し侍りし濱名の宿につきて酒たうべてたたんとしける時、

橋本のきみには何か渡すべき
 ただ杣山のくれてあらばや

 熊野へ參りけるに、孔子の山といふ所にて
くしの山たふれ死ぬべき岩根かな
 あなづりますなかつらもぞある

 瞻西上人雲居寺の極樂堂に侍りける時、坊を葺かせけるを見てと云はれければ、
 ひじりの宿はめかくしに葺け
あめのしたもりて聞ゆることもあれ

 皇后宮の亮あきくにのもとにまかりて、物申さんとしけるに、人も出でざりければ、人して云ひ送りて侍りける後に女房の語りて、これが元附けざしりと申しければ、斯く云へと申してける
 遣り水の心もゆかで歸るかな
たて竝べたるいはまほしさに

 吉水房の庭に蓼といふ草の紅葉したるを見てといふ札を立てたりければ、
すりさまに蓼の紅葉と見ゆるかな
 から錦とやいふべかるらん

 月を呑むかと思ふ遠山
鯨とく越の大船心せよ

 船をたたくも沖つ白波
夜になれば苫屋の窓をたてにけり

鎧には左も右も袖ありて
 たてをつきたる舞の姿は

脚はやく行く駒の綱引
 人ごとに急ぐ杣木の下りさか

 庵の夕ぞ谷ひとつなる
松あれば風ふくろふの聲ききて

 又見るも海また見るも海
賤の女がぬきなきはたを立ておきて

ぬる程やしばし心を休めけん
 山がらの子の夕顏のうち

 こうこうとこそ腹はなりけれ
川舟は淺瀬も近くなりぬれば

 家に人人あまた來て酒たうべて各々立ちかへり侍りけるにと侍るに
さらさらやさらさらとこそ立ちにけれ
 よせてはかへる沖つ白波

 風と嵐はなどかはりける
上に唯山の見えたるばかりにて

 石の上にて休らひにけり
双六の手を打ちわづらふ指のさき

春の田のすき入りぬべき翁かな
 かの水口に水をいればや

 鶯の子の子規かな
親の名の末一文字やとりつらん

 遠き所に罷りたる道にて、兄の社と申す神の御前にてと侍るに、十四五ばかりなる童の立てりけるが付け侍りける
 兄の社はこのかみの名か
秩父山ははその杜にこととはん

 川のほとりに牛は見えけり
水わたる馬の頭や出ぬらん

 軒の下にて夜をあかすなり
籠の中の塒たづぬる放ち鳥

 いかで直さむ心つよさを
荒牛の岸にむかへる淀車

ひだるきに角引かるるぞ心得ぬ
 破れ車をかくる痩牛

 狩に出でける道に狐の走り出でたるを見てと侍るに
 白げて見ゆるひる狐かな
契あらば夜こそこんといふべきに

 人人に伴ひて鎌倉へ下向し侍るに、行きつれたる男の子口すさびに云ひ侍りける 是を聞きて
 足洗ひてや沓のやをはく
手越より藁科川をわたる人

 御前にて人人酒たうべけるに、かれこれ盃を多くさしたりければ、左京大夫なにがしとかや申しける
 あさなべの心地こそすれ
千はやぶるちくまの神の何ならねども

 鷲尾の花の下より歸りけるにと人の云ひかけけるに
 花を見捨てて歸る猿丸
里まもる犬の吠ゆるに驚きて

 あられ横ぎる柏木の森
いねぶりのみみつくのみや覺めぬらん

世の中にふしぎのことを見つるかな
 鷲の尾にこそ花は咲きつれ

 人の爲にも二子こそあれ
隱岐佐渡は八島の内にあらはれて

 數七つある神のみやしろ
上におくその名の文字は十なるに

 くづるる土ぞ流れゆきける
軒にもる雨のふる屋の壁ぬれて

 煙になりて匂ふたきもの
その姿ふじとふせこと一つにて

まだ馴れぬ旅に木曾路を遠く來て
 つかれの駒の足引の山

 笑ひはすれどあなづりはせず
鷹の居る森の木ずゑの村烏

ちまき馬はくびからさきぞ似たりける
 きうりの牛は引く力なし

 ゑとと云ふ所の障子の離れたりけるに書きつけ侍りける 又後の日に書き附け侍りける
のりからはゑどの障子のはなならん
 蟲のくらふに骨はをれつつ

 青き鬼ともなりにけるかな
