昭和撰百人一首

皇は神にしませば天雲の
雷の上に廬せるかも 万葉集 柿本人麿

大宮の内まで聞ゆ網引すと
網子とゝのふる海人の呼び声 万葉集 長奥麻呂

安見しゝわが大王の食国は
大倭も此処も同じとぞ念ふ 太宰府の帥 大伴旅人

千万の軍なりとも言挙せず
取りて来ぬべき男とぞ念ふ 万葉歌人 高橋虫麻呂

士やも空しかるべき万代に
語り続ぐべき名は立てずして 山上憶良

あしびきの山にも野にも御猟人
得物矢手挟みみだれたり見ゆ 万葉集 山部赤人

旅人の宿りせむ野に霜降らば
吾が子羽ぐくめ天の鶴群 遣唐使使人母

わが背子は物な念ほし事しあらば
火にも水にも吾無けなくに 武人の妻 安倍女郎

丈夫の弓上振り起し射つる矢を
後見む人は語り継ぐがね  近江塩津山 笠金村

御民吾生ける験あり天地の
栄ゆる時に遇へらく念へば 万葉集 海犬養岡麻呂

大君の命かしこみ大船の 行きのまにまに
やどりするかも 遣新羅使 雪宅麻呂

あをによし寧楽の京師は咲く花の
薫ふがごとく今さかりなり 小野老

降る雪の白髪までに大皇に 仕へまつれば貴もあるか
橘諸兄

天の下すでに覆ひて降る雪の
光を見れば貴くもあるか 万葉集 紀清人

新しき年のはじめに豊の年
しるすとならし雪の降れるは 万葉集 葛井請会

天皇の御代栄えむと東なる みちのく山に金花咲く
大伴家持

唐国に往き足らはして帰り来む
益荒猛夫に御酒たてまつる 多治比鷹主

大君の命かしこみ磯に触り
海原渡る父母を置きて 遠江防人 丈部人麻呂

真木柱ほめて造れる殿のごと
いませ母刀自面変りせず 駿河防人 坂田部麻呂

霰降り鹿島の神を祈りつつ
皇御軍に吾は来にしを 常陸防人 大舎人部千文

今日よりは顧みなくて大君の しこの御楯と
出で立つ吾は 下野防人 今奉部与曾布

天地の神を祈りて幸矢貫き
筑紫の島をさして行く吾は 下野防人 大田部荒耳

ちはやぷる神の御坂に幣奉り
斎ふいのちは母父が為 信濃壮丁 神人部子忍男

翁とてわぴやは居らむ草も木も
栄ゆる時に出でて舞ひてむ 百十三歳 尾張浜主

海ならずたゝへる水の底までも
清き心は月ぞ照さむ 菅原道真

のごと坂田の稲を抜き積みて
照る日の本を忘れざらなむ 成尋阿闍梨母

君が代はつきじとぞ思ふ神風や
みもすそ川のすまん限は 源 経信

君が代は松の上葉におく露の
つもりて四方の海となるまで 金葉集撰者 源 俊頼

君代にあへるは誰も嬉しきを
花は色にも出でにけるかな 勅撰集 藤原範兼

み山木のその梢とも見えざりし
桜は花にあらはれにけり 源 頼政

宮柱したつ岩根にしき立てて
つゆも曇らぬ日の御影かな 西行法師

君が代は千代ともさゝじ天の戸や
いづる月日のかぎりなければ 千載集撰者

昔たれかゝる桜の花を植ゑて
吉野を春の山となしけむ 藤原良経

山はさけ海はあせなむ世なりとも
君にふた心わがあらめやも 源 実朝

曇りなきみどりの空を仰きても
君が八千代をまづ祈るかな 藤原定家

末の世の末の末まで我が国は
よろづの国にすぐれたる国 蒙古調伏 宏覚禅師

西の海よせくる波も心せよ
神の守れるやまと島根ぞ 神主 中臣祐春

勅として祈るしるしの神風に
寄せくる浪はかつ砕けつゝ 藤原為氏

思ひかね入りにし山を立ち出でて
迷ふうき世もたゞ君の為 藤原師賢

命をばかろきになして武士の
道よりおもき道あらめやは 源 致雄

限なき恵みを四方にしき島の
大和島根は今さかゆなり 藤風為定

君をいのる道にいそげば神垣に
はや時つげて鶏も鳴くなり 神主 津守国貴

ものゝふの上矢のかぶら一筋に
思ふ心は神ぞ知るらむ 菊池武時

かへらじとかねて思へば梓弓
なき数に入る名をぞとゞむる 楠木正行

鶏の音になほぞおどろく仕ふとて
心のたゆむひまはなけれど 北畠親房

いのちより名こそ惜しけれ武士の
道にかふべき道しなければ 年十七 森迫親正

あふぎ来てもろこし人も住みつくや
げに日の本の光なるらむ 三条西実隆

あぢきなやもろこしまでもおくれじと
思ひしことは昔なりけり 新納忠元

富士の嶺に登りて見れば天地は
まだいくほどもわかれざりけり 下河辺長流

行く川の清き流れにおのづから
心の水もかよひてぞすむ 徳川光圀

