宿桐廬江寄廣陵舊遊 孟浩然
 桐廬江に宿して廣陵の舊遊に寄す
山暝聽猿愁、
滄江急夜流。
風鳴兩岸葉、
月照一孤舟。
建德非吾土、
維揚憶舊遊。
還將兩行涙、
遙寄海西頭。
山暝くらくして猿愁を聽き、
滄江さうかう急ぎて夜に流る。
風は鳴る兩岸の葉、
月は照らす一孤舟いちこしう
建德けんとくは吾が土に非ず、
維揚ゐやうは舊遊を憶ふ。
た兩行の涙を將って、
遙かに海西かいせいの頭ほとりに寄す。

 過故人莊
孟浩然
人具鷄黍、
邀我至田家。
綠樹村邊合、
青山郭外斜。
開筵面場圃、
把酒話桑麻。
待到重陽日、
還來就菊花。


 故人の莊に過ぎる

故人鷄黍けいしょを具そろへ、
我を邀むかへて田家でんかに至らしむ。
綠樹村邊そんぺんに合がっし、
青山郭外くゎくがいに斜めなり。
けんを開きて場圃じゃうほに面し、
酒を把りて桑麻さうまを話す。
重陽ちょうやうの日を待ち到り、
た來きたりて菊花きくかに就かん。


 關山月 李白

明月出天山、
蒼茫雲海間。
長風幾萬里、
吹度玉門關。
漢下白登道、
胡窺青海灣。
由來征戰地、
不見有人還。
戍客望邊色、
思歸多苦顏。
高樓當此夜、
歎息未應閑。




明月天山てんざんより出づ、
蒼茫さうばうたる雲海の間。
長風幾いく萬里、
吹き度る玉門關ぎょくもんくゎん
漢は下くだる白登はくとうの道、
胡は窺うかがふ青海せいかいの灣。
由來ゆらい征戰の地、
見ず人の還かへる有るを。
戍客じゅかく邊色へんしょくを望み、
歸るを思ひて苦顏くがん多し。
高樓此の夜に當り、
歎息すること未いまだ應まさに閑かんならざるべし。


宿五松山下荀媼家 李白
 五松山ごしょうざん下の荀媼じゅんあうの家に宿しゅく
我宿五松下、
寂寥無所歡。
田家秋作苦、
鄰女夜舂寒。
跪進雕胡飯、
月光明素盤。
令人慚漂母、
三謝不能餐。

我五松ごしょうの下もとに宿しゅくし、
寂寥せきれうとして歡よろこぶ所無し。
田家でんか秋作しうさく苦しみ、
鄰女りんぢょ夜舂やしょう寒し。
ひざまづきて雕胡てうこの飯を進め、
月光素盤そばんに明かなり。
人をして漂母へうぼに慚ぢ令む、
三たび謝して餐さんする能あたはず。


永王東巡歌 李白

三川北虜亂如麻、
四海南奔似永嘉。
但用東山謝安石、
爲君談笑靜胡沙。




三川さんせんの北虜ほくりょ亂れて麻あさの如く、
四海南奔なんぽん永嘉えいかに似たり。
だ東山とうざん謝安石(しゃあんせき)を用もちうれば、
君が爲ために談笑して胡沙こさを靜めん。


 望嶽 杜甫

岱宗夫如何、
齊魯青未了。
造化鍾神秀、
陰陽割昏曉。
盪胸生曾雲、
決眥入歸鳥。
會當凌絶頂、
一覽衆山小。


 嶽を望む

岱宗たいそうれ如何いかん
齊魯せいろせいいまだ了をはらず。
造化ざうくゎは神秀しんしうを鐘あつめ、
陰陽は昏曉こんげうを割わかつ。
胸を盪とどろかせば層雲そううん生じ、
まなじりを決すれば歸鳥入る。
かならず當まさに絶頂を凌しのぎて、
一覽すべし衆山しふざんの小なるを。


乾元中寓居同谷縣作歌 杜甫
 乾元中に同谷縣に寓居して作れる歌
有客有客字子美、
白頭亂髮垂過耳。
歳拾橡栗隨狙公、
天寒日暮山谷裏。
中原無書歸不得、
手脚凍皴皮肉死。
嗚呼
一歌兮歌已哀、
悲風爲我從天來。

かく有り客かく有り字あざなは子美しび
白頭の亂髮垂れて耳を過ぐ。
歳〃(としどし)橡栗(しゃうりつ)(ひろ)ひて狙公(そこう)(したが)ひ、
天寒く日暮るる山谷さんこくの裏うち
中原ちゅうげんしょ無くして歸るを得ず、
手脚しゅきゃく凍皴とうしゅんして皮肉ひにく死す。
嗚呼ああ
一歌いっかすれば歌うたすでに哀かなし、
悲風我が爲に天より來きたる。