古寺の軒の瓦に苔むして

 いのる來ん世は今も恐し
優婆塞は鬼すむ峯に行ひて

 水にたまれる花を見るかな
山本のかけひの末に舟おきて

常に聞く大和言葉の變らぬは
 久方の空足引の山

 いそやの庭はくれになりぬる
うらに又ほす薪をも取り入れて

 しづくより露をもそそぐ石の上
弟子はかならず師をぞいただく

 しらげの米はただ人のため
神垣の庭の眞砂を打ちまきて

 關白家千句に
門ふかき池ある寺の水澄みて
 姿はしろき馬のよつ足

 行ひ人や手をたたくらん
室の戸の花ふみちらす鳥を見て

 うちうなだるる鷄頭花かな
せうかうの夕つけ鳥のいかきさに

 犬蓼といふものの中にゑの子草生ひたるを見てといふを聞きて
犬蓼の中に生ひたるゑの子草
 ここを見おきて後にひかせん

 吾妻に下り侍りしに、伴ひたる人と申し侍りけるに
手にとるばかり手ごしをぞ見る
 嶺高き足柄こゆる足もとに

手洗にて足をばいかで洗ふべき
 水瓶の湯はわかぬものかは

梨を燒きたりけるに燒けざりければ、と有りけるに
 からくしたれど燒けぬ梨かな
おふの浦の蜑藻の汐火たきさして

 ひろき空にもすばる星かな
深き海にかがまる蝦の有るからに

玉章や同じままにて通ふらん
 春のかりがね秋の雁が音

夜をとほしてもいかで通はん
 山里の筧の竹のふしごとに

 春秋立てる市はこの市
花紅葉うりかふ人はよもあらじ

 目よりすすきの生ひいでにけり
狩人の野邊に射すつるわれ鏑

 犬こそ人のまもりなりけれ
みどり子のひたひにかける文字を見よ

たづさはる杖こそ老の力なれ
 思へばとてや子をばうつらん

我が心菜種ばかりに成りにけり
 人くひ犬をけしといはれて

 修業し侍りけるに、奈良路をゆくとて、尾もなき山のまろきを見てと侍るとて
世の中にまんまろにこそ見えにけれ
 あそこもここもすみもつかねば

 鵜と鷺との侍るを見てといふに
 鳥と見つるはうさぎなりけり
木のみかとかきはまぐりも聞ゆれば

 鯉つみたるものの馬に乘りたるをみてといひてければ、
 ちからかはよりのぼる鯉かな
馬のせにいかなるふちのあるやらん

 足の病にひれふしてけり
大鯉の騷ぐことなき身をもちて

 さんのまとこそ云ふべかりけれ
蟇目いる産屋の前の古だたみ

 そとばみちたる山寺の垣
戸をあくる内に佛をたてならべ

 老いたる鼠ゐる穴ぞなき
古寺の壁まだらなる犬ばしり

とまるべき里はさすがに知られけり
 犬の聲する道の末かな

 前右大將頼朝上洛の時、守山を過ぎけるに、いちごの盛りなるを見て、連歌せよと云ひければ、
もり山のいちこさかしくなりにけり

 むばらがいかにうれしかるらん

 堀河院御位の時、弓場にて遊ばせたまひけるにとくとく付けよとせめ仰ありければ、
春くれば弓場殿にてもまとゐせり
 ばんにあたりて參る人人

 こがねの色に菊や咲くらむ
山路よりほりもとめたる草なれば

 と侍るに

連歌をば立ちながらこそ始めけれ
 こしをれ歌はゐても詠むべき

 禪林寺仙洞にて爲言朝臣二藍の狩衣にうらしたりけるを著たりければ、と侍るに
 二重に見ゆる一重かりぎぬ
うらもなき夏の直衣もみへだすき

 毛車に乘りて花を見侍りけるに、誰ともなく云ひかけける
 破れては片輪にみゆる車かな
などよこかみの助けざるらん

 年中行事の障子のもとにゐさせ給うて、人人に連歌せさせて遊ばせ給ひけるに、今參りたる人の殿上にゐて物申しけるを聞きて、中納言國信の「下におはしますに惡しうもゐたるものかな」と申さるるを聞し召して、御口すさみのやうにて仰ことありける 俊頼つかうまつれと中納言國信申しければ、
雲の上に雲のうへ人のぼりゐぬ
 下さぶらへにさぶらへかしな

