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鉄道唱歌 大和田建樹 詞 多 梅稚 曲
汽笛一声新橋を はやわが汽車は離れたり 右は高輪泉岳寺 四十七士の墓どころ 窓より近く品川の 台場も見えて波白く 梅に名をえし大森を すぐれば早も川崎の 鶴見、神奈川あとにして 行けば横浜ステーション 横須賀行きは乗りかえと 呼ばれておるる大船の 八幡宮の石段に 立てる一木の大いちょう ここに開きし頼朝が 幕府のあとを何かたぞ 北は円覚、建長寺 南は大仏、星月夜 汽車より逗子をながめつつ はや横須賀につきにけり 支線をあとに立ちかえり わたる相模の馬入川 国府津おるれば馬車ありて 酒匂、小田原とおからず いでてはくぐるトンネルの 前後は山北、小山駅 はるかに見えし富士の嶺は はや我がそばに来りたり ここぞ御殿場夏ならば われも登山をこころみん 三島は近年ひらけたる 豆相線路のわかれみち 沼津の海に聞こえたる 里は牛伏、我入道 鳥の羽音におどろきし 平家の話は昔にて 世に名も高き興津鯛 鐘の音ひびく清見寺 美保の松原田子の浦 さかさにうつる富士の嶺を 駿州一の大都会 静岡いでて阿倍川を 鞘より抜けておのずから 草なぎはらいし御剣の 春さく花の藤枝も すぎて島田の大井川 いつしか又も暗となる 世界は夜かトンネルか 掛川、袋井、中泉 いつしか後にはやなりて この水上にありと聞く 諏訪の湖水の冬げしき 琴ひく風の浜松も 菜種に蝶の舞坂も 煙を水に横たえて わたる浜名の橋の上 右は入海しずかにて 空には富士の雪白し 豊橋降りて乗る汽車は これぞ豊川稲荷道 見よや徳川家康の 起りし土地の岡崎を 鳴海しぼりの産地なる 鳴海にちかき大高を めぐみ熱田の御社は 三種の神器の一つなる 名だかき金の鯱は 名古屋の城の光なり 父養いし養老の 滝は今なお大垣を 天下の旗は徳川に 帰せしいくさの関ヶ原 山はうしろに立ち去りて 前に来るは琵琶の海 彦根に立てるは井伊の城 草津にひさぐ姥が餅 いよいよ近く馴れ来るは 近江の海の波の色 瀬田の長橋横に見て ゆけば石山観世音 粟津の松にこととえば 答えがおなる風の声 比良の高嶺は雪ならで 花なす雲にかくれたり 堅田へおつる雁がねの たえまにひびく三井の鐘 むかしながらの山ざくら におうところや志賀の里 大石良雄が山科の そのかくれ家はあともなし 東寺の塔を左にて とまれば七條ステーション ここは桓武の帝より 千有余年の都の地 東にたてる東山 西にそびゆる嵐山 祇園、清水、知恩院 吉田、黒谷、真如堂 夏は涼みの四條橋 冬は雪見の銀閣寺 琵琶湖を引きて通したる 疎水の工事は南禅寺 神社仏閣山水の 外に京都の物産は 扇おしろい京都べに また加茂川の鷺しらず 山崎おりて淀川を わたる向うは男山 淀の川舟さおさして 下りし旅は昔にて 送り迎うる程もなく 茨木吹田うちすぎて 三府の一に位して 商業繁華の大阪市 ここぞ昔の難波の津 ここぞ高津の宮のあと 鳥もかけらぬ大空に かすむ五重の塔の影 大阪出でて右左 菜種ならざる畑もなし 神崎よりはのりかえて ゆあみにのぼる有馬山 神戸は五港の一つにて あつまる汽船のかずかずは 磯にはながめ晴れわたる 和田のみさきを控えつつ 七たび生まれて君が代を まもるといいし楠公の おもえば夢か時の間に 五十三次走り来て 明けなば更に乗りかえて 山陽道をすすままし 以上六六番まで 東海道へリンク 鉄道唱歌 北陸編 詞 大和田建樹 納所弁次郎 吉田信太
一車輪のひびき笛の声 みかえる跡に消えてゆく 上野の森の朝月夜 田端は露もまださむし 二 見上げる岸は諏訪の台 それにつづきて秋の夜は 道灌山の虫のねを ここまで風を送るらん 三 見よや王子の製紙場 はや窓ちかく来りたり すきだす紙の年にます 国家の富もいくばくか 四 春はさくらの飛鳥山 秋は紅葉の滝の川 運動会の旗たてて かける生徒のいさましさ 五 まもなくきたる赤羽は 品川ゆきの乗換場 目白 目黒の不動にも よれや序ついでの道なれや 六 蕨すぎれば浦和にて その公園は調つきの宮 埼玉県の県庁も 此の地にこそは置かれたれ 七 大宮おりて八九町 ゆけば氷川の公園地 八 上尾 桶川 鴻の巣に 近き吉見の百穴は 古代穴居の人のあと 見るも学びの一つなり 九 吹上すぎてながめやる 熊谷土手の花ざかり 次郎直実生まれたる 村の名今につたえたり 十 深谷 本庄 神保原 左に雲のあいだより みゆる秩父のふもとなる 大宮までは馬車もあり 十一 はや新町も倉賀野も