贈少年 温庭筠

江海相逢客恨多、
秋風葉下洞庭波。
酒酣夜別淮陰市、
月照高樓一曲歌。

 少年に贈る

江海かうかいひ逢ひて客恨かっこん多く、
秋風しうふうくだりて洞庭どうていなみだつ。
さけたけなはにして夜よる別わかる淮陰わいいんの市
月は照らす高樓かうろう一曲の歌。

 汴河懷古 皮日休

盡道隋亡爲此河、
至今千里賴通波。
若無水殿龍舟事、
共禹論功不較多。

 汴河べんが懷古

ことごとく 道ふ隋の亡ぶは此の河の爲なりと、
今に至いたるも千里通波つうはに頼たよる。
し水殿すゐでん龍舟りゅうしうの事こと無ければ、
と功こうを論ろんじて較やゝ多からざらんや!

 呉宮懷古 陸龜蒙

香徑長洲盡棘叢、
奢雲豔雨祗悲風。
呉王事事須亡國、
未必西施勝六宮。



香徑(かうけい)長洲(ちゃうしう)(ことごと)棘叢(きょくそう)たりて、
奢雲しゃうん豔雨えんうは祗だ 悲風ひふうのみ。
呉王の事事じじすべからく國を亡ほろぼすべく、
(いま)(かなら)ずしも西施(せいし)六宮(りっきゅう)(まさ)らず。

 馬嵬坡 鄭畋

玄宗回馬楊妃死、
雲雨難忘日月新。
終是聖明天子事、
景陽宮井又何人。



玄宗げんそう馬を回めぐらせば楊妃やうひ死し、
雲雨うんう忘れ難がたきも日月じつげつ新たなり。
つひに是れ聖明せいめい 天子の事こと
景陽宮けいやうきゅうせいまた何人なんぴとなる。

  羅隱

不論平地與山尖、
無限風光盡被占。
採得百花成蜜後、
爲誰辛苦爲誰甜。



平地と山尖さんせんとを論ろんぜず、
無限の風光盡ことごとく占めらる。
り得たり百花蜜みつと成りし後のち
()(ため)辛苦(しんく)して()(ため)(あま)からん。

詠田家 聶夷中

二月賣新絲、
五月糶新穀。
醫得眼前瘡、
剜卻心頭肉。
我願君王心、
化作光明燭。
不照綺羅筵、
只照逃亡屋。

 田家を詠む

二月新絲しんしを賣り、
五月新穀しんこくを糶うりよねす。
眼前がんぜんの瘡きずを醫やし得て、
心頭しんとうの肉を剜卻わんきゃくす。
我は願ふ君王くんわうの心、
化して作らん光明くゎうみゃうの燭しょくと。
綺羅きらの筵えんを照らさずして、
只だ逃亡たうばうの屋をくを照らさんことを。

 貧女 秦韜玉

蓬門未識綺羅香、
擬託良媒益自傷。
誰愛風流高格調、
共憐時世儉梳妝。
敢將十指誇偏巧、
不把雙眉鬥畫長。
苦恨年年壓金線、
爲他人作嫁衣裳。



蓬門ほうもんいまだ識らず綺羅きらの香かう
良媒りゃうばいに 託せんと擬ほっするも亦自ら傷む。
たれか愛でん風流ふうりうの高格調かうかくてう
ともに憐あはれむ時世じせいの儉梳妝けんそしゃう
()へて十指(じっし)()って(はり)(たく)みなるを(ほこ)り、
雙眉(さうび)()って(えが)くことの(なが)きを(たたか)はさず。
はなはだ恨うらむ年年ねんねん金線きんせんを壓あっし、
他人たにんの爲ために嫁の衣裳いしゃうを作るを。

 春思 賈至

艸色靑靑柳色黃、
桃花歷亂李花香。
東風不爲吹愁去、
春日偏能惹恨長。



草色さうしょくは靑靑せいせいとして柳色りうしょくは黄なり
桃花たうくゎ歴亂れきらんとして李花りくゎかんばし。
東風とうふうために愁うれひを吹き去らず、
春日しゅんじつひとへに能く恨うらみを惹いて長し。

