題袁氏別業
賀知章
主人不相識、
偶坐爲林泉。
莫謾愁沽酒、
囊中自有錢。

 袁氏の別業に題す

主人相ひ識らず、
偶坐林泉の爲なり。
まんに酒を沽ふを愁ふること莫かれ、
囊中なうちゅう自ら錢有り。

 回郷偶書 賀知章

離別家鄕歳月多、
近來人事半消磨。
唯有門前鏡湖水、
春風不改舊時波。

 回郷偶書

家鄕かきゃうを離別りべつして歳月多く、
近來きんらい人事じんじに半なかば消磨せうます。
だ有り門前鏡湖きゃうこの水すゐ
春風しゅんぷうあらためず舊時きうじの波を。

 石頭城 劉禹錫

山圍故國週遭在、
潮打空城寂寞回。
淮水東邊舊時月、
夜深還過女牆來。



山は故國を圍みて週遭しうさうとして在り、
潮は空城を打ちて寂寞として回めぐる。
淮水わいすゐの東邊舊時の月、
夜深くして還た女牆を過ぎて來きたる。

 送兄
七歳女子
別路雲初起、
離亭葉正飛。
所嗟人雁異、
不作一行歸。

 兄を送る

別路雲初めて起こり、
離亭葉正に飛ぶ。
なげく所は人雁と異なり、
一行に歸るを作さず。

 送靈澈
劉長卿
蒼蒼竹林寺、
杳杳鐘聲晩。
荷笠帶斜陽、
青山獨歸遠。

 靈澈れいてつを送る

蒼蒼さうさうたり竹林の寺、
杳杳えうえうとして鐘聲晩おそし。
笠を荷になひ斜陽を帶び、
青山獨ひとり歸ること遠し。

 南樓望
盧僎
去國三巴遠、
登樓萬里春。
傷心江上客、
不是故鄕人。

 南樓の望

國を去りて三巴さんば遠く、
樓に登れば萬里春なり。
心を傷いたましむ江上の客、
れ故鄕の人にあらず。

 峨眉山月歌
李白
峨眉山月半輪秋、
影入平羌江水流。
夜發清溪向三峽、
思君不見下渝州。

 峨眉山月の歌

峨眉山月半輪の秋、
影は平羌江水に入りて流る。
夜清溪を發して三峽に向ひ、
君を思へども見ず渝州に下る。

贈韋侍御黄裳
李白
太華生長松、
亭亭凌霜雪。
天與百尺高、
豈爲微飆折。
桃李賣陽艷、
路人行且迷。
春光掃地盡、
碧葉成黄泥。
願君學長松、
慎勿作桃李。
受屈不改心、
然後知君子。

 韋侍御黄裳に贈る

太華に長松生じ、
亭亭として霜雪を凌しのぐ。
天百尺ひゃくせきの高さを與ふるも、
に微飆びべうの爲に折れんや。
桃李陽艷を賣り、
路人行きて且まさに迷はんとす。
春光地を掃き盡くさば、
碧葉黄泥と成る。
願はくは君長松に學びて、
つつしみて桃李と作る勿なかれ。
屈を受くれども心を改めず、
しかる後に君子なるを知る。

 張好好詩
杜牧
君爲豫章姝、
十三纔有餘。
翠茁鳳生尾、
丹葉蓮含跗。
高閣倚天半、
章江聯碧虚。
此地試君唱、
特使華筵鋪。
主公顧四座、
始訝來踟蹰。
呉娃起引贊、
低徊映長裾。
雙鬟可高下、
纔過青羅襦。
盼盼乍垂袖、
一聲雛鳳呼。
繁弦迸關紐、
塞管裂圓蘆。
衆音不能逐、
裊裊穿雲衢。
主公再三嘆、
謂言天下殊。
贈之天馬錦、
副以水犀梳。
龍沙看秋浪、
明月遊東湖。
自此毎相見、
三日已爲疏。
玉質隨月滿、
艷態逐春舒。
絳唇漸輕巧、
雲歩轉虚徐。
旌旆忽東下、
笙歌隨舳艫。
霜凋謝樓樹、
沙暖句溪蒲。
身外任塵土、
樽前極歡娯。
飄然集仙客、
諷賦欺相如。
聘之碧瑤佩、
載以紫雲車。
洞閉水聲遠、
月高蟾影孤。
爾來未幾歳、
散盡高陽徒。
洛城重相見、
綽綽爲當壚。
怪我苦何事、
少年垂白鬚。
朋遊今在否、
落拓更能無。
門館慟哭後、
水雲秋景初。
斜日挂衰柳、
涼風生座隅。
灑盡滿襟涙、
短歌聊一書。