 春夜喜雨
杜甫
好雨知時節、
當春乃發生。
隨風潛入夜、
潤物細無聲。
野徑雲倶黑、
江船火獨明。
曉看紅濕處、
花重錦官城。


 春夜雨を喜ぶ

好雨かうう時節を知り、
春に當たりて乃すなはち發生す。
風に隨したがひて潛ひそかに夜に入り、
物を潤うるほして細こまやかにして聲なし。
野徑やけい雲倶ともに黑く、
江船かうせん火獨ひとり明らかなり。
あかつきに紅くれなゐの濕れる處を看れば、
花は錦官城きんくゎんじゃうに重おもからん。


 旅夜書懷
杜甫
細草微風岸、
危檣獨夜舟。
星垂平野闊、
月湧大江流。
名豈文章著、
官應老病休。
飄飄何所似、
天地一沙鴎。


 旅夜りょやおもひを書す

細草さいさう微風の岸、
危檣きしゃう獨夜どくやの舟。
星垂れて平野闊ひろく、
月湧きて大江たいかうながる。
名は 豈に文章もて著あらはれんや、
官は應まさに老病らうびゃうにて休むべし。
飄飄へうへうとして何の似る所ぞ、
天地の一いち沙鴎さおう


 細聽彈琴
劉長卿
泠泠七弦上、
靜聽松風寒。
古調雖自愛、
今人多不彈。


 細らかに琴の彈ずるを聽く

泠泠れいれいたり七絃の上、
静かに松風の寒きを聴く。
古調こてうみづから愛づと雖いへども、
今人こんじん多くは弾だんぜず。


寄李儋元錫
韋應物
去年花裏逢君別、
今日花開又一年。
世事茫茫難自料、
春愁黯黯獨成眠。
身多疾病思田里、
邑有流亡愧俸錢。
聞道欲來相問訊、
西樓望月幾迴圓。


 李儋元錫に寄す

去年花裏くゎり君に逢ひて別れ、
今日花開きて又また一年。
世事せじ茫茫ばうばうとして自みづから料はかり難がたく、
春愁黯黯あんあんとして獨ひとり眠りを成す。
身に疾病しっぺい多くして田里でんりを思ひ、
いふに流亡りうばう有りて俸錢ほうせんを愧づ。
聞道(きくならく)(きた)りて()問訊(もんじん)せんと(ほっ)すと、
西樓に月を望みて幾迴いくくゎいか圓まどかなる。


和張僕射塞下曲 盧綸 張僕射ぼくやの塞下の曲に和す

鷲翎金僕姑、
燕尾繍蝥弧。
獨立揚新令、
千營共一呼。

鷲翎しうれいの金僕姑きんぼくこ
燕尾えんびの繍しう蝥弧ばうこ
ひとり立ちて新令しんれいを揚ぐれば、
千營せんえいともに一呼いっこす。


喜見外弟又言別 李益
 外弟に見まみゆるを喜び又また別れを言ふ
十年離亂後、
長大一相逢。
問姓驚初見、
稱名憶舊容。
別來滄海事、
語罷暮天鐘。
明日巴陵道、
秋山又幾重。

十年離亂りらんの後のち
長大ちゃうだいにして一ひとたび相ひ逢ふ。
せいを問ひて初見しょけんを驚き、
名を稱して舊容きうようを憶おもふ。
別れしよりこのかた滄海さうかいの事、
語り罷をはれば暮天ぼてんの鐘。
明日巴陵はりょうの道、
秋山しうざんた幾いくちょうぞ。


 山石 韓愈

山石犖确行徑微、
黄昏到寺蝙蝠飛。
升堂坐階新雨足、
芭蕉葉大支子肥。
僧言古壁佛畫好、
以火來照所見稀。
鋪床拂席置羹飯、
疏糲亦足飽我飢。
夜深靜臥百蟲絶、
清月出嶺光入扉。
天明獨去無道路、
出入高下窮煙霏。
山紅澗碧紛爛漫、
時見松櫪皆十圍。
當流赤足蹋澗石、
水聲激激風吹衣。
人生如此自可樂、
豈必局束爲人鞿。
嗟哉吾黨二三子、
安得至老不更歸。




山石さんせき犖确らくかくとして行径かうけい微にして、
黄昏くゎうこん寺に到れば蝙蝠へんぷく飛ぶ。
堂に昇り階かいに坐すれば新雨足り、
芭蕉ばせうの葉は大いにして支子しし肥ゆ。
僧は言ふ「古壁の佛畫ぶつぐゎ好し」と、
火を以て來り照らすに見る所稀まれなり。
とこを鋪き席むしろを拂はらひて羹飯かうはんを置き、
疏糲それいた我が飢うゑを飽かしむるに足る。
夜深く靜かに臥すれば百蟲ひゃくちゅう絶え、
清月嶺みねを出でて光扉とびらに入る。
天明獨ひとり去くに道路無く、
高下に出入して煙霏えんぴを窮きはむ。
山紅くれなゐに澗たにみどりに紛まじりて爛漫、
時に見る松櫪しょうれきの皆十圍じふゐなるを。
流れに當りて赤足せきそくもて澗石かんせきを蹋み、
水聲激激げきげきとして風衣ころもを吹く。
人生此かくの如く自みづから樂しむべく、
()に必ずしも局束(きょくそく)として人の爲に(つな)がれんや。
嗟哉ああが黨の二、三の子
(いづ)くんぞ(おい)に至りて更に歸らざることを()ん。


