歴代の川柳と解釈    神代・紀元

櫛名田はスサノオの蛇をすっと呑み
 櫛名田姫はヤマタの大蛇を退治したスサノオの尊と結ばれた

富士川へ手水コノハナサクヤ姫
 手水は小水、コノハナサクヤ姫は富士浅間神社の祭神富士山である

サクヤ姫臍下あたり雷雨荒れ
 富士山(コノハナサクヤ姫)でなくとも臍下あたりは屡々荒れる

峠にてヤマトタケルは前抑え
 碓氷か足柄の峠でヤマトタケルは東を望み浦賀水道で彼のため入水した愛妾オトタチバナ姫との日夜の愛を偲んだ

帆柱を立て寝てけつかると張飛告げ
 蜀王が勇将張飛等を従え孔明の庵を三回も訪れたとき二七歳で悠々自適の彼は奥まったところに裸で昼寝をしていた 三国志

    平安時代

道鏡でなくとも抜けば湯気が立ち
 抜き身がほてって湯気が立っていたから弓削の道鏡という

鳥羽の院くじってみても気がつかず

道理で毛深かったと鳥羽の院

その後は尻なぜてからする鳥羽の院
 鳥羽の院の相手は九尾の狐でその後は尻尾を確かめるようになる

小町針孔がないのを納得し
 孔がない針をまち針というが小野小町が語源

    百人一首

秋の田の庵で濡れる好いた仲

読み女逢坂山のあと小声
 なにしおわば逢坂山の・までよく通る声で詠みあと小声になる

業平も九十九歳に添え木あて
 業平は言い寄る女を皆抱いたがこの老婆には苦労した

業平は言問ながら止めもせず
 なにしおわばいざ言問わん都鳥の歌の後も多くの女性と交わる

蛤が好きで蜆も肥るなり
 色好みの業平の名をつけた橋の下の蜆は大ぶりで味も良かった

行平は腰蓑二つ分け比べ
 業平の兄行平は須磨へ流され海女の姉妹と交わる

業平を行平で炊く独り者
 業平橋の下の蜆を行平鍋で炊き色好みの兄弟にあやかる

    源平合戦

牛若の目が覚めますと常磐言い
 常磐御前は幼い牛若兄弟を助けるため平清盛に身を任せた

義朝と比べてどうだなどと抱き 義朝は常磐御前の前の相手

門院を水から上げてまた濡らし
 建礼門院は壇ノ浦で入水したが引き上げられ義経にされる

草摺りで傷門院の御内股
 鎧のままの義経にされたので鎧の草摺りで建礼門院は傷ついた

義経は母をされたで娘をし 建礼門院徳子の父は平清盛

義経は熊毛突いたり殺めたり
 義経は女の熊毛を突いたり賊熊坂長範を斬りすてたりした

踊るのも転ぶも静達者なり
 静御前は謡いと踊りと夜の務めが職業であった

巴ここは鞍ずれかと義仲聞いてみる
 巴御前は騎馬で参戦し敵将の首を引き抜いた女武者

膝枕北条政子は股しびれ
 頼朝の大頭で妻の北条政子は足だけでなく股までしびれがきた

    戦国時代

秀吉の母は日を抱き月が止み
 秀吉の母は日吉権現に祈り日輪が懐に入る夢を見て懐妊した

蘭丸に突かれて安田夜戦止め
 本能寺で信長に槍をつけた安田作兵衛は森蘭丸の槍で一物に傷を受けた

落城の濠に浮いてるこけし形
 奥方のものか姫のものか或いは奥女中のものか

三成は茶をいれるたび指を入れ
 三成は寺小姓のときぬるいのから熱いのまで三度茶を出した

三成は茶の後釜で城を持ち
 三成は秀吉の小姓、オカマで近江二十万石の城主になれた

寺小姓淀の夜船に棹をさし
 三成が側近になって淀君に子種がないはずの秀吉の子ができた

寺小姓間坊主をして追い出され
 寺小姓は僧が妻帯しない頃オカマをしていた

    江戸時代

主人抜く頃勘平は突いている
 浅野内匠頭刃傷の頃供侍勘平は腰元お軽と逢い引きしていた

細かりし由良の助とは遙泉院
 内蔵助が出した張り形を試して内匠頭の奥方遙泉院が言った

悼むべし四十七人後家ができ

惚れられる程は残して後家の髪 尼になる未亡人

住職を成仏させる若い後家
 亡夫の一番好きなモノを供え住職は本当の極楽を知った

花筒を握って後家は思い出し
 花を供える竹筒の太さ堅さ節の感じが似ていたのだろう

主なしとて男忘れぬ湯島茶屋
 東風ふかば:を詠んだ道真を祀る湯島天神に陰間茶屋あり

越中が外れて越前顔を出し