ふみわけよ日本にはあらぬ唐鳥の
跡を見るのみ人の道かは 荷田春満

大御田の水泡も泥もかきたれて
とるや早苗は我が君の為 賀茂真淵

ものゝふの兜に立つる鍬形の
ながめ柏は見れどあかずけり 田安宗武

すめ神の天降りましける日向なる
高千穂の嶽やまづ霞むらむ 楫取魚彦

天の原てる日にちかき富士の嶺に
今も神代の雪は残れり 橘 枝直

千代ふりし書もしるさず海の国の
まもりの道は我ひとり見き 林 子平

我を我としろしめすかやすべらぎの
玉のみ声のかゝる嬉しさ 高山彦九郎

あし原やこの国ぷりの言の葉に
栄ゆる御代の声ぞ聞ゆる 小沢蘆庵

しきしまのやまと心を人とはゞ
朝日ににほふ山ざくら花 本居宣長

初春の初日かゞよふ神国の 神のみかげをあふげ諸
荒木田久老

八束穂の瑞穂の上に千五百秋
国の秀見せて照れる月かも 橘 千蔭

香具山の尾上に立ちて見渡せば
大和国原早苗とるなり 上田秋成

かけまくもあやに畏きすめらぎの
神のみ民とあるが楽しさ 神官 栗田土満

遠つ祖の身によろひたる緋縅の
面影浮ぶ木々のもみぢ葉 蒲生君平

大日本神代ゆかけて伝へつる
雄々しき道ぞたゆみあらすな 神官 賀茂季鷹

青海原潮の八百重の八十国に
つぎてひろめよ此の正道を 平田篤胤

一方に靡きそろひて花すゝき
風吹く時ぞみだれざりける 香川景樹

安見しゝわが大君のしきませる
御国ゆたかに春は来にけり 高知の人

かきくらすあめりか人に天つ日の
かがやく邦のてぶり見せばや 藤田東湖

我が国はいともたふとし天地の
神の祭をまつりごとにて 神官 足代弘訓

君がため花と散りにしますらをに
見せばやと思ふ御代の春かな 加納諸平

大君のためには何か惜しからむ
薩摩のせとに身は沈むとも 僧月照

大君の宮敷きましゝ橿原の
うねびの山の古おもほゆ 鹿持雅澄

君が代を思ふ心のひとすぢに
吾が身ありともおもはざりけり 梅田雲浜

大君の御贄のまけと魚すらも
神代よりこそ仕へきにけれ 石川依平

身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも
留め置かまし日本魂 吉田松陰

岩が根も砕けざらめや武士の
国の為にと思ひ切る太刀 薩摩藩士 有村治左衛門

天ざかる蝦夷をわが住む家として
並ぷ千島のまもりともがな 徳川斉昭

天皇に仕へまつれと我を生みし
我がたらちねぞ尊かりける 佐久良東雄

鹿島なるふつのみたまの御剣を
こゝろに磨ぎて行くはこの旅 水戸藩士 高橋多一郎

朝廷辺に死ぬべきいのちながらへて
帰る旅路の憤ろしも 鹿児島藩士 有馬新七

君がため命死にきと世の人に
語り継ぎてよ峰の松風 松本奎堂

天皇の御楯となりて死なむ身の
心は常に楽しくありけり 鈴木重胤

曇りなき月を見るにも思ふかな
明日はかばねの上に照るやと 吉村寅太郎

しづたまき数ならぬ身も時を得て
天皇が御為に死なむとぞ思ふ 児島草臣

青雲のむかふす極すめらぎの
御稜威かゞやく御代になしてむ 平野国臣

ますらをが思ひこめにし一筋は
七生かふとも何たわむべき 渋谷伊予作

大君の御楯となりて捨つる身と
思へば軽きわが命かな 年十八 津田愛之助

みちのくのそとなる蝦夷のそとを漕ぐ
舟より遠く物をこそ思へ 佐久間象山

取り佩ける太刀の光はものゝふの
常に見れどもいや珍しき 医者 久坂玄瑞

君が代はいはほと共に動かねば
くだけてかへれ沖つしら浪 件林光平

大山の峰の岩根に埋めにけり
わが年月の日本だましひ 神官 真木和泉

武夫のたけきかゞみと天の原 あふぎ尊め丈夫のとも
平賀元義

片敷きて寝る鎧の袖の上に
思ひぞつもる越の白雪 水戸正党棟梁 武田耕雲斎

大君の御旗の下に死してこそ
人と生れし甲斐はありけれ 田中河内介

武士のやまと心をより合せ
たゞひとすぢの本綱にせよ 野村望東尼

後れても後れてもまた君たちに
誓ひしことをわれ忘れめや 高杉晋作

男山今日の行幸の畏きも
命のあればぞをろがみにける 大隈言道

春にあけて先づみる書も天地の
はじめの時と読み出づるかな 橘曙覧

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