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       春情花の朧夜

       その七 絡まって離れぬ垣の糸瓜かな

 勤めを終えて屋敷から戻った半七は、忍んでやってくるお登世を待つ毎日だった。
 しかし、めったに戸が開くことはなく、寂しい日々を送っていたときに、思いがけず助十郎の女房のお花が訪ねてきたので、これはとばかりに驚いた。
「どうしてここへお訪ね……」
 半七は言葉を打ち切って、お花の後ろを見回した。
 助十郎が一緒かと思うと、うかつに挨拶もできないので言いとどまったのである。
 お花もお花で家の中にほかに人がいないかとうかがって、半七のほかに人気がないことを確認すると中に入った。
「ああ、嬉しかった。駆け落ち者となったので、お前さんの居所が知れない日にはたいへんだと、どんなに苦労をしましたろう」
「何、駆け落ち。それじゃおめえさん、一人かえ」
「たった一人でございますが、お前さんもこの家にお一人でございますのか」
「陰法師をいれりゃ二人だが、こんな立派なところをお目にかけちゃ面目ない話さね」
「それもやはり私のせいでございますから、お気の毒でお気の毒で、どうしたらよかろうと思いました」
「何にしてもまあ、こっちへと言いたいところだが、暖をとるにも小さな睾丸火鉢という有り様。しかし、渋茶なら沸いております」
と、まずは茶を勧めて、改めて一通りの挨拶をした。
「どうしてここを訪ねておいでなすったのか。実に肝が潰れやすぜ」
「さように思し召すのはごもっともでございますが、一夜なりとも女房を人に貸そうという助十郎の不実と、家にも身にも引き替えて私をお思いくださる半さんの真実とを比べてみれば、片時も助十郎を夫として家にいる気にはなりませんから、こうしてお後を慕って参りました。おしつけがましゅうございますが、なにとぞ、私をあなたの女房にお持ちなすってくださいまし。いまとなってはこれといって参るところのない身の上。もしお嫌だとおっしゃるのなら、このままここで死ぬ覚悟」
 お花が懐より九寸五分の短刀を取り出したので、半七はあわてて制した。
 半七には思い詰めたお花の気持ちがよくわかったが、もともと、わずらうほどに惚れた女である。
 枕を交したこともあり、こうなれば濡れぬ先こそ露をも厭え、とばかり、嫌になるまで一緒にいようという若気の迷いが再び生じてきた。
「書き置きを残して身を退いたのは、人の女房を一夜とはいえ抱いてしまい、すまねえという義理人情を考えた上のことだったが、その切なる願いを聞いたからには、その心にほだされても、うん、と言わなけりゃならねえ。恩を仇で返す義理知らずと人が聞いたら言うかもしれねえが、おめえさんはいまからこっちの大事な女房。どのようなことでも見捨てはしねえが、その代わりにゃ、こっちは助十郎さんと違って嫉妬焼きだから、オス猫でも容易に抱かせることはならねえよ」
「あの、本当に私を女房になすってくださるのかえ」
 お花は半七の顔をじっと見ながら嬉しそうに微笑んだ。
 だが、まだ半信半疑のようでもある。
「遠いところからきたものだから、いい加減な気休めをおっしゃっているのではありますまい」
「切羽詰まったこの場におよんで気休めどころじゃあるめえぜ。それでも胡乱だと思うのなら」と言いかけて、半七はお花の手を取って引き寄せた。
 そして、お花がそのまま自分にふわりともたれかかってきたところを膝に抱き上げてほっぺたをすりつけ、顔を見合わせてすっぱ、すっぱと口を吸う。
 一度、強く抱きしめた。
「さあ、これでよかろう。嘘でねえというちょっとした手付けだ」
「きっと本当でございますよ」
「何のかんのと気を持たせて、また外に死ぬほど惚れた男ができたら、すぐそっちにいくのだろう」