 忽忽 韓愈

忽忽乎余
未知生之爲樂也、
願脱去而無因。
安得長翮大翼如
雲生我身。
乘風振奮出六合、
絶浮塵。
死生哀樂兩相棄、
是非得失付閒人。


 忽忽こつこつ

忽忽乎こつこつことして余
未だ生の樂たのしみと爲すところを知らざる也なり
脱去せんと願ふに因よし無し。
いづくんぞ長翮ちゃうかく大翼たいよくを得て
雲の如く我が身に生やさん。
風に乘り振奮しんぷんして六合りくがふを出で、
浮塵ふぢんを絶たん。
死生ししゃう哀樂あいらくふたつながら相ひ棄て、
是非ぜひ得失とくしつは閒人かんじんに付す。


題李凝幽居
賈島
閒居少鄰並、
草徑入荒園。
鳥宿池邊樹、
僧敲月下門。
過橋分野色、
移石動雲根。
暫去還來此、
幽期不負言。


 李凝の幽居に題す

閒居鄰並りんぺいまれに、
草徑荒園に入る。
鳥は宿る池邊ちへんの樹、
僧は敲たたく月下の門。
橋を過ぎて野色やしょくを分かち、
石を移して雲根うんこんを動かす。
しばらく去りて還た此ここに來きたる、
幽期いうきげんに負そむかず。


雁門太守行 李賀

黑雲壓城城欲摧、
甲光向日金鱗開。
角聲滿天秋色裏、
塞上燕支凝夜紫。
半卷紅旗臨易水、
霜重鼓寒聲不起。
報君黄金臺上意、
提攜玉龍爲君死。




黑雲城しろを壓あっして城摧くだけんと欲ほっし、
甲光かふくゎう日に向かひ金鱗きんりんひらく。
角聲かくせい天に滿つ秋色の裏うち
塞上さいじゃう燕支えんじ夜紫を凝らす。
なかば卷ける紅旗こうき易水えきすゐに臨み、
霜は重く鼓は寒くして聲起こらず。
君の黄金臺わうごんだいじゃうの意に報むくひて、
玉龍ぎょくりょうを提攜ていけいして君が爲に死せん。


賦得古原草送別 白居易 古原の草を賦し得て送別す

離離原上草、
一歳一枯榮。
野火燒不盡、
春風吹又生。
遠芳侵古道、
晴翠接荒城。
又送王孫去、
萋萋滿別情。

離離りりたり原上げんじゃうの草、
一歳に一たび枯榮こえいす。
野火やくゎ燒けども盡きず、
春風吹きて又また生ず。
遠芳古道を侵をかし、
晴翠せいすゐ荒城に接す。
又王孫わうそんの去るを送れば、
萋萋せいせいとして別情滿つ。


大林寺桃花 白居易

人間四月芳菲盡、
山寺桃花始盛開。
長恨春歸無覓處、
不知轉入此中來。


 大林寺の桃花

人間じんかん四月芳菲はうひき、
山寺さんじに桃花たうくゎ始めて盛んに開く。
長恨ちゃうこんす春歸って覓もとむる處無きを、
知らず轉じて此の中うちに入り來きたりしを。


 問劉十九
白居易
綠螘新醅酒、
紅泥小火壚。
晩來天欲雪、
能飮一杯無。


 劉十九に問ふ

綠螘りょくぎ新醅しんぱいの酒、
紅泥こうでい小火せうくゎの爐
晩來ばんらい天雪ふらんと欲ほっし、
く一杯を飮むや無いなや?


 董逃行 張籍

洛陽城頭火曈曈、
亂兵燒我天子宮。
宮城南面有深山、
盡將老幼藏其間。
重巖爲屋橡爲食、
丁男夜行候消息。
聞道官軍猶掠人、
舊里如今歸未得。
董逃行、
漢家幾時重太平。




洛陽らくやう城頭火曈曈とうとう
亂兵らんぺい我が天子の宮きゅうを燒く。
宮城の南面に深山有りて、
ことごとく老幼を將もって其の間に藏かくす。
重巖(ちょうがん)を屋をくと爲して橡しゃうを食と爲し、
丁男ていだん夜行きて消息を候うかがふ。
聞道きくならく官軍猶ほも人を掠りゃくすと、
舊里きうり如今じょこん歸ること未だ得ず。
董逃行とうたうかう
漢家かんかいづれの時か重かさねて太平ならん。