 劍客 賈島

十年磨一劍、
霜刃未曾試。
今日把似君、
誰爲不平事。



十年一劍を磨くも、
霜刃さうじんいまだ曾つて試こころみず。
今日把りて君に似しめさば、
たれか不平の事を爲さん。

 江村即事 司空曙

釣罷歸來不繋船、
江村月落正堪眠。
縱然一夜風吹去、
只在蘆花淺水邊。



釣 罷め歸り來かへきたりて船を繋つながず、
江村かうそん月落ちて正まさに眠ねむるに堪へたり。
縱然たとひ一夜風吹き去るとも、
だ蘆花ろくゎ淺水せんすゐの邊ほとりに 在らん。

 題鶴林寺 李渉

終日昏昏醉夢間、
忽聞春盡強登山。
因過竹院逢僧話、
又得浮生半日閑。

 鶴林寺に題す

終日しゅうじつ昏昏こんこんたり醉夢すゐむの間かん
たちまち「春盡く」と聞きて強ひて山に登る。
竹院(ちくいん)()ぎりて僧に()ひて()するに()りて、
た浮生ふせい半日の閑かんを 得たり。

重登滕王閣 李渉

滕王閣上唱伊州、
二十年前向此遊。
半是半非君莫問、
好山長在水長流。

 重ねて滕王閣に登る

滕王閣とうわうかく上伊州いしうを唱うたひ、
二十年前此こに遊ぶ。
なかばは是半ばは非なるも君問ふこと莫なかれ、
好山は長とこしへに在りて水は長とこしへに流る。

 鍾陵餞送 白居易

翠幕紅筵高在雲、
歌鐘一曲萬家聞。
路人指點滕王閣、
看送忠州白使君。



翠幕紅筵高くして雲に在り、
歌鐘一曲萬家に聞こゆ。
路人は滕王閣を指點し、
看送る忠州白使君。

 邊詞 張敬忠

五原春色舊來遲、
二月垂楊未挂絲。
即今河畔冰開日、
正是長安花落時。






五原の春色舊來きうらいおそく、
二月垂楊すゐやう未だ絲を挂けず。
即今そくこん河畔冰こほり開くの日、
正に是れ長安花落つるの時。

三月晦日贈劉評事
賈島
三月正當三十日、
風光別我苦吟身。
共君今夜不須睡、
未到曉鐘猶是春。

 三月晦日劉評事に贈る

三月正まさに當たる三十日、
風光我が苦吟くぎんの身に別わかる。
君と共に今夜睡ねむるを須もちゐず、
いまだ曉鐘げうしょうに到らざれば猶ほ是れ春。

 汴河曲 李益

汴水東流無限春、
隋家宮闕已成塵。
行人莫上長堤望、
風起楊花愁殺人。



汴水べんすゐ東流とうりうす無限の春、
隋家ずゐかの宮闕きゅうけつすでに塵ちりと成る。
行人かうじん長堤ちゃうていに上のぼりて望むこと莫なかれ、
風 起おこらば楊花やうくゎ人を愁殺しうさつせん。

蜀中九日 唐・王勃

九月九日望鄕臺、
他席他鄕送客杯。
人情已厭南中苦、
鴻雁那從北地來。



九月九日望鄕臺、
他席他鄕客を送る杯。
人情已に厭ふ南中の苦、
鴻雁那ぞ北地より來る。

上皇西巡南京歌
唐・李白
誰道君王行路難、
六龍西幸萬人歡。
地轉錦江成渭水、
天迴玉壘作長安。

 上皇南京なんけいに西巡するの歌

たれか道ふ君王くんなう行路難かたしと、
六龍りくりょう西幸して萬人ばんにんよろこぶ。
地は轉じて錦江きんかう渭水ゐすゐと成り、
天は 廻めぐりて玉壘ぎょくるゐ長安と作る。

上皇西巡南京歌
唐・李白
劍閣重關蜀北門、
上皇歸馬若雲屯。
少帝長安開紫極、
雙懸日月照乾坤。

 上皇南京なんけいに西巡するの歌

劍閣の重關ちょうくゎん蜀の北門ほくもん
上皇の歸馬雲の若ごとく屯たむろす。
少帝せうてい長安に紫極しきょくを開き、
日月じつげつを雙ならべ懸けて乾坤けんこんを照らす。

