歸去來兮辭 晉・陶靖節
歸去來兮、田園將蕪胡不歸。 既自以心爲形役、 奚惆悵而獨悲。 悟已往之不諫、 知來者之可追。 實迷途其未遠、 覺今是而昨非。 舟遙遙以輕颺、 風飄飄而吹衣。 問征夫以前路、 恨晨光之熹微。 乃瞻衡宇、 載欣載奔。 僮僕歡迎、 稚子候門。 三逕就荒、 松菊猶存。 攜幼入室、 有酒盈樽。 引壺觴以自酌、 眄庭柯以怡顏。 倚南窗以寄傲、 審容膝之易安。 園日渉以成趣、 門雖設而常關。 策扶老以流憩、 時矯首而游觀。 雲無心以出岫、 鳥倦飛而知還。 景翳翳以將入、 撫孤松而盤桓。 歸去來兮、 請息交以絶遊。 世與我而相遺、 復駕言兮焉求。 悅親戚之情話、 樂琴書以消憂。 農人告余以春及、 將有事於西疇。 或命巾車、 或棹孤舟。 既窈窕以尋壑、 亦崎嶇而經丘。 木欣欣以向榮、 泉涓涓而始流。 羨萬物之得時、 感吾生之行休。 已矣乎、 寓形宇内復幾時。 曷不委心任去留、 胡爲遑遑欲何之。 富貴非吾願、 帝鄕不可期。 懷良辰以孤往、 或植杖而耘耔。 登東皋以舒嘯、 臨淸流而賦詩。 聊乘化以歸盡、 樂夫天命復奚疑。 |
歸去來の辭 歸去來兮かへりなんいざ、 田園將まさに蕪あれなんとす、胡なんぞ歸らざる。 既に自ら心を以て形の役えきと爲し、 奚なんぞ惆悵して獨り悲しむ。 已往の諫めざるを悟り、 來者の追ふ可きを知る。 實に途みちに迷ふこと其れ未だ遠からずして、 覺る今は是ぜにして昨は非なるを。 舟は遙遙として以て輕颺し、 風は飄飄として衣を吹く。 問ふに征夫の前路を以ってし、 恨む晨光の熹微なるを。 僮僕歡び迎へ、 稚子門に候まつ。 三逕は荒に就つくも、 松菊は猶ほも存す。 幼を攜へ室に入れば、 酒有りて樽に盈みつ。 壺觴を引きて以て自ら酌し、 庭柯を眄ながめて以て顏を怡よろこばす。 南窗に倚りて以て傲を寄せ、 膝を容るるの安んじ易きを審らかにす。 園は日ゞに渉って以て趣を成し、 門は設くと雖も常に關とざす。 扶老つゑを策つゑつき以て流憩し、 時に首を矯げて游觀す。 雲無心にして以て岫しうを出で、 鳥飛ぶに倦うみて還かへるを知る。 景翳翳として以て將まさに入らんとし、 孤松を撫でて盤桓とす。 歸去來兮かへりなんいざ、 交りを息やめ以て遊びを絶たんことを請ふ。 世我と相ひ遺わすれ、 復また駕して言ここに焉いづくにか求めん。 親戚の情話を悅び、 琴書を樂しみ以て憂ひを消す。 農人余に告ぐるに春の及べるを以てし、 將まさに西疇に於いて事有らんとす。 或は巾車に命じ、 或は孤舟に棹さす。 既に窈窕として以て壑たにを尋ね、 亦た崎嶇として丘を經ふ。 木は欣欣として以て榮に向かひ、 泉は涓涓として始めて流る。 萬物の時を得たるを羨み、 吾が生の行くゆく休するを感ず。 已矣乎やんぬるかな、 形を宇内うだいに寓すること復また幾時ぞ。 曷なんぞ心を委ねて去留を任せざる、 胡爲なんすれぞ遑遑として 富貴は吾が願ひに非ず、 帝鄕は期す可べからず。 良辰を懷ひて以て孤り往き、 或は杖を植たてて耘耔す。 東皋に登り以て舒おもむろに嘯き、 淸流に臨みて詩を賦す。 聊ねがはくは化に乘じて以て盡くるに歸し、 夫かの天命を樂しめば復また奚なにをか疑はん。 |
歸園田居 五首 其一 東晉・陶潛
少無適俗韻、性本愛邱山。 誤落塵網中、 一去三十年。 羈鳥戀舊林、 池魚思故淵。 開荒南野際、 守拙歸園田。 方宅十餘畝、 草屋八九間。 楡柳蔭後簷、 桃李羅堂前。 曖曖遠人村、 依依墟里煙。 狗吠深巷中、 鷄鳴桑樹巓。 戸庭無塵雜、 虚室有餘閒。 久在樊籠裡、 復得返自然。 |
