春 の 舞 妓
詩 萩 原  四 朗
曲 大久保徳二郎
一 十六の 胸の痛みは 加茂川の
  蓬の香より 来るという
  人の話に つまされました
  春は羞かし 京舞妓

 「丘の上の白い校舎よ、さようなら
  なつかしい制服を脱ぎ、
  クラスメートに別れて、
  わたしはとうとう舞妓になった。
  あけて十六。ああ、わたしの胸にも、
  そして加茂の河原にも…
  人の世の春は、訪れて来たのだわ。」


二 顔見世の のばりはためく 雪の朝
  訣れの小指 ちぎりしを
  思い出しては 泣きぬれました
  遠い儚い 人の影

 「あの方の事は、もう忘れましょう。
  考えていると、堪らなくなってくる。
  どうせわたしは、人のおもちゃの京人形。
  恋などできる身分じゃないわ。」


三 十六の 春が来るのに 匂うのに
  八坂の鳩と たわむれて
  夢はかいなく 棄てさりました
  (あか)いおこぼの 京人形