希望 土井晩翠 目録
沖の汐風吹きあれて
白波いたくほゆるとき、
夕月波にしづむとき、
黒暗よもを襲ふとき、
空のあなたにわが舟を
導く星の光あり。
ながき我世の夢さめて
むくろの土に返るとき、
心のなやみ終るとき、
罪のほだしの解くるとき、
墓のあなたに我魂を
導く上の御声あり。
嘆きわづらひくるしみの
海にいのちの舟うけて
夢にも泣くか塵の子よ、
浮世の波の仇騒ぎ
雨風いかにあらふとも、
忍べとこよの花にほふ―
港入江の春告げて
流るる川に言葉あり、
燃ゆる焔に思想あり、
空行く雲に啓示あり、
夜半の嵐に諌誠あり、
人の心に希望あり。