少より俗韻に適ふこと無く、 性本と邱山を愛す。 誤りて塵網の中に落ち、 一たび去ること三十年。 羈鳥舊林を戀ひ、 池魚故淵を思ふ。 荒を開く南野の際、 拙を守りて園田に歸る。 方宅十餘畝、 草屋八九間。 楡柳後簷えんを蔭おほひ、 桃李堂前に羅つらなる。 曖曖たり遠人の村、 依依たり墟里の煙。 狗は吠ゆ深巷の中、 鷄は鳴く桑樹の巓。 戸庭塵雜無く、 虚室餘閒有り。 久しく樊籠の裡に在れども、 復また自然に返るを得う。 |
歸園田居 五首 其二 東晉・陶潛
野外罕人事、窮巷寡輪鞅。 白日掩荊扉、 虚室絶塵想。 時復墟曲中、 披草共來往。 相見無雜言、 但道桑麻長。 桑麻日已長、 我土日已廣。 常恐霜霰至、 零落同草莽。 |
園田の居に歸る 五首 其二 野外人事罕に、 窮巷輪鞅寡し。 白日荊扉を掩ひ、 虚室塵想を絶つ。 時に復た墟曲の中、 草を披きて共に來往す。 相ひ見て雜言無く、 但だ道ふ桑麻長ずと。 桑麻日びに已に長く、 我土日びに已に廣し。 常に恐るは霜霰の至りて、 零落草莽に同からんことを。 |
園田の居に歸る 五首 其三 豆を種うう南山の下、 草盛んにして豆苗稀なり。 晨あしたに興おきて荒穢を理ととのへ、 月を帶び鋤を荷になひて歸る。 道狹くして草木長じ、 夕露我が衣を霑ぬらす。 衣が霑ぬるるは惜むに足らざれど、 但ただ願ひをして違たがふことを無から使しめよ。 |
歸園田居 五首 其四 東晉・陶潛
久去山澤游、浪莽林野娯。 試攜子姪輩、 披榛歩荒墟。 徘徊丘壟間、 依依昔人居。 井竈有遺處、 桑竹殘朽株。 借問採薪者、 此人皆焉如。 薪者向我言、 死沒無復餘。 一世異朝市、 此語眞不虚。 人生似幻化、 終當歸空無。 |
園田の居に歸る 五首 其四 久しく去はなる山澤さんたくの游び、 浪莽らうまうたる林野の娯しみ。 試みに子姪してつの輩を攜たづさへ、 榛を披ひらきて荒墟を歩む。 徘徊はいかいす丘壟きうろうの間、 依依たり昔人の居。 井竈せいさう遺處有り、 桑竹さうちく朽株を殘す。 借問しゃもんす採薪の者に: 「此ここの人皆焉いづくにか如ゆく」と。 薪者我に向ひて言ふに: 「死沒して復また餘のこること無し」と。 “一世朝市を異ことにす”、 此の語眞まことに虚ならず。 人生幻化に似て、 終つひに當まさに空無に歸すべし。 |
園田の居に歸る 五首 其五 悵恨して獨り策つき還かへり、 崎嶇として榛曲を歴ふ。 山澗清く且つ淺く、 以て吾が足を濯ふ可べし。 我が新たに熟せる酒を漉こし、 隻鷄近局を招く。 日入りて室中闇くらく、 荊薪明燭に代ふ。 歡び來りて夕の短きを苦しみ、 已すでに復また天旭に至る。 |
衰榮定在無く、 彼此更こもごも之これを共にす。 邵生瓜田の中は、 寧いづくんぞ東陵の時に似んや。 寒暑代謝有り、 人道毎つねに茲かくの如し。 達人其の會を解して、 逝ここに將まさに復また疑はざらん。 忽こつとして一觴の酒と與ともにし、 日夕に歡びて相ひ持す。 |
積善報い有りと云ふも、 夷叔西山に在り。 善惡苟にも應ぜざらば、 何事ぞ空言を立てし。 九十行ゆくゆく索を帶びし、 飢寒况いはんや當年をや。 固窮の節に賴らざれば、 百世當まさに誰をか傳へん。 |
道喪うしはれて千載に向なんなんとし、 人人其の情を惜む。 酒有るも肯あへては飮まず、 但だ顧かへりみるは世間の名。 我が身を貴ぶ所以ゆゑんは、 豈あに一生に在あらずや。 一生復また能よく幾いくばぞ、 倏はやきこと流電の驚ひらめくが如し。 鼎鼎ていていたり百年の内、 此これを持して何をか成さんと欲する。 |
廬を結ぶに人境に在り、 而して車馬の喧かまびすしき無し。 君に問ふ何ぞ能く爾ると、 心遠ければ地自ら偏かたよる。 菊を采とる東籬の下もと、 悠然として南山を見る。 山氣日夕に佳よく、 飛鳥相ひ與ともに還かへる。 此の中に眞意有り、 辨んと欲して已すでに言を忘る。 |
