江 戸 川 柳 目録

 残念か いいか常盤は 泣いてさせ
  源義朝の後家の常盤御前は平清盛の意に従うことで三人の子供を救った。

 小松殿 ぼぼが敵と 世をなげき
  平清盛の嫡男小松内府重盛らは牛若(源義経)に滅ぼされた。

 一門は 蟹と遊女に 名を残し
  平家一門は壇ノ浦で滅び平家蟹となる。生き残った官女は生活に困り遊女となった。

 西海の 九郎苦労も 水の泡となり
  源義経は西海で平家を苦労して滅ぼしたが、奥州平泉で滅ぼされた。

 おつむりと 下は違うと まさ子いい 源頼朝は大頭だった。

 親鸞は 世をひろく見て あなかしこ

 手を握る ばかり志賀ない 老いの僧
  高徳の老僧であって志賀寺の上人が美女の京極の御息所に一目ぼれして、
 「はつ春の はつ子の今日の 玉ははき 手にとるからに ゆらぐ玉の緒」と詠むと京極の御息所が
 「極楽の 玉のうてなのはちす葉に われをいざなえ ゆらぐ玉の緒」と返歌した。

 三つのうち 目も歯もよくて 哀れなり

 ひとりもの 店賃ほどは 内にいず

 おさしみの 前に土手をば ちょっとなで

 歯は入れ歯 目はめがねにて 事たれど

 遠くから 口説くを見れば 馬鹿なもの

 むつかしい 顔をうっちゃる 袖の下

 五右衛門は 生煮えのとき 一首よみ

 蝿は逃げたのに静かに 手を開き

 神々も 恵方果報の 当り年 恵方=吉の方向、果報=賽銭

 知れて居る ものをかぞへる せんがく寺

 こらへかね こらへかねての 短慮なり

 手を出した 方が負けだと 下馬で言ひ

 させもせず しもせぬ二人 名が高し 二人=小野小町と武蔵坊弁慶

 瓜田より 炬燵の足の 疑わし 瓜田に履をいるるなかれ

 忍ぶ夜の 蚊はたたかれて そっと死に

 痩せこけた 死骸があると わらび取り 伯夷・叔斉

 その手代 その下女昼は もの言わず

 掛取りが 来ると作兵衛 唸り出し 作兵衛=仮病人

 大三十日おおみそか 首でも取って くる気なり

 竈標かまじめの 直を聞きに来る 新世帯

 居酒屋の ねんごろぶりは 立って飲み ねんごろぶり=常連のフリ

 神代にも だます工面は 酒が入り

 酔ったあす 女房のまねる はづかしさ

 本降りに なって出て行く 雨宿り

 ちかづきを 考えて居る 雨宿り

 雨やどり 額の文字を 良くおぼえ

 腹立って出る傘は ひらきすぎ

 店中の 尻で大屋は 餅をつき 共同便所の肥取り代で餅をついた。

 末ながく いびる盃 姑さし

 嫁さえざえと 牡丹餅を 七つ喰い 姑の四九日

 牡丹餅を 気の毒そうに 晴れて喰い

 死水を 嫁にとられる 残念さ

 ねがはくは 嫁の死水 とる気なり

 姑婆 いびるがやむと 寝糞をし

 薮入りの 戻ると来ぬで すきがしれ

 医者衆は 辞世をほめて 立たれけり

 にこにこと 医者と出家が すれちがい

 まま母と にらんで女衒 安くつけ

 つぶれ前 女衒まで来る むごい事 つぶれ前=破産寸前

 嘘も少しはつきますと 女衒いい 女郎の最大の武器は嘘

 なでまわし 五一の金を さしはじめ  五一の金=五両に月一分の利息←将棋の指し手

 座頭のを 借りて座頭の 鳴りをやめ  座頭からの借金を座頭から借りて返す。

 家督公事 目鼻がつくと 座頭来る  家督相続の訴訟(公事)にけりで借金取り。

 なきなきも よい方をとる かたみわけ

 五分五分に 枕をよせる 旅戻り

 業平を 見逃しにする 大社 人盛んにして神祟らず