 夢窓國師、西芳精舍にて本尊のへうほういのゆがみたるを見てといふ句をせられけるに
へうほいをゆかみてしたる阿彌陀かな
 これを觀世音せいしたまへよ

かねうちて名號をこそ申しけれ
 佛にならんことはぢやうぢやう

 法勝寺の花の陰に夜に入るまでゐたりけるをみてと云ひ侍りければ、
絲櫻よるまで見るは誰ならん
 奢りの上座覺豪ぞかし

散る花をおひかけてゆく嵐かな
 大薙刀ににぐるうぐひす

 とあるに

夜行屋の下に立てたる石佛
 火危しとみあかしもせず

 ふる革衣ぬぎて捨てつる
二もとの杉の木蔭に水あびて

 あるじも從者も酒をこそのめ
かめきくをともに具したる平次殿

 伊勢國を修行し侍りけるに、林崎といふ所にて
はやし崎まはではいかが歸るべき

 鼓が岳を打ちならしつつ

 我が手のたから惜しきものかな
玉杖は地藏菩薩のえたまひて

 疊に舟蟲といふ蟲のありけるを見てと侍るに
舟蟲はたたみのうらを渡りけり
 高麗よりやさして來つらん

 風爐に入りたりける人の叔母を呼びければ、
 風呂のうちにて伯母をよびけり
我が親の姉が小路の湯に入りて

 曾阿彌夕暮に來たれるをみて、云ひ侍りける
あらぬかとよくよく見ればそあみだぶつ

 無生のものの老のひがめや

 人の家の庭に楯のふしたるを見てと申しければ、
臥したるをたてといふこそ心得ね
 ふしたればこそたてといふらめ

 わらはべは齒こそ二つ白けれ
雪の上に足駄やはきて遊ぶらん

佛だににがき物をや好むらん
 極樂はよきところなりけり

 後鳥羽院御時、白黒賦物連歌の中にといふ句に
 豐の明りの雪の曙
こはいかにやれ袍のみくらしや

 わたのつくまで額をぞゆふ
大ひけのみ車そひに北おもて

 天文博士なりける人の妻を朝日のあざりといふもの盜みたる折節、男に行きあひて西の方へ逃げければ、と云ひければ、
あやしくも西よりいづる朝日影
 天文博士いかが見るらん

 といふ句

何とてか蓼湯のからくなかるらん
 うめ水とてもすくもあらばや

 連歌はてて人のねたりけるにと云ひければ、
連歌師は皆ふしものになりにけり
 何木をとりて枕にはせん

 かたき打ちたる曾我の殿原
十郎がおもひきりたる五郎せよ

 堀河院の御時、中宮上童の連歌と云ひ侍りけるを、左中辨これ家忍びて物申すと聞えしが、程なく音せざりければ、と侍るに
まことにや連歌をしては音もせぬ
 しばしも宿にすゑつけよかし