秋菊佳色有りて、 露に裛ぬれて其の英はなぶさを掇つむ。 此れを忘憂の物に汎うかべ、 我が遺世の情を遠とおざく。 一觴獨り進むと雖いへども、 杯盡きて壺自ら傾く。 日入りて羣動息やみ、 歸鳥林に趨おもむきて鳴く。 嘯傲す東軒の下、 聊いささか復また此の生を得ん。 |
靑松東園に在れど、 衆草其の姿を沒す。 凝霜異類を殄ほろぼさば、 卓然として高枝を見あらはす。 林に連なれば人覺さとらざるも、 獨樹にして衆乃すなはち奇とす。 壺を提さげて寒柯かんかを撫なで、 遠望して時に復また爲なす。 吾が生夢幻の間、 何事ぞ塵羈ぢんきに紲つながる。 |
飮酒二十首 其九 晉・陶潛
淸晨聞叩門、倒裳往自開。 問子爲誰歟、 田父有好懷。 壺漿遠見候、 疑我與時乖。 襤縷茅簷下、 未足爲高栖。 一世皆尚同、 願君汨其泥。 深感父老言、 稟氣寡所諧。 紆轡誠可學、 違己詎非迷。 且共歡此飮、 吾駕不可回。 |
淸晨門を叩たたくを聞き、 裳しゃうを倒さかしまにして往ゆきて自みづから開く。 子しに問ふ:誰たれ爲たる歟か、 田父好懷有り。 壺漿こしゃうもて遠く見候す、 我を疑ふに時與と乖たがふを。 「襤縷らんる茅簷ばうえんの下、 未だ高栖かうせいと爲すに足たらじ。 一世皆な同じきを尚たふとぶ、 願はくは君其の泥を汨にごせ。」 深く父老の言に感ずるも、 稟氣ひんき諧かなふ所寡すくなし。 轡たづなを紆まぐは誠に學ぶ可べきも、 己おのれに違たがふは詎なんぞ迷ひに非らざらんや。 且しばし共に此の飮を歡たのしめ、 吾が駕がは回かへす可べからず。 |
顏生は仁を爲すと稱され、 榮公は有道と言はる。 屡ば空にして年を獲ず、 長つねに飢ゑて老いに至る。 身後の名を留むると雖も、 一生亦た枯槁す。 死去せば何の知る所ぞ、 心に稱かなふを固もとより好しと爲す。 千金の躯を客養すとも、 化に臨みては其の寶を消さん。 裸葬何ぞ必しも惡にくからん、 人當まさに意表を解すべし。 |
貧居人工に乏しく、 灌木余が宅を荒おほふ。 班班として翔あまがける鳥有り、 寂寂として行迹無し。 宇宙一に何ぞ悠たる、 人生百に至ること少まれなり。 歳月相ひ催もよほし逼せまり、 鬢邊早や已すでに白し。 若もし窮達きゅうたつに委ねずんば、 素抱深く惜しむ可べし。 |
少年人事罕まれに、 游好六經に在り。 行く行く不惑に向なんなんとし、 淹留えんりゅうして遂つひに成る無し。 竟ついに固窮こきゅうの節を抱いだき、 饑寒きかん更へる所に飽あく。 弊廬へいろ悲風交まじり、 荒草前庭を沒ぼつす。 褐かつを披きて長夜を守すごし、 晨鷄肯あへては鳴かず。 孟公茲ここには在らず、 終つひに以て吾が情を翳かげらす。 |
桃花源詩 晉・陶潛
嬴氏亂天紀、賢者避其世。 黄綺之商山、 伊人亦云逝。 往跡浸復湮、 來逕遂蕪廢。 相命肆農耕、 日入從所憩。 桑竹垂餘蔭、 菽稷隨時藝。 春蠶收長絲、 秋熟靡王税。 荒路曖交通、 鷄犬互鳴吠。 俎豆猶古法、 衣裳無新製。 童孺縱行歌、 斑白歡游詣。 草榮識節和、 木衰知風厲。 雖無紀歴志、 四時自成歳。 怡然有餘樂、 于何勞智慧。 奇蹤隱五百、 一朝敞神界。 淳薄既異源、 旋復還幽蔽。 借問游方士、 焉測塵囂外。 願言躡輕風、 高舉尋吾契。 |
嬴氏天紀を亂し、 賢者其の世を避く。 黄綺商山に之ゆき、 伊この人も亦云ここに逝く。 往跡浸く復た湮れ、 來る逕遂に蕪れ廢る。 相ひ命じて農耕を肆め、 日入らば憩ふ所に從ふ。 桑竹は餘あまたの蔭を垂らし、 菽稷は隨時に藝うう。 春蠶長絲を收め、 秋熟王税靡なし。 荒路曖として交り通じ、 鷄犬互ひに鳴吠す。 俎豆は猶も古法のごとく、 衣裳は新製無し。 童孺縱ほしいままに行き歌ひ、 斑白歡び游びて詣いたる。 草の榮はなさきて節の和なごむを識り、 木の衰はちりて風の厲はげしきを知る。 紀歴の志しるすこと無しと雖も、 四時しいじ自ら歳を成す。 怡然として餘樂有り、 何に于おいてか智慧を勞せん。 奇しき蹤あと隱るること五百、 一朝神界敞あらはる。 淳薄既に源を異にし、 旋たちまち復また幽蔽いうへいに還かへる。 借問す方はうに游ぶの士、 焉ぞ測らん塵囂ぢんがうの外を。 願くは輕風を躡ふみ、 高舉して吾が契を尋ねん。 |
