春情花の朧夜

       その一 ご新造さん茶碗を出す手握られて

 十七〜十八歳の美しい新造が桐の柾目の箱火鉢に炭をついで忙がしそうにあおいでいると、二十三〜二十四の小意気な男が酒に酔ったのか、目の縁を赤くして座敷のほうからやってくると、見回して女のほうへずっと寄っていった。
「お花さん、だいぶお忙しいご様子だね」
 お花と呼ばれた新造が振り向いた。
「おや、半七さん。なぜ逃げておいでなさいました。お酒はもう嫌だとおっしゃるから、いまお餅をこしらえてお膳をさし上げようと思い、精出してお湯を沸かしているのでございますのに」
「いや、なに、だいぶ酔ったので、お膳どころか何もいただくことはできませんが、せっかくの思し召しだからお前さんの手前、お湯を一杯もらいましょうか」
「まあ、お茶を入れてから」
「お茶よりは人のこないうちに早くお湯をついでおくんなせえ。後生だからよ」
「人がきては悪いのでございますか。おかしゅうございますねえ」
「おかしくってもいいから、誰もこないうちにいただきたい」
「やだ。まだ沸いていませんよ」と言いながらも、お花は茶碗へお湯をつぎ、茶台に乗せた。
「そんなに言うなら差し上げますからお召し上がれ」
 茶台を前に出すと半七が体を引いた。
「おや、いつお茶台に乗せてくださいと申しました」
「ほほほ。無理ばっかりおっしゃるねえ。お客様だからお茶台に乗せてますのに、悪いのでございますかえ」
「へえ。悪うございますから、お手でください」
「それでは失礼でございますもの」
「失礼なのが身にとって何ほどかありがたいと思うのさ」
「ねえ、手がくたびれますから、悪ふざけをおっしゃらないで、早く取ってくださいと言ったら。ねえ」
「へえ、へえ。恐れ入りました」
 半七が茶碗を取りながらため息をつき、
「主のいない花なら命にかけてもうち捨ててはおかないのだけれど」と小声に言うのをお花は聞こえないふりをした。
「ほんに桜がありましたっけ。入れてあげればよろしゅうございました」
 そう言って茶箪笥の引き出しを開け、何やら取り出していると、おいきという女があたりを見ながらやってきた。
「おやまあ、おずるいこと。半七さまはどこへ逃げておいであそばしたと思ったら、お湯を召し上がっておありなさるのだよ。さあ、さあ。お座敷には旦那さまお一人だから、あなたもあちらへおいであそばせ」
 おいきが半七の手を持って引っ張っていると、この家の主人・助十郎もよろよろと座敷のほうからやってきた。
「どうしたもんだ。半さん、まだ逃げるには早い、早い」
「ところがさっきも話したとおり、きょうはぜひ先生の代稽古を頼まれたのだから、怠るというわけにはいかないのさ」
「そう聞いてみりゃあ無理強いもできぬが、もう一杯ぐらいよさそうなもんだ」
「どうして、どうして。この上、酔うと歩くことも難しい。それにあまり遅刻するのは決まりが悪いから、せっかくのご馳走だが、きょうはお暇をいただきやしょう」
「まあ、お膳を召し上がって」
「ただいまのお湯でたくさんさ」と言いながら半七はお花の顔をちょいと見やった。
「助十郎さん、さようなら。お花さん、いろいろとご馳走さま」
「どうあっても帰るという屋敷かね」
「せっかくお湯が沸きましたのにねえ」
「また晩にでもいただきにきやしょう。おいきどん、お使いだて申した」
 半七が帰っていくと入れ代わりにお花の親元より何やら書状が届いた。
 開けたのは助十郎。
「いや、これはおめでたい。おい、お花。姉さんが今朝、男の子を産んだとよ。おめえはただちに行って、二、三日向こうへ泊まってやらざあなるめえ」
「おや。今朝、生まれましたとえ。それでは私はいまっから暇をいただいて行ってまいりとうございますが、今晩は泊まってもよろしゅうございますね」
「いいとも、いいとも。まあ、五、六日は助けてやってくるがいい」
「はい。ありがとうございます。あのう、おいきや。みんなに言いつけてお酒が済んだら座敷を片づけ、今夜、私は泊まってくるから後のことを気をつけてくんなよ」
 年は若いがこのごろは慣れて勝手を知っているおいきに万事を言い残し、お花は支度もそこそこに供を引き連れて出ていった。

