淼茫積水非吾土 淼茫びょうぼうたる積水せきすい 吾が土どに非ず
九江春望 九江の春望 白居易
茫洋と広がる大河の流れ わが故郷にあらず
水にただよう浮き草こそ わが身の上だ
世間のことは めぐり合わせでなんとか生計を立て
当面のことは なりゆきに任せて付き合っていこう
香鑪峰の靄の色は 終南山と違いはなく
湓水の岸辺の草は 渭水の春と変わりない
この地で老いるのも 悪くはないだろう
もともとが 九江の生まれのようなものだから
江州で二度目の春を過ごし、香鑪峰の麓を歩きまわっていると、廬山を囲む江州全体の自然がなんとなく身近なものに感じられてくるのでした。
白居易は廬山や湓水の流れに長安の終南山や渭水の流れを感じ、江州が自分の故郷のような気がしてくるのでした。
奥ゆき五間 間口三間の新しい草堂だ
石のきざはし 木犀の柱 垣根は竹で編んでいる
南の軒端から陽が射し 冬の日も暖かく
北の戸口から風が入り 夏の日も涼しい
泉の飛沫は 点々と石だたみを濡らし
窓辺の竹は 斜めに生えて不揃いである
来年春には 東の棟の屋根を葺き
紙の障子に芦簾あしみすを垂れ 細君の部屋としよう
草堂は三月二十七日にできあがり、四月九日に朋友二十二人を招いて落成の祝いをしました。「五架三間」の草堂といいますので、小さな堂です。
家具もほとんど置いてありませんが、冬は南からの陽が暖かく、夏は北の戸口からの風が涼しい簡素なつくりでした。
詩は草堂の東の壁に書きつけたもので、尾聯によると主堂の東に「東廂」とうしょうを増築する計画があったようです。
「孟光」は後漢の梁鴻りょうこうの妻で、不美人で有名でした。
だから白居易はおどけて愚妻の部屋にしようと言っているわけです。