詠荊軻 東晉・陶潛
燕丹善養士、志在報強嬴。 招集百夫良、 歳暮得荊卿。 君子死知己、 提劒出燕京。 素驥鳴廣陌、 慷慨送我行。 雄髮指危冠、 猛氣衝長纓。 飮餞易水上、 四座列群英。 漸離撃悲筑、 宋意唱高聲。 蕭蕭哀風逝、 淡淡寒波生。 商音更流涕、 羽奏壯士驚。 心知去不歸、 且有後世名。 登車何時顧、 飛蓋入秦庭。 凌厲越萬里、 逶迤過千城。 圖窮事自至、 豪主正怔營。 惜哉劒術疏、 奇功遂不成。 其人雖已歿、 千載有餘情。 |
燕の太子は善く士を養い、 志は強き嬴に報いるに在る。 百夫の良を招集し、 歳暮に荊卿を得う。 君子は己を知るもののために死す、 劒を提げ燕京を出づ。 素驥は廣陌に鳴き、 慷慨して我が行を送る。 雄髮は危冠を指し、 猛氣は長纓を衝く。 易水の上に飮餞し、 四座群英を列ぬ。 漸離悲筑を撃ち、 宋意高聲に唱ふ。 蕭蕭として哀風逝き、 淡淡として寒波生ず。 商音更に涕を流し、 羽奏壯士驚く。 心に知る去りて歸らず、 且つ有るは後世の名。 車に登りて何れの時にか 顧ん、飛蓋秦庭に入り。 凌厲萬里を越え、 逶迤として千城を過ぐ。 圖窮りて事自ら至る、 豪主正に怔營たり。 惜い哉劍術疏にして、 奇功遂に成らず。 其の人已に歿すと雖も、 千載餘情有り。 |
人生根蒂こんてい無く、 飄として陌上はくじゃうの塵の如し。 分散し風を逐ひて轉じ、 此れ已すでに常身に非ず。 地に落ちて兄弟けいていと爲なるは、 何ぞ必ずしも骨肉の親のみならんや。 歡を得なば當まさに樂を作なすべく、 斗酒もて比鄰を聚あつむ。 盛年重ねては來らず、 一日いちじつ再ふたたび晨あしたなり難がたし。 時に及んでは當まさに勉勵べんれいすべく、 歳月人を待たず。 |
雜詩十二首 其二 東晉・陶潛
白日淪西阿、素月出東嶺。 遙遙萬里暉、 蕩蕩空中景。 風來入房戸、 夜中枕席冷。 氣變悟時易、 不眠知夕永。 欲言無予和、 揮杯勸孤影。 日月擲人去、 有志不獲騁。 念此懷悲悽、 終曉不能靜。 |
白日西阿に淪しづみ、 素月東嶺に出づ。 遙遙として萬里に暉かがやき、 蕩蕩たり空中の景。 風來りて房戸に入れば、 夜中枕席冷ゆ。 氣變じて時の易かはるを悟り、 眠らざれば夕よるの永ながきを知る。 言かたらんと欲せど予われに和こたふる無く、 杯を揮あげて孤影に勸すすむ。 日月人を擲なげうちて去り、 志有れど騁はするを獲ず。 此れを念おもへば悲悽を懷いだき、 曉に終いたるまで靜かなること能あたはず。 |
榮華は久しく居り難く、 盛衰は量る可べからず。 昔は三春の蕖爲たりしが、 今は秋の蓮房と作なる。 嚴霜野草に結ぶも、 枯悴未だ遽にはかには央つきず。 日月還なほ復また周めぐるれど、 我去れば再たびは陽あらはれず。 眷眷けんけんたり往昔の時、 此れを憶おもへば人の腸を斷たたしむ。 |
丈夫は四海に志すも、 我は願ふ老おいを知らずして。 親戚一處に共にし、 子孫還また相ひ保つ。 觴・弦朝日に肆ほしいままにし、 樽中の酒燥かはかず。 帶を緩めて歡娯を盡くし、 起くること晩くして眠ることは常に早くせんと。 孰若いづれぞ當世の士、 冰炭懷抱に滿たす。 百年丘壟に歸るに、 此れを用ゐて空名を道つたへんか。 |
雜詩十二首 其五 東晉・陶潛