 おいきが取り散らした酒の後を片づけ、鉄瓶へ水をさし、火鉢の火をいけ、灰の中でいたずら書きなどしていると、主人が書斎のうちにいて手を叩く。
 おいきは駈けていった。
「はい。召しましたのでございますか」
「酔いを醒まそうと思って茶をたてたが、独服じゃあうまくねえから、てめえを呼んだのだ」
 助十郎はおいきを書斎へ引き入れ、後ろを閉めさせた。
「さあ、さあ。ここにある菓子を食べてお茶を飲んだり」
 助十郎は菓子を取ってやり、また茶をたてて服すと、おいきは窮屈そうに身を縮めた。
「はい。ありがとうございます」
 おいきは呉司焼の茶碗の茶をおぼつかなげに一口飲んでにがい顔をする。
 助十郎はにこにこしていた。
「さあ、そのあとをこっちのほうへよこすのだ」
「はい。これをでございますか」
 茶碗を渡そうと何気なく差し出した手を助十郎は握ってぐっと引き寄せた。
「てめえをここへ連れてくるとき、大磯の伯母さんと話していたのをさだめし聞いていただろうが、当分、自分の手元において目をかけ、いずれ相応なところへ妹分として片づけてやろう。しかし、一人の姪を手放したら困るだろうと田地を買って、伯母を安楽に暮らせるようにしてやったのだ。もっともお花には内緒だからいままでは知らねえ顔をしていたが、今年はてめえも十六。だんだんに美しくなってくるものをいつまでうっちゃっておかれるものか。そこでお花を里へやり、留守ごとのいまの茶が婚礼の盃代わり、てめえが飲んで俺がさしたから、もうすぐにお床入りだ。それとも、てめえは気がねえか」
 おいきは顔を赤らめ、うつむいた。
「大事な伯母がご高恩になりました旦那さま。いやと申すのではございませんが、かようなことがご新造さまに知れましたらと、それが苦労でなりません」
「それだからいつまでも女房と一緒にゃあ置かねえ。どこか気の利いたところへ家をこしらえて、こっちが通って楽しむつもりだ」
「ありがとうございます。なにとぞ、それまでご新造さまに知れませんように」
「そりゃあ俺も如才なくやらかすが、まずそう決まりがついたら、なかなか晩までは待たれねえ」と、いっそう引き寄せて膝の上に抱き上げるので、おいきはいよいよ顔を赤くした。
「ああれ。この明るい昼日中、私は恥ずかしくてなりません」
「何の人を。どうせ一度は渡る橋だあ。しかし、恥ずかしけりゃここをこのようにしやし」
 そう言うと、助十郎は窓の障子をぴっしゃり閉めて、嫌がるおいきを抱きすくめ、まず十分に口を吸い、前のところに手をやる。
「ああれ。あなた」
 助十郎はおいきが戸惑っているのもかまわず、ヘソの下をうかがう。
 そして、すべすべ、やわやわ、羽二重の絹をなでるように、いまだ手の入っていないものなので、上のほうにつまめるように真ん中がしらが出ているのを、指先にツバを塗り付け、そろりそろりともてあそび始めたが、指二本では思うように入らない、気を揉んでいるうちに、いきりかえっているのを持てあまし、こらえきれず、女を仰向けにして股へ割り込み、入り口からそここことツバをこてこてに塗りまわし、例の割れ目へあてがい、腋の下から肩へ手をかけ、乗り出さないようにゆっくりと気長に腰を使いながら、口を吸ったり、乳を吸ったり、いろいろとこらしているうちに少しそれが入りかかった。
「ああれ」
 おいきが顔をしかめて身を乗り出したので、助十郎は、初めから懲りさせては悪いだろうとそのままにしてしっかり抱きしめた。
「どうだ、痛いか」
「はい」と言うが、鼻をつまらせ、息を切らしてがたがたと震えている。
 助十郎は楽しそうに女の顔をじっと見ていた。
「それじゃあ、これでやめておこうか」
 しかし、おいきはしっかり抱きついて離そうとしない。
「初めてのときは誰でもそうだからじっと耐えていなよ」
 と言うと、今度はそこにもツバを塗り付け、またゆっくり突き始めると、きしみながらもそれはだんだんに入っていった。
 おいきは目を閉じ、口を結び、震え、震え、耐えている様子。
 真っ白な肌から小さな乳をあらわし、あどけない姿。
 思いどおりに犯せるのが可愛い。
 見れば見るほど、これは気を持ち、どきんどきん、ずきんずきんと張り切ってきたので、我を忘れてぐっと押すと半分ほどぬるりと入り、またぎっちりと止まったさまは例えようのない味わいである。
 おいきも痛みが和らいできたのか、股を広げて前髪を男の頬にすりつけながら力いっぱい抱きついてきた。
 こうなったらしめたもの、助十郎はしかり、しかりと抜きさしてついに根元まで入ったのを合図に、ついドクドクと気をやり、初物の賞味に七十五日も気を揉みし、ようやく本意を遂げたのであった。

