醉留東野 韓愈

昔年
因讀李白杜甫詩。
長恨二人不相從。
吾與東野生並世、
如何復躡二子蹤。
東野不得官、
白首誇龍鍾。
韓子稍姦黠、
自慚青蒿倚長松。
低頭拜東野、
願得終始如駏蛩。
東野不迴頭、
有如寸筳撞鉅鐘。
我願身爲雲、
東野變爲龍。
四方上下逐東野、
雖有離別無由逢。




昔年
李白杜甫の詩を讀むことに因りて、
長く恨む二人相ひ從はざりしことを。
吾と東野とは並世に生まる、
如何いかんぞ復また二子の蹤あとを躡む。
東野は官を得ずして、
白首龍鍾りょうしょうを誇る。
韓子は稍姦黠かんかつ
自ら慚づ青蒿せいかう長松ちゃうそうに倚る。
低頭して東野を拜し、
願はくは終始駏蛩きょきょうの如くあるを得ん。
東野は頭かうべを迴らさず、
寸筳すんてい鉅鐘きょしょうを撞くが如ごとく有るに。
我願はくは身は雲と爲り、
東野は變じて龍と爲らん。
四方上下しゃうか東野を逐ひ、
離別有りと雖いへども逢ふに由よし無し。


 題酒家 韋莊

酒綠花紅客愛詩、
落花春岸酒家旗。
尋思避世爲逋客、
不醉長醒也是癡。

 酒家に題す

酒は綠にして花は紅あかく客は詩を愛す、
落花の春岸酒家の旗。
尋思じんしし世を避けて逋客ほかくと爲り、
はずして長つねに醒むるは也またこれ癡ならん。

藍田山石門精舍
王維
落日山水好、
漾舟信歸風。
玩奇不覺遠、
因以縁源窮。
遙愛雲木秀、
初疑路不同。
安知清流轉、
偶與前山通。
捨舟理輕策、
果然愜所適。
老僧四五人、
逍遙蔭松柏。
朝梵林未曙、
夜禪山更寂。
道心及牧童、
世事問樵客。
暝宿長林下、
焚香臥瑤席。
澗芳襲人衣、
山月映石壁。
再尋畏迷誤、
明發更登歴。
笑謝桃源人、
花紅復來覿。

落日山水好く、
舟を漾ただよはせて歸風に信まかす。
奇を玩びて遠き覺えず、
因って以って源を縁たづねて窮きはめんとす。
遙かに雲木の秀でたるを愛するも、
初めは疑ふ路同じからざるかと。
いづくんんぞ知らん清流轉じ、
たまたま前山と通ずるを。
舟を捨てて輕策を理をさむ、
果然適いたれる所に愜こころよし。
老僧四五人、
逍遙して松柏に蔭す。
朝梵林未だ曙けず、
夜禪山更に寂たり。
道心牧童に及び、
世事樵客せうかくに問ふ。
くれに宿る長林の下もと
香を焚きて瑤席に臥す。
澗芳人衣を襲ひ、
山月石壁に映ず。
再び尋ぬるに迷誤を畏れたれば、
明發更に登歴せん。
笑ひて謝す桃源の人、
花の紅なるとき復た來りて覿はん。


 揚州送人
劉綺莊
桂楫木蘭舟、
楓江竹箭流。
故人從此去、
望遠不勝愁。
落日低帆影、
歸風引櫂謳。
思君折楊柳、
涙盡武昌樓。


 揚州に人を送る

かつらの楫かぢに木蘭もくらんの舟、
楓江に竹箭ちくせん流る。
故人此ここより去り、
遠くを望めば愁へに勝てず。
落日帆影低く、
歸風櫂謳たうおうを引く。
君を思ひて楊柳を折れば、
涙は盡く武昌樓。


 滁州西澗 韋應物

獨憐幽草澗邊生、
上有黄鸝深樹鳴。
春潮帶雨晩來急、
野渡無人舟自橫。

 滁州ちょしうの西澗せいかん

ひとりあはれむ幽草いうさう澗邊かんへんに生じ、
上に黄鸝くゎうりの深樹に鳴く有るを。
春潮雨を帶びて晩來急に、
野渡やと人無くして舟自ら橫たふ。

 桃花谿 張旭

隱隱飛橋隔野煙、
石磯西畔問漁船。
桃花盡日隨流水、
洞在淸谿何處邊。



隱隱たる飛橋は野煙を隔へだて、
石磯の西畔に漁船に問ふ。
桃花は盡日流水に隨ひて、
洞は淸谿せいけいの何處いづこの邊にか在る」と。

 襄陽歌 李白

落日欲沒峴山西、
倒著接籬花下迷。
襄陽小兒齊拍手、
攔街爭唱白銅鞮。
傍人借問笑何事、
笑殺山公醉似泥。
鸕鶿杓、鸚鵡杯。
百年三萬六千日、
一日須傾三百杯。
遙看漢水鴨頭綠、
恰似葡萄初醗醅。
此江若變作春酒、
壘麹便築糟丘臺。
千金駿馬換小妾、
笑坐雕鞍歌落梅。
車旁側挂一壺酒、
鳳笙龍管行相催。
咸陽市中歎黄犬、
何如月下傾金罍。
君不見晉朝羊公
一片石、
龜頭剥落生莓苔。
涙亦不能爲之墮、
心亦不能爲之哀。
清風朗月
不用一錢買、
玉山自倒非人推。
舒州杓、力士鐺。
李白與爾同死生、
襄王雲雨今安在、
江水東流猿夜聲。

