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退朝して終南山を望む 紫宸ししん朝てう罷やみて鴛鸞ゑんらんを綴つづり、 丹鳳樓前たんぽうろうぜん馬を駐とどめて看る。 惟ただ終南山色しゅうなんさんしょくの在ある有あり、 晴明せいめい舊きうに依よりて長安に滿つ。 |

嶺上逢久別者又別 唐・權德輿
嶺上れいじゃう久別きうべつの者に逢あひて又また別わかる
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十年曾一別、
征路此相逢。 馬首向何處、 夕陽千萬峰。 |
十年曾かつて
一ひとたび別れ、
征路せいろ此ここに相あひ逢あふ。 馬首ばしゅ何處いづこにか向むかふ、 夕陽せきやう千萬せんまんの峰みね。 |
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寒巖かんがん深くして更に好よく、 人の 此この道を行くもの無し。 白雲高岫かうしうに閑しづかに、 青嶂せいしゃう孤猿こゑん嘯なく。 我われ更に何の親しむ所ぞ、 志こころざしを暢のべて自みづから宜よろしく老おゆべし。 形容けいようは寒暑かんしょに遷うつれども、 心珠しんじゅ甚まことに保たもつ可べし。 |
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兩箇りゃうこの黄鸝くゎうり翠柳すゐりうに鳴き、 一行いっかうの白鷺はくろ青天に上のぼる。 窗まどには含ふくむ西嶺せいれい千秋の雪、 門には泊はくす東呉とうご萬里ばんりの船。 |
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將進酒 唐・李賀 琉璃鍾、琥珀濃。 小槽酒滴眞珠紅。 烹龍炮鳳玉脂泣、 羅屏繡幕圍香風。 吹龍笛、撃鼉鼓。 皓齒歌、細腰舞。 況是青春日將暮、 桃花亂落如紅雨。 勸君終日酩酊醉、 酒不到 劉伶墳上土。 |
琉璃るりの鍾さかづき、琥珀こはく濃こし。 小槽せうさう酒滴したたりて眞珠の紅くれなゐなり。 龍りゅうを烹に鳳ほうを炮つつみやきして玉脂ぎょくし泣なき 羅屏らへい繡幕しうまく香風かうふうを圍かこむ。 龍笛りゅうてきを吹き、鼉鼓だこを撃うつ。 皓齒かうし歌ひ、細腰さいえう舞ふ。 況いはんや是これ青春日ひ將まさに暮れんとして、 桃花たうくゎ亂れ落つること紅雨こううの如し。 君に勸すすむ終日しゅうじつ酩酊めいていして醉ゑへ、 酒は到らず 劉伶りうれい墳上ふんじゃうの土に。 |
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李侍郎の常州に赴くを送る 雪晴れ雲散さんじて北風ほくふう寒く、 楚水そすゐ呉山ござん道路難かたし。 今日こんにち君を送る須すべからく醉ゑひを盡つくすべし 明朝みゃうてう相あひ憶おもふも路みち漫漫まんまん。 |
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焚書坑ふんしょかう 竹帛ちくはく煙消えて帝業ていげふ虚むなし、 關河くゎんが空むなしく鎖とざす祖龍そりゅうの居きょ。 坑灰かうくゎい未いまだ冷えざるに山東亂みだる、 劉項りうかう元來がんらい書しょを讀まず。 |
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楊侍御に寄す 十載じっさい媒ばいなくして獨ひとり遺のこさる。 今日こんにち論ずる莫なし腰下えうかの組そ。 請こふ 君きみ看取かんしゅせよ鬢邊びんぺんの絲を。 |
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蒿棘かうきょくに空むなしく存す百尺ひゃくせきの基、 酒さけ酣たけなはにして曾かつて唱うたふ『大風の詞うた』。 言ふ莫なかれ「馬上天下を得えたり」と、 古いにしへより英雄盡ことごとく詩を解す。 |
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胡渭州こゐしう 亭亭ていていたる孤月こげつ行舟かうしうを照らし、 寂寂せきせきたる長江萬里ばんりに流る。 鄕國きゃうこく知らず何いづれの處ところか是これなる、 雲山うんざん漫漫まんまん人をして愁うれへしむ。 |