その二 浅からぬ影を交えて梅柳

 助十郎は女房のお花をその親元へ泊まらせにやり、かねて目をかけていた侍女のおいきをようやく手に入れたが、お花は初めてだったので十分楽しむことができなかったため、今夜こそ十分に男の味を覚えさせてやろうと思っていた。
 だが、その矢先に、主人から火急の呼び出しがあり、しかたなくその夜は空しく家を開けた。
 また、翌日は翌日で早朝に帰宅したが、昼間は何かと忙しく少しもその暇はない。
 しかし、お花がきょうも戻ってこないのを幸いに、夜になると酒肴を用意させ、下男下女をいつもより早く寝かしつけた。
 助十郎は、あたりがすっかり静かになるのを待って、おいきに自分の寝床を敷かせ、布団の上で酒盛りをしていた。
 何となくしっぽりとした廓中の九ツ(夜中十二時)過ぎのような雰囲気だ。
 助十郎はしきりに盃を傾けていた。
「のう、おいき。てめえ、ひょんなものに見込まれてさぞ迷惑だろうな」
 おいきは少し顔を赤らめ、着物の袖口を指の先で恥ずかしそうに引っ張っていた。
「私はちっとも迷惑ではございませんが、明日にもこのことがご新造さんに知れますと、すぐにお暇になってあなたさまのおそばにもいられず、うれしい間もなく、かえって悲しい身の上になるかもしれません。それが心配でいけません」
 十六の年に似合わない言い回しであった。
 助十郎はうなずいた。
「なるほど。それはもっともだが、おとといナニしたときにも言ったとおり、ボロの出ないうちに外へ囲うつもりだ。しかし、もしその前にお花に知れてしまい、あれこれとやかましく言いやあ、お花を追い出しても、てめえを見捨てるという法があるものか。だから、かようなこたあ案じねえでいるがいいやな」
 助十郎はおいきの手を取って引き寄せ、膝の上に寄りかからせると、可愛らしい背中を撫でた。
「本当にそのようにあそばしてくださるのなら、まことにうれしゅうございますわ」
 おいきはそう言うのがやっとで、あとは男の着物の仕付け糸を爪でちょいちょいとさわっている。
「あんまり飲みすぎると肝心のものが役に立たなくなるから、もう酒はやめにして、今夜は前と違ってゆっくり教えてやろう」
 助十郎は、お燗の徳利や肴の皿を膳の上へひとつにまとめ、部屋の隅にずっと押しやった。そして、おいきを布団の真ん中に寝かせて帯をとかせ、自分も帯をとくと、おいきの丸裸の内股に太腰を割り込ませた。
「こんな大きなものが入るんだもの、初めてのときにゃ、ちったあ痛えはずだ」
 と言いながら、いきり立ったものを突き出し、恥ずかしがって顔をそむけるおいきに無理矢理見せつけた。
 そして、頭にツバをぬるぬると塗り付けると股の間に臨み、徐々に突いていこうとするのだが、怒りきった大物だったので、カリのきわがきしんで入らない。
 再び指にツバをつけると、今度は真ん中頭の上のほうをしこり、しこりと撫で上げた。
「ああれ。くすぐっとうございます」
 おいきはその手を脇のほうへ払いのけた。
 だが、助十郎はひるまず抱きついて口を吸い、尻を撫でる。
 そして、乳をつまみ、ゆったり落ち着きながら、おいきの顔をつくづく見れば、上気して耳から襟元までを火のように赤くして、されるがままになっている。
 可愛さが込み上げてきて、助十郎は思わず鼻を鳴らし、左右の脚をすくい上げ、あたりかまわずなで回した。
 二本の指をもぐりこませ、奥深くまでいじくりながら頬をすりつけ、舌の先が離れそうになるぐらいに吸い続けていると、新開とはいえ、はや十六で十分に色気づいている女は、ついには入れてほしいと思うのか、目をつむり、下から抱きついて尻をちょっとずつ、もじらせていく。
 せいせい、すうすうと息が荒くなっていた。
 もはや大丈夫に違いないと思った助十郎は再びそこをツバでぬらし、いきってはちきれそうなものを割れ目へちょいと食い込ませ、ゆっくりゆっくり、しごくように五、六度、腰を使い、力を入れて、ぐい、ぬっと一思いに押し込むと、吐淫とツバのぬかるみでさすがの大物が半分入った。
 その気味のよいこと、心地のよいこと。
 いまだ初物の印であろう、そこには紙一枚のすき間もなく胴を締め付けてくる。
 すっぱすっぱといろいろに腰を使えば、女は尻をもじらせて、こちら、そちら、あちらともだえかいていく。
「痛いか」
「いいえ」
「それでも苦しそうだからさ」
 女は細く目を開き、恥ずかしげに男を見た。
「あのう、何だかくすぐったいような、しびれるような心持ちで気が遠くなってきましたが、これがいくというのでございますかねえ」
「ふうむ。さようか。それは気のいく兆しだから力を入れて抱きつきな」
 助十郎ももぐっと力を入れて四つに組み、いまは遠慮も加減もなく、スカリ、スカリと大腰に底まで押し込んだ。
 おいきの顔を見ると額にしわが寄り、枕をはずして結ったばかりの髪を布団にすりつけている。
 前髪が横に抜けて小脇のほうに下がっているのも気づかず、鼻息が一段と高くスウ、スウ、ハア、ハアとはずみ出してきた。
「あれ、旦那さん。どうも、ああ……いい……。それ、それ何だかもう、うれしくって、ああ……う……。いい、いい」
 新開とも思えない本物の美悦に男もはや耐えかねて、ズブリ、ズブリと大腰に十四〜十五度も突きまわせば、そこら辺り一面、もうむずむずして、湯より熱いものがドキン、ドキン。
「ああ、いく、いく。こちもそれ、いく、いく」
 と二人一緒に気をやって、ぬめる股をふこうともせず、そのまま口を吸い合った。
 女がようやく目を開き、男の顔を恥ずかしそうに見てにっこり笑った。
 屋敷内を一人で回る時まわりの「四ツ(夜十時)でございまあす」と張り上げる声が聞こえてきた。