 杉の木は 寝耳へ釘を 打込まれ 丑の時参り

 かよう遊ばせと鶺鴒 びくつかせ 鶺鴒=神への性の教え鳥

 も一つの 伝授鶺鴒 泣いてみせ

 鶺鴒は 一度教えて あきれはて

 教えられたもうと 橋がみっしみし
  鶺鴒が教えたのは「天の浮橋」の上だった『日本書紀』

 あれいっそ 神去りますと 橋の上

 朕はもう 崩御崩御と のたまえり

 人化かす 狐も土の 団子喰い 稲荷へあげる土団

 暮の関 越せぬは 丙午に乗り 暮の関=借金、持参金目当て

 出家でもうけたを医者で 遣いすて 生臭坊主が医者に化けて花街へ

 昼は釈迦 夜は神農の 弟子となり

 学者虚して 曰く鮮すくないかな腎

 仲人は あばたの数を かぞえて来 あばたの数で持参金が上昇

 仲人は 小姑一人 殺すなり 小姑の数を減らして仲人口

 けちな医者 さて犀角に 困りはて 犀角=犀の角の漢方薬

 貧の病いに犀角は ずぶ利かず

 ああ腎が 少ない哉と 地黄丸じおうがん

 日を呑んで 月を流すは 恋の道 日=朔日丸=避妊薬・堕胎薬、月=月経

 越しかたを 思ふ涙は 耳に入り

 恋の味 袂たもとをかんで 娘知り

 叱られて 娘は櫛の 歯をかぞへ

 まくら絵を 高らかに読み 叱られる

 我が好いた 男の前を かけぬける

 あたり見廻し 絵の所 娘あけ

 十三と 十六ただの 年でなし

 十六の 春から稗を まいたやう

 娘もう いくのの道も 承知なり
  大江山 生野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立(小式部)

 くどかれて あたりを見るは 承知なり

 よしなあの 低いは少し 出来かかり

 だんだんに そんならの出る 面白さ

 髪を結ふ 時に女は 目がすわり

 男なら すぐに汲うに 水鏡

 相性は 聞きたし年は 隠したし

 させたいと したいは直きに 出来るなり

 いひなずけ たがひちがひに 風邪をひき

 くどかれて 娘は猫に ものを言ひ

 お妾の 昼間はしごく 無口なり

 箱入りの あったら金に 嫁を添え  親は箱入りと思っても持参金なしでは売れず。

 ひる過ぎの 娘は琴の 弟子も取り ひるすぎの娘=行き遅れ

 抱いた子に たたかせてみる 惚れた人

 ふところに 抱いてゐたのに 滅ぼされ
  常盤御前の抱いていた頼朝と義経が平家を滅ぼした。

 腹の立つ 裾へかけるも 女房也

 病み上り 女房ひやひや ものでさせ

 新あら世帯 きざみかけては しにはいり

 いけんきく 息子の胸に 女あり

 ふみの来る たんびに息子 ちえがつき

 ひと塩すると実体の 息子なり ひと塩=道楽息子を銚子へ勘当、実体=実直

 春や昔のと調子から 文通い
  月やあらぬ 春やむかしの春ならぬ わが身ひとつはもとの身にして(伊勢物語)

 我がすかぬ 男の文は 母に見せ

 逃げしなに おぼえてゐろは 負けたやつ

 心中は ほめてやるのが 手向けなり

 死に切って 嬉しさうなる 顔二つ

 首くくり 富の札など もってゐる

 書置は めっかり安い とこへおき

 夏草や 野良者共の 出合あと
  夏草や つわものどもの 夢の跡(芭蕉)、出合=村出合=村の男女の密会

 出合する 上をひばりは 舞って居る

 村出合 させもが露に ぬれるなり
  契りおきし させもが露を 命にて あわれことしの 秋もいぬめり(千載集)