 解悶 唐・杜甫

一辭故國十經秋、
毎見秋瓜憶故丘。
今日南湖采薇蕨、
何人爲覓鄭瓜州。

 悶を解く

一たび故國を辭して十たび秋を經
秋瓜しうくゎを見る毎ごとに故丘を憶おもふ。
今日こんにち南湖に薇蕨びけつを采る、
何人なんぴとか爲ために覓もとめん鄭瓜州ていくゎしう

 怨情 唐・李白

美人捲珠簾、
深坐嚬蛾眉。
但見涙痕濕、
不知心恨誰。



美人珠簾しゅれんを捲き、
深坐して蛾眉を嚬ひそむ。
但だ見る涙痕の濕うるほふを、
知らず心に誰たれをか恨むを。

 宴邊將 唐・張喬

一曲涼州金石淸、
邊風蕭颯動江城。
坐中有老沙場客、
橫笛休吹塞上聲。

 邊將を宴す

一曲の涼州りゃうしう金石きんせき清く、
邊風へんぷう蕭颯せうさつとして江城かうじゃうを 動うごかす。
坐中老らう有り沙場さぢゃうの客かく
橫笛わうてき吹くを休めよ塞上さいじゃうの聲こゑ

 班婕妤
唐・王維
怪來妝閣閉、
朝下不相迎。
總向春園裏、
花間笑語聲。

 班婕妤はんせふよ

あやしむらくは妝閣さうかくの 閉づることを、
てうより下くだりて相ひ迎へず。
すべて春園の裏うちに 向いて、
花間くゎかん笑語せうごの聲こゑ

韋員外家花樹歌
唐・岑參
今年花似去年好、
去年人到今年老。
始知人老不如花、
可惜落花君莫掃。
君家兄弟不可當、
列卿御史尚書郞。
朝囘花底恆會客、
花撲玉缸春酒香。

 韋員外ゐゐんぐゎいの家いへの花樹くゎじゅの歌

今年こんねん花は去年に似て好く、
去年人は今年に到いたりて老ゆ。
始めて知る人は老いて花に如かざることを、
惜しむ可し落花君掃はらふこと莫かれ。
君が家いへの兄弟けいていあたる可からず、
列卿れつけい御史ぎょし尚書郞しゃうしょらう
(てう)より(かへ)りて花底(くゎてい)(つね)(かく)(くゎい)し、
花は 玉缸ぎょくかうを撲ちて春酒香かんばし。

 劉十九同宿
唐・白居易
紅旗破賊非吾事、
黄紙除書無我名。
唯共嵩陽劉處士、
圍棋賭酒到天明。

 劉十九りうじふく同じく宿す

紅旗こうき賊を破るは吾が事に非あらず、
黄紙の除書くゎうしぢょしょに我が名無し。
だ嵩陽すうやうの劉處士りうしょしと共に、
を圍かこみ酒を賭けて天明てんめいに到る。

 烏夜啼 唐・李白

黄雲城邊烏欲棲、
歸飛啞啞枝上啼。
機中織錦秦川女、
碧紗如烟隔牕語。
停梭悵然憶遠人、
獨宿空房涙如雨。

 烏夜啼うやてい

黄雲くゎううん城邊じゃうへん烏棲からすすまんと欲ほっし、
歸り飛びて啞啞ああと枝上しじゃうに啼く。
機中きちゅうにしきを織る秦川しんせんの女、
碧紗へきさけむりの如く牕まどを 隔へだてて語る。
(をさ)(とど)悵然(ちゃうぜん)として遠人(ゑんじん)(おも)ひ、
ひとり 空房くうばうに宿しゅくして涙雨の如し。

