江戸狂歌

   名所博打
勝つ事は 遠つ淡海の 負け博打 元手もいなさ 細江なるべし
智惠内子
遠つ淡海 引佐細江の 澪つくし あれをたのめて あさましものを 万葉集

君が顔 千代に一たび 洗うらし 汚れ汚れて 苔のむすまで
雄長老
祖父に姥 曾姥曾祖父ことごとく 死なずに居ては 何を食わせん
雄長老
人の恋 季はいつなりと 猫問はゞ 面目もなし 何と答えん
横井也有
山吹の 鼻紙ばかり 金入れに 実の一つだに 無きぞ哀しき
四方赤良
世の中は 色と酒とが かたきなり どふぞかたきに 巡り合いたい
四方赤良
わが禁酒 破れ衣と なりにけり 注して貰おう 注いで貰おう
四方赤良
をやまんと すれども雨の 足しげく 又もふみこむ 恋のぬかるみ
四方赤良
ものゝふも 臆病風や 立ちぬらん 大つごもりの 掛け取りの聲
四方赤良
いつ見ても さてお若いと口々に 誉めそやさるゝ 年ぞくやしき
朱楽漢江
執着の 心や娑婆に 残るらん 吉野の桜 更科の月 朱楽漢江

とれば又 とるほど損の 行く年を くれるくれると 思う愚かさ
唐衣橘洲

   武家歳暮
煤とりて 弓は袋に 納めたり 攻め来る老を 何で防がん 唐衣橘洲

世に立つは 苦しかりけり 腰屏風 まがりなりには 折れ屈めども
唐衣橘洲
濡れぬ先こそ厭いしが置き置きて 末は流るゝ 質草の露 手柄岡持

死にとうて 死ぬにはあらねど 御年には
御不足なしと 人の言ふらん 手柄岡持

   片 思
ちぎられぬ物とは今ぞ汁粉餅 一本箸の片思いにて 手柄岡持

月見ても 更に哀しく 無かりけり 世界の人の 秋と思へば
つむりの光
月見れば 千々に物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど 大江千里

ほとゝぎす 自由自在に 聞く里は 酒屋へ三里 豆腐屋へ二里 頭光

   紅葉盗人といふ事を
叱られて 跡白波の たつた川 顔も紅葉に かざす折枝 馬屋厩輔

   寒夜月
深々と 寒き月下の 門徒寺 僧の敲くは 鳥の骨なり 馬屋(まや)

   千鳥
行き帰り 友呼び交わし なき上戸 顔もあかしの 浦千鳥足
臍穴主

   辞世
食へば減る 眠れば醒むる 世の中に ちと珍しく 死ぬも慰み
白鯉館卯雲
   旅戀
不自由な 旅にしあれば 椎の葉に
飯盛り上げて 楽しみぞする 白鯉館卯雲
家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る 有間皇子

   劒術によする祝
汗水を 流して習ふ 劒術の 役にもたゝぬ 御代ぞめでたき
元の木網
年々に 目も弱り行き 歯も欠くる 古鋸の ひきてなき身は
加陪仲塗

   鐘撞述懐
一つづゝ 撞く間につくや溜め息の 身は捨てかねと かねて思えど
眞竹深薮
   武士貧乏
貧すれば 質に奥の手 太刀かたな
さすがは武士の 受けつ流しつ 山手白人

   川向喧嘩
果てしなき 水かけ論の 川向かい 渡りもつかで 腹をたつ波
一升夢輔
   日ぐらしの里にて
今日は今日 明日は明日香の 山近き
その日暮しに 遊ぶこそ良き 日影土龍

げに酒は 愁を払う箒とて 戯言もはく 青反吐もはく 宿屋飯盛

姦しゝ この里過ぎよ ほとゝぎす 宮古のうつけ いかに侍らむ
山崎宗鑑
敷島の 大和心の 何とかの 胡乱な事を 又さくら花 上田秋成

春になりて 残り少なの 塩鮭を こぞのかたみと 思ひぬるかな
今田部屋住
我戀は 闇路を辿る 火縄にて 振られる度に 猶ぞ焦がれる
柳直成
じやうはりの 鏡が池の 厚氷 写してみたき 傾城の嘘 淺草市人

三ぜんの 膳を二膳に へらすとも 御膳御膳と へつらふは嫌
村田了阿
   茄子の鴫焼き
小娘も はやこの頃は 色気付き 油つけたり くしをさしたり 蜀山人

油つけ くしをさしたは よけれども 色が黒くて 味噌をつけたり
山東京伝
芸が身を 助けずしかも 好きで下手 身は立てもせで 浮名のみ立つ
原武太夫盛和
倉の内に いかなる川の あるやらん わが置く質の 流れぬはなし 宗湖

