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       春情花の朧夜

       その十一 花吹雪寝屋に舞い散る絡み合い

 半七がお花を連れて梶原家の屋敷の長屋に移ってからは、麹町の藤兵衛の家に行ってお登世の様子を訪ねる暇もなく、すっかりご無沙汰していることを半七はいつも気にかけていた。
 置いてきた荷物もある。
 ある日、その暇ができたので、お花には荷物を持ってくるとわけを言って昼過ぎに家を出た。
 藤兵衛方を訪れると、あいにく藤兵衛は外出していて不在。
 お登世はいたが、店の丁稚らの見る目嗅ぐ鼻がうるさく、うかつに口も聞けない。
 半七とお登世は火鉢を真ん中にして、ときどき手の先をさわったり、目と目で情を交していた。
「いやもう、申し訳ないご無沙汰。その罰なのだろう、たまたまお訪ねすれば親父さんはお留守。誠に間の悪い理屈でごぜえやす」
「ほんに親父さんがお留守で私ばかりのところだからお気の毒でございますえ」
 半七がちょいと手をつかみ、小声で言った。
「なにさ、あなたお一人のところならなおよいけれど、万一、お邪魔になるようなことでもあってはと存じますからさ」
「おや。私もさようでございますよ。あなたさまが行ってしまわれたお屋敷のお家へお訪ねしたいと思いますけれど、親父さんが『半七さんはお花さんを隠し子の妹御とおっしゃるけれど、どうもそのようなわけはないはず。何ぞほかに子細があるのだろう』と言いますから、大方、本当のところはご新造さま、お楽しみのあるお方とお察し申しましたから、ご遠慮いたして上がりません」
 お登世が少し塞いでいるように見えたので、半七はぎょっとしながらも、そしらぬふりをして笑顔を作った。
「なあに。そりゃあ親父さんが知らねえので実に私の妹さ。妹がきたのに疑りをかけられちゃあ、さっぱり割に合わねえ話だ。ははは」
「ようございますよ。たくさん妹にしておおきなさいよ」
「いやはや、つまらねえことでいじめられるものだ。何にしても空き家へ行って残してきたものの荷ごしらえをしてきやしょう」
「まあ、もうひとつ、お茶を味わって」
「どれほど小さな土瓶でも大概にしてしまいやしたぜ」
「かえってお咽喉が乾きましょうから」
「下戸にはお菓子が結構だ」
 半七は、皿に積んであったようかんをひとつつまんで食いながら空き家のほうを指差して、それとなく目で知らせた。
「お茶とお菓子で腹の中まで甘ったるくなってしまった。どれどれ。荷ごしらえをしてこよう」と言って立ち上がった。
「そんならお登世さん、空き家の戸を開けますよ」
 裏口より出ていった半七の後ろ姿を目で追いながら、お登世もその意図に気づいていた。
「おや、半七さん。鍵を忘れておいでだよ。あの、おさんや。ちょっと持っていっていくるから、ここを気をつけておくれよ」
 そう言ってお登世もまた勝手口よりせわしなく出ていく。
 もとよりこうなることを承知の半七は空き家の前でお登世を待っていた。
「錠が下りておりますから、鍵を持ってまいりましたよ」
「おやおや。それはお気の毒さま」
 二人は顔を見合わせてにっこり笑った。
 半七は鍵を開け、雨戸を開けて中に入った。
「ええ。お登世さんには申しかねましたが、ちょっと手を……」
「何でございますの。私でお役に立ちますことなら」
 お登世が中に入ったその後ろを半七は見回して雨戸をぴっしゃり閉め、お登世の手をとって昼間ながらも薄暗い畳の上に引き上げた。
「よくもいろんなことを言っておいでだね。意趣を返すからそうお思い」
 半七はお登世を膝の上に抱えあげ、ほっぺたに頬をすりつけた。