 征婦怨 張籍

九月匈奴殺邊將、
漢軍全沒遼水上。
萬里無人收白骨、
家家城下招魂葬。
婦人依倚子與夫、
同居貧賤心亦舒。
夫死戰場子在腹、
妾身雖存如晝燭。




九月匈奴きょうど邊將を殺し、
漢軍全て沒ぼっす遼水れうすゐの上ほとりに。
萬里ばんりの白骨收をさむる人無く、
家家城下に招魂せうこんして葬す。
婦人は子と夫をっととに依倚いいし、
貧賤ひんせんなるも同居すれば心も亦またぶ。
をっと戰場に死するも子腹に在り、
妾身せふしん存りと雖いへども晝の燭の如し。


節婦吟 寄東平李司空師道 張籍
 節婦吟 東平の李司空師道に寄す
君知妾有夫、
贈妾雙明珠。
感君纏綿意、
繋在紅羅襦。
妾家高樓連苑起、
良人執戟明光裏。
知君用心如日月、
事夫誓擬同生死。
還君明珠雙涙垂、
何不相逢未嫁時。

君は妾せふに 夫をっと有るを知りて、
せふに雙明珠さうめいしゅを贈れり。
君が纏綿てんめんの意に感じて、
くれなゐの羅襦らじゅに繋つなぎて在り。
妾家せふかの高樓かうろうは苑ゑんに連つらなり起ち、
良人りゃうじんげきを明光めいくゎうの裏うちに執る。
君が心を用もちゐるは日月じつげつの如きと知れども、
夫に事つかへて誓って生死を同ともにせんと擬す。
君に明珠めいしゅを還かへして雙涙さうるゐる、
恨むらくは未だ嫁がざる時に相ひ逢はざりしを。


 渡遼水 王建

渡遼水、
此去咸陽五千里。
來時父母知隔生、
重著衣裳如送死。
亦有白骨歸咸陽、
營家各與題本鄕。
身在應無回渡日、
駐馬相看遼水傍。


 遼水を渡る

遼水れうすゐを渡る、
ここを去ること咸陽かんやう五千里。
きたる時父母生を隔へだつと知り、
かさねて衣裳いしゃうを著ること死を送るが如し。
た白骨の咸陽かんやうに歸ることも有りて、
營家えいかおのおの本郷ほんきゃうを題しるして與あたふ。
まさに渡りて回かへる日無かるべきに在れば、
馬を駐とどめて相ひ看る遼水れうすゐの傍ほとりに。


 遣悲懷 元稹

謝公最小偏憐女、
嫁與黔婁百事乖。
顧我無衣搜藎篋、
泥他沽酒拔金釵。
野蔬充膳甘長藿、
落葉添薪仰古槐。
今日俸錢過十萬、
與君營奠復營齊。


 悲懷を遣る

謝公しゃこうが最小にして偏憐へんれんの女むすめ
黔婁けんろうに嫁してより百事乖もとる。
我に衣無きを顧て藎篋じんけふを搜さがし、
かれに酒を沽ふを泥ねだれば金釵きんさいを拔く。
野蔬やそ膳に充てて長藿ちゃうくゎくに甘あまんず、
落葉 薪まきに添へんと古槐こくゎいを仰ぐ。
今日こんにち俸錢十萬を過ぎたれば、
君が與ために奠でんを營いとなみ復た齋さいを營まん。


 離思 元稹

曾經滄海難爲水、
除卻巫山不是雲。
取次花叢懶迴顧、
半縁修道半縁君。




かつて滄海さうかいを經たれば水すゐかたしと爲さず、
巫山ふざんを除卻じょきゃくすれば是れ雲ならず。
取次しゅじ花叢くゎそうに懶ものうく迴顧くゎいこするは、
なかばは修道に縁り半なかばは君に縁る。


 漁翁 柳宗元

夜傍西巖宿、
曉汲清湘燃楚竹。
煙銷日出不見人、
欸乃一聲山水綠。
迴看天際下中流、
巖上無心雲相逐。




漁翁ぎょをうよる西巖せいがんに傍ひて 宿しゅくし、
あかつきに清湘せいしゃうを汲みて楚竹そちくを燃やす。
煙銷え日出でて人を見ず、
欸乃あいだい一聲いっせい山水綠なり。
天際を迴看くゎいかんして中流を下くだれば、
巖上がんじゃう無心に雲相ひ逐ふ。


 汨羅遇風 柳宗元

南來不作楚臣悲、
重入修門自有期。
爲報春風汨羅道、
莫將波浪枉明時。


 汨羅べきら風に遇

南來なんらいは楚臣そしんの悲を作すにあらず、
かさねて修門しうもんに入る自おのづから期有り。
ために報はうず春風しゅんぷう汨羅べきらの道、
波浪を將もって明時を枉げしむる 莫かれ。


