グルジアの丘に夜露が降り
一八二九年 プーシキン
グルジアの丘のほとりに
夜霧は深く立ちこめ
波騒ぐアラグァの流れ
わが前にあり

わが心は侘びしくも軽く
わが悲しみは明るい
君が面影にあふれる
このわが悲しみ

ただひとり
ただひとり君の面影に
わが愁いを乱すもの
今は絶えてなく

心はまた恋に燃える
恋しらぬ稚なごごろの
われならぬ身にime-ji.jpg

   ふるさと

大木惇夫

朝かぜにこほろぎなけば
ふるさとの水晶山も
むらさきに冴えたらむ

紫蘇むしる母の手も
朝かぜに白からむ


   頬

竹内てるよ

生まれて何も知らぬ
吾子の頬に
母よ絶望の涙をおとすな

その頬は赤く小さく
今はただ一つの
巴旦杏(はたんきょう)にすぎなくとも
いつ人類のための戦ひに
燃えて輝かないと
いふことがあらう

生まれて何も知らぬ
吾子の頬に
母よ
悲しみの涙をおとすな

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