 張好好の詩

君は豫章の姝しゅりて、
十三纔わづかに餘り有り。
翠は茁めざし鳳は尾を生じ、
丹葉は蓮跗を含む。
高閣天半に倚り、
章江碧虚に聯つらなる。
此の地君の唱うたふを試こころみ、
特に華筵を鋪か使む。
主公四座を顧かへりみ、
始めて訝むかふるに來きたること踟蹰ちちうたり。
呉娃贊を起引して、
低徊長裾に映ず。
雙鬟可し高下するも、
わづかに青き羅襦を過ぐるのみ。
盼盼はんぱん袖を垂らし乍ながら、
一聲雛鳳呼ぶ。
繁弦關紐迸ほとばしり、
塞管圓蘆を裂く。
衆音逐ふ能あたはず、
裊裊でうでうとして雲衢うんくを穿うがつ。
主公再三嘆じ、
謂ひて言はく天下の殊なりと。
これに贈る天馬の錦、
ふるに以てす水犀の梳くし
龍沙に秋浪を看て、
明月に東湖に遊ぶ。
れ自り毎つねに相ひ見まみゆ、
三日已すでに疏と爲す。
玉質月に隨ひて滿ち、
艷態春を逐ひて舒ぶ。
絳唇漸やうやく輕巧にして、
雲歩轉うたた虚徐なり。
旌旆せいはいたちまち東下し、
笙歌舳艫ぢくろに隨ふ。
霜は凋しぼます謝樓の樹、
沙は暖かなり句溪の蒲。
身外塵土に任まかせ、
樽前歡娯を極きはむ。
飄然たり集仙の客、
諷賦は相如を欺く。
之を聘へいするに碧瑤の佩、
載するに以て紫雲の車。
洞は閉して水聲遠く、
月は高くして蟾影孤なり。
爾來未だ幾歳ならずして、
散じ盡くす高陽の徒。
洛城に重ねて相ひ見まみゆれば、
綽綽しゃくしゃくとして當壚と爲る。
我を怪とがめよ何事にか苦しみ、
少年白鬚に垂なんなんとす。
朋遊びて今在りや否や、
落拓更に能無し。
門館慟哭の後、
水雲秋景の初め。
斜日衰柳に挂かり、
涼風座隅に生ず。
そそぎ盡くして襟に涙滿つ、
短歌もて聊いささかか一書とせん。

 少年行 李白

五陵年少金市東、
銀鞍白馬度春風。
落花踏盡遊何處、
笑入胡姫酒肆中。



五陵の年少金市の東、
銀鞍白馬春風を度わたる。
落花踏み盡つくして何處いづこにか遊ぶ、
笑ひて入る胡姫の酒肆しゅしの中に。

春日醉起言志
李白
處世若大夢、
胡爲勞其生。
所以終日醉、
頽然臥前楹。
覺來盼庭前、
一鳥花間鳴。
借問此何時、
春風語流鶯。
感之欲歎息、
對酒還自傾。
浩歌待明月、
曲盡已忘情。

 春日醉ひより起きて志を言ふ

世に處るは大夢の若ごとく、
胡爲なんすれぞ其の生を勞する。
所以ゆゑに終日醉ひ、
頽然として前楹に臥す。
覺め來りて庭前を盼ながむれば、
一鳥花間に鳴く。
借問す此れ何いづれの時ぞ、
春風に流鶯語る。
これに感じて歎息せんと欲し、
酒に對して還た自ら傾く。
浩歌して明月を待つに、
曲盡きて已すでに情を忘る。

 春思 李白

燕草如碧絲、
秦桑低綠枝。
當君懷歸日、
是妾斷腸時。
春風不相識、
何事入羅幃。



燕草は碧絲の如く、
秦桑は綠枝を低る。
君の歸るを懷おもふ日に當るは、
れ妾せふが斷腸の時。
春風相ひ識らず、
何事ぞ羅幃らゐに入る。

 兵車行 杜甫

車轔轔、馬蕭蕭、
行人弓箭各在腰。
耶孃妻子走相送、
塵埃不見咸陽橋。
牽衣頓足闌道哭、
哭聲直上干雲霄。
道旁過者問行人、
行人但云點行頻。
或從十五北防河、
便至四十西營田。
去時里正與裹頭、
歸來頭白還戍邊。
邊庭流血成海水、
武皇開邊意未已。
君不聞漢家
山東二百州、
千邨萬落生荊杞。
縱有健婦把鋤犁、
禾生隴畝無東西。
況復秦兵耐苦戰、
被驅不異犬與鷄。
長者雖有問、
役夫敢申恨。
且如今年冬、
未休關西卒。
縣官急索租、
租税從何出。
信知生男惡、
反是生女好。
生女猶得嫁比鄰、
生男埋沒隨百草。
君不見青海頭、
古來白骨無人收。
新鬼煩冤舊鬼哭、
天陰雨濕聲啾啾。



車轔轔りんりん、馬蕭蕭せうせう
行人の弓箭きゅうせん各ゝをのをの腰に在り。
耶孃やぢゃう妻子走りて相ひ送り、
塵埃ぢんあいに見えず咸陽橋かんやうけう
衣を牽き足を頓し道を闌さへぎりて哭し、
哭聲直上して雲霄うんせうを干をかす。
道旁の過ぐる者行人に問へば、
行人但だ云ふ點行頻しきりなりと。
あるひは十五從り北のかた河に防ぎ、
便すなはち四十に至るも西のかた田を營む。
去る時里正與ために頭を裹つつみ、
歸り來れば頭白くして還た邊を戍まもる。
邊庭の流血海水を成せど、
武皇邊を開く意は未だ已まず。
君聞かずや漢家
山東の二百州、
千村萬落荊杞けいきを生ずるを。
たとひ健婦の鋤犁じょりを把る有りとも、
いねは隴畝ろうほに生じて東西とうざい無し。
いはんや復た秦兵は苦戰に耐ふとて、
驅らるること犬と鷄とに異らず。
長者問ふ有りと雖いへども、
役夫えきふあへて恨みを申べんや。
且つ今年の冬の如きは、
未だ關西くゎんせいの卒を休めざるに。
縣官急に租を索もとめ、
租税何いづくより出ださん。
まことに知る男を生むは惡しく、
反って是れ女を生むは好きを。
女を生まば猶ほ比鄰に嫁するを得るも、
男を生まば埋沒して百草に隨したがふ。
君見ずや青海の頭ほとり
古來白骨人の收むる無く。
新鬼煩冤はんゑんし舊鬼哭し、
天陰くもり雨濕るとき聲啾啾しうしうたるを。