偽りの ある世なりけり 神無月 貧乏神は 身をも離れぬ 雄長老

俺を見て また歌を詠み 散らすかと 梅の思わん ことも恥ずかし
四方赤良
女ほど めでたきものは 又も無し 釈迦も達磨も ひょいひょいと産む
覚芝和尚
親も無し 妻無し子無し 板木無し 金も無けれど 死にたくも無し
六無斎・林子平
   いかなる時にか
かかる時 何と千里の 小間物屋 伯楽もなし 小遣もなし 平賀源内

 雪の日、友人のもとより河豚と汁食べにこよ、とありければ
命こそ 鵝毛に似たれ なんのその いざ鰒食ひに ゆきの振舞
唐衣橘洲
いざ飲まん 新し肴 今年酒 酌は女房の ちと古くとも 浅草干則

   江戸流行のもの
有難や 見物遊山は 御法度で 銭金持たず 死ぬる日を待つ

長生を すれば苦しき 責を受く めでた過ぎたる 御代の静けさ
四方赤良
いぎりす もふらんすも皆 里なまり 度々来るは いやでありんす
筒井鑾渓
   屁
いろはにほ との字の間で しくぢって 私やこの家を ちりぬるをわか

旦那さん 私を糞と 思ふかな 屁の出た後に 無理に追出す

うづ高く 左捻れの 左大べん けつしてこれは 公家の糞なり
四方赤良

   無常
飢死もまた 酔死も討死も 恋死もいや死なば空死 山蒼斎

   夫の朱楽菅江が吉原に居続けして
飛鳥川 後は野となれ 山桜 散らずば寝には 帰らざらまし
節松嫁嫁

商人の 空誓文や 偽りの 頭に宿る 神もありけり 浅井了意

   海辺の月
めでたやな 下戸の建てたる 倉もなし 上戸の倉も 建ちはせねども
岩代岡萱根
   人の酒をしゐける時よめる
天野酒 振りさけ見れば かすかなる
みかさも飲まば やがて尽きなん 撰狂歌集
天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも 阿倍仲麻呂
   堺の牀菜庵にて
人目をも 恥をも思はねば ここも深山の 奥とひとしき 一休

あかがりも 春は越路に 帰れかし 冬こそあしの うらに住むとも
猿丸太夫
秋の田の 刈田のあとを咎められ あが後ろ手に雪は降りつつ
読み人しらず
秋の田の 刈穂の庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ 天智天皇

   ものにならぬ人といふを
夜遊びや 朝寝昼寝に 遊山好き 引込み思案 油断する人 松浦静山

あさましや 富士より高き 米値段 火の降る江戸へ 灰の降るとは
落首
あしきだに 無きはわりなき 世の中に
よきを取られて 我いかにせん 宇治拾遺物語・三

   七夕
天の川 羽衣着たら 飛び越えん げに空事ぞ かささぎの橋 松永貞徳

 十魚:あめ・ぶり・はも・ます・あじ・こち・ふな・こい・さば・さわら
雨降りて 川も水ます あちこちに 舟人恋し 来さばさはらじ 雑話集

   柳
争はぬ 風の柳の 糸にこそ 堪忍袋 縫ふべかりけれ 鹿都部真顔

   南無妙法蓮華経ということを詠み入れよと乞われて
いか程の 南無題目を 出されても よむが妙法 蓮華きやう歌師
四方赤良
医者部屋へ 通うちろりの 無くなるは 幾夜寝ざめの すまぬ酒盛
橘宗仙院
淡路島 通ふ千鳥の 鳴く声に いく夜ねさめぬ 須磨の関守 源兼昌

   逢恋
出雲なる 神に祈りて 逢ふ夜半は 日本国が 一つにぞ寄る
宿屋飯盛
急がずは 濡れざらましと 夕立の あとより晴るる 堪忍の虹 烏亭焉馬
急がずは 濡れざらましを 旅人の あとより晴るる 野路のむら雨 太田道灌

   扶持貰ひし時
一度こひ二度こひ三度よどのこひ
こひぞつもりて扶持となるらん 加茂季鷹
筑波嶺の 峯よりおつる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる 陽成天皇

いつの間に 人の心の 秋の来て
穂にいでぬをも いねといふらん 新撰狂歌集・上・恋

   思
いとしがり いとしがられて 憎き時 憎まるるさへ 諸思ひかな
詠百首誹諧

   寄小女恋
古への 貴妃かあらぬかわが目には そよやげいしやう うゐの小姫子
入安
今さらに 雲の下帯 ひきしめて 月の障りの 空ごとぞ憂き 四方赤良

今さらに 何か惜しまむ 神武より 二千年来 暮れてゆく年
四方赤良

   逢後不逢恋
今はただ 恋しゆかしやなつかしの 死の字ばかりを 待つ身なりけり
伯水
今はただ 股も腓もはりま潟 飾磨のかちの旅は苦しき
新撰狂歌集・上・羇旅

   忌といふ字は,己が心と書きたり
いめばいむいまねばいまずいめばいむ いむとは己が心なりけり
闇の曙・下
歌よみは 下手こそよけれ あめつちの
動き出しては たまるものかは 宿屋飯盛