 送別 陳子良

落葉聚還散、
征禽去不歸。
以我窮途泣、
沾君出塞衣。



落葉聚あつまりて還た散じ、
征禽去りて歸らず。
我が窮途の泣なみだを以て、
君が出塞の衣を沾うるほす。

 人日思歸
隋・薛道衡
入春纔七日、
離家已二年。
人歸落雁後、
思發在花前。

 人日じんじつ帰るを思ふ

春に入りて纔わづかに七日、
家を離れて已すでに二年。
人の帰るは雁がんの後に落ち、
思ひの発するは花の前に在り。

 下嵩山歌
唐・宋之問
下嵩丘兮多所思、
攜佳人兮歩遲遲。
松間明月長如此、
君再遊時復何時。

 嵩山を下るの歌

嵩丘を下れば思ふ所多く、
佳人を攜たづさへて歩むこと遲遲たり。
松間の明月長とこしへに此かくの如きも、
君の再遊する時は復た 何いづれの時ぞ。

和宋之問嵩山歌
唐・王無競
日云暮兮下嵩山、
路連綿兮松石間。
出谷口兮見明月、
心徘徊兮不能還。

 宋之問の嵩山の歌に和す

ここに暮れて嵩山すうざんを下れば、
みち連綿れんめんたり松石しょうせきの間。
谷口こくこうを出でて明月を見れば、
心徘徊はいくゎいして還かへる 能あたはず。

 怨詩 唐・張汯

去年離別雁初歸、
今歳裁縫螢已飛。
狂客未來音信斷、
不知何處寄寒衣。



去年離別して雁がん初めて歸り、
今歳こんさい裁縫して螢ほたるすでに飛ぶ。
狂客きゃうかくいまだ來きたらず音信いんしん斷え、
知らず何處いづこにか寒衣を寄するを。

軍城早秋 唐・嚴武

昨夜秋風入漢關、
朔雲邊雪滿西山。
更催飛將追驕虜、
莫遣沙場匹馬還。



昨夜秋風漢關に入り、
朔雲さくうん邊雪へんせつ西山せいざんに滿つ。
更に飛將を催うながして驕虜けうりょを追はしめ、
沙場さじゃうの匹馬ひっぱをして還かへらしむる莫なかれ。

奉和厳鄭公軍城早秋 唐・杜甫
 厳鄭公の『軍城早秋』に奉和す
秋風嫋嫋動高旌、
玉帳分弓射虜營。
已收滴博雲間戍、
更奪蓬婆雪外城。
秋風嫋嫋でうでうとして高旌かうせいを動かし、
玉帳ぎょくちゃう弓を分かちて虜營りょえいを射る。
すでに滴博てきはく雲間うんかんの戍じゅを收めて、
更に蓬婆ほうば雪外の城を奪はん。

詔取永豐坊柳植禁苑 唐・盧貞
 詔して永豐坊の柳を取りて禁苑に植ゑしむ
一樹依依在永豐、
兩枝飛去杳無蹤。
玉皇曾採人間曲、
應逐歌聲入九重。
一樹依依として永豐えいほうに在り、
兩枝飛び去りて杳えうとして蹤あと無し。
玉皇曾かつて採る人間じんかんの曲、
(まさ)に歌聲を()ひて九重(きうちょう)()りたるべし。

 楊柳枝詞
唐・白居易
一樹春風千萬枝、
嫩於金色軟於絲。
永豐西角荒園裏、
盡日無人屬阿誰。



一樹いちじゅ春風千萬枝せんまんし
金色きんしょくよりも嫩どんに絲いとよりも軟なん
永豐えいほうの西角せいかく荒園くゎうゑんの裏うち
盡日じんじつ人無し阿誰あすゐに 屬ぞくせん。

詔取永豐坊柳植禁苑感賦 唐・白居易
 詔して永豐坊の柳を取り禁苑に植ゑしむ、感じて賦す
一樹衰殘委泥土、
雙枝榮耀植天庭。
定知玄象今春後、
柳宿光中添兩星。
一樹衰殘して泥土に委し、
雙枝榮耀天庭に植ゑしむ。
定めて知らん玄象今春の後、
柳宿光中に兩星を添へるを。

八月十五日夜禁中獨直對月憶元九
唐・白居易
銀臺金闕夕沈沈、
獨宿相思在翰林。
三五夜中新月色、
二千里外故人心。
渚宮東面煙波冷、
浴殿西頭鐘漏深。
猶恐清光不同見、
江陵卑溼足秋陰。
銀臺金闕夕べに沈沈、
獨宿相ひ思ひて翰林に在り。
三五夜中新月の色、
二千里外故人の心。
渚宮の東面煙波冷やかに、
浴殿の西頭鐘漏深し。
猶ほ恐る清光同じく見ざるを、
江陵は卑溼にして秋陰足おほし。