 石壕吏
杜甫
暮投石壕邨、
有吏夜捉人。
老翁逾墻走、
老婦出門看。
吏呼一何怒、
婦啼一何苦。
聽婦前致詞、
三男鄴城戍。
一男附書至、
二男新戰死。
存者且偸生、
死者長已矣。
室中更無人、
惟有乳下孫。
有孫母未去、
出入無完裙。
老嫗力雖衰、
請從吏夜歸。
急應河陽役、
猶得備晨炊。
夜久語聲絶、
如聞泣幽咽。
天明登前途、
獨與老翁別。

 石壕の吏

くれに石壕村せきがうそんに投ず、
吏有りて夜人を捉とらふ。
老翁墻かきを逾えて走げ、
老婦門を出でて看る。
吏の呼ぶこと一いつに何なんぞ怒いかれる、
婦の啼くこと一いつに何なんぞ苦はなはだしき。
婦の前すすみて詞を致すを聽くに:
「三男さんだん鄴城げふじゃうに戍まもる。
一男いちだん書を附して至るに:
『二男にだんは新たに戰死す』と。
存する者は且しばらく生を偸ぬすむも、
死者は長とこしなへに已矣やんぬ
室中更に人無く、
だ乳下の孫有るのみ。
孫有れば母未だ去らざるも、
出入に完裙無し。
老嫗力衰おとろふと雖いへども、
ふ吏に從ひて夜歸せんことを。
急に河陽かやうの役えきに應ぜば、
ほ晨炊しんすゐに備ふるを得ん。」と
夜久しくして語聲絶え、
泣きて幽咽いうえつするを聞くが如し。
天明前途に登らんとして、
ひとり老翁と別る。

 秋居書懷
白居易
門前少賓客、
階下多松竹。
秋景下西墻、
涼風入東屋。
有琴慵不弄、
有書閑不讀。
盡日方寸中、
澹然無所欲。
何須廣居處、
不用多積蓄。
丈室可容身、
斗儲可充腹。
況無治道術、
座受官家祿。
不植一株桑、
不鋤一壟穀。
終朝飽飯飡、
卒歳豐衣服。
持此知愧心、
自然易爲足。

 秋居懷を書す

門前賓客少まれに、
階下松竹多し。
秋景しうけい西墻せいしゃうに下くだり、
涼風東屋に入る。
琴有るも慵ものうくして弄せず、
書有るも閑にして讀まず。
盡日方寸はうすんの中、
澹然たんぜんとして欲する所無し。
何ぞ廣き居處を須もちゐん、
多く積蓄するを用ゐず。
丈室身を容る可く、
斗儲とちょ腹を充たす可し。
いはんや治道ちだうの術無く、
座して官家の祿を受くるをや。
一株しゅの桑を植ゑず、
一壟りょうの穀を鋤かず。
終朝飯飡はんさいに飽き、
卒歳衣服に豐かなり。
此れを持して愧心を知らば、
自然に足るを爲し易やすし。

 詠懷古跡 杜甫

羣山萬壑赴荊門、
生長明妃尚有邨。
一去紫臺連朔漠、
獨留青冢向黄昏。
畫圖省識春風面、
環珮空歸月夜魂。
千載琵琶作胡語、
分明怨恨曲中論。

 古跡を詠懷す

群山萬壑ばんがく荊門けいもんに赴おもむく、
明妃生長し尚ほ村有り。
一たび紫臺を去れば朔漠に連り、
獨り青冢せいちょうを留めて黄昏に向かふ。
畫圖省識しゃうしきさる春風の面を、
環珮くゎんぱいむなしく歸る月夜の魂。
千載琵琶胡語を作し、
分明に怨恨を曲中に論ず。