憶我少壯時、無樂自欣豫。 猛志逸四海、 騫翮思遠翥。 荏苒歳月頽、 此心稍已去。 値歡無復娯、 毎毎多憂慮。 氣力漸衰損、 轉覺日不如。 壑舟無須臾、 引我不得住。 前塗當幾許、 未知止泊處。 古人惜寸陰、 念此使人懼。 |
憶ふ我れ少壯の時、 樂み無けれど自ら欣豫す。 猛志四海を逸し、 翮はねを騫あげて遠翥ゑんしょを思ふ。 荏苒じんぜんとして歳月頽れ、 此の心稍やうやく已すでに去る。 歡よろこびに値あへど復また娯たのしむこと無く、 毎毎ことごとに憂慮多し。 氣力漸やうやく衰損し、 轉うたた覺る日びに如しかずと。 壑舟須臾無く、 我れを引して住とどまるを得ざらしむ。 前塗當まさに幾許いくばくぞ、 未だ知らず止泊する處を。 古人寸陰を惜めると、 此れを念おもへば人を使して懼おそれいましむ。 |
昔長者の言を聞くに、 耳を掩おほひて毎つねに喜ばず。 奈何いかんぞ五十年、 忽たちまち已すでに此の事に親ちかづけり。 我が盛年の歡を求むることは、 一毫も復また意無し。 去り去りて轉うたた速すみやかならんと欲す、 此の生豈に再び値あはんや。 家を傾け時に樂たのしみを作なし、 此の歳月の駛するを竟をへん。 子有るも金を留めず、 何ぞ身後の置はからひを用ゐんや。 |
日月肯へては遲れず、 四時しいじ相ひ催して迫る。 寒風枯れたる條えだを拂ひ、 落葉長陌を掩ふ。 弱質運與と頽おとろへ、 玄鬢早や已すでに白し。 素標人頭に插さば、 前途漸やうやく窄に就つく。 家は逆旅げきりょの舍爲たりて、 我は當まさに去るべきの客の如し。 去り去りて何いづくにか之ゆかんと欲す、 南山に舊宅有り。 |
形贈影 東晉・陶潛
天地長不沒、山川無改時。 草木得常理、 霜露榮悴之。 謂人最靈智、 獨復不如茲。 適見在世中、 奄去靡歸期。 奚覺無一人、 親識豈相思。 但餘平生物、 舉目情悽洏。 我無騰化術、 必爾不復疑。 願君取吾言、 得酒莫苟辭。 |
天地は長へに沒せず、 山川は改まる時無し。 草木は常理を得て、 霜露之れを榮悴さす。 人最も靈智と謂はるるも、 獨ひとり復また茲かくの如くあらず。 適たまたま在世中に見るも、 奄にはかに去りて歸期靡なし。 奚なんぞ覺さとらん一人の無かけしを、 親識豈に相ひ思はんや。 但ただ餘あます平生の物を、 目を舉ぐれば情ひ悽洏たり。 我れに騰化の術無ければ、 必ずや爾しからんこと復また疑ははず。 願はくば君吾が言を取り、 酒を得なば苟いやしくも辭する莫なかれ。 |
影答形 東晉・陶潛
存生不可言、衞生毎苦拙。 誠願游崑華、 邈然茲道絶。 與子相遇來、 未嘗異悲悅。 憩蔭若暫乖、 止日終不別。 此同既難常、 黯爾倶時滅。 身沒名亦盡、 念之五情熱。 立善有遺愛、 胡爲不自竭。 酒云能消憂、 方此詎不劣。 |
生を存するは言ふ可べからず、 生を衞るは毎ことごとに拙つたきに苦む。 誠に崑華に游ばんと願へど、 邈然として茲この道絶たれたり。 子與と相ひ遇ひて來より、 未だ嘗て悲悅を異にせず。 蔭に憩はば暫し乖はなるるが若ごときも、 日ひなたに止とどまらば終つひに別れず。 此れを同じうするは既に常なること難く、 黯爾として倶ともに時に滅ぶ。 身沒すれば名も亦た盡き、 之れを念へば五情熱す。 善を立つれば遺愛有らん、 胡爲なんすれぞ自ら竭つくさざる。 酒は能よく憂ひを消すと云ふも、 此れに方くらぶれば詎なんぞ劣らざる。 |
挽歌詩 其一 東晉・陶潛
有生必有死、早終非命促。 昨暮同爲人、 今旦在鬼録。 魂氣散何之、 枯形寄空木。 嬌兒索父啼、 良友撫我哭。 得失不復知、 是非安能覺。 千秋萬歳後、 誰知榮與辱。 但恨在世時、 飮酒不得足。 |
