巌頭之感

悠々たる(かな)天壌、遼々たる哉古今、
五尺の小躯を以て(この)大をはからんとす。
ホレーショの哲学
(つひ)(なん)()のオーソリテーを価するものぞ。
万有の真相は唯一言にして(つく)す、曰く「不可解」。
我この(うらみ)(いだい)て煩悶(つひ)に死を決するに至る。
既に巌頭に立つに及んで胸中何等の不安あるなし。
始めて知る大なる悲観は大なる楽観に一致するを

 藤村 操
第一高等学校生徒 一八八五 - 一九〇三-五 
明治三十六年、十八歳、
日光華厳の瀧壺に投身自殺。
掲載作は、傍らの樹木を白く削って書き記した遺書であり、
追随の多きをおそれた官憲はこれを削除。