 村社氏 子ふやしに くる出合

 仲人に かけては至極 名医なり 藪医者

 させにくい 祝言などと 恩にかけ 仲人の恩着せ

 仲人の 舌はぬかるる 覚悟也 仲人口

 芝居にて 見合い濡れ場が 教え鳥

 逃げのびた 腰元前を よく合わせ

 姑死に 嫁片腕を 継いだよう

 きりょうよい 持参をと 母女なり 欲深い母

 金箔の つかぬは木地の いい娘 持参金なしでよいのは器量良し

 入聟は わが物までに 事をかき

 女房だと 思うが聟の 不覚也

 番頭も 外ではおもしろい男

 菅笠も 夜は重なる 夫婦旅

 二人とも 帯をしやれと 大家いひ

 寝てとけば 帯ほど長い ものはなし

 昼みれば 夜這い律儀な をとこなり

 見つかって 椎の実ほどに して逃げる

 間男を 切れろと亭主 惚れている

 女房を こわがる奴は 金が出来

 またしても 前の仏で こぜりあい 死んだ先妻

 さわらねば なお祟りあり 山の神

 色男 ちとそろばんは 未熟也

 傾城の 尾羽打ちからす いい男 傾城が騙されるような色男

 居候 いつもせんべい かしわ餅
  せんべい=煎餅布団、かしわ餅=一枚の煎餅布団にくるまる寝方

 居候 よんどころなく 子ぼんのう

 掛人 寝言にいふが ほんのこと 掛人=居候

 口がるく 尻のおもたい 居候

 恥ずかしさ 知って女の 苦のはじめ

 おれたとは 女のやぶれ かぶれなり

 月夜と知らず提灯へ 弓を張り 提灯=老人の陽物

 毛が少し 見えたで雲を ふみはずし 久米仙人

 雲となり 雨となったで 月を見ず 雲雨=男女の営み、月=妊娠

 弁天を 大黒にして 布袋にし  弁天=美人、大黒=生臭坊主の隠し妻、布袋=妊婦

 国の母 生まれた文を 抱き歩き

 赤い名を 黒くしたがる 里の母
  赤い名=娘の嫁入り先の姑、黒=後家になって戒名を赤で書き、本当に死ぬと黒に書く

 日傘をば 買うにも御宰 下駄をはき

 天知る地知る二人知る 御用知る 天知、地知、我知、汝知:密事はばれる

 出替りの 乳母は寝顔に いとま乞い 出替り=奉公人の交代

 品川の 客にんべんの あるとなし 偏がある=侍、偏がない=寺=生臭坊主

 野暮と化物品川に 入りびたり 野暮=田舎侍、化物=僧侶

 細見さいけんを 四書文選の 間あいに読み
  細見=遊里の案内記四書=大学、中庸、論語、孟子

 四つ手駕 月の都を さして駈け
  四つ手駕=辻駕、月の都=八月一五夜と九月十三夜=吉原の紋日

 孝行も 四つ手不孝も 四つ手なり
  孝行=親の借金返済のための身売娘、不孝=道楽息子

 吉原は 拍子木までが 嘘をつき
  四つの拍子木=吉原の四つは十二時、日常の四つは十時

 出すまじき 所で浅黄 武士を出し 遊里で田舎侍が刀を抜く野暮

 人は武士 なぜ傾城に いやがられ

 あまっ子の やうなにはまる 浅黄裏

 もてぬやつ かんらかんらと うちわらひ

 しんかんと して褌の しらみを見

 年々歳々玉菊は 客を呼ぶ
  玉菊=若死にした大夫玉菊の追善供養に灯籠をあげる吉原の祭り

 灯籠の 灯にとんで入る 若盛り

 月の前 かこち顔なる 売れのこり
  嘆けとて 月やは物を思わする かこち顔なる 我涙かな

 月の嘘 天にいつわり なきものを
  「いや、うたがいは人間にあり、天に偽りなきものを」『羽衣』

 勘当は のの様を二度 喰った奴 ののさま=月

 突出しの 親人参を たんと飲み
  突出し=初見世の遊女、人参=病気の親に人参を飲ますための身売り

 傾城の 義理はちょっちょと 風邪をひき
  特別の客や間夫(愛人)への義理立てに嘘の風邪で見世を休む(身揚がり)