 襄陽じゃうやうの歌

落日沒せんと欲す峴山けんざんの西、
さかしまに接籬せふりを著けて花の下に迷ふ。
襄陽じゃうやうの小兒齊ひとしく手を拍ち、
街を攔さえぎりて爭きそひて唱ふ『白銅鞮』。
傍人借問す何事をか笑ふと、
笑殺す山公の醉ひて泥の似ごときを。
鸕鶿ろじの杓しゃく、鸚鵡あうむの杯。
百年三萬六千日、
一日須すべからく傾くべし三百杯。
遙かに看る漢水鴨頭の綠、
あたかも似たり葡萄の初めて醗醅はつばいするに。
此の江かうし變じて春酒と作らば、
壘麹るゐきく便すなはち築かん糟丘臺さうきうだい
千金の駿馬小妾と換へ、
笑ひて雕鞍に坐して『落梅』を歌ふ。
車旁側に挂く一壺の酒、
鳳笙龍管行ゆくゆく相ひ催うながす。
咸陽の市中に黄犬を歎くは、
何ぞ如かん月下に金罍きんらいを傾かたぶくるに。
君見ずや晉朝の羊公
一片の石、
龜頭剥落して莓苔ばいたい生ず。
涙も亦またこれが爲ために墮つる能あたはず、
心も亦またこれが爲ために哀しむ能あたはず。
清風朗月
一錢の買ふを用もちゐず、
玉山自おのづから倒たふる人の推すに非ず。
舒州じょしうの杓、力士の鐺さう
李白爾なんぢと死生を同くせん、
襄王じゃうわうの雲雨今安いづくにか在る、
江水は東流して猿は夜に聲く。

 九曲詞 高適

鐵騎橫行鐵嶺頭、
西看邏逤取封侯。
靑海只今將飲馬、
黄河不用更防秋。


 九曲の詞

鐵騎橫行す鐵嶺の頭ほとり
西のかた邏逤を看て封侯を取らん。
青海只今將まさに馬に飲みづかはんとし、
黄河用もちゐず更に秋を防ぐを。


 與歌者何戡
劉禹錫
二十餘年別帝京、
重聞天樂不勝情。
舊人唯有何戡在、
更與殷勤唱渭城。


 歌者何戡に與ふ

二十餘年帝京に別れ、
重ねて天樂てんがくを聞きて情に勝へず。
舊人唯だ何戡かかんの在る有り、
更に與ために殷勤いんぎんに渭城ゐじゃうを唱ふ。


登柳州峨山
柳宗元
荒山秋日午、
獨上意悠悠。
如何望鄕處、
西北是融州。

 柳州の峨山に登る

荒山秋日午なり、
ひとり上のぼりて意悠悠いういうたり。
如何いかんぞ望鄕の處、
西北は是れ融州ゆうしう

 宿疎陂驛 王周

秋染棠梨葉半紅、
荊州東望草平空。
誰知孤宦天涯意、
微雨瀟瀟古驛中。

 疎陂驛に宿す

秋は棠梨を染めて葉半ば紅なり、
荊州東に望めば草空に平かなり。
誰か知らん孤宦天涯の意を、
微雨瀟瀟たり古驛の中。

送朱大入秦
孟浩然
遊人五陵去、
寶劍直千金。
分手脱相贈、
平生一片心。

 朱大の秦に入るを送る

遊人五陵に去る、
寶劍直あたひ千金。
手を分つとき脱して相ひ贈る、
平生一片の心。

新嫁娘詞 三首之三 王建 新嫁娘の詞

三日入廚下、
洗手作羹湯。
未諳姑食性、
先遣小姑嘗。
三日に廚下ちゅうかに入り、
手を洗ひて羹湯かうたうを作る。
未だ姑の食性を諳そらんぜざれば、
先づ小姑をして嘗めしむ。