挽歌の詩 其の一 生有れば必ず死有り、 早終は命の促さるるに非ず。 昨暮同ともに人爲たりしに、 今旦鬼録に在り。 魂氣散じて何いづくにか之ゆき、 枯形空木に寄をさまる。 嬌兒父を索もとめて啼なき、 良友我を撫なでて哭なく。 得失復また知らず、 是非安いづくんぞ能よく覺さとらんや。 千秋萬歳の後、 誰か榮與と辱とを知らん。 但だ恨むらくは在世の時、 飮酒足たるを得ざるを。 |
挽歌詩 其三 東晉・陶潛
荒草何茫茫、白楊亦蕭蕭。 嚴霜九月中、 送我出遠郊。 四面無人居、 高墳正嶕嶢。 馬爲仰天鳴、 風爲自蕭條。 幽室一已閉、 千年不復朝。 千年不復朝、 賢達無奈何。 向來相送人、 各自還其家。 親戚或餘悲、 他人亦已歌。 死去何所道、 託體同山阿。 |
挽歌の詩 其の三 荒草何ぞ茫茫たる、 白楊亦た蕭蕭たり。 嚴霜九月の中、 我を送りて遠郊に出づ。 四面人居無く、 高墳正に嶕嶢たるべし。 馬は天を仰ぎて鳴きを爲し、 風自おのづから蕭條爲たり。 幽室一たび已に閉さるれば、 千年復また朝あしたせず。 千年復た朝せざるを、 賢達奈何いかんともする無し。 向さきに來りし相ひ送れる人は、 各自其の家に還かへる。 親戚或は餘悲あらんも、 他人亦た已すでに歌へり。 死去せば何の道いふ所ぞ、 體を託して山阿に同うせん。 |
靡靡秋已夕、
淒淒風露交。 蔓草不復榮、 園木空自凋。 清氣澄餘滓、 杳然天界高。 哀蝉無留響、 叢雁鳴雲霄。 萬化相尋繹、 人生豈不勞。 從古皆有沒、 念之中心焦。 何以稱我情、 濁酒且自陶。 千載非所知、 聊以永今朝。 |
靡靡として秋已すでに夕くれ、
淒淒として風露交はる。 蔓草復また榮えず、 園木空しく自ら凋む。 清氣餘滓を澄ませ、 杳然として天界高し。 哀蝉響を留むる無く、 叢雁雲霄に鳴く。 萬化相ひ尋繹し、 人生豈に勞せざらんや。 古いにしへ從より皆な沒する有り、 之れを念おもへば中心焦る。 何を以ってか我が情を稱かなへん、 濁酒且しばし自ら陶たのしまん。 千載知る所に非ざれば、 聊いささか以て今朝を永くせん。 |
今日天氣佳、
清吹與鳴彈。 感彼柏下人、 安得不爲歡。 清歌散新聲、 綠酒開芳顏。 未知明日事、 余襟良以殫。 |
今日天氣佳し、
清吹と鳴彈を與にし。 彼の柏下の人に感じ、 安んぞ歡びを爲さざるを得んや。 清歌新聲を散じ、 綠酒芳顏を開く。 未だ明日の事を知らざるも、 余が襟おもひ良まことに以すでに殫つくせり。 |
遊斜川 東晉・陶潛
開歳倏五日、吾生行歸休。 念之動中懷、 及辰爲茲游。 氣和天惟澄、 班坐依遠流。 弱湍馳文魴、 閒谷矯鳴鴎。 迥澤散游目、 緬然睇曾丘。 雖微九重秀、 顧瞻無匹儔。 提壺接賓侶、 引滿更獻酬。 未知從今去、 當復如此不。 中觴縱遙情、 忘彼千載憂。 且極今朝樂、 明日非所求。 |
斜川に遊ぶ 開歳倏たちまち五日、 吾が生行くゝ歸休せん。 之れを念へば中懷を動もし、 辰ときに及びて茲に游びを爲す。 氣和やかにして天惟これ澄み、 班坐して遠流に依る。 弱湍に文魴馳せ、 閒谷に鳴鴎矯あがる。 迥き澤に游目を散じ、 緬然として曾丘を睇ながむ。 九重の秀微なきと雖も、 顧み瞻げば匹ぶ儔ら無し。 壺を提げて賓侶に接し、 滿を引きて更に獻酬す。 未だ知らず今從より去のち、 當まさに復また此くの如くなるべきや不いなや。 中觴遙情を縱ほしいままにし、 彼の千載の憂ひを忘れん。 且しばし今朝の樂たのしみを極めん、 明日は求むる所に非ず。 |
擬古九首 其四 東晉・陶潛
迢迢百尺樓、分明望四荒。 暮作歸雲宅、 朝爲飛鳥堂。 山河滿目中、 平原獨茫茫。 古時功名士、 慷慨爭此場。 一旦百歳後、 相與還北邙。 松柏爲人伐、 高墳互低昂。 頽基無遺主、 遊魂在何方。 榮華誠足貴、 亦復可憐傷。 |