   清水寺・無理な神頼みに
梅の木の 枯れたる枝に 鳥の来て 花咲け咲けと いふぞわりなき 

羨まし 声も惜しまぬ のら猫の 心のままに 恋をするかな 藤原定家

   秋鳥
落とされて料理にあふな四十雀 身をやく前の秋と慎め
吾吟我集・三・秋
お富士さん 霞の衣 ぬぎなんし 雪のはだへを 見たうおざんす
松浦静山

   春月
かりそめに 筵も持たで 春の夜の 朧月夜に しく物そ無き 入安

照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の 朧月夜に しくものぞなき 大江千里

きにゆうみち、きゆみんせえか、けえしきに、
つうかつあはん、おどどけゆに 吉四六の内儀
解題 昨日見て今日見ぬさへも恋しきに 十日を逢はぬ身を如何にせん

   訴訟
公事にせば 若しもかたうが 言葉論 喧嘩の門か 僧のたたくは
古今夷曲集・九・雑下
僧ハ推ス月下ノ門→僧ハ敲ク月下ノ門

山の井に すめる蛙の 歌きけば なんのそのその 園の鶯 宗賢

世の中は 澄むと濁るの 違ひにて 刷毛に毛があり 禿に毛が無し 落語

   辞世
つひに行く 道とはかねて聞きしかど 昨日今日とは思わざりしを 在業業平

   春興:××××のことのみおもひて
君が代や アゝ君がよや きみがよや あれまた幾世 限り知られず てる

一つとり 二つとりては 焼いて食ふ 鶉無くなる 深草の里 蜀山人

いつ来ても 夜ふけて四方の長ばなし 赤良さまにも 申されもせず 奉公人

雑巾も 当て字で書けば 蔵と金 あちらふくふく こちらふくふく 蜀山人

神ならば 出雲の国へ 行くべきに 目白で開帳 谷保の天神 蜀山人

永代と 言われし橋が 落ちにけり 今日の祭礼 明日の葬礼 蜀山人

   怠け者の貧乏をかこちて
神々は 出雲の国へ 寄ると聞く 貧乏神ばか 何故ここにをる

   貧乏神の答へて
酒は飲む 博奕はこくし 朝寝する 仕方なければ 定宿にする

   蚤
盃へ 飛びこむ蚤も 呑み仲間 つぶされもせず 押さへられもせず 内山椿軒

頭から 押さえられてはたまらない のみ逃げはせじ 晩に来てさす 蜀山人

虱ほど世にへつらはぬものはなし 貧なる者になほも近づく 新撰狂歌集・下

釈迦といふ いたずらものが 世に出でて 多くの者を 迷はするかな 一休

即身の成仏ならば重ねては 坊主頼まじお布施どうなに 狂歌旅枕・下

極楽や 地獄のあると 誰か知る 今まで便りある 沙汰もなし 狂歌旅枕・下

いにしへの 仏も嘘を つきぬると 思ふ証拠も 少しあるなり 狂歌旅枕・下

   論語洒落
大学が 孟子わけなき 火を出して
論語同断 珍事中庸

大学が 孟子ひらきを 四書こなひ
論語ないのが まるで中庸 甲子夜話

立って居て 話す孔子の曰く
待つよ来いしも 楽しからずや 四方赤良

   七賢人
竹林は 薮蚊の多き 所とも
知らでうかうか 遊ぶ生酔 四方赤良

   辞世
 この年で はじめてお目に かかるとは
弥陀に向かいて 申訳なし 慶紀逸

   辞世
死んで行く 所はをかし 仏護寺の
犬の小便 する垣のもと 芥川貞佐

   辞世
宗鑑は いづくへ行くと 人問はば
ちと用ありて あの世へと言へ 山崎宗鑑

   辞世
善もせず 悪も作らず 死ぬる身は
地蔵もほめず 閻魔叱らず 式亭三馬

死にたきと いふは浮世の 捨言葉
まことの時は 願はざりけり 寒川入道

   無常
つひに行く道とはかねてなり平の
なり平のとて今日も暮らしつ 由縁斎貞柳
つひに行く 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを 在原業平

   老醜
皺がよる 黒子ができる 背がかがむ
頭は禿げる 毛は白くなる

手はふるふ 足はひょろつく 歯はぬける
耳はきこえず 目はうとくなるx

くどくなる 気短になる 愚痴になる
思ひつくこと 皆古くなるx

又しても 同じ咄に 孫ほめる
達者自慢に 人をあなどる 居行子新話・二

偽りを 恥とも知らで 売る牛の
皮より厚き 面の皮かな 狂哥咄・五

   立春
棹姫の 裳裾吹き返し 柔らかな
けしきをそそと 見する春風 貞徳

   ばいあぐら
まろとても 老いはつる身に あらざれば
握りさへすりゃ すぐに立ちます 近衛基前

来ぬ人を まつ井の浦の 夕飯に 焼き塩鯛の 身を焦がしつつ
 細川幽斎
来ぬ人を 松野がかたの 夕めしに 焼くやも魚の 身もこがれつつ
 細川幽斎
来ぬ人を まつほの浦の 夕凪に焼くや藻塩の 身もこがれつつ 藤原定家