 売家と 唐様で書く 三代目

 身揚りの 部屋に村の名 書いた笠

 箸一ぜんの主となる 面白さ 小料理屋の常連扱いで自惚れる馬鹿

 口偏に 空おそろしい 起請文きしょうもん 口偏に空=嘘の別字

 水にする 起請もかたい 紙へ書き 水にする=水に流すつもりの嘘起請

 目がさめて 今は仇なれ 入れぼくろ 入れぼくろ=女の名の刺青

 命なりけり小夜ふけて 艾もぐさの香
  年たけて 又こゆべしと思いきや 命なりけり 小夜の中山(西行)
  艾の香=艾で前の情夫の名の刺青を焼き消す

 太えあま 腕に火葬が 二つ三つ  火葬=捨てた愛人の名の刺青を艾で焼き消す

 月の前 かこち顔なる 売れのこり
  嘆けとて 月やは物 を思わする かこち顔なる 我涙かな

 禿頭 垂れて故郷を 思ふなり
  頭を挙げて山月を望み 頭を低れて故郷を思ふ(李白)

 気強いと 気の長いのが 九十九夜 小野小町・深草少将

 もうしめた もうしめたと 九十五六夜目 小野小町・深草少将

 労して功なし深草の 行きだおれ 小野小町・深草少将

 黒主は そっと照る照る 法師をし 小野小町の雨乞い踊りと大伴黒主の対立

 黒主は 武玉川から 盗み出し 小野小町の雨乞い踊りと大伴黒主の対立

 恋の重荷は芥川桂川 在原業平(芥川)・お半長右衛門(桂川)

 面白く 雨風にあふ 中納言  在原行平の須磨謹慎での松風村雨姉妹の寵愛

 また流されておいでよと 二人泣き  在原行平の須磨謹慎での松風村雨姉妹の寵愛


江戸川柳で読む百人一首

 鶯も 蛙も鳴かぬ 小倉山

 夏来にけらし白妙の ところてん
  春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣乾すてふ 天の香具山

 しだり尾の 長屋長屋に 菖蒲かな
  あし曳きの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 独りかの寝ん

 すり鉢は みそひともじで ほめ足らず
  田子の浦に 打ち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ

 吉原は もみぢ踏み分け ゆく所
  奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき

 出し月かもと銚子の 浜で見る
  天の原 振りさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出し月かも

 花の色は 美しけれど 実はならず
  花の色は 移りにけりな いたずらに 我が身世にふる 眺めせし間に

 花の色 身のいたづらは せぬ女

 蝶花を ながめせしまに 娘ふけ

 語るなと 詠んだで落ちた ことが知れ
  僧正遍昭の落馬(名に愛でて 折れるばかりぞ 女郎花 吾落ちにきと 人に語るな)

 親のため 我落ちにきと 女郎花 借金の身売り

 恋ぞつもりて扶持となる 妾が兄
  筑波ねの 峯より落つる 男女の川 恋ぞつもりて 淵となりぬる

 しのぶずり 召し傾城に 乱れそめ
  陸奥の 忍ぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れ初めにし 我ならなくに

 しのぶずり よりも高尾は しまを好き
  高尾太夫・島田重三郎・仙台侯伊達綱宗

 うぬがため 春の野に出る 薺なずな売り
  君がため 春の野に出て 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ

 芥川 神代もきかぬ 不埒なり
  ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 唐紅に 水くぐるとは

 問ふ人が ただの人なら ただの鳥
  名にし負はば いざ事問わん 都鳥 我が思ふ人は ありやなしやと(在原業平)

 翌る日は いざこざ聞かん 都鳥

 侘びぬれば 今はたおなじ ご借金
  わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ

 座敷牢 千々にものこそ 悲しけれ
  月見れば 千々に物こそ 悲しけれ 我が身一つの 秋にはあらねど

 このたびは ぬたにとりあへよ 紅葉鮒 (松江重頼)
  このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに

 このたびは 雷公雲の 上へ落ち 菅原道真の怨霊

 どの蚊帳へ 行っても 時平つき出され  藤原時平の讒言による菅原道真の左遷

 人と成り 神と成り また雷となり 菅原道真

 人目も草もいとはずに 野糞たれ
  山里は 冬ぞ寂しさ 勝りける 人目も草も 枯れぬと思へば

 力では 並ぶものなき 古今の序
  力をも入れずして天地を動かし 目に見えぬ鬼人をもあはれと思わせ(古今集)

 梅干も 花ぞ昔を 思ひ出し
  人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の香に にほひける

 夏の夜は まだ酔ひながら 朝帰り
  夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいずこに 月宿るらむ

 誓ひてし 人の命へ 灸をすゑ
  忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな

 竹の子や あまりてなどか 人の庭
  浅茅生の 小野の篠原 忍ぶれど 余りてなどか 人の恋しき

 逢ふことの たえて久しき 座敷牢
  逢ふことの 絶えてしなくば 中々に 人をも身をも 恨みざらまし

 八重葎 茂れる宿へ 女衒くる
  八重葎 茂れる宿の 寂しきに 人こそ見えね 秋は来にけり

 くだけても 割れても定家 百へ入れ
  風をいたみ 岩打つ波の 己のみ 砕けて物を 思ふころかな

 わが命 長くもがなと 姑ばば
  君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな

 あらざらむ 此世のほかの 嫁いびり
  あらざらむ 此世のほかの 思ひ出に 今一度の 逢ふこともがな

 中ほどへ 定家女郎屋 ほど並べ

 傾くまでの月を見る どら息子
  やすらはで 寝なましものを 小夜更けて 傾くまでの 月を見しかな

 家やしき 傾くまでの 月を見る

 詩は七歩 和歌は踏み見ぬ うちに詠み
  大江山 幾野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天橋立、魏の曹植

 奈良桜 一重よけいに 匂ふなり
  古の 奈良の都の 八重桜 今日九重に 匂ひぬるかな

 心にも あらでおや良く 来なんした
  心にも あらで憂世に 永らへば 恋しかるべき 夜半の月かな

 和田の腹 巴も初手は 探りかね
  わたの原 漕ぎ出て見れば 久方の 雲井にまがふ 沖津白波

 百の内 二人変化で 神となり

 鶯は ないが里っ子 集に入り
  ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる

 うしと見し 勤めもうもう いやになり
  永らえば また此ごろや 忍ばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき

 玉の緒よ たえなばたえね 鰒ふぐが好き
  玉の緒よ 絶えなば絶えね 永らえば 忍ぶる事の 弱りもぞする

 味噌煮ぞ下戸のしるしなり鰹
  風そよぐ 奈良の小川の 夕暮れは 禊ぞ夏の しるしなりけり

 喰うも憂し 喰はぬも辛し 居候
  人もおし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は

 失念と いへば立派な 物忘れ 『武玉川』第八篇

 緑子の 欠びの口の 美しき 『武玉川』第八篇

 拝み倒しにまだ 懲りぬ母 『武玉川』第八篇

 親の闇 ほかの踊は 目に附かず 『武玉川』第九篇

 蛤に なりての不自由 いかばかり 『武玉川』第十一篇、雀海中に入りて蛤となる

 去年まで ただの寺なり 泉岳寺 『武玉川』第十一篇

 奥様と いはれて顔が 別になり 『武玉川』第十五篇

 遠くから 見える蛍の 息づかひ 『武玉川』第十七篇

 白鷺の 田をきたながる 足づかひ 『武玉川』第十八篇

 口留めに 知った話の はがゆくて 『武玉川』第十八篇

 うつむけば いひわけよりも 美しき 『武玉川』第十八篇

 面白き 時憂き時の 智慧はなし 『武玉川』第十八篇

 つまるところ酒屋がための 桜咲く 『武玉川』第十八篇

 牡丹餅を こはごは上戸 一つ食ひ 柳樽

 小豆飯 かみしもほどの ことでなし 『武玉川』第十一篇

 夜蕎麦切 駆落者に 二つ売り 柳樽

 聞いたかと 問はれて 喰った かと答へ 柳樽、目には青葉 山不如帰 初鰹