夢一夜       唄 南こうせつ

素肌に片袖 通しただけで
色とりどりに 脱ぎ散らかした
床にひろがる 絹の海
着てゆく服が まだ決まらない
いらだたしさに 唇かんで
私ほんのり 涙ぐむ

「今度逢ったらどうして欲しい」いつものあなたの口癖
 電話の向こうの大真面目な声
「いつもと同じでいいの」 私の返事もいつもと同じ
 二人ですることがまだ残っているというのでしょうか
 少し笑ってる電話の向こうのあなた

貴方に逢う日の ときめきは
あこがれよりも 苦しみめいて
ああ 夢一夜 一夜限りに咲く花のよう 匂い立つ

 あなたが車のドアをロックする
 私はあなたの上衣を掴み後ろを歩く
 あのドアの向こうに待つ情念
 あなたの手がドアノブにかかる
 その手がもうすぐ私を抱(いだ)く

恋するなんて 無駄なことだと
例えば人に 言ってはみても
貴方の誘い 拒めない
最後の仕上げに 手鏡見れば
明かりの下で 笑ったはずが
影を集める 泣きぼくろ

 あなたの手 あなたの腕 あなたの胸 あなたの全部
 その全部が私に入ってくる
 私はすべてを受け入れる すべて開いて受け入れる

貴方に逢う日の ときめきは
喜びよりも せつなさばかり
ああ 夢一夜 一夜限りと言いきかせては 紅をひく

 息荒く声も枯れて あなたの身体の下で最後の痙攣
 一瞬の暗黒 密着の中の宇宙
 二人のための人工の空 降り注ぐ満天の星

貴方を愛した はかなさで
私はひとつ 大人になった
ああ 夢一夜 一夜限りで醒めてく夢に 身をまかす

2004/2/28 6462 投稿者:kotodamakanashi 戻る