「あれ、憎らしい。そのような心があれば、これほど苦労はいたしませんよ」
 抱かれていたお花は甘えるように半七の手をかじった。
「そういいながら手荒なことをするぜ。これじゃ了見ならねえが、いまは疲れているだろうから、お夜食でもご馳走しやしょう」
 半七はお花を膝からおろすと、さっと表へ出て行き、すぐにちょっとした酒と肴を用意して戻ってきた。
 半七はお花と二人で酒を飲み、取り膳で飯を食い、茶を飲む間も話は尽きなかった。
 あっという間に四ツ(夜十時)を知らせる鉄拍子木の音が聞こえてきた。
 表の雨戸に鍵代わりの棒をかう。
 引っ張りだしてきた布団は薄いせんべい布団ではあったけど、二人の縁は厚いから、夜着はひとつしかなくても誰にはばかるということもない。
 二人は帯をといて布団に寝転がった。
「やあ、いけねえ。枕が足りない。ひとつしかなかった」
「私はこのたばこ箱を代わりにするからいいよ」
「なに、そのようなものじゃ、頭が痛くってたまらねえよ」
「これでようございますから、お寝みなさいよ」
「それじゃあ代わり番こにしよう」
「おお、温かい」
「この足をこうやって、もっとこっちに寄りなよ」
「お酒の匂いがお嫌だろうと思ってさ」
「そりゃこっちも同じことさ」
「ほんに今夜のように嬉しいことはございませんよ」
「何ぞと言われて図に乗るようだが、もっと腰巻をまくらねえと邪魔になっていけねえやな」
「そんならとってしまいましょう」
「それ見ねえ。こっちが腹までべったりおしつくだろう」
 嬉しそうにお花は
「ああ」と声をあげながら、半七の顔をじいっと見つめた。
「お前さんは鎌倉におありのときより、よほど痩せたようだねえ」
「当然さ。どこかの人のお陰で死ぬほどにわずらったり、家を潰すほどの苦労をしたんだもの」
「ほんにねえ。その咎人が私なんだから、お前さん、存分にしてくださいな。殺されても恨みはないよ。おお、可愛い」
 お花が抱きついてきた。
 半七の股間が火のように熱く、誇った。
「どれ。そんなら存分に恨みを晴らそう」
 半七は、仰向けになっている女の上に乗り、ぽっぽっと温かくなっているその内股に太腰を割り込ませると、女も股ぐらをぐっと押し付けてきて、早く入れてと言わんばかり。
 乳をくまなく撫で、真っ白な下腹からヘソの下、一〜二寸まで撫で下ろすと、じゃり、じゃりと手にさわるものがある。
 さらに、そこを丹念に撫でて指を下の真ん中に差し込むと、すでにぬらぬらと出かかっている。
 女は尻を左右にもじもじとよじらせた。
「あれさ。そのようなことはしないで、早くどうにかしておくれよう」
 半七は女が悶えているのを見澄ましてから、筋張って、ずき、ずきと反り返った怒り棒をそこに望ませ、ずぶ、ずぶと押し込んで、すかり、すかりとやりはじめた。
 そのたびに、すっぽ、ごっぽと音鳴りするのが気持ちいい。
 お花は荒く、細かな鼻息をスウ、スウ、ハア、ハアとたて、下腹をぐいっと凹ませて、その左右で男をくいしめ、抜き差しする巨木をしごいている。
「おお、いい持ち物だ。ああ、いく、いく。こりゃあ旅をしてきて錬れているせいだろうか、何ともたまらねえ」
 何とも言いようのない心地好さに、半七は我を忘れて抜き差しすることに没頭した。
「歩いた後はいつでもこうなのか、私もよくって、よくって、あれ、あれ、二度目がいきますよ。もし、旦那え、一緒におやりよ。それ、それ、誠にどうも、どうも」
「たまらねえ。ああ、いく、いく。それ、いく、いく」
 道辺を出入りする月夜の音がすっぽ、すっぽ、くっちゃ、くっちゃ。
「口を、口を」と女が舌を出して男の頬をなめまわすと、男はすぐに舌を口に差し込み、チュウ、チュウ、チュウ。
 女芯の精魂、男の夢見。