御前の前 いかにも致せ 制すまじ
こなたのしじも しどけなければ 沙石集・五・末

   東西南北・己心弥陀唯心浄土
極楽は 西にもあれば 東にも
きた道さがせ みな身にもあり 理斎

極楽は 眉毛の上の 吊し物
あまり近さに 見付ざりけり 道元和尚

心こそ 心迷はす こころなれ
心にこころ 心許すな 百物語・上

夫の「絹十匹、綿百把参らする。ただし偽りなり」の文を見て
こころざし ある方よりの 偽りは
世の真より 嬉しかりけり 

   虫歌合
心には 針持ちながら 逢う時は
口に蜜ある 君ぞわびしき 木下長嘯子
口に密有り、腹に剣有り 世人が李林甫を評して

事足らぬ 世をな嘆きそ鴫の脚
短くてこそ 浮かぶ瀬もあれ 月庵酔醒記・中

子どもをば 鮨になるほど 持ちたけれど
飯が無ければ 日干しにぞする 新撰狂歌集・上・述懐

小鳥ども 嗤はば嗤へ 大かたの
浮世の事は 聞かぬみみづく 四方赤良

碁なりせば 劫を棄てても 生くべきに
死ぬる道には 手一つも無し 美濃の国の野瀬
この海老の 腰のなりまで 生きにけり
食も控へず 独り寝もせず 小川喜内

   謡曲『高砂』
  高声や この屋根舟に 水入りて
  遠く鳴く程 隠岐過ぎて
  波のあはれの 石垣や
  はや闇の夜に なりにけり
     舟が転覆して寄合戸川隠岐守の妻子が溺死して

   鷺・鳰・花鳥・鴛鴦・鳩・雁・百舌・駒鳥・雀・鶴
咲きにほふ 花をし見ばと 狩衣
裾の尾かけて 駒進めつる 霊元法皇

   雁・朱鷺・山雀・鶴・鳩・雉子・鷺・烏
狩の時 山からつどひ いづる身は
研ぎし矢先の 危ふからずや 笹麿

   大つごもりに 家なししそん
酒飲まず 餅をも搗かぬ 我が宿に
年の一つも 御免あれかし 新撰狂歌集・上・述懐

五月待つ 橘色を 飲むときは
むかしの人の 酒の香ぞする
さつき待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする 伊勢物語