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揚州やうしうを憶おもふ 蕭娘せうぢゃうの臉下れんか涙に勝たへ難がたく、 桃葉たうえふの眉頭びとう愁うれひを得え易やすし。 天下三分さんぶんす明月めいげつの夜よる、 二分にぶんは無賴ぶらい是これ揚州やうしう。 |
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詩後に題す 二句三年に得え、 一吟いちぎんすれば雙涙さうるゐ流る。 知音ちいん如もし 賞しゃうせずんば、 故山こざんの秋に歸臥きぐゎせん。 |
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無可上人を送る 圭峰けいほう霽色せいしょく新あらたに、 此この草堂さうだうの人を送る。 麈尾しゅび同おなじうして寺を離れ、 蛩鳴きょうめい暫しばらく親しんと別わかる。 獨ひとり行ゆく潭底たんていの影、 數しばしば息いこふ樹邊じゅへんの身。 終つひには煙霞えんかの約やく有りて、 天台てんだいを近鄰きんりんと作なさん。 |
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蕃ばんに沒ぼっせる故人 前年月支げっし を 戍まもり、 城下に全師ぜんし沒ぼっす。 蕃漢ばんかん消息を斷ち、 死生しじゃう長とこしへに別離す。 人の廢帳はいちゃうを收をさむる無く、 歸馬きば殘旗ざんきを 識しる。 祭らんと欲ほっして君在あるかと疑ふ、 天涯てんがいに哭こくするは此この時。 |
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紅粉こうふん壚ろに當あたりて弱柳じゃくりう垂れ、 金花きんくゎの臘酒らふしう酴醾とびを解とく。 笙歌しゃうか日暮れて能よく客きゃくを留とどめ、 醉殺すゐさつす長安輕薄兒けいはくじ。 |
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錢塘せんたうの山水さんすゐに別れてより後のち、 多くは酒を飲まず詩を吟ずるに懶ものうし。 此この意を將もって迴櫂くゎいたうに憑たのみ、 西湖風月に報はうじて知らしめんと欲ほっす。 |
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崔九載華に贈る 君を憐あはれむ一見すれば一悲歌するを、 歳歳老い去るを如何ともする無し。 白屋はくをく漸やうやく看る秋草に沒するを、 青雲道いふこと莫れ故人多しと。 |
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煙を含む一株の柳、 地を拂ひ風に搖ぐこと久し。 佳人折るに忍びず、 悵望して纖手せんしゅを囘めぐらす。 |
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苜蓿烽もくしゅくほうに題して家人に寄す 苜蓿烽もくしゅくほう邊へん立春に逢あひ、 胡蘆ころ河上かじゃう涙巾きんを沾うるほす。 閨中けいちゅう祇ただ是これ空しく思想しさうするも、 沙場さじゃう人を愁殺しうさつするを見ず。 |
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孟寂もうせきを哭こくす 曲江きょっかう院裏ゐんり名を題せし處、 十九じゅうく人にん中最も少年。 今日こんにちの春光しゅんくゎう君見えず、 杏花きゃうくゎ零落れいらくす寺門の前。 |
太行路 借夫婦以諷君臣之不終也 唐・白居易
太行たいかうの路みち 夫婦に借かりて以て君臣の終をへざるを諷ふうする也
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太行之路能摧車、
若比人心是坦途。 巫峽之水能覆舟、 若比人心是安流。 人心好惡苦不常、 好生毛羽惡生瘡。 與君結髮未五載、 豈期牛女爲參商。 古稱色衰相棄背、 當時美人猶怨悔。 何況如今鸞鏡中、 妾顏未改君心改。 爲君熏衣裳、 君聞蘭麝不馨香。 爲君盛容飾、 君看金翠無顏色。 行路難、難重陳。 人生莫作婦人身、 百年苦樂由他人。 行路難、 難於山、險於水、 不獨人間夫與妻、 近代君臣亦如此。 君不見左納言、 右納史。 朝承恩、暮賜死。 行路難、 不在水、不在山。 只在人情反覆間。 |
太行の路は能よく車を摧くだくも、
