少年の日
佐藤 春夫
一
野ゆき山ゆき海辺ゆき
真ひるの丘べ花を敷き つぶら瞳の君ゆゑに うれひは青し空よりも。 二
影おほき林をたどり
夢ふかきみ瞳を恋ひ あたたかき真昼の丘べ 花を敷き、あはれ若き日。 三
君が瞳はつぶらにて
君が心は知りがたし。 君をはなれて唯ひとり 月夜の海に石を投ぐ。 四
君は夜な夜な毛糸編む
銀の編み棒に編む糸は かぐろなる糸あかき糸 そのラムプ敷き誰がものぞ。 三好達治 測量船
あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ をみなごしめやかに語らひあゆみ うららかの跫音空にながれ をりふしに瞳をあげて 翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり み寺の甍みどりにうるほひ 廂々に風鐸のすがたしづかなれば ひとりなるわが身の影をあゆまする 甃のうへ |