  晩秋閒居
白居易
地僻門深少送迎、
披衣閒坐養幽情。
秋庭不掃攜藤杖、
閒蹋梧桐黄葉行。

 晩秋の閑居

(かたよ)り門深くして送迎(まれ)に、
衣を(はお)り閒坐して幽情を養ふ。
秋庭(はら)はず藤杖を(たづさ)へ、
(しづ)かに梧桐の黄葉を()みて行く。

送杜十四之江南
孟浩然
荊呉相接水爲鄕、
君去春江正淼茫。
日暮弧舟何處泊、
天涯一望斷人膓。

 杜十四の江南に之くを送る

荊呉けいご相ひ接して水鄕と爲す、
君去りて春江正に淼茫べうばう
日暮弧舟何いづれの處にか泊する、
天涯一望人の膓はらわたを斷つ。

 秋日 耿湋

返照入閭巷、
憂來誰共語。
古道少人行、
秋風動禾黍。



返照へんせう閭巷りょかうに入り、
憂へ來って誰たれと共にか語らん。
古道人の行くこと少まれに、
秋風禾黍くゎしょを動かす。

尋隱者不遇
賈島
松下問童子、
言師採藥去。
只在此山中、
雲深不知處。

 隱者を尋ねて遇はず

松下童子に問へば、
師は藥を採りに去ると言ふ。
だ此の山中に在らんも、
雲深くして處を知らず。


岳陽樓重宴別王八員外貶長沙 賈至
 岳陽樓に重ねて王八員外の長沙に貶せらるるを宴別す
江路東連千里潮、
青雲北望紫微遙。
莫道巴陵湖水闊、
長沙南畔更蕭條。
江路東に連つらなる千里の潮うしほ
青雲北に望めば紫微しび遙かなり。
ふ莫なかれ巴陵はりょう湖水闊ひろしと、
長沙の南畔更に蕭條せうでうたらん。

效陶潛體詩
白居易
不動者厚地、
不息者高天。
無窮者日月、
長在者山川。
松柏與龜鶴、
其壽皆千年。
嗟嗟羣物中、
而人獨不然。
早出向朝市、
暮已歸下泉。
形質及壽命、
危脆若浮煙。
堯舜與周孔、
古來稱聖賢。
借問今何在、
一去亦不還。
我無不死藥、
萬萬隨化遷。
所未定知者、
修短遲速間。
幸及身健日、
當歌一尊前。
何必待人勸、
持此自爲歡。

 陶潛の體に效ふ詩

動かざる者は厚地、
まざる者は高天。
無窮なる者は日月、
とこしへに在る者は山川。
松柏と龜鶴と、
其の壽よはひな千年。
嗟嗟ああ群物の中、
而も人のみ獨ひとり然しからず。
早に朝市を出で、
暮には已に下泉に歸す。
形質及び壽命は、
危脆なること浮煙の若ごとし。
堯舜と周孔と、
古來聖賢と稱す。
借問す今何いづくにか在る、
一たび去りて亦た還かへらず。
我に不死の藥無く、
萬萬化遷に隨ふ。
未だ定かに知らざる所の者は、
修短遲速の間。
幸ひに身の健かなる日に及びて、
まさに一尊の前に歌ふべし。
何ぞ必ずしも人の勸めるを待たん、
此れを持して自ら歡しみを爲さん。

病中哭金鑾子
白居易
豈料吾方病、
翻悲汝不全。
臥驚從枕上、
扶哭就燈前。
有女誠爲累、
無兒豈免憐。
病來纔十日、
養得已三年。
慈涙隨聲迸、
悲傷遇物牽。
故衣猶架上、
殘藥尚頭邊。
送出深村巷、
看封小墓田。
莫言三里地、
此別是終天。

 病中金鑾子を哭す

に料はからんや吾方まさに病むに、
翻って汝の不全を悲しまんとは。
臥して驚くは枕上從りし、
扶けて哭して燈前に就く。
むすめ有るは誠に累わづらひと爲すも、
兒無きは豈に憐あはれみを免れんや。
病みて來よりわづかに十日、
養ひ得て已すでに三年。
慈涙聲に隨したがひて迸ほとばしり、
悲傷物に遇ひて牽かる。
故衣猶ほ架上に、
殘藥尚ほ頭邊に。
深き村巷より送り出だし、
小さき墓田に封ぜらるるを看る。
言ふ莫なかれ三里の地と、
の別れは是れ終天なり。

勤政樓西老柳
白居易
半朽臨風樹、
多情立馬人。
開元一株柳、
長慶二年春。

 勤政樓西の老柳

半朽なり風に臨む樹、
多情なり馬を立つる人。
開元一株の柳、
長慶二年の春。

 新秋 白居易

西風飄一葉、
庭前颯已涼。
風池明月水、
衰蓮白露房。
其奈江南夜、
綿綿自此長。



西風一葉を飄ひるがへし、
庭前颯さつとして已すでに涼し。
風池明月の水、
衰蓮白露の房。
れ江南の夜を奈いかんせん、
綿綿として此れより長からん。

 自遣 羅隱

得即高歌失即休、
多愁多恨亦悠悠。
今朝有酒今朝醉、
明日愁來明日愁。

 自ら遣

()れば(すなは)高歌(かうか)して失へば(すなは)()む、
多愁たしう多恨たこんた悠悠いういう
今朝こんてう酒有らば今朝こんてうひ、
明日みゃうじつうれへ來きたらば明日みゃうじつうれへん。

 哀江頭 杜甫

少陵野老呑聲哭、
春日潛行曲江曲。
江頭宮殿鎖千門、
細柳新蒲爲誰綠。
憶昔霓旌下南苑、
苑中萬物生顏色。
昭陽殿裏第一人、
同輦隨君侍君側。
輦前才人帶弓箭、
白馬嚼齧黄金勒。
翻身向天仰射雲、
一笑正墜雙飛翼。
明眸皓齒今何在、
血汚遊魂歸不得。
清渭東流劍閣深、
去住彼此無消息。
人生有情涙霑臆、
江草江花豈終極。
黄昏胡騎塵滿城、
欲往城南望城北。