 再上湘江
柳宗元
好在湘江水、
今朝又上來。
不知從此去、
更遣幾年迴。


 再び湘江しゃうかうを上のぼ

し湘江しゃうかうの水在りて、
今朝こんてうまたのぼり來きたる。
知らず此ここより去りて、
さらに遣つかはして幾いづれの年か迴かへらん。


與浩初上人同看山寄京華親故 柳宗元
 浩初上人と同ともに山を看京華の親故に寄す
海畔尖山似劍鋩、
秋來處處割愁腸。
若爲化得身千億、
散向峰頭望故鄕。

海畔かいはんの尖山せんざんは劍鋩けんばうに似て、
秋來處處しょしょ愁腸しうちゃうを割く。
若爲いかんぞ身を千億せんおくに化し得て、
さんじて峰頭ほうとうに上のぼりて故鄕を望まん。


登柳州城樓寄漳汀封連四州 柳宗元
 柳州りうしうの城樓に登りて漳しゃう・汀てい・封ほう・連れんの四州に寄す
城上高樓接大荒、
海天愁思正茫茫。
驚風亂颭芙蓉水、
密雨邪侵薛茘牆。
嶺樹重遮千里目、
江流曲似九迴腸。
共來百越文身地、
猶是音書滯一鄕。

城上じゃうじゃうの高楼大荒たいくゎうに接し、
海天かいてんの愁思しうし正に茫茫ばうばう
驚風きゃうふう乱れ颭うごかす芙蓉ふようの水、
密雨みつう斜めに侵す薜茘へいれいの牆かべ
嶺樹れいじゅかさなりて千里の目を遮さへぎり、
江流曲がりて九廻きうくゎいの腸に似たり。
共に来たる百粤ひゃくゑつ文身ぶんしんの地、
ほ是れ音書いんしょ一郷いちがうに滞とどこほる。


柳州城西北隅種柑樹 柳宗元
 柳州城の西北隅に柑樹を種う
手種黄柑二百株、
春來新葉遍城隅。
方同楚客憐皇樹、
不學荊州利木奴。
幾歳開花聞噴雪、
何人摘實見垂珠。
若教坐待成林日、
滋味還堪養老夫。
づから種う黄柑くゎうかん二百株しゅ
春 來きたれば新葉しんえふ城隅じゃうぐうに遍あまねし。
まさに楚客そかくと同じく皇樹くゎうじゅを憐れみ、
學ばず荊州けいしうの利する木奴ぼくどに。
いづれの歳か花開きて雪の噴くを聞き、
何人(なんぴと)か實を()みて(たま)()るるを見ん?
し林を成すの日を坐待ざたいせしめんか、
滋味還ほも老夫を養うに堪へん。

 秋詞 劉禹錫

自古逢秋悲寂寥、
我言秋日勝春朝。
晴空一鶴排雲上、
便引詩情到碧霄。




いにしへより秋に逢へば寂寥せきれうを悲しむも、
われは言ふ秋日しうじつは春の朝あしたに勝まさると。
晴空せいくうに一鶴いっかく雲を排おしひらけ上のぼり、
便すなはち詩情を引きて碧霄へきせうに到る。


同樂天登棲靈寺塔
劉禹錫
歩歩相攜不覺難、
九層雲外倚闌干。
忽然笑語半天上、
無限遊人舉眼看。

 樂天と同ともに棲靈寺の塔に登る

歩歩ほほひ攜たづさへれば難かたきを覺えず、
九層きうそうの雲外うんがい闌干らんかんに倚る。
忽然こつぜんとして笑ひて語る半天の上、
無限の遊人いうじんまなこを舉げて看る。

酬樂天揚州初逢席上見贈 劉禹錫
 樂天の揚州に初めて席上に逢へるときに贈らるに酬ゆ
巴山楚水淒涼地、
二十三年棄置身。
懷舊空吟聞笛賦、
到鄕翻似爛柯人。
沈舟側畔千帆過、
病樹前頭萬木春。
今日聽君歌一曲、
暫憑杯酒長精神。

巴山はざん楚水そすゐ淒涼せいりゃうの地、
二十三年身を棄置きちす。
舊を懷なつかしみ空しく吟ず聞笛ぶんてきの賦
きゃうに到りて翻ひるがへって似る爛柯らんかの人。
沈舟ちんしうの側畔そくはん千帆せんぱん過ぎ、
病樹びゃうじゅの前頭ぜんとう萬木ばんぼくの春。
今日君より聽く唱うた一曲、
しばらく杯酒に憑きて精神を長ぜん。


元和十一年自朗州召至京戲贈看花諸君 劉禹錫
            元和十一年朗州より召されて京に至り戲れに看花の諸君子に贈る
紫陌紅塵拂面來、
無人不道看花回。
玄都觀裏桃千樹、
盡是劉郎去後栽。