 越中褌が外れ越前大名行列の熊皮の槍鞘のようなものが見えた

行列を割って産婆の荒い息
 産婦の所へ駆けつける産婆は大名行列へ土下座しない特権があった

それとなく大きいのから出す小間物屋
 張り形は小さいのから出すと買い手はもっと大きいのとは言えない

屋根葺きが出したで騒ぐ長局
 越中褌がづれて横から物が見え奥女中宿舎は大騒ぎ

もようしても知られぬ女罪深し
 男は怒張するので分かるが濡れるのは他人には分からない

抜けぬぞと女房を脅し伊勢に発ち

一寸入れ先ず抜いてみる伊勢の留守
 夫が伊勢参りのとき妻が浮気すると抜けなくなると言う

従兄弟にもしろよく来ると旅の留守
 男出入りの言い訳に用心のため従兄弟が来ると言ってある

蛤を吸えばだし汁漏らすなり

蛤が赤貝になる年の頃
 蛤は白身で閉じているが赤貝は赤身で少し開いてる

生物を食って下腹張ってくる
 この生物は松茸のようなもので松茸ではない

入り口で親子と薬屈んでる
 他の指がかがんで二本指が中に入っている状態

よしてよの上のよの字は飾りなり
 止してよか、してよか、わからないときもある

全快し間男達に礼に行き

間男の不首尾こぼしこぼし逃げ
 丁度出るとき、こぼすのは愚痴だけではない

出合い茶屋危ない首が二つ来る

賑やかでは儲からぬ出合い茶屋

出合い茶屋昼だけの宿と妻思い
 夫の留守中に行くだけの所ではない

鼻声の出るとき抜いて食いつかれ

抜くときに舌打ちをする大年増
 抜くとき舌打ちするのは白髪のときだけではない

さわりの夜御不動様のようになり

さわりの日暫くは持ちの良い嫁の髪

枕紙置いて七十六日目

ついぞない朝寝七十七日目 産後七十五日は交合禁止である

みんな留守猫のつるむをよーく見る

始めると夜具から猫が滑り落ち

毛じらみで尼と入道二人でき
 毛じらみは相互にうつるので二人とも一緒に剃るものだ

小娘に頭だけだと口説くなり
 頭の丸い方だけで太くて長い方は入れないと口説く

口説き方他にあろうに手を合わせ

若旦那夜は拝んで昼叱り

産むよりはよほど楽だと我慢させ

関守に出しかねる筈大へのこ
 関所は入り鉄砲と出女を厳しく調べたので女形は困った

スッポンの首を関守見て通し
 出女は男装しスッポンを股に挟んで関守の検査に備えた

紫色雁高死ぬ死ぬと女声を出し
 ししきがんこうは紫色で雁首が高いこと

紫色雁高掛け軸の絵かと女史思い
 おとこの中にあり伸びたり縮んだりするが紫がかった空を雁が高く飛ぶ絵画ではなく客の前に見せる物でもない

紫色雁高お経の名かと後家思い

陰茎が勃起と学者妻に言い
 別に難しい言葉を使わなくて良いのに

蚊帳へ逃げ今度は臍下狙われる
 雷に臍を用心し蚊帳に逃げればその下を狙う者が居た

起きて寝てまた睦み合う蚊帳の中
 加賀千代女の起きて見つ寝て見つ蚊帳の広さかなの対句

墓地で抱き戒名を読み叱られる
 男は交合中目に付いた墓石の戒名を声を出して読んだ

芭蕉逝き訃報国中かけめぐる
 辞世「旅に病んで夢は枯れ野を駆け巡る」芭蕉の門人は全国に居た

京女立ってたれるが少し瑕 昔は京女も立ち小便でした

できるだけ嫁小便を細く出し
 嫁ぎ先の家族の耳を気にしている嫁もいる

小便で一畝崩す田舎嫁 丈夫で働き者の嫁として歓迎された

五六軒の小便で妾家を建て
 金で妾になり寝小便、更には寝糞で、旦那を何度も替える

道端で屈めば覗くごぜの供
 ごぜは盲目の女旅芸人で身も売る、昔は女も道端でたれた

早乙女をすすいで夜出す田舎宿
 田舎の宿場は売春兼業農家であった

湯気の立つへのこ手入れで狼狽える
 昔は許可ある場所以外での売春は禁止されていた

生身でも老いれば玩具に劣るなり

蛍より寂しい提灯隠居下げ
 ぶらりと下がり皺があり柔らかくてりがない提灯

2004/3/7投稿者:shosuke1919(大阪府)
 楓橋夜泊 森川許六「和訓三体詩」

ともの夜泊の楫かじ
むろの浮き寝の波の床
汐馴れ衣一夜妻
かさねて寝んと漕ぎ寄せて
