か ら た ち 日 記
詩 西沢 爽
曲 遠藤 実
一 こころで好きと叫んでも
口ではいえずただあの人と
小さな傘を かたむけた
ああ あの日は雨
雨の小径に白い
仄
(
ほの
)
かな
からたちからたち からたちの花
「幸せになろうね、あのひとはいいました。
私は小さくうなずいただけで
胸がいっぱいでした」
二 くちづけすらの想い出も
のこしてくれず去りゆく影よ
単衣の袖を かみしめた
ああ あの夜は霧
霧の小径に泣いて散る散る
からたちからたち からたちの花
「このまま別れてしまってもいいの、
でもあの人はさみしそうに目をふせて、
それから思い切るように
霧の中に消えていきました。
さよなら初恋、からたちの花が
散る夜でした」
三 からたちの実が実っても
別れた人はもう帰らない
乙女の胸の 奥ふかく
ああ 過ぎゆく風
風の小径に今は遙かな
からたちからたち からたちの花
「いつか秋になりからたちには、
黄色の実が沢山実りました。
今日もまた私はひとり
この道を歩くのです。きっと
あの人が帰ってきそうな、
そんな気がして……」