若もし人の心を比すれば是れ坦途たんとなり。 巫峽ふけふの水は能よく舟を覆くつがへすも、 若もし人の心に比すれば是これ 安流あんりうなり。 人心の好惡かうを苦はなはだ常つねならず、 好めば毛羽まううを生しゃうじ惡にくめば瘡きずを生ず。 君が與ために髮を結びて未だ五載ならざるに、 當時の美人猶なほ 怨悔ゑんくゎいす。 何いかに 況いはんや 如今じょこん鸞鏡らんきゃうの中うち、 妾せふが顏かんばせの未だ改まざるに君が心改まる。 君が爲に 衣裳いしゃうを熏くんずれば、 君は蘭麝らんじゃを聞かぎで馨香けいかうとせず。 君が爲に容飾ようしょくを盛んにすれば、 君は金翠きんすゐを看て顏色がんしょく無しとす。 行路難なん、重かさねて陳のべ難がたし。 人生まれて婦人の身と作なる莫なかれ、 百年の苦樂は他人に由よる。 行路難なん、 山よりも難かたく、水よりも險けはし、 獨ひとりり 人間じんかんの夫ふと妻さいとのみならず、 近代の君臣も亦た此かくの如し。 君見ずや左納言さなふげん、 右納史うないし。 朝あしたに恩を承うけ、暮くれに死を賜たまふ。 行路難なん、 水に在あらず、山に在あらず。 只ただ人情反覆はんぷくの間かんに在り。 |
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雁を聞く 故園眇べうとして何いづれの處ぞ、 歸思方まさに悠なる哉かな。 淮南秋雨しううの夜、 高齋に雁の來きたるを聞く。 |
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音書杜絶す白狼の西、 桃李顏無けれども黄鳥啼く。 寒雁春深くして歸去し盡くし、 門を出づれば腸は斷つ草萋萋たるに。 |
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花卿くゎけいに贈る 錦城きんじゃうの絲管しくゎん日に紛紛ふんぷん、 此この曲祗ただ應まさに天上てんじゃうに有るべく、 人間じんかん能よく幾回くゎいか聞くを得えん。 |
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睢陽すゐやうを守る作 接戰して春來よりこのかた苦しみ、 孤城日に漸やうやく 危あやふし。 合圍がふゐ月暈げつうんに侔ひとししく、 分手ふんしゅ魚麗ぎょりの若ごとし。 屢しばしば黄塵の起るを厭いとひ、 時に白羽はくうを將もって 揮ふるふ。 瘡きずを裹つつみ猶なほ陣ぢんを出いで、 血を飮み更に陴ひに登る。 忠信應まさに敵し難がたかるべく、 堅貞けんてい諒まことに移らず。 人の天子に報はうずる無く、 心計何いづくにか施ほどこさんと欲する。 |
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瀟湘せうしゃうより何事なにごとぞ等閒とうかんに回かへる、 水 碧みどりに沙すな明あきらかにして兩岸に苔こけあり。 二十五弦にじふごげん夜月やげつに彈だんずれば、 清怨せいゑんに勝たへずして卻かへり飛び來きたる。 |

山中五詠 山館
唐・皇甫冉
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山館長寂寂、
閒雲朝夕來。 空庭復何有、 落日照靑苔。 |
山館長とこしなへに寂寂せきせき、
閒雲朝夕てうせき來きたる。 空庭くうてい復また 何なにか有る、 落日靑苔せいたいを照らす。 |
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魏三に送別す 醉ゑひて江樓に別るれば橘柚きついう香かんばしく、 江風かうふう雨を引ひきて船に入いりて涼し。 憶おもふ君が遙はるかに湘山しゃうざんの月に在ありて、 愁うれへ聽きかん清猿せいゑんの夢裏むりに長きを。 |
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菱ひしは浮萍ふひゃうを透とほす綠錦りょくきんの池、 夏鶯千囀せんてんして薔薇に弄たはむる。 盡日じんじつ人無く微雨びうを看れば、 鴛鴦ゑんあう相あひ對して紅衣こういを浴す。 |
和李秀才邊庭四時怨 其四冬 唐・廬弼
李秀才の『邊庭四時怨』に和す
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朔風吹雪透刀瘢、
飮馬長城窟更寒。 半夜火來知有敵、 一時齊保賀蘭山。 |
朔風さくふう雪を吹きて刀瘢たうはんに透とほり、