紫陌しはくの紅塵こうぢんめんを拂はらひて來きたり、
ひとの花はなを看て回かへると道はざるなし。
玄都觀げんとくゎんもも千樹せんじゅ
(ことごと)く是劉郞(りうらう)()りて(のち)()ゑたり。


杏園花下酬樂天見贈 劉禹錫
 杏園の花下に樂天に贈らるるに酬ふ
二十餘年作逐臣、
歸來還見曲江春。
遊人莫笑白頭醉、
老醉花間能幾人。

二十餘年逐臣ちくしんと作り、
歸り來きたりて還た見る曲江きょっかうの春を。
遊人いうじんわらふ莫なかれ白頭はくとうの醉へるを、
老いて 花間くゎかんに醉ふは能く 幾人いくにんぞ。


 綵書怨
上官婉兒
葉下洞庭初、
思君萬里餘。
露濃香被冷、
月落錦屏虚。
欲奏江南曲、
貪封薊北書。
書中無別意、
惟悵久離居。




葉は下る洞庭の初なぎさ
君を思ふ萬里餘。
露濃くして香被かうひひややかに、
月は落ちて錦屏きんぺいうつろなり。
かなでんと欲す江南の曲、
みだりに封ふうす薊北けいほくの書。
書中に別意無く、
だ悵うらむらくは離居りきょひさしきを。


八詠應制
二首之一 上官儀
啓重帷、
重帷照文杏。
翡翠藻輕花、
流蘇媚浮影。
瑤笙燕始歸、
金堂露初晞。
風隨少女至、
虹共美人歸。
羅薦已擘鴛鴦被、
綺衣復有蒲萄帶。
殘紅豔粉映簾中、
戲蝶流鶯聚窗外。
洛濱春雪迴、
巫峽暮雲來。
雪花飄玉輦、
雲光上璧臺。
共待新妝出、
清歌送落梅。




重帷を啓き、
重帷文杏を照らす。
翡翠輕花を藻き、
流蘇浮影媚し。
瑤笙に燕始めて歸り、
金堂露初めて晞く。
風少女に隨ひて至り、
虹美人と共に歸る。
羅薦已に鴛鴦の被に擘かれ、
綺衣復た蒲萄の帶有り。
殘紅豔粉簾中に映え、
戲蝶流鶯窗外に聚る。
洛濱に春雪迴り、
巫峽に暮雲來る。
雪花玉輦に飄ひ、
雲光璧臺の上。
共に新妝の出づるを待ち、
清歌して落梅を送らん。


入朝洛堤歩月
上官儀
脈脈廣川流、
驅馬歴長洲。
鵲飛山月曙、
蝉噪野風秋。


 朝てうに入らんとして洛堤らくてい月に歩む

脈脈として廣川くゎうせん流れ、
馬を驅りて長洲を歴
鵲かささぎは飛ぶ山月曙あけぼの
蝉は噪さわぐ野風の秋に。


九月九日上幸慈恩寺登浮圖群臣上菊花壽酒 上官婉兒
 九月九日慈恩寺に幸し上たてまつ
        浮圖ふとに登りて群臣菊花の壽酒を上たてまつ
帝里重陽節、
香園萬乘來。
卻邪萸入佩、
獻壽菊傳杯。
塔類承天湧、
門疑待佛開。
睿詞懸日月、
長得仰昭回。

帝里の重陽節、
香園に萬乘ばんじょうきたる。
邪を卻しりぞけんとして萸はいに入れ、
壽を獻じて菊杯に傳ぐ。
塔は類る天を承けんとして湧くに、
門は疑ふ佛を待ちて開くかと。
睿詞えいし日月と懸かかげ、
とこしへに昭回せうくゎいを 仰あふぐを得ん。


帝駕幸新豐湯泉宮 獻詩三首之一 上官婉兒
 帝新豐湯泉宮に駕幸す 獻詩三首之一
三冬季月景隆年、
萬乘觀風出灞川。
遙看電躍龍爲馬、
囘矚霜原玉作田。

三冬の季月隆さかんなる年を 景ことほぎ、
萬乘ばんじょう風を觀んと灞川はせんを出づ。
遙かに看る電躍でんやくするは龍を馬と爲し、
囘矚くゎいしょくすれば霜原玉ぎょくを田と作す。


 仝 三首之二
上官婉兒
鸞旂掣曳拂空囘、
羽騎驂驔躡景來。
隱隱驪山雲外聳、
迢迢御帳日邊開。




鸞旂らんき掣曳せいえい空を拂はらひて囘めぐり、
羽騎うき驂驔さんたん景を躡ひて來る。
隱隱いんいんたる驪山りざんは雲外に聳そびえ、
迢迢てうてうたる御帳ぎょちゃうは日邊にっぺんに開く。