侍の かがみと人の いふなれば
われも裏屋に かがみてぞ住む 長々浪人

   寄櫛恋
下紐も 初めて人に 解き櫛の
はもじに思ふ けさのきぬぎぬ 方碩

世の中に ひとりとどまる 者あらば
もし我かはと 頼みもやせん 寒川入道

死にて後 問はん万部の 経よりも
命のうちに 壱歩たまはれ 酒粕

詩は知らず 歌はもとより知らぬ火の
つくすたはけも戯作者の徳 式亭三馬

霜も無く 又雪も無く 火事も無く
銭さへあれば よい年の暮 我衣・七

   山中隠家・盆と正月のかけとり
借銭の 山に住む身の 静けさは
二季よりほかに 訪ふ人も無し 大根太き

上手とは 外をそしらず 自慢せず
身の及ばぬを 恥づる人なり 武備和訓

雀どの お宿はどこか知らねども
ちっちょとござれささの相手に 四方赤良

雀らが 酒盛る中へ 心無や
もちくへと出す 鳥さしの竿 三駄

   阿弥陀絵を無理に押し付けられて壁に掛け
狭けれど 宿を貸すぞや阿弥陀どの
後生たのむと 思し召すなよ 乞食桃水

焚き立つる 旅籠の飯や あつ盛を
手に掛けて食ふ 熊谷の宿 新撰狂歌集・上・羇旅

今よりは ぬか取りあへず 手水にも
紅葉つかはん 朝の間に間に 方重
このたびは 幣もとりあへず たむけ山 紅葉の錦 神のまにまに 菅家

月々に 月見る月は 多けれど
月見る月は この月の月 夏山雑談・三

継ぎやあらぬ 春や昔のやれ小袖
わが身ひとつは元の身にして 中川喜雲の父
月やあらぬ 春や昔の春ならぬ わが身一つは 元の身にして 在原業平

月ゆゑに いとどこの世に居たきかな
土の中では見えじと思へば 松永貞徳

風流と 見せて身過ぎの うその川
たのむ渡りよ 板橋の宿 曳尾庵

   寄茶摘恋
つつめども いつ顔色に出でぬるは
あだし茶摘みの極そそりかな 智恵内子

織田がつき 羽柴がこねし 天下餅
座りしままに 食うが徳川 落首

   島原の乱
有馬山 すそ野の桜 さき乱れ
いくさは花を ちらす古城 落首

   明暦大火
なやきそと いへども焼きし 武蔵野は
人もこまれり 我もこまれり 落首
むさし野は けふはなやきそ 若草の 妻もこもれり 我もこもれり
伊勢物語

   明暦大火
おごりたる 罪のむくいや 猶如なお火宅
三界無庵 旗本の衆 落首

   赤穂義士
智惠は浅野内匠としたが気違か
ゑぼしあたまを きられ上野 落首

   吉良上野介
疵をいたみ つら打つ恥の
己のみ きられて物を 思ふ上野 落首
風を痛み 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな 源 重之

   大石内蔵助
大石は 酢すしの重しに なるやらん
赤穂の米を 喰つぶしけり 落首

   忠臣蔵
今までは あさい内匠と 思ひしに
ふかひたくみに きられ上野 落首

   忠義
たのもしや 内匠の家に 内蔵くらありて
武士の鏡を とり出しにけり 落首

   生類憐みの令廃止
心よき 身にもあはれは しられけり
犬医者どもの あとの夕ぐれ 落首
心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫たつ沢の 秋の夕暮 西行

   生類憐みの令廃止
見渡せば 犬も病馬もなかりけり
御徒目付おかちめつけの あとの夕ぐれ 落首
見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ 藤原定家

   享保の改革・尚武倹約
お世話紗綾さや 緞子どんすな事を お紗綸子しゃりんす
縮緬ちりめんどうな 絹がよいよい 落首

   田沼意次
田も沼も 水野もやけて 酒井なく
加納まいぞや いかが将監 落首
老中:田沼意次 若年寄:水野忠友・水野忠見・酒井忠休・加納久堅
老中:松平右近将監武元


   文化文政米価低落
千早振 米屋もきかず 払米
ただ商ひに 皆こまるとは 落首
ちはやぶる 神世も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
在原業平藤原定家

   金欠
お祭りへ 行くにゆかれぬ からっけつ
壱文なしは 家内あんぜん 落首

   水野忠邦
人のため 国の病に すへる灸
しばしこらへよ やがて直るぞ 落首

   貧窮旗本
御旗本 次第にこまる へぼ将棋
みな歩ばかりで 金銀はなし 落首

   ペリー来航
具足より 利息にこまる 裸武者
すね当てよりも お手当てがいい 落首

   蒙古来襲・ペリー来航
古への 蒙古の時と 阿部こべに
ちっとも吹かぬ 伊勢のかみ風 落首

   将軍家慶死去
壱万里 来たアメリカが こわいとて
十万億土 にぐる大将 落首

   桜田門外の変
桜田に 胴と首との 雪血がい
井伊馬鹿ものと 人はいふなり 落首

   桜田門外の変
三月は 雛の祭りか 血祭りか
あけに染めたる 桜田の雪 落首

   幕府崩壊直前・武士の日和見
諸大名 今は桑名の 渡し船
京へつかうか 江戸へかうか 落首

   幕府瓦解
士農かの どうしやうのふ 工商と
いふ分別もつかぬ 世の中 落首

十三で ぱっかりはれし 空割れに
月の障りの 雲もかからず 四方赤良

松の家の 松茸よりも ささなみや
志賀の松茸 太くたくまし 蜀山人

世をすてて 山に入るとも 味噌醤油
酒のかよひぢ なくて叶はじ 蜀山人

今までは 他人ひとが死ぬとは 思ひしが
俺が死ぬとは こいつぁたまらん 蜀山人

此の世をば どりゃお暇に せん香の
煙りとともに 灰左様なら 十返舎一九

冥途から もしも迎いが 来たならば
九十九まで 留守と断れ 蜀山人

生きすぎて 七十五年 食いつぶす
限り知られぬ 天地の恩 蜀山人

   祝の心を
鶴もいや 亀もいや松竹もいや
ただの人にて 死ぬぞめでたき 四方赤良

   辞世
深草の 元政坊は 死ぬるなり
我が身ながらも あはれなりけり 元政

傾城・傾国はいにしへよりいましめ深けれど、またこれなからましかば、隣の娘の袖を引き、小夜衣の重ね着絶えざらまし
人の城 人の国をも 傾けて
子孫を絶やす ものぞ恋しき 四方赤良