馬を飲みづかへば長城の窟くつ更に寒し。 半夜はんや火ひ來きたりて敵有るを知り、 一時いちじ齊ひとしく保たもつ賀蘭山がらんさん。 |
見京兆韋參軍量移東陽 唐・李白
京兆けいてうの韋ゐ參軍さんぐんが東陽とうやうに量移りゃういせらるるを見る
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潮水還歸海、
流人卻到呉。 相逢問愁苦、 涙盡日南珠。 |
潮水てうすゐ還また海に歸かへり、
流人りうじん卻かへって 呉ごに到る。 相あひ逢あうて愁苦しうくを問とへば、 涙は盡つく日南にちなんの珠たま。 |
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王道士の京に還かへるを送る 一片の仙雲せんうん帝郷ていきゃうに入いり、 數聲の秋雁しうがん衡陽かうやうに至る。 借問しゃもんす清都せいとの舊花月きうくゎげつ、 豈あに知らんや遷客せんかぅの瀟湘せうしゃうに泣くを。 |
洛陽道獻呂四郎中 唐・儲光羲
洛陽道 呂四郎中に獻ず
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大道直如髮、
春日佳氣多。 五陵貴公子、 雙雙鳴玉珂。 |
大道だいだう直なほきこと髮の如く、
春日しゅんじつ佳氣かき多し。 五陵ごりょうの貴公子、 雙雙さうさう玉珂ぎょくかを鳴らす。 |
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江上李秀才に別る 前年相あひ送る灞陵はりょうの春、 今日天涯てんがい各おのおの秦を避さく。 尊前に向むかって沈醉ちんすゐを惜しむこと莫なかれ、 君と倶ともに是これ異鄕の人。 |
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九日きうじつ送別 薊庭けいてい蕭瑟せうしつとして故人稀まれなり、 何いづれの處か高きに登りて且しばらく歸るを送らん 今日こんにち暫しばらく芳菊はうきくの酒を同じうし、 明朝みゃうてう應まさに斷蓬だんぽうと作なって飛ぶべし。 |
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淮上わいじゃうにて友人と別る 揚子やうす江頭かうとう楊柳やうりうの春、 楊花やうくゎ愁殺しうさつす江かうを渡る人。 數聲の風笛ふうてき離亭りていの晩、 君は瀟湘せうしゃうに向かひ我われは秦しんに向かふ。 |
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空門くうもんの法はふを苦學してより、 銷けし盡くす平生へいぜいの種種の心。 唯ただ詩魔しまのみ降くだすこと未だ得ず、 風月に逢ふ毎ごとに一たび閒吟す。 |
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乙丑いっちゅうの人日じんじつ 自ら怪しむ扶持ふぢ七十しちじふの身、 歸り來きたりて又また見る故郷の春を。 今朝こんてう人日じんじつ逢ふ人喜び、 料はからず生せいを偸ぬすみて老人と作なりたるを。 |
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客至る 舍南舍北皆みな春水、 但ただ見る群鷗ぐんおうの日日に來きたるを。 花徑曾かつて客きゃくに緣よりて掃はらはず、 蓬門ほうもん今始めて君が爲ために開く。 盤飧ばんそん市いち遠くして兼味けんみ無く、 樽酒そんしゅ家いへ貧ひんにして只だ舊醅きうはいのみ。 鄰翁りんおうと相あひ對して飮むを肯がへんずれば、 |
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坦腹たんぷくすれば江亭暖かに、 長吟す野望やばうの時。 水流れて心競きそはず、 雲在りて意倶ともに遲し。 寂寂せきせきとして春は將まさに晩くれんとし、 欣欣きんきんとして物は自みづから私わたくしす。 故林こりん歸ること未いまだ得えざれば、 悶もだえを排はらひ強しひて詩を裁さいす。 |
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家に歸る 稚子ちし衣ころもを牽ひきて問ふ: 歸來何ぞ太はなはだ遲き。 誰たれと共に歳月を爭あらそふ、 贏かち得えたり鬢邊びんぺんの絲。 |