 ドック、ドック、ツイ、ツイと二人一緒に気をやった。
 一息ついてから半七が枕を渡すと、ようやくお花は目をあけて半七を見、嬉しそうににっこり笑った。
「こんな意気地のない形になって愛想が尽きませんか」
「尽きたと見えてもまだ木の枝のようにこんなだぜ」
「取ると布団がだいなしだから、しっかりとそうしてお在りなさいよ」
 お花は男の腹の上に乗って身をよじらせると、たばこを吸い付け、男に渡した。
 半七はその煙管を受け取って飲んだ。
「おめえの家へ忍んでいって、初めてナニしたときよりサセ巧者になり、ここの風味も一段と上がってきたから妙じゃねえか」
 お花は半七の顔を見ながら笑い出した。
「そのときとは味が違いますかえ」
「今夜のほうがよっぽどいいように思われるぜ」
「こうなれば本当のことを言いましょうか」
「本当のこととは何だ」
「実はね、あの晩にお前さんと寝たのは私ではない。おいきだよ」
 そして、かくかくしかじかと、ことの次第を話すのを聞いて、半七は驚いた。
「何のことだ。それじゃあ、こっちはおめえだと思って、おいきの新開を割ってしまったのか」
「何、おいきが初めてなもんかねえ。とっくに助さんがどうかしてしまったのさ」
「そのお古とやっておめえだと思い、屋敷を出奔しちゃあ、よくよく馬鹿げていたっけのう」
「それだからお気の毒でならないので、こうして後から追っかけてきたのでございまさあね」
「どうりでこの味が違うと思った」
 半七がそう言ってまた腰を使いはじめたので、お花は
「あれさ、まあ、ちょっと拭こう。お待ちよ」
と布団の下から紙を二〜三枚取り出して重ね、白魚のような奇麗な指で男の根元をぐっと握った。
 そして、男が少し腰を引いたところを、ぬるりとしている胴中から茎節のあたりをすっかり拭き、その紙で自分の中のぬめりも掃除した。
「さあ、いいんだからどうでも自由にしておくれ」
 お花が男の力みをつかんで真ん中にあてがうと、半七は続き玉の蒸し返しでまた押し込んで秘術を尽くす。
 交合上手とサセ巧者に双方とも幾度となく気をやり、お互いにぐったりと疲れてそのまま寝てしまった。

その八 数珠をくる手にも折りたき桜かな

 江戸は芝にある芝大神宮という社は、神代の御代より鎮座ましまし、とりわけ天正のころ(十六世紀後半)、小田原北条氏の配下だった遠山左衛門太夫がこの地を治めていたときに参詣する人が増えた。
 祭礼は毎年九月二十一日から二十八日で、このときは貴賤を問わず参拝者が多く、千木箱や甘酒などを売るのは古来から続いている習わしだそうだ。
 この社内の水茶屋の腰掛けに四十四〜四十五の男が腰を下ろしていた。
 小太りで色が白く、青ヒゲが目立ち、金満家のように見える恰幅のよさである。
 男は近所の呉服屋の番頭だった。
 その男が茶店に出ている大年増の女に声をかけた。
「のう、おばさん。この間っから向かいの店に出ているあの子は、えらく美しい代物じゃないかいな」
「さようさ。とんだ評判がようございますよ」
「ご亭主でもあるかいな」
「おや、聞かないこと」
 女は男の背中をはたく真似をして、手首をちょいと振った。
「あの娘はこの表通りの裏にいる按摩さんの娘で、お屋敷下がりだという話。それを聞いてどうなさる思し召しだねえ」
「どうなるといって、こっちは首ったけだが、何かとお前の働きで私に世話をしてはくださるまいか。骨折り賃は即金じゃぞえ」
「おほほ。またあの娘とはそんなに心安くありませんが、話してみましょうかねえ」
「この恋がかなうように頼めるのは縁結びの出雲の神様。先方が納得してくれたら、足入れとして三両、あとは月々二両、成功したらお前にもお礼をたくさん。いずれ二〜三日中にその返事を」と言って、額銀ひとつ(四分の一両)を紙に包んで渡した。