 さて、半七はどうしたことかお花のことが好きになってしまい、助十郎の屋敷へいくたびに慕う心が増し、一人、思い悩んでいた。
 助十郎とは同じ主人に仕える身で、兄弟と呼んでもいいほどに交わりを深くしている仲である。
 そのような人の妻に恋慕の気持ちを持ってしまったことは、情にもとり義にはずれて武士の道が立たない。
 そうはいってもお花のことは片時も忘れられない。
 見れば煩悩が増すのだから見ないのがよかろうと、助十郎方へは行こうとせず、家に引っ込んでばかりいたが、しかしそれでもお花のことが忘れられない。
 男と生まれたからには、その女と添い寝ができれば露の命も惜しくはないと、ただ一念に惚れ込むほどで、それがついには病の原因となり、勤めにも赴かず、床に伏してうつらうつらしている毎日。
 薬も灸も効かず、すっかりやつれ、衰えていた。
 半七のことを聞き、原因を知らない助十郎は病が気にかかり、ある日、半七方へ見舞いに行った。
 助十郎を見た半七は力なげに枕を上げた。
「助さん、よく訪ねておくんなすった。お前さんとはとりわけ懇意にしていたけれど、私の病気はしょせん、本復しねえと思いやすのさ」
 すっかりうち萎えて涙に暮れる姿が痛々しい。
「なぜそのようなつまらねえことをお言いなのだ。縁起でもねえ」
「生きていたって願いがかなわず、ままならねえ浮き世なら、死んでしまうほうが結局ましさ」
「そりゃ悪い了見だ。どんな願いか知らねえが、およばずながらお力になって骨を折りやしょう」
「私の病気はお前さんの心ひとつでかなう願いだが、それは死んでも口には出せないことさ。いや、いや、こればっかりは願いがかなったところで、そうなっては信義に欠ける。諦めるよりほかにしかたがないのさ」
「それが半さんとはおぼつかねえ。日ごろ親しくしているのは何のためだ。たとえ道にもとったことでもお前さんと私の仲じゃねえか。これほど言うのを無にして命に代えることはねえから、頼みの筋をお話しなせえな。その代わり、私のほうでも頼みがあるから」
 助十郎のことさらの意見に半七はしばらく黙っていた。
 そして、ようやく顔を上げると、お花を見初めてしまったこと、兄弟同然の人の女房に恋し、慕うのは道にもとること、かといって心で心に意見をしても、ただただ思いが増すだけで忘れることができない、それならば、その人に会わないようにするのがよいと、先日より助十郎の家に立ち寄らないようにしていたが、恋慕の情はいっこうにやまず、ついに病の床に伏せってしまったことを話し、面目なさそうにため息をついた。
 助十郎はしきりに額を撫でていた。

続く

[春情花の朧夜梅柳 恋衣濡色 糸柳寝屋の月 糸瓜桜 色好奥の院 花吹雪桜紙 怒竿裾開 玩言花腎 乱舞朧夜] 長枕褥合戦 書架