 説法しける道場に鳥の形なりける磬をうつをみて聽聞の人の中にいひける
うてどもたたぬ鳥の有りけり

 六條内大臣禪林寺の家に御幸なりて和漢聯句に
 紫禁貴神璽
二たび世を助けつるかな

 といふ句に

 孤身虚夢魂
古卿にかへる心は涙にて

 といふ句に

 春秋運契長
幾たびか花紅葉にもなれぬらん

 嘉暦四年七月日、内裏の聯句の連歌に
 可大賢人業
老木の松につもる雪かな

 千本の花見侍るとて和漢聯句に
 客心雨滴愁
とまれかし草の庵の今日の暮

 後宇多院禪林寺の家に行幸なりて、和漢聯句侍りけるに
 放鵠知臣量
玉章を雁につけたるたぐひとや

 竹戸風開閉
友なふものはただ月のかげ

 塵根萬事非
捨てざりし世を思ふこそ悔やしけれ

 家の和漢聯句に
 誤到神仙宅
壺のうちにも天地は有り

 春風柳一樹
松に咲く十かへりまでの花をみて

 返田顏舍遠
まかする水の末ほそくなる

 嘉暦二年七月、和漢聯句に
 野中清水涼
契り置きしもとの心を思ひ出でよ

 又見草螢光
雪をこそ昔は窓にあつめしに

 貞和五年六月、家の和漢聯句に
 浦深潮未落
松の下枝にかかる白波

 事皆任自然
喜ぶも歎くもともに夢のうち

 成市在門前
花のある宿には人の集りて

 左兵衞督直義家の聯句連歌に
 夕陽殘木末
花の陰より鐘はひびきて

 隔海故卿遠
老のむかしは夢にだに見ず

 窓前竹折腰
杖をつくよはひも今は近づきて

 長湖接碧天
雲や波舟路の末はきはもなし

 山人歸夕陽
つま木には紅葉一枝をりそへて

 道義富無驕
身を知れば貧しき時もうたがはず

 博望策功奇
名と共に殘る姿はなかりけり

 人老上陽春
音くらき窓の雨こそ閑かなれ

 景行天皇四十年夏六月、東國の亂をしづめて常陸國より甲斐の酒折の宮にとどまりて人人つけ申し侍らざりけるに、或秉燭人歌の末をつぎて
爾比磨利菟玖波塢酒擬底異玖用伽禰菟流

伽峨奈倍氏用珥波虚々能用比珥波菟塢伽塢

 延喜十一年十月二十四日、菊の宴せさせ給ふける。
中務の御子おりてかざしの花を奉らせ給ふに「ただにや」と仰せられければ、と侍るに、しめの中より

野べにゆきて折りつることはとばかりに
 うつらぬ花をあはれとやみん

 と侍るに

五月闇おぼつかなさのいとどまさらん
 ながめやる袖はさのみこそ

 女にはなれてといふ歌をよみて此下句を各々付け侍りける中に
瀧つ瀬に萍の根はとめずとも
 人の心をいかが頼まん

劫の石を蟻におほせて運ぶとも

網の目にふき來る風はとまるとも

春かへる雁をばみなはとどむとも

 康和三年八月四日、五つになるをの子を失ひつ、ことにふれて悲しみの泪乾かず、古萬葉集の中に「世の中を何にたとへん」といふことを上にすゑて下の句あまたよめる

 世の中を何にたとへん

あかねさす朝日まつまの花の上の露

夕つゆもまたで枯れぬる朝顏の花

飛鳥川定めなきせにたぎつ水泡の

うたたねの夢路ばかりにかよふ玉鉾

風ふけば行くへも知らぬ峯の白雲

水はやみかつ崩れゆく岸の姫松

秋の田を仄にてらす宵のいなづま

濁り江のそこに半ばは舍る月影

草も木も枯れゆくほどの野べの蟲の音

冬寒みふると見るまにけぬる白雪

 大中臣能宣集に世の中の常なきことを見て、萬葉集の中に「世の中を何にたとへん」といふ歌をもとにして下句をかへて十づつ大中臣能宣・源順・紀時文などして讀み侍りし中に
 世の中を何にととへん
下きえの氷閉ぢたる春の池水