 遊子吟 孟郊

慈母手中線、
遊子身上衣。
臨行密密縫、
意恐遲遲歸。
誰言寸草心、
報得三春暉。

 遊子の吟

慈母手中の線いと
遊子身上の衣ころも
行くに臨みて密密に縫ふは、
意に恐る遲遲として歸らんことを。
たれか言ふ寸草の心の、
三春の暉に報い得んとは。

 西施石 樓穎

西施昔日浣紗津、
石上靑苔思殺人。
一去姑蘇不復返、
岸傍桃李爲誰春。



西施昔日浣紗くゎんさの津しん
石上の靑苔人を思殺す。
一たび姑蘇を去りて復た返らず、
岸傍の桃李誰が爲にか春なる。

 題禪院 杜牧

觥船一棹百分空、
十歳青春不負公。
今日鬢絲禪榻畔、
茶烟輕颺落花風。

 禪院に題す

觥船くゎうせん一棹いつたう百分空し、
十歳青春公に負そむかず。
今日鬢絲びんし禪榻ぜんたふの畔ほとり
茶烟輕く颺あがる落花の風。

古長城吟 飮馬長城窟行 王翰

長安少年無遠圖、
一生惟羨執金吾。
麒麟前殿拜天子、
走馬西撃長城胡。
胡沙獵獵吹人面、
漢虜相逢不相見。
遙聞撃鼓動地來、
傳道單于夜猶戰。
此時顧恩寧顧身、
爲君一行摧萬人。
壯士揮戈回白日、
單于濺血染朱輪。
歸來飲馬長城窟、
長城道傍多白骨。
問之耆老何代人、
云事秦王築城卒。
黄昏塞北無人煙、
鬼哭啾啾聲沸天。
無罪見誅功不賞、
孤魂流落此城邊。
當昔秦王按劍起、
諸侯膝行不敢視。
富國強兵二十年、
築怨興徭九千里。
秦王築城何太愚、
天實亡秦非北胡。
一朝禍起蕭墻内、
渭水咸陽不復都。
長安の少年遠圖無く、
一生惟だ羨うらやむ執金吾。
麒麟前殿に天子に拜し、
馬を走らせ西長城の胡を撃つ。
胡沙こさ獵獵れふれふとして人面に吹き、
漢虜相ひ逢はんとすれども相ひ見まみえず。
遙かに聞く撃鼓の地を動とよもして來るを、
傳へ道ふ單于夜猶ほ戰ふと。
此の時恩を顧かへりみるも寧なんぞ身を顧かへりみんや、
君が爲一いつに行きて萬人を摧くだく。
壯士戈ほこを揮ふるひて白日を回らし、
單于血を濺したたらせて朱輪を染む。
歸り來りて馬に飲みづかふ長城の窟、
長城の道傍白骨多し。
これを耆老きらうに問ふ何代の人なりやと、
云ふ事には秦王築城の卒と。
黄昏の塞北人煙無く、
鬼哭きこく啾啾しうしうとして聲天に沸く。
罪無くして誅せられ功あるも賞せられず、
孤魂流落す此の城邊。
當昔たうせき秦王劍を按じて起たば、
諸侯膝行して敢へて視ず。
富國強兵二十年、
怨みを築き徭えうを興おこす九千里。
秦王城を築くは何たる太愚、
天實に秦を亡ぼすは北胡に非ず。
一朝禍わざはい起こすは蕭墻せうしゃうの内、
渭水咸陽復た都せず。

 歎花 杜牧

自是尋春去校遲、
不須惆悵怨芳時。
狂風落盡深紅色、
綠葉成陰子滿枝。

 花を歎く

自ら是とし春を尋ぬるに(えだ)を去ること遲く、
もちゐず惆悵ちうちゃうとして芳時を怨むを。
狂風落とし盡す深紅の色、
綠葉陰かげを成して子枝に滿つ。

 題僧院 靈一

虎溪閒月引相過、
帶雪松枝掛薜蘿。
無限靑山行欲盡、
白雲深處老僧多。

 僧院に題す

虎溪こけい閒月かんげつ引きて相ひ過ぎ、
雪を帶ぶる松枝薜蘿へいらを掛く。
無限の靑山行ゆくゆく盡きんと欲ほっし、
白雲深き處老僧多し。

 題軍北征 李益

天山雪後海風寒、
橫笛偏吹行路難。
磧裏征人三十萬、
一時回首月中看。



天山雪後海風寒く、
橫笛偏ひとへに吹く『行路難』。
せき裏の征人三十萬、
一時に首かうべを回めぐらして月中に看る。

夏日題悟空上人院
杜荀鶴
三伏閉門披一衲、
兼無松竹蔭房廊。
安禪不必須山水、
滅得心中火自涼。


 夏日悟空上人の院に題す

三伏さんぷく門を閉ざして一衲なふを披はおり、
くはへて松竹の房廊ばうらうを蔭おほふ無し。
安禪必ずしも山水を須もちゐずして、
心中に滅し得て火自おのづから涼し。


與高適薛據同登慈恩寺浮圖 岑參
 高適かうせきと薛據せつきょと同ともに慈恩寺の浮圖ふとに登る
塔勢如湧出、
孤高聳天宮。
登臨出世界、
磴道盤虚空。
突兀壓神州、
崢嶸如鬼工。
四角礙白日、
七層摩蒼穹。
下窺指高鳥、
俯聽聞驚風。
連山若波濤、
奔走似朝東。
靑松夾馳道、
宮觀何玲瓏。
秋色從西來、
蒼然滿關中。
五陵北原上、
萬古靑濛濛。
淨理了可悟、
勝因夙所宗。
誓將挂冠去、
覺道資無窮。
塔勢湧出ゆうしゅつするが如く、
孤高天宮に聳そびゆ。
登臨世界を出で、
磴道とうだう虚空こくうに盤る。
突兀とっこつとして神州を壓し、
崢嶸さうくゎうとして鬼工の如し。
四角白日を礙ささへ、
七層蒼穹さうきゅうを摩す。
下窺して高鳥を指し、
俯聽して驚風を聞く。
連山波濤の若ごとく、
奔走東に朝むかふに似たり。
青松馳道ちだうを夾み、
宮觀何ぞ玲瓏れいろうたる。
秋色西より來きたり、
蒼然さうぜんとして關中に滿つ。
五陵北原の上ほとり
萬古ばんこ青濛濛せいもうもう
淨理了つひに悟る可し、
勝因夙つとに宗とする所。
誓ひて將まさに冠を挂けて去り、
覺道無窮に資せんとす。