少陵せうりょうの野老やらう聲を呑みて哭こくし、
春日潛行す曲江の曲くま
江頭かうとうの宮殿千門を鎖とざし、
細柳新蒲誰が爲にか綠なる。
おもふ昔霓旌(げいせい)の南苑なんゑんに下くだりしとき、
苑中の萬物顏色を生ぜしを。
昭陽殿裏第一の人、
れんを同じくし君に隨したがひて君側に侍す。
輦前の才人弓箭きゅうせんを帶び、
白馬嚼噛しゃくげつす黄金の勒くつわ
身を翻ひるがへして天に向ひ仰あふぎて雲を射れば、
一笑正まさに堕つ雙飛翼。
明眸晧齒めいぼうかうし今何いづくにか在る、
血汚けつをの遊魂歸り得ず。
清渭せいゐは東流して劍閣は深く、
去住きょぢゅう彼比ひし消息無し。
人生情じゃう有り涙臆むねを霑うるほす、
江草(かうさう)江花かうくゎに終つひに極きはまらんや。
黄昏胡騎塵は城に滿ち、
城南に往かんと欲ほっして城北を望む。

宣州謝脁樓餞別校書叔雲 李白
 宣州の謝脁樓にて校書叔雲に餞別す

棄我去者
昨日之日不可留、
亂我心者
今日之日多煩憂。
長風萬里送秋雁、
對此可以酣高樓。
蓬莱文章建安骨、
中間小謝又清發。
倶懷逸興壯思飛、
欲上青天覽明月。
抽刀斷水水更流、
舉杯銷愁愁更愁。
人生在世不稱意、
明朝散髮弄扁舟。

我を棄て去る者は
昨日の日にして留む可からず、
我が心を亂す者は
今日の日にして煩憂はんいう多し。
長風萬里秋雁を送る、
これに對し以て高樓に酣たけなはなる可し。
蓬莱の文章建安の骨、
中間の小謝又た清發。
ともに逸興いつきょうを懷いだきて壯思飛び、
青天に上りて明月を覽んと欲す。
刀を抽きて水を斷てば水更に流れ、
杯を舉げて愁ひを銷せば愁うれひ更に愁ふ。
人生世に在りて意に稱かなはざれば、
明朝髮を散じて扁舟へんしうを弄ろうせん。

 山房春事 岑參

梁園日暮亂飛鴉、
極目蕭條三兩家。
庭樹不知人死盡、
春來還發舊時花。



梁園りゃうゑんの日暮亂飛の鴉からす
極目きょくもく蕭條せうでうたり三兩家さんりゃうか
庭樹は知らず人死に盡くすを、
春來還た發ひらく舊時の花。

 鹿柴 王維

空山不見人、
但聞人語響。
返景入深林、
復照青苔上。



空山人を見ず、
だ人語の響きを聞く。
返景深林に入り、
た青苔の上を照らす。

 送別 王維

山中相送罷、
日暮掩柴扉。
春草明年綠、
王孫歸不歸。



山中相ひ送ること罷みて、
日暮柴扉を掩づ。
春草明年綠なるも、
王孫歸るや歸らずや。

 相思 王維

紅豆生南國、
春來發幾枝。
願君多采撷。
此物最相思。



紅豆南國に生じ、
春來りて幾枝か發ひらく。
願はくは君多く采撷さいけつせよ。
此の物最も相い思はす。

  題都城南莊
崔護
去年今日此門中、
人面桃花相暎紅。
人面不知何處在、
桃花依舊笑春風。

 都城の南莊に題す

去年の今日此の門の中、
人面桃花相ひ暎えいじて紅あかし。
人面知らず何處いづくにか在るを、
桃花舊きうに依りて春風に笑ふ。

 公子行
劉希夷(劉廷芝)
天津橋下陽春水、
天津橋上繁華子。
馬聲廻合青雲外、
人影搖動綠波裏。
綠波蕩漾玉爲砂、
青雲離披錦作霞。
可憐楊柳傷心樹、
可憐桃李斷腸花。
此日遨遊邀美女、
此時歌舞入娼家。
娼家美女鬱金香、
飛去飛來公子傍。
的的珠簾白日映、
娥娥玉顏紅粉妝。
花際裴回雙蛺蝶、
池邊顧歩兩鴛鴦。
傾國傾城漢武帝、
爲雲爲雨楚襄王。
古來容光人所羨、
況復今日遙相見。
願作輕羅著細腰、
願爲明鏡分嬌面。
與君相向轉相親、
與君雙棲共一身。
願作貞松千歳古、
誰論芳槿一朝新。
百年同謝西山日、
千秋萬古北邙塵。