夏草に舍る螢のよるの灯

ささがにの絲もてぬける露の白玉

ぬま水のあはれゆくへを頼む浮草

さ夜ふけて半ば入りぬる山の端の月

風寒み暮れ行く秋のうつせみの聲

吹く風にとまり定めぬ蜑の釣舟

神無月時雨つきぬる紅葉の色

霜をいたみ色かはりゆく淺茅生の野邊

和田の原うちきらし降る波の上の雪

ともし火を見つつ集る夏の夜の蟲

草の葉の露にやどりて見ゆる月影

かきつくしいふべけれどもます鏡

 みちの國より岩手といふよき鷹を奉りけるに、預かりたる人そらして終に求めえぬよし奏し侍るに、勅答はなくて、
いはで思ふぞいふにまされる

 堀河院の御時、黒男といふ笛吹、黒戸に參りて笛を吹き侍りけるに
黒男くろどのかたに音すなり

 車に乘りて宇治野を過ぎ侍りけるに
大庭のかたにむくなる車かな

 後冷泉院の御時、四條宮東三條殿に渡らせ給ひて、色色の[六]をもて舟にかざりて池に浮かべられたりけるを
もみぢ葉のこがれて見ゆる御船かな

 上洛の時まひさはといふ所を見侍りけるに
誰はやしけん舞澤のまつ

 源順集に天暦五円に宣旨ありて、始めて和歌撰所なしつぼに置かせ給ひて、古萬葉集讀みとき撰ばせ給ふ。
 召を蒙れるは河内掾清原元輔、近江掾紀時文、學士源順、御書所預坂上望城等なり。
藏人左近少將藤原朝臣伊尹其時別當と定めさせ給ふて、神無月の晦日に題めして下し給ひける