 夜雪
唐・白居易
已訝衾枕冷、
復見窗戸明。
夜深知雪重、
時聞折竹聲。



已に訝る衾枕の冷ややかなるを、
復た見る窗戸の明らかなるを。
夜深くして雪の重きを知り、
時に聞く折竹の聲を。

 牡丹 唐・皮日休

落盡殘紅始吐芳、
佳名喚作百花王。
競誇天下無雙艷、
獨占人間第一香。



殘紅落ち盡くして始めて芳はなを吐ひらき、
佳名かめいびて「百花の王」と作す。
きそひ誇る天下無雙の艷えん
ひとり占む人間じんかん第一の香。

 宣城見杜鵑花
唐・李白
蜀國曾聞子規鳥、
宣城還見杜鵑花。
一叫一廻腸一斷、
三春三月憶三巴。

 宣城にて杜鵑花を見る

蜀國に曾て聞く子規しきの鳥、
宣城に還た見る杜鵑とけんの花。
一叫一廻腸はらわた一斷、
三春三月三巴さんぱを憶おもふ。

 折楊柳 唐・楊巨源

水邊楊柳麴塵絲、
立馬煩君折一枝。
惟有春風最相惜、
殷勤更向手中吹。



水邊すゐへんの楊柳やうりう麴塵きくぢんの絲、
馬を立とどめ君を煩わづらはして一枝いっしを折る。
だ春風しゅんぷうの最も相あひ惜しむ有りて、
殷勤いんぎんに更に手中しゅちゅうに向かって吹く。

 九日齊山登高
唐・杜牧
江涵秋影雁初飛、
與客攜壺上翠微。
塵世難逢開口笑、
菊花須插滿頭歸。
但將酩酊酬佳節、
不用登臨恨落暉。
古往今來只如此、
牛山何必獨霑衣。

 九日齊山せいざんに登高す

かうは秋影しうえいを涵ひたして雁がん初めて飛び、
かくと壺を攜たづさへて翠微すゐびに上のぼる。
塵世ぢんせいひ難がたし口を開きて笑ふに、
菊花須すべからく滿頭に插して歸るべし。
だ酩酊めいていを將って佳節かせつに酬むくい、
もちゐず登臨落暉らっきを恨むを。
古往今來こわうこんらいだ 此くの如く、
牛山(ぎうざん)に何ぞ必ずしも(ひと)(ころも)(うるほ)さん。

 與村老對飮
唐・韋應物
鬢眉雪色猶嗜酒、
言辭淳朴古人風。
鄕村年少生離亂、
見話先朝如夢中。



鬢眉びんび雪色せつしょくほ酒を嗜たしなみ、
言辭げんじ淳朴じゅんぼく古人の風ふう
鄕村がうそんの年少は離亂りらんに生まれ、
先朝せんてうを 話かたるを見て夢中むちゅうの如し。

我昔未生時
唐・王梵志
我昔未生時、
冥冥無所知。
天公強生我、
生我復何爲。
無衣使我寒、
無食使我饑。
還你天公我、
還我未生時。

 我昔未いまだ生まれざりし時

我昔未いまだ生まれざる時、
冥冥めいめいとして知る所無し。
天公てんこうひて我を生み、
我を生みて復た何をか爲せる。
無くして我をして寒からしめ、
しょく無くして我をして饑ゑしむ。
なんぢ・天公てんこうに我を還かへさん、
我に未いまだ生まれざりし時を還かへせ。

 獨酌
唐・杜牧
窗外正風雪、
擁爐開酒缸。
何如釣船雨、
蓬底睡秋江。



窗外さうがいまさに風雪、
を擁ようして酒缸しゅかうを開く。
何如いかんぞ釣船てうせんの雨に、
蓬底ほうてい秋江しうかうに睡ねむると。

 寄孫山人
唐・儲光羲
新林二月孤舟還、
水滿淸江花滿山。
借問故園隱君子、
時時來往住人間。

 孫山人に寄す

新林二月孤舟こしうかへる、
水は清江せいかうに滿ちて花は山に滿つ。
借問しゃもんす故園こゑんの隱君子いんくんし
時時じじ來往らいわうして人間じんかんに住ぢゅうするかと。