世の中に 寝る程楽は 無きものを
知らぬうつけが 起きて働く 狂言・杭か人か

貪欲を 捨てよと言うて 捨てさせて
後より立ちて 拾う上人 かさぬ草紙

とかく世は 喜び烏 酒のんで
夜が明けたかあ 日が暮れたかあ 唐衣橘洲

徳政を やりひつさげて つくづくと
思へば物を かりの世の中 一路居士

濡れわたる 水の下にも いかなれば
こひてふ魚の たえずすむらん 朝忠集

つらかりし そなたの尻も われ鍋に
わが欠け蓋の 逢ふぞうれしき 狂歌百首歌合・恋

田楽の 串々思ふ 心から
焼いたがうへに 味噌をつけるな 甲子夜話・三

土左衛門に君はなるべし 千代よろづ
万代すぎて 泥の海にて 耳袋・六

鳥もなし 七つ下りの きぬぎぬは
恨みぞ残る よし原の里 落首

留められて つひ居続けの ことわりや
引け四ツ過ぎの雨乞小町 四方赤良

遁世の 遁は時代に 書きかへむ
昔は遁今は貪 沙石集・三

中折や 奉書椙原 売り切れど
貧乏がみは 買ふ人ぞなき 玄康

地獄とて 遠きにあらず 目の前の
憂き苦しみを 見るにつけても 鉢叩

 死者の形見に五輪の塔を建てることを無意味と嘲笑して
亡き跡の 形見に石が なるならば
五輪の代に 茶臼切れかし 一休

無くてよき 物は女と 香の物
移り香いとふ 老いの身なれば 根岸鎮衛

無くてならぬものは 女と香の物
人のさいにも めしのさいにも 四方赤良

何事も 皆偽りの 世の中に
死ぬるといふぞ 誠なりける 一休

   としのはじめによめる
生酔の 礼者を見れば 大道を
横筋違に 春は来にけり 四方赤良

   長者二代なし
二代無き 長者の身こそ 借銭の
子をむさぼりし 報ひなるらし 石田未得

日光と 聞いて極楽見て 地獄
邪慳な石に やみくもの雨

猫の妻 もし恋ひ死なば 三味線の
可愛やそれも 色にひかれて 後西上皇?

   述懐を
寝て待てど 暮らせど更に 何事も
なきこそ人の 果報なりけれ 四方赤良

   念仏に明け暮れるうつけを嘲笑して
念仏を 強ひて申すも いらぬもの
もし極楽を 通り過ぎては 桃水和尚

まづしき人のしたしきにもうとまれければよみてつかはしける
軒近き 隣にだにも とはれねば
貧ほど深き 隠家はなし 無銭法師

這へば立て 立てば歩めと 思ふにぞ
我が身につもる 老いを忘るる 井上正任

   役人根性
筥崎の 松は奉行に さも似たり
直なと見ゆれど ゆがまぬはなし 太閤秀吉

八十や 九十や百の 若い者
鶴は千 年亀は万年 四方赤良

   乗合の舟にのりて
はなし出す 人の尻馬 口車
いづれ調子に 乗り合ひの舟 平秩東作

 ある法師、弟子の朝ねしければ、斎をなんとめて、
 くはせざればよめる
鼻の下は はや過ぎけりな いたづらに
我が目さまさで 長寝せし間に 新撰狂歌集・下
花の色は移りにけりな徒に 我が身世にふるながめせし間に 小野小町

ありあきの つれなくいへぬ 皮癬瘡
かくばかり身に 憂きものはなし 沢庵和尚
有明のつれなく見えし別れより 暁ばかりうきものはなし

   赤穂義士
人切れば おれも死なねば なりませぬ
そこで御無事な 木刀を差す 堀部弥兵衛金丸

人の身は 背戸の畠の 雪仏
消えて残るは なばかりにこそ 山崎宗鑑

 衰ふる人、自ずから世捨て人のやうになりて、
 ひきこもりてよめる
貧乏の 神を入れじと 戸をさして
よくよく見れば わが身なりけり 雄長老

ぶうつと出て 顔に紅葉の 置土産
余り臭うて 餞もせず 秋田むがしこ

あら楽や 人が人とも 思はねば
人を人とも 思はざりけり 元政

松立てず しめ飾りせず 餅つかず
かかる家にも 春は来にけり 元政

   白川侯松平定信
天が下の もののふなりと 白川の
浅瀬の水に 漂ふぞ憂き 林子平

欲しがれど とまらぬ人も あるものを
いらぬに出来る 我が子供かな 重静
思ひわび さても命は あるものを うきにたへぬは 涙なりけり 道因

   処世術・この頃世に合ふ歌、世に合はぬ歌
世に合うは 左様で御座る 御尤も
これは格別 大事無い事

世に合は じさうでござらぬ さりながら
これは御無用 先規無い事 落首・耳袋

   田沼意次政下の悪弊をそしりて
世の中は 左様でござる 御尤も
何と御座るか しかと存ぜぬ

   処世術・その二
世の中は 諸事御尤 ありがたい
御前御機嫌 さておそれいる

世にあはぬ 武芸学問 御番衆の
只奉公に 律儀なる人 落首

   飯焚女の恋を
やはらかな とこを旦那に 参らせて
内儀の顔の こはい飯炊き 其柳

   述懐
持たぬ故 へらず口とは 思へども
金があるなら 人にやりたき 婆阿

   松平定信
白川の 清きながれに 魚すまず
にごる田沼の 水ぞ恋しき 落首

   寛政の改革
御祭は 目出たいあらの お吸物
だしばかりにて みどころはなし 落首

   寛政の改革
諸共に あはれとおもへ 諸役人
定の外に とるものはなし  落首
もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし
前大僧正行尊