一字至七字詩
白居易
詩。
綺美、
瓌奇。
明月夜、
落花時。
能助歡笑、
亦傷別離。
調清金石怨、
吟苦鬼神悲。
天下只應我愛、
世間唯有君知。
自從都尉別蘇句、
便到司空送白辭。


 一字より七字に至る詩

詩。
綺美にして、
瓌奇なり。
明月の夜、
落花の時。
能く歡笑を助け、
亦た別離を傷む。
調清くして金石怨み、
吟苦くして鬼神悲しむ。
天下只應に我を愛すべきも、
世間唯君のみ知る有り。
都尉の蘇に別るる句より、
便ち司空の白を送るの辭に到る。


玉關寄長安李主簿
岑參
東去長安萬里餘、
故人何惜一行書。
玉關西望堪腸斷、
況復明朝是歳除。

 玉關にて長安の李主簿に寄す

東のかた長安を去ること萬里餘、
故人何ぞ惜しむ一行の書。
玉關西望すれば腸はらわた斷つに堪へんや、
いはんや復た明朝は是れ歳除さいぢょなるをや。

幽州新歳作 張説

去歳荊南梅似雪、
今年薊北雪如梅。
共知人事何常定、
且喜年華去復來。
邊鎮戍歌連夜動、
京城燎火徹明開。
遙遙西向長安日、
願上南山壽一杯。

 幽州新歳の作

去歳荊南梅雪に似て、
今年薊北雪梅の如し。
共に知る人事何ぞ常に定まらん、
且し喜ぶ年華去りて復ま來るを。
邊鎮の戍歌連夜動き、
京城の燎火徹明して開く。
遙遙として西のかた長安の日に向ひ、
願はくは南山の壽じゅ一杯を上たてまつらん。

秋夜寄丘二十二員外 韋應物 秋夜丘二十二員外に寄す

懷君屬秋夜、
散歩詠涼天。
山空松子落、
幽人應未眠。
君を懷ひて秋夜に屬し、
散歩して涼天に詠ず。
山空しくして松子しょうし落ち、
幽人いうじんまさに未だ眠らざるべし。

 妾薄命 李白

昔日芙蓉花、
今成斷根草。
以色事他人、
能得幾時好。



昔日芙蓉の花、
今成る斷根の草。
色を以て他人に事つかへ、
く幾時いくときの好よろしきを得たりや。

 閣夜 杜甫

歳暮陰陽催短景、
天涯霜雪霽寒宵。
五更鼓角聲悲壯、
三峽星河影動搖。
野哭千家聞戰伐、
夷歌幾處起漁樵。
臥龍躍馬終黄土、
人事音書漫寂寥。



歳暮陰陽短景を催うながし、
天涯の霜雪さうせつ寒宵かんせうに霽る。
五更の鼓角聲悲壯に、
三峽の星河影動搖す。
野哭やこく千家戰伐せんばつを聞き、
夷歌いか幾處か漁樵ぎょせうより起こる。
臥龍ぐゎりょう躍馬やくばつひに黄土、
人事音書いんしょそぞろに寂寥。

 望廬山五老峯
李白
廬山東南五老峯、
青天削出金芙蓉。
九江秀色可攬結、
吾將此地巣雲松。

 廬山の五老峰を望む

廬山東南五老峯、
青天削り出だす金芙蓉。
九江の秀色を攬結らんけつす可き、
われの地を將って雲松に巣すくはん。

 山亭夏日 高駢

綠樹陰濃夏日長、
樓臺倒影入池塘。
水精簾動微風起、
一架薔薇滿院香。



綠樹陰かげこまやかにして夏日長く、
樓臺ろうだい影を倒さかしまにして池塘に入る。
水精すゐしゃうの簾れん動きて微風起こり、
一架の薔薇しゃうび滿院香かんばし。

 秋思 張籍

洛陽城裏見秋風、
欲作家書意萬重。
復恐匆匆説不盡、
行人臨發又開封。

 秋の思い

洛陽城裏秋風を見る、
家書を作らんと欲して意 萬重ばんちょう
た恐る匆匆そうそうとして説きて盡くせざるを、
行人發つに臨のぞみて又封を開く。

 題嘉陵驛 武元衡

悠悠風旆繞山川、
山驛空濛雨作煙。
路半嘉陵頭已白、
蜀門西更上靑天。

  嘉陵驛かりょうえきに題す

悠悠たる風旆ふうはい山川を繞めぐり、
山驛空濛くうもうとして雨煙と作る。
路嘉陵かりょうに半ばして頭かうべすでに白く、
蜀門西のかた更に青天に上のぼらん。

 江行無題
錢起
咫尺愁風雨、
匡廬不可登。
祗疑雲霧窟、
猶有六朝僧。




咫尺しせき風雨を愁ひ、
匡廬きゃうろ登る可べからず。
ただ疑ふ雲霧の窟くつ
なほ六朝りくてうの僧有らんかと。


 恨別 杜甫

洛城一別四千里、
胡騎長驅五六年。
草木變衰行劍外、
兵戈阻絶老江邊。
思家歩月淸宵立、
憶弟看雲白日眠。
聞道河陽近乘勝、
司徒急爲破幽燕。

 別れを恨む

洛城らくじゃう一別四千里、
胡騎こき長驅ちゃうくす五六年。
草木變衰へんすゐして劍外けんがいに行き、
兵戈へいくゎ阻絶そぜつして江邊かうへんに老ゆ。
家を思ひ月に歩して清宵せいせうに立ち、
弟を憶おもひ雲を看て白日に眠る。
聞道きくならく河陽近ごろ勝かちに乘ずと、
司徒しとよ急に爲ために幽燕いうえんを破れ。