天津橋下陽春の水
天津橋上繁華の子。
馬聲廻合くゎいがふす青雲の外、
人影搖動えうどうす綠波の裏。
綠波蕩漾たうやうとして玉を砂と爲し、
青雲離披りひとして錦を霞と作す。
憐む可し楊柳やうりう傷心の樹、
憐む可し桃李たうり斷腸の花。
此の日遨遊がういうして美女を邀むかへ、
此の時歌舞して娼家しゃうかに入る。
娼家の美女鬱金香うっこんかう
飛び去り飛び來きたる公子の傍かたはら
的的たる珠簾白日に映え、
娥娥ががたる玉顏紅粉もて妝よそほふ。
花際裴回はいくゎいす雙蛺蝶けふてふ
池邊顧歩す兩鴛鴦ゑんあう
國を傾け城を傾く漢の武帝、
雲と爲り雨と爲る楚の襄王じゃうわう
古來容光ようくゎうは人の羨うらやむ所、
いはんや復た今日遙かに相ひ見るをや。
願はくは輕羅けいらと作りて細腰さいえうに著かん、
願はくは明鏡(めいきゃう)と爲りて嬌面(けうめん)を分かたん。
君と相ひ向ひて轉うたた相ひ親しみ、
君と雙ならび棲みて一身を共にせん。
願はくは貞松ていしょうと作りて千歳に古りなん、
たれか論ぜん芳槿はうきん一朝いつてうに新たなるを。
百年同おなじく謝す西山の日、
千秋萬古北邙ほくばうの塵。

 浪淘沙 劉禹錫

九曲黄河萬里沙、
浪淘風簸自天涯。
如今直上銀河去、
同到牽牛織女家。



九曲の黄河萬里の沙、
浪は淘あらひ風は簸ぐこと天涯よりす。
如今直上し銀河に去きて、
ともに牽牛・織女の家に到らん。

 送崔九 裴迪

歸山深淺去、
須盡丘壑美。
莫學武陵人、
暫游桃源裏。

 崔九を送る

山に歸り深淺に去り、
すべからく丘壑きうがくの美を盡すべし。
學ぶ莫なかれ武陵の人を、
暫く游あそべ桃源の裏に。

 江陵望幸
杜甫
雄都元壯麗、
望幸欻威神。
地利西通蜀、
天文北照秦。
風煙含越鳥、
舟楫控呉人。
未枉周王駕、
終期漢武巡。
甲兵分聖旨、
居守付宗臣。
早發雲臺仗、
恩波起涸鱗。

 江陵幸かうを望む

雄都元もと壯麗なるも、
かうを望みて欻たちまち威神ゐしんあり。
地利西のかた蜀に通じ、
天文北のかた秦を照らす。
風煙ふうえんは越鳥ゑつてうを含み、
舟楫しうしふは呉人ごひとを控す。
未だ周王の駕を枉げざるも、
つひに漢武の巡を期す。
甲兵かふへい聖旨せいしを分かち、
居守宗臣そうしんに付す。
早く雲臺うんだいの仗ぢゃうを發して、
恩波涸鱗こりんを起こさんことを。

題祀山烽樹贈喬十二侍御
陳子昂
漢庭榮巧宦、
雲閣薄邊功。
可憐驄馬使、
白首爲誰雄。
漢庭巧宦かうくゎん榮え、
雲閣邊功を薄んず。
あはれむ可し驄馬そうばの使、
白首誰が爲にか雄ゆうなる。

 少年行 王維

一身能擘兩雕弧、
虜騎千重只似無。
偏坐金鞍調白羽、
紛紛射殺五單于。



一身能く擘く兩雕弧りゃうてうこ
虜騎りょき千重せんちょうだ無きに似たり。
ひとへに金鞍に坐して白羽はくうを調ととのへ、
紛紛として五單于ぜんうを射殺す。

 早梅 張謂

一樹寒梅白玉條、
迥臨林村傍谿橋。
不知近水花先發、
疑是經冬雪未銷。



一樹の寒梅白玉の條えだ
はるかに臨む林村谿橋に傍すを。
水に近きところ花先きに發ひらくを知らざれば、
疑ふらくは是れ冬を經て雪未だ銷えざるかと。

 賣炭翁 白居易

賣炭翁、
伐薪燒炭南山中。
滿面塵灰煙火色、
兩鬢蒼蒼十指黑。
賣炭得錢何所營、
身上衣裳口中食。
可憐身上衣正單、
心憂炭賤願天寒。
夜來城外一尺雪、
曉駕炭車輾氷轍。
牛困人飢日已高、
市南門外泥中歇。
翩翩兩騎來是誰、
黄衣使者白衫兒。
手把文書口稱敕、
迴車叱牛牽向北。
一車炭重千餘斤、
宮使驅將惜不得。
半匹紅綃一丈綾、
繋向牛頭充炭直。



賣炭翁、
たきぎを伐り炭を燒く南山の中うち
滿面の塵灰ぢんくゎい煙火えんくゎの色、
兩鬢蒼蒼さうさうとして十指黑し。
炭を賣りて錢ぜにを得るは何の營いとなむ所ぞ、
身上の衣裳いしゃう口中の食。
あはれむ可し身上衣正に單ひとへなるを、
心に炭の賤やすきを憂へ天の寒からんことを願ふ。
夜來城外一尺の雪、
あかつきに炭車を駕して氷轍ひょうてつを輾く。
牛は困つかれ人は飢ゑ日已すでに高く、
市の南門の外泥中でいちゅうに歇やすむ。
翩翩へんぺんたる兩騎來きたるは是れ誰ぞ、
黄衣の使者と白衫はくさんの兒
手に文書を把り口に勅と稱し、
車を(めぐ)らし牛を(しっ)して()きて北に向かはしむ。
一車の炭の重さ千餘斤、
宮使驅り將て惜しみ得ず。
半匹の紅綃こうせう一丈の綾あや
牛頭に繋けて炭の直あたひに充つ。