「ほんにお花さんはお前さんのお楽しみではないのかえ」
「どうして嘘をつくものかな」
「それでは誠に嬉しいけれど、何だかあやしいようだもの」
「そんなことよりか、きょうはよい間合いにきたっけねえ」
「さようでございますよ。親父さんがいたら、お話もろくろくできないから」
「それが留守だからこういうこともできる」
 半七がお登世の硬い唇を前歯でちょいと食いつくと、お登世は恥ずかしそうに舌の先を男の口に入れた。
 半七は口をすっぱ、すっぱと吸いながらお登世の着物の前を開け、内股へ手を差し込んでまるまっている緋縮緬の腰巻をかき分ける。
 双丘の上から額口あたりをなでまわし、真ん中をゆっくり、ゆっくりくじった。
「お屋敷へ行ってからはこの楽しみができなくて、こればっかりは閉口さ」
「お前さんはどうだか知れないが私は……」
 お登世は言いかけて黙ってしまった。
「私はどのようにおしなのだ」
「知りませんよ」
 お登世はうつむいて前髪の冷たいところを男の胸に押し付けてきた。
「やはりこれができなくってよくないのだろうね」
 半七はそこのとがりをちょいと引っ張った。
「あれ」
「痛かったのかえ」
 お登世は首を横に振った。
「それじゃあ横におなりな」
「誰もきやしまいかねえ」
「空き家だもの、大丈夫さ」
 半七はお登世の隣へ横になった。
 半七が大腰を割り込ませると、お登世はぴったりくっつき、男の衿へ手を差し入れる。
 首を抱えながら、股を広げてあてがってくるので、半七は上半身を起こしてお登世を仰向けにした。
 顔に似合わない茶目っけのある紫黒色の上反大物にツバをたっぷりすりつけて、帆柱のようにおっ立て、鉄鍋のように熱くなったものをあてがったが、女は蓋のようになっていて入る気配がない。
 半七は女のそこへもツバを塗りまわし、玉茎の切っ先や裏を使ってその上のほうをぬるり、ぬるりとすりあげ、口を吸い、吸い、2本の指を女中天へ差し込んで奥襞の周囲をくじりまわした。
 すると早くもじくじくとわきだし、ぺちゃり、ぺちゃりと鳴き出してきたので、もはや大丈夫と大すりこ木の怪物をそのところへ食い込ませてゆっくり押し込むと、だんだん入ってどうにかこうにか間際のところまで収まった。
 やわやわ、じわじわと小腰に刻んでいたが、女院は小さくそこは大きいので、中では少しのすき間もなく玉中の臓物が胴中茎節から先端まで吸い付き、抜き差しするたびに食い締めてくる。
 すごく気持ちのよい妙玉であった。
「ああ、いい。もういきそうになってきた」
「私もこないだのようによくしておくんなさいよ。お前さんばかりいいのは嫌でございますよ。あれ、何だか気がうっとりとなってきました。うん、うん、ハア、ハア」
 お登世は我を忘れて鼻をならしはじめ、腰を回して少しずつ尻を持ち上げてきた。
「お前もよくなってきたか。こっちもどうもたまらねえよ。ああ、フウ、フウ」
 二人がよがっているときに、お花が急な用ができたと夫の後を追ってやってきた。
 藤兵衛の宅で半七は裏の空き家で荷ごしらえしていると聞き、そちらに回ってみると、中からハア、ハアと怪しげな声が聞こえてくる。
 はてな、と戸口に立って板の隙間から覗くと、藤兵衛の娘のお登世と半七が取り乱して睦言の真最中。
 思いがけないことにはっとなり、鼓動も高鳴ったお花、さて、どうしようとはやる気持ちを抑えつつ、しばらくその様子をうかがっていた。
 それとは知らない半七は自分の大物で新鉢からまだ二〜三度目のお登世をあらく突き立てていた。
「ああ、こんなにいいのは初めてだ。どうもたまらねえ。いいぞ、いいぞ」