迢迢たり百尺ひゃくせきの樓、 分明に四荒を望む。 暮に歸雲の宅と作なり、 朝に飛鳥の堂と爲なる。 山河滿目の中、 平原獨ひとり茫茫ばうばうたり。 古時功名の士、 慷慨此の場を爭ふ。 一旦百歳の後、 相ひ與ともに北邙に還る。 松柏人の伐るところと爲り、 高墳互ひに低昂す。 頽基に遺主無く、 遊魂何方いづかたにか在る。 榮華誠に貴とするに足るも、 亦た復また憐み傷いたむ可べし。 |
少時壯にして且かつ厲はげしく、 劍を撫して獨り行遊す。 誰か言ふ行遊近しと、 張掖より幽州に至る。 饑ゑては首陽の薇わらびを食くらひ、 渇しては易水の流に飮む。 相知の人に見あへず、 惟だ古時の丘を見るのみ。 路邊兩ふたつの高墳あり、 伯牙と莊周と。 此の士再び得え難がたし、 吾行きて何をか求めんと欲す。 |
責子 東晉・陶潛
白髮被兩鬢、肌膚不復實。 雖有五男兒、 總不好紙筆。 阿舒已二八、 懶惰故無匹。 阿宣行志學、 而不好文術。 雍端年十三、 不識六與七。 通子垂九齡、 但覓梨與栗。 天運苟如此、 且進杯中物。 |
子を責む 白髮兩鬢を被ひ、 肌膚復また實ならず。 五男兒有ると雖いへども、 總すべて紙筆を好まず。 阿舒は已すでに二八にはち=十六、 懶惰故もとより匹たぐひ無し。 阿宣は行ゆくゆく志學なるに、 而して文術を好まず。 雍・端は年十三にして、 六と七とを識しらず。 通子は九齡に垂なんなんとするに、 但ただ梨と栗とを覓もとむ。 天運苟いやしくも此かくの如くあれば、 且しばし杯中の物を進めん。 |
九日閒居 東晉・陶潛
世短意常多、斯人樂久生。 日月依辰至、 舉俗愛其名。 露淒暄風息、 氣澈天象明。 往燕無遺影、 來雁有餘聲。 酒能祛百慮、 菊爲制頽齡。 如何蓬廬士、 空視時運傾。 塵爵恥虚罍、 寒華徒自榮。 歛襟獨閒謠、 緬焉起深情。 棲遲固多娯、 淹留豈無成。 |
世短くして意常に多く、 斯この人久生を樂このむ。 日月辰ときに依よりて至るも、 俗を舉あげて其の名を愛す。 露淒しげくして暄風けんぷう息やみ、 氣澈すみて天象明かなり。 往きし燕は遺影無く、 來たれる雁は餘聲有り。 酒は能よく百慮を祛はらひ、 菊は頽齡たいれいを制すと爲なす。 如何いかんぞ蓬廬ほうろの士、 空く時運の傾くを視みんや。 塵爵ぢんしゃくは虚罍きょらいに恥ぢ、 寒華は徒いたづらに自ら榮ゆ。 襟を歛をさめ獨り閒謠せば、 緬焉めんえんとして深情起る。 棲遲せいち固もとより娯たのしみ多く、 淹留えんりゅうすれど豈あに成る無からんや。 |
弱齡寄事外、
委懷在琴書。 被褐欣自得、 屡空常晏如。 時來苟宜會、 宛轡憩通衢。 投策命晨旅、 暫與園田疎。 眇眇孤舟遊、 綿綿歸思紆。 我行豈不遙、 登降千里餘。 目倦川塗異、 心念山澤居。 望雲慚高鳥、 臨水愧遊魚。 眞想初在襟、 誰謂形迹拘。 聊且憑化遷、 終反班生廬。 |
弱齡より事外に寄せ、
懷おもひを委ゆだぬるは琴書に在り。 褐かつを被きるも欣よろこびて自得し、 屡しばしば空しきも常に晏如あんじょたり。 時來りて苟いやしくも宜會なれば、 轡たづなを宛まげて通衢つうくに憩ふ。 策を投じて晨旅を命じ、 暫しばし園田と疎ならんとす。 眇眇べうべうたり孤舟の遊、 綿綿たり歸思の紆まとふ。 我が行豈あに遙かならざらんや、 登降すること千里の餘。 目は川塗の異なれるに倦うみ、 心は山澤の居を念ふ。 雲を望みては高鳥に慚はぢ、 水に臨みては遊魚に愧はづ。 眞想初めより襟むねに在り、 誰か謂ふ形迹に拘かかはらんとと。 聊いささかか且しばし化くゎの遷うつるに憑よりて、 終つひには班生の廬に反かへらん。 |
春水四澤に滿ち、 夏雲奇峰に多し。 秋月明輝を揚あげ、 冬嶺孤松を秀ひいづ。 |
和郭主簿 東晉・陶淵明