神無月かぎりとや思ふ紅葉葉の

菟玖波集卷第二十 發句

 年の内に春立ちける日、家の連歌發句
春やとき去年かけて立ちにけり

 後鳥羽院御時、奉りける百韻連歌に
鶯の初音に春は立ちにけり

 梅の發句に
吹かぬ間も風ある梅の匂かな

 北野社千句連歌に
梅咲きて松さへ花の匂かな

 家の千句に
梅散りて木陰につもる匂かな

 春の發句の中に
半天のかすみに遲きひかげなかな

草ももえ木の芽はる雨けふぞ降る

風をさへ隔つる松の霞かな

 貞時朝臣家の連歌に
霞むとも雲をば出でよ春の月

 法勝寺花の下の連歌に
花の色をかすまで見せよ春の月

 長福寺花見侍りける連歌に
花咲きて後こそ人は待たれけれ

 花の發句の中に
まてばとて花は急がぬ日數かな

池水は花のかほみるかがみかな

 新式、本式相分かれ侍りけるに、鷲尾の花の下にて一日二千句連歌に
枝のこる花は老木のかざしかな

 雲居寺の花盛りなりける時の連歌に
峯ならで雲居る花の梢かな

 關白家の百韻連歌に
月に待ち花に急がぬ夕かな

 平貞時朝臣家の瓶子に藤の花の一枝を立てたりけるに、發句すべきよし申し侍りければ、
手折りては水こそ花の命なれ

 貞和四年、家の山水に藤春閣といふ所にて花こ比連歌侍りしに
花にけふ風は軒端の木末かな

花みれば短き春の日かげかな

 常在光院の花見侍りける時の連歌に
一木咲く花にはちらぬ心かな

 法勝寺の下の連歌に
花ぞうき散ればや風の誘ふらん

 鷲尾の花の本の連歌に
あすも見ん都に近き山櫻

 鷲尾の花の下に忍びて院の御車を立てられける日の連歌に
明日も立てうす花染の春がすみ

 鷲尾に始めて瀧を落し侍りける時、花の下の連歌に
花かとよ見ざりし瀧の流れかな

 元應二年春の頃、鎌倉の花下にて一日一萬句の連歌侍りけるに
花なれでいつみし雲ぞ山櫻

 貞和二年、關白家の藤春閣といふ所にて、花の枝を中に入れて鏡を月に出して侍りければ、
水ならでかげある花の鏡かな

 文和五年三月十五日、西芳精舍花見侍りけるに
松にだに風なき花のさかりかな

 西芳精舍にて花見侍りけるに
盛りなる花をばさそふ風もなし
 見る人をかへさぬ花のさかりかな

 地主の花の下にて
よるぞ見る城きは瀧の絲櫻

 寛元四年三月、地主の花下にて
風吹けば花に散りそふ心かな

 花下の連歌に
誘ひても花を思はぬ嵐かな

 正和二年三月、法勝寺の千句に
浮雲はあだなる花の形見かな

雨の後花も雲まになりけり

松よりも花になほ吹く嵐かな

 花下の連歌に
花に來て雪に忘るる家路かな

散らすなと風に物いふ花もがな

 法勝寺の花下にて
日にそへて青葉になりぬ遲櫻

いとはれし風さへ花になりけり

 報恩寺にて春の暮に花見侍りけるに
青葉にも花はありける嵐かな

 夢窓國師圓寂の後、西芳精舍の花下にて百韻の連歌侍りしに
花や夢しるはうつつの名殘かな

夜ちるや花もうき名を忍ぶらん

花と見し木の間は月になりにけり

 正和元年三月、法輪千句に
見し花の面影うづむ青葉かな

 友學法師身まかりける春、源頼遠が家にて連歌し侍りけるに
程もなく花に過ぎぬる日數かな

 前大納言尊氏家の千句連歌に
閑かなる波とぞ見ゆる藤の花

 三月盡日の連歌に
入相にかぎれる春の餘波かな

花は風春は鐘きく別れかな

 野社にて三月盡の日、連歌に
神垣を今宵はこえぬ春もがな

 後鳥羽院御時、百韻連歌に
萬代をかけてぞまもる葵草

 元亨四年四月、百韻連歌に
宵の間は雲間に來鳴け子規

 弘安二年五月、定意法印日吉社奉納の爲各々百韻連歌を勸めける時、發句一つを用ゐ侍るべしとて申しかけ侍りければ、
 聞かぬにぞ心はつくす郭公
待つ夜にもなかでやあらん時鳥