 古別離 韋莊

晴煙漠漠柳毿毿、
不那離情酒半酣。
更把玉鞭雲外指、
斷腸春色在江南。



晴煙せいえん漠漠として柳毿毿さんさんたり、
いかんともせず離情酒半ば酣たけなはなるを。
更に玉鞭を把りて雲外を指ゆびさせば、
斷腸の春色江南に在り。

 塞下曲 皎然

寒塞無因見落梅、
胡人吹入笛聲來。
勞勞亭上春應度、
夜夜城南戰未迴。

 塞下の曲

寒塞落梅を見るに因よし無くも、
胡人吹きて笛聲に入れ來きたる。
勞勞亭上春應まさに度わたるべくも、
夜夜やや城南戰ひ未だ迴かへらず。

 杪秋獨夜
白居易
無限少年非我伴、
可憐淸夜與誰同。
歡娯牢落中心少、
親故凋零四面空。
紅葉樹飄風起後、
白鬚人立月明中。
前頭更有蕭條物、
老菊衰蘭三兩叢。

 杪秋の獨夜

限り無き少年は我が伴ともには非ず、
憐れむ可し清夜誰たれと同ともにかせん。
歡娯くゎんご牢落らうらくして中心少なく、
親故凋零てうれいして四面空むなし。
紅葉樹は飄ひるがへす風起きて後、
白鬚人は立つ月明らかなる中。
前頭更に蕭條せうでうの物有り、
老菊らうぎく衰蘭すゐらん三兩さんりゃうそう

商山路有感
白居易
憶昨徴還日、
三人歸路同。
此生都是夢、
前事旋成空。
杓直泉埋玉、
虞平燭過風。
唯殘樂天在、
頭白向江東。

 商山路感有り

おもふ昨さく徴還さるる日、
三人歸路同うす。
此の生都すべて是れ夢、
前事旋たちまち空と成る。
杓直しゃくちょくは泉せんに玉を埋め、
虞平ぐへいは燭風を過ぐ。
唯だ樂天を殘して在り、
頭白くして江東に向かふ。

 觀幻 白居易

有起皆因滅、
無睽不暫同。
從歡終作慼、
轉苦又成空。
次第花生眼、
須臾燭過風。
更無尋覓處、
鳥跡印空中。

 幻まぼろしを觀くゎん

いうの起こるは皆な滅めつに因り、
無は睽そむきても暫しばらくも同じからず。
くゎんり終つひに慼せきと作り、
苦を轉じて又た空と成る。
次第に花かすみ眼に生じ、
須臾にして燭風を過ぐ。
更に尋ね覓もとむる處無く、
鳥跡てうせき空中に印す。


 田家春望
高適
出門何所見、
春色滿平蕪。
可歎無知己、
高陽一酒徒。




 田家の春望

門を出でて何の見る所ぞ、
春色平蕪へいぶに滿つ。
歎ず可し知己ちき無きを、
高陽の一酒徒。

 答張五弟 王維

終南有茅屋、
前對終南山。
終年無客常閉關、
終日無心長自閒。
不妨飮酒復垂釣、
君但能來相往還。

 張五弟に答ふ

終南に茅屋ばうをく有り、
前は終南山に對す。
終年客無く常に關を閉ざし、
終日無心にして長く自おのづから閒なり。
酒を飮み復た釣つりを垂るるも妨さまたげず、
君但だ能く來きたらば相ひ往還せよ。

入山寄城中故人 王維 入山して城中の故人に寄す

中歳頗好道、
晩家南山陲。
興來毎獨往、
勝事空自知。
行到水窮處、
坐看雲起時。
偶然値林叟、
談笑無還期。
中歳頗すこぶる道だうを好み、
晩に家いへす南山の陲ほとり
きょうきたりては毎つねに獨ひとり往き、
勝事しょうじ空しく自みづから知る。
行きて水の窮きはまる處に到り、
坐して雲の起こる時を看る。
偶然林叟りんそうに値ひ、
談笑して還かへる期とき無し。

 題竹林寺
朱放
歳月人間促、
煙霞此地多。
殷勤竹林寺、
更得幾迴過。

 竹林寺に題す

歳月人間に促せまり、
煙霞此の地多し。
殷勤にす竹林寺、
更に幾迴か過よぎることを得ん。

臨高臺送黎拾遺 王維 高臺に臨みて黎拾遺を送る

相送臨高臺、
川原杳何極。
日暮飛鳥還、
行人去不息。







相ひ送りて高臺かうたいに臨めば、
川原杳として何ぞ極まらん。
日暮にちぼ飛鳥ひてうかへり、
行人かうじん去りて息まず。









 臨高臺
沈佺期
高臺臨廣陌、
車馬紛相續。
回首思舊鄕、
雲山亂心曲。
遠望河流緩、
周看原野綠。
向夕林鳥還、
憂來飛景促。

 高臺に臨む

高臺廣陌くゎうはくに臨み、
車馬紛ふんとして相ひ續く。
回首して舊鄕を思ふも、
雲山心曲を亂す。
遠望すれば河流緩やかに、
あまねく原野の綠なるを看る。
向夕林鳥還かへれば、
憂へ來きたりて飛景促うながす。