藹藹堂前林、中夏貯清陰。 凱風因時來、 回飆開我襟。 息交遊閑業、 臥起弄書琴。 園蔬有餘滋、 舊穀猶儲今。 營己良有極、 過足非所欽。 舂秫作美酒、 酒熟吾自斟。 弱子戲我側、 學語未成音。 此事真復樂、 聊用忘華簪。 遙遙望白雲、 懷古一何深。 |
郭主簿に和す 藹藹あいあいたり堂前の林、 中夏に清陰を貯たくはふ。 凱風がいふう時に因よりて來り、 回飆くゎいへう我が襟を開く。 交まじはりを息やめて閑業に遊び、 臥起書琴を弄す。 園蔬餘滋有り、 舊穀猶なほ今に儲たくはふ。 己おのれを營はかること良まことに極り有り、 足たるに過すぐるは欽ねがふ所に非ず。 秫じゅつを舂つきて美酒を作り、 酒熟すれば吾自みづから斟くむ。 弱子我が側かたはらに戲たはむれ、 學を語ぶも未だ音おんを成さず。 此の事真まことに復また樂しく、 聊いささか用もって華簪くゎしんを忘る。 遙遙えうえうとして白雲を望めば、 古いにしへを懷おもふこと一いつに何ぞ深き。 |
訪陶公舊宅 白居易
垢塵不汚玉、靈鳳不啄羶。 嗚呼陶靖節、 生彼晉宋間。 心實有所守、 口終不能言。 永惟孤竹子、 拂衣首陽山。 夷齊各一身、 窮餓未爲難。 先生有五男、 與之同飢寒。 腸中食不充、 身上衣不完。 連徴竟不起、 斯可謂眞賢。 |
陶公舊宅を訪ふ 垢塵玉を汚けがさず、 靈鳳羶なまぐさきを啄ついばまず。 嗚呼陶靖節、 彼かの晉宋の間に生まる。 心は實に守る所有れど、 口は終つひに言ふ能あたはず。 永く孤竹の子を惟おもひ、 衣を拂ふ首陽山。 夷齊各ゝ一身なれば、 窮餓未だ難かたきと爲さず。 先生五男有りて、 之これ與と飢寒を同うす。 腸中食充みたずして、 身上衣完まったからず。 連しきりに徴めさるるも竟つひに起たず、 斯これすなはち眞に賢と謂いふ可べし。 |
田園に歸るを想ふ 他かの朝市を戀ひて何事をか求むる、 丘園に想ひ取いたして此の身を樂しましむ。 千首の惡詩吟じて日ゝを過ごし、 一壺の好酒醉ひて春を消す。 鄕に歸るも年亦た全まったくは老ゆるに非ず、 郡を 快活我の如き者は知らず、 人間じんかん能よく幾多の人存すやを。 |
惜しむ可べし 花の飛ぶこと底なんぞ急なることの有る、 老い去りては春の遲きを願ふ。 惜しむ可べし歡娯の地、 都すべて少壯の時に非ざるを。 心を寬ゆるうするは應まさに是これ酒なるべく、 興を遣やるは詩に過ぐるは莫なし。 此の意陶潛のみ解す、 吾が生汝なんぢの期きに後れたり。 |
膝を容いるるに堪ふるを卜筑し、 官を休やめて腰を折るを免ぜらる。 寧むしろ處士卒と書かるるとも、 寄奴の朝に踐したがはじ。 |
效陶潛體詩 白居易
不動者厚地、不息者高天。 無窮者日月、 長在者山川。 松柏與龜鶴、 其壽皆千年。 嗟嗟羣物中、 而人獨不然。 早出向朝市、 暮已歸下泉。 形質及壽命、 危脆若浮煙。 堯舜與周孔、 古來稱聖賢。 借問今何在、 一去亦不還。 我無不死藥、 萬萬隨化遷。 所未定知者、 修短遲速間。 幸及身健日、 當歌一尊前。 何必待人勸、 持此自爲歡。 |
陶潛の體に效ふ詩 動かざる者は厚地、 息やまざる者は高天。 無窮なる者は日月、 長とこしへに在る者は山川。 松柏と龜鶴と、 其の壽よはひ皆みな千年。 嗟嗟ああ群物の中、 而も人のみ獨ひとり然しからず。 早に朝市を出で、 暮には已に下泉に歸す。 形質及び壽命は、 危脆なること浮煙の若ごとし。 堯舜と周孔と、 古來聖賢と稱す。 借問す今何いづくにか在る、 一たび去りて亦た還かへらず。 我に不死の藥無く、 萬萬化遷に隨ふ。 未だ定かに知らざる所の者は、 修短遲速の間。 幸ひに身の健かなる日に及びて、 當まさに一尊の前に歌ふべし。 何ぞ必ずしも人の勸めるを待たん、 此れを持して自ら歡しみを爲さん。 |