 望天門山 李白

天門中斷楚江開、
碧水東流至北廻。
兩岸靑山相對出、
孤帆一片日邊來。


 天門山を望む

天門中なかえて楚江そかう開き、
碧水へきすゐ東に流れて北に至りて廻めぐる。
兩岸の青山相あひ對して出で、
孤帆こはん一片日邊にっぺんより來る。


 清平調
三首之三 李白
名花傾國兩相歡、
長得君王帶笑看。
解釋春風無限恨、
沈香亭北倚闌干。



名花傾國けいこくふたつながら相あひよろこび、
とこしへに君王の笑ひを帶びて看ることを得たり。
春風無限の恨うらみを解釋して、
沈香亭ぢんかうてい北闌干らんかんに倚よる。

 長安道
儲光羲
鳴鞭過酒肆、
袨服遊倡門。
百萬一時盡、
含情無片言。



鞭を鳴らして酒肆しゅしに過よぎり、
袨服げんふくして倡門しゃうもんに遊ぶ。
百萬一時いちじに盡くるも、
情を含みて片言へんげん無し。

春日茶山病不飮酒因呈賓客 杜牧
 春日しゅんじつの茶山病やまひにて酒を飲めず 因よって賓客ひんかくに呈す
笙歌登畫船、
十日淸明前。
山秀白雲膩、
溪光紅粉鮮。
欲開未開花、
半陰半晴天。
誰知病太守、
猶得作茶仙。

笙歌しゃうか畫船ぐゎせんに登り、
十日淸明せいめいの前。
山は秀いでて白雲膩つややかに、
たには光りて紅粉こうふん鮮かなり。
ひらかんと欲ほっして未いまだひらかれざる花、
なかば陰くもりて半なかば晴れたる天。
たれか知る病びゃう太守、
なほも茶仙と作なるを得たるべし。



答武陵田太守
王昌齡
仗劍行千里、
微躯感一言。
曾爲大梁客、
不負信陵恩。





 武陵の田太守に答ふ

劍に仗よりて千里を行き、
微軀びく一言いちげんに感ず。
かつて大梁たいりゃうの客かくと爲りたれば、
信陵の恩に負そむかず。

 杭州春望 白居易

望海樓明照曙霞、
護江堤白蹋晴沙。
濤聲夜入伍員廟、
柳色春藏蘇小家。
紅袖織綾誇柿蒂、
青旗沽酒趁梨花。
誰開湖寺西南路、
草綠裙腰一道斜。

 杭州の春望

望海樓ばうかいろう明らかにして曙霞しょかを照らし、
護江ごかうつつみ白くして晴沙せいさを蹋ふむ
濤聲たうせい夜入る伍員ごうんの廟べう
柳色りうしょく春藏ざうす蘇小そせうの家。
紅袖こうしうあやを織りて柿蒂したいを誇り、
青旗酒を沽かひて梨くゎを趁ふ。
たれか開く湖寺こじ西南の路みち
草は綠に裙腰くんえう一道いちだう斜めなり。

 歳日 元稹

一日今年始、
一年前事空。
淒涼百年事、
應與一年同。



一日今年始まり、
一年前事空し。
凄涼せいりゃうたり百年の事、
まさに一年と同じなるべし。

 麗人行 杜甫

三月三日天氣新、
長安水邊多麗人。
態濃意遠淑且真、
肌理細膩骨肉勻。
繍羅衣裳照暮春、
蹙金孔雀銀麒麟。
頭上何所有、
翠爲㔩葉垂鬢脣。
背後何所見、
珠壓腰衱穩稱身。
就中雲幕椒房親、
賜名大國虢與秦。
紫駝之峰出翠釜、
水精之盤行素鱗。
犀箸厭飫久未下、
鸞刀縷切空紛綸。
黄門飛鞚不動塵、
御廚絡繹送八珍。
簫管哀吟感鬼神、
賓從雜遝實要津。
後來鞍馬何逡巡、
當軒下馬入錦茵。
楊花雪落覆白蘋、
靑鳥飛去銜紅巾。
炙手可熱勢絶倫、
慎莫近前丞相嗔。



