白石灘 白石灘はくせきたん 王 維
清浅白石灘 清浅せいせんなり 白石の灘
緑蒲向堪把 緑蒲りょくほは把とるに堪うるに向かえり
家住水東西 家は住じゅうす 水の東西
浣紗明月下 紗さを浣あらう 明月の下もと
浅くて澄んでいる白石灘
緑の蒲は 刈って束ねるころあいだ
私どもは 川の近所に住むものです
明月の下 紗きぬを晒しにまいりました
同 前 前に同じ [裴 迪]
跂石復臨水 石を跂ふみ 復また水に臨む
弄波情未極 波を弄して情じょう未だ極きわまらず
日下川上寒 日下りて川上せんじょう寒く
浮雲澹無色 浮雲ふうん 澹たんとして色無し
石を踏み また水に臨む
波と戯れて 思いはいまだつきない
日は落ちて 川のほとりは寒く
浮き雲は安らかに 動こうとしない
「白石灘」は白い石のある浅瀬で、南垞と竹里館のあいだにありました。そこには蒲がまも生えていたようです。
王維の詩の転結句は楽府がふ的な口調になっており、川に紗をさらしにきている村娘が王維の問いに答える形式になっています。裴迪の詩の起承句は紗をさらしにきた女たちの娘心を詠っているようです。
そして転結句であたりの日没のようすをさり気なく詠っているのは、心にくい描写といえるでしょう。
北 垞 北 垞ほくだ 王 維
北垞湖水北 北垞は湖水の北
雑樹映朱欄 雑樹ざつじゅ 朱欄しゅらんに映えいぜり
逶迤南川水 逶迤いいたり 南川なんせんの水
明滅青林端 明滅す 青林せいりんの端たん
北垞は湖水の北にあり
樹々の緑に 赤い手すりが映えている
南川の水は うねりながら流れ
林のかげに 見えかくれする
同 前 前に同じ [裴 迪]
南山北垞下 南山なんざん 北垞の下もと
結宇臨欹湖 宇いえを結んで欹湖いこに臨む
毎欲採樵去 樵たきぎ採りに去ゆかんと欲する毎に
扁舟出菰蒲 扁舟へんしゅうもて菰蒲こほを出いず
南山あり 北垞のもと
庵いおりを結んで欹湖に臨む
芝刈りに行こうとするたびに
小舟に乗って芦辺を出る
北垞は欹湖の北岸にある建物であることは、さきに触れました。
だから輞川荘を北の入口のほうから描いていくとすれば、南垞よりは先に出てこなければならないのですが、ここに出てくるのは裴迪の詩が南山と関係があるからのようです。王維の詩は北垞そのものを描いて王維らしいこまやかな観察が目立ちます。
裴迪の詩は起句の南山と北垞の関係がわかりにくいのですが、「北垞下」は承句につながっていて、北垞の一部として「宇」(庵)があり欹湖に面していた、そこから小舟に乗って南山(湖の南にある山)に薪を取りに行くというように考えました。
舟は芦の生えた岸から湖に出てゆくのです。裴迪は王維の弟子として生活に必要ないろいろな仕事を手伝っていたようです。
当時のことですから、別に使用人もいたと思いますが、芦の生えた岸辺から小舟で芝刈りにゆくことは風雅のひとつであったのでしょう。