   寺炎上で大仏も焼失して
身の上を 何と抜かりて 今日はまた
火宅を出でぬ 仏なるらむ 木下勝俊

雪降りて 雪隠遠く 下駄は無し
心にかかる 尻の穴かな

   寄申恋
まざまざと 嘘ばつかりを 言ひなさる
尻も結ばぬ 君が言の葉 ひまのないし

   七夕
盆前に 誰かは金を かささぎの
はした銭でも ほし合の空 万載狂歌集四秋上

   辞世
みな人は 死ぬる死ぬると いひけれど
暁月坊は いきとまりけり 暁月坊

紫の 色より深き 世の中の
欲には恥を かきつばたかな 荒木田守武

   後朝恋
夕べには 死すとも可なり厭ふまじ
朝寝し過ごし 腎虚し果てて 詠百首誹諧
朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり  論語・仁篇

   七十而従心所欲不踰矩
行く水の 心まかせに 従へど
危ふき船の のりは越えまじ 四方赤良

   松平定信・寛政の改革を批判して
曲りても 杓子は物を すくふなり
直ぐなやうでも 潰す摺子木 四方赤良

   吉宗の孫松平定信・寛政の改革を批判して
孫の手の かゆき所へ とどきすぎ
足の裏まで 掻きさがすなり 四方赤良

誠とは 汁掛け飯を 食ひさして
萩箸添へて 出すをぞいふ 松屋筆記・八十五

まだ青い 素人浄瑠璃 黒めんと
赤き顔して 黄なる声出す 理斎随筆・四

   哀傷・無常:廻文
また飛びぬ 女と男とあはれ
ぬし知らじ 死ぬれば跡を とめぬ人魂

   卯月まだ寒かりければ
水ごころ 無ければ質も 流されて
袷のぬきで きるもきられず 手柄岡持

   水に戯るる恋
水むすぶ かひも渚の たはれ男と
誰かはうそを 月の夜ごとに 四生歌合・けだ物の歌合

実る程 稲は伏すなり 人はただ
重くなる程 そりかへりける 三省録・四

   灌仏
み仏に 産湯かけたか ほととぎす
天上天下 たつたひと声 四方赤良

   山の手の首夏
目に青葉 耳に鉄砲 ほととぎす
カツオはいまだ 口へはひらず 四方赤良
目には青葉 山郭公 はつ鰹 山口素堂

   老醜
目はかすみ 耳に蝉鳴き 歯は落ちて
かしらに雪の つもる年かな 海録・二

   借債
もとよりも かりの世なれば かるもよし
夢の世なれば ねるもまたよし たはれぐさ・一

 武家歳暮
もののふも 臆病風や 立ちぬらん
大つごもりの 掛取りの声 四方赤良

   達磨の絵に
唐土の むさむさ坊主 髭入道
さしたる事は 言はじとぞ思ふ 一休

   雨の祈りとてたはぶれに人々哥をよむついでに
夕立や 古きためしも ありの穴
堤をくづせ 天の川水 飛塵馬蹄

   ある人、品川に遊びて淋病をうれへけるとききて
行きやらで とまる駅路の 鈴口の
縁にふれてや りんとなるらん 四方赤良

   芝浜
夢にのみ 拾ひしうその 皮財布 うき世に返す 暁のかね 田畑持麿

   酒に寄する恋
宵の間に ちくと来よとの お情けを
受けて一盃 飲むよしもがな よしたか

   鍋尻訓歌
よきに似よ あしきに似なよ なべて世の
人の心は 自在鉤なり 松平定信

 ある僧が、知人の元に頭巾を忘れて返って後、送り届けられて
立ち別れ いなばやなんど 思ひしに
形見の頭巾 今かへり来ぬ 醒酔笑・八
立ち別れ いなばの山の 峯に生ふる まつとし聞かば今帰り来む 在原行平