「こりゃあ、きょうのお茶代だ」
 女はニコニコして頂戴した。
「なるたけ、私がそのようにこぎつけますよ」
「頼むのはお前の働きばかりじゃ」
「まあ、ごゆっくりと。これは旦那、ありがとう」
「それでは二〜三日経ったらまた吉相を聞きにきます」
 男は忙しげに帰っていった。
 水茶屋の娘は、助十郎の召使いのおいきだった。
 助十郎とおいきは伯母のところで半年ほど遊び暮らしていた。
 だが、貯えもかなり使ってしまったので、いずれこのままでは覚束なくなることは目に見えていた。
 そこで、二人で相談し、助十郎はおいきに金子三両を渡して伯母に後のことを頼み、自分は上方のほうにいる知り合いを頼って、そこで仕官しようとさっそく身仕度して旅立ったのである。
 おいきは助十郎の言葉に従って大磯にとどまっていたが、それ以前は鎌倉にいたこともあり、まして一人になってからは田舎暮らしが快くない。
 そこで、助十郎から便りがあるまで江戸で奉公しようと、芝神明町の裏借家にいる伯母の従弟を頼って出てきたのである。
 だが、歳が若く、愛敬もあるので奉公に出るよりは社内の水茶屋に人のあきがあるので、そこで働いたほうが近道だろうと勧められ、おいきもついその気になって水茶屋の看板娘になったというわけである。
 さて、おいきの取持ちを頼まれた茶屋女が、翌日早々、そのことをおいきの家に伝えにくると、主人夫婦はたいへん喜び、おいきにもそれがいいと勧めた。
 おいきも店に出るようになって、世間の様子を見よう見まねで知るようになってからは浮気心がつき、助十郎の便りもいつになるのかわからなかったので、これからの長い月日を人の厄介になって暮らすよりはいいだろうと、その話を承知する気になった。
 助十郎とわけありの仲でありながら、お花に頼まれて一夜だけだったが半七と添い寝した心から察すれば、おいきの気位とはそんな程度なのだろう。

 さっそく話が進んでその夜のことである。
 例の茶屋女があの番頭を伴い、おいきの家の障子を開けた。
「さあ、喜六さん、お上がんなさい。あの例の旦那をお連れ申したよ」
 主人の女房が立ち上がった。
「よう、いらっしゃいました。誠に物置き同然で汚いけれど、すぐに二階へ」
「ああ、それがいい。さあ、旦那」
 茶屋女は喜六を先にして二階へ上がっていった。
 そして待つ間もほどなく、あつらえの酒、肴が運ばれ、続いておいきが入ってきて、喜六に向かって手を突いた。
「よう、いらっしゃいました」
 初々しい小声で初対面の挨拶をしたおいきが媒酌女の近くにきて座る。
 ろうそくの明かりから背けるようにしている顔は、見れば見るほど美しく、番頭の喜六はうつつを抜かしていた。
「さあ、ひとつ、始めよう。おいき坊とやら、もうちっとこっちへ寄りなせえな」
「おや。いつの間にこの子の名前を知って。油断ならないものさねえ」
「それはもし、いまは他人だが、まだ生まれない前の世ではえらい深い間柄のおっこち(情人)じゃったが」
「おほほ。その気でひとつ、ちょっとお酌を」
「おっと、よし、よし。こぼしてしまっては縁起が悪い」
 これよりしばらく酒宴となって、ほどよく酔いがまわってきたとき、喜六はこの家の女房を呼んで、懐から紙入れを取り出し、約束の金子を渡した。
 また、ほかに女房と知己になった祝いとして一分、媒酌女には小判を一枚を渡して、酒、肴の代をも済ませ、改めて、めでたいと差しつ、差されつ酒を飲みはじめた。
 そうこうしているうちに、表から早四ツ(夜十時)を知らせる拍子木鉄棒の音が聞こえてきた。
「ひどく酔ってはしかたないんでありますから、もう、お開きにいたしますよ。旦那はお泊んなさいましな」
 女房も相槌を打ったが、喜六はもとよりそのつもり。
「えらく酔ってしもうたわいな」などと、それとなくほのめかしてみる。