三月三日天氣新たに、
長安の水邊麗人多し。
態は濃く意は遠くして淑且つ真に、
肌理きりは細膩さいぢにして骨肉は勻ひとし。
繍羅しうらの衣裳は暮春に照ゆる、
蹙金しゅくきんの孔雀くじゃく銀の麒麟きりん
頭上何の有る所ぞ、
すゐを㔩葉あふえふと爲して鬢びんしんに垂たる。
背後何の見る所ぞ、
珠は腰衱えうけふを壓して穩やかに身に稱かなふ。
就中なかんづく雲幕の椒房せうばうの親しん
名を賜ふ大國虢くゎくと秦しんと。
紫駝しだの峰を翠釜すゐふより出だし、
水精すゐしゃうの盤に素鱗そりんばる。
犀箸さいちょ厭飫えんよして久しく未だ下さず、
鸞刀らんたう縷切るせつして空しく紛綸ふんりんたり。
黄門鞚くつわを飛ばして塵を動かさず、
御廚ぎょちゅう絡繹らくえきとして八珍を送る。
簫管せうくゎん哀吟して鬼神をも感ぜしめ、
賓從ひんじゅう雜遝ざったふして要津えうしんに實つ。
後れ來たる鞍馬あんばは何ぞ逡巡しゅんじゅんする、
のきに當たりて馬より下りて錦茵きんいんに入る。
楊花やうくゎ雪のごとく落ちて白蘋はくひんを覆おほひ、
靑鳥飛び去りて紅巾こうきんを銜ふくむ。
手を炙あぶらば熱す可べし勢は絶倫なり、
つつしみて近前する莫れ丞相じょうしゃういからん。

 逢入京使 岑參

故園東望路漫漫、
雙袖龍鐘涙不乾。
馬上相逢無紙筆、
憑君傳語報平安。

 京けいに入る使つかひに逢

故園東に望めば路みち漫漫まんまん
雙袖さうしう龍鐘りょうしょう涙乾はかず。
馬上相あひひて紙筆しひつ無く、
君に憑りて傳語して平安を報ぜん。

塞上聞吹笛 高適

雪淨胡天牧馬還、
月明羌笛戍樓閒。
借問梅花何處落、
風吹一夜滿關山。


 塞上にて吹笛を聞く

雪淨きよく胡天こてん牧馬ぼくばかへれば、
月明るく羌笛きゃうてき戍樓じゅろうに閒あひだす。
借問しゃもんす梅花何いづれの處よりか落つる、
風吹きて一夜いちや關山くゎんざんに滿つ。


 關山月
戴叔倫
月出照關山、
秋風人未還。
淸光無遠近、
鄕涙半書間。




月出でて關山くゎんざんを照らし、
秋風人未だ還かへらず。
淸光せいくゎう遠近無く、
鄕涙きゃうるゐ半ば書けるの間。


戲爲六絶句其二
杜甫
楊王盧駱當時體、
輕薄爲文哂未休。
爾曹身與名倶滅、
不廢江河萬古流。

戲れに六絶句を爲す

わうやうらくは當時の體、
輕薄文を爲して哂わらひ未いまだ休まず。
爾曹じさう身と名と倶ともに滅ぶも、
すたれざる江河萬古に流る。

 春江花月夜
張若虚
春江潮水連海平、
海上明月共潮生。
灩灩隨波千萬里、
何處春江無月明。
江流宛轉遶芳甸、
月照花林皆似霰。
空裏流霜不覺飛、
汀上白沙看不見。
江天一色無纖塵、
皎皎空中孤月輪。
江畔何人初見月、
江月何年初照人。
人生代代無窮已、
江月年年祗相似。
不知江月待何人、
但見長江送流水。
白雲一片去悠悠、
青楓浦上不勝愁。
誰家今夜扁舟子、
何處相思明月樓。
可憐樓上月裴回、
應照離人妝鏡臺。
玉戸簾中卷不去、
擣衣砧上拂還來。
此時相望不相聞、
願逐月華流照君。
鴻雁長飛光不度、
魚龍潛躍水成文。
昨夜閒潭夢落花、
可憐春半不還家。
江水流春去欲盡、
江潭落月復西斜。
斜月沈沈藏海霧、
碣石瀟湘無限路。
不知乘月幾人歸、
落月搖情滿江樹。



春江の潮水海に連つらなりて平たひらかに、
海上の明月潮うしほと共に生ず。
灩灩えんえん波に隨したがひて千萬里せんばんり
何處いづこの春江か月明げつめい無からん。
江流かうりう宛轉ゑんてんとして芳甸はうでんを遶めぐり、
月は花林を照らして皆霰あられに似たり。
空裏くうりの流霜りうさう飛ぶを覺えず、
汀上ていじゃうの白沙はくされども見えず。
江天かうてん一色纖塵せんぢん無く、
皎皎けうけうたる空中月輪孤なり。
江畔かうはんいづれの人か初めて月を見、
江月かうげついづれの年か初めて人を照らしし。
人生代代だいだいきはまりて已やむこと無く、
江月年年相あひるを望のぞむ。
知らず江月何人なんぴとをか待ち、
ただ見る長江流水を送るを。
白雲一片去りて悠悠いういう
青楓せいふう浦上ほじゃううれひに勝へず。
誰家たれぞ今夜扁舟へんしうの子
何處いづこの相思さうしか明月の樓。
憐む可し樓上に月裴回はいくゎいし、
まさに離人りじんを照らして鏡臺に妝よそほふべし。
玉戸ぎょくこ簾中れんちゅう卷けども去らず、
擣衣たういの砧上ちんじゃうはらへども還また來たる。
此の時相あひ望めども相あひ聞こえず、
願はくは月華を逐おひて流れて君を照らさん。
鴻雁こうがん長く飛びて光度わたらず、
魚龍ぎょりょうひそみ躍をどりて水文もんを成す。
昨夜閒潭かんたんに落花を夢み、
憐む可し春半ばにして家に還かへらず。
江水春を流して去り盡つきんと欲ほっし、
江潭かうたんの落月復また西に斜く。
斜月しゃげつ沈沈ちんちんとして海霧かいむに藏かくれ、
碣石けっせき瀟湘せうしゃう無限の路。
知らず月に乘じて幾人いくにんか歸る、
落月情を搖ゆるがして江樹に滿つ。

