2003/12/23 投稿者:kotodamakanashi 戻る
夢おぼろ (歌)長保有紀

枕のあかりに身をさらし
くれない色に染める肌
罪の匂いにおびえても
抱かれてしまえば おんなです

 あなた今日は和室ね。初めてね。
 畳に胡坐をかくあなたを見るのも初めてよ。
 膝の上に乗っていい?答えを待つ間もなく引き寄せられる私。
 仄暗い灯りがあなたの肩越しに見える。
 それも束の間。あなたしか見えなくなる。
 なんて柔らかな唇。なんて優しく甘いキス。

逢えばせつなくて 恋が苦しくて
おんなが哀しい 愛にながされて
もれる吐息に あゝ 夢おぼろ

 「お嬢さんにもキスしていいか?」 意地悪。
 そこへのキスが一番好きなこと知ってるくせに。
 私の大切な場所に顔を埋めるあなた。女であることの悦び。
 両の足の爪先まで電気が走る。意識が遠くなってゆく。

いくら燃えたって 心さびしくて
おんなが哀しい あなた抱きしめて
夜はつかのま あゝ 夢おぼろ

 「さあ今度は僕にして」 あなたのもので私のもの。
 今、雄雄しく私を待つ。あなた咽喉に痞えそうよ。
 「そのままで顔を見せて」  と言うあなた。見える?
 あなたにしか見せない姿が。

あなたが寝煙草ふかすたび
ホタルが闇に赤くとぶ

 あなたの腕枕がこの世の安息。おんなの行き着く場所。
 髪を撫でられてひとたびの眠り。

乱れた着物をかきあつめ
裸ですべる部屋のすみ
これが最後と決めたって
あなたを拒める はずもない

 もう帰らなくちゃね。お化粧を直すわ。
 あなたが近づいて来る。
 塗りなおした紅い唇がまたふさがれる。
 口紅が畳に転がって行く。再びあなたの腕の中。

おんなが哀しい いのち狂おしく
あなたひとりに あゝ 夢おぼろ