 仝 三首之三
上官婉兒
翠幕珠幃敞月營、
金罍玉斝泛蘭英。
歳歳年年常扈蹕、
長長久久樂升平。




翠幕すゐばく珠幃しゅゐは月營げつえいを敞おほひ、
金罍きんらい玉斝ぎょくかは蘭英らんえいを泛うかぶ。
歳歳年年常とこしへに 扈蹕こひつして、
長長久久きうきう升平しょうへいを樂ねがはん。


奉和聖製 立春日侍宴内殿出翦綵花應制 上官婉兒
 聖製に奉和す
        立春の日に宴に侍し内殿より綵花を翦りて出す應制
密葉因裁吐、
新花逐翦舒。
攀條雖不謬、
摘蕊詎知虚。
春至由來發、
秋還未肯疏。
借問桃將李、
相亂欲何如。

密葉みつえふつに因って吐ひらき、
新花翦るに逐ひて 舒ぶ。
えだに攀づるは謬あやまたずと雖いへども、
ずゐを摘むは詎なんぞ虚なるを知らん。
春至れば由來發し、
秋還かへれど未だ肯へて疏ならず。
借問しゃもんす桃は李を將たすくるも、
ひ亂るるは何如いかにかせんと欲ほっす。


遊長寧公主流杯池二十五首之一 上官婉兒
 長寧公主の流杯池に遊ぶ 二十五首之一
逐仙賞、展幽情。
踰昆閬、邁蓬瀛。

 仝 三

檀欒竹影、
飆風松聲。
不煩歌吹、
自足娯情。

 仝 四

仰循茅宇、
俯眄喬枝。
煙霞問訊、
風月相知。

 仝 五

枝條鬱鬱、
文質彬彬。
山林作伴、
松桂為鄰。

 仝 六

淸波洶湧、
碧樹冥蒙。
莫怪留歩、
因攀桂叢。

 仝 七

莫論圓嶠、
休説方壺。
何如魯館、
即是仙都。

 仝 九

登山一長望、
正遇九春初。
結駟填街術、
閭閻滿邑居。
鬥雪梅先吐、
驚風柳未舒。
直愁斜日落、
不畏酒尊虚。

 仝 十

霽曉氣清和、
披襟賞薜蘿。
玳瑁凝春色、
琉璃漾水波。
跂石聊長嘯、
攀松乍短歌。
除非物外者、
誰就此經過。

 仝 十一

暫爾遊山第、
淹留惜未歸。
霞窗明月滿、
澗戸白雲飛。
書引藤爲架、
人將薜作衣。
此眞攀玩所、
臨睨賞光輝。

 仝 十二

放曠出煙雲、
蕭條自不羣。
漱流清意府、
隱儿避囂氛。
石畫妝苔色、
風梭織水文。
山室何爲貴、
唯餘蘭桂熏。

 仝 十三

策杖臨霞岫、
危歩下霜蹊。
志逐深山靜、
途隨曲澗迷。
漸覺心神逸、
俄看雲霧低。
莫怪人題樹、
祗爲賞幽棲。

 仝 十四

攀藤招逸客、
偃桂協幽情。
水中看樹影、
風裏聽松聲。

 仝 十五

攜琴侍叔夜、
負局訪安期。
不應題石壁、
爲記賞山時。

 仝 十六

泉石多仙趣、
巖壑寫奇形。
欲知堪悅耳、
唯聽水泠泠。
仙を逐ひて賞で、幽情を展ぶ。
昆閬こんらうを踰え、蓬瀛ほうえいを邁かん。



檀欒だんらんたる竹影ちくえい
飆風べういつたる松聲しょうせい
歌吹かすゐを煩わづらはさざれど、
おのづから 娯情ごじゃうる。



茅宇ばううを仰循ぎゃうじゅんし、
喬枝けうしを俯眄ふべんす。
煙霞問ひ訊たづぬ、
風月相ひ知らん。



枝條しでう鬱鬱うつうつとして、
文質彬彬ぶんしつひんぴんたり。
山林を伴ともと作し、
松桂を鄰と為す。



淸波洶湧して、
碧樹冥蒙たり。
怪しむ莫かれ留歩するを、
桂叢を攀くに因る。



圓嶠ゑんけうを論ずる莫かれ、
方壺はうこを説くを休めよ。
なんぞ魯館ろくゎんに 如かん、
すなはち是れ仙都なり。



山に登りて一いつに長望すれば、
正に 九春きうしゅんの初めに遇ふ。
結駟けっし街術がいじゅつを 填うづめ、
閭閻りょえんに邑居いふきょ滿つ。
雪と鬥たたかひ梅先づ 吐ひらくも、
風に驚きて柳未いまだ 舒べず。
ただに斜日しゃじつの落つるを愁うれひ、
酒尊しゅそんうつろとなるを畏おそれず。