上がり下りの舟がかり
近ずきぶりに垣間見の
空約束に待ち詫びる

門のじゃらつき 梯子の轟き
胸つぶるる折からに
田舎渡りの訳知らず
まかれて人にもらはるる
只一人寝の床寒く
月落ちかかる淡路島

生田の森の群れ烏
秋の霜夜の明けかねて
海人の漁火行き違い
寝覚めの煙草くゆらせて
すこし晴れ行くうき眠り

松の嵐の一の谷
須磨寺につく鐘の声
波の枕に伝い来て
舟は湊を押し出しにける

月落ち烏啼いて女房腹を立て

2004/7/22  8403 投稿者:ja1931pan (72歳/愛知県)

 吉原川柳

初会には壁に吸付く程座り

裏の夜は四五寸近く来て座り

もっとよくされる気で来る三会目

三会目よっぽど惚れた真似をする

他客ひとは客 俺は間夫だと思う客

傾城に嘘をつくなと無理を言い

嘘なら嘘にしなんしと嘘をつき

傾城に 可愛がられて運のつき

傾城に 振られて帰る果報者

大門を出ると女房がこわくなり

 江戸後期の物価
納豆 四文 百円
かけ蕎麦 十六文 四百円
天麩羅蕎麦 三二文 八百円
酒一合 二十文 五百円
桜餅 四文 百円
錬リ羊羹 二匁 三千三百円
初鰹 一分 二万五千円
湯銭 六文 百五十円
蛇の目傘 二朱 一万二千五百円
草鞋 二十文 五百円
髪結い代(女) 五十文 千二百五十円
お灸治療 二四文 六百円
按摩治療 四八文 千二百円
売薬(膏薬) 十六文 四百円
かわら版 四文 百円
駕篭賃(日本橋〜吉原) 二朱 一万二千五百円
旅籠宿賃 二百文 五千円
医者の診察(一回) 一分 二万五千円
医者の薬代(一週間分) 二分 五万円
芝居(桟敷席) 二十匁 三万三千円
棟割長屋の店賃(二間) 五百文 一万二千五百円
大工の月平均手間賃 二両一分 二十二万円
不義密通の慰謝料 七両二分 七十五万円
新造付き呼出し最上級の遊女で、揚代は一両一分。
呼出し昼三 昼間の揚代が三分の上級女郎。
座敷持ち 自分用と客用の部屋を持ち、揚代は二分。
ここまでが花魁と呼ばれる。
部屋持ち新造 若い遊女で揚代は一分。
鼻の欠けた夜鷹は百文だって。
「按摩上下三百文」これは明治かな


    近代・現代

させに行くとは言いにくく嫁に行く
 させに来たとは言わず嫁に来たという

ようやくに聞き分けて売る夜の物
 薬局で使う物を買うとき小声で言う

乗せながら実家へ女房長電話

胎内で突かれた証拠蒙古斑
 蒙古斑の原因は学者以外はすぐ分かる

婦人科で鼻を鳴らして叱られる

見せた医者見ると女は逃げるなり
 街角で見た人に出会い思い出せば産婦人科医であった

ちらほらと生えて演歌が巧くなり 少女歌手から脱皮する頃

かわらけと熊毛夜の湯に誘い合い
 毛が薄すぎと濃すぎのご婦人は人気のないとき湯に入りお互いに珍しいので比べ合ったり触り合ったりする

妃殿下は崩御崩御と宣えり
 庶民でも皇室へ嫁げば死ぬ死ぬなどとはしたない声は出さない

言うことを夜聞くOL昼聞かず

恋い女房今は化粧の濃い女房

妻と毒老眼鏡で確かめる

    現代狂歌

キャリア積み肌荒れ隠す厚化粧 気性の荒さ隠す気もなし

長寿国腰も曲がらず空元気 臍と根性よく曲がるなり

先頭に法定速度の車居て 後ろ渋滞前はがら空き

右折する二三里前から減速し 右側走る淑女運転

    炭坑節 デュエット

男 女
 月が出た出た月が出た 三池炭坑の上に出た
 あんまり煙突が高いので さぞやお月さん煙たかろ

 女の銭湯を覗いたら 源平合戦壇ノ浦
 屋島の戦じゃないけれど 色とりどりの船だらけ

 男の銭湯を覗いたら 大阪落城夏の陣
 最後の戦じゃないけれど 互いに抜き身を振り回す

 白いタイツのその陰に 男泣かせの池がある
 そんなに深くはないけれど 時々息子が身投げする

 黒いズボンのその陰に 女泣かせの棹がある
 そんなに長くはないけれど ときどき娘が気絶する


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