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建德江に宿る 舟を移して煙渚えんしょに泊せば、 日暮くれて客愁かくしう新あらたなり。 野曠ひろくして天樹きに低たれ、 江かう清くして月人に近し。 |
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紗窗ささうに日ひ落ちて漸やうやく黄昏くゎうこんたり、 金屋きんをく人ひと無くして涙痕るゐこんを見あらはす。 寂寞せきばくたる空庭くうていに春晩くれんと欲ほっし、 梨花りくゎ地ちに滿みてども門を開ひらかず。 |
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春怨しゅんゑん 黄鶯兒くゎうあうじを打起だきし、 枝上しじゃうに啼なかしむること莫なかれ。 啼なく時妾せふが夢を驚おどろかし、 遼西れうせいに到るを得えざらしめん。 |
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寒食に近き雨に草は萋萋として、 麥苗を著つけたる風に柳は堤に映はゆ。 杜鵑とけん耳邊に啼くを休やめよ。 |
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雲を連つらね塞さいに接して迢遞てうていを添そへ、 幕に灑そそぎ燈を侵をかして寂寥せきれうを送る。 一夜いちや眠れず孤客こかくの耳みみ、 主人の窗外さうがい芭蕉ばせう有り。 |
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春城しゅんじゃう處ところとして花を飛ばさざるは無く、 寒食東風御柳ぎょりう斜めなり。 日暮にちぼ漢宮蠟燭を傳へ、 輕煙散じて五侯ごこうの家に入いる。 |
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小寒食舟中の作 佳辰かしん強しひて飯はんすれば食しょくは 猶なほ寒く、 春水船は天上に坐ざするが如く、 老年花は霧中に看みるに似たり。 娟娟ゑんゑんたる戲蝶ぎてふは閒幔かんまんを過ぎ、 片片へんぺんたる輕鷗けいおうは急湍きふたんを下くだる。 雲白く山青きこと萬餘里ばんより、 愁うれへ看る直北ちょくほくは是これ長安なるを。 |
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春日李白を憶ふ 白はくや詩に敵無く、 飄然へうぜん思ひ群ぐんならず。 清新せいしんなるは庾ゆ開府、 俊逸しゅんいつなるは鮑はう參軍。 渭北ゐほく春天しゅんてんの樹、 江東かうとう日暮にちぼの雲。 何いづれの時か一尊いっそんの酒、 重かさねて與ともに細こまやかに文ぶんを論ぜん。 |
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夜の月 更かう深け月色人家に半ばし、 北斗は闌干らんかんとして南斗は斜めなり。 今夜偏ひとへに知る春氣の暖かなるを、 蟲聲新たに綠の窗紗さうさを透る。 |
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方外はうがいの上人しゃうにんを送る 孤雲こうん野鶴やかくを將おくる、 豈あに人間じんかんに 住とどまらんや。 沃洲山よくしうざんを買ふこと莫なかれ、 時人じじん已すでに知れる處。 |
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春行しゅんかう興きょうを寄よす 宜陽ぎやう城下草萋萋せいせい、 澗水かんすゐ東に流れて復また西に向かふ。 芳樹はうじゅ人無くして花自おのづから落ち、 春山一路鳥空むなしく啼なく。 |
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日長く風暖かにして柳青青せいせいたり、 北雁歸り飛びて窅冥えうめいに入いる。 岳陽がくやう城上じゃうじゃう吹笛すゐてきを聞く、 能よく春心しゅんしんをして洞庭どうていに滿みたしむ。 |
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人 閒しづかにして桂花けいくゎ落ち、 夜靜かにして春山しゅんざん空むなし。 月出いでて山鳥さんてうを驚かし、 時に鳴く春澗しゅんかんの中うち。 |
洛陽客舍逢祖詠留宴 唐・蔡希寂