またたくひまに行きすぎて 今ぞ上州高崎の 繁華の町につきにける 十二 町の東北前橋へ 汽車にてゆけば十五分 群馬県庁所在の地 上野一の大都会 十三 若葉紅葉によしときく 伊香保の温泉 榛名山 高崎よりは程近く 避暑にも人のゆくところ 十四 みわたすかぎり青々と 若葉波うつ桑畑 山のおくまで養蚕の ひらけしさまの忙しさ 十五 線路わかれて前橋の かたにすすめば織物と 製糸のわざに名も高き 桐生 足利とおからず 十六 高崎いでて安中の つぎは磯部の温泉場 うしろをゆくは碓氷川 まえに立てるは妙義山 十七 鉾か 虚空に立てる岩のさま 石門たかく雲をつく 十八 あとに見かえる松井田の 松のみどりもかげきえて はや横川につきにけり おりよ人々水のみに 十九 これより音にききいたる 碓氷峠のアプト式 歯車つけておりのぼり 仕掛は外にたぐいなし 二十 くぐるトンネル二十六 ともし火うすく昼くらし いずれば天地うちはれて 顔ふく風の心地よさ 二一 夏のあつさもわすれゆく 旅のたもとの軽井沢 はや信州路のしるしとて 見ゆる浅間の夕煙 二二 くだる道には追分の 原とよばるる広野あり 桔梗かるかや女郎花 秋の旅路はおもしろや 二三 御代田 小諸とすぎゆけば 左に来る千曲川 立科山をながれ出て 末は越後の海に入る 二四 諏訪の湖水をみる人は 大屋をおりて和田峠 こえれば五里の道ぞかし 山には馬も駕籠もあり 二五 上田をあとに走りゆく 汽車は 川のかなたにながめやる 山は 二六 田毎の月の風景も 見てゆかましを秋ならば 雲をいただく 二七 間の土地をむかしより 二八 ここに竜虎のたたかいを いどみし二人の英雄も おもえば今は夢のあと むせぶは水の声ばかり 二九 むかし 三十 ここにどとまるひまあらば 三一 軒まで雪の降りつむと ききし 三二 雪にしるしの ふぶきの中にうめらるる なやみはいかに冬の旅 三三 港にぎわう 山のみなれし目には叉 沖の 三四 しぶしぶ茶屋は 三五 いづれば広きわたの原 三六 みわたす空の 石油のいづる 三七 町は名だたる 三八 汽車の窓より 宮は 三九 四十 四一 十一年の とどめ 四二 もみじは わするな手荷物傘鞄 はやここなるぞ 四三 おりればわたる 名も君が代とときはにて 長さは四百数十間 四四 川のかなたは わたせる橋をかぞえれば およそ二百もありとかや 四五 春は 夏は涼しき 四六 汽船の煙海をそめ 商家の軒は日をおおう げにも五港の一つにて 戸数万余の大都会 四七 四八 松ふく風は身にしみて 袂たもとしぼらぬ人もなし 四九 波路やすけく 五十 五一 薬に名ある はるかに望む 五二 商業繁華の つぎに 五三 五百の牛に火をつけて 平家攻めたる古戦場 五四 津幡 七尾のその間 すぎゆく駅は八九箇所 五五 七尾は能登の一都会 入海ひろく舟おおし ちかき和倉の温泉は 町きよらかに客たえず 五六 百万石の城下とて さすが賑わう町のさま 五七 名も兼六の公園は 水戸 岡山と諸共に かぞえられたる我が国の 三公園の其一つ 五八 柳みどりに花赤く おちくる滝の水白し 雲にそびゆる銅像は 西南役の記念碑よ 五九 第九師団も県庁も 皆此町に集まりて 海の外までひびきたる その産物は九谷焼 六十 松任 美川うちすぎて わたる手取の川上に 雪を常磐の白山は 雲間にたかくそびえたり 六一 小松の北におとたかく ながるる水は安宅川 安宅の関は何くぞと 問わば嵐やこたえらん 六二 おりたく柴の こころ細呂木すぎゆけば いろはの金津むかえたり 六三 三国港の海に入る 日野川こえて福井駅 ここに織り出す羽二重は 輸出の高も数千万 六四 大土呂 鯖江あとにして 武生 鯖波はしりゆく 汽車は今こそ今庄に つきて燧の城も見つ 六五 海のながめのたぐいなき 入れば妖しやいつのまに 日はくれはてて闇なるぞ 六六 敦賀はげにも良き港 おりて見てこん名どころを 気比の松原 気比の海 官幣大社気比の宮 六七 身を勤王にたおしたる 耕雲斎の碑をとえば 松の木かげを指さして あれと子供はおしえたり 六八 疋田 柳瀬 中ノ郷 すぎゆく窓に仰ぎみる 山は近江の賤ヶ岳 七本鎗の名も高し 六九 豊太閤の名をとめし 地蔵と共に人ぞしる 汽車の進みよ待てしばし 七十 縮緬産地の長浜に いでて見渡す琵琶の海 大津にかよう小蒸気は 煙ふきたて人をまつ 七一 駅夫の声におどろけば 眠はさめて米原に つきたる汽車の速かさ みかえる伊吹雲ふかし 七二 おもえば汽車のできてより 狭くなりたる国の内 いでし上野の道かえて いざやかえらん新橋に |