「私もあれ、いきますよ。いいよ。ああ、可愛い。もし旦那え。この人、いいよ、いいよ。どうも。ハア、ハア、スウ、スウ」
 二人一度にこてこてと気をやった。
 ぬるぬるしたものがだらしなく流れ出して、菊座の上にまで伝わっていく。
 お登世はほっとため息をついて恥ずかしそうに半七の顔を見ながら紙を取り出した。
「ちょっと待っておくんなさいよ」
 お登世はそれを抜いて両方の吐淫をすっかり拭き取った。
「なかなか巧者にやりますのう」
「あれ。そんなことをお言いなすっては嫌でございますよ」
「どうだ随分よかったろう」
 お登世はうなずいた。
「久しぶりだから、続け玉でもう一番やらかそう」
「おや。嬉しいよ。まだこんなにしゃっきりしています」
「さようよ。だからお前の手で持って入れてくんな」
 女がそれをつまんで女芯にあてがい、恐る恐る腰を押し上げる。
 すぐに男が反り身になって上から突くと、またぬるぬると根まで入った。
「ちょっと手でさわってみな。今度はちっとも骨が折れずに根まですっぽり入ったぜ」
「ほんにねえ。こんなに大きなものが」
と女は男の股ぐらをさわった。
「そら。抜き出すとこんなに長いが、入るとやはりぎっちりだろう」
「あれさ。そうして抜いたり出したりおしだと、またいきそうになってくるよ」
 お花は戸の外で見たり聞いたりしながら、胸はどきどき、気はわくわくしてのぼせあがりそうだったが、気持ちを押し沈めて、しばらし思案した。
 先ほどより惚れた男の交接をうかがっているのは気の悪いことだった。
 お花は思わず濡れてしまった内股を腰巻でそっと拭き取って、何を思ったのか、あったはずの用も言わずに半七とお登世のよがりを後にして、わが家へと帰っていった。

その十二 小雨降る明けの枕辺桜紙

 その日は朝から小雨がそぼ降っていた。
 お花が好山記内の屋敷で娘に琴の稽古を済ませたあとも残って娘の相手をしていたので、手持ち無沙汰だった記内は、お花を自分の居間に招いて飲酒の相手をさせた。
「いや、毎日ご苦労だが、もう『富貴』(箏曲のひとつ)ぐらいはできるかな」
「お年に比べてご器用でございますから、お教え申すにちっとも骨が折れませんわ」
「何のさ。甘やかして育ったから困りきるのよ。もっとも奥の世話をする者もあるけれど、継母というのも気がないものよ。また、独身では不自由だから召使いをと思うけれど、心にかなった女もなし。なにとぞ、そのほうに主がないなら一晩抱いて寝て……」と記内は言いかけて、あははと笑った。
「これは無作法千万の儀。ときに半七の勤め方の頼もしいのにつけて上へも内々申し上げ、その筋へも話しておいたから、近々、吉報があろう。しかし、古参をさしおいて一足飛びの役替えもさせにくいが、末々はとりたててつかわす心。世の例えにも言うとおり、情けは人の為ならず、それであれば、身共の願いも一度ぐらいは……」
 そして黙り、目に十分の色気を含ませてお花の顔をほれぼれと見つめた。
「きょうは雨がやみそうにない。ほかにすることもなかろう。一ツ、二ツ(二〜四時間)は過ごしてもよかろう。身共なぞは酒を飲んで楽しむよりは致し方なしじゃ。さあ、もうひとつ、酌をいたそう」
「これはありがとうございます」
 なみなみと受けた酒をお花は一口飲んで杯をおいた。
「不調法な半七や私へ一方ならぬごひいきを下さいまして、家でもどんなにかありがたいと申しております」
お花は杯を飲み干して記内へ差し出した。
 給仕の侍女や小姓を側に置かない二人だけの酒ごとに、いつしか二人は半酔状態。
 お花は目もとをほんのりと赤らめ、行儀よかった居ずまいも崩れて、膝から縮緬の腰巻をちらちら出している。
