雑詩五首 其四 雑詩五首 其の四 王維
君自故郷来 君は故郷より来たる
応知故郷事応 に故郷の事を知るべし
来日綺窻前 来たりし日綺窻 の前
寒梅着花未 寒梅は花を着けしや未 だなりしや
あなたは 故郷からおいででしたの
でしたら 故郷のことはよくご存知でありましょう
故里 を発つとき窓辺には
もう咲いていたでしょうか 梅の花は
この詩は遊女の口を借りた作品です。其の三と其の四の詩は対になっていて、遊女は同郷のふりをして客に近づこうとしています。
江南の梅は北よりも早く咲くので、郷里を発たれたときには寒梅の花はもう咲いていたでしょうかと、近づくきっかけをつくっているのです。ただし、転句(三句目)の「
雑詩五首 其五 雑詩五首 其の五 王維
已見寒梅発已 に寒梅の発 くを見て
復聞啼鳥声復 た啼鳥 の声を聞く
心心視春草心心 に春草 を視て
畏向堦前生堦前 に向かいて生ずるを畏る
寒梅の花が咲いたと思えば
もう 鳥が来て鳴いている
しみじみと春の草を見つめていると
堦前に生え拡がるのが怖くなる
其の五の詩は、男が通わなくなって階前の草が茂るのがこわいという女性の閨怨詩とみることもできますが、すでに青春の性の虚しさを知り、女性から遠ざかろうとしている王維の複雑な心境を述べたものと取ることもできます。過ぎ去る春の早いのを詠う起承句に「寒梅」の語を入れて巧みに其の四の詩とのつながりを装っていますが、遊女とは関係のない詩です。王維は転句(三句目)で「心心」と春草の茂るのを見つめています。「
その「堦前」に草が生い茂って通れなくなるのではないかと、王維は性に惹かれ、同時に性の享楽から逃れようとしている微妙な心理を詠っているようです。王維はやがて「汶陽の人」と別れ、女性も汶水のほとりの故郷に帰っていったと思われます。