醉中對紅葉
唐・白居易
臨風杪秋樹、
對酒長年人。
醉貌如霜葉、
雖紅不是春。

 醉中すゐちゅう紅葉こうえふに對す

風に臨のぞむ杪秋べうしうの樹
酒に對す長年ちゃうねんの人。
醉貌すゐばう霜葉さうえふの如く、
くれなゐなりと雖いへども是れ春ならず。

寄白司馬 唐・徐凝

三條九陌花時節、
萬戸千車看牡丹。
爭遣江州白司馬、
五年風景憶長安。

 白司馬に寄す

三條さんでう九陌きうはく花の時節、
萬戸ばんこ千車せんしゃ牡丹ぼたんを看る。
いかでか江州かうしうの白司馬しばをして、
五年の風景長安を憶おもはしめん。

 春夢 唐・岑參

洞房昨夜春風起、
遙憶美人湘江水。
枕上片時春夢中、
行盡江南數千里。



洞房どうばう昨夜春風しゅんぷう起こり、
はるかに憶おもふ美人湘江しゃうかうの水。
枕上ちんじゃう片時へんじ春夢しゅんむの中うちに、
き盡くす江南かうなん數千里。

 相逢行
唐・李白
相逢紅塵内、
高揖黄金鞭。
萬戸垂楊裏、
君家阿那邊。



ひ逢ふ紅塵こうぢんの内うち
高揖かういふす黄金わうごんの鞭むち
萬戸ばんこ垂楊すゐやうの裏うち
君が家は阿那あだの邊。

 再下第
唐・孟郊
一夕九起嗟、
夢短不到家。
兩度長安陌、
空將涙見花。



一夕いっせききうたび起きて嗟なげき、
夢は短くして家に到いたらず。
ふたたび度わたる長安の陌みち
むなしく涙を将って花を見る。

 登科後 唐・孟郊

昔日齷齪不足誇、
今朝放蕩思無涯。
春風得意馬蹄疾、
一日看盡長安花。



昔日せきじつの齷齪あくせくほこるに足らず、
今朝こんてうの放蕩はうたうおもひ 涯はて無し。
春風しゅんぷうに意を得て馬蹄ばていはやく、
一日いちじつに看くす長安ちゃうあんの花。


和李秀才邊庭四時怨 唐・盧汝弼
 李秀才の『邊庭四時怨へんていしいじゑん』に和す
八月霜飛柳半黄、
蓬根吹斷雁南翔。
隴頭流水關山月、
泣上龍堆望故鄕。
八月霜しも飛びて柳半なかば黄なり、
蓬根ほうこん吹斷すゐだんされて雁がん南に翔かける。
隴頭ろうとうの流水りうすゐ關山くゎんざんの月、
泣きて龍堆りょうたいに上のぼりて故鄕を望む。

 花下醉 唐・李商隱

尋芳不覺醉流霞、
倚樹沈眠日已斜。
客散酒醒深夜後、
更持紅燭賞殘花。

 花下に醉ふ

はうを尋たづねて覺おぼえず流霞りうかに醉ひ、
に倚り沈眠ちんみんして日すでに斜めなり。
かくさんじ酒は醒む深夜の後のち
更に紅燭こうしょくを持して殘花ざんくゎを賞しゃうす。

 夜深 唐・韓偓

惻惻輕寒翦翦風、
小梅飄雪杏花紅。
夜深斜搭鞦韆索、
樓閣朦朧煙雨中。



惻惻たる輕寒翦翦の風、
小梅雪を飄はせて杏花紅なり。
夜深斜搭鞦韆の索、
樓閣朦朧として煙雨の中。

 長安春 唐・韋莊

長安二月多香塵、
六街車馬聲轔轔。
家家樓上如花人、
千枝萬枝紅豔新。
簾間笑語自相問:
何人占得長安春?
長安春色本無主、
古來盡屬紅樓女。
如今無奈杏園人、
駿馬輕車擁將去。

 長安の春

長安二月香塵かうぢん多く、
六街りくがいの車馬聲せい轔轔りんりん
家家かか樓上花の如き人、
千枝萬枝紅豔こうえんあらたなり。
簾間れんかん笑語せうごみづから相ひ問ふ:
「何人なんぴとか占め得たる長安の春を」と。
「長安の春色本もとあるじ無く、
古來盡ことごとく屬す紅樓こうろうの女に。
如今じょこんいかんともする無し杏園きゃうゑんの人、
駿馬しゅんめ輕車にて擁ようし將ちて去る。」

 寄人 唐・張泌

別夢依依到謝家、
小廊迴合曲闌斜。
多情只有春庭月、
猶爲離人照落花。

 人に寄す

夢に別れて依依いいとして謝しゃ家に到れば、
小廊せうらう迴合くゎいがふして曲闌きょくらんななめなり。
多情たじゃうだ春庭しゅんていの月つきのみ有りて、
()離人(りじん)(ため)落花(らっくゎ)を照らすがごとし。