山寺の 春の夕食 早ければ
入相の鐘に 腹ぞへりける 前大僧正尊応
山寺の 春の夕ぐれ 来て見れば 入相の鐘に 花ぞ散りける 能因法師

世の中に 書くべきものは 書かずして
事をかくなり 恥をかくなり 蜷川新右衛門親当

   人生
世の中は 食うてはこして 寝て起きて
さてその後は 死ぬるなりけり 一休 はこ:脱糞

終をしたで御寺は 喜べど 生き返っては
坊主殺しめ 甲子夜話・続三十六

我が軒に 人の割木が あらばこそ
人の割木は 我が割木なり 多聞院日記
わがよきに人の悪きがあらばこそ 人の悪きはわが悪きなり

竜宮で 忌むべき魚の亡骸を
取りかわす世ぞ めでたかりける 恋川春町

   くささは
よるごとに 式部がそそや 洗ふらん
むすぶ泉の 水のくささや 雄長老

   辞世・輪廻転生
われ死なば 備前伊部の 土となり 徳利となりて 酒を入れたい 

我死なば 備前伊部の 土となり 尿瓶となりて ちんぽ入れたい 

   滄浪の水
世は澄めり 我独りこそ濁り酒
酔はば寝るにてさうらうの水 表具屋太兵衛

世の中に 地頭盗人 なかりせば
人の心は のどけからまし 文覚上人

世の中に 思ふ事こそ 二つあれ
いる時金と 時分には飯 狂歌旅枕・下
世の中に思ふ事こそ二つあれ 花散らす風月隠す雲

世にくへぬ 身はどんぐりの くりくりと
くりめきわたる この身なりけり 津田休甫

世わたりに 春の野に出て 若菜つむ
わが衣手の 雪も恥ずかし 鯛屋貞柳
君がため 春の野に出でて 若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ 光孝天皇

年のうちに 春はくれども 掛乞の
せがむ限りは あらじとぞ思ふ 朱楽管江
年の内に 春は来にけり ひととせを こぞとやいはむ ことしとやいはむ 
在原元方

春きぬと 人はいへども うぐひすの 鳴かぬ限りは あらじとぞ思ふ 壬生忠岑

わが宿は 御堂の辰巳 しかも角
よう売れますと 人はいふなり 鯛屋貞柳
わが宿は 都のたつみ しかぞ住む 世を宇治山と 人はいふなり 喜撰法師

   旅
富士の山 夢に見るこそ 果報なれ
路銀もいらず くたびれもせず 鯛屋貞柳

   人生
生まるるも 死ぬるも人は 同じ事
腹より出でて 野原へぞいる 貞徳

菜もなき 膳にあはれは 知られけり
しぎ焼き茄子の 秋の夕暮 唐衣橘州

   正月
御祝ひに よりき家の子集まりて
つくやくふなりどさくさの餅 生白堂行風

   老の身を思ひて
世の事を 聞かじ聞かじと せし耳も
遠うなれとは 祈らざりしを 横井也有

   松平定信の寛政の改革をそしりて
世の中に 蚊ほどうるさき 者は無し
ぶんぶというて 身を責めるなり 四方赤良

   酒を
世の中に 酒といふもの 無かりせば
何に左の 手をつかふべき 宿屋飯盛

世の中は いつも月夜に 米の飯
さてまた申し かねの欲しさよ 四方赤良

   役人処世
世の中は 諸事お前様 有難い 恐れ入るとは 御尤もなり

世の中は 諸事御尤も 有難い 御前御機嫌 さて恐れ入る 耳袋・一

   流行風邪
これやこの 行くも帰るも 引き風に しるも知らぬも 大方はせき
我衣・一
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関 蝉丸

世の人を 屎の如くに 見くだして
屁放り儒者と 身はなりにけり 四方赤良

論語読みの論語読まずと 言はば言へ
死すとも蚊也 ふすべ散らさん 貞柳

     禁酒の願掛け
わが願酒 破れ衣と なりにけり
さすもさされず つぐもつがれず 四方赤良

   借金
わが恋は 深草ならぬ 浅草へ 通ひつめたる 少々の金 寝ものがたり

わが恋は 柳の糸の 乱れ髪
とくもとかれず いふもいはれず 夢窓国師

   遺言
我がために 弔ひ連歌 召さるなよ
そなたの口は 輪廻めきたに 木食楚仙

   因果応報
我が耳の 遠くなりしは 年をへて きかぬ薬を 盛りし報か 老医師

我が耳の 遠くなりしは 年をへて 聞えぬ歌を よみし報か 狂歌師

わくらばに 問ふ虫あらば 須磨の浦
藻汐垂れつつ 虻と答へよ 新旧狂歌誹諧聞書
わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻汐垂れつつ 侘ぶと答へよ 在原行平

   河豚汁
われがちに 争うて食ふ ふぐと汁
盛り替へのある 命ならねど 山手白人

   辞世
わんざくれ ふんぞるべいか 今日ばかり
明日は烏が かつ齧るべい 山中源左衛門

   第一人者
詩は詩仏 書は米庵に 狂歌おれ 芸者小万に 料理八百善 大田南畝

   猿引
それそこで お染といはゞたつ田山
つらは紅葉に勝る目出度さ 上田秋成
江戸狂歌 蜀山家集 狂歌百人一首 江戸川柳 江戸川柳日本裏外史 都々逸 歴代川柳等 殺生石 楊貴妃 屋島 書架へ