 お花の真っ白な内股すら見えることもあるので、さすがに堅固な記内も我慢ができなくなってきた。
 まだ四十に二つ、三つの歳である。
 途絶えていた閨の友もほしかった。
 お花もおちょこをやりとりしながら、その機を飲み込んで記内を流し目に見たりして情を通わせる。
 迷うのは恋の曲者である。
 主のある花とは知っているが、記内は酌をしようとしたお花の手を握ると、面目なげに辞を低くしてお願いした。
「これ。お花どの。このように言ったら尾籠な家老と思うであろうが、内外の者の噂を聞いて顔を見る前から何となくそのほうのことを思っていたが、娘の琴の稽古にかこつけて招いてみれば、初めに増して恋しくなってしまった。身分に恥て慎んでみても包みきれない身共の執心。しかし、役目の勢いで無理往生な野暮は致さぬ。翌日にも夫を召し出し、百石取りに立身させ、半七の勤め次第で身共の縁者の名跡を継がせば、一両年中には殿のご紋の服を着て家中の者が尊敬するような身分になるであろう。そうなったら半七には心にかなった妻を持たせ、そのほうは私が引き取ってすぐに娘の母とし、奥同然に敬おう。しからば、淫奔もちょいとの間のつまみ食いも、夫への不貞というほどのものではかなろう。どうだ、どうだ」
 そう言われて引き寄せられたお花は、思うところがあったのでそのまま男に身をもたれかけた。
 初々しげに耳タブからうなじのあたりまでを赤くしている。
「私のようなふつつかな者をそれほどにおっしゃってくださいますとは、ありがたくって、もったいなくって、嘘ではないかと思われますが、もしや誠のことならば」と言いかけて記内の顔を見つめた。
「それともあなたさまはおなぶりで嬉しがらせておき、後でお笑いあそばさるというのではございませんかえ」
 お花が情を持たせかけてくるので、記内は目もとを細めた。
「どうして、どうして。なぶるなぞということがあるものか。そのまあ証拠に……」
 記内がお花の衿の上に手をかけて抱き寄せて頬をぴったり押し付けるので、お花は記内の言葉を引き取った。
「かようにするのでございますか」
 口と口とを合わせてチュウ、チュウ吸いあう舌が三三九度。
 遠くて近きは男女の間、とは金言道理である。
 酔いのどさくさにまぎれてお花を口説き落とした記内は、今夜はお花を泊める手筈にして日が暮れると、侍女に六畳の離れ座敷に寝床を設けさせた。
 誰はばかることのない座敷に敷かれた布団一つに墨塗りの枕が二つ並んでいる。
 先に布団に入って腹這いの記内は、たばこを服していた。
 表着を脱いで下着だけのお花が寒そうに布団の端に座る。
「何だのう。恥ずかしいという歳でもないくせに。早くこの中に入れ」
 記内が夜着の裾を持ち上げる。
「それではもったいないようで、お気の毒でございますもの」
「ふふ。いいよ、いいよ。たんとそんなことを言いな」
 お花は記内の夜着にもぐりこんできた。
「ごめん遊ばしましよ」
 記内はお花をそのまま引き寄せてその股に片足を割り込ませ、膝頭を真ん中に押しあてるようにした。
「今夜のように嬉しいのは生まれてこの方初めてだが、そのほうは至極迷惑であろう」
「あれ、憎らしい。私こそ」
 お花が男の顔に前髪を押し付けて、恥ずかしそうにうつむく。
 記内は片手で真っ白なうなじをぐっと抱きしめ、片手を股に差し込んでそろそろとくじり始めた。
 しばらくくじっていると、奥のほうからもぞもぞ、ぬらぬらしはじめてくる。
 お花は少し腰をもじらせて上気した温かい額の先を男の頬へすりつけた。
「もう、そんなことは遊ばさずにほんにどうにかして」