 古從軍行 李頎

白日登山望烽火、
黄昏飮馬傍交河。
行人刁斗風沙暗、
公主琵琶幽怨多。
野雲萬里無城郭、
雨雪紛紛連大漠。
胡雁哀鳴夜夜飛、
胡兒眼涙雙雙落。
聞道玉門猶被遮、
應將性命逐輕車。
年年戰骨埋荒外、
空見蒲桃入漢家。




白日山に登りて烽火ほうくゎを望み、
黄昏くゎうこん馬に飮みづかふ交河かうがの傍ほとり
行人かうじんの刁斗てうと風沙ふうさ暗く、
公主の琵琶びは幽怨いうゑん多し。
野雲やうん萬里ばんり城郭じゃうくゎく無く、
雨雪うせつ紛紛ふんぷんとして大漠たいばくに連なる。
胡雁こがん哀鳴あいめいして夜夜よよ飛び、
胡兒こじの眼涙がんるい雙雙さうさう落つ。
聞道きくならく玉門猶なほさへぎらると、
まさに性命せいめいを將もって輕車を逐おふべし。
年年戰骨荒外くゎうがいに埋うづめ、
空しく蒲桃ぶだうを見て漢家に入る。


走馬川行奉送出師西征 岑參君
 走馬川行出師の西征を送り奉る

 燕歌行 高適

漢家煙塵在東北、
漢將辭家破殘賊。
男兒本自重橫行、
天子非常賜顏色。
摐金伐鼓下楡關、
旌旆逶迤碣石間。
校尉羽書飛瀚海、
單于獵火照狼山。
山川蕭條極邊土、
胡騎憑陵雜風雨。
戰士軍前半死生、
美人帳下猶歌舞。
大漠窮秋塞草腓、
孤城落日鬥兵稀。
身當恩遇恆輕敵、
力盡關山未解圍。
鐵衣遠戍辛勤久、
玉箸應啼別離後。
少婦城南欲斷腸、
征人薊北空回首。
邊庭飄飄那可度、
絶域蒼茫更何有。
殺氣三時作陣雲、
寒聲一夜傳刁斗。
相看白刃血紛紛、
死節從來豈顧勳。
君不見
沙場征戰苦、
至今猶憶李將軍。




漢家の煙塵えんぢん東北に在り、
漢將家を辭して殘賊ざんぞくを破らん。
男兒本もとより橫行を重んじ、
天子常に非ざる顏色を賜たまふ。
金を摐ち鼓を伐ちて楡關ゆくゎんに下り、
旌旗せいき逶迤ゐいたり碣石けっせきの間かん
校尉かうゐの羽書うしょは瀚海かんかいに飛び、
單于ぜんうの獵火れふくゎは狼山らうざんを照らす。
山川蕭條せうでうとして邊土を極め、
胡騎こき憑凌ひょうりょう風雨雜まず。
戰士軍前に死生を半なかばし、
美人帳下に猶なほ歌舞す。
大漠たいばくの窮秋きゅうしう塞草さいさうみ、
孤城落日に鬥兵とうへい稀まれなり。
身は恩遇おんぐうに當たりて恆つねに敵を輕かろんじ、
力は關山に盡きて未だ圍かこひを解かず。
鐵衣てつい遠く戍まもりて辛勤久しく、
玉箸ぎょくちゃくまさに啼なくべし別離の後。
少婦城南に腸はらわたを斷たたんと欲し、
征人薊北けいほくに空しく首かうべを回めぐらす。
邊庭は飄飄へうへうとして那んぞ度わたる可き、
絶域は蒼茫さうばうとして更に何か有る。
殺氣三時に陣雲ぢんうんを作り、
寒聲一夜に刁斗てうとを傳ふ。
白刃はくじんを相あひ看て血紛紛ふんぷんたり、
死節は從來豈あにいさをを 顧かへりみんや。
君見ずや
沙場さぢゃうに征戰苦しく、
今に至るも猶なほも憶おもふ李將軍を。

不見
走馬川行雪海邊、
平沙莽莽黄入天。
輪臺九月風夜吼、
一川碎石大如斗、
隨風滿地石亂走。
匈奴草黄馬正肥、
金山西見煙塵飛、
漢家大將西出師。
將軍金甲夜不脱、
半夜軍行戈相撥、
風頭如刀面如割。
馬毛帶雪汗氣蒸、
五花連錢旋作冰、
幕中草檄硯水凝。
虜騎聞之應膽懾、
料知短兵不敢接、
車師西門佇獻捷。