待ちくれて月にぞ頼む杜宇

來つつ鳴け待つをな待ちそ郭公

 天龍寺夢窓國師位牌の前にて百韻連歌に
鳴けばこそ名は殘りけれ郭公

 遊行の時、兵庫の島につきたりけるに、淨阿上人待ち向かひたりける夜の連歌に
月に鳴けめぐり逢ふ夜の子規

 善阿法師一廻の佛事の席に一日千句侍りけるに
頼むぞよ十聲一聲ほととぎす

 文和三年四月、家の千句連歌に
待てばこそ鳴かぬ日もあれ子規

郭公なかぬ初音ぞ珍しき

 西芳精舍にて
あま彦か谷と峯との郭公

雲遠し聲はそなたの郭公

 五月五日の連歌に
つねにみる軒端めづらし菖蒲草

 家の千句に
ゆたかなる年とていそぐ早苗かな

 正和四年五月、伏見殿百韻連歌に
五月雨のふる里さびし伏見山

 北野社の千句に
言の葉の千種にしげき夏野かな

橘の匂になりぬ梅の雨

 貞和五年六月、左兵衞督直義家の百韻の連歌に
夏しらぬ水こそ秋をうかべけれ

九重のうてなをうつす泉かな

 家の泉にてこれかれ百韻の連歌侍りしに
水をせき月をたたへて夏も無し

 關白家千句に
草くらきともし火なれや百合の花

 おなじ家の千句に
夏草も花の秋にはなりにけり

 七月朔日
木隱れに秋風みする一葉かな

 二品法親王家千句に
初秋は月もそなたの夕かな

 嘉暦四年七月、内裡の竹泉にて百韻連歌侍りけるに
雲の上にけふせく水や銀河

 元應元年七月、六條内大臣禪林寺の竹泉にて
呉竹の千代もすむべき秋の水

 弘長二年八月七日、庚申の連歌に
山陰はいらぬに月の見えぬかな

 八月十五夜に
たぐひなき名を望月のこよひかな

 文和四年八月十五夜に
名にも聞き見るにも月の今宵かな

 八月十五夜、八幡の社頭の連歌に
神と月光をかはすこよひかな

 九月十三夜、家の月次連歌に
長月の月にみじかき今宵かな

 同じ夜連歌に
一秋に二夜の月の名殘かな

 同時に
明けにけり又月の夜の秋もがな

月の夜は長きも知らで更けにけり

 二品法親王、雲林院坊山水見侍らんとてまかり向かひたりしに、月の頃にて侍りしかば
庭に見て月の中なる野山かな

 文和二、年導譽播磨こくに向かひ侍りしに、人人餞し侍りける百韻の連歌に
雲かへり風しづまりぬ秋の雨

 北野の社の千句に
月のこる一夜の松の木の間かな

入ると見てまた月出づる雲間かな

 寶治元年八月十五夜、院の百韻の連歌に
月のいろに秋の半ばぞ知られける

露はいさ月こそ草に結びけれ

 有馬の温泉にて八月十五夜に
月の名にみ山がくれはなかりけり

後嵯峨院の御時、百韻連歌に

千代ふべきかざしとぞみる菊の花

紅葉せぬ松にはをしき時雨かな

 安樂寺社頭にて連歌し侍りける
紅を忘れぬ梅のもみぢかな

 常在光院にて紅葉を見侍りけるに
片枝まづ時雨をまたぬ紅葉かな

貞和四年秋、山家にて紅葉見侍りけるに

日は入りて紅葉に殘る夕かな

 藤澤の清淨光院へまかりて連歌し侍りけるに
下てらす紅葉は高き梢かな

秋風にちらで音ある木の葉かな

 元亨元年十月六日、龜山殿の連歌に
冬來ぬと時雨になりぬ嵐山

 神無月の始、紅葉盛りの頃、救濟大原極樂寺に日數へて住み侍りけるに、閑居とぶらひ侍らんとて、彼所にまかりて連歌し侍りけるに
冬木まで庭にみ山の紅葉かな

散らすなよ染めし時雨の下紅葉

前大納言尊氏常在光院にて百韻連歌侍りしに

時雨にも照る日常在光かな

救濟北野社の千句連歌に

木の本に重なる霜のふり葉かな

都とて山風きかぬ木の葉かな

 前中納言家經家百韻連歌に、
染めあかで落葉にかかる時雨かな

 文和四年十月、前大僧正賢俊清閑寺にて連歌侍りけるに
木の葉より時雨になりぬ山颪

 文和三年閏十月に
神無月かさなる庭の落葉かな

月をさへとめぬ落葉の梢かな

 家にて百韻の連歌侍りけるに
置く霜の白く染めなす落葉かな

日影さす雲にも寒き嵐かな

川音のうへなる月の氷かな

 後宇多院右近の馬場の明け方の雪御覽じ侍りけるに、あやしき女車立てたるに、一句かけよと仰せられければ、
わきがたき月と雪との光かな

 文保の比、宿願にて北野社年ごとの千句、最初の發句に
さゆる夜は風と月とに更けにけり

 救濟北野社の千句に
外に見ぬかれ野の雪の夕かな

 後醍醐院御時、内裡百韻連歌に
九重につもればふかし庭の雪

 暦應四年十一月、清水寺にて
花と見て雪に枯れたる枝もなし

 關白家千句に
月あれば降らぬも雪の雲まかな

 北野社の千句に
花とみて梅の雪には冬もなし

 文和四年十二月に清閑寺坊にて百韻連歌侍りけるに
有明はことしの月のながりかな


 新撰菟玖波集 一四九五 宗祇撰
 ―准勅撰連歌集―有心連歌の集大成

日かげほのめく雨のあさかぜ
山はけふ雲ゐにかすむ雪きえて(巻一・春上・宗砌法師)

旅だちし故郷人をまつくれに
山路は雲のかへるをぞみる(巻十一・旅上・宗砌法師)

むかへば月ぞこゝろをもしる
西をのみねがふいほりの夜半のあき(巻十八・釋教・宗砌法師)

かすみこめたる木々のむらだち
みぬはなのにほひにむかふ山こえて(巻一・春上・智蘊法師)

庭にいりたつ木がらしの風
さむき日は野べの小鳥も人なれて(巻六・冬・智蘊法師)

一聲をたのむ思ひのたまさかに
残るほたるやかりをまつらむ(巻四・秋上・法印行助)

わが心こそうはのそらなれ
それとなくみしをおもひの始にて(巻八・戀上・法印行助)

夏くればふかき清水を又汲みて
岩ふみならしこもるやまでら(巻十八・釋教・能阿法師)

又よといひし暮ぞはかなき
ちるうちに人のさきだつ花をみて
(巻七・哀傷・権大僧都心敬)

身ををしまぬもたゞ人のため
国やすくなるはいくさのちからにて(巻七・賀・法眼専順)

老のあはれを月もとへかし
風つらきひばらの山の秋の庵(巻十三・雑一・宗伊法師)

雲なき月のあかつきの空
さ夜枕しぐれも風も夢さめて(巻六・冬・宗祇法師)

なみだの水に身をやしづめむ
さのみかくなげくもいかゞ苔のした(巻七・哀傷・法橋兼載)

むつまじきまでなれる袖の香
いづくともしらぬにひきしあやめ草(巻三・夏・肖柏法師)

夏の夜はたゞ時のまのほどなれや
なけば雲ひくやまほとゝぎす(巻三・夏・宗長法師)


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