斉州送祖三二首其一
              斉州にて祖三に送る 二首 其の一 王 維                
相逢方一笑    相逢あいあうて方はじめて一笑し
相送還成泣    相送りて還た泣なみだを成す
祖帳已傷離    祖帳そちょうして已に離わかれを傷み
荒城復愁入    荒城に 復た入るを愁う
天寒遠山浄    天寒くして遠山えんざんきよらかに
日暮長河急    日は暮れて長河ちょうがも急なり
解䌫君已遥    解䌫かいらんすれば君已に遥けし
望君猶佇立    君を望みて猶お佇たたずみて立つ
逢えばとたんに顔がほころび
見送るときは 泣き顔となる
送別の宴で別れを惜しみ
城にもどるのがひどく悲しい
空は寒く 遠くの山は清く澄み
日暮れて 河の流れは速い
ともづなを解けば君は遥かに遠ざかり
君を見送っていつまでも佇んでいる

 王維は汶陽の人と逢う瀬を重ねながら、趙という隠士や済州の知識人たちと交流していたようです。
 友人の祖詠そえいが王維を訪ねて来たのは、王維が済州にきて四年目の開元十二年(七二四)冬のことでしょう。
 祖詠は洛陽の生まれで、王維と同世代の詩人です。
 王維が長安にいるころから親しくしていましたが、開元十二年の進士に及第していますので、任官後の冬になって公用かなにかで東にやってきたものと思われます。題名の「祖三」は祖詠を排行(従兄弟を含めた年齢の順位)で呼んだもので、親しみの表現です。
 表題では「斉州」(山東省済南市)となっていますが、斉州と済州はまぎらわしいので、「斉州」は済州の誤記と思われます。
 久しぶりの都の友人の来訪に王維はひどく喜びますが、別れの悲しみも深いのでした。


 斉州送祖三二首其二
               斉州にて祖三を送る 二首 其の二  王 維

 送君南浦涙如糸   君を南浦なんぽに送れば 涙 糸の如し
 君向東州使我悲   君は東州に向かい 我をして悲しましむ
 為報故人憔悴尽   為に報ぜよ 故人は憔悴しょうすいし尽くし
 如今不似洛陽時   如今じょこんは 洛陽の時に似ず
東州に旅立つ君を 入江の南岸で見送ると
涙は糸のように流れ 悲しみに包まれる
どうか皆に伝えてくれ 友はすっかりやつれはて
洛陽のころとは 別人のようだと

 其の二の詩によると、済州の城外に南浦という渡し場があり、王維はそこで送別の宴を催したようです。祖詠は西にもどるところですが、「君は東州に向かい」とあり、東州とうしゅうは不明です。
 長安の「東の州」という読み方をすれば、洛陽方面が考えられます。
 「故人」こじんは旧友のことですが、ここでは王維が自分自身のことを言っています。また長安のかわりに洛陽を用いて詩的に表現するのは、このころの流行です。自分はすっかり憔悴して長安にいたころとは別人のようになったと、長安の友人たちに伝えてほしいというのです。

目次へ