霽曉せいげう氣清和にして、
えりを披ひらき薜蘿へいらを賞しゃうす。
玳瑁たいまい春色を凝らし、
琉璃るり水波に漾ただよはす。
いはに跂つまだちて聊いささか長嘯し、
松に攀りて乍しばらく短歌す。
物外ぶつぐゎい者を除くに非ざれば、
たれか此ここに就きて經過せん。



暫爾ざんじ山第さんていに遊び、
淹留えんりうおしみて未いまだ歸らず。
霞窗かさうに明月滿ち、
澗戸かんこに白雲飛ぶ。
書藤とうを引って架と爲し、
人薜へいを將って衣と作す。
れ眞まことに玩所ぐゎんしょと攀したひ、
臨睨りんげいに光輝を賞す。



放曠はうくゎうすれば煙雲えんうんを出だし、
蕭條せうでうとして自おのづから羣れず。
流れに漱くちすすぐ清意府せいいふ
かいに隱かくれて囂氛がうふんを避く。
石畫せきぐゎ苔色たいしょくを妝よそほひ、
風梭ふうさ水文すゐもんを織る。
山室何爲なんすれぞ貴たふとき、
だ蘭桂けいらんの熏かをりの餘あますあるのみ。



つゑを策きて霞岫かしうに臨み、
歩危くして霜蹊さうけいを下る。
志は深山の靜かなるを逐ひ、
みちは曲澗きょくかんに隨したがひて迷ふ。
やうやく心神の逸はやるを覺おぼえ、
にはかに雲霧うんむの低きを看る。
あやしむ莫なかれ人樹に題するを、
だ幽棲いうせいを賞せんが爲ためなり。



藤に攀ぢて逸客を招き、
桂を偃せて幽情に協かなふ。
水中に樹影を看て、
風裏に松聲を聽く。



きんを攜たづさへて叔夜しゅくやに侍じし、
局を負ひて安期あんきを訪おとなふ。
まさに石壁に題すべからざるも、
ゆゑに記す山を賞せし時を。



泉石仙趣多く、
巖壑がんがく奇形を寫す。
耳に(よろこ)ばすに()ふるを知らんと(ほっ)せば、
だ水の泠泠れいれいたるを聽くのみ。

 詠紅柿子
劉禹錫
曉連星影出、
晩帶日光懸。
本因遺采掇、
翻自保天年。


 紅き柿子を詠む

あかつきには星影の出づるに連つらなり、
ゆふべには日光の懸かかるを帶ぶ。
もと采掇さいてつに遺のこるに因るも、
かへって自おのづから天年を保つ。


 塞下 許渾

夜戰桑乾北、
秦兵半不歸。
朝來有鄕信、
猶自寄征衣。




よる戰ふ桑乾さうかんの北、
秦兵しんぺいなかばは歸らず。
朝來てうらい鄕信きゃうしん有り、
猶自なほ征衣せいいを寄すと。


  瑤池 李商隱

瑤池阿母綺窗開、
黄竹歌聲動地哀。
八駿日行三萬里、
穆王何事不重來。



瑤池やうちの阿母あぼ綺窗きさうを開き、
黄竹(くゎうちく)歌聲(うたごへ)地を(どよ)もして(あはれ)れなり。
八駿はっしゅん日に行くこと三萬里、
穆王ぼくわう何事なにごとぞ重かさねては來きたらず。

  錦瑟 李商隱

錦瑟無端五十弦、
一弦一柱思華年。
莊生曉夢迷蝴蝶、
望帝春心托杜鵑。
滄海月明珠有涙、
藍田日暖玉生煙。
此情可待成追憶、
只是當時已惘然。




錦瑟きんしつ端無はしなくも五十弦ごじふげん
一弦いちげん一柱いっちゅう華年くゎねんを思う。
莊生さうせいの曉夢げうむは蝴蝶こてふに迷い、
望帝ばうていの春心しゅんしんは杜鵑とけんに托たくす。
滄海さうかいつきあきらかにして珠たまに涙有り、
藍田(らんでん)()暖かにして(たま)(けむり)(しゃう)ず。
の情追憶と成るを待つ可けんや、
だ是れ當時より已すでに惘然ばうぜん


  無題 李商隱

相見時難別亦難、
東風無力百花殘。
春蠶到死絲方盡、
蠟炬成灰涙始乾。
曉鏡但愁雲鬢改、
夜吟應覺月光寒。
蓬山此去無多路、
靑鳥殷勤爲探看。



ひ見る時難かたく別るるも亦た難かたく、
東風とうふうちから無く百花殘くづる。
春蠶しゅんさんに到りて絲いとまさに盡き、
蠟炬らふきょはひと成りて涙始めて乾かはく。
曉鏡げうきゃうに但だ愁うれふ雲鬢うんびんの改まるを、
夜吟やぎんまさに覺おぼゆべし月光の寒きを。
蓬山ほうざんここより去ること多路たろ無く、
青鳥せいてう殷勤いんぎんために 探さぐり看よ。