洛陽の客舍にて祖詠そえいに逢ひ留宴す
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綿綿鐘漏洛陽城、
客舍貧居絶送迎。 逢君貰酒因成醉、 醉後焉知世上情。 |
綿綿たる鐘漏しょうろう洛陽らくやう城じゃう、
客舍貧居送迎を斷たつ。 君に 醉後すゐご焉いづくんぞ知らん世上の情を。 |
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崔子さいしを送りて京に還かへる 匹馬ひっぱ西のかた天外てんがいより歸り、 鞭むちを揚あげて只ただ鳥と飛ぶを爭ふ。 君を送る九月交河かうがの北、 雪裏せつり詩を題だいして涙なみだ衣ころもに滿みつ。 |
薊丘覽古 燕昭王 唐・陳子昂
薊丘けいきう覽古らんこ 燕えんの昭王せうわう
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南登碣石館、
遙望黄金臺。 丘陵盡喬木、 昭王安在哉。 霸圖悵已矣、 驅馬復歸來。 |
南のかた碣石けっせき館くゎんに登り、
遙かに黄金臺わうごんだいを望む。 丘陵盡ことごとく喬木けうぼく、 昭王せうわう安いづくに在りや。 霸圖はと悵ちゃうとして已やみぬ、 馬を驅かって復また歸かへり來きたる。 |
同王徴君湘中有懷 唐・張謂
王徴君ちょうくんの『湘中しゃうちゅうにて懷おもひ有り』に同どうず
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八月洞庭秋、
瀟湘水北流。 還家萬里夢、 爲客五更愁。 不用開書帙、 偏宜上酒樓。 故人京洛滿、 何日復同遊。 |
八月洞庭どうていの秋、
瀟湘せうしゃう水北に流る。 家に還かへる萬里の夢、 客かくと爲なる五更の愁うれひ。 書帙しょちつの開くを用もちゐず、 偏ひとへに宜よろし酒樓に上のぼるに。 故人京洛けいらくに滿つ、 何いづれの日か復また同遊せん。 |
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盧舉ろきょの河源かげんに使つかひするを送る 故人行役かうえきして邊州へんしうに向かふ、 匹馬ひっぱ今朝こんてう少しばらくも留とどまらず。 長路ちゃうろ關山くゎんざん何いづれの日か盡つきん、 滿堂の絲竹しちく君が爲ために愁うれふ。 |
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梁六を洞庭の山より送りて作る 巴陵はりょうに一望す洞庭の秋、 日に見る孤峰の水上すゐじゃうに浮かぶを。 聞道きくならく神仙接す可べからずと、 心は湖水こすゐに隨したがひて共に悠悠いういう。 |
行軍九日思長安故園 唐・岑參
行軍九日きうじつ長安の故園を思ふ
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強欲登高去、
無人送酒來。 遙憐故園菊、 應傍戰場開。 |
強しひて高きに登り去らんと欲するも、
人の酒を送りて來きたる無し。 遙かに憐あはれむ故園の菊、 應まさに戰場に傍そひて開くべし。 |
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九日きうじつ 江邊かうへん楓かへで落ちて菊花きくくゎ黄なり、 少長せうちゃう高きに登りて一いつに鄕きゃうを望む。 九日きうじつ陶家たうか酒を載のすと雖いへども、 三年楚客そかく已に裳を霑うるほす。 |
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王永わうえいを送る 君去らば春山しゅんざん誰たれと共にか遊ばん、 鳥啼なき花落ちて水空むなしく流れん。 如今じょこん別わかれを送りて溪水けいすゐに臨のぞむ、 他日相あひ思はば水頭すゐとうに來きたれ。 |
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君生まれたるとき我未いまだ生まれず、 我生まれたるとき君已すでに老ゆ。 君は恨うらむ我の生まるることの遲きを、 我は恨うらむ君の生まるることの早きを。 |
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一ひとたび別れて千里を行ゆく、 來かへる時は未いまだ 期さだめ有らず。 月中ちゅう三十日、 夜に相あひ思はざること無し。 |