高 楼

別れ行く人を惜しむと
          今宵より
  遠き夢路に我やまとはん

遠き別れに 絶えかねて
この高殿に 登るかな
悲しむ無かれ 我が友よ
旅の衣を 調えよ

別れと言えば 昔より
この人の世の 常なるを
流るる水を 眺むれば
夢恥ずかしき 涙かな

慕える人の 許に行く
君の上こそ 楽しけれ
冬山越えて 君行かば
何を光の 我が身ぞや

あゝ花鳥の 色につけ
ねにつけ我を 思えかし
今日別れては 何時かまた
相見るまでの 命かも

君が清けき 目の色も
君紅の 唇も
君が緑の 黒髪も
また何時か見ん この別れ

流れ優しき 慰めも
流れ楽しき 歌声も
流れ心の 琴の音も
また何時聞かん この別れ

君の行くべき 山川は
落つる涙に みえわかず
袖の時雨の 冬の日に
君の贈らん 花もがな

袖に覆える 麗しき
汝が顔を 上げよかし
汝が紅の 顔に
流るゝ涙 我は拭ぐはん