「もう、お帰りには遅いじゃありませんか」
「いっそ、御輿をすえましょうか」
「そしてゆっくりお祭りを」
 媒酌の茶屋女はにっこり笑って喜六の背中を叩いた。
「お楽しみを。さようなら。旦那え」
「姐さん、いろいろありがとう」
 女はその言葉を聞き流しながら帰っていった。
 喜六が雪隠に行っている間に、取り散らした酒肴の器はすばやく片付けられ、布団が敷かれた。
 戻ってきた喜六は帯も解かずにたばこをくゆらせる。
 おいきは寝衣になって喜六のそばで恥ずかしそうにしていた。
「寒いのに早くこの中に入んな」
「お酒に酔ったせいか、何だかのぼせてなりませんわ」と言いながら男のほうに膝をすりよせるようにした。
「あの、私のようなものをお世話なすってくださいますとは、ありがとうございます」
「どうしたことやら、お前があの店へ出た日にちらりと見かけ、はても美しいと惚れ込んで、こうなるまでの心のうちは並み大抵のことじゃない。いずれ近所の新道に別に宅をこしらえ、下女のひとりもつけて不自由な目はさせぬぞ、と私は思っている。とんと命もお前にやります」
 男はおいきの手を引き寄せてその内股を探った。
 そして、女の顔へ頬をすりつけ、口のあたりをなめると、可愛い舌を少し出してきたので、それをすっぱ、すっぱと吸いながら、股ぐらを探って楽しんだ。
 男は石木のように張り裂けるばかりになったので、おいきの帯をくるくると引き取って、自分も丸裸になり、女を仰向けにして、脚を開かせた。
 股の間を覗きこむと、あそこは膨れあがり、とがったところから両縁までが鶏冠色で、見ただけでいってしまいそうな妙開である。
 眺めながら人差し指でいじると、久しぶりなので玉中がほてってむずがゆく、女宮の奥までうずいてくる。
 おいきはちょっとずつ腰をもじらせた。
「あれ、もう、そんなことはよして、早くどうかしておくんなさいよお。裸で寒いからよお」と枕を鳴らして身もだえした。
 喜六はここぞとばかりにおいきを四つに抱きしめ、隆々とした大物を尻の菊座と前の間にどさっと乗せ、こっちとその真ん中にこてこてとツバをつけて、ゆっくりと腰を使って押し込んだ。
 先ほどからの欲情に、ぬるぬるっとして奥深くまで入る。
 そして、大竿の切っ先が女門の縁に突き当たり、両方一緒に、どきん、どきんと脈を打ち合う心地好さに、二人は思わず抱きしめ合い、顔と顔とをすりつけて、またチュウ、チュウと口を吸いあう。
 男は女の尻の下に手をまわして持ち上げ、大腰にすかり、すかりと深く、浅く抜き出しする。
 あるいは、口元をちょい、ちょいと突きまわしたり、そこの上っ面をその先でこすりあげたりなど、三浅九深さまざまに秘術を尽くして扱うので、おいきは男の首筋へぐっと抱きつき、顔をしかめた。
「あれ、もう、こんなにいいのはどうしたんでありますねえ。お下見だろうと我慢をしていましたが、どうもよくって、よくって、いく、いく、それ、それ、おお、いく。もうちっときつく。ハア、ハア、フウ、フウ」
「こうか、こうか。どうじゃいな。ええ、たまらぬ」
「それ、それ。旦那え。やりますよ。ああ、いく、いく、きつく、きつく」
「私もいくぞ。ああ、いい気味じゃ。おお、いい。死ぬ、死ぬ」
 二人は泣き声をあげながら一緒にドク、ドクと気をやり、ぐったりと疲れて抱きついたまま寝てしまった。
 喜六はおいきに惚れ込んで、横町の新道に二間間口の売り家があったのをそっくり買い取ってここにおいきを移り住まわせ、山出しのあか抜けない下女二人をつけてその世話をさせた。
 自分は時間ができたり、暇があるときにやってきては楽しんだ。

つづく

[春情花の朧夜梅柳 恋衣濡色 糸柳寝屋の月 糸瓜桜 色好奥の院 花吹雪桜紙 怒竿裾開 玩言花腎 乱舞朧夜] 長枕褥合戦 書架