 終南望餘雪
唐・祖詠
終南陰嶺秀、
積雪浮雲端。
林表明霽色、
城中增暮寒。

 終南餘雪を望む

終南しゅうなん陰嶺いんれいひいで、
積雪雲端うんたんに浮かぶ。
林表りんぺう霽色せいしょくを明あきらかに、
城中じゃうちゅう暮寒ぼかんを增す。

 瑤瑟怨 唐・温庭筠

冰簟銀床夢不成、
碧天如水夜雲輕。
雁聲遠過瀟湘去、
十二樓中月自明。



冰簟ひょうてん銀床ぎんしゃうなれども夢成らず、
碧天へきてん水の如ごとく夜雲やうんかろし。
雁聲がんせい遠く過ぎて瀟湘せうしゃうに去り、
十二樓じふにろうちゅうつきおのづから明るし。

 後宮詞 唐・白居易

涙溼羅巾夢不成、
夜深前殿按歌聲。
紅顏未老恩先斷、
斜倚薰籠坐到明。



涙は羅巾らきんを溼うるほして夢成らず、
けて前殿ぜんでん歌聲かせいを按あんず。
紅顏こうがんいまだ老いず恩おんづ斷え、
斜めに薰籠くんろうに倚りて坐して明めいに到る。

 兵部尚書席上作
唐・杜牧
華堂今日綺筵開、
誰喚分司御史來。
偶發狂言驚滿坐、
三重粉面一時回。

 兵部尚書席上の作

華堂くゎだう今日こんにち綺筵きえん開き、
たれか分司ぶんしの御史ぎょしを喚び來きたらしむ。
たまたま狂言きゃうげんを發はっして滿坐を驚かせれば
三重さんちょうの粉面ふんめん一時いちじに回めぐる。

 夜雨寄北
唐・李商隱
君問歸期未有期、
巴山夜雨漲秋池。
何當共剪西窗燭、
卻話巴山夜雨時。

 夜雨北に寄す

きみ歸期ききを問ふも未いまだ期らず、
巴山はざんの夜雨やう秋池しうちに漲みなぎる。
いつか當まさに共ともに西窗せいさうの燭しょくを剪りて
かへって話はなすべき巴山はざん夜雨やうの時ときを。

上歸州刺史代通狀 二首之一 唐・懷濬
 歸州きしうの刺史ししに通狀つうじゃうに代へて上たてまつる 二首の一
家在閩山東復東、
其中歳歳有花紅。
而今不在花紅處、
花在舊時紅處紅。
家は閩山びんざんの東の復た東に在り、
の中なか歳歳さいさい花の紅くれなゐなる有り。
而今じこん花の紅くれなゐなる處ところに在らず、
花は舊時きうじに在りて紅あかき處ところに紅あか

上歸州刺史代通狀 二首之二 唐・懷濬
 歸州きしうの刺史ししに通狀つうじゃうに代へて上たてまつる 二首の二
家在閩山西復西、
其中歳歳有鶯啼。
如今不在鶯啼處、
鶯在舊時啼處啼。
家は閩山びんざんの西復た西に在りて、
の中なか歳歳さいさいうぐひすの啼く有り。
如今じょこん鶯啼あうていの處ところに在らざるも、
うぐひすは舊時きうじきし處ところに在りて啼

 晏起 唐~・韋莊

爾來中酒起常遲、
臥看南山改舊詩。
開戸日高春寂寂、
數聲啼鳥上花枝。

 晏起あんき

爾來じらい酒に中あたりて起くること常に遲く、
ぐゎして南山を看て舊詩きうしを改む。
戸を開けば日たかくして春はる寂寂せきせき
數聲の啼鳥ていてう花枝くゎしに上のぼる。

 平蕃曲
唐・劉長卿
渺渺戍煙孤、
茫茫塞草枯。
隴頭那用閉、
萬里不防胡。

 平蕃曲へいばんきょく

渺渺べうべうとして戍煙じゅえんなり、
茫茫ばうばうとして塞草さいさうる。
隴頭ろうとうなんぞ閉づることを用もちゐん、
萬里ばんりを防ふせがず。