君見ずや
走馬川行雪海の邊、
平沙莽莽ばうばうとして黄天に入る。
輪臺九月風夜に吼え、
一川の碎石大なること斗ますの如く、
風に隨したがひて滿地石亂れ走る。
匈奴草黄にして馬正に肥こえ
金山西に見る煙塵えんぢんの飛ぶを、
漢家の大將西のかた師すゐを出いだす。
將軍金甲夜も脱がず、
半夜軍行して戈ほこあひはね
風頭は刀の如く面は割さかるるが如し。
馬毛雪を帶びて汗氣蒸むし
五花連錢旋たちまち冰こほりと作なり、
幕中檄げきを草さうすれば硯水けんすゐる。
虜騎之これを聞かば應まさに膽きも懾おそるべく、
はかり知る短兵は敢ては接せざるを、
車師西門に捷せふを獻ずるを佇まつ


白雪歌 送武判官歸京 岑參
 白雪歌 武判官の歸京するを送る
北風捲地白草折、
胡天八月即飛雪。
忽然一夜春風來、
千樹萬樹梨花開。
散入珠簾濕羅幕、
孤裘不煖錦衾薄。
將軍角弓不得控、
都護鐵衣冷難著。
瀚海闌干百丈冰、
愁雲黲淡萬里凝。
中軍置酒飮歸客、
胡琴琵琶與羌笛。
紛紛暮雪下轅門、
風掣紅旗凍不翻。
輪臺東門送君去、
去時雪滿天山路。
山迴路轉不見君、
雪上空留馬行處。

北風地を捲き白草折れ、
胡天の八月即すなはち雪を飛ばす。
忽如こつじょとして一夜春風来たりて、
千樹萬樹梨花開く。
散じて珠簾しゅれんに入り羅幕を濕うるほし、
狐裘こきうあたたかならず錦衾薄し。
將軍角弓控ひくを得ず、
都護鐵衣冷たきを猶なほ着る。
瀚海闌干たり百丈の冰つらら
愁雲黲淡さんたんとして萬里凝ほる。
中軍置酒ちしゅして帰客に飲ましめ、
胡琴こきんと琵琶びはと羌笛きゃうてきと。
紛紛たる暮雪轅門ゑんもんに下り、
風は紅旗を掣けども凍りて翻ひるがへらず。
輪臺りんだいの東門に君の去るを送れば、
去る時雪は滿つ天山の路。
山迴めぐり路轉じて君見えず、
雪上空しく留む馬行きし處を。


雁門胡人歌 崔顥

高山代郡東接燕、
雁門胡人家近邊。
解放胡鷹逐塞鳥、
能將代馬獵秋田。
山頭野火寒多燒、
雨裏孤峰濕作煙。
聞道遼西無鬥戰、
時時醉向酒家眠。

   雁門胡人の歌

高山かうざんの代郡だいぐんは東のかた燕えんに接し、
雁門がんもんの胡人家邊に近し。
胡鷹こようを解放して塞鳥さいてうを逐ひ、
く代馬だいばを將もって秋田に獵す。
山頭の野火やくゎ寒くして燒くこと多く、
雨裏の孤峰濕しめりて煙かすみと作る。
聞道きくならく遼西れうせいに鬥戰とうせん無く、
時時じじゑひて酒家しゅかに向いて眠る。

 使至塞上
王維
單車欲問邊、
屬國過居延。
征蓬出漢塞、
歸雁入胡天。
大漠孤煙直、
長河落日圓。
蕭關逢候騎、
都護在燕然。


 使して塞上に至る

單車邊へんを問はんと欲ほっし、
屬國居延きょえんを過ぐ。
征蓬せいほう漢塞かんさいを出で、
歸雁きがん胡天こてんに入る。
大漠たいばく孤煙直なほく、
長河落日圓まどかなり。
蕭關せうくゎん候騎こうきに逢へば、
都護燕然えんぜんに在りと。


留別王侍御維
孟浩然
寂寂竟何待、
朝朝空自歸。
欲尋芳草去、
惜與故人違。
當路誰相假、
知音世所稀。
祗應守索寞、
還掩故園扉。


 王侍御維に留別す

寂寂せきせきつひに何をか待たん、
朝朝てうてう空しく自みづから歸る。
芳草はうさうを尋たづねんと欲ほっして去り、
をしむらくは故人と違たがふ。
當路たうろたれか相あひかりん、
知音ちいん世に稀まれなる所。
ただまさに索寞さくばくを守り、
また故園の扉を掩おほふべし。


望洞庭湖贈張丞相 
孟浩然
八月湖水平、
涵虚混太淸。
氣蒸雲夢澤、
波撼岳陽城。
欲濟無舟楫、
端居恥聖明。
坐觀垂釣者、
徒有羨魚情。


 洞庭湖を望み張丞相に贈る

八月湖水平らかに、
きょを涵ひたして太淸たいせいに混ず。
氣は蒸むす雲夢うんぼうたく
波は撼ゆるがす岳陽がくやう城。
わたらんと欲するに舟楫しうしふ無く、
端居して聖明せいめいに恥づ。
坐して釣を垂る者を觀みるに、
いたづらに魚うをを羨うらやむの情有り。