 お花が十分に気を持っている様子を見て取った記内は、お花のみぞおちのあたりに締められていた緋色のくけひもをほどいて真っ白な肌をあらわにし、ぱっちゃりした両方の乳の頭を丹念になめまわした。
 そして太腰を割り込んで上に乗りかかり、先ほどよりいきり立っている仁王の腕より隆々とした七寸あまりの大物を惜しげもなく女のそこへあてがい、やわりやわりと腰を使い始めた。
 奥底から溢れ出す情炎のぬめりにずぶりと頭が入ったのを合図に、すかりすかりと大腰に五、六度突けば、そのたびに一寸、二寸と入っていく。
 とうとう深くまで収めて女の膨れたところに根元を押し付けると、今度は顔を歪めて身を引いていく。
「いいこと、いいこと。何とも言いようがない。身共の知り合いが、人間にとって一番気持ちのいいものは、汗をかいたときに入る湯と惚れた女の股ぐらに初めて割り込んだときだと言ったが、きょうというきょうはそれが思い当たる。たまらねえ」
 大腰に使うと白い股の両縁が紫塊へ吸い付き、奥からの花汁の溢れがすっぽ、すっぽ、ぐっちゃ、ぐっちゃと高鳴りする。
 食い締め加減も申し分なかった。
 お花は目をつむって眉の先を八の字にし、奥歯をくいしめながら、鼻息をときどき強くはずませては、男の手首をしっかりと握り、股を開いて尻をよじらせ、ひょっこり、ひょっこりと持ち上げる。
 快くなってきたらしい。
 両手を伸ばして男の首を力いっぱいに抱きしめた。
「あれ、あれ、どうも……」
 お花が産声のよがりをあげ始めたので、記内はここぞとばかりに赤い肉襞へ烈火の太い物を突き、太節の耳でもコスリ突きと、大汗を流して抜き差しした。
 奥の院の芯子に大物が当たるたびに愛涎が押し出される。
「ああ、どうも、ぶしつけながら、ああ、ごめん遊ばして」
 お花は左右の足を男の背中に絡み付けて締め上げた。
「いい、いい。あれ、いきます。なにとぞあなたさま、はばかりながら奥のほうを、あれ、きつうお突き遊ばして。ああ、よくって、よくって、体がぶるぶる震えます。もう、それ、二度目がいきます。あれさ、はあ、はあ。どう遊ばす……。ああ、お道具が中いっぱいに膨れました」
「私もただいまいくところ。ああ、申しようのないいい味じゃ。ああ、いくぞ。どうじゃ、どうじゃ」
 記内は夢中になって突き、乳へ歯形をつけたのも気がつかない。
 むずむずしてくると、湯よりも熱いものをどきんどきん、ぴょっつく、ぴょっつくと深奥にはじき出した。
「ああ、あれ。やるのがよくわかりますよ。嬉しい。いく、いく」
「おお、可愛い。いく、いく」
 ああ、ああ、はあ、はあ、ひっく、ひっくと、一度に気をやると、二人はしばらく抱きついたまま動こうとしなかった。
 ようやく目を開いて顔を見合わせ、にこっと笑ってほっと一息。
 疲れた身を横たえようにも眠れず、記内はお花の乳房を弄んだ。
 ようやく我に返ったお花はあたりを見回して、取り乱した姿に恥ずかしさを覚えた。
 記内のものを握って抜くと、紙でぬめりをぬぐい、その紙を自分につっこんで栓にかい、別の紙で再び男のものをすっぱりと拭いて、自分の股間の始末をした。
 そしてすぐに起きだして座敷を出た。
 手水場で手を奇麗に洗ってきたお花は、間が悪そうに記内の側にそっと座った。
「誠にお気の毒さまでございましたねえ」
 お花はたばこ盆を引き寄せると、煙管に火を付けて男に渡した。
「あまりによすぎてがっかり致した」
 そう言ってお花を引き寄せる。
 ふすまの向こうのほうから側使いの侍女が声をかけてきた。
「お風呂をお召し遊ばせ」

つづく

[春情花の朧夜梅柳 恋衣濡色 糸柳寝屋の月 糸瓜桜 色好奥の院 花吹雪桜紙 怒竿裾開 玩言花腎 乱舞朧夜] 長枕褥合戦 書架