時世は困難 故郷は失われて飢饉もあり
一族兄弟は 東西に離散している
戦のために 田園は荒れ果て
肉親たちは 他国の道中をさまよっている
孤独を傷み 離ればなれの雁となり
秋の蓬は 根から離れて転んでゆく
月を見上げ 同じ涙を共に流し
望郷の一夜 想いは何処も変わりはしない
白居易は郷試に及第し、宣歙せんきゅう観察使崔衍さいえんの推薦を受けて長安に行くことになります。
郷試は通常秋に行われ、毎年各地の一年間の政務の状況を報告するために十月に入京することになっている朝集使に伴われて上京します。
白居易はそのころ、洛陽にいる母が病気という報せを受けており、浮梁の兄の依頼で洛陽に金を届ける必要がありました。
白居易は途中、洛陽に立ち寄って母を見舞います。華北では、その直前に節度使の叛乱が起きており、関中(都のある渭水流域)は二年つづきの飢饉に見舞われて、洛陽の街もみじめな状態になっていました。
白居易は一族離散を嘆く詩を書いて親族に送っています。
長文の題がその経緯を示していますが、題中の「兄弟」は従兄弟も含めた一族のことであり、兄の幼文は浮梁に、「七兄」は排行七の従兄で於潜おせん(浙江省臨安県)にいました。「十五兄」は従祖兄にあたり、烏江うこう(安徽省和県烏江鎮)の主簿でした。徐州の符離や渭村の下邽にも従弟妹がいたので、五つの場所に別れて住んでいる兄弟・従兄弟たちに詩を送ったのです。
冬夜示敏巣 冬夜 敏巣に示す 白居易炉火欲銷燈欲尽 炉火ろか銷きえんと欲し 燈ともしび尽きんと欲す
炉は消えようとし 灯火もやがて燃えつきる
夜更けまで語れば 憂いは限りなく湧いてくる
いつかどこかで また会うこともあるだろう
今宵灯火の友情は 決して忘れてはならないよ
この詩には「時に東都の宅に在り」との題注があり、題に「冬夜」とありますので、長安に向かう前、洛陽の自宅にいた冬の夜の作と思われます。
「敏巣」びんそうと名前で呼ばれている友人は、年少の親戚かも知れません。
若い二人は夜を徹して国の乱れを語り合い、人民の労苦を嘆いて、経世済民の志を誓い合ったのでしょう。
小品ですが、初々しい若者の気持ちがよく出ています。