 暮江吟 白居易

一道殘陽鋪水中、
半江瑟瑟半江紅。
可憐九月初三夜、
露似眞珠月似弓。



一道の殘陽水中に鋪き、
半江は瑟瑟しつしつ半江は紅くれなゐなり。
あはれむ可し九月初三の夜、
露は眞珠の似ごとく月は弓に似たり。

 自詠 白居易

朝亦隨群動、
暮亦隨群動。
榮華瞬息間、
求得將何用。
形骸與冠蓋、
假合相戲弄。
何異睡著人、
不知夢是夢。



あしたにも亦またむれに隨ひて動き、
暮にも亦群に隨ひて動く。
榮華ゑいぐゎは瞬息の間、
求め得たるも將はた何ぞ用もちひん。
形骸けいがいと冠蓋くゎんがいと、
かりに合して相ひ戲弄ぎろうす。
何ぞ異あやしまんや睡著すゐちゃくの人の、
夢は是れ夢なるを知らざるに。

香鑪峰下新置草堂即事詠懷題於石上 白居易
 香鑪峰下新たに草堂を置き即事詠懷石上に題す
香鑪峯北面、
遺愛寺西偏。
白石何鑿鑿、
淸流亦潺潺。
有松數十株、
有竹千餘竿。
松張翠傘蓋、
竹倚青琅玕。
其下無人居、
惜哉多歳年。
有時聚猿鳥、
終日空風煙。
時有沈冥子、
姓白字樂天。
平生無所好、
見此心依然。
如獲終老地、
忽乎不知還。
架巖結茅宇、
劚壑開茶園。
何以洗我耳、
屋頭飛落泉。
何以淨我眼、
砌下生白蓮。
左手攜一壺、
右手挈五弦。
傲然意自足、
箕踞於其間。
興酣仰天歌、
歌中聊寄言。
言我本野夫、
誤爲世網牽。
時來昔捧日、
老去今歸山。
倦鳥得茂樹、
涸魚反淸源。
舍此欲焉往、
人間多險艱。
香鑪峯かうろほうの北面、
遺愛寺ゐあいじの西偏。
白石何ぞ鑿鑿さくさくたる、
淸流亦た潺潺せんせんたり。
松の數十株有り、
竹の千餘竿有り。
松は翠みどりの傘蓋さんがいを張り、
竹は青き琅玕らうかんを倚す。
其の下に人の居まふ無きこと、
をしき哉歳年多し。
時有りて猿鳥聚あつまり、
終日風煙空し。
時に沈冥ちんみゃうの子有り、
姓は白字あざなは樂天。
平生好む所無し、
此れを見て心依然たり。
終老の地を獲たるが如く、
忽乎こつことして還かへるを知らず。
巖に架して茅宇ばううを結び、
たにを劚たたききりて茶園を開く。
何を以て我が耳を洗はんや、
屋頭に落泉を飛ばす。
何を以て我が眼を淨きよめんや、
砌下に白蓮を生う。
左手に一壺を攜たづさへ、
右手に五弦を挈ひっさぐ。
傲然がうぜんとして意自みづから足り、
其の間に箕踞ききょす。
興酣たけなはにして天を仰ぎて歌ひ、
歌中聊いささか言を寄す。
言ふ我本もと野夫、
誤りて世網に牽かるると爲る。
時來りて昔日を捧げ、
老去りて今山に歸る。
倦鳥茂樹を得
涸魚淸源に反かへる。
こを舍てて焉いづくにか往かんと欲ほっす、
人間じんかん險艱けんかん多し。

 洛陽春 白居易

洛陽陌上春長在、
昔別今來二十年。
唯覓少年心不得、
其餘萬事盡依然。

 洛陽の春

洛陽の陌上はくじゃう春長とこしへに在り、
昔別れ今來きたる二十年。
だ覓もとむるに少年の心のみ得ず、
其の餘は萬事盡ことごとく依然たり。

 魏王堤 白居易

花寒懶發鳥慵啼、
信馬閒行到日西。
何處未春先有思、
柳條無力魏王堤。



花は寒くして(ひら)くに(ものう)く鳥は啼くに(ものう)し、
馬に信まかせて閒行日西するに到る。
いづれの處か未だ春ならずして先づ思ひ有る、
柳條力無し魏王堤。

 月夜 杜甫

今夜鄜州月、
閨中只獨看。
遙憐小兒女、
未解憶長安。
香霧雲鬟濕、
淸輝玉臂寒。
何時倚虚幌、
雙照涙痕乾。



今夜鄜州ふしうの月、
閨中けいちゅうだ獨ひとり看るらん。
はるかに憐あはれむ小兒女せうじぢょの、
いまだ長安を憶おもふを解せざるを。
香霧かうむ雲鬟うんくゎんうるほひ、
淸輝せいき玉臂ぎょくひ寒からん。
いづれの時か虚幌きょくゎうに倚り、
